孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ 日タイ修好130周年も、強まる中国の影響 アメリカは軍政との関係修復へ 新国王の今後は?

2017-10-05 22:31:56 | 東南アジア

(タイの首都バンコクで建設が進む火葬施設=2日(共同)【10月3日 産経フォト】)

国外逃亡のインラック前首相に禁錮5年 “政治的”裁判のようにも
国際的にも注目されていたタイ・インラック前首相に対する判決直前に本人が出国逃亡したこと、本人不在のまま禁錮5年の実刑という厳しい判決が下されたことは周知のとおり。

****インラック前タイ首相に禁錮5年の判決 本人は国外逃亡****
タイのインラック前首相(50)が在任中のコメ政策で国家財政に巨額の損失を与えたとして、職務怠慢罪などに問われた裁判で、最高裁判所は27日、本人不在のまま禁錮5年の実刑判決を言い渡した。

判決はもともと先月(8月)25日に予定されていたが、インラック氏が直前に国外に逃亡し、言い渡しが延期されていた。
 
問題とされたのは、2011年に首相に就任したインラック氏が導入した事実上のコメ買い上げ制度。
政府が農民から市価より高い価格で買い、農民の収入が上がった一方で、政府の財政赤字を招いた。14年5月のクーデターで実権を握った軍事政権は、損失が出ることを知りながら政策を変えなかったことが職務怠慢にあたるとし、インラック氏を訴追していた。
 
これに対し、インラック氏は「農民に適切な収入を得させるための有益な政策だった」とし、訴追は政治的な動機に基づくものだと反論していた。
 
農民など低所得層向けに手厚い施策をとってきたタクシン元首相や、妹のインラック氏らタクシン派への支持は農村部を中心に依然として根強く、有罪判決に反発して結束を強める可能性がある。

判決を受け、来年後半にも予定される総選挙に向けてタクシン派、反タクシン派とも戦略を練り直すことになりそうだ。【9月27日 朝日】
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“損失が出ることを知りながら政策を変えなかったことが職務怠慢にあたる”・・・・確かに財政的な負担が大きい“ばらまき政策”であることは間違いありませんし、政策的に正しい判断だったどうかという問題はありますが、農民層の生活改善を目指した政策的判断(もちろん、支持層を固めるという政治目的があってのことですが)が“犯罪行為”にあたるのか・・・疑問も。

農産物の高値買い取り制度や補助金など、農民への優遇政策・所得補填政策は、日本を含め多くの国でとられています。

すべての政策は財政的負担を伴うもので、実行するかどうかは“政治判断”であり、その妥当性は司法ではなく、議会における議論なり、選挙なりで争われるべきものでしょう。

その意味で、今回の訴追、厳しい判決は、軍政側のタクシン派弾圧に沿った“政治判断”だったようにも思えます。

インラック前首相側、軍政側双方とも、上記のような厳しい判決が出ることを事前に承知しており、タクシン派の抗議行動激化を懸念する軍政側がインラック氏の逃亡を助けた・・・というのがもっぱらの観測ですが、実際のところはよくわかりません。

確かに、インラック氏の出国逃亡により、抗議行動で混乱することもなく、タクシン派はインラック前首相という象徴を欠くことにもなり、軍政にとっては“都合のいい”展開ではあります。

もっとも、タクシン・インラック両氏を国内に欠いて、このままタクシン派の抵抗が収束するのか、あるいは上記記事にあるように“有罪判決に反発して結束を強める”のか・・・来年総選挙に向けた展開を見る必要がありそうです。

インラック前首相の現況については、イギリスに渡り、政治亡命を考えているとも報じられています。

****インラック前首相が政治亡命を申請か****
米CNNが「インラック前首相がロンドンに滞在」と報道。前首相がロンドンに行ったのは英国に政治亡命を認めるよう申請することが目的という。

タクシン派・タイ貢献党関係筋から提供された情報に基づいたとされるこの報道は、ロイター通信が先に「前首相が9月11日にドバイを離れた」と報じたのを裏付けるものとなっている。ドバイは国外逃亡中のタクシン元首相が生活の拠点としている。

また、反タクシン派・民主党のワチャラ元下院議員は、インラック前首相はタイ国内で迫害を受けるなどして国外に逃れたのではなく、受刑を免れるために逃亡した犯罪者であり、亡命の条件に合致しないことを速やかに国際社会に発信するよう外務省に要求すると述べている。【10月2日 バンコク週報】
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崩れつつある「タイでは日本企業がナンバーワン」】
ところで、9月26日は“日タイ修好130周年”にあたる日だったようです。

****日タイ修好130周年式典****
日本とタイの修好130周年を祝う式典が26日、バンコクで開かれた。タイのウィラサック副外相は「両国関係は包括的で多層的なものに発展してきた」と語った。

堀井巌外務政務官は「日本の産業はタイと共に成長してきた」とあいさつし、安倍晋三首相のメッセージをウィラサック氏に手渡した。
 
日本とタイの交流は600年前にさかのぼると言われる。琉球と貿易が始まり、その後、当時の都アユタヤに日本人町も形成された。1887年9月26日の条約締結で、正式に国交が始まった。
 
日本企業にとってタイは一大生産拠点であり、サプライチェーンの重要な一角を担う。また、タイからの訪日客も増えており昨年、90万人を突破した。【9月27日 毎日】
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記念イベントも行われたようですが、全般的にはあまり大きな話題になることもなかったようです。
プミポン前国王の葬儀を控えているという時期的なもののあるのでしょうか。

“日本企業にとってタイは一大生産拠点であり・・・”という関係は、例によって中国の影響力がタイにおいても顕著になるにつれ、今後もそのような表現が可能かどうかは怪しい情勢とも。

****中国の「属国化」進むタイ軍政****
日本企業を脅かす「紅い資本」の猛威
タイのプラユット政権は国民の根強い軍政批判を無視したままその座に居座り続け、民政移管への行程表は現状ではまったく見えない。

タイ経済は観光収入の増加、政府のインフラ投資などで今年四〜六月に三・七%成長など一見、持ち直してはいる。だが、外資の直接投資は停滞し、むしろ人手不足、賃金上昇で「タイ脱出」が加速しつつある。

そうした出口のないタイ政権に救いの手を差し伸べているのが中国。自動車、電子など中国企業のタイ進出は勢いを増し、金融でも中国式スマホ決済が席巻しつつある。タイに東南アジア最大の基盤を築いてきた日本企業は足元を侵食されつつある。(中略)

中国の大手民族系自動車メーカー、上海汽車がバンコク東部のチョンブリ県の工業団地に建設したタイ最大の企業グループ、チャロンポカパン(CP)との二番目の合弁工場が稼働。タイ政府認証のエコカー生産を本格化したことが中国企業を勢いづかせている。(中略)

経済圏拡大の橋頭堡
タイといえば、日本の自動車メーカーでスバルを除く全社が生産拠点を構え、東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の生産規模になっているほか、タイの自動車市場の日本車シェアは八五%前後と圧倒的。この状況に独フォルクスワーゲンですら工場進出を躊躇するほどだ。
 
にもかかわらず、上海汽車がタイで投資を拡大しているのは、一四年五月のクーデターで政権を奪取したプラユット軍政から依怙ひいきとも取られかねない多くの支援策を受けているからだ。(中略)

タイにとって、中国は大国で唯一、政治的にプラユット軍政を認め、積極的に支持してくれる存在。

中国にとっては習政権の最大の外交戦略である「一帯一路」を推進するうえで、タイはインド洋にも出口を持つ地政学上、外せない国。

中国は軍政時代に事実上、属国化していたミャンマーがテインセイン前政権と民主化後のアウンサンスーチー政権のもとで中国に距離を置き、独自外交を展開していることが戦略上の失点となっている。ミャンマー以外にもうひとつの確実なインド洋への出口として、タイ重視策を打ち出しているわけだ。
 
さらに中国が人工島建設を既成事実化しようとする南シナ海をめぐり、両国には紛争がないことも中国にとってプラスだ。タイ政府は昨年から潜水艦、戦車など中国からの武器購入を急増させている。
 
重要なのはそうした外交、軍事戦略と並んで、中国がASEANへの経済圏拡大の橋頭堡としてタイを使おうとしている点だ。
 
バンコク繁華街に林立するコンビニエンスストアやドラッグストア。セブンイレブン、ファミリーマートやBoots、マツモトキヨシなど日本でもおなじみの看板が日本人客を引き寄せる。

だが、いざ会計となって日本人が周りを見渡すと地元のタイ人や中国人観光客が使うのは支付宝(アリペイ)と微信支付(ウイチャットペイ)の中国のスマホ決済システムで、もはや現金払いは少数派。

気がつけば、サイアムパラゴン、エンポリアムといったバンコク中心部の大型商業施設の店舗も支付宝などが定着している。タイ国内の小口決済は中国方式で固められ、日本企業が展開を狙ったSuicaはもはや付け入る隙もない。(中略)

縮小続く日本製品の生存圏
製造業に話を戻そう。タイではスマホのシェアトップだった韓国サムスンがシェアを低下させ、今、トップに立とうとしているのは広東省に本拠を置くOppoとVIVOの中国の新興メーカー二社。基地局設備では華為技術、中興通訊(ZTE)が寡占状態。中国製造業は日本メーカーが弱体化した分野からタイ市場を奪いつつある。
 
家電では韓国のLGエレクトロニクスが強く、パナソニック、ソニー、ダイキン工業なども存在感はあるものの、高額商品に偏っている。タイの庶民の間では中国製品の品質向上で、韓国から中国メーカーへの製品乗り換えが始まっている。
 
日本企業は今なお、タイでは最も信頼されるブランドと自負しているメーカーが多いが、足元では日本商品の生存圏は縮小を続けている。

雇用の面でも、かつてはトヨタ、ホンダ、パナソニック、コマツに勤めていることはタイ人の誇りだったが、最近は昇進スピードが速く、給与水準も高い韓国、中国企業が優秀な学生を取り込み、「タイで日本企業が雇えるのは一・五流から二流に低下した」(人材コンサルタント)。日本メーカーが話し合いで給与水準を抑制しようとする点が、タイ人の優秀な人材の流出を招いている。

「タイでは日本企業がナンバーワン」。新しい日本人社員がバンコクに赴任すると先輩社員が必ず語る言葉だ。だが、それが崩れつつあることに日本企業の多くは気づいていない。
 
工業団地で最大規模の工場が中国メーカー、給与が最も高いのも中国メーカーといった時代は確実に近づいている。タイが軍政のもとで、軍事、外交だけでなく、経済分野でも中国の属国化しつつある事実に目を向けるべき時だ。【「選択」 2017年10月号】
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話の内容はともかく、“属国化”という表現はややセンセーショナルに過ぎるように思えます。
もし、そういう表現が許されるなら、“タイは日本の属国から解放されつつある”とも言えるでしょう。

要は、政治的にだけでなく、経済関係においても中国の存在が大きくなっており、その分、日本の影が薄くなっているということであり、冷静に現実を直視し、今後の対応を検討する必要があります。

東南アジア諸国がいつまでも日本の“属国”であり続ける、あるいは、そうあるべきだと思い込むのは、根拠なき妄想にすぎないでしょう。

アメリカ・トランプ政権 タイ軍政との関係修復へ
政治的関係について言えば、タイは最近、中国製潜水艦3隻の購入を決めるなど、中国への接近が目立っています。
タイ軍政の中国接近という現実に対し、軍政と距離を置いてきたアメリカも軌道修正をはかっているようです。

****米・タイ首脳が会談 中国にらみ関係修復****
トランプ米大統領は2日、ホワイトハウスでタイ軍事政権のプラユット暫定首相と会談した。両国の首脳による会談は、2014年5月の軍事クーデターでプラユット陸軍司令官(当時)が実権を掌握して以降初めて。
 
トランプ氏は会談の冒頭、米タイ関係が自身の大統領就任後の9カ月間で「一層強固になった」と述べた上で、「両国の通商関係は重要度を増している」とし、タイへの輸出促進に意欲を表明した。 
 
プラユット氏は「両国は長年にわたる同盟国だ」と指摘し、テロなどの脅威への対処に向けて防衛・安全保障協力を進めていくとともに、「地域の懸案への対処に向けて緊密に連携していく」と強調した。
 
米タイ関係をめぐっては、オバマ前大統領がタイでのクーデターを受けて「早期の民政復帰」や「人権尊重」を要求し、タイ軍との合同演習を減らすなどプラユット暫定政権と距離を置いていた。
 
これに対しトランプ氏は、中国による南シナ海の軍事拠点化や東南アジア諸国への影響力拡大に対抗するため、オバマ前政権下で関係が冷却化していたタイやフィリピンとの関係改善を推進。11月には、オバマ氏を激しく罵倒していたフィリピンのドゥテルテ大統領とマニラで会談を予定している。【10月3日 産経】
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アメリカの軌道修正に対し、“人権弁護士団体のパビニー・チュムシリ弁護士は「クーデター後、タイでの政治的表現に関する人権侵害に対し、米国は声明を出すなどしていたが、変わってしまった」と話した。”【10月3日 毎日】
といった声も。

トランプ大統領誕生で、アメリカが“変わってしまった”のは間違いありません。人権とか民主化といった価値観は捨て置かれ、アメリカにとって有利な関係のみが追及されるようにもなっています。
その意味で、アメリカも中国も共通の土俵で争うようになっているとも言えます。

相変わらず奔放な新国王 政治対立へのスタンスは?】
タイでは今月下旬にプミポン前国王の葬儀が行われます。

****別れの列、延々と=前国王弔問最終日―タイ****
昨年10月13日に88歳で死去したタイのプミポン前国王のひつぎの前で、国民が哀悼の意をささげる一般弔問が5日、最終日を迎えた。ひつぎが安置されているバンコクの王宮前では未明から多くの人が延々と続く長い列を作り、別れを惜しんだ。(中略)

一般弔問は昨年10月末に始まり、これまでの参列者は延べ1263万人。1日当たりで最も多かった4日は9万6150人に達した。一般弔問は9月30日までの予定だったが、命日が近づくにつれ訪れる人が増えたため、延長された。
 
葬儀は25〜29日。火葬が行われる26日には25万人の参列が見込まれている。バンコクでは今月初めから黒い服を着る人が増え、追悼ムードが高まっている。【10月5日 時事】
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で、新国王のワチラロンコン国王はと言えば・・・。

****相変わらず「自由奔放」なタイ国王 愛人との旅行姿がネット上に流出****
即位前から悪評しかなかったタイのワチラロンコン国王に国内から密かな非難の声が上がっている。
 
国王の息子の留学先であるドイツで、元看護師の愛人と連れ添ってショッピングする姿が確認されたのは今年春。その後六月以降に当時の写真がネット上に流出し始めたのだ。

タイ国内では王室に対する不敬罪があるため、表立っては批判できないものの、陰口を叩いている状態だという。また、最近では財界周辺からも「なんとかしろ」という声が上がる。
 
タイでは、前国王の葬儀を十月下旬に控えている。新国王は葬儀中の国内滞在には同意したものの、交際相手とのドイツ旅行をやめる気はないというから、批判は収まりそうもない。【「選択」 2017年10月号】
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ふつうは、周囲の目も気にして、しばらくは身を慎む・・・というのが常識的ですが(しかも現在は、反政府的行為とみなされるものが厳しく取り締まられる軍政下にあります)、そうした周囲の批判・空気を気にしないあたり、新国王はなかなかの“大物”なのか、単に王族育ちで鈍感・わがままなのか、あるいは意図的に軍政の神経を逆撫でしているのか・・・。

冒頭の総選挙に向けたタクシン派・軍政の国内対立という問題については、このワチラロンコン国王がどちらの側に立って、どのように行動するのかも大きな焦点です。
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