(ベトナム・ニャチャンの裁判所に出廷した反体制派ブロガーの「マザー・マッシュルーム」グエン・ゴック・ヌー・クイン被告(左、2017年6月29日撮影)【10月28日 AFP】)
【報道の自由度ランキング3年連続ワースト6位の実態】
言うまでもなくベトナムは中国同様に、政治的には共産党一党支配のもとで、経済的には資本主義的手法を取り入れて経済成長を図っています。
以前も取り上げたことがありますが、(観光で訪れただけではわかりませんが)これまた中国同様に、政府を批判するような報道の自由は厳しく制限されている国でもあります。
****報道の自由度ランキング、ベトナムは3年連続ワースト6位****
世界中の言論・報道の自由を主張するジャーナリストによる非営利組織「国境なき記者団」(本部:フランス・パリ)は、「2017年度 報道の自由度ランキング」を発表した。それによると、ベトナムは3年連続で180か国・地域中175位だった。日本は前年と同じく72位となっている。(中略)
ワースト1~5位は、最下位が北朝鮮で、これにエリトリア、トルクメニスタン、シリア、中国が続いた。
東南アジアでは、インドネシアの124位がトップ。以下、フィリピン(127位)、カンボジア(132位)、タイ(142位)、マレーシア(144位)、シンガポール(151位)、ブルネイ(156位)、ラオス(170位)、ベトナム(175位)となっている。【7月1日 VIET JO】
********************
ラオス170位、ベトナム175位、中国176位・・・このあたりはほとんど同列ということでしょう。
ベトナムもネット社会ですが、ブロガー等のネット上の発言に対する当局の言論統制が厳しく行われています。
****ベトナム:学生活動家の訴追 撤回を****
APEC首脳会議を控え、人権活動家への弾圧がエスカレート
ベトナム政府は学生ブロガーのファン・キム・カン氏への起訴をすべて取り下げ、即時釈放すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
ベトナムのドナーとASEAN各国の指導者は、2017年11月6日~11日までダナンで行われる、APEC首脳会議開催前に政治囚全員の釈放を求めるとの態度を明確に示すべきだ。
ファン・キム・カン氏の公判は、2017年10月25日にタイグエン省の人民裁判所で開かれる予定。氏は2017年3月にインターネットに政府批判の書き込みをしたとして逮捕され、「反国家プロパガンダ実行罪」(刑法第88条)で起訴された。
ベトナムには様々な国家安全保障関連条項があり、刑法第88条もその一つ。政府を批判する者を恣意的に処罰し、反政府勢力を沈黙させるために絶えず用いられている。
「
反国家プロパガンダ罪は、ベトナム政府を暴力によらずに批判する人びとを沈黙させるツールだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのブラッド・アダムズ アジア局長は述べた。「ベトナムはこうした法律を廃止するとともに、インターネット上で社会問題を話題にしたことだけを理由として、学生や一般市民を訴追するのを止めるべきだ。」
(中略)ファン氏はこう書いている。「(中略)毎日朝から晩まで一生懸命に働いていても、それでも生活は貧しいままでした(...)。大学2年から3年にかけて、私はベトナムが先進国入りできない理由について調べました(...)。私は近い将来、本物のマスコミで働きたい。ベトナムの民主主義と報道の自由を求める闘いに加わりたいのです。」
警察はファン氏を2017年3月21日に逮捕した。理由は「[反]汚職新聞」と「週刊ベトナム」という2つのブログを立ち上げ、運営したことだ。さらに、Facebookで3つ、YouTubeで2つのアカウントを開設したとされた。
当局は氏を「ベトナム社会主義共和国に反対する目的をもつ、虚偽で歪曲された内容を含む情報を継続的に公開した。またそのコンテンツの大半の出典は反動的なウェブサイトである」とした。
ファン氏の逮捕は、ブロガーや活動家に対する現在進行中の弾圧の一環だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
最近1年間で警察は、国家安全保障関連法令の曖昧な解釈を根拠に、少なくとも28人を逮捕・起訴している。直近では10月17日、警察はハティン省の環境運動家チャン・ティ・スアン氏を逮捕し、政府転覆を目的とした活動なるものに関与したとして起訴している。(中略)
現時点で活動家100人以上が、表現・集会・結社・信教の自由など基本的権利の行使を理由に投獄されている。ベトナム政府はこうした人びとを無条件釈放するとともに、平和的な表現を犯罪化する法律を全廃すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「ファン・キム・カン氏による唯一の犯罪は、当局の気に入らない政治的見解を表明したことだけだ」と、前出のアダムズ局長は指摘した。
「学生は社会問題や政治問題についての意見表明を奨励されるべきだ。処罰などありえない。ドナー国と貿易相手国は、ベトナム政府指導部への圧力を強め、深刻な人権状況の改善を促すべきだ。APEC首脳会議はその第一歩にふさわしい機会である。」【10月25日 ハフィントンポスト】
******************
【メラニア夫人主催の「国際勇気ある女性賞」受賞ブロガーも禁錮10年】
学生ブロガーのファン・キム・カン氏同様に、「反国家プロパガンダ」で拘束されたブロガーとしてニュースになった女性がグエン・ゴック・ニュー・クイン氏です。
****ベトナム人ブロガー、「反国家的宣伝」で禁錮10年****
ベトナムでインターネット上に政府批判の書き込みを行っていた女性が30日までに、「反国家的宣伝を行った」として禁錮10年の有罪判決を受けた。同国の国営メディアが伝えた。
グエン・ゴック・ニュー・クイン被告(37)はブログで土地の収用や言論の自由、警察の暴力などで政府批判を繰り広げ、「あなたが言わなければ誰が言うのか?」のフレーズで有名だった。娘のニックネーム「マッシュルーム」にちなんで「マザー・マッシュルーム」のペンネームで投稿していた。
グエン被告は2009年にも当局の注視する対象となっていた。当時は中部高原のボーキサイト鉱山への中国による資金援助案件で、中国の「干渉」に率直な反対意見を示していた。
国営ベトナム通信(VNA)によれば、グエン被告は昨年10月に「反国家扇動者」として逮捕された。被告のフェイスブックのページは逮捕日を最後に更新が途絶えている。
米政府はベトナムに対し、グエン被告や他の「あらゆる良心の囚人の即時の」解放を求めている。
米国務省のナウアート報道官は「私たちはこの数年、ベトナムで人権状況がいくつか進展してきたのを見てきた。だが2016年初めから平和的な抗議活動に対する逮捕や有罪判決が増えており、非常に憂慮している」と述べた。
人権団体や言論の自由を求める団体からは判決を非難する声が上がっている。
ヒューマン・ライツ・ウオッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソン氏は「ベトナム政府は活動家を黙らせ、自由な言論を締め付けるために、あいまいな国家安全保障関連の法律を利用している」と述べた。(後略)【6月30日 CNN】
******************
このグエン・ゴック・ニュー・クイン氏に関しては、今日続報が伝えられています。
****ベトナム反体制派ブロガーの10歳娘、メラニア米大統領夫人に母への支援求める****
米国のドナルド・トランプ大統領が来月訪問する予定のベトナムで収監されている反体制派ブロガーの娘(10)が、母親の釈放に助力してくれるようメラニア・トランプ米大統領夫人に支援を求めた。
少女の母親は「マザー・マッシュルーム」のブロガー名で知られるベトナムの反体制派ブロガー、グエン・ゴック・ヌー・クイン受刑者(37)。
自身のブログで、ベトナム国内の人権に関する記録や警察による拘束中の死亡例、環境汚染などへの批判を投稿してきた。今年3月にはメラニア夫人主催の「国際勇気ある女性賞」を受賞している。
ベトナムではここ1年の反体制派取り締まりによって20人以上が収監されている。ベトナム共産党による一党支配の政権は、人権問題への対応が手ぬるいとされているトランプ氏の米大統領就任で勢いづいている、というのがアナリストらの見方だ。
母親のブロガー名からとった「マッシュルーム」のニックネームを使い、メラニア夫人宛ての手書きの手紙で娘は「お母さんは何も悪いことをしていません。私の家族が再び一緒になるのを助けてください」と訴えた。この手紙は26日、娘の祖母のフェイスブックに投稿された。祖母によれば、孫娘がメラニア夫人宛てに書いた手紙は4通目だという。
トランプ大統領は11月に、アジア太平洋経済協力会議(APEC)のためにベトナムを初めて公式訪問する。
手紙についてベトナム政府は「両国関係の発展のために不適切で、何の利益もない」といら立ちを示している。【10月28日 AFP】
****************
メラニア夫人が「国際勇気ある女性賞」を主催しているというのは初めて知りました。
そういう事情があるなら、ベトナム当局に対しアメリカ側の何らかのコミットメントがあっても・・・というところですが、問題の本質は「マザー・マッシュルーム」個人の扱いというより、言論統制を続けるベトナム当局がトランプ大統領登場で“勢いづいている”ということです。
これまで、言論・報道の自由を世界に対して強く主張する立場にあったアメリカですが、“フェイクニュース”メディア報道を敵視するとトランプ大統領の登場は、ベトナム・中国など自由の問題を抱える国々の対応に“お墨付き”を与える結果ともなっています。
【「豊かになる前に老いさらばえるリスク」】
ベトナムに関する、もうひとつの話題。
日本が高齢化という大問題に直面していることは今更の話であり、日本だけでなく中国も、高齢化が進行する前に経済的豊かさを達成できるか、時間との競争になっていることもしばしば指摘されるところです。
事情はベトナムも同様のようです。
****ベトナム、高齢化社会に突入****
ベトナムは高齢化が急速に進んでいる。世界銀行が3月に発表した報告書で、ベトナムは2015年に65歳以上の高齢者が人口の7%となる630万人を超え、高齢化社会に突入したとの見方を示した。国営ベトナム・ニュースなどが報じた。
ベトナムは、経済発展による生活水準の向上などに伴い寿命が延びる一方で出生率が低下している。現在、労働人口がピークを迎え、今後は減少すると世銀は予測する。
同報告書によると、ベトナムは、世銀が定義する65歳以上が人口に占める割合が7%とされる高齢化社会から、14%を超える高齢社会となるまでに要する期間が18年と推測される。米国の69年、中国やシンガポールの25年などと比較しても、ベトナムでは高齢化が加速していることがわかる。
世銀の東アジア・太平洋地域のエコノミストは、ベトナムは今後、医療保険など社会保障制度の整備といった高齢者に対する経済支援の拡充などが課題だと指摘する。
ベトナム労働・傷病軍人・社会事業省の幹部は、高齢化による社会保障費の増大や労働力不足などが経済発展の妨げにならないよう対策に取り組む姿勢を示した。【2016年4月22日 SankeiBiz】
******************
言われてみると、ベトナムを観光した際、“子供がワラワラと・・・”という光景はあまりなかく、どちらかと言えば、公園でくつろぐ高齢者の姿の方が目立ったようにも。
“対策に取り組む姿勢を示した”・・・言うのは簡単ですが、実効ある施策を進めるのが困難なことは、日本も痛感しています。
****ベトナムを襲う高齢化危機****
順調に経済成長する若い国というイメージが強いが、急加速する高齢化に共産党政権は手を打てずにいる
国の未来は人目構成で決まる・・・そう見抜いたのは近代社会学の祖オーギュスト・コント。国富の源泉は国民の働きだが、未来の働き手の数は(戦争で領土を増やさない限り)今日の人口構成で決まる。
いまベトナム政府の高官は、この冷徹な予言が間違いであってほしいと願っていることだろう。現在の人口動態を見る限り、ベトナムの未来が明るいとは思えないからだ。
長期にわたる戦争とその後の混乱期を抜け出した今のベトナムは「若い国」、つまり若者が多い国と思われがちだ。だから外資はこの国の未来を信じて、積極的に投資している。(中略)
ところが15歳未満の人口は数十年前から右肩下がりだ。89年には人目全体のほぼ40%だったが、今や23%。しかも合計特殊出生率(女性1人が一生の問に生む子の平均数)は政府の「2人っ子政策」のせいで1.95前後で推移している(ちなみに80年には5.0、90年でも3.55だった)。
つまり、ベトナムの労働人口は今後ずっと減り続け、IMFのブログで指摘されたように「2020~50年にかけて民1人当たりGDPの成長の妨げになる」ということだ。
数年前にベトナムの生産年齢人口がピークに達した頃、この国の1人当たり国民所得はまだ中国の半分、タイの3分の1にすぎず、賃金水準は日本の10分の1だった。IMFの表現を借りるなら、ベトナムは「豊かになる前に老いさらばえるリスク」を抱えている。
もう親の面倒は見ない
WHO(世界保健機関)はベトナムを、高齢化の著しい国の1つとしている。既に60歳以上が約1000万人で全体の11%を占める。また世界銀行の報告によると、15年には65歳以上の高齢者が人目の7%を占め、「高齢化社会」の仲間入りをした。
さらに65歳以上が14%を超える「高齢社会」には2030~35年頃に、21%を超える「超高齢化社会」には50年頃に突入するものとみられている。
この高齢化スピードは、欧米や日本を含む先進国に比べて、はるかに速い。おまけにベトナムは平均寿命が75歳という東南アジア屈指の長寿国だ。
社会の高齢化が進んで労働力が減少すれば、医療費や年金の支出が増えて財政を圧迫する一方、税収やGDPは減ってしまう。まさにコントの予言どおりだが、果たして1党独裁のべトナム共産党に、この危機を乗り切る能力があるだろうか。
政府は25年までに全ての高齢者に健康保険制度を行き渡らせることを計画している。しかし一方で、ペトナムには子が親の面倒を見る伝統があるから高齢者ケアの公的負担は大きな問題にはならないと考えている節もある。
しかし、そんな伝統は急速に消えつつある。主な原因は都市化(年間2.59%の割合で都市人目が増加)と、それに伴う生活環境の変化、つまり両親や祖父母の世代と同居しない核家族が増えていることだ。
もちろん政府も手をこまねいてはいない。例えば男性60歳、女性55歳という定年年齢(公務員は65歳と60歳)の引き上げを検討している。ただし共産党はこの案を今年6月にも検討したが、労働法規の改正には踏み切れずにいる。
定年年齢を延長すれば、その分だけ生産年齢人目を長く維持できるので、政府の社会保障負担は軽くなるだろう。しかし15年に年金納付期間が足りない退職者のための一括給付金を廃止する制度改革を発表したときは、何万人もの労働者がストライキに突入し、政府は譲歩を余儀なくされている。
増税という手もあるが、これにも反発が強い。筆者は数力月前にハノイに滞在したが、ただでさえ賄賂(地元では「潤滑油」と呼ぶ)の額が増えているのに税金まで上げるのかという不満をよく聞いた。
汚職度はアジアの2位
財務省はガソリン税を1リットル3000ドン(15円)から8000ドン(40円)に引き上げようとしている。政府は「環境税」と称しているが、国民の目には環境保護より役人の私腹を肥やすための増税と映る。しかも増税後のガソリンー1リットルの価格は、平均的な国民の1日の稼ぎの6分の1ほどにもなってしまう。
財政は苦しい。公的債務の残高はGDPの約64.7%で、緊縮政策が必要だ。財政赤字も00年にはGDPの5%だったが、昨年は56.5%に増加。政府は20年までに赤字率を3.5%に下げるという目標を掲げているが、実現は難しい。
実際のところ、ベトナムが経済成長を続けるには今後4年間で空港や鉄道、道路などのインフラ整備に少なくとも4800億ドルを投じなければならないとされる。
しかし既に政府の金庫は底を突き、ホーチミン市(旧サイゴン)の地下鉄建設は遅れに遅れている。こんな状況で緊縮財政に転じれば、インフラ整備の目標達成は不昨能になる。
状況の打開には民間投資が欠かせないが、現状でインフラ投資に占める民問資金の割合は1割程度だ。そして政府が一段の経済改革を進めない限り、民間投資は増えない。
共産党独裁の正統性を国民に納得させるには、経済成長を維持して国民の生活を改善していくしかない。ベトナム国民が現状を受け入れているのは、共産党政権が教育や医療などの基本的サービスをそれなりに整備してきたからだ。
しかし、この現状が続く保証はない。何しろ汚職が増えている。国際的な汚職監視団体トランスペアレンシー・インターナショナルの今年の報告では、ベトナムは汚職が蔓延する国ランキングでアジア第2位。子供をいい学校に入れたり、優先的に入院させるために「潤滑油」を買わされた国民は65%に上る。
経済成長を維持し、生活レベルの改善を続けられなければ、国民はますます政府に不満をぶつけるようになる。しかもそこに人口構成の高齢化という重荷がのしかかる。ベトナム共産党の未来は暗くなるばかりだ。【10月31日号 Newsweek日本語版】
*******************
言論・報道の自由の制限、「豊かになる前に老いさらばえるリスク」、「潤滑油」社会、経済成長で共産党独裁の正統性を国民に納得させる・・・南シナ海で争う共産党支配の中国とベトナムは“よく似た国家”でもあるようです。