孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン・カタルーニャ  “板挟み”状態の州側 自治権停止の強権に手をかける中央政府

2017-10-16 22:57:09 | 欧州情勢

(カタルーニャ自治州の州都バルセロナで8日、カタルーニャのスペインからの独立に反対する大規模なデモが行われ、地元警察によると35万人が参加した。【10月9日 ロイター】)

【「独立宣言」を棚上げして協議を求めるカタルーニャ 「独立」の明確化を求める中央政府
スペインからの分離独立を求めるカタルーニャ自治州では10月1日、中央政府の反対、憲法裁判所の差し止めを振り切って住民投票を実施。独立反対派の多くがボイコットしたと思われる43%の低い投票率ながら、独立賛成が90.2%という“予想された”結果となりました。

これを受けてプッチダモン州首相は10日、「独立宣言」に署名したうえで、注目されていた議会演説を行いましたが、その内容は「スペイン政府との対話のため、独立宣言の効力をいったん凍結するよう提案する」という“棚上げ”的なものとなりました。

「カタルーニャは独立する権利を得た」と言明する一方で、独立宣言は凍結するという“曖昧”とも言えるもので、
「独立宣言」したのか、しなかったのか・・・も、明確ではありません。

州政府の報道官は、プチデモン州首相による独立宣言への署名は「象徴的な意味合い」しか持たないとも説明しています。

「独立宣言」を明確にすると、自治権剥奪等の中央政府による強力な介入を招くことになることからの“対話路線”提案でしたが、当然ながら独立強硬派からは突き上げられることになります。

また、“対話”とは言っても、中央政府ラホイ首相はかねて「話し合いをしたいなら法を守る道に戻ってからだ」と繰り返しており、交渉に応じる状況ではありません。

更に、頼みとする仲介に向けた国際的な動きも現段階ではあまり期待できません。

****強硬派は猛反発、国際的には孤立 プチデモン州首相が独立宣言棚上げで板挟み****
スペイン東部カタルーニャ州のプチデモン州首相が10日の演説で独立宣言の棚上げを表明したことで、州議会の独立強硬派は不満をあらわにした。

一方、欧州連合(EU)の近隣諸国は「独立は違憲」とするスペイン中央政府を支持している。プチデモン氏は国際的に孤立する中、州内で突き上げを受け、板挟みになっている。
 
プチデモン氏の演説後、独立強硬派の左派「人民連合」(CUP)幹部議員は「厳粛な独立宣言を行う機会だったのに、それが失われた」と失望感を示した。

州政府に対し、中央政府との交渉開始に「1カ月以内」という期限を設けるよう要求した。独立派の中には、州議会選挙を行うべきだとの声も出ている。
 
プチデモン氏の州議会与党は複数の小政党が統合した政党連合。2015年の州議会選挙で過半数に満たず、CUPの協力を得て政権を発足させた。

政党連合内には独立強行への反対論が残っており、同氏の「対話戦略」は、政権基盤である独立派陣営を分裂させる可能性がある。
 
州議会演説は欧州各国のニュース局が生中継するほど注目された。だが、EU側の反応は冷淡だった。イタリアのアルファノ外相は、ツイッターで「カタルーニャ州の一方的な独立宣言は受け入れられない。国民の権利を代表するスペイン中央政府を支持する」と表明した。
 
また、フランス外務省も11日、「これは内政問題であり、スペイン憲法の枠内で解決すべきだ」とする声明を発表した。声明は「州政府による一方的な独立宣言は違法であり、全く認められない」として、州政府の動きを強く牽制した。
 
スペイン全国紙パイス(電子版)は11日、中央政府支持の立場から、プチデモン氏が独立宣言を延期しながら対話を呼びかけたことを「罠」と断じた。
 
中央政府との仲介要請にはEUが全く応じず、カトリック教会など非政府チャンネルにも目立った動きがない。中央政府は「投票自体が違憲」の立場を崩さず、プチデモン氏は孤立無援状態に陥っている。【10月12日 産経】
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9日には、ドイツ・メルケル首相もスペイン中央政府のラホイ首相との電話会談で、「スペインの統合」への支持を伝えたと発表されています。

国内の“分離主義勢力”を抱える各国政府が、自国に影響が及びかねないカタルーニャの動向を警戒し、独立に否定的なことは容易に予想されていたことです。

やや意外な感があったのは、各国の“分離主義勢力”自体にあっても、カタルーニャの動きには“距離を置く”冷めた姿勢が目立つことです。

****距離を置く欧州各地の分離主義勢力 自治拡大のてこ入れに活用の思惑も****
カタルーニャ自治州の独立要求について、英国スコットランド、ベルギーのフランドル地域、イタリアのロンバルディア州など欧州各地の分離主義勢力は距離を置いている。

欧州連合(EU)離脱につながる独立に慎重姿勢を示す一方、同州の独立宣言の動きを自治拡大のてこ入れに使おうという意欲も見える。
 
スコットランド行政府のスタージョン首相は8日の英BBC放送で、カタルーニャ州の住民投票の実施を支持する一方、「独立すべきか否かについて、私が発言すべきではない」として投票結果を受けた独立の是非には言及しなかった。
 
スタージョン氏は6月の英総選挙でスコットランド独立をめぐる再投票を主張し、保守党に大きく議席を奪われた。英国のEU離脱が決まった後、同国からの独立に動くことに住民の懸念が強いためで、同氏はカタルーニャ独立派への同調を避けたとみられる。
 
イタリアでは今月22日、ミラノがあるロンバルディア州、ベネチアがあるベネト州でそれぞれ、自治拡大をめぐる住民投票が行われる。ミラノを拠点とする右派地域政党「北部同盟」のサルビーニ書記長は「カタルーニャ州の住民投票とは違って、法律の枠内で行うものだ」と違いを強調。かつては地域独立を目指していたが、現在は自治拡大を重視する立場を示した。
 
ベルギーのオランダ語圏フランドルの地域主義政党、新フラームス同盟も、カタルーニャ州の住民投票で警察が抵抗する有権者に暴力をふるったことを批判する一方、独立への支持表明は避けた。【10月11日 産経】
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こうしたなか、中央政府ラホイ首相はプチデモン州首相に対し、“棚上げ”という曖昧な10日の州議会演説がスペインからの「独立宣言」だったのか否か、「イエス」か「ノー」か、16日午前10時(日本時間午後5時)までに改めて明確にするように求めていました。

ラホイ首相は、もし独立を宣言したと認めた場合は19日までに撤回しなければならないとし、撤回しない場合は憲法155条に基づいて同州の自治権を停止する考えを示していました。

これに対し、プチデモン州首相は明確な返答を避け、再度“独立に向けた動きを2か月間「延期」し、協議を開始したい”との考えを主張しています。

****カタルーニャ州首相、独立への動きを「延期」 政府に協議求める****
スペイン北東部カタルーニャ自治州のカルレス・プチデモン州首相は16日、中央政府に対して独立に向けた動きを2か月間「延期」し、協議を開始したいとの考えを表明した。
 
プチデモン氏は、マリアノ・ラホイ首相に充てた書簡の中で、「今後2か月間は、われわれの主要目的はあなたを対話の場に連れ出すことだ」と述べた。
 
プチデモン氏はラホイ氏に「可能な限り早急」に会見したいと要請。「さらに状況を悪化させるべきではない。善意を持って問題を認識し、正面から向き合えば、われわれは解決への道筋を見つけることができると確信している」と書簡で呼び掛けた。(後略)【10月16日 AFP】
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「独立宣言」した明言すれば中央政府の介入を招き、しなかった明言すれば独立強硬派の支持を失う・・・という苦しい立場です。

しかし、中央政府側はプチデモン州首相の書簡に納得せず、再度、19日までに明確な姿勢をしめすように迫っています。

****スペイン政府、独立めぐる立場明示を再び要求 自治州首相に19日まで****
スペイン中央政府は16日、北東部カタルーニャ自治州のカルレス・プチデモン州首相が同国からの独立を宣言したのか否か明確にしていないとして、同氏に対して19日午前10時(日本時間同日午後5時)までに立場を明らかにするよう改めて求めた。(後略)【10月16日 AFP】
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【「独立」明確化なら自治権停止も
住民投票を強行したことで袋小路に入った感もあるプチデモン州首相ですが、一方の中央政府ラホイ首相も、自治権剥奪という強硬手段を取らざるを得なくなる状況に苦慮しているとも思われます。

****カタルーニャ州独立問題、未知の領域に****
スペインのマリアーノ・ラホイ首相はカタルーニャ州の自治権の一部剥奪へ向けた最初の一歩を踏み出す中で、同国政府が使える最も過激な手段の一つに手を伸ばしつつある。その手段とはこれまでに一度も使われたことのないものだ。(中略)
 
スペイン政府は11日、同国の一体性を維持するために憲法155条の発動への第一歩を踏み出した。
スペインの憲法155条は、ドイツの憲法の同様の条項を手本としたもので、一定の条件下で中央政府が州の自治権を停止することを認めている。
 
だが、この条項が発動されたことは一度もないため、専門家は中央政府が州政府の権限と機能をどの程度停止するか把握できない。
 
マドリードのファン・カルロス大学のホセ・マヌエル・ベラ教授(憲法学専門)は「当該条項の本当の適用範囲は誰も知らない。権限の停止は幅広い意味を持ち得る」と述べた。
 
憲法には、スペインに17ある自治州が同法で課された義務を果たさない、または自治州の行動がスペイン全体の利益を脅かす場合、中央政府は「各州にこれらの義務を順守させたり、国全体の利益を守ったりするのに必要な措置を講じることができる」と定められており、その目的で政府は全ての州に「指示を出す」ことができる。
 
例えば、中央政府はカタルーニャ州警察の指揮権や同州の教育の権限を停止することができる。その場合、同州の規則に基づいて行政に介入し、正常な行政機能を維持するために、中央政府の代表者を任命することができる。専門家によれば、州首相の権限を停止することもできるという。
 
スペイン政府は、憲法155条を発動する前にカタルーニャ州に対し、憲法に違反する行為を是正するよう正式に要請しなければならず、是正期限を設定することができる。ラホイ氏は11日、プチデモン氏に独立を宣言したかどうか明らかにするよう求めたため、その要件を満たしたことになる。
 
カタルーニャ州がスペイン政府の要請に応じなかった場合、同政府は議会上院にカタルーニャ州の自治権停止の承認を求めることができる。専門家の話では、この手続きには少なくとも4〜5日かかる。
 
バルセロナ自治大学のラファエル・アレナス教授(法律学専門)は「ラホイ首相の責任は大きい。首相は今、とても孤独を感じていると思う」と語った。(中略)
 
一方、カタルーニャ州は、中央政府と州政府間の紛争解決を担うスペインの憲法裁判所で、中央政府の決定に異議を唱える可能性がある。【10月12日 WSJ】
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憲法裁判所は一連の今回問題では中央政府を支持する判断を下していますので、自治権停止についてもカタルーニャ側にはあまり期待できないと思われます。

税収に対するカタルーニャ中間層の不満 教育の問題も
独自の文化・歴史を持つカタルーニャが分離独立を求めている背景に、金融業と工業の強さを誇るカタルーニャの税収がスペインの他の地域に流出し、無駄に使われているとの不満があるとされており、所得階層で見ると、労働者層よりは中間層がこうした不満を強めていると指摘されています。

****カタルーニャ独立を熱望する中間層の不満****
自分たちの富がスペインの他地域に流出していると見る向きが多い

スペイン北東部カタルーニャ自治州の中間層は、分離・独立志向を持つ住民の中心的な存在になってきた。独立志向に拍車を掛けているのは、金融業と工業の強さを誇るカタルーニャの税収がスペインの他の地域に流出し、無駄に使われているとの不満だ。

カタルーニャ人の間では、スペイン中央政府が裕福な同州からカネを吸い上げていると広く信じられている。これが独立運動を推進させる主な要因の1つとなっており、スペインは憲政上の危機に立たされている。(中略)

「カタルーニャ独立は中間層の反乱だ」と、英カーディフ大学の歴史家、アンドリュー・ダウリング氏は語る。「カタルーニャの中間層は独立がより良い生活をもたらすと考える一方、労働者層は独立しても生活はよくならないと考える傾向がある」
 
中間層の反乱はカタルーニャで劇的な結果を引き起こした。中間層は欧州の他の地域でも不満を口にしており、例えばイタリア北部地域やドイツの裕福なバイエルン州がそうだ。
 
カタルーニャの調査機関が7月に行った世論調査によると、自らを中間層または上位中間層に位置づける人の約半数は、カタルーニャが独立国家になることを望んでいた。対照的に、労働者階層で独立を支持したのは28%にとどまった。(中略)

一方で独立反対の一部カタルーニャ人は、裕福な地域は貧しい地域より大きな負担や責任を担わねばならないとの考え方を受け入れており、それが国家としての連帯の証しだとみている。

中央政府は、カタルーニャも他の地域も国家的連帯から恩恵を受けていると主張。カタルーニャが独立すれば、主要な貿易パートナーである国内他地域との間に、大きな関税が立ちはだかることになると警告している。(中略)

これとは対照的に、労働者階層は分離独立にはるかに消極的だ。
 
裕福なカタルーニャ州は歴史的にスペインの他地域から移住者を引き寄せてきた。(中略)こうした移住者の多くは出身州との結び付きを維持し、家ではカタルーニャ語ではなくスペイン語を話し続けた。このため独立への熱意は薄い。
 
実際、言語は独立への支持を予測するうえで強力な要素だ。カタルーニャの調査機関によると、カタルーニャ語を母語とする人々のうち、独立を支持しているのは4分の3に達している。そしてカタルーニャ語を母語とする人々の55%は中間層だ。【10月12日 WSJ】
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“裕福な地域は貧しい地域より大きな負担や責任を担わねばならない”という“連帯”“国家的一体感”を阻害しているのは、文化・歴史の違いもありますが、地域的独自性を重視する教育にも原因がありそうです。

****カタルーニャ、亀裂あらわ 派遣の警官へデモ/暴力抗議に脅迫電話****
授業の言語でも対立
分断の下地は教育の現場でもつくられている。
 
学校教育では、カタルーニャ語による授業が基本だ。バルセロナ郊外に住むアナ・ロサーダさん(48)は、家で話すスペイン語による授業を、一部に導入してほしい、と娘が通う学校に求めた。州法が認める権利だが、裁判を経て2年前に認められた。
 
だが、校長は保護者会で「一つの家庭のために正しいカタルーニャ語を学ぶ権利が危険にさらされた」と発言。保護者仲間から「エゴイストだ」と言われ、娘のサベラちゃん(9)は当時、級友が集う「お誕生会」に呼ばれなくなった。
 
スペイン語での授業の導入に、別の親から感謝の言葉も聞くが、こっそりとだ。「それが現実です」
 
電子部品の商社を経営するアグスティン・フェルナディスさん(52)も、2人の息子にスペイン語での教育を受けさせることができたが、裁判所の決定が出ると、「カタルーニャは独立を」と学校前にデモ隊が来た。自分たちが標的なのは明らかだったという。別の学校に転校させた。「暴力はないが圧力をかけられた」
 
独立への動きが沈静化しても「社会の修復には長い時間がかかる」。そう感じている。【10月12日 朝日】
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地域文化の重視、政治的独立という“大きな声”に反対しにくい社会的雰囲気もあるようです。

****独立すればEU脱退を迫られ、経済は立ちゆかなくなる」 バルセロナ自治大政治社会学部長のホアン・ボテラ氏****
カタルーニャ自治州の住民投票では90%が独立に賛成したが、実際に独立を支持する住民は全体の半分程度だ。独立反対派は声をあげにくい状況があり、多くは投票に行かなかった。

同州では1978年の憲法で自治権が認められ、地域言語で教育が行われている。若者にとってスペイン語は「学ぶ言葉」になった。テレビやゲームソフトで接するが、仕事で使えるレベルに達していないことも多い。

政治やメディアは独立派が主導権を握る。スペインに征服された被害者の歴史が強調され、中央政府への反発を強めてきた。
 
中央政府にも問題がある。地方自治が進んでいるのに改革が遅れ、中央集権の思考から脱皮できていない。同州の自治剥奪に動けば、スペイン民主化以来、40年間かけて築かれた地方自治制度は大きく揺らぐ。
 
欧州連合(EU)で分離運動がさかんなのは、イタリア北部、ベルギーのフランドル地域など国内産業を支える富裕地域が多く、カタルーニャ州もその一つ。「貧困地域のためにわれわれの税金を使いたくない」という地域エゴでもある。だが、実際に独立すれば、EU脱退を迫られ、経済は立ちゆかなくなるだろう。【10月11日 産経】
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カタルーニャの場合、分離独立の必然性も、独立後の自立可能性もあまり大きくないように思われますので、独立に固執せずに“より良い関係”に向けた協議が必要でしょう。そのためには、中央政府もカタルーニャ側を追い込みすぎて、強権発動に至るのはマイナスの効果しかないように思われます。中央集権的な姿勢に対する自省も必要でしょう。お互いが譲るところからしか解決策は出てきません。
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