孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン大統領選挙 再選を目指す穏健派ロウハニ大統領 核合意を嫌うトランプ大統領は?

2017-04-16 21:42:56 | 中東情勢

(【4月13日 毎日】)

1636名が立候補を届け出 事前審査によって、実際に立候補できるのは数名
イランでは5月19日に大統領選挙が行われますが、穏健派でアメリカとの核合意を主導したロウハニ現大統領の再選がなるかが注目されています。

イラン国内の民主化の行方だけでなく、イランをめぐる国際情勢にも影響する選挙です。

*****イラン大統領選、1636人が立候補を届け出****
イラン大統領選(5月19日投票)の立候補受け付けが15日締め切られ、2013年の前回選挙の約2・5倍にあたる1636人が届け出た。
 
国営イラン通信によると、18〜92歳で、137人は女性だった。
 
主な顔ぶれは、融和外交を進める現職ロハニ師、対外強硬派が推すライシ前検事総長やガリバフ・テヘラン市長、不出馬表明を翻したアフマディネジャド前大統領ら。今後、選挙監視機関「護憲評議会」の資格審査で候補者が絞り込まれる。【4月16日 読売】
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イランの大統領選挙にあっては、希望したから立候補できるというものではなく、護憲評議会(「監督者評議会」と訳すのが正しいとの指摘もありますが、日本メディアでは通常「護憲評議会」という呼称が使用されます)による選別があり、これをクリアした者のみが実際に立候補できます。

“監督者評議会はイスラーム法学者6名および一般法学者6名のあわせて12名から構成される。前者6名のイスラーム法学者は「現況の必要と問題に意識を持つ者」が最高指導者によって指名され、後者6名の一般法学者は「他の(イスラーム法以外の)法学分野に熟達した法律家を司法権長が指名し、その中からマジュレス(国会)が選出する”【ウィキペディア】

この不透明な事前審査によって、行政の能力を有する、犯罪歴がないなど経歴が良好である、誠実であり敬虔である・・・等の基準で、現体制にとって“不適切”な人物は事前に排除されます。

前回2013年選挙では、改革派が期待した穏健派の大物・ランサンジャニ元大統領(先日死去)や、任期中にハメネイ師との確執が表面化したアハマディネジャド大統領が擁立するモシャイ元大統領府長官も、失格とされています。

なお、女性が137人とのことですが、イランの憲法では大統領の被選挙権は男性に限定されているのではないでしょうか?抗議の意味の届け出でしょうか?

それにしても1636名というのは、膨大な数です。
立候補届け出すれば何かいいことがあるのでしょうか?あるいは、イラン国民の大統領選挙に寄せる何か特別な思いがあるのでしょうか?

届出者が多いのは毎度のことではありますが、今回は前回選挙の約2・5倍と、さらに増えています。これも何か事情・背景があるのでしょうか?

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イランの大統領選では毎度、かなりの数の候補者が立候補する。たとえば2013年は、合計686人が立候補を届け出た。

そこで、イラン最高指導者で絶対的権力者であるアリ・ハメネイ師がメンバーの半分を選んでいる護憲評議会が、候補者らをふるいにかけ、結果8人に絞った。

もちろん出馬が許された8人は、ハメネイに近い人物か強力な支持者ということになる。今回の選挙でも、護憲評議会が最終候補者を選ぶことになる。【4月15日 山田敏弘氏 COURRIER JAPON】
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アフマディネジャド前大統領、最高指導者の勧告を無視して立候補届け出
再選が注目されるロウハニ大統領も届け出ていますが、今回のサプライズは、最高指導者ハメネイ師の勧告でいったん選挙戦を辞退したとされていたアフマデネジャド前大統領が、最高指導者に反旗を翻す形で立候補届け出したことです。

****イラン前大統領、一転して候補者登録 最高指導者に反旗****
5月19日のイラン大統領選への不出馬を表明していたアフマディネジャド前大統領(60)が12日、一転して候補者登録を行った。昨年9月、最高指導者ハメネイ師の勧告を受けて「出馬しません」との書簡を送っていたが、最高指導者に公然と反旗を翻した形だ。
 
地元メディアによると、アフマディネジャド氏は12日、自身の側近で既に出馬表明をしていたバガイ元副大統領(48)とともに候補者登録をした。手続き終了後、「最高指導者の言葉は命令だという人もいるが、単なる助言にすぎない」と発言した。
 
イランの大統領選では、最高指導者が指名した宗教指導者と国会が信任した法律専門家で構成する護憲評議会が、候補者を事前に審査する。ハメネイ師は不出馬を勧告する際、アフマディネジャド氏の立候補で「国は二つに割れる」としており、失格になる可能性がある。

ロハニ政権を批判してきたアフマディネジャド氏は「候補者登録はバガイ氏の応援のため」とも語った。自らの出馬でバガイ氏への注目を集め、集票につなげる狙いもありそうだ。
 
アフマディネジャド氏は約4年ぶりに開いた5日の記者会見で、バガイ氏を支持する姿勢を打ち出した。一方で、「最高指導者は私に(大統領選の)候補者にならないように求めた。だが、イランで起きていることを無視して良いとは言わなかった」として、出馬に含みを持たせていた。
 
ハメネイ師は昨年9月、自身の公式サイトで「彼自身と国の利益を考え、かの行事に参加しない方が良いと言った」「彼(前大統領)が特定の問題に当たれば国は二つに割れる。二極分化は国益に害だと助言した」との発言を公開。その後、前大統領が不出馬の意向を示していた。
 
大統領選をめぐっては、保守穏健派で現職のロハニ大統領(68)が近く出馬を表明するとみられる。

対立関係にある保守強硬派からは、最高指導者ハメネイ師に近いライシ師(56)らが、立候補する見通し。保守派による争いが中心になりそうだが、強硬派の候補者が乱立すれば、ロハニ師に有利の情勢となりそうだ。【4月12日 朝日】
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国民的人気はいまだに一定に高いアフマデネジャド前大統領ですが、前出のような事前審査がありますので、最高指導者の顔に泥を塗るようなアフマディネジャド前大統領の立候補はまず認められないでしょう。

まあ、任期中から最高指導者ハメネイ師との折り合いがよくなかったアフマディネジャド前大統領ですから、同師の勧告を受けて素直に選挙戦から撤退したことがサプライズでした。

それにしても、これほど公然と最高指導者に歯向かうことがイラン社会においては許されるのでしょうか?
それを可能にするのは、背後にある政治勢力の力があってのことでしょうが、アフマディネジャド前大統領の場合、出身の革命防衛隊でしょうか?

最高指導者のもとで宗教支配が貫徹しているとのイメージが強いイランですが、実際の政治にあっては欧米・日本同様に、いろんなことがあるようです。

ロウハニ大統領の再選は? 保守派からは「死の委員会」メンバーのライシ氏が
再選が注目されるロウハニ大統領の実績については、制裁解除につながる核合意を実現したことのほか、インフレ率を40%から10%に下げたことや、石油の輸出額が2倍に増えたことなどがあげられる一方で、失業率が10.5%から12.4%に増大したこと、せっかく核合意で一部の外国にある資金の凍結が解除されたものの、多くの外国金融機関がイランとの取引を拒否していて、イランへの外国投資が全く増えていないことなどのマイナス面も指摘されています。【4月15日 「中東の窓」より】

もし、ロウハニ大統領の再選が阻止され、保守強硬派が勝利すれば、イラン核合意の行方は一気に不透明になります。中東におけるイランが支援する勢力とアメリカの対立も激化します。

前回選挙(2013年)で現職の保守穏健派ロウハニ大統領に次点で敗れた保守強硬派のガリバフ・テヘラン市長も立候補を届け出ていますが、保守派の候補者で注目されるのはハメネイ師に近いとされる保守強硬派のライシ前検事総長です。

ライシ氏は、高齢のハメネイ師の後を継ぐ、次期最高指導者の声もあります。ただ、その経歴からすると、相当に危険な人物のようにも。

****イランの次期大統領候補も仲間とは言えない****
米外交問題評議会のレイ・タキー上席研究員が、9月26日付ワシントン・ポスト紙に、「イランの次の最高指導者になりそうな人は西側の友人ではない」との論説を書き、イランの次の指導者と目されているイブラヒム・ライシの経歴などを紹介しています。論旨、次の通り。

最も反動的な人物
イランが実利的になることへの最大の障害は最高指導者ハメネイであると言われてきた。

核合意の有効性には期限があるが心配はいらない、なぜならハメネイの後継者は国際規範を尊重し、核兵器のために国際社会との統合を捨て去るとは思えない、と言われてきた。

しかし、ハメネイと革命防衛隊が最高指導者になるように育てている人イブラヒム・ライシは、イランの支配エリートの中でも最も反動的な人物の一人である。
 
ライシは56歳で、ハメネイ同様、マシュハード市出身である。神学校に行った後、彼は検事総長、一般監察当局の長、聖職者特別法廷(聖職者を公式見解から逸脱しないようにする機関)の検事など、法執行部門で働いた。彼は1988年、でっち上げの容疑で数千の政治犯を処刑した「死の委員会」の一員であった。
 
最高指導者は尊敬される聖職者がなるものと考えられてきたが、ハメネイは宗教面では冴えない経歴しかなかった。それで、そうでもない人が最高指導者になる道を開いた。
 
ライシの経歴は、反政府派弾圧を使命とする革命防衛隊の好みに合う。革命防衛隊の司令官は最近、イランの政権への脅威は外部の圧力より国内での反乱にあると述べた。

ハメネイの理想的な後継者は革命防衛隊と同じ見方を持ち、治安・司法当局と緊密な関係を持つ人ということになる。革命防衛隊はそういう人としてライシを支持している。

ハメネイもライシを支持している。最近、イラン最大の慈善財団の長にライシを任命した。財団はマシュハード市のイマーム・レザー廟(毎年数百万が巡礼に来る)を運営し、多くの企業、広大な土地を持つ。財団の基金の価値は150億ドルともいわれている。この任命はライシを全国的に著名にするとともに、多くの資金を彼に与えた。
 
ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である。彼らはイランを中国――イデオロギーを捨て、商業利益を重視した――にしないと決心している。

2009年春の反乱は、いまや米では忘れられているが、イランの神政政治擁護者にとり分水嶺的出来事であった。ハメネイの下、イランは警察国家になった。その論理的帰結として、イランの抑圧機関からの人が最高指導者になろうとしている。
 
正式には専門家会議が次の指導者を選ぶが、現実には決定は今裏で行われている。

ロウハニ大統領は穏健政権への希望であるが、この権力劇には関係がない。ハメネイなどは、次の指導者は不安な時期に権力の座につくと考えている。

この指導者は西側への軽蔑心を持ち、政権のために流血もいとわない人であるべきである。神政政治の抑圧を信じるとともに、その機構の一部であったライシほどそういう属性を持つ人はいない。(後略)【2016年10月28日 WEDGE】
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上記記事は、ワシントン・ポスト紙記事に対する論評として“治安当局関係者というのは、弾圧という手段を信頼する傾向がありますが、同時に現実的な思考もします”ということで、“石油輸出に制裁がかかるようなことにライシが踏み出すとは、イランの国益上、あまり考え難いことです”と、ライシ氏が大統領になったからといって、核合意が破棄されると考える必要はない・・・とも指摘しています。

ただ、イラン国内の空気は大きく変わるでしょう。

前出「中東の窓」には、以下のようなコメントも寄せられています。

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保守派の圧力にもかかわらず、ロウハニ政権の下で、インターネット通信が随分と自由化され、かつ拡張されたそうで、改革派の支持者たちがこのメディアを存分に使って、保守派に対抗しているそうです。

Ibrahim Raeisi (ライシ氏)が立候補するや否や、さっそくネット上に、「彼は検察官時代に何百人もの政治犯を死刑にした」 といった書き込みが行われているそうです。

保守派の側は、これに対抗すべく、覆面した暴力団員を動員して、このようなサイトの運営者13名を誘拐して圧力をかけているそうです。【http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5201292.html#comments
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穏健派はロウハニ現大統領に事実上一本化されていますので、投票日まで特段のことがなければ、ロウハニ再選の可能性は高いのではないでしょうか。

トランプ大統領は核合意の無効化に乗り出すのか?】
ただし、アメリカ・トランプ大統領が保守派が反発するようなサプライズを仕掛けなければ・・・ですが。

核合意破棄を口にしていたトランプ大統領は、このところは合意破棄は表には出していません。しかし、イランに対する敵愾心を持っていることは変わりませんし、それはトランプ大統領に限らず、アメリカにあっては普通にみられることでもあります。

****イラン核合意を破棄することの危険度****
オバマ政権で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケンが、2月17日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説にて、イラン核合意に反対するトランプ政権は、正面から合意を破棄するのではなく、別の方法で合意を葬ろうとしている、と述べています。要旨、次の通り。

トランプ大統領がイラン核合意を「ひどい」などと酷評していたことを考えると、米政府高官がEUの外交責任者モゲリーニに、トランプ大統領はイラン合意の全面実施を約束していると述べたことは注目される。
 
しかし、トランプ政権の後退は戦略的再考の結果ではなく、一時的、戦術的なものかもしれない。

ホワイトハウスの顧問たちは依然としてイラン合意に反対しているが、米国が一方的な合意からの離脱という正面攻撃をすると、米国と交渉仲間の欧州、ロシア、中国が仲違いし、イランではなく米国が孤立してしまうことを認識している。そこで彼らは別の方法で合意を葬ろうとしている。
 
第一の方法は、「より良い取引」を要求することである。それはイランの軍事施設へのアクセスを増加すること、あるいは弾道ミサイルを合意の対象とすることかもしれない。しかし、他の交渉参加国が再交渉に応じる可能性はまず考えられない。

再交渉を求める主たる目的は、米国が非難されないように、事態を混乱させながら緩やかに合意を破棄に追い込むことだろう。
 
別の方法は、核以外の分野でイランに圧力を加え、合意に反対するイランの強硬派を破棄に走らせるシナリオである。

イランの問題行動は多い。弾道ミサイルの実験の他に、イエメンのホーシー族支援、ペルシャ湾での航行妨害、シリアのアサド支持、ヒズボラとハマス支援、イラクの過激なシーア派民兵支持、イラン国民の弾圧などである。
 
オバマ政権はこれらを念頭に、核以外の分野での制裁を維持、強化してきたが、同時にこれらのイランの「悪行」は核武装したイランの下でははるかに危険で対決しにくいと考え、核合意が破綻しないよう、追加的圧力については慎重に対処した。
 
トランプ政権は、核以外の分野で制裁を復活させたり、イランの革命防衛隊をテロ組織と認定することにより、イランが堪えがたいような圧力を加えるかもしれない。

革命防衛隊はイラン革命の公式の擁護者であるのみならず、イラン経済で大きな役割を果たしている。ブッシュ、オバマ政権はイランをテロ支援国家と指定し、革命防衛隊の個々の司令官に制裁を加えたが、代価の方が利益より大きいと考え、革命防衛隊自身をテロ組織と指定することはしなかった。
 
革命防衛隊に直接挑戦すれば、その司令官たちは核合意からの撤退を迫り、核合意の主たる推進者であったロウハニ大統領の再選の見通しを暗くするだろう。

またイラクで米軍と並んでISと戦っているシーア派の民兵に、イラクの米軍を攻撃させるかもしれない。またペルシャ湾の米国船舶を攻撃し、ホルムズ海峡を封鎖しようとするかもしれない。

ケリー前国務長官とザリフ外務大臣との間で作られた危機管理のチャネルが使えなくなると、これらの行動は全面対決に拡大する恐れがある。そうなったら核合意の喪失どころではなくなる。(後略)【3月22日 WEDGE】
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上記【WEDGE】は、ニューヨーク・タイムズ紙掲載論説への論評として、上記のような実質的な核合意破棄に走る可能性があるトランプ政権をけん制する要因として、イランとの対立は、中東でIS掃討に当たっている米軍へのシーア派民兵の攻撃を誘発しかねないことや、イランとの関係を重視するロシアの反発を招くことなどを挙げています。

個人的には、7月末にイラン旅行を計画していますので、大統領選挙が整然と実施され、核合意でも問題が起きないことを願っています。
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