(バングラデシュ・テクナフで、ボートの転覆事故で死亡したロヒンギャ難民の子どもの遺体を運ぶボランティアの男性(2017年10月9日撮影)【10月10日 AFP】)
【「彼らは私たちには危害を加えないと言ったが、結局は私たちを追い出して家々を燃やした」】
10月1日ブログ“ロヒンギャ問題 脅威を煽り対立構造をつくるミャンマー政府 政府を擁護する中国・日本”など、再三取り上げているミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する“民族浄化”と思われる弾圧について。
10月に入って、ミャンマーから隣国バングラデシュへのロヒンギャ難民が再び増加しているとの懸念されるニュースが。また、ミャンマー国軍によるロヒンギャ追放が再び強化されているとも。
****バングラとの国境付近に1万人のロヒンギャ、脱出が再び増加傾向****
ミャンマーの西部ラカイン州で、隣国バングラデシュとの国境地帯にイスラム系少数民族ロヒンギャ1万人以上が集まっていることが分かった。地元メディアが報じた。襲撃の恐怖や食料不足ゆえにバングラデシュへ脱出しようとしているとみられる。
3日付の英字紙「ミャンマーの新しい灯」は、「隣国へと越境するため」に、国境地帯に1万人を超える「イスラム教徒」が集まっていると報じた。
ロヒンギャのバングラデシュへの脱出は一時収束したものの、バングラデシュ国境警備隊によると現在は1日4000~5000人が国境を越えているという。
ここ5週間でバングラデシュに流入したロヒンギャは50万人超に上り、再びその数が増加する傾向にある。ミャンマー側はロヒンギャの帰還を始めると提案したが、実現性には疑問の声が上がっている。【10月4日 AFP】
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****ミャンマー軍に新たなロヒンギャ追放の動きか、「追い出され家焼かれた」****
ミャンマーから隣国バングラデシュへ脱出するイスラム系少数民族ロヒンギャの難民数が再び増加に転じる中、新たに逃げてきた人々が、ミャンマーの治安部隊によって村を追われたと話している。
証言によると、ミャンマー軍は村に残ったロヒンギャの人々を家から追い出す取り組みに力を入れており、村々は人っ子一人いない状態で、数千人の難民が徒歩で国境を目指しているという。(中略)
ロヒンギャの人々によれば、ここにきて難民が急増しているのは、ミャンマー西部ラカイン州で、残留していたロヒンギャを追放する新たな動きがあるだめだという。ミャンマーは今週、迫害されたロヒンギャを帰還させる取り組みを開始すると発表したが、提案の実行性に疑問が生じている。
この数週間でラカイン州からはロヒンギャ人口の半数が脱出した。さらに、これまで暴力による最悪の事態を免れてきた人々にも、不安に駆られて村を離れようとする動きが広がっている。
娘を連れて2日夜にバングラデシュに到着したロヒンギャの女性(30)は、ミャンマーの地元当局者からは村を出なければ安全だと保証されていたが、9月29日に「軍がやって来て、家々を1軒ずつ回って退去を命じた」とAFPの取材に語った。
この女性によると、軍はラカイン州マウンドー周辺を一掃。「彼らは私たちには危害を加えないと言ったが、結局は私たちを追い出して家々を燃やした」という。
ミャンマー国営メディアは、ロヒンギャ難民は安全を保証されたにもかかわらず「自発的に」脱出していると報じている。
だが、今月1日にバングラデシュに到着したロヒンギャ男性も、ミャンマー軍から村を退去するよう命じられたとAFPに語った。「私たちが村を出ると、周辺の村々からも人々が集まってきた。彼ら(ミャンマー軍)は誰一人殺さず、ただ家々を焼き払った」。
バングラデシュとミャンマーの国境を隔てるナフ川に近づくにつれ、歩いて避難するロヒンギャ市民の人数は増え、長蛇の列をなしていたという。【10月5日 AFP】
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国軍による“新たな弾圧”が行われているのかどうか・・・現地の実態はわかりませんが、百歩譲って直接関与がなかったとしても、暴力の恐怖におびえたり、共同体崩壊で生活できなくなった人々が故郷を去ることが“「自発的に」脱出している”と言えるのか?という問題もあります。なにやら慰安婦問題の話のようでもありますが。
難民の帰還については、ミャンマー・バングラデシュ両政府による一応の合意がなされてはいます。
****ロヒンギャ帰還へ作業部会=ミャンマーとバングラが合意****
ミャンマー政府は3日、チョー・ティン・スエ国家顧問府相がバングラデシュのアリ外相とダッカで2日に会談し、同国に避難したイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還問題を話し合ったと発表した。
AFP通信によると、アリ外相は会談後、難民の帰還に向けた作業部会の設置で両国が合意したことを明らかにした。
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は9月、難民の帰還を進めるため、「身元確認手続きを開始する用意がある」と表明。ミャンマー側は会談でこの方針を改めて示した。アリ外相は、身元確認は作業部会が行うと述べた。
ロヒンギャの武装集団とミャンマー治安部隊の衝突が8月25日に始まってから、バングラデシュに逃れた難民は50万人以上に達している。【10月3日 時事】
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しかしながら、もともと国籍も付与されておらず、着の身着のままで逃げた人々も多い状況で、“身元確認手続き”がどうやって行われるのか?、また、“身元確認手続き”の結果、正式に“外国人”として登録されるようなことにならないのか?等々、今後の扱いには疑問もあります。
前出記事では難民は“1日4000~5000人”レベルに増加している・・・とのことですが、ミャンマー国軍の追放作戦の成果か、状況は更に悪化しているようです。
****ロヒンギャ難民が再び急増、1日で数万人バングラ入りか****
ミャンマーでの暴力を逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャが難民化している問題で、最大で数万人のロヒンギャが9日、バングラデシュに到着した。地元当局が明らかにした。新たに到着した難民の中には、飢えや疲労、発熱が原因で死亡する子供がいたとの情報もある。
国際移住機関(IOM)によると、ミャンマー西部ラカイン州から国境を越えてバングラデシュに入国するロヒンギャ難民の数は、最近になって1日あたり2000人程度まで減少していた。国連(UN)は、過去6週間に発生したロヒンギャ難民数を51万9000人と推計している。
だが複数の目撃者によると9日、ミャンマーとバングラデシュを隔てるナフ川の沿岸にある国境の村アンジュマンパラに、川幅が狭くなっている部分をボートで渡ってきた難民の新たな波が押し寄せた。
アンジュマンパラの地元議員は、9日に入国したロヒンギャ難民は数万人に上ると主張。現場のAFP特派員は、日中から夜間にかけて少なくとも1万人の難民が新たに到着するのを目撃した。
バングラデシュ国境警備隊(BGB)のマンスルル・ハサン・カーン少佐はAFPの取材に対し、日中に到着したロヒンギャ難民の推定数は6000人程度で「少なくとも過去2週間で最多だ」と語った。
同少佐によると、難民の中にいた2歳半と3歳の男の子2人が、バングラデシュに入国する際に飢えと疲労により死亡。また現場のAFP写真記者によると、4歳の男の子が発熱で死亡した。【10月10日 AFP】
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難民の増加に伴って、痛ましい事故も。
****ロヒンギャ難民のボート転覆、新たに子どもら9人の遺体 死者23人に****
ミャンマーでの暴力行為を逃れて隣国バングラデシュに渡ろうとしていたイスラム系少数民族ロヒンギャを乗せたボートが転覆した事件で、バングラデシュ警察は10日、同国側に流れついた9人の遺体が新たに見つかったと発表した。これにより、転覆事故による犠牲者は23人となった。(中略)
行方不明者の数は不明だが、生存者や当局者などの話から転覆した船には60~100人が乗っていたとみられる。これまでに15人がバングラデシュの沿岸警備隊や国境警備隊に救出され、当局者によれば泳いでミャンマー側にたどり着いた人もいると考えられるという。
バングラデシュを目指すロヒンギャの多くは、ナフ川の川幅が最も狭い場所を横断するが、古く粗末なトロール漁船でベンガル湾(Bay of Bengal)を渡ろうとする人たちも少なくない。【10月10日 AFP】
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【ロヒンギャを嫌悪する国内世論 国軍への影響力もないスー・チー氏】
このような事態を止められないスー・チー国家顧問については、国軍を統制する力がなく、仏教徒が多数を占める国民世論もロヒンギャに対する強い嫌悪感を示していることから、政治的に身動きがとれない状況にあるとの指摘は再三なされています。
ロヒンギャを嫌悪する世論の一端として話題になったのが、ロヒンギャを批判したミス・ユニバースのミャンマー代表の代表剥奪の件です。
****ミス・ミャンマー代表 ロヒンギャ批判後に代表剥奪****
・・・・ことしのミス・ユニバース、ミャンマー代表のシュイ・エアイン・シーさんは先月29日、自身のフェイスブックにロヒンギャを批判する動画を投稿しました。
この中で、シーさんは「ロヒンギャの武装集団がメディアを使ったキャンペーンを主導してロヒンギャが迫害されていると思い込ませ、世界をだましている」と非難しました。
その後、今月1日になってシーさんは「規則違反があった」として突然ミス・ユニバース、ミャンマー代表の座を剥奪されました。
これについてミス・ユニバースの主催者は「動画投稿との関連はない」としていますが、SNS上ではシーさんの行動を擁護したり、ミス・ユニバースの主催者を非難したりする投稿が多くを占め、ミャンマー国内のロヒンギャに対する見解の複雑さが浮き彫りとなりました。
ミャンマー西部ではロヒンギャの武装勢力と政府の治安部隊の間で戦闘が続き、50万人を超えると見られるロヒンギャの住民が隣国バングラデシュに避難していて、国際社会からの「迫害だ」という非難に対し、現地当局は合法的な取締りだと反論しています。【10月5日 NHK】
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“ミャンマー国内のロヒンギャに対する見解の複雑さ”と婉曲な表現になっていますが、要するにロヒンギャに対する強烈な嫌悪・拒否感です。
【スー・チー氏自身は? 「彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」 強調するイスラム教徒の脅威】
こうした国民世論にあって、国軍に対する影響力をもたないスー・チー国家顧問は積極的な対応ができない・・・という話はわかりますが、スー・チー氏自身はロヒンギャについてどのように認識しているのでしょうか?
下記記事から窺えるところでは、スー・チー氏自身もロヒンギャにはあまり共感・同情を持っておらず、この件で国際社会から責められるミャンマー政府・自身に関して被害者意識を示しているように見えます。
なお、長い記事なので、スー・チー氏の“ロヒンギャに対する意識”に関係する部分のみをピックアップしました。
****スー・チー氏はなぜ沈黙を守っているのか****
軍のロヒンギャ攻撃を批判すれば完全民主化の目標が危うくなる
ノーベル平和賞受賞者の民主化活動家であり、ミャンマーの文民指導者でもあるアウン・サン・スー・チー氏は昨年、ある上級外交官と会談した。このときスー・チー氏は、何世紀も少数派だったイスラム教徒が多数派となったインドネシアの例を戒めとして語った。
この会談に詳しい人物によると、スー・チー氏はミャンマーに同様の状況は望まないと述べた。イスラム教徒はミャンマー人口の4%を占めるに過ぎないが、一部の地域では既に多数を占めているとも語った。(中略)
スー・チー氏の側近によると、同氏が沈黙を守っているのは戦術として決めたことだという。もっと強い調子で話せば、かつてミャンマーを統治し、今も大きな権力を握る軍を敵に回して、完全な民主化の達成という目標が危うくなるかもしれない。スー・チー氏はそう心配しているのだ。
民族と宗教のバランス
しかしスー・チー氏は、仏教徒が大半を占めるこの国に昔から残る不満や懸念に共感するが故に、沈黙している面もあるようだ。
少数派であるイスラム教徒が増加すれば、何とか成立している民族と宗教のバランスが崩れるかもしれないという明確な不安がミャンマーには存在する。多くの国民にしてみれば、ロヒンギャは、イスラム教圏を東に広げようとしているバングラデシュからの侵入者だ。
2013年、ミャンマーを訪問したある外交官がスー・チー氏と会談した。会談について知るある人物によると、外交官がロヒンギャ問題を取り上げると、スー・チー氏は「ロヒンギャと呼ばないで欲しい。彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」と注意した。
ミャンマーでは「ベンガル人」という言葉は、バングラデシュ出身の不法移民を説明するときに使われることが多い。スー・チー氏は、ラカイン州の仏教徒にとってイスラム教徒がどれほどの脅威か、国際社会は過小評価していると不満げに語ったという。(中略)
スー・チー氏は先月、国連総会への出席を断念した。出席すれば、ロヒンギャ難民についてあれこれ聞かれるはずだった。事情に詳しいある人物によると、スー・チー氏が国連の場で行き過ぎた発言をすれば、軍は同氏の帰国を認めないかもしれないという懸念があった。スー・チー氏は兵士がロヒンギャの集落を焼き討ちにしたことへの批判を避け続けている。(中略)
新たな国家主義的な国家観
国内の多くの少数民族と和平協定を結ぶというスー・チー氏の計画は今のところ頓挫している。国内の紛争で住む場所を失った人の数は、スー・チー氏が政権入りしたときより今のほうが多い。
同氏は反政府勢力との信頼構築に向けて懸命に努力しているが、反政府勢力の多くは実権を握っているのは国軍だとみている。
今年、ミャンマー北部の戦闘で家を失った数千人のカチン族が暮らすキャンプを訪れたスー・チー氏は、状況を改善するためにどんな経済的チャンスでもつかめるチャンスは逃さないでとアドバイスして多くの人を失望させた。自分が滞在しているホテルで労働者を探しているとも言った。
聴衆の一人が政府を親に、武装民族集団を子どもに例えると、スー・チー氏はこれに飛びついた。このやり取りを知る人物によると、同氏は避難民に対し、武装集団に「親の言うことを聞きなさい」と言うように求めたという。
スー・チー氏の報道官は政府の和平計画は前進していると述べた。報道官によると、軍の支援を受けた前政権は武装集団の多くと停戦合意を結んだが、スー・チー氏は紛争の政治的解決について議論を開始し、さらに一歩前進した。
ミャンマー経済については、多くの人がベトナムのように急成長すると考えていたが、変化は遅く、一部の投資家は関心を失った。新規投資はスー・チー氏の政権入り前に急増したが、国連のデータによると、2016年の新規投資額は前年比22%減の22億ドル(約2500億円)だった。
スー・チー氏率いる政府が悪戦苦闘する中、新たな国家主義的な国家観が広がっている。その背後にいるのは主に軍と、有力な僧侶を含む軍の支持者だ。
スー・チー氏は2015年の総選挙で自党からイスラム系の候補者を立てなかったことについて、権利団体からの非難を受け止めていたが、ロヒンギャの反政府集団による攻撃については、国際社会の反応は生ぬるいと腹を立てた。
関係者によると、国連がミャンマー軍に自制を求める声明を発表すると、スー・チー氏はネピドーである国連関係者に詰め寄った。
この関係者によると、「彼女は『なぜ攻撃をもっと強く非難しないのか。これは国家に対する反逆だ』と言った」。
ある外交官によると、スー・チー氏はロヒンギャに市民権を与えることにも消極的な姿勢を示した。市民権を与えればバングラデシュからさらに多くのイスラム教徒を招くだけだと話したという。
かつての仲間の一部――その多くは1980年代の民主化運動時代からの仲間だ――は、スー・チー氏は軍と権力を分け合うことに合意したことで、軟禁当時と同じくらい身動きが取れなくなっているのではないかと考えている。
元政治犯で現在はヤンゴンにあるシンクタンクの所長を務めるキン・ゾウ・ウィン氏はスー・チー氏の軍に対する態度を見ていると、ミャンマーが近い将来、完全な民主主義国家になるとは思えないと話す。
「彼女は自分を軍に縛りつけている。両者とも、手を握らなければならないことが分かっているからだ」 とキン・ゾウ・ウィン氏は言う。「昔のものも含めてスー・チー氏の発言を聞くかぎり、彼女には軍に対する影響力はない」【10月9日 WSJ】
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スー・チー国家顧問が国軍によるロヒンギャへの暴力行為を積極的に支持している・・・とは言いませんが、彼女自身、多くの国民同様に、ロヒンギャに対してはかなりネガティブな感情を持っているように見えます。
国民の支持を失い、軍部の力によって政権を失うリスクを敢えて冒してでもロヒンギャ保護に出るインセンティブは、彼女自身の中にはないようです。
外から強い力をかけない限り(反発を招かないように、うまく行う必要がありますが)、ミャンマーだけの自発的な取り組みに任せるだけでは、事態の改善、問題の根本的解決は難しいように思えます。