
(三沢基地の航空祭で展示されたB1戦略爆撃機【9月24日 産経】)
【制裁は進むものの、核・ミサイル開発を即時に停止させる効果は?】
周知のように、アメリカは北朝鮮への圧力を強化しています。
****中国除外、圧力促す 米、北朝鮮8銀行に制裁****
米財務省は26日、北朝鮮の銀行8行と、中国などで北朝鮮の銀行の代理として金融取引をする北朝鮮人26人を制裁対象にしたと発表した。
一方で、当初検討していた中国の銀行への制裁指定は、北朝鮮の孤立化に向けた中国の協力を期待して見送った。ティラーソン国務長官が28日から訪中し、北朝鮮への圧力強化でさらなる協力を求める。(後略)【9月28日 朝日】
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アメリカが期待する中国も、実効性などでいろいろあるにせよ、それなりの対応も示しています。
****中国、北朝鮮の合弁企業閉鎖へ=国連制裁履行進む****
中国商務省は28日、北朝鮮の6回目の核実験を受けた国連安保理制裁に従い、決議の採択日(中国時間12日)から120日以内に、北朝鮮の個人・団体が中国に設立した合弁企業(JV)や全額出資企業の閉鎖を命じる通知を出した。中国企業が北朝鮮の個人・団体と共に中国以外で設立したJVも閉鎖対象とした。
中国は北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けた別の制裁決議に伴い、8月から北朝鮮との新たなJV設立を禁止している。
北朝鮮の最大の貿易相手である中国は、米国をはじめ国際社会から影響力を行使するよう再三求められてきた。
一方、中国では国民の間にも核実験による放射能などを懸念する声が上がり、王毅外相は国連演説で「地球上に新たな核保有国ができてはならない」と強調。制裁決議に協力姿勢を示し、履行を進めている。
既に北朝鮮の最大の外貨獲得源だった石炭をはじめ、繊維製品や海産物などの輸入停止や、中国からの石油精製品の輸出制限も打ち出した。【9月28日 時事】
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北朝鮮に対する経済制裁は、主な輸出品目を網羅する形で、一定の段階に達しています。
****北朝鮮に国連経済制裁は効いているのか? なお続く核・ミサイル開発****
2017年8月5日に採択された国連安保理決議第2371号では、北朝鮮に対する追加的経済制裁措置として、加盟国が北朝鮮から石炭や鉄および鉄鉱石、鉛および鉛鉱石、海産物(魚、甲殻類、軟体動物およびその他のすべての形態の水生無脊椎動物を含む)を輸入することを禁止するとともに、追加的な北朝鮮労働者の雇用、北朝鮮との新規の合弁企業もしくは共同事業体(JV)の開設または既存の合弁企業の拡大を禁止した。
さらに、9月3日の核実験を受けて11日に採択された国連安保理決議第2375号では、加盟国の石油製品の対北朝鮮輸出を年間200万バレル(約27万トン)に制限、原油の年間の対北朝鮮輸出を過去12カ月の実績(約30.4万トン)を上限に設定するとともに、北朝鮮からの衣類と繊維製品も全面禁輸となった。
対中禁輸で大打撃か
今回の制裁措置は、核実験と日本列島の上空を超える弾道ミサイルの発射という「大きな違反行為」に国際社会が一致団結して対応するためのものであった。
とはいえ、米韓合同軍事演習は何があってもやめない方針の米国と、核実験やミサイル発射の停止とバーターで、北朝鮮の嫌がる米韓合同軍事演習の停止を検討すべきと共同提案する中ロの間には大きな隔たりがあり、それが制裁決議の内容にも反映された(米国が主張する金正恩朝鮮労働党委員長の渡航禁止や資産凍結の追加や、原油・石油製品の全面禁輸は見送られた)。
安保理の2回にわたる決議による制裁は、主に北朝鮮の中国に対する輸出(16年の北朝鮮の輸出の88%は対中輸出)の上位品目を狙い撃ちにしている。
この制裁の狙いは一義的に、北朝鮮の外貨獲得源を絶つことによって核、ミサイル開発の資金調達を困難にすることだ。同時に、経済開発と核武力開発が両立しないこと、すなわち13年3月に北朝鮮が打ち出した「並進路線」は実行不可能であることを、金委員長をはじめとする北朝鮮の指導部に分からせることも目的であると考えてよいだろう。(中略)
輸入品目は、最近は電気・電子、機械類、自動車、繊維類(完成品と原材料)が多い。これらの品目は北朝鮮の各種産業の近代化や生産の増加、衣類の委託加工生産の原料、国民の生活に関連した輸入であると考えてよい。
従って、産業の近代化への投資は一時停止するだろうし、民間の需要も外貨収入の減少に伴い、徐々に鈍化していくであろう。(中略)
制裁の効果が出るまでには一定の期間が必要で、あと半年から1年くらいは様子を見る必要があるだろう。
核・ミサイル開発かえって加速か
では、政治的な影響はどうか。北朝鮮は8月の決議後、同月7日に政府声明を発表し(朝鮮中央通信17年8月7日発)、「徹頭徹尾、米国の極悪無道な孤立圧殺策動の産物」であるとし、自国に対する「全面的な挑戦」であるとしてこれを拒否している。
また「米国の反共和国策動と核による威嚇が続く限り、誰が何を言おうとも自衛的核抑止力を対話のテーブルに上げることはなく、既に選択した国家核武力強化の道から一寸とも離れることは無いであろう」としている。
9月の決議後、同月13日に外務省報道を出し(朝鮮中央通信17年9月13日発)、同様に同決議を「排撃」している。
これらの反応を見ると、北朝鮮は制裁を自国に対する敵対行動であると理解し、これらに対応して核抑止力をさらに強化する必要があると判断している。
制裁の効果が出る前に核、ミサイル開発を完成させ、米国を屈服させる。北朝鮮はそういう「賭け」に出たと言ってもいい。従って、北朝鮮の核、ミサイル開発を停止させるという目標から見れば、逆に開発を急がせる結果となり、逆効果となった。【9月29日 三村光弘氏(環日本海経済研究所主任研究員) Newsweek】
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国際的な制裁は民生にはかなりの打撃となるにしても、核・ミサイル開発を止める効果があるかは疑問もあります。少なくとも、現時点で直ちに・・・という意味では。金政権に対してローブローのように効いてはくるでしょうが。
****北朝鮮が弾道ミサイル燃料を独自に製造か 米紙報道****
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズ紙は、北朝鮮が国内にある工場で長距離弾道ミサイル用の燃料を独自に製造している可能性があり、ミサイル開発を断念させるため各国に対して燃料の禁輸などを科した制裁が無意味になるとする専門家の見方を伝えました。(中略)
ニューヨーク・タイムズは、北朝鮮がこれまで(長距離弾道ミサイル用の燃料)UDMHを中国やロシアから調達してきたと見られることから、国連が各国に禁輸措置などを科してきたものの、独自に製造しているのが事実ならこうした制裁は無意味になるという専門家の見方を紹介しています。(中略)
トランプ政権の高官は、(中略)「仮に北朝鮮が自国で生産するとしても、多額の費用がかかる。制裁で北朝鮮を経済的に厳しい立場に追い込むことは長期的に効果がある」と述べ、自主生産を断念させるためにも、北朝鮮に対する制裁の強化が重要だという考えを示しました。【9月29日 NHK】
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【非難の応酬で高まる緊張 軍事衝突の可能性も増す】
トランプ大統領は相変わらずです。
****トランプ氏、北の米学生「拷問」を非難 中韓の自粛要請無視****
ドナルド・トランプ米大統領は26日、北朝鮮旅行中に拘束され、釈放後に米国で死亡した米国人学生オットー・ワームビア(Otto Warmbier)氏(当時22)に「信じられないほどの拷問」を行ったとして、北朝鮮を非難した。
北朝鮮に対する挑発的な発言を抑えるようにとの韓国・中国からの要請を無視した形だ。
トランプ氏が北朝鮮によるワームビア氏虐待を公に非難したのは初めてで、両国間の緊張激化につながる可能性が高い。(後略)【9月27日 AFP】
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これに対し、北朝鮮も応戦。
****北朝鮮、「老いぼれの精神異常者」トランプ氏が学生の死を利用と非難****
北朝鮮を旅行中に拘束され、釈放から数日後に死亡した米国人学生オットー・ワームビア氏(当時22)について、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮による拷問があったとコメントしたことを受け、北朝鮮側は28日、トランプ大統領を「老いぼれの精神異常者」と呼び、ワームビア氏の死を利用していると非難した。(後略)【9月28日 AFP】
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状況が悪化するなかで、戦争・軍事衝突の現実味も増していることが指摘されています。
****米朝の衝突に現実味 あらゆるシナリオ想定を 英シンクタンク****
イギリスのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所は朝鮮半島の情勢について、「アメリカと北朝鮮の衝突が現実味をおびてきている」として、各国はあらゆるシナリオを想定して対応を検討すべきだと呼びかけました。
イギリスの王立防衛安全保障研究所は、28日、ロンドンで記者会見し、朝鮮半島の情勢を分析した報告書を発表しました。
それによりますと、北朝鮮が7月に行ったICBM=大陸間弾道ミサイル、「火星14型」の発射がきっかけとなって「ここ数か月で朝鮮半島におけるアメリカと北朝鮮の衝突は現実味をおびてきている」としています。
そして、衝突が起きるシナリオとして、北朝鮮がアメリカによる奇襲攻撃があると考えて攻撃に踏み切る、北朝鮮のミサイルがグアム島やアメリカ西海岸の沖合まで到達する事態となってアメリカが攻撃することなどをあげ、衝突による死者の数は数十万人に上るおそれがあると警告しています。
報告書は、アメリカのトランプ大統領が軍事力の行使を選択するとは今なお想像しにくいとする一方で、北朝鮮が核兵器で攻撃する力を持つ前に問題の解決に乗り出す可能性も排除できないとしています。(後略)【9月28日 NHK】
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【アメリカは北朝鮮に“暴発”してほしい・・・】
今後、アメリカ・国際社会が北朝鮮に圧力をかけ続けても、北朝鮮が核・ミサイルを放棄するというのは、現実問題としてはありえないようにも思えます。
それでも経済制裁や爆撃機飛行・軍事演習などで圧力をかけるアメリカ・トランプ政権の立場を素人考えで推測すれば、北朝鮮に“暴発”してほしい・・・という思いがあつのでは・・・とも。
時間が経過すれば、北朝鮮のアメリカ本土攻撃能力は確実に強化されます。軍事的に叩いてしまえば問題の根本解決になりますが、金王朝崩壊後を、叩くならアメリカ本土への攻撃能力がまだ不十分な今しかないでしょう。
ただ、北朝鮮の攻撃能力を一撃で潰すことはできないこと、その結果、本格的な軍事衝突になれば韓国・日本に多大な犠牲が出ることは周知のところです。
したがって、アメリカとしては、そうした同盟国の犠牲の責任を負わされる先制攻撃は極力避けたいところでしょう。中朝同盟により中国との衝突の危険も生じます。
しかし、北朝鮮が暴発してくれれば話は別です。結果的に日本・韓国に核爆弾が飛来したとしても、それは応戦したアメリカの責任ではなく、常軌を逸した北朝鮮・金正恩のせい・・・となります。
北朝鮮が先に動けば、同盟関係にある中国も“中立”をと持つとの見解ですから、中国との衝突もありません。
金王朝を軍事的に潰して、問題を解消できます。(その後の北朝鮮をどのように管理するか・・・という問題はありますが)
アメリカのとっては、最良の解決策でしょう。
逆に、北朝鮮からすれば、軍事衝突が政権崩壊に至ることは自明のことですから、何としても避けたい選択でしょう。
****トランプの挑発が、戦いたくない金正恩を先制攻撃に追い詰める****
<北朝鮮の金正恩は分別がなさそうに見えるが実際は理性的で、アメリカとの戦争を望んでいない。それより問題はトランプだ>
ドナルド・トランプ米大統領は先週、北朝鮮の金正恩国務委員長を「狂った男」と批判した。
さらに、金正恩はアメリカを憎むあまり自暴自棄になって自殺行為に突き進んでいると言った。
トランプに言わせれば、金正恩が核開発を断固続行したい理由はただ1つ、アメリカと同盟国を破滅させるためだ。トランプはそれを根拠に、金正恩に対する敵対的で過激な発言を正当化する。
だがもしそれがトランプの思い違いで、北朝鮮情勢を悪化させているだけだとしたら? トランプが「ロケットマン」と呼んだ金正恩は、本当にアメリカと戦争をしたいのだろうか。
北朝鮮問題の専門家は、トランプが思うほど話は単純ではない、という。
「金正恩はアメリカとの戦争を望んでいない。北朝鮮が先制攻撃を行えば極めて危険で、金正恩が何より恐れる政権崩壊につながることが分かっているからだ」と、米シンクタンク、ブルッキングス研究所のロバート・エインホーンは本誌に語った。
金正恩の好戦的な態度は「意識的な戦略」だと、エインホーンは言う。
「金正恩にしてみれば、核・ミサイル実験で抑止力を着実に向上させつつ言葉で威嚇を繰り返すのは、現体制を終わらせようとしているアメリカから自国を守るための現実的なやり方だ。」と、バラク・オバマ前米政権下で核不拡散のアドバイザーを務めたエインホーンは言う。
はったりは北朝鮮の十八番
「金正恩は一見、理不尽に見えるが、実は極めて合理的な人物だと思う」とエインホーンは言う。
だとすれば、金政権は戦争を望んでいるのではなく、政権存続のためなら戦争も厭わない、という意思表示を世界(とくにアメリカ)に向かってしているに過ぎない。(中略)
北朝鮮が既存の世界秩序を破壊し、周辺地域を不安定にしているのは事実だが、北朝鮮の威嚇行為は、世界と地域の不安定要因になっている面はあるとしても、論理的な筋道は立っていると、(米シンクタンク外交問題評議会で米韓関係が専門の)スナイダーは言う。
関係者が一様にショックを受けているのはむしろ、トランプの気質の問題だ。トランプの暴言が、最後は金正恩を戦争に追い込んでしまうかもしれないのだ。
「トランプが『ロケットマン』は自殺行為に突き進んでいると言うが、それはむしろ金正恩がいちばんやりたくないことだ」とスナイダーは言う。「トランプはまるで、金を罠にかけて攻撃させようとしているみたいだ」
スナイダーもエインホーンも、トランプが先週国連演説で北朝鮮を完全に破壊すると脅したことは、完全に無用な挑発だったと言う。
「北朝鮮を完全に破壊すると言うなど、前代未聞だ」とエインホーンは言う。「こういう大げさな脅し文句はむしろ、北朝鮮の得意技だ。イランがイスラエルを消滅させると脅す時もこんな言い方をする。アメリカの大統領の言葉ではない」
トランプの挑発で米朝の緊張関係が高まった結果、北朝鮮がアメリカの圧力に屈して態度を軟化させる可能性もなくはないと、スナイダーは言う。だがそれは最高のシナリオであり、ほとんど期待できない。
北朝鮮が核開発をあきらめる確率は、「今この会場で死んだエルビス・プレスリーと偶然会うのと同じくらいだ」と、NATO(北大西洋条約機構)で最高司令官を務めたジェームズ・スタブリディス海軍退役大将は今週、米ペンシルベニア大学で開催されたイベントで言った。
アメリカと北朝鮮の対立を解消するシンプルな解決策などない。だが金正恩は戦争を望んでおらず、逆にトランプの挑発が対北朝鮮関係を悪化させ、孤立した北朝鮮の猜疑心を駆り立てているという見方で、大方の専門家は一致する。
トランプは北朝鮮が先制攻撃するようけしかけているようにも見え、その日は刻一刻と近づいている。【9月29日 Newsweek】
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“トランプは北朝鮮が先制攻撃するようけしかけているようにも見え・・・”素人にも理解できる常識的な見方です。
ただ、そうしたアメリカ・トランプ大統領に歩調を合わせる日本政府が、(結果的に日本が前線となる)北朝鮮の先制攻撃を期待するような動きをどのように判断しているのかわかりません。“このまま北朝鮮が核・ミサイル能力を高め、日本を壊滅させられる力をつけるよりは、この際・・・・”と腹をくくっているのか。
なお、アメリカ軍事産業は、政府予算を議会が積み増しする形で、“北朝鮮特需”に沸いているとか。
****米上院 政府案を600億ドルも上回る国防権限法案を可決****
米国防産業が「北朝鮮特需」に沸いている。米上院は今月18日、2018会計年度(17年10月~18年9月)の国防予算の大枠を決める国防権限法案を89対9の圧倒的な賛成多数で可決。予算規模は総額約7000億ドル(約77兆円)で、政府案を約600億ドルも上回った。
北朝鮮が開発を急ぐ核・弾道ミサイルに備える予算などが上積みされた。主要軍事産業の株価も上伸を続け、「軍産複合体が北朝鮮情勢の『恩恵』を受けている」との声も出ている。(後略)【9月26日 毎日】
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しかし“北朝鮮暴発・軍事衝突”は北朝鮮にとっては自殺行為ですから、よほどのことがない限り選択しないでしょう。お互いに攻撃はできないとわかっていての非難応酬とも。
では、軍事的解決以外にどういう道があるのか・・・わかりません。私だけではないでしょうが。
あるとしたら、トランプ大統領が忌嫌っている、イラン核合意のような“核・ミサイル開発の一時凍結”といった曖昧な合意でしょう。