(タクラマカン砂漠のホータン地区に暮らすウイグル人の老夫婦とそのご家族【http://www.yomeishu-online.jp/id269/】 こうしたお年寄りのひげも規制対象でしょうか?)
【民族性・宗教に神経を尖らせる中国当局】
中国が“核心的利益”(自国の本質的な利益に直結すると見なし、自国を維持するために必要と見なす譲ることの出来ない最重要の事柄)とみなす問題の一つが、新疆ウイグル自治区における東トルキスタン独立運動問題です。
現地のおける混乱は、もともとはイスラム過激派とか分離独立といった側面よりは、中国政府当局の民族性を認めない統治政策や漢民族との格差・不公平感への抵抗・不満といった側面が強かったように思われますが、当局の厳しい弾圧が結果的に過激思想の拡大を助長しているようにも見えます。
特に、シリア・イラクのイスラム国(IS)などに参加した戦闘員の中国への還流が懸念されており、中国出身のウイグル人戦闘員らが、自国に戻り「川のように血を流してやる」と脅す動画が公開されていることなどは、3月2日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 当局は大規模軍事パレード IS参加戦闘員は「川のように血を流す」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170302でも取り上げたところです。
当局の締め付け策はさらに厳しさを増しており、民族性・宗教に関する規制が強まっています。
****中国政府、新疆で顎ひげやベール禁止に 4月1日から****
中国の新疆ウイグル自治区で4月1日から、宗教的な過激主義に対する取り締まり強化を目的に、「普通ではない」顎ひげや公共の場でのベール着用、国営テレビの視聴拒否などを禁止する新たな法律が施行される。
従来の規則を拡大した法案が、新疆の議会で29日に採択され、同地域の公式ホームページに公表された。
新法では、駅や空港など公共の場所で働く労働者は、顔のベールを含め体を覆った人の立ち入りを「阻止」し、その人物について警察に報告することが求められる。
また、「テレビやラジオ、その他の公共のサービスの拒否」や宗教的な手続きに従った結婚、子供たちを普通の学校に通わせないことなども禁止される見通し。【3月30日 ロイター】
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「普通ではない」という基準が、取り締まり側の恣意的な運用を招きそうだ・・・ということも、エジプト旅行中のブログでも触れた記憶があります。
締め付けは、(おそらくウイグル人の)地元党幹部にも及んでいるようですが、なんだか奇妙・滑稽に思われるようなものも。
****中国共産党幹部、イスラム教徒の前でたばこ控えて降格に****
イスラム教徒が多く住む中国・新疆ウイグル自治区の地元の共産党幹部が、イスラム教徒の前でたばこを吸うのを控えたところ、「あいまいな政治姿勢」を示したとの理由で役職降格の憂き目に遭ったという。11日の中国国営英字紙・環球時報(Global Times)が伝えた。
新疆ウイグル自治区では、ひげを伸ばす、頭にスカーフをかぶる、イスラム教の断食月「ラマダン」に断食を行うなどの宗教的行為を「イスラム原理主義」を象徴するものとみなし、厳しく制限している。
同自治区ホータン地区の自治体当局は、地区内の村で党幹部を務めていたジェリル・マトニヤズさんがイスラム教指導者の前でおじけづき、たばこを吸わなかったとして非難する通達を出した。
当局関係者は環球時報に対し、たばこを吸う「勇気を出さなかった」マトニヤズさんの行為について「新疆ウイグル自治区における過激な宗教思想に譲歩する」ものだと批判した。さらに、忠実な党員であれば信者の前でも宗教におもねらない世俗主義の意志を示すために、たばこを吸うことを選ぶだろうと語った。
また当局はマトニヤズさんが「過激な宗教思想との闘いを率いる」立場にもかかわらず、「過激勢力の脅威に屈した」と強く非難した。「厳しい警告」が与えられたマトニヤズさんは党の役職を剥奪され、一般党員へと降格させられたという。【4月11日 AFP】
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“忠実な党員であれば信者の前でも宗教におもねらない世俗主義の意志を示すために、たばこを吸うことを選ぶだろう”・・・・なんじゃ、そりゃ?という感じですが、本人らはおおまじめです。
【現在は漢民族の「大量進出」ではなく、逆の「大量流出」】
新疆ウイグル自治区の不穏な情勢の根底には、漢民族がこの地に大挙進出してきて、経済発展の恩恵を独占するなどの形でウイグル族との格差・不公平感が大きくなったことがある・・・と言われています。私自身もそうした趣旨のブログを書いてきました。
ただ、“漢民族の進出”というのはすでに過去の話で、現在は新疆から流出する漢民族が多く、共産党指導部は漢民族の引き留めに躍起になっているという指摘があります。
****新疆ウイグルで漢民族「大量流出」 習近平「強権支配」の新たな難題****
中国の新疆ウイグル自治区ではイスラム教徒のウイグル族を中心とする分離独立運動が続いているが、習近平政権の徹底した情報遮断で実態は海外に伝わりにくくなっている。
だが、習政権の意図とは裏腹に新疆では今、漢族の大脱出が加速、中国支配が根底から揺らぎ始めている。戸籍上は漢族人口は変わらないが、実数は過去十年で半減した、ともいわれる。
漢族を狙う連続テロで治安が悪化する一方、成長を支えたエネルギー産業が落ち込み、新疆にとどまる理由が薄れているからだ。
漢族の少子高齢化も人口減少に拍車をかける。新疆の「非中国化」は台湾独立の機運とともに習政権の危機につながりかねない。
毎年、三月五日に開会する中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)。約三千人の代表が集まる全体会議以外に、省・市・自治区に分かれた分科会が開かれ、重要度に応じて習主席、李克強首相ら最高指導部が顔を出す。
今年は十日に開かれた新疆ウイグル自治区の分科会に習主席が出席し、「断固として社会の調和・安定を守り、不断に民族の団結を強固にしなければならない」と檄を飛ばした。
通り一遍の発言に聞こえるが、この発言にはあるメッセージが隠されていた、と中国の政治学者は指摘する。ポイントは「民族の団結」。一見、ウイグル族など少数民族の独立を牽制する言葉に聞こえるが、実は「新疆在住の漢族に対し、国家と漢族のために新疆に踏みとどまれ」と呼びかけたものだとその政治学者は解説する。
人民解放軍も雲散霧消
一九四四年に東トルキスタン共和国として独立を図った新疆は新中国発足後、軍事制圧され、五五年に現在の新疆ウイグル自治区が置かれた。
以後、中国共産党はウイグル族による新疆の分離独立を阻止するため、人民解放軍による入植や国有企業の進出、石油・石炭開発などで現地の雇用を拡大、多数の漢族を移り住ませ、中国化を強引に進めた。新疆の人口の過半を漢族にすることが目標となった。
一九八〇年に新疆の人口は一千二百八十三万人で、そのうち漢族は五百三十一万人と四一%強を占めるまでになった。九〇年代にはタリム盆地の石油、天然ガス開発が本格化、漢族の移住はさらに増え、ウイグル族は限られた居住地に押し込まれ、対立は激しくなっていった。
当時は現地の政府機関や国有企業に勤め、新疆に定住すれば、北京、上海並みの給与で、高品質の住宅なども与えられた。物価水準からみれば大変な厚遇だ。
しかも新疆戸籍の子弟は清華大学、復旦大学など中国のトップクラスの大学に優遇枠で入学できるため、子弟の教育も考え、新疆勤務を希望する漢族が多かった。新疆は叩き上げの漢族庶民にとって一旗揚げる夢のパラダイスだったのだ。
だが、そうしたストーリーは続かなかった。二〇一四年新疆の人口は二千三百二十二万人に増加。漢族人口も表面的には八百五十九万人に増えたものの、人口比では三七%に低下した。
少数民族は「一人っ子」政策を免除され、もともとイスラム教は産児制限をしない子沢山ということもあり、ウイグル族人口が急増したためだ。表面上の人口統計を取っても、漢族人口の比率は今後、低下の一途をたどり、二〇三〇年には三〇%を割る見通しだ。
ただ、今、それ以上に深刻なのは戸籍を残したまま沿海部に流出する漢族が急増していることだ。沿海部には内陸からの出稼ぎ農民が二億五千万人以上おり、戸籍がなくても都会で就業できる機会は多い。
新疆に入植した漢族はもともと大卒の管理職層やエンジニアなどが多いため、都市部で仕事を見つけられるチャンスも多い。
そうした新疆からの移住者は当初は若者中心だったが、両親が引退し、高齢化するにつれ沿海部に呼び寄せるようになった。七八年末に始まった「改革開放」政策後、新疆に移住した第一世代の漢族が引退し、新疆を去る時代になった。
新疆を車で走ると頻繁にみかける地名に「○○生産建設兵団」というものがある。「○○」には軍隊の師団や旅団の名前のように数字が入る。五〇年代、新疆の支配を固めるため、中国共産党は人民解放軍を現地に送り、各地に定住させた。「屯墾戍辺」事業である。
軍人が土地を開墾し、自給自足するとともに国境を外敵から守るという制度だ。各兵団は農業だけでなく、製造業やサービス業にも進出、新疆の漢族支配の経済的基盤となった。
だが、中国の経済発展とともに沿海都市部で雇用機会が増え、人民解放軍の入隊希望は激減、新疆の屯墾戍辺は若者にそっぽを向かれた。今世紀に入ってからは各兵団で高齢化が進行、軍ビジネスも勢いを失い、兵団は解散や雲散霧消するものが増えている。
エネルギー安全保障の危機
戸籍制度が緩和されつつある中国だが、新疆在住の漢族が簡単に沿海大都市の戸籍を得られるわけではない。そこで戸籍は新疆に残し、暮らしやすい沿海に移る「不在漢族」が新疆で急増。漢族人口は戸籍の半分しかないといわれる。
もともと新疆の漢族は省都のウルムチ市、昌吉回族自治州、イリ・カザフ自治州、アクス地区など特定都市に集中しており、それ以外の漢族比率が低い街や村では漢族が姿を消しつつある。
漢族の実質人口が減れば、警察などの治安機能や行政機能は回らなくなる。やがて中国政府、新疆ウイグル自治区政府の機能は末端から崩れ始めるだろう。
新疆の田舎町からイスラム化、ウイグル化が進展し、漢族の築いたウルムチや石油開発の街、コルラなどはウイグル人に包囲されるようになる。
同時に周辺国と新疆は結び付きを深め、イスラム過激派や兵器などが国境を素通りで、新疆に入ってくる。新疆は中国共産党がどうあがいて掌握しようとしても手の平から抜け落ちる。
新疆を失った中国はどんな影響を受けるのか。第一は、自治区内での天然ガス、石油の生産は下手をすれば全面ストップするだろう。
「西気東輸」と呼ばれる新疆から上海など沿海都市に天然ガスなどを運ぶパイプラインが遮断されれば沿海部の工業生産は大打撃を受け、電力供給など市民生活にも影響は不可避。
さらに新疆はトルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタンなどからの天然ガスの供給受け入れ基地で、中央アジア諸国からの大口径パイプラインが自治区内を横断する。
シルクロードならぬ「エネルギーロード」であり、習政権のエネルギー安全保障の大きな部分は新疆にかかっている。新疆が揺らげば、中国も揺らぐわけである。
習政権が今後、新疆をどのように取り扱うかが、台湾、香港などを含めた「ひとつの中国」の先行きを示すだろう。【「選択」 4月号】
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バブルもしぼんだ新疆は、治安が悪く、暑苦しいだけ・・・ということで、域外への漢民族流出が止まらないということのようです。
現実は、一般的に言われていることとは全く様相が異なるようです。(記事の指摘が正確であれば・・・の話ですが)
「エネルギーロード」を守るためにも、漢民族の人口的な優位性を失いつつある党指導部は、今後、これまで以上に“力による統治”を進めることも想像されます。
【隣接するアフガニスタンでのIS掃討に トランプ大統領とも利害一致】
新疆におけるイスラム過激派の動向に神経をとがらせる中国政府は、新疆に隣接するアフガニスタンでのISの影響力をそぐことに力を入れ始めています。
****アフガンへの進出を図る中国****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月3日付け社説が、中国が最近アフガニスタン領土に軍隊を派遣したことが注目されたが、米国が期待するような、アフガニスタン情勢安定化に資するものではない、と、述べています。要旨、次の通り。
中国は最近アフガニスタン領に初めて軍隊を派遣したが、アフガニスタン領といっても、新彊ウィグル地区に接するワハン回廊(タジキスタンとパキスタンの間に細長く伸びるアフガニスタン領)である。
中国は最近新彊ウィグル地区でのウィグル人と思われる過激派の活動の活発化を懸念している。中国政府はウィグル独立派がパキスタンとアフガニスタンの支援を受け、アフガニスタン領で攻撃を準備し、同領内から攻撃していると憂慮している。
そこで中国は遅まきながら新彊ウィグル地区に接するアフガニスタン領内に、治安維持のため出兵を決めたと思われる。
たとえトランプ大統領がアフガニスタン安定の負担の一部を中国軍が負ってほしいと願ったとしても、失望させられるだろう。中国の目的は中国に対するテロ攻撃の脅威を無くすことに限定されているのである。(後略)【4月6日 WEDGE】
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中国側には、いずれ起こりうるISの新彊ウィグル地区への進出を未然に食い止める思惑があるとも指摘されていますが、テロを国外に輸出することに関心がないタリバンについては問題視していないようです。
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中国は、タリバン自体は敵視していないと思われます。
昨年12月、ロシアの働きかけで、アフガニスタン発のテロリストの中央アジアに対する脅威を議論する会議が開かれ、タリバンをISとの戦いに如何に使うか、アフガニスタンでの長期にわたる戦争をどう終わらせるかが話し合われ、中国はパキスタンとともに会議に参加しました。
タリバンは軍事的、政治的勢力として認められたとしてこの会議を歓迎しています。【同上】
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こうした状況について、“NATOが軍勢を引き、米軍の駐留も不透明となった現在、中国が軍隊を越境させて国連平和維持軍のマスクをかぶせようとしている。国連の看板を掲げて、「反乱分子」ウイグル人を掃討しようとする意思の表れだ。”【4月4日 楊海英氏 Newsweek】とも。
今日は、アメリカがアフガニスタンで、ISが潜伏するトンネル施設を標的に「大規模爆風爆弾(MOAB)」を投下したことが大きな話題となっています。
アフガニスタンにおけるIS掃討作戦は、“我々は非常に相性がいい”とトランプ大統領が評価する習近平国家主席とも利害が一致するところで、二人の関係強化に役立つところでしょう。