孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  戒厳令全国拡大への言及も 進むドゥテルテ大統領の「マルコス化」

2017-09-19 22:53:24 | 東南アジア

(フィリピンミンダナオ島マラウィで反政府勢力と戦う政府軍 2017年6月14日【9月18日 大塚智彦氏 Japan In-depth】 数百人~数十人相手にいまだ終わらない事件 続く戒厳令 “終わらない”のではなく、“終わらないようにしている”のか?)

批判的な人権員委員会を事実上の活動停止へ 「子どもが殺されたから?そんなことはどこでも起きている」】
死刑制度がないフィリピンでドゥテルテ大統領が進める超法規的大量殺人については、これまでも何度も取り上げてきたところです。(最近では、9月8日ブログ“フィリピン・ドゥテルテ大統領 中国への共感 「一度にすごい成果作戦」で無抵抗高校生射殺 抗議デモも”)

****混迷するフィリピン麻薬撲滅戦争 無抵抗の高校生射殺に過去最大のデモ**** 
(中略)
一日で32人を殺害
昨年6月にロドリゴ・ドゥテルテ氏がフィリピンの第16代大統領に就任して以来、最重要課題として取り組む麻薬撲滅戦争で多くの死者が出ている。

人権団体は12000人と数え、政権でさえ千人単位が死亡していることを認めている。死刑制度がないフィリピンでは、すべてが警察官か自警団、麻薬組織などによる殺人である。

警察は「取り締まりや逮捕を妨害し、抵抗した場合のみ射殺している」と弁明するが、額面通りに受け取る人はまずいない。そうした事例があるにしても、多くは口封じのための殺人とみられる。

警察は麻薬取引を摘発しても、わいろを受け取って容疑者を釈放したり、押収した覚せい剤を横流ししたりしてきた。麻薬撲滅を掲げる政権下でそうした悪事が発覚することを恐れて関係者を殺している例が多いのだ。子供や女性らが巻き添えで死亡した事件も報道されてきた。

欧米諸国や人権団体、外国メディアは「超法規的殺人」を強く非難してきたが、フィリピン国内では大きな扱いにはならなかった。

支持率8割を誇るドゥテルテ氏の人気に加え、麻薬汚染の深刻さを身近に知る国民が、この間の一定の治安改善を感じてきたことが批判をかき消してきた。(後略)【8月30日 柴田直治氏 Huffington Post】
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これだけ“殺しまくり”ながらも、市中での覚せい剤末端価格は上昇しておらず、依然同様に出回っていることが推察されます。

“大統領による容赦のないやり方を批判する人々は、犠牲者の大半は小物の麻薬常用者や密売人であり、大きなうまみのある麻薬ビジネスの背後にいる黒幕はほとんど知られておらず、逮捕されてもいないと指摘する ”【6月28日 ロイター 「フィリピン麻薬戦争1年、死者数千人でも見えない勝利」】

“犠牲者の大半は小物の麻薬常用者や密売人”・・・それと、これまで腐敗警察官と一緒に仕事をしてきた連中の警察による“口封じ”です。

“「この国の首長は『殺せ、殺せ』と言っている。さらに『私は君たちの味方だ』とも言っている」とフィリピン人権委員会のガスコン委員長。「それが波及効果を生んでいる」 ”【同上】

ドゥテルテ大統領の怒りの矛先は、その人権委員会・ガスコン代表へ向けられています。

大統領の麻薬犯罪捜査手法に批判的な国内の人権委員会の予算が僅か千ペソ(約2160円)に減額されるとか。
事実上の活動停止命令です。

****比の人権委予算、「2160円」下院通過 政権批判への圧力か****
フィリピン人権委員会の来年度の予算を、わずか千ペソ(約2160円)とする予算案が議会下院を通過した。ドゥテルテ政権の麻薬犯罪捜査手法に警鐘を鳴らしてきた委員会を沈黙させる狙いがあるとみられ、批判の声が上がっている。
 
地元紙によると、人権委員会の6億7800万ペソ(約14億6千万円)の予算要求に対し、マルコレタ下院議員が「委員会は、(メディアから批判を受ける)ドゥテルテ大統領の人権は守ろうとしない」などとして予算削減を提案。12日に119対32の賛成多数で下院を通過した。
 
国連特別報告者のカラマード氏は12日、「甚大な人権侵害がある今こそ十分な予算が必要だ」との声明を出した。【9月15日 朝日】
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麻薬犯罪捜査に関する問題は一旦脇に置くとしても、政府批判を許さないこうした政治を、世間では“独裁”と呼んでいます。中国・ロシア・北朝鮮などにも共通する政治姿勢です。

これでも“腹の虫がおさまらない”ドゥテルテ大統領は、十代の若者が犠牲となる事件を懸念する人権委員会代表を「お前は同性愛者か幼児性愛者なのか?」と罵っています。

こうしたネット受けするような下品なものの言い様は、アメリカ・トランプ大統領によく似ています。

****比大統領、麻薬戦争に懸念示す人権機関代表を「幼児性愛者」と罵倒****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が推し進めている「麻薬撲滅戦争」で、十代の若者が相次いで警察により殺害されたことに懸念を表明した同国の人権機関の代表を、ドゥテルテ氏が「幼児性愛者」よばわりして罵倒した。
 
フィリピンでは麻薬の運び屋と疑われた17歳の少年が警官に射殺されるなど、十代の若者が犠牲となる事件が続いており、ドゥテルテ氏の容赦ない姿勢にカトリック教会や左派の活動家らが抗議の声を上げている。
 
一方のドゥテルテ氏は16日夜に行った演説で、警察の捜査に懸念を示していたフィリピン人権委員会のホセ・ルイーズ・ガスコン代表を非難し、「あのガスコンはいつまで『十代の若者が、十代の若者が』と言い続けるのだ?幼児性愛者のようだな、あの野郎」と罵倒した。
 
また、「なぜそれほど十代の若者に興味がある?ずっと疑問に思っている。お前は同性愛者か幼児性愛者なのか?」とまくし立てた。
 
ドゥテルテ氏はさらに、子どもが殺されていることは珍しいことではないと主張した上、人権団体のトップといった大統領に批判的な人々が政治的な反対運動に若者の死を利用していると非難。
 
ドゥテルテ氏は同国南部でのイスラム過激派による騒乱を引き合いに出しながら、「若者、若者ってばかか。全部政治的な話だ。どうしてこの国を悩ます他の問題に目を向けることができない?」と述べ、「子どもが殺されたから?そんなことはどこでも起きている」と吐き捨てた。【9月19日 AFP】
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終わらないミンダナオ島の騒乱 戒厳令維持のため? 全国拡大の可能性も
うるさい政権批判を黙らせるには、戒厳令を敷いてしまえば簡単・効果的です。
実際、ドゥテルテ大統領は「NPA(共産党軍事部門)がルソン島などの都市部でこれ以上騒乱を起こすような事態になれば、戒厳令の全土への拡大もありうる」と、その可能性に言及しています。

現在は、戒厳令はイスラム武装勢力が騒動を起こしているミンダナオ島に限定されています。

それにしても、ミンダナオ島の騒動はまだ完全収束していないようです。

住民を人間の盾にしている云々はあるにしても、人数的に限定されている武装勢力(当初でも数百人規模、現在では数十人規模)に相手に、あのフィリピン国軍がなぜこんなに時間を要しているのか疑問でもありましたが、政権にとって都合のいい戒厳令を持続させるために、敢えて解決を遅らせている・・・との見方もあるとか。それなら納得・・・・です。

****戒厳令全土へ?ドゥテルテ比大統領の野望****
フィリピンのドゥテルテ大統領が、南部ミンダナオ島周辺に限定して年末の12月31日まで布告している戒厳令について、フィリピン全土に拡大することを検討していることが明らかになった。

国防長官は「(全土への拡大の)可能性は低い」と否定的な見方を示しているものの、マルコス元大統領時代の戒厳令下での過剰な人権侵害事案を知る世代を中心に警戒感が高まっている。

折しもマルコス元大統領が戒厳令を布告した45年前の9月21日に合わせてマニラ市内では大規模な「反独裁・反専制政治」の集会が予定されており、ドゥテルテ大統領は混乱を回避するため21日を休日とすることを検討するなど、緊張感が高まっている。

ドゥテルテ大統領は9月9日、最近各地で国軍や警察と衝突、交戦が頻発しているフィリピン共産党の軍事部門「新人民軍(NPA)」の動きに関連して「NPAがルソン島などの都市部でこれ以上騒乱を起こすような事態になれば、戒厳令の全土への拡大もありうる」と警告した。
 
これを受けて15日にロレンサナ国防長官は「共産勢力の脅威が高まった場合には」との前提条件付きで「戒厳令の全国拡大を大統領が検討している」ことを事実として認めた。

しかしその一方でNPAの現在の勢力は全国規模で騒乱を起こすほどの力も国民の支持もないとの見方を示して「戒厳令の拡大の可能性はわずかだろう」として戒厳令拡大に強い反対を示す野党勢力や人権団体などの懸念を払拭した。

■戒厳令を巡る政治的駆け引き 
ドゥテルテ大統領は南部ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市でイスラム系武装組織などが武装ほう起、国軍と戦闘状態になったことを受けて5月23日にミンダナオ島周辺に限定した戒厳令を布告した。

その後、中東のイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」のメンバーなどが加勢し、一般市民を「人間の盾」にしていることなどから鎮圧作戦に予想以上に手間取り、7月22日に年末までの戒厳令延長を決めている。  

フィリピンではマルコス時代の戒厳令により反体制の学生や運動家が(戒厳令で特権をもった)治安部隊の過剰な対応で殺害、拷問、強制連行、行方不明という人権侵害が深刻化した。こうした経緯から「戒厳令」への警戒感が国民の間に根強いという特別な事情と背景がある。
 
マラウィ市での戦闘で当初数百人規模といわれた武装勢力側は、国軍の作戦で現在数十人までに減少したとされているが、いまだに完全には鎮圧されていない。

これは事態の全面的解決による「戒厳令解除」を回避し、その間にミンダナオ島の他の地域で活動する反政府組織や武装勢力の一掃をドゥテルテ大統領が狙っている、という政治的理由が指摘されている。
 
そこへ来て最近NPAが各地で国軍や警察と交戦する事態が増えていることを踏まえて「NPA、共産勢力との全面対決に戒厳令を利用しようと画策している」のがドゥテルテ大統領の思惑ではないかとの見方も出ている。
 
ミンダナオ島での戒厳令はマラウィ市での戦闘、というそれなりの「根拠」がある。もっともそれすら下院会員の中から「ミンダナオでの戒厳令は憲法の定める侵略もしくは反乱という要件を満たしていない」と最高裁に差し止め訴訟を起こされたほど抵抗は強い。
 
それが共産勢力との交戦が各地で相次いでいるといっても、それが「侵略や反乱」に該当するかというとそのレベルではなく、戒厳令の全土拡大となればさらなる反発や抵抗が予想される。

そのためにとりあえず観測気球を挙げて反応を見て、そのうえでロレンサナ国防相による「火消し発言」となったことは十分予想される。

■ 反独裁・専制運動をドゥテルテ警戒 
9月21日にマニラ市リサール公園で予定される大規模集会は元上院議員や大学学長などが8月28日に設立した「反専制政治運動」が呼びかけているもので、マルコス元大統領が1972年9月21日に戒厳令の大統領令に署名したことにちなんでいる。
 
しかしMATではドゥテルテ大統領が「戒厳令の全国拡大で治安を乱す全ての人たちの逮捕を命じることになんら躊躇しない」という発言などを根拠にして、麻薬関連犯罪容疑者らに対する超法規的殺人という強硬手段と並んで専制色、独裁色を強めようとしているとして、ドゥテルテ大統領の政治姿勢を問う集会を計画している。
 
ドゥテルテ大統領は「マニラ市民の混乱回避と安全確保のため」として21日に政府関連施設や学校を休みとすることを検討しており、21日には警備にあたる警察側との緊張した場面も予想される事態となっている。
 
ドゥテルテ大統領は大統領就任直後からイスラム系反政府組織、共産勢力との和解路線を提唱してきた。しかしフィリピン共産党とは停戦で合意したものの、政治犯の釈放などの条件交渉が難航し、停戦合意は崩れ、今年6月以降だけでもダバオやパンガシナ州、ミンダナオ地方など各地で交戦が続く事態となっている。
 
こうした事態打開のため、ドゥテルテ大統領の胸中には「戒厳令の全土拡大で共産勢力の一掃」という思いが生まれているのは間違いないとみられており、世論の動向をみながらそのタイミングを見計らっている可能性が強い。
 
歴代政権が踏み切れなかったマルコス元大統領の遺体のマニラ英雄墓地への埋葬を実現させ、マルコス元大統領の生誕100年にあたる9月11日を出身地北イロコス州限定の休日とすることを許可したのもドゥテルテ大統領である。

こうしたドゥテルテ大統領とマルコス元大統領やその一族との関係をフィリピンの一部マスコミ関係者は「憧れの指導者とされるマルコスへの道を歩み始めた」と指摘、独裁者マルコスの「再来」への警戒感も強まっている。【9月18日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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ドゥテル大統領の「マルコス化」】
マルコス元大統領の遺体のマニラ英雄墓地への埋葬断行でも明らかにされた、ドゥテルテ大統領のマルコス元大統領への敬愛は、以前から指摘されていたところです。

****マルコス目指すドゥテルテ氏?フィリピン大統領の反米発言の裏を読み解く****
・・・・ドゥテルテ氏の国内のマルコス勢力との関係の深さは大統領選挙前から盛んに指摘されていましたが、副大統領選挙で惜敗したマルコス大統領の息子、フェルディナンド・マルコスを、選挙後一年は落選候補を重要閣僚に起用できないという規定があるので来年になりますが、いずれ有力閣僚に起用するという憶測も流れています」(中略)

ドゥテルテ大統領の本拠は南部のダバオではあるが、そもそもの生まれはレイテ島で、レイテ島はイメルダ夫人一族の影響力が強い地域である。そして、ドゥテルテ大統領の父親はマルコス時代の閣僚でもあった。(中略)

歴代のフィリピン大統領は、ピープルパワーによる1986年のエドサ革命以来、アキノ一族に代表される洗練された親米エリートの主導で行われてきた。今年5月の大統領選でドゥテルテ大統領が戦ったのはロハス氏やポー氏らいずれもマニラのエリートである。

地方出身で家父長的な「鉄拳」を売り物に彼らを打ち倒したドゥテルテ大統領にとって、統治のモデルにできるのは、同じ地方出身で「強い男」を売り物に一世を風靡したマルコス元大統領なのであろう。

今後、ドゥテル大統領の「マルコス化」がどこまで進むかは注目に値しそうだ。【2016年10月15日 野嶋 剛氏 WEDGE Infinity】
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上記記事は約1年前のものですが、1年経過した今、ドゥテル大統領の「マルコス化」が現実のものになりつつあります。
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