孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ケニア  最高裁、選挙後の混乱が続く大統領選挙の無効を決定 

2017-09-01 23:00:08 | アフリカ

(抗議者を追い散らす治安当局・・・というのはわかるのですが、それに動じた様子が全く見られない女性が印象的です。こうした場面は日常茶飯事で、こんなことでビビッていたらケニアでは暮らせない・・・ということでしょうか? 写真は【ビジネスモンキーニュース】より)

混乱が続いていた大統領選挙 最高裁「選管が憲法に沿って大統領選を実施しなかった」】
民主主義を実現する手段であるはずの選挙も、公正に実施され、その公正さに対する国民の信頼がないと、対立する政治勢力、あるはその背後にある民族・宗教の対立を激化させ、社会の分断を深めるだけの結果にもなります。

2007年のケニア大統領選挙は、有力候補者の出身民族の争いの側面もあることから、そうした“揉める選挙”の代表例で、それまでアフリカにあっては“民主主義の優等生”とも見られていたイメージを打ち壊す、1100人以上の死者を出す民族間の大規模暴動に発展しました。

そうしたことから、今年8月8日に行われた大統領選挙も、事前の支持率が拮抗していたこともあって、選挙後の混乱が懸念されていました。

****<ケニア大統領選>現職と元首相が接戦 国内緊張高まる****
ケニアで8日、任期満了に伴う大統領選が行われる。再選を狙う現職ケニヤッタ大統領(55)と野党連合候補のオディンガ元首相(72)が激しい接戦を展開。支持者間で緊張が高まっており、投票結果を巡る混乱を懸念する声も出ている。
 
最新の世論調査ではケニヤッタ氏が支持率47%で、44%のオディンガ氏をややリード。ただ、両者とも当選要件の過半数の得票を確保できるかは微妙で、決選投票までもつれる可能性がある。選管によると、両者を含む8人が立候補している。
 
政治的緊張が高まる中で懸念されるのが、治安の悪化だ。2013年の前回選はおおむね平穏だったが、07年の前々回は選挙結果の発表後に与野党の支持者が衝突して大規模な暴動が発生、1100人以上が死亡した。
 
1963年の独立後に誕生した4人の大統領のうち、ケニヤッタ氏を含む3人は最大民族のキクユ人出身。ケニアは「指導者が出身民族を優遇する政治文化が色濃く残る」(ナイロビ大のオデラ教授)。今回もケニヤッタ氏と第3の民族ルオ人出身のオディンガ氏の政策に大きな違いはなく、互いに出身民族を中心に票を固めていることが、民族間の緊張を高めている。
 
さらに過去2回の大統領選では、票の水増し疑惑や集計の不手際が混乱を招いた。4度目の挑戦で背水の陣となるオディンガ氏は「与党は今回も開票作業で不正をもくろんでいる」と主張している。
 
投票1週間前には選管幹部の殺害事件が発生。不正防止の要とみられた電子集計システムの責任者だったことから、背後関係を巡りさまざまな臆測が飛び交った。

投票後の混乱を警戒して避難したり、食料の買いだめに走ったりする人も相次いでいる。【8月7日 毎日】
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8日の投票を受けて選挙管理員会が発表した結果は、現職ケニヤッタ氏の得票率は54%で、野党連合候補のオディンガ氏45%に10ポイントの大差をつけて勝利した・・・というものでした。

野党側は不正が行われたとして選管発表を認めず、16人とも24人とも言われる死者を出す混乱となっています。

前々回2007年の1100~1200人と言われる死者を出した民族紛争ともとれる大暴動に比べれば・・・といった感もありますが・・・・。

****ケニアで暴動、16人死亡 大統領選結果めぐり混乱続く****
大統領選結果をめぐる混乱が続くケニアで、8日の投票以降、暴動で市民16人が死亡した。AFP通信が報じた。
 
AFP通信によると、現職ケニヤッタ氏の再選が発表された11日以降、首都ナイロビなどで「不正があった」として結果を認めない野党支持者と与党支持者の間で衝突が激化。一部はこん棒や弓で武装している。

 敗北した野党連合候補のオディンガ元首相は13日、ナイロビのスラム街で「選挙は盗まれた。我々は決してあきらめない」と演説。「働かないように」と抗議のストライキを支持者に呼びかけた。【8月14日 朝日】
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こうした緊張した状況下で、野党側が訴えてていた異議が最高裁で認められ、選挙のやり直しが命じられたとのニュースが報じられています。

****<ケニア>大統領選「結果は無効」 最高裁 再選挙へ****
ケニア最高裁判所は1日、ケニヤッタ大統領(55)が再選を決めた8月8日の大統領選の結果について、無効とする決定を下した。60日以内に再選挙が行われる。選管が発表した大統領選の結果が法廷で覆されるのは異例で、専門家は「アフリカでは今回が初めてのケース」としている。
 
敗北した野党連合候補オディンガ元首相(72)らが集計作業に不正があったとして最高裁に異議を申し立てていた。英BBC放送によると、オディンガ氏は記者団に「ケニア国民、そしてアフリカの人々にとって歴史的な日になった」と述べ、最高裁が自らの主張を認めたことを喜んだ。
 
最高裁の判断はケニヤッタ氏の陣営による不正には踏み込まなかったものの、各陣営の開票立会人の署名がない集計結果用紙が多数見つかるなど投開票時の手続きに不備があったと指摘し、「選管が憲法に沿って大統領選を実施しなかった」と結論づけた。
 
8月の選挙結果の判明後、オディンガ氏側はケニヤッタ氏の陣営が選管のサーバーにハッキングして結果を改ざんしたなどと主張し、支持者らが抗議。首都ナイロビのスラムなどで警官隊と衝突し、少なくとも24人が死亡したとされる。
 
ケニア大統領選ではこれまでも選挙結果を巡って混乱が繰り返され、オディンガ氏が敗れた2007年の前々回選挙後には大規模な暴動が発生して1100人以上が死亡した。13年の前回選でも、同氏の陣営は不正があったと主張して異議を申し立てたが退けられた。【9月1日 毎日】
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選挙に“勝利・再選した”ケニヤッタ大統領側の反応はについては、“判決に対し、ケニヤッタ大統領は1日、「個人的には同意できないが、尊重はする」と述べた。最高裁の6人の判事に対し「人民の意思に反した結論を出した」と強い不満を表明した。大統領の代理人は判決を「非常に政治的」と批判。選管に「落ち度はない」とも強調した。”【9月1日 時事】とのこと。

不満ながらも尊重する・・・ということで再選挙に応じるということでしょうか。(ルール上はそれしか道はありませんが)

ただ、再選挙でもし今回と異なる結果になった場合、今回以上の混乱が起きることも懸念されます。

投票データの不正処理疑惑
“投票1週間前には選管幹部の殺害事件が発生。不正防止の要とみられた電子集計システムの責任者だったことから、背後関係を巡りさまざまな臆測が飛び交った。”【8月7日 毎日】ということもあってか、野党側は投票データ処理に不正があったと主張しています。

****ケニア大統領選、現職ケニヤッタ氏が勝利 野党は集計で不正と主張****
・・・・ケニヤッタ氏支持者の多い地域は祝賀ムードに包まれる一方、オディンガ氏の支持者が多いケニア西部のキスムでは怒った住人たちが抗議のため街に繰り出した。
 
現地のAFPカメラマンによると、首都ナイロビのスラム街キベラ地区では、怒ったオディンガ氏支持者がケニヤッタ氏と同じ最大民族キクユ人所有と思われる商店で略奪行為に及んだ。
 
外国の選挙監視団は、投票は平穏に行われ信頼できるものだったと称賛したが、集計終了のわずか数時間後にオディンガ氏が結果を受け入れない姿勢を示すと状況は瞬く間に険悪化した。
 
野党連合「国民スーパー連合」(NASA)は、投票結果はハッキングされた上、オディンガ氏勝利という結果がIEBCのサーバーに隠匿されていると主張している。
 
4万883か所の投票所の選挙結果はナイロビの全国集計センターに送信され、集計用紙と突き合わせて再チェックされることになっている。

NASAは集計用紙と送信された電子データの間に矛盾があり、ケニヤッタ氏の得票が水増しされ、オディンガ氏の得票が減らされた上、一部の選挙結果は実在しない投票所から送られた形になっていたようだと主張している。
 
NASAは、IEBCが不正に操作された結果を発表したと考えているとして、IEBCのサーバーへのアクセスを要求。サーバーに残されている選挙結果には従うとしている。【8月12日 AFP】
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トランプ政権 ケニヤッタ氏を支持
こうした野党側の異議があるなかで、アメリカ・トランプ政権は現職ケニヤッタ氏の当選を支持する旨を発表しています。

****トランプ政権】ケニア大統領の再選を祝福 米ホワイトハウス「公正な選挙」と正当化****
米ホワイトハウスは14日、ケニア選管当局が11日に現職ケニヤッタ大統領の勝利を発表したことについて「米国は選挙の成功とケニヤッタ氏の再選を祝福する」との声明を発表した。
 
ケニアでは開票結果を虚偽とする野党支持者らの抗議活動が続いているが、声明は「平和的で公正で透明性のある選挙」だったと強調。抗議活動が暴力に発展していることに「心を痛めている」とし、治安を回復しようとするケニヤッタ氏の取り組みを歓迎するとともに、同国民に暴力の中止と法の順守を促した。【8月15日 産経】
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どういう判断での発表だったのかよくわかりませんが、ケニヤッタ氏へのトランプ大統領の思い入れがあるのでしょうか。今日の最高裁のやり直し命令で、はしごをはずされた形にもなっています。

日本政府の判断は知りません。先週にモンザビークで開催されたアフリカ開発会議(TICAD)閣僚会合に合わせて、25日にはケニア外相と河野外相の会談も行われていますが、外務省の発表した会談内容には、大統領選挙に関する評価は含まれていません。

選挙後の抗議活動に対する治安当局対応への批判
選挙集計における不正の有無以外に、選挙後の混乱に対する治安当局の対応についても批判が出ています。

****ケニア:警察による野党支持者の殺害を捜査せよ****
ケニアで8月11日、大統領選の結果をめぐり、抗議していた人びとに警察が発砲し、死者が出たと伝えられている。当局は、直ちに真相を究明する捜査を開始しなければならない。(中略)

警察活動に対する独立監督局IPOAは、報道されている発砲事件の捜査を直ちに始め、射殺であることが明らかであれば、実行者を特定し、司法の手に委ねなければならない。

だれもが平和的に抗議する権利を持っており、その権利を行使したために弾圧を受けたり、負傷したり、命を落とすようなことはあってはならない。

アムネスティが得た信頼できる情報では、ナイロビのキベラのスラムで一人が、キスムでは少なくとも2人が警察に射殺され、負傷者も出ている。ナイロビの他の2地区でも警察とデモ隊の間で衝突が起こった。

警察当局は、抗議する人たちの身に危険がおよばないようにするために、あらゆる手を打たなければならない。当局は、対話と沈静化を優先すべきであり、力の行使は、あらゆる平和的手段が尽きてしまった場合のみに限らなければならない。

ケニアの国内法でも国際法でも、本来の目的を超える過度の力の行使は、禁じられている。【8月14日 アムネスティ国際事務局発表ニュース】
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“ケニアの国内法でも国際法でも、本来の目的を超える過度の力の行使は、禁じられている”というのは、当然のことようですが、フィリピン・ドゥテルテ政権の超法規的大量殺人に見るように、まったく無視されているのが現実です。

****家宅捜索中に負傷した幼児が死亡、警察が殴打か ケニア****
ケニアで8日行われた大統領選の結果に対し、住民による抗議行動が起こった西部キスムで、警察当局による家宅捜索の最中に殴られたとみられる生後6か月の女児が死亡した。女児の父親が15日、明らかにした。
 
死亡したサマンサ・ペンドちゃんの父親によると、警察が先週11日に自宅周辺のスラムで抗議する住民に対する取り締まりを行った際、この家にも家宅捜査が入った。
 
警官らは家に向けて催涙ガスを噴射し、ドアを打ち破って侵入。夫婦は警棒で殴打され、母親に抱かれていたサマンサちゃんは頭部にけがを負い、以降病院で昏睡状態に陥っていたという。
 
父親はサマンサちゃんが死亡したことを認め、「なぜ警察は私たちを殴り、無実の娘にけがを負わせなければならなかったのだろうか。私たちは、投票して自宅にとどまれという政府の命令に従っただけだ」と訴えた。(後略)【8月16日 AFP】
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2007年選挙時の暴動でもICCから訴追されたケニヤッタ氏
なお、今回選挙で“勝利・再選した”ケニヤッタ大統領はケニアの初代大統領だったジョモ・ケニヤッタ氏の息子で、若くして政治的実績もないまま政府要職に登用された人物でもありますが、選挙後に大規模暴動が起きた2007年選挙では“勝利・再選した”キバキ氏を支持し、暴動を背後で指示したとして国際刑事裁判所(ICC)から殺人など「人道に対する罪」で訴追を受けていました。

(2014年10月9日ブログ“国際刑事裁判所(ICC) ケニアのケニヤッタ大統領が出廷 困難な公判維持 アフリカ諸国の不満”)

訴追後に大統領選挙に当選し、大統領として公判に出席もしていましたが、“新たな証拠提出をケニア政府に求めても「反応はなく」、重要証人が脅迫を恐れて証言しなかったり、偽証したりしたケースもあった”【2014年12月6日 毎日】といった事情で公判が維持できなくなり、結局ICCは2014年12月に訴追を取り下げることにもなっています。

こうした過去の経験から“ルールなど力でねじ伏せればどうにでもなる”といった思いを抱いていなければいいのですが・・・。

それにしても、こうした経歴の人物で、野党側からの批判があるなかで、トランプ大統領が果敢に支持を表明したというのも、繰り返しになりますが、よくわかりません。

自分と同じような“体臭”を感じて共感したのでしょうか? それとも利権絡みでしょうか?
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