孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マダガスカル  “バニラバブル”に踊る栽培農家 都市部でもペスト流行

2017-10-08 21:12:06 | アフリカ

(マダガスカル・ベマラママトラのバニラ栽培業者の農家で、収穫済みのバニラが盗難の被害を受けないよう目を配る警備員(2016年5月25日撮影)【10月8日 AFP】)

外資導入と軋轢
普段あまり取り上げることがない国の話題を・・・ということで、東アフリカの島国「マダガスカル」の話。

****一番アフリカに近いアジアの国****
マダガスカルと言うと思い浮かぶのはバオバブの木、横っ飛びする猿などの不思議な動植物、米を主食とするアジア的な文化の国・・・そんなところです。

アジアとの関連で調べると、人種的にもアジア系で、子供には蒙古斑があるとか。
地質的にも、“ジュラ紀後期のゴンドワナ大陸分裂でアフリカ大陸から分離し、さらに白亜紀後期にインド亜大陸がマダガスカル島から分離した”【ウィキペディア】ということで、アフリカから早い段階で分離したようです。
国民意識のうえでもアフリカと一線を画する意識が強く、アフリカ連合には加盟していますが、アフリカ諸国との関係はかなり希薄であるとも。
“一番アフリカに近いアジアの国”という、元大使が書いた本もあるようです。【2009年3月20日ブログより再録】
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2009年にマダガスカルを取り上げたのは、野党指導者で首都アンタナナリボのラジョエリナ市長によるクーデターが起きたためです。(“マダガスカル クーデターまがいの政治混乱で、元DJ・34歳の若き大統領誕生”)

経済的には“世界最貧国の一つで、人口2500万人のうち90%以上が1日2ドル(約220円)以下の生活を強いられている。また、5歳以下の子どものほぼ半数が発育上の問題を抱えているという。”【9月21日 AFP】とのこと。

そうしたこともあって外国資本導入も試みられているようですが、軋轢もあるようです。

2009年には、韓国の物流企業・大宇ロジスティクスが全トウモロコシ用耕作地の3分の1(約130万ヘクタール)に及ぶ土地を99年間租借する契約を政府と結んだことが発覚し、社会混乱を起こし、上記“クーデター”の引き金ともなりました。

例によって中国の影響も大きくなっていますが、住民反発も強まっています。

****ビジネス面で存在感拡大の中国、反発強めるマダガスカル住****
アフリカ南東沖のインド洋に位置するマダガスカルで、金鉱山の開発を予定していた中国企業が現地住民の激しい反発に直面し、空のテントとたばこの吸い殻を残してついに撤退した。
 
中部ソアマーマニンの小さな町はここ数か月、中国の産金業者ジウシンに対する抗議活動にのみ込まれてきた。ジウシンは面積7500ヘクタールの鉱区で40年間の金採掘免許を取得。これを受けて住民は毎週木曜日にデモを行い、鉱山の操業で農業が危険にさらされる恐れがあると主張した。
 
これが一因となり、新たに押し寄せている中国出資者らへの反感がマダガスカル全土に広がった。中国はマダガスカルにとって最大の貿易相手国であるものの、中国の存在感が高まりつつあることへの嫌悪感が、ソアマーマニンだけでなく全国各地で公然と示されるようになった。
 
中国は天然資源の確保を目的にアフリカにおいてビジネス面で存在感を拡大し、市場には中国製品があふれている。こうした状況を背景に、アフリカでは反中感情が高まりつつある。【2016年12月18日 AFP】
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問題の鉱山業者は撤退しましたが、“市場には中国製品があふれている”状況は変わっていないし、今後も更に強まるのでは・・・とも思います。

【“バニラバブル”狂騒曲
最近、マダガスカルに関して話題になっているのが“バニラビーンズ”
シュークリーム、アイスクリームなど洋菓子や香水に使うあの“バニラ”原料です。

マダガスカルのバニラビーンズは最高品質とされ、日本の洋菓子に使用されているバニラビーンズは9割以上がマダガスカル島産だとか。

そのバニラビーンズが現在非常に品薄で、この4年程で価格は1キロあたり約13万円と10倍に跳ね上がり、日本の輸入量は約3分の1程度まで激減しています。特に、昨年来の値上がりが顕著のようです。

その一番の原因は、主産地マダガスカルのサイクロン被害にあるとか。

下記はやや古い記事ですが、今年5月時点のもの。

****バニラ豆の輸入価格、昨年比2.4倍に 主産地でサイクロン被害 ****
アイスクリーム香料の原料となるバニラ豆に品薄感が出ている。食材の天然志向が強まる欧米の需要が増えるなか、3月に主産地のマダガスカルをサイクロンが直撃。日本の輸入価格は1年前の2.4倍に跳ね上がった。香料メーカーなどの需要家は代替素材の活用といった対策を急ぐ。
 
世界のバニラ豆生産の8割はマダガスカルが占め、日本も輸入量の9割を同国に頼る。マダガスカル産を扱う現地商社が提示する輸出価格は現在、1キロ600ドル前後。1年前と比べて100~200ドル(2~5割)高い。一部ではこの水準をさらに上回る取引も出ているもようだ。
 
バニラ豆は「欧米で天然原料にこだわる消費者が増え、2010年ごろから価格が上がっていた」(商社)。さらに3月にマダガスカルをサイクロンが直撃し、バニラ豆の生育が悪化するとの思惑が広がった。現地で生育途中のさやを摘むケースもみられ、生産量が減るとの観測も台頭。値上がりに拍車をかけた。
 
マダガスカル産の先高観から、「価格上昇を狙って普段はバニラ豆を取引しない業者が投機目的で買い占めている」(輸入商社)。国際価格はサイクロン後に上昇ピッチを速めた。
 
貿易統計によると、17年3月のマダガスカル産バニラ豆の輸入価格は1キロ5万7000円。海上運賃の反発などで、前年同月に比べ2.4倍になった。円安による輸入価格の上昇もあり、今年に入り値上がりペースはさらに速まった。(後略)【5月29日 日経】
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上記記事では“1キロ600ドル前後”とありますが、前出のように「9月から500グラムで6万3000円っていう値段を提示されまして」【8月30日 MBS】と、1キロ13万円とも。

サイクロン被害に加え、天然原料に対する需要増、投機的動きなどで値上がりしているとのことですが、マダガスカルの生産農民のネット情報を使った行動変化もあるとか。

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「(マダガスカルの)皆さんインターネットをやっているんですね。農家の人たちまでが直接輸出するようになってきたんで、農家の人たちがどれくらいで売られているのかっていうのをわかるようになったからなんですね。

農家の人たちが搾取されていたのが搾取されなくなったので、農家の人たちがむしろ輸出業者さんに売るのにも高い値段で売るようになった」(ミコヤ香商 水野年純社長)【8月30日 MBS】
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日本の洋菓子業界、消費者にとっては困ったことですが、世界最貧国の農家がこれで潤うならそれはよい話かもしれません。しかし、実態は“バブル景気の混乱”状態とも報じられています。

****バニラ景気」に沸くマダガスカルの熱狂と苦悩****
マダガスカルでは今年3月に発生した熱帯サイクロン「イナウォ」の後、同国最大の輸出品であるバニラの価格が生産量減少に対する市場での思惑買いによって数か月のうちに暴騰した。
 
世界の市場に出回るバニラのうち約80%はインド洋に浮かぶ島マダガスカルで生産されており、アイスクリームやアロマテラピー、香水、そして高級フランス料理などに利用されている。

しかし、バニラ価格の高騰により突然この国に舞い込んできた現金はかえって犯罪を助長しており、またバニラの質低下を招いている恐れがある。
 
同国北東部の農村地帯アンパネフェナにあるたった1本だけ舗装された道路で、若者たちは日本製のオートバイに乗って後輪走行をしながら時間をつぶしている。

細い体には大き過ぎるカワサキのオートバイに乗る17歳の少年は、「2億アリアリ(マダガスカルの通貨、約157万円)したんだ」と自慢する。父親は「バニラ商売」に携わっており、プレゼントしてくれたのだという。
 
マダガスカルでは近年、バニラビジネスが盛況だ。2015年以降、バニラの価格は上昇を続けており、同国のバニラ輸出業者協会の会長によると、1キロ当たり600ドル(約6万7000円)から750ドル(約8万4000円)というこれまでにないピークを迎えているという。
 
同国では1989年にバニラ市場が開放された後、その価格は乱高下した。2003年に1キロ400ドル(約4万5000円)の高値を付けた後、2005年には1キロ30ドル(約3300円)に暴落。価格はその後、約10年の間、同様のレベルにとどまっていた。
 
しかしオーガニック製品の人気再燃や投資家による思惑買い、そしてマダガスカルのバニラ生産地域がサイクロンで被災したことなどから、バニラの需要は同国の供給量である年間1800トンを上回るようになった。
 
その結果、バニラ生産地域であるサバ地方では、価格高騰による現金の流入で、ほぼ一夜にして町にはオートバイやスマートフォン、太陽電池パネル、発電機、薄型テレビ、派手なインテリア製品などがあふれ返った。

■規制なく無政府状態に
同国のバニラ景気について、匿名を希望するフランスの貿易業者は「銀行は、バニラ価格の高騰に振り回されていた」と話す。
 
バニラ農家を営む40代男性は、「人々にとってお金が何の意味も持たなくなっている。皆、規制はないも同然と考え、無政府状態になってきている」と述べた。
 
バニラ価格の暴騰により、バニラ農場の盗難被害も増加した。中には貴重なバニラを警護するために農園内で寝泊りする農家もおり、これまでに数人の窃盗犯が殴打されるなどして撃退されたり当局に拘束されたりしたほか、中には殺害されたケースもあったという。

また、盗難を恐れて熟していない状態でバニラの実を収穫せざるを得ない農家も出てきたため、バニラの質が低下する結果にもつながった。
 
マダガスカルではバニラの売買がほぼ無統制で行われており、現行の数少ない規定には強制力がほとんどない。バニラの購入者は山地の村を自由に見て回り、直接農家と価格交渉を行ったり、中間業者に価格の見積もりを依頼したりすることもできる。
 
バニラは同国の国内総生産(GDP)の5%を占めるが、サバ地域の開発局長は「地元当局で(バニラ売買に)税金を課すところはほとんどない」と語る。
 
同地域では飲料水を利用可能な人口は全体の約21%にとどまっており、また電気は86ある自治体のうち6つにしか通っていない状態だ。

■世界最高品質とされたバーボンバニラの質も低下
バニラ農家と貿易商の中間業者は、「はっきり言ってこの仕事で成功を収めることなんて不可能だ。皆がだまし合っている。そしてそれを率先して行っているのが大規模な輸出業者だ」と話す。
 
マダガスカルのバーボンバニラは、何世代にもわたり受け継がれてきた栽培技術の産物であり、世界最高品質とされる。

しかし、バニラの質が低下しているという懸念は、輸入業者がマダガスカル産バニラを避け、購入先を同国のライバル国であるインドネシアやウガンダなどに変更する事態を招きかねない。
 
マダガスカルのバニラ輸出業者協会の会長は、「すべての物事には終わりがあり、(バニラの)価格が下落するのはほぼ確実」と指摘。

「バニラのおかげで私は学校に通うことができた。バニラは価値ある1次産品だ。価格が下落すれば日和見主義者は去っていくだろうが、私たちはこれからもずっとここ(マダガスカル)に残る」と、輸出業者の1人は語った。

「私たち古参の人間は、自分と子どもたちの将来をバニラで築き上げてきた。しかし今の私たちは、ばらばらに引き裂かれていく過程の真っただ中にいる」。【10月8日AFP】
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バニラ“バブル”は、社会に混乱を残して短命に終わりそうな様子です。

なお、アフリカ諸国の主要輸出品である農産物一次産品価格が市況によって大きく変動して経済を不安定化させ、長期的には輸入工業品価格に比べて相対的に安くなり、アフリカ諸国の経済的“離陸”を難しくしている・・・という議論は、数十年前の国際経済ではよく言われていましたが、最近はどうでしょうか?

政府には、価格・農家所得の安定化や、産品の付加価値を高めたり、他の産業育成など、単純な一次産品生産だけに頼らない経済構造への誘導が求められていますが・・・・。

現在は、一部の産品では国家の資源管理が進んでいるようです。
また、食文化の近代化や、人口増加、環境規制の強化のながれは、一次産品産出国側に有利に作用するものも少なくないでしょう。

要は、国家のガバナビリティーの問題のようにも。

ペスト流行 今年は都市部でも
“バニラ”のほかに、ここ数日マダガスカル関連で流れている憂慮すべきニュースは“ペスト”です。

****ペスト流行のマダガスカル、刑務所への訪問禁止 死者36人に****
インド洋の島国マダガスカルの当局は6日、ペストの感染拡大を防ぐため、刑務所への訪問を禁止すると発表した。刑務所管理者は「受刑者をペストから守るためだ」と述べた。この措置は流行が最も深刻な2地域の7刑務所に適用される。
 
当局は同日、8月以降にペストに感染したとみられる患者は258人になり、うち36人が死亡したと発表した。
 
政府は首都アンタナナリボでの集会を禁止し、大学2校も閉鎖に追い込まれた。地元メディアによると、アンタナナリボの専門病院はひっきりなしに訪れるペストに感染した患者に対処しきれずにいる。医療施設の前にはマスクや薬を買おうとする人々が群がり、長蛇の列ができている。
 
今回の流行では、感染したネズミからノミを媒介として拡散する腺ペストと、ヒトからヒトへ伝染する肺ペストの両方が発生している。

マダガスカルは毎年のようにペストの流行に見舞われているが、今年の流行は都市部にその影響が及ぶ異例のケースで、世界保健機関(WHO)は伝染の危険性が高まると懸念している。WHOはマダガスカルを支援するため抗生物質120万回分を送ると発表した。
 
今回の感染のほとんどは、危険性がより高く、近くでせきをすることでヒトからヒトに感染する肺ペストとみられている。

肺ペストは、治療を受けなければ感染後18~24時間以内という短時間で死亡する恐れがあるが、抗生物質を早期に使用することで治療することができる。

「黒死病」として知られる腺ペストは中世の欧州で約2500万人の命を奪ったとされるが、現代ではめったにみられなくなっている。【10月7日 AFP】
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今後の状況が懸念されます。
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