孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  太平洋諸島諸国で影響力を中国と競うも、その高圧的姿勢に反発も

2019-08-20 22:29:22 | オセアニア

(【2012年5月25日 WEDGE Infinity】

 

【太平洋諸島諸国で影響力拡大を競う中国とオーストラリア】

中国が各地で影響力を強めているのは今更の話ですが、太平洋諸島諸国においても、インフラ支援をてこにして関与を強めています。台湾が外交関係のある国の3分の1がこの地域に集中していることも、中国がこの地域への関与を強める背景にあります。

 

****中国の拠点、サモアにも? 港建設を支援****

中国が南太平洋のサモアで、新しい港の建設支援を検討している。安全保障上の戦略的な思惑もあるとみて、米国やオーストラリアが警戒。

 

日本が最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)が5月の年次総会をフィジーで開いた背景にも、太平洋諸国に及ぶ中国の支援攻勢がある。

 

(中略)新港の必要性について、パパリイテレ公共事業・運輸・インフラ相は取材に「アピア港が手狭になってきている」と説明した。

 

だが、アピア港は昨年6月、日本政府の35億円の援助で、埠頭(ふとう)の長さが2倍の約300メートルに拡張され、大型クルーズ船も停泊できるようになったばかりだ。

 

新港建設は、サモア政府の依頼でADBが2016年に将来の港湾整備計画を作ったが、「経済性が低い」と評価された。貨物量の増加も予想されず、アピア港の改修で十分、との判断からだ。ADBの立入政之・太平洋地域ディレクターは「新港への投資を(利用収入などで)回収するのは難しい」と話す。

 

それでも、政府は「アピア港には、クルーズ船がいる間、貨物船のスペースがない」(パパリイテレ氏)と新港建設をあきらめていない。

 

だが、人口20万人の島国に「建設に十分な財源はない」。そこで中国に支援を要請。これに中国が応じ、事業可能性調査を年内に終える予定だという。(中略)

 

 ■軍事利用の懸念も

(中略)サモアでは、中国による空港や病院、政府庁舎などのインフラ支援が目立ち、対外債務の国内総生産(GDP)比は50%に迫る。中国の融資で港を建設したものの返済に窮し、中国企業が運営権を得たスリランカのように、中国の「債務のわな」に陥りかねないと米国などは懸念している。

 

中国が採算を度外視して南太平洋の島国を支援するのは、安全保障上の利益があるためだ。港は南米からの食料や鉱物資源の輸入船の寄港拠点になりうる。

 

豪戦略政策研究所のマルコム・デービス上級アナリストは「港には中国の軍艦も寄港できる。サモアがそうなれば、太平洋の戦略地図を変え、米豪には大きな懸念になる」と指摘する。

 

ハワイから豪州の間の赤道以南の太平洋地域で米軍が駐留するのは豪州だけだ。サモアのすぐ東には米領サモアがあるが、米軍基地はない。安保上の「空白地帯」に、中国が手を伸ばす動きとの見方がある。

 

南太平洋では昨年4月、豪紙が「中国がバヌアツに海軍基地を設ける協議を始め、中国の支援でできた埠頭(ふとう)が候補地だ」と報道。両政府は否定したが、豪州では警戒感が広がった。(後略)【5月3日 朝日】

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“中国にすり寄る太平洋諸国”【同上】に対し、従来よりこの地域に影響力を有してきたオーストラリアは危機感を強め、中国に対抗する形で関与を強めようとしています。

 

****豪、ソロモン諸島に資金協力=最大188億円、中国に対抗****

オーストラリアのモリソン首相は3日、訪問先の太平洋の島国ソロモン諸島でソガバレ首相と会談し、インフラ整備で豪州が10年間に最大2億5000万豪ドル(約188億円)の資金協力を行うことで合意した。

 

インフラ支援をてこに太平洋諸島諸国への影響力を強める中国に対抗する狙いがあるとみられる。5月の総選挙で勝利したモリソン首相は選挙後初の外遊先としてソロモン諸島を選び、太平洋諸島重視の姿勢を打ち出している。【6月3日 時事】 

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【中国からの債務増大に警戒感も】

太平洋諸島諸国も、こうした中豪が影響力を競う構図を利用して最大限に利益を引き出そうとしています。

 

****パプア、中国に8500億円分の「借金」要請 債務返済のため異例の対応****

パプアニューギニア(PNG)政府が中国に、総額約270億キナ(約8500億円)に上る政府債務の借り換え支援を求めた。

 

異例とも言える要請が通れば、太平洋の島国の間で広がる中国の影響力がさらに強まる可能性がある。豪紙オーストラリアンが7日、伝えた。

 

PNGの政府債務の金額は、同国の国内総生産(GDP)の3割相当にまで拡大。主な輸出品である原油や天然ガスの価格が落ちた影響で歳入が伸びなかったためとされる。この「借金」返済のために、中国から新たに借金する形だ。

 

5月に就任したマラペ首相は6日、薛冰・中国大使に会って借り換えの支援を求め、両国の中央銀行とPNG財務省が具体的な協議を進めるよう提案した。

 

同紙は「中国は、PNGが返済できなくなったときのために、大型の資源事業といった担保を求めるだろう」との国際金融筋の見方を伝えた。

 

PNGは資源が豊富。最大の援助国の豪州のほか、日本や米国が関係を重視している。近年は、中国が国際会議場や幹線道路などの整備支援を通じて、PNGでの存在感を増している。【8月8日 朝日】

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ただ、太平洋諸島諸国も中国からの債務が大きな負担となりつつあり、いわゆる「債務の罠」に対する警戒感も強まっています。

 

*****太平洋諸島フォーラム開幕 中国巨額援助の「債務の罠」に危機感****

オセアニアの地域協力機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」の年次総会が(2018年9月)3日、太平洋の島国ナウルで始まった。

 

太平洋諸国は中国からの巨大経済圏構想「一帯一路」などを通じた巨額の援助で「債務のわな」に陥る危険性が指摘されており、4日の首脳会合では債務放棄要請が議題となる可能性がある。

 

一方、台湾は外交関係のある国の3分の1がこの地域に集中し、中国に対抗して現地で存在感の維持に努めている。

 

オーストラリアのローウィ国際政策研究所によると、中国が2011年以降、太平洋諸国に援助した総額は低利融資を含め約12億6千万ドル(約1400億円)。豪州に次ぐ2位で、ニュージーランドを上回る。公約ベースでは59億ドル(約6500億円)に上り、地域全体への援助公約額の3分の1を占める。

 

ロイター通信によると、トンガでは対外債務の約60%、バヌアツでは約半分が中国に由来する。世界銀行の幹部は同通信に、太平洋諸国の債務は「継続的に返済できる限界に近づいている」と指摘している。

 

こうした批判に対し、中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は8月30日、中国による「債務のわな」の指摘は「西側メディアの誇張だ」と反論。「中国の融資は被援助国政府と人民の熱烈な歓迎を受けている」と強調した。

 

トンガのポヒバ首相は8月中旬、ロイター通信の取材に対し、PIFの首脳会合で、太平洋諸国が一致して中国に債務放棄を求める計画があると明かした。だが、その直後に「債務問題は各政府が個別に解決策を模索すべきだ」と発言を翻した。中国の圧力が原因の可能性がある。(後略)【2018年9月3日 産経】

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【オーストラリアの高圧的対応への反発も】

一方、この地域を「自分たちの裏庭」と呼ぶようなオーストラリアの傲慢・高圧的な姿勢に対する反発・批判も目立っています。オーストラリアがそうした無礼な対応を続けるなら、今後は中国に・・・という話にもまります。

 

****フィジー首相、豪首相を「無礼」と非難 中国人の方が善良とも*****

フィジーのボレンゲ・バイニマラマ首相は16日、南太平洋地域の独立国・自治政府が加盟する「太平洋諸島フォーラム」の首脳会議の閉幕を受けて、オーストラリアのスコット・モリソン首相を「とても無礼」と非難し、より友好的な外交を持ちかけているとして中国を持ち上げた。

 

ツバルで開催されたPIF首脳会議は、気候変動で存亡の危機にひんする島しょ国側と、石炭業界に好意的な豪政府が反目。15日の閉幕後、バイニマラマ首相はモリソン首相の高圧的な手法を批判した。

 

バイニマラマ首相は16日夜、英紙ガーディアンの取材に対し、「(モリソン)首相はとても無礼で恩着せがましかった。(両国の)関係にとって良くない」と語った。

 

米ニューヨークで来月開かれる国連気候行動サミットを控える中、PIFは気候変動の矢面に立つ国々の側から、行動を迫る国際的なメッセージを表明することを目指していた。

 

だが、島しょ諸国の首脳たちによると、涙が流れ、怒号が飛び交う有様となった12時間にわたる協議の末、モリソン氏の強い要求で首脳会議の共同コミュニケ(合意文書)が骨抜きにされ、期待に遠く及ばない代物となった。

 

モリソン首相は、再生可能エネルギーおよび気候変動からの回復力強化への投資、さらには太平洋地域で影響力を高める中国への対抗策の一環として、太平洋の島しょ諸国に5億オーストラリア・ドル(約360億円)の支援を約束。

 

だが、他の首脳らは豪政府に対し、二酸化炭素の排出削減と、利益をもたらす石炭産業の抑制を要求した。

 

バイニマラマ首相は、「(モリソン首相が)ある段階で、他の首脳らによって窮地に立たされたようになり、オーストラリアが太平洋諸国に与えてきた金額がどれほどのものになるかと言い出した」「とても無礼だ」と語った。

 

バイニマラマ首相はさらに、オーストラリアと中国の間に、太平洋地域をめぐる「競争は存在しない」とした上で、中国政府の外交アプローチを称賛。「中国政府はこれだけの金額を太平洋諸国に与えてきたと世界に触れ回ったりしない。中国人は善良で、確実にモリソン氏より善いと言える」と主張した。 【8月18日 AFP】

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オーストラリアからすれば、これまでどれだけ支援してきか・・・という思いがあるのは当然でもありますが、気候変動の問題は太平洋諸国にとっては国が海面下に水没するかも・・・という、譲れない問題でもあります。

まあ、とかくカネの話は「それを言っちゃ、おしまいよ」といった面も。

 

水没の危機にあるツバル首相の怒りはフィジー首相以上に激しいものがあります。

 

****ツバル首相、豪州を新植民地主義的と批判 地域機構からの追放求める****

南太平洋地域の独立国・自治政府で構成する「太平洋諸島フォーラム」の有力加盟国の首脳が、オーストラリア政府の「新植民地主義的」な姿勢、および気候変動に対する早急な行動を同国が拒絶していることを批判し、同国はPIFから追放されるべきだと訴えた。

 

先週ツバルで開かれたPIF首脳会議は、気候変動で存亡の危機にひんする島しょ国側と、石炭業界に好意的な豪政府が反目。

 

米ニューヨークで来月開かれる国連気候行動サミットを控え、気候変動をめぐり世界に向けて行動を呼び掛けるメッセージを発しようとしていた参加国の首脳らを黙らせたとして、オーストラリアは批判を浴びている。

 

マイケル・マコーマック豪副首相は、島しょ国の懸念を一蹴し、「こっちに来て果物を収穫して」生計を立てれば良いとの侮辱を口にした。

 

ツバルのエネレ・ソポアンガ首相は、マコーマック氏の発言を「無礼で侮辱的」だとし、豪州にPIFの加盟国資格に疑問を投げかけた。

 

ソポアンガ首相はニュージーランド国営のラジオ・ニュージーランドの取材に対し、「彼ら(豪政府)はパシフィックウエーの精神が分かっていない。私は彼らが何も理解していないと思っている」と語り、「もしそうならば、彼らがPIFの首脳会議にとどまる意味は何だというのだ?私にはいかなる意義も見いだせない」と続けた。

 

同首相は今回の気候変動をめぐるPIFでの騒動について、「宗主国」が議題を決めていた数十年前の地域会合を思い起こさせたと指摘。「彼らが話したことに、この新植民地主義的な姿勢の反映および表明が見て取れる」と語った。

 

これに先立ち、フィジーのボレンゲ・バイニマラマ首相も先週末、スコット・モリソン豪首相を「とても無礼」と非難し、より友好的な外交を持ちかけているとして中国を持ち上げていた。

 

太平洋の島しょ国は、豪政府から毎年合計約14億豪ドル(約1010億円)の支援を受け取っている一方、両者の関係は複雑だ。

 

島しょ国側は寛大な支援を受けているにもかかわらず、豪政府当局者が「自分たちの裏庭」と呼ぶなど、太平洋地域に対するオーストラリアの姿勢にたびたびいら立ちを見せている。 【8月19日 AFP】

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オーストラリアが難民認定希望者をパプアニューギニアなどに放置している問題でも、パプアニューギニア側にはオーストラリアに都合よく利用されているという感があるようです。

 

****パプア首相、豪に難民認定希望者引き受けの期限求める 施設では自殺未遂頻発****

パプアニューギニアのジェームズ・マラペ首相は19日、祖国を逃れてオーストラリアにたどり着いた後、パプアニューギニアのマヌス島に数年にわたり留め置かれている難民認定希望者数百人について、再定住の期限を定めるようオーストラリア側に求めた。同首相が豪公共放送ABCに述べた。(中略)

 

マラペ氏はABCに対し、「われわれが相手にしているのは人間だ。彼らの将来について真剣に考えることなく、彼らを不安定な状態のまま放置しておけない」と述べた。(後略)【7月19日 AFP】

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オーストラリアも太平洋諸国の声に真摯に向き合わないと、ますます中国へ・・・・ということにもなりかねません。

 

【中国の台頭とアメリカの衰退・自国中心主義 オーストラリアには核武装論も】

オーストラリアは、これまで安全保障はアメリカとの同盟に頼る一方で、経済的には鉱物資源輸出などで中国への依存を強めるという形で、両者とのバランスをとってきましたが、そうした対応がいつまで続くのかという疑問もあるようです。

 

****核武装論も浮上、米中のはざまで国防めぐる議論続くオーストラリア****

同盟関係を必ずしも重視しない姿勢の米国大統領と、好戦姿勢を強める中国との両にらみの中、オーストラリアの軍事戦略家たちは独自の核抑止力の開発を検討する必要性について慎重に議論を進めている。

 

長年、オーストラリアは国防に関して懸念すべきことはあまりなかった。米国との100年に及ぶ同盟関係は確実な安全保障を、同時に中国への鉱物資源の輸出は不況知らずの28年を国内にもたらした。

 

しかし、ドナルド・トランプ米大統領の同盟関係に対する配慮が限定的である一方、中国の習近平国家主席は太平洋地域における自国の優位性を追求しており、オーストラリアの安全保障を構成する二つの柱は不確かなものとなっている。

 

長らくオーストラリアの国防について再考を求めてきた軍事戦略家のマルコム・デービス氏は、オーストラリアの戦略的地位について「軍事戦略の辺境どころか、オーストラリアは今まさに最前線国となっている」と指摘する。

 

これまでのところ豪政府は慎重な対応を見せている。米国との同盟関係を維持しつつ、同時に経済大国として台頭する中国との貿易関係も続けている。

 

しかし、首相補佐官を長く務め、豪政府の軍事戦略ブレーンの第一人者としても知られるヒュー・ホワイト氏は、そうしたどっち付かずな態度をそろそろ改める時期だと考えている。

 

戦略的自立、国益、戦力といった難解な議論が交わされる中、ホワイト氏は今月出版された著書「How to Defend Australia(いかにオーストラリアを防衛するか)」において、あるシンプルな問いを投げ掛け、激論に火を付けた。その問いとは「核兵器の保有」だ。

 

オーストラリア国立大学で戦略研究の教授も務めるホワイト氏は、核兵器の保有に賛成も反対もしていないものの、議論は避けられないものになりつつあるとしている。

 

ホワイト氏は「アジアにおける大きな戦略的転換」という言葉を用いつつ、オーストラリアの国防にとって「核兵器が意味のないもの、という考えはもはや真偽不明だ」と指摘し、「新しいアジアにおいて核兵器を諦めるという戦略的コストは、これまでよりずっと高くつく可能性もある」と主張する。

 

ただ、たとえ限定的な核抑止力の開発であってもオーストラリアには甚大な経済的、政治的、外交的、社会的負担がのしかかり、核拡散防止条約からの脱退や隣国との関係悪化も強いられることになる。

 

しかし広大な大陸国であるオーストラリアにとって、限られた人口と通常兵器で自国を防衛することは極めて困難であるかもしれない。

 

ホワイト氏はまた、米国という確固たる保証がなかったら、通常の戦争でオーストラリアは中国からのささいな核攻撃の脅しでも屈服させられかねないと指摘する。(中略)

 

だが一方で、ホワイト氏の主張は費用面で実現不可能な上、非現実的で無用なものだと批判する向きもある。豪シンクタンク、ローウィー研究所のサム・ロゲビーン氏は、ホワイト氏の著書の書評において「控えめに言ってもオーストラリアの防衛政策に関する超党派の政治的コンセンサスは、ホワイト氏が取る立場とは程遠い」と指摘する。

 

それでもロゲビーン氏は、中国の台頭と米国の衰退というホワイト氏の見解は「冷静な分析に基づいている」とし、自身にとっても「説得力のあるもの」だと考えている。

 

誰もが同じような考えにあるわけではないが、ホワイト氏の主張がまともに受け止められているという事実こそ、世界におけるオーストラリアの立ち位置に関する懸念が高まっていることの証しとなっている。 【7月15日 AFP】

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