孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

IS協力者への憎悪・復讐、帰還戦闘員の社会からの排除 社会復帰支援の取り組みも

2017-10-26 21:55:59 | 中東情勢

(IS協力「容疑者」で過密状態のイラクの仮設刑務所【10月31日号 Newsweek日本語版】)

IS崩壊後もネット上で生き残る過激思想
「イスラム国」IS がイラクのモスルに続き、シリアのラッカを失い、その“支配領土”の大半を失った現在も、そして今後も、IS、あるいは類似過激思想の脅威がなくなった訳でないことは言うまでもないことです。特に、ネット上でその過激思想は生き続け、容易に増殖します。

****ラッカ陥落でもISISは死なず****
<首都と称してきた都市を失った後も、その思想は世界各国とネット空間で生き続ける>

・・・・拠点は陥落しても、思想は消滅させられない。とりわけISISは支配地域にイデオロギーを深く根付かせ、グローバルなネットワークを築き、ネット上でも影響力を誇っている。

(中略)ラッカが陥落しても、欧米でのテロは減らない。世界でジハード(聖戦)を起こす力が損なわれることもないだろう。今後もISISは攻撃を呼び掛け、最近の欧米諸国に見られるローテクで金のかからないテロをあおるだろう。

小規模集団によるテロやローンウルフ(一匹狼)型のテロは、以前より手数を掛けなくなっている。ナイフや車を使う単純な攻撃になり、細かな準備も外国の支援もほとんど必要ない。

だが拠点が陥落したことで、テロ攻撃を直接画策するISISの能力は弱まる。プロパガンダの質や量も低下するだろう。

さらには「敗退した」というイメージが、ISISに同調しようとする人々を思いとどまらせる可能性がある。今までは戦闘での華々しい勝利こそが、宗教的な正統性を象徴すると信じられていた。

ISISはネットワークを駆使して、こうした流れを覆そうとするだろう。拠点が陥落しても、彼らのプロパガンダは途絶えることがない。今後は内容が変わるだけのことだ。

ISISは今回の敗北も「神の意思」によるものと位置付けるだろう。(中略)今またカリフ国が欧米に滅ぼされた事実は長きにわたって嘆かれ、さらなる暴力を呼び掛ける手段に利用される。

いま重要な問題は、どうやって別のジハード勢力が灰からよみがえるのを阻止するかだ。

第1に、統治者のいない荒廃した地域を安全にし、社会にサービスをもたらすことだ。ISISは社会の緊張や不平等、非効率な統治、汚職を利用して、自分たちが社会にとって唯一の選択肢だと思わせていた。

ここで重要なのは、ラッカを陥落させたSDFが侵略者と見なされないようにすることだ。地元民の主導する勢力がコミュニティーの安全を維持しなくてはならない。

国境も世代も超越して
第2に、組織としてだけではなくイデオロギーとしてのISISに対峙することだ。

ISISが掲げる原理主義的なサラフィー主義は各国に拡大し、世代を超えて広がっている。サラフィー主義は人々の純粋な怒りに付け込み、コーランにはカリフ国の正統性が書かれていると解釈し、シャリーア(イスラム法)を厳格に守らせようとする。

既にシリア北部のイドリブ地方では、アルカイダ系の武装勢力が新たなイスラム国の樹立計画に着手。コミュニティーに浸透し、さまざまな反政府勢力の中で地位を築いている。

中東やアフリカで活動する同じような分派はこれから長く存続し、ISISと同じ価値観と目標を掲げるだろう。

しかし、ISISが本当に生き永らえる場はネット空間だ。彼らはさまざまなツールで、ジハードのコミュニケーション手段に革命を起こした。

ISISがプロパガンダに使うメディアは、雑誌や動画から、新聞、ラジオ、教科書、神学書にまで及ぶ。各国政府やテクノロジー企業による抑え込み戦略は成功しつつあるが、ISISは新たな戦術を生み出しながらコンテンツやネットワークを発展させてきた。

ISISの持つネット上での影響力は、過激な思想家やテロリストに永遠の命を与えてきた。彼らが死んでも、イデオロギーは生き残る。組織の指導者が入れ代わっても、思想は変わらずに生き続ける。

現在のISISは、アブ・バクル・アル・バグダディが率いているという。彼は生存しているらしく、録音された音声が9月にネットで公開された。

しかし死んでいようと捕らわれていようと、バグダディはジハードの輝ける殿堂に祭り上げられ、暴力をあおり続ける。同じように、牙城のラッカが崩れ落ちても、ISISは中東や欧米の都市に今後も暗い影を投げ掛け続けるのだ。
【10月26日 WSJ】
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IS協力者への暴力・不当な扱い・・・「法の支配は全ての人間に行き渡る」】
ISに付け込まれないように“荒廃した地域を安全にし、社会にサービスをもたらすこと”は、現実問題としては非常に困難なものがあります。

イラクでも、シリアでも、クルド自治区の独立問題、シリア政府軍と各勢力の争い、シリア・クルド人勢力の今後の扱い、イランの勢力拡大に対するアメリカの牽制等々、“IS後”の勢力争いという第2ステージに入っており、“安定・安全”とは程遠い状況です。

そうした各勢力・関係国の争いに加え、IS協力者とIS被害者間の住民同士の遺恨という問題もあります。

****モスルに渦巻くISIS協力者狩り****
仮設刑務所に「容疑者」があふれ、女性や子供までもが復讐の標的に 元ISIS最大の拠点に残る深過ぎる禍根

テロ組織ISIS(自称イスラム国)がイラク最後の拠点モスルから撤退した数日後、同市ニネベの裁判所を2人の女が訪れた。ISISに協力した「容疑者」を引き渡しに来たのだ。
 
といっても、連れて来たのは筋金入りの戦闘員ではなく、3歳にもならない彼女らの子供だった。「この子たちは要らない」と女たちは言った。「この子たちの父親はISISで、私たちをレイプした」
 
泣きじゃくる子供を置いて女たちは立ち去った。(中略)

イラク軍がモスルからISISを一掃して3ヵ月、市民はISISへの復讐に燃えている。ISIS協力者の家族と絶縁したり、隣人をISIS絡みの犯罪で告発する人が後を絶だない。

自警団を結成して自ら裁きを下す者もいる。春先にはチグリス川下流に多数の遺体が浮いているのが何度も見つかった。遺体の多くは目隠しされて縛られており、ISISに協力した容疑で政府側の部隊に処刑されたようだ。
 
市民が憤るのも無理はない。14年6月にモスルを制圧したISISは、住民約100万人に禁煙や男女の分離など厳格な法律を押し付けた。

市民を拷問・処刑し、住宅を占拠し、片っ端から略奪した。子供を兵士に仕立て上げ、女性を奴隷にした。昨年10月に米主導の掃討作戦が始まると、ISISはスパイ容疑者や逃げ出そうとした市民を処刑。7月の撤退までに、イラク治安部隊の兵±8000人以上を殺傷した。
 
「ISIS協力者」とその家族がひどい扱いを受けても、ほとんどの市民は意に介さないようだ。(中略)

(IS関係者のための活動も行う“一握りの”弁護士)ポートマンによれば、報復は今に始まったことではない。15年、イラク主導の連合軍はISISに対して攻勢を強めていた。

ティクリートやラマディ、ファルージヤなどの住民は、政府軍や武装組織が10代の若者や子供を含む「容疑者」を処刑・虐待していると報告した。

正当な法手続きが難しく
最近の攻防で虐待の規模が拡大しており、ISIS協力者への怒りはイラク戦争下の最悪の時期に匹敵すると、ポートマンは指摘する。

イラク治安部隊はISISに協力した可能性のある人間(未成年者も含む)を悪臭漂う仮設刑務所に押し込み、ISISメンバーの妻子を収容所に送っている。7月の国連報告書にょれば、ある収容所の環境は「人道的な基準以下」で、8日間に10人が死亡した。
 
その後イラク当局は、「報復から守るため」にISIS協力者の妻子1400人以上を逮捕した。「大勢の友人を失えば、復讐を願わずにはいられない」と、ポートマンは言う。
 
その感情が正当な法手続きを難しくしている。いい弁護士が付いても、裁判所の職員が不慣れだったり、裁判の多さに対応しきれなかったり、復讐に燃えていたりする恐れがある。
 
(現地でイラク人弁護士やソーシャルワーカーを雇っている米NPO)ハートランドに代わって裁判官や検察官向けのワークショップを運営する人権活動家のクライシの話では、若い戦闘員や無理やり仲間にされた人々に同情的な声もある。その一方で、指揮官でも12歳の新兵でもISISには違いないから「焼き殺せ」という声も聞くという。
 
あふれ返る拘束者が状況をさらに厄介にしている。クライシによれば、クルド自治区とイラク当局はISISと関係のある子供約5000人を拘束。

裁判待ちの列は伸びる一方で、場合によっては審理開始まで数力月かかり、ようやく始まっても短期結審になりがちだ。ヒューマンーライツーウォッチによれば、空き家を利用したニネベのテロ対策法廷は7月上旬、約2000件を審理。裁判官12人で1日40~50件を審理していたという。(中略)

ハートランドなどの法務チームは裁判官や検察官や弁護士に、訴訟ごとに状況を慎重に検討するようアドバイスしている。
 
「彼らは本当に過激派で犯罪者なのか。それともISISに強制されて行動を共にしていただけなのか」と、クライシは問い掛ける。「彼らは幼い犠牲者なのか、それとも殺人者なのか」
 
虐待や不当な有罪判決が深刻な事態を招く可能性もある。女性や子供を村八分にすれば、過激派の勧誘の標的になりかねず、未成年者を筋金入りのジハーディスト(聖戦士)と一緒に収監するのは新世代の殺人者を生み出すようなものだという。
 
「司法関係者に理解させなくては」と、クライシは言う。「法の支配は全ての人間に行き渡る。被害者にも、犯罪者にもだ」【10月31日号 Newsweek日本語版】
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“アムネスティー・インターナショナルのリン・マアルフ氏は、「このような暴力を行う犯罪者に、犯罪を犯しても罰されない、意のままになる権力があると思わせる、危険な免責の文化」が生まれていると指摘した。”【2016年11月3日 BBC】

ISの暴力に対する恨み、復讐心は当然すぎるものがありますが、そうした感情にまかせた復讐の連鎖が大きな悲劇をもたらすことは、フセイン政権崩壊後のイラクの混乱が示しているところでもあります。

戦闘員帰還を望まないフランス 「戦闘員が戦死するのはよいことだ」】
一方、ISの“領土喪失”に伴って、ISに参加していた外国人戦闘員の帰国という問題もあります。

****ISの外国人戦闘員 5600人が出身国に帰還か****
アメリカのシンクタンクは、シリアとイラクで過激派組織IS=イスラミックステートに加わった外国人戦闘員のうち、少なくとも5600人がこれまでに出身国に帰還したとする推計を発表し、今後、各国でテロを起こすおそれがあるなど、治安上の脅威になるとして警鐘を鳴らしています。(中略)

それによりますと、シリアとイラクでISに加わった外国人戦闘員は4万人余りに上りますが、両国での軍事作戦でISが領土の大半を失ったことなどを受けて、少なくとも5600人がすでに出身国に帰還したと推計しています。このうち、最も多いのはトルコの900人で、続いて北アフリカ・チュニジアの800人などとなっています。

報告書では、帰還後当局に拘束されず行方がわからない元戦闘員の中には、テロを起こすおそれがある者もいるとして、「これから数年間、多くの国にとっての脅威になる」と警鐘を鳴らしています。

また、中には自国に戻らず、東南アジアなどの第三国に転戦するケースも出ているということです。さらに、戦闘員の妻や子どもについてもISに洗脳されているおそれがあるため、精神的なケアや社会復帰を促すための仕組み作りが課題になると指摘しています。

【国別の帰還戦闘員数】
ソウファン・グループの報告書によりますと、帰還したISの戦闘員の数は、国別に次のように推計されています。

最も多いのが、シリアとイラクのどちらとも国境を接するトルコの900人で、続いて2番目がチュニジアの800人、3番目がサウジアラビアの760人、4番目がイギリスの425人、5番目がロシアの400人などとなっています。

また、シリアから戻った戦闘員や、ISの支持者などによるテロが相次いでいるEU=ヨーロッパ連合では、合わせて1200人が帰還したと見られています。【10月25日 NHK】
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チュニジアなどは、過激派がシリア・イラクに出ていくことで国内は比較的平穏に収まり、「アラブの春」の例外的成功を実現した・・・というようにも思われますので、帰国者が増えれば国内の混乱が大きくなる危険も。

テロに対する警戒感が強い欧州では、「帰ってこれないように、シリア・イラクで殺せ!」といった“本音”も。

****IS拠点陥落】「外国人戦闘員は戦死が望ましい」 欧州、帰国者の「テロ予備軍化」懸念****
「イスラム国」(IS)のシリアでの拠点ラッカが陥落し、欧州各国はIS入りした戦闘員の帰国に警戒を強めている。「テロ予備軍」となる危険があるためだ。
 
フランスのパルリ国防相はラッカ攻防戦さなかの15日、仏テレビで「戦闘員が戦死するのはよいことだ。できるだけ多くを無力化すべきだ」と述べ、シリア民主軍(SDF)によるフランス人戦闘員の殺害を容認する姿勢を示した。
 
ルモンド紙によると、マクロン仏大統領も「拘束者は少ない方がよい」として、投降者の帰国は阻止すべきだとの立場。帰国した場合、政府はテロ容疑で起訴する方針だ。(中略)
 
また、オランダ紙によると、同国で連立政権樹立を目指す4党は、ISからの帰国者にはジェノサイド(集団虐殺)容疑の訴追を視野に入れることで合意した。ISが民間人を「人間の盾」に使ったことは国際人道法違反に当たるとの立場からだ。(後略)【10月18日 産経】
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「戦闘員が戦死するのはよいことだ」・・・・“仏メディアによると、フランスはIS掃討を進めるイラク軍との間でフランス人戦闘員を殺害する合意がなされているという。帰還後の対策を重視するよりも、自国出身の戦闘員が帰国してテロを起こすリスクを減らすため殺害を容認しているとみられる。”【10月22日 毎日】とも。

帰国後に国内で有罪となり刑が科されても「脱過激化」できるかを疑問視する声も根強いということで、そうした感情はわかりますが、IS協力者の話と同様に、むき出しの憎悪や厄介者扱いから新たな憎しみしかうまれないようにも思えます。

“本音”と称するむき出しの感情に身をゆだねることで、自身の社会も“変質”していきます。

過激化抑止・帰還戦闘員の社会復帰に取り組むデンマーク
もちろん、そうした言い様が“きれいごと”に過ぎるとの批判はあるでしょうが、実際に「脱過激化」社会復帰に取り組んでいる国もあります。

****<IS帰還戦闘員>欧州対応分かれ デンマークは社会復帰策****
過激派組織「イスラム国」(IS)が首都と称するラッカの陥落を受け、ISに共鳴した若者らによるテロが続いた欧州では、帰還戦闘員への対応が焦点となりつつある。

潜在的なテロの脅威とみなして強硬策をとる国が多い中、自国の若者の過激化抑止に先駆的に取り組んできたデンマークでは、帰還戦闘員に社会復帰を促すソフトなアプローチを続け、周辺国の注目を集めている。
 
オランダのシンクタンク「テロ対策国際センター」によると、デンマークは2015年末までに125人前後がシリア・イラクの戦闘地域に渡航した。人口当たりではベルギー、オーストリア、スウェーデンに次ぎ欧州で4番目に多い。

約33万人が暮らす国内第2の都市オーフスからも計34人がシリアとイラクの戦闘地域に渡航したが、15年を最後に途絶えた。

過激化の兆候がある対象者を1人の「メンター(助言者)」が支える同市の過激化抑止・脱過激化プログラムが功を奏したとみられる。
 
市の担当部長ナターシャ・イェンセンさんは「メンターとの関係は最低1年から数年続く。長いプロセスだ」と話す。10年に始まったプログラムでは延べ400件の相談を受け、うち約30人にメンターが介入した。

講習を受けたメンターは有給だ。弁護士やソーシャルワーカー、宗教学専攻の大学生など多様な経歴の人をそろえ、対象者の性格などに合わせて選定される。定期面談だけでなくカフェでお茶をしたり映画を見に行ったり私的な付き合いを続ける。プログラム途中でシリアへの渡航を防げなかった例は1人だった。
 
メンターは帰還戦闘員にも同じ対応をとる。イェンセンさんによるとシリアに渡った34人のうち約半数が帰還した。デンマークでは帰還者はテロ組織に属した証拠が無ければ多くの場合、訴追されない。

「それならば普通の生活に戻る手伝いをしたい。彼らと社会のどちらにとっても有益だ」とイェンセンさんは社会復帰支援の意義を強調する。
 
オーフスには欧州以外からも視察が絶えない。イェンセンさんは「対象者の多くは社会から排除されたと感じていた。重要な教訓は、誰にでも(過激化は)起こり得るということ。1対1の強い関係を築くことは、他の地域にも適用できるやり方ではないか」と指摘した。【10月22日 毎日】
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