孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  顔認証システム、信用の可視化 その次にやってくるのはSNSによる「ランク社会」か

2017-09-11 21:27:51 | 中国

(自分の信用状況がスコアとして表示される中国・芝麻信用(セサミ・クレジット)のシステム)【9月11日 WEDGE】)

急速に進む顔認証システム
中国がスマホを利用したモバイル決済や顔認証システムを活用した社会に急速に変化していることは多くの報道のとおりです。

日本では安全性とか個人情報の扱いなど、まず懸念される事柄の検討が先に立ち、場合によっては“石橋を叩いて壊す”ようなところもあって、新技術導入には時間を要します。

一方、中国の場合は“先ずやってみて、なにか不都合があればその後で・・・”という発想で、しかも個人情報・プライバシー、特にそういったものの国家管理に対する抵抗があまりないこともあって、一気に新技術が広がるようです。

****中国で急拡大の「顔認識システム」 アリババは顔決済を導入****
かつてSF映画の出来事と思われていた顔認証システムが、中国では人々の日常に入り込みつつある。中国のテック企業大手らがこの技術の商用化を企む一方、顔認証テクノロジーの向上は市民の監視を強めたい中国政府の思惑とも合致する。

バイドゥ(百度)は先日、北京で開催されたAI開発者会議で同社の顔認証システムを展示した。バイドゥの技術は保険会社のTaikang(泰康人寿)でも、顧客の特定のために活用されようとしている。アリババ傘下のアントフィナンシャルも顔認識を用いた送金サービスの運用を開始した。

北京に本拠を置く顔認識システム関連のスタートアップ、Megviiの広報担当Xie Yinanによると、同社の技術はAIを活用したニュース配信サービスのToutiao(今日頭条)でも活用され、記事の執筆者の判別に用いられているという。

XieによるとMegviiのシステムはライブ動画から顔の特徴を分析し、中国政府のデータベースに登録された情報も参照して個人の特定を行うという。顔認識システムの導入はホテル業界や学校でも施設に入場する人物の識別に用いられている。

一部の大学では入学試験の際に、替え玉の受験者が潜り込むのをこのシステムで検知しようとしている。また、北京のKFC の一部の店舗では顧客の顔を読み取り、年齢や性別から商品のリコメンドを行おうとしている。

北京の清華大学で電子工学を教えるWang Shengjin教授は「中国の顔認識システムの技術レベルは西側の先進国と同等のものだ。しかし、実際の導入事例ははるかに多い」と話す。

1.7億台の監視カメラが稼働中
顔認識テクノロジーの最大の支援者と言えるのが中国政府だ。英国の調査企業IHS Markitのデータによると、米国には現在5000万台の監視カメラがあるが中国の監視カメラ台数は1億7600万台に達している。中国政府は米国と同様に、監視カメラの映像を国民のID写真と照らし合わせ、犯罪者やテロリストの発見に役立てている。

技術の向上により現在では10年前の写真からでも個人の識別が可能になり、ぼやけた画像から人物の特徴を割り出す技術も進化している。

MegviiのXieは「映画『ワイルド・スピード』で描かれたようなテクノロジーが現実のものになりつつある。監視カメラの映像から特定の人物がどこに居るかがリアルタイムで把握可能になった」と述べた。

中国政府はまた、国民のマナー向上のためにこのシステムを用いようとしている。監視カメラの映像から地下鉄や駅で好ましくない行動をとる人物の個人データを把握するのだ。新華社通信の報道によると、山東省の済南市では先日、交差点で赤信号を無視する歩行者の動画から個人を特定し、道路に設置されたスクリーンでその人物の名前や住所を公衆の目にさらす試みが始動したという。

中国ではこのような行為はプライバシーの侵害とはみなされない。新たに導入されたサイバーセキュリティ法は、商用目的で生体情報等の個人情報を収集することに一定の基準を設けているが、地方の当局はその規制対象に含まれていない。

北京航空大学でコンピュータサイエンスを教えるLeng Biao教授は「中国は顔認識システムの実用化において、西側の一歩先を歩み続ける」と述べた。「中国政府の後押しにより、この分野のテクノロジーは米国やヨーロッパよりもずっと迅速に進化を遂げることになる」とBiao教授は話している。【7月13日 Fobres】
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顔認証システムは、コンビニとか、上記記事にあるような送金サービス、ホテル、入試など多くの場面で使用されているようですが、かねてより“マナーが悪い、ルールを守らない”事例としてあがっている“信号無視”に対しても活用され始めています。

(なお、信号無視は多くの途上国ではごく一般的な現象で、中国だけの問題ではありません。そもそも、そうした国々では信号自体があまりなく、道路は勝手に渡るのが常識でもあります。)

****中国で顔認識システムによる信号無視者の特定を開始****
「まずはスリに適用してほしい」「中国とは人権のない国」―

2017年5月5日、中国メディアの済魯網が、山東省済南市で顔認識システムを利用して信号無視をした人を特定する取り締まりが始まると伝えた。

記事によると、済南交通部門は、歩行者や軽車両が信号無視をした場合、自動で写真を撮影するシステムを開発した。例えば、歩行者が赤信号の時に道路を渡ると、自動で4枚の写真を撮影し録画も行う。この撮影された人の顔を、省庁が採集した人物像データと照らし合わせるという。

こうして特定された違反者の情報は、公安交通管理誠信情報プラットフォームに記録され、公安交通警察が違反者の交通違反情報を会社と居住する社区委員会へ書面で通知し、テレビとインターネット上で同時に公開するという。

記事は、中華人民共和国道路交通安全法第89条の規定では、歩行者または軽車両が道路交通安全法に違反した場合、警告または5元(約80円)以上50元(約800円)以下の罰金に処すると規定されており、軽車両の運転者が罰金を拒否した場合には軽車両を差し押さえることができると伝えた。

これに対し、中国のネットユーザーから「まずはこのシステムをスリや泥棒に適用してほしいのだが」、「このシステムを行方不明になった子どもを探すのに応用できないのか?」、「ぜひ各地のレストランやクラブにもこのシステムを普及させて、党幹部による規定違反を防止しよう」など、ほかに使うべきところがあるとの意見が多く寄せられた。

さらに「双子はどうするんだ?」、「両手で顔を覆って渡ればいい。俺って頭いいな」、「中国とは人権のない国」など、問題点を指摘するコメントも少なくなかった。【5月8日 Record china】
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個人情報の国家管理
“都市によって運用は異なるようですが、今後、スクリーンに違反者の顔だけでなく氏名や住所、勤務先を表示するシステムも出現すると地元メディアは報じています。(中国在住のライター・吉井透氏)”【8月28日 SPA!】ということで、さすがに“プライバシーの侵害”の指摘もあるようです。

それもさることながら、“省庁が採集した人物像データ”など、治安当局が個人に関する情報を一元管理するデータベースを有していることも怖いところですが、中国のような社会では、そうしたことは“当たり前”のことなのでしょう。

日本では、国民背番号制度やマイナンバーで大騒ぎしましたが、現在どのように運用されているのか・・・知りません。
深く潜航しながら事態は進んでいるのでしょうか?

警察・防犯面では、交番のお巡りさんがたまに台帳片手にやってきて住民確認などしていますが、中国人にしたら“笑い話”でしょう。

話が横道にそれますが、信号無視に対しては、当局もあの手この手の対策を講じているようで、遮断バーを使用したもう少しレトロな方法も。

****信号無視を遮断!中国・武漢の横断歩道に新装置****
信号が赤色に変わると自動的に遮断バーが下りてきて、歩行者の横断を防ぐ(撮影日不明)。(c)CNS/袁婧
中国・武漢市(Wuhan)の街並みに、歩行者側が赤信号になると自動的に遮断バーが下りてくるという新たな装置が出現し、インターネットでも話題になっている。

歩行者の信号無視を防ぎ、信号が青へ切り替わると遮断バーが自動的に上昇し、歩行者の通行を許可するというものだ。(後略)【9月11日 東方新報】
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顔認証システムや遮断バーはともかく、まず“ルールを守る”という意識を教育や社会全体で育てていくことが重要だろう・・・との“正論”はこの際脇へ置いておきます。

閑話休題。
顔認証システムに関しては、お堅い(はずの)裁判所も活用するとのことで、国を挙げて推進していく姿勢のようです。

****中国・広州市の裁判所、顔認証システムを資料のオンライン閲覧に活用****
中国・広東省)広州市越秀区人民法院(裁判所)は4日、ウィーチャットを通して参考資料を閲覧できるプログラムを導入すると発表した。このプログラムは顔認識システムを用い、裁判の当事者が実際に裁判所まで足を運ぶことなく裁判の関連資料を閲覧できる仕組みだ。
 
「中国公安部居民身分証ネットワークアプリケーション国家基準」をに基づき、テンセント及びウィーチャット生体認証技術に委託し、「実名本人情報検証能力」プログラムを開発。「顔認識システム+公安」を通し、ユーザーの実名情報にある本人が操作しているということを検証できる。
 
同法院は、このプログラムと資料閲覧サービスを結合させている。裁判の当事者または弁護士が同法院のウィーチャット公式アカウントから「閲覧サービス」に入り、氏名と身分証番号を入力した後、顔認識により本人認証を行う。認証完了後、閲覧を希望する資料の閲覧申請を送信する。
 
申請を受け付ける法院は、申請者が資料閲覧の資格があるかどうかを審査し、審査が通ると、保存資料のスキャン画像が申請者に送られる。
 
スキャン画像の各ページには「出力」ボタンがあり、必要なページを出力請求できる。法院は出力請求を受け付けるとプリントアウトし、バイク便で申請人まで送り届ける。
 
同法院は今後も情報化に力を入れ、科学技術を存分に活用して市民の手続きを簡便化していく方針だ。【9月11日 CNS】
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まあ、印鑑さえ偽造すれば他人になりすませる日本よりは安全かも。

信用の可視化がもらたすSNS評価「ランク社会」】
不特定多数を対象とする公的機関の顔認証システムは個人に関する情報のデータベースの存在を前提としていますが、そうした個人情報データベースを官民が活用することで、更に多くの情報が蓄積され、その利用価値がますます増大することにもなります。

資金に関する情報、購買に関する情報、信号無視のような軽犯罪に関する情報・・・・それらが蓄積されていけば、その情報によって個人の信用度合いを判別することが可能にもなってきます。「信用の可視化」です。

そして可視化された信用が高い人ほど有利な条件で扱われ、その逆は・・・というシステムです。
中国では現実に部分的にそうしたシステムが動き出しているようです。

****信用の可視化」で中国社会から不正が消える!?****
あなたはどの程度、「信頼」されているだろうか? なかなか答えられない質問だが、中国では簡単だ。芝麻信用の点数を告げるだけでいいのだ。

個人の信用がスコア化される
芝麻信用(セサミ・クレジット)とは、アントフィナンシャル社旗下の第三者信用調査機関が提供する個人と企業の信用状況を示す指数だ。2015年から始まった、まだ新しいサービスである。

アリペイ・アプリからサービス開始を申し込むと、自分のスコアを簡単にチェックすることができる。スコアは最低で350点、最高で950点となる。「スコア公開」機能もあり、SNSなどを通じて第三者に自分の信用力をアピールできるようにもなっているのがユニークだ。
 
このスコアはどのように算出されるのか? ネットショッピングや振り込み、決済などのアリババグループのエコシステムに関する取引記録と政府のオープンデータベースの2種類がある。後者については学歴や公共料金支払い記録に加え、「失信被執行人リスト」というデータベースも含まれる。
ユーザー同意の下、集められる各種データ
「失信被執行人リスト」、通称「老頼リスト」(踏み倒し者リスト)とは、契約を履行しなかった不誠実者を公開するデータベースだ。

裁判での判決に従わず賠償金を滞納した人や暴力や脅しで判決の執行を妨害した人が主な対象となる。契約を守らず金を支払わない、裁判で負けても判決を遵守しない、そうした踏み倒し行為を念頭に置いた制度だ。
 
もっとも金銭以外でも判決を遵守しなかった場合にはリストに掲載される。2016年には離婚した女性が「月に2回は元夫と子どもを面会させる」という調停協議を守らなかったため、リストに掲載された例もある。

掲載されると単に不名誉なだけではなく、公務員になれない、出国できない、融資を受けられない、飛行機や鉄道の一等寝台など高級消費が禁止されるといった実害もある。
 
こうしたデータはユーザーの同意の下、収集される。免許証、職場のメールアドレス、不動産登記簿などをアプリからアップロードできるようになっており、より多くの情報を預けるほどスコアは高くなりやすいという。
道徳的な人ほど得することができる

こうして集められたデータをクラウドコンピューティングと機械学習、AIなどの先端技術で処理することによってスコアが算出される。総合スコアだけではなく、信用に関する5つの分野でどのような評価を受けているのかも表示される。
 
その分野とは年齢や学歴・職歴などから算出する「身分特質」、資産などから算出する「履約能力」、取引履行記録から算出される「信用歴史」、他者への影響力や友人の信用状況から評価される「人脈関係」、ショッピングや支払い、振り込みなどの特徴から算出される「行為偏好」の5項目。スコアが高い人間ほど、約束を守り、契約を遵守する可能性が高いと判断される。
 
興味深いのはこうした道徳的人間ほどお得なサービスが受けられるという点にある。宗教や規律ではなく、便益をインセンティブにした道徳システムと言えるかもしれない。

代表的なところでは、スコアを上げると、「シェアサイクルやホテル、図書館のデポジット(保証金)を免除」「一部の国で個人観光ビザ申請手続きを簡素化」などのサービスを受けられる。

ただし、これらは呼び水というべきだろう。本丸は初めて会う人を信頼できるかどうかを数値で評価できるという、信用の可視化にある。
 
ユーザーの拡大に伴い、芝麻信用の応用範囲は広がっている。中国の大手結婚仲介サイトの「百合網」や「世紀佳縁」はお見合い相手の芝麻信用スコアを表示するサービスを始めた。相手がうそをついていないか、スコアを見れば一目瞭然というわけだ。

採用現場においても芝麻信用を参考にするケースが増えている。さらに住宅の賃貸契約を結ぶ際に芝麻信用を参照し、借り手の信用が高ければ敷金が減額、または免除される都市も広がりつつあるほか、芝麻信用が高ければ融資審査が簡略化される消費者金融も多い。(中略)

中国政府が国策として推進する理由
信用社会の構築は芝麻信用、あるいはアリババグループ及び関連会社だけが目指しているものではない。中国政府が大々的に推進する国策だ。

2014年に国務院は「社会信用システム建設計画綱要(2014〜2020年)」を発表しているが、なぜ信用システムが必要なのか、現状を次のように分析している。

「信用がある者への奨励は足らず、守らない者の支払うコストが低すぎる。(……)誠実信用の社会的ムードはいまだ構築されず、生産現場での大事故や食品安全事件もしばしば起きる。詐欺、ニセモノ製造販売、脱税、学術不正などの現象はいかに禁止してもとどまることはない」

「現代市場経済は信用経済である。健全な社会信用体系の構築は、市場経済秩序の整理と規範化、市場信用環境の改善、取引コストの低下、経済リスクの防止をもたらす重要な施策であり、経済に関する行政の干渉を減らし、社会主義市場経済体制を整えるための切迫した課題である」

その上で政治、ビジネス、社会、司法の四分野におけるシステム構築を2020年までに完成するとの目標を掲げている。同綱要に基づき、今や中国の各省庁、各自治体はさまざまな信用データベースの構築を急ピッチで進めている。税金の支払いから旅行中のマナー違反まで多種多様だ。(後略)【9月11日 WEDGE】
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アメリカではクレジットカード情報を基にした同様システムもあるようですが、より広範囲に国民を網羅したシステムにもなります。日本でも、企業に関しては一定に「信用情報」は存在しているのでしょう。

近未来ディストピアを描く「ブラック・ミラー」というアメリカTVドラマシリーズ(ネットフリックスで視聴できます)があります。そのなかの「ランク社会」という作品では、日常の付き合い・会話における印象に対するSNSでの評価ポイントを通じて人々のランクが決まってしまう社会が舞台です。

感じがよかった人にはスマホで“いいね!”をポチッ、悪かった人には“よくないね!”をポチッ・・・という具合。

“人はそのポイントを常に気にし、数値を上げることに固執している。評価の低い人間と関わることは、本人の評価を下げることにつながるため避けられてしまう。また、評価が一定以下に下がってしまった人間は各種サービスを利用する際も冷遇されたり、職場のコミュニティからも排除されてしまうといった不利益を被る。”(http://pinplot.hatenadiary.com/entry/2016/11/04/173329

中国で進む「信用の可視化」は、この「ランク社会」への入り口です。じきに、スマホを相手に向ければ、何者で、信用がどの程度かがすぐにわかるようにも。

SNSでの他人評価を気にして行動する・・・・と言う意味では、すでに日本でも一部始まっているとも言えますが、中国の「信用の可視化」はこうした社会を一気に現実のものとします。

便利と言えば便利なのでしょうが、ドラマ「ランク社会」を観ていて感じた、他人からの評価に束縛されることへの不快感・苛立ち・束縛感が現実のものになります。
もっとも、現在の日本社会は目に見えない“評価”が人々をコントロールする社会であり、中国の場合は、それを“可視化”しただけとも言えるかも。
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