孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  香港の情勢を「暴動」と呼び、中国の対応を評価するトランプ大統領

2019-08-12 22:55:21 | アメリカ

(12日、香港国際空港の出発ロビーを占拠するデモ隊【812日 産経】)

 

【混乱続く香港 空港の航空便運行も取り消し】

一昨日も取り上げた香港情勢については、依然として衝突が続いています。

 

****香港デモ、10週連続 地下鉄駅でゴム弾や催涙ガス発射****

香港の「逃亡犯条例」改定案の取り下げなどを求めるデモは10週連続で行われ、11日も参加者と警官隊が衝突した。

 

2カ月にわたって続いているデモは、参加者と香港政府の双方が譲らず、鎮静化の兆しが見えていない。

11日午後には、ヴィクトリア公園に集まったデモ参加者たちが、警察による禁止措置に反して主要道路に流入。これをきっかけに、警官隊と衝突が起こった。

 

中心部の数カ所でも、警官隊がデモ参加者たちに向けてゴム弾を発射。繁華街の尖沙咀(チムサーチョイ)や湾仔(ワンチャイ)地区では、警官隊が催涙ガスを使ってデモの解散を試みた。

 

地下鉄駅の中で発射

湾仔地区では、デモ参加者たちが警官隊に火炎瓶やれんがを投げつけ、警官隊が警棒で参加者たちを制圧にかかる場面もあった。

 

地下鉄の駅の中で撮影され、ツイッターで拡散された動画には、警官隊がデモ参加者たちに向け至近距離でゴム弾を発射している様子や、エスカレーター付近で警棒を使って参加者たちを叩いている模様が映っている。

 

BBCのスティーヴン・マクドネル記者はツイッターで、「この衝撃的な動画では、香港の警官隊が地下鉄駅で民主化を求める活動家を追いまわし、無差別に(ゴム弾を)発射している。警察が挑発されているのを見てきたが、これには閉口した。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は警察は独自調査をしているので(この件に関する)調査は必要ないと話している」と現場の様子を説明した。

 

地下鉄の葵芳(クワイホン)駅では、警官隊が催涙ガスを駅の中に向けて発射した。地元メディアによると、閉鎖状態の地下鉄駅の中で催涙ガスが使用されたのは初めてだという。

 

ソーシャルメディアでは、警官隊の発射した物が当たったとされる、片目から大量に出血している女性の画像が拡散された。

 

デモ参加者たちの新戦略

マクドネル記者によると、デモ参加者たちは小グループで何カ所かに分散して抗議行動をし、警官隊が現れると逃げるという戦略を取り始めているという。

 

地元メディアは、警官隊の一部が私服でデモ参加者たちに紛れ込み、参加者の不意をついて逮捕する場面もあったと報じた。

 

11日には香港国際空港でも、3日連続で座り込みの抗議行動があった。衝突や逮捕などはなく、航空機の発着に影響はなかった。

 

デモ参加者たちの要求は…

政府は犯罪容疑者の中国本土への引渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案の審議を棚上げにしたが、デモ参加者たちは改定案を完全に取り下げることを求めている。

 

デモ参加者たちはさらに、警官隊の暴力行為に対する調査や、林鄭行政長官の辞任も要求している。【812日 BBC】

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今日12日には香港国際空港の航空便運行も取り消されています。

 

****香港 国際空港 抗議活動できょうの運航取り消し****

香港の航空当局によりますと香港の国際空港は空港内で行われている抗議活動のため、現時点ですでに出発済みの便や搭乗手続きが終わっている便を除いてこのあと、すべての航空便の運航を取り消すということです。

 

香港では、容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例の改正案をめぐって抗議活動が相次ぎ、12日はSNSを通じて、日本時間の午後2時から空港内で抗議活動が呼びかけられていました。

到着ロビーには大勢の市民が集まり、座り込みを行っているほか、一部は出発ロビーでもシュプレヒコールをあげています。

 

香港航空会社「空港に近づかないように」

香港の航空会社キャセイパシフィックは、日本時間の午後5時、ホームページで声明を発表し、香港の航空当局からの指示にもとづいて香港国際空港からの12日の運航便をすべてキャンセルすると明らかにしました。

空港で行われている抗議活動が理由だとしていて、乗客に対し、「不要不急の渡航は延期し、空港には近づかないようにしてほしい」と呼びかけています。【812日 NHK】

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【トランプ大統領 香港のデモを「暴動」と呼び、中国政府が対処すべきと また、習主席が「責任をもって行動している」とも】

こうした香港情勢について、抗議行動を支援しているとされるアメリカと中国が「内政干渉するな」云々で対立を深めているという話は前回ブログでも取り上げました。

 

もっとも、そういう米中対立はトランプ大統領個人の考えとはかなり違うようだ・・・というのが今日の話です。

 

トランプ大統領自身は、香港の問題はあくまでも中国の問題であり、これに関与する意思はないというもののようです。

 

****香港の「暴動」、中国が対処すべき=トランプ米大統領****

トランプ米大統領は1日、「逃亡犯条例」改正案の撤回を求める香港のデモについて、「暴動」であり、中国政府が対処すべきだと発言した。オハイオ州の選挙イベントに向かう際、記者団の質問に答えた。

 

トランプ大統領は、中国が香港に介入する可能性があるとの現地報道を懸念しているかとの質問に対し「(香港では)長い間、暴動が続いている」と発言。「香港は中国の一部だ。中国が自ら対処する必要がある」と述べた。

 

中国政府は、香港のデモについて、背後に米当局者がいると主張し、関与を止めるよう要求している。

 

トランプ大統領は先月、中国の習近平国家主席が香港の大規模デモに対し「責任ある行動」を取っていると確信していると発言。中国が望めばデモを阻止することは可能との見方を示した。【82日 ロイター】

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ここで注目されるのは、トランプ大統領が香港の混乱を「暴動」と表現していることです。

「暴動」という言葉には、運動の正当性を擁護する姿勢ではなく、社会秩序を乱す動きというネガティブな評価が感じられます。

 

同様の発言は、かつて「天安門事件」についても問題となりました。

 

****トランプ氏、天安門事件を「暴動」と呼ぶ 米大統領選TV討論会****

米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏は10日、米CNNによるテレビ討論会で、1989年に中国・北京の天安門広場で行われた民主化運動を「暴動」と呼んだ。

 

司会役のジェイク・タッパー氏は、トランプ氏が1990年に米男性誌プレイボーイ上で述べた天安門事件についてのコメントに対して批判が上がっていることを受け、トランプ氏のコメントを求めた。

 

これに対しトランプ氏は、天安門で起きたことを支持していないと強調した上で、「(中国政府は)暴動を抑え込んだ」と発言した。【2016311日 AFP】

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また、香港に関しての中国の対応を評価するような発言も。

 

****トランプ氏 習主席の“香港デモ”対応評価****

香港の逃亡犯条例改正に反対するデモが激しさを増す中、トランプ大統領は22日、習近平国家主席が「責任をもって行動している」と評価した。

香港では、21日のデモに主催者発表でおよそ43万人が参加し、一部が中国政府の出先機関の建物に落書きするなどした。

一方、地下鉄の駅では、突然現れた白い服の集団がデモ参加者らを標的に、傘や木の棒で次々と襲いかかった。この映像を見たか聞かれたトランプ大統領は、直接は答えなかったものの、デモに対する当局の対応が「比較的暴力的ではない」との認識を示し、習主席の対応を評価した。

トランプ大統領「中国はデモを封じることができるが、習主席は責任をもって行動している」

また、大統領は「習主席が正しいことをすると願っている」と述べた。【723日 日テレNEWS24

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一連のトランプ大統領の発言からわかるのは、中国共産党支配を香港にも拡大していこうとする動きに対し、香港の「自由」を守ろうと行動している抗議行動に、トランプ大統領は全く関心をもっておらず、力で秩序をいじしようとする中国の対応をむしろ評価しているということです。

 

言い換えれば、人権とか民主化といった価値観に対する無関心であり、強権的支配の容認です。

 

こうした大統領の選好は、習近平国家主席やプーチン大統領、あるいは金正恩朝鮮労働党委員長に対する強い共感にも通じるものであり、強権支配だろうが何だろうが、ぐだぐだ文句を言う国内反対勢力を抑え込んで、アメリカの経済的利益になる取引をまとめてくれる指導者・政治体制が好ましいという考え方の表れでしょう。

 

【トランプ大統領・習主席が米中交渉をまとめたいなら、香港に武力介入しないように主張すべき】

こうした姿勢はオバマ元大統領はもちろん、ブッシュ、レーガンといった保守派大統領とも全く異質なものです。

 

トランプ大統領としては、米中間のディールを取りまとめるためには、香港については口出ししないというところのようですが、かつてのアメリカであれば、下記記事のように、むしろ香港への中国の武力介入を防ぐために米中貿易交渉を利用しようというものだったでしょう。

 

なお、下記記事の表題は文意にそぐわない、誤解を与えるもののように思えます。むしろ“米中交渉を香港の「切り札」に”といった方が適切なようにも。

 

****【社説】香港を米中貿易交渉の「切り札」に ****

米中貿易交渉はただでさえ複雑化しているが、それでもまだ足りないかのように香港問題が合意を不可能にしかねない要因として浮上してきた。

 

香港市民が、中国から約束された1997年からの50年間の自由を守るため、民主的改革を求め抗議行動を続けていることに対し、中国当局は次第に威嚇的姿勢を強めている。中国国務院香港・マカオ事務弁公室の楊光報道官は6日「火遊びする人々は、火によって滅びる」と述べるとともに、中国は抗議行動を鎮圧する「強大な力」を持っていると警告した。

 

香港に配備された人民解放軍の駐留部隊もこうした力に含まれている。香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は5日、香港は「極めて危険な状況に突入しようとしている」と指摘し、秩序を回復させる決意を示した。楊報道官も、これとほぼ同じ文言を繰り返した。

 

香港での失政はすべて、ラム氏と彼女を支える中国政府当局者の責任だ。犯罪容疑者の中国本土移送を可能にする逃亡犯条例改正案をラム氏が強行可決しようとしたことが、抗議行動の引き金となった。彼女は、条例案は「死んだ」としながらも、同案の撤回は拒否している。彼女はまた、抗議行動参加者に対する警察と、中国政府の支援を受けた暴漢らの暴力行為に関する捜査も拒否している。

 

中国は、民主派の候補を排除し、自らの下請け役による香港政府の運営を確実にすることで、民主主義の要求を妨げてきた。香港市民が街頭で抗議をしているのは、それ以外に自分たちの自由を守る方法がないからだ。

 

中国の習近平国家主席がデモを終わらせるために軍の派遣を決めれば、確実に暴力的な衝突につながり、恐らくは流血の事態を招くだろう。こうした侵攻は、自由貿易と金融の窓口としての香港にダメージを及ぼすだろう。

 

だが習氏は、中国本土にとっては、民主主義の実例を示すデモの継続を容認するよりも、香港侵攻の方がリスクが小さいと考えるかもしれない。

 

この文脈からすると、トランプ大統領が先週、香港に関して習氏を支持したことは残念だ。中国軍が介入するかもしれない懸念について聞かれたトランプ氏は次のように話した。

 

「香港で恐らく何かが起きようとしている。今何が起きているかを見ると分かるように、長期間にわたって暴動が起きているからだ。そして、中国がどのような意見を持つのかをわたしは知らない。ある時点で彼らがそれを止めようとするだろうと言う人もいる。だが、それは香港と中国の問題だ。香港は中国の一部だからだ。彼らは彼ら自身でそれを解決しなければならない。彼らにアドバイスは必要ない」

 

しかし、習氏が貿易分野での合意を望むのであれば、習氏にとって必要なアドバイスは「香港に侵攻すべきではない」というものだ。

 

香港は中国だけの問題ではない。中国は香港返還に関する英国との取り決めにおいて「一国二制度」を約束しており、香港の将来は「国際的な」課題である。この特別な地位は、中国には認めていない通商上およびビザ(査証)の特権を米国が香港に認めている法律上の根拠となっている。

 

トランプ氏は、香港問題で習氏の言い分を認めることが米中貿易交渉での合意成立の手助けになると考えているのかもしれないが、それもまた、間違っている。

 

中国軍部隊が攻撃態勢を取り、大量の逮捕者や死者を出すことになれば、民主党は、トランプ氏の発言内容を使い、同氏が中国による弾圧を招いたと主張するだろう。

 

トランプ氏はまた、中国との通商合意に対し、米議会で超党派による圧倒的な人数の反対に直面するだろう。そして、すでに決定済みのものよりも一層厳しい関税を中国に適用すべきだとの圧力に直面することになるかもしれない。

 

トランプ氏が中国のとの通商合意を望むのであれば、習氏に対し、香港への中国軍部隊の出動を引き続き見合わせるよう伝えなければならない。【87日 WSJ】

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なお、トランプ大統領が「ディール」の観点から米中交渉を見ているのに対し、政権内には、中国に対する不信感が強く、現在の米中対立を今後の覇権を争うものとしてとらえる見方が根強くあります。

 

そうした対中国強硬派の思惑は、中国の香港への武力介入を阻止することではなく、むしろ香港の抗議デモを煽ることで中国を介入に追い込み、中国を「悪玉」にしたてることにある・・・との見方も。

 

“もし、アメリカが香港デモをオーガナイズしているのなら、以前にも書きましたが、「第2次天安門事件」が起こり、それを口実に、米欧日・対中経済制裁にもっていきたいのでしょう。クリミア併合後の対ロシアのように。

そうなると、アメリカ企業も相当な損害が出ますが、「覇権にはかえられない!」と決意している勢力が、今のアメリカを牛耳っている。それは、トランプさんというより、昨年10月、中国に「宣戦布告演説」をしたペンスさんのグループなのでしょう。”【87日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】

 

この二つの異なる姿勢が混在していることが、トランプ政権の対応が首尾一貫しない原因でもあるでしょう。トランプ大統領自身の中にあっても、本来の宥和的姿勢と周辺が焚きつける強硬姿勢が混在しているのかも。

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