(【8月14日 毎日】 パキスタン支配地域は、、今年3月にフンザ方面を旅行しましたが、少なくともフンザ・ギルギットなどは特別の緊張感はありません。カシミールで問題になるのはインド側です)
【高まる印パ両国の緊張 銃撃戦の発生、核への言及も】
8月5日ブログ“インド ジャム・カシミール州の自治権はく奪 高まる緊張 印パ対立激化の懸念も”でとりあげた、ヒンズー至上主義の傾向があるインド・モディ政権が進めるイスラム教徒が多数派のジャム・カシミール州自治権はく奪の問題は、予想されたように、ともに核保有国である印パ両国の厳しい対立を呼び起こしています。
****自治権剥奪、与党の党勢拡大に=カシミール問題―印首相*****
インドが、自国北部のパキスタンとの係争地ジャム・カシミール州の自治権を剥奪した決定は、ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党インド人民党(BJP)が訴え続けてきた公約に基づき実行された。
「悲願」の達成は今後実施される地方議会選への弾みとなり、地方議員が選出する上院議員の過半数確保への道を開く可能性がある。
モディ氏は8日、自治権剥奪の決定後初めて国民に対し演説。英国からの独立時の有力政治家やBJPのバジパイ元首相らの名前を列挙し、「たくさんの指導者の夢が実現した」と成果を誇った。
BJPは今年4、5月の下院総選挙で、汚職撲滅などを掲げて政策を進めてきたモディ首相の指導力を背景に単独過半数を確保した。ただ、上院の議席は、他党と組む与党連合としても過半数には達していない。
上院議員は、主に地方議会議員による間接投票で選出される。インドでは今年、大規模州の西部マハラシュトラ州、首都ニューデリーに隣接する北部ハリヤナ州で州議会選が実施予定だ。BJPが勝利すれば、同党の上院議員が増加する。
モディ首相の就任後、インド経済は7%前後の成長を続けてきたものの、2018年は6.8%と停滞気味。7日に発表された19年の成長予測は6.9%で、4、6月の発表に続き下方修正された。【8月9日 時事】
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****パキスタン首相、傍観する国際社会は「ヒトラーに譲歩した世界」 カシミール問題****
パキスタンのイムラン・カーン首相は11日、イスラム教徒が多数を占めるカシミール地方に広がるインドのヒンズー国家主義について、国際社会は傍観するのかと問いただし、この様子をナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーへの譲歩になぞらえた。(中略)
こうした中カーン首相はツイッターに憤りをあらわにし、「ヒンズー至上主義のイデオロギーは、ナチスのアーリア人至上主義のように(カシミールで)止まらない」と指摘。
この動きを「ヒトラーの生存圏のヒンズー至上主義版」と呼び、その行き着く先は「インドにおけるイスラム教徒の弾圧であり、最終的にはパキスタンを標的とするだろう」と述べた。
カーン氏は「この試みはカシミールの人口動態を民族浄化で変えることだ」と非難。「問題は、ミュンヘンでのヒトラーの時のように、世界は傍観し譲歩するのかだ」と問いただした。 【8月12日 AFP】AFPBB News
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****インドに反撃も=カシミールで演説―パキスタン首相****
パキスタンのカーン首相は、独立72周年の記念日を迎えた14日、インドと領有権を争うカシミール地方のパキスタン側を訪問し、インドが同地に対する攻撃を計画していると主張し「対応する準備がある」と演説した。インドが自国北部ジャム・カシミール州の自治権を剥奪し、支配強化を図った問題を踏まえた演説で、インド政府の反発は必至だ。
カーン氏は演説で、インドがジャム・カシミール州の支配強化を図るだけでなく、2月に実施したパキスタン領空爆より「さらに悪質な攻撃を計画している」と主張。攻撃された場合は「対応する準備はある。徹底的にだ」と述べ、国民が一体になって反撃すると強調した。(後略)【8月14日 時事】
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****カシミールの停戦ラインで銃撃戦 パキスタン兵3人死亡****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方の停戦ライン付近で15日、両国軍による銃撃戦が起き、パキスタン兵3人が死亡した。パキスタン軍が公式ツイッターで明らかにした。
パキスタン軍は「インド兵5人を殺害した」と主張しているが、インドメディアによると、インド軍は被害を否定している。(後略)【8月16日 朝日】
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インド側からは、「核」使用に関する発言も。
****核の先制不使用「状況次第」=パキスタンけん制か―インド国防相*****
インドのシン国防相は16日、ツイッターに「インドは核の先制不使用方針を固く守っている。将来どうなるかは状況次第だ」と投稿した。(後略)【8月16日 時事】
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【格差の存在、経済問題をヒンズー至上主義を煽る形で糊塗するモディ政権 ポピュリズムによる民主主義の衰退】
今回のモディ政権の動きは、インド全体でみれば圧倒的多数派のヒンズー教徒への受けはいいのでしょうが、少数派の意向を無視して多数派、あるいは支持層の国民受けを狙った政策に傾倒する姿勢は、インドに限らずアメリカ・トランプ大統領に代表されるように、現在の政治の大きな流れにもなってきており、時代の歯車が逆回転しているような不吉な感じを抱かせます。
****カシミールの自治権剥奪、インドが強める排外主義****
ヒンズー至上主義で大衆迎合、イスラム教徒圧迫するモディ首相
カシミール地方を巡って、インドとパキスタンの対立が激化している。
今年2月にカシミールのインド支配地域でインド治安部隊がテロ攻撃を受け、その報復として、インド空軍機が越境してパキスタンを攻撃するなど、軍事的対立が続いている。
ヒンズー教徒の「入植」に対する危惧も
イギリスの植民地であったインドは、第二次大戦後にパキスタンとインドに分かれて独立を果たすが、カシミール地方については、両者、それに中国も加わって領有権を争っている。カシミールは、インド支配地域、パキスタン支配地域、中国支配地域に三分割されており、しかも三国とも核武装をしている。
第二次大戦後に、インドとパキスタンは三度戦火を交えているが、そのうち二度はカシミールをめぐる紛争である。
カシミールの住民の多数はイスラム教徒であり、インドは支配地域のジャム・カシミール州に自治権を与えてきた。独立当時、この地を支配するマハラジャ(藩王)はヒンズー教徒であり、最終的にインド帰属に決まったのである。
このような事情があるため、インドは憲法370条でこの地に自治権を付与したのであるが、8月5日、インド政府はこの自治権を剥奪する措置に出た。
パキスタンのカーン首相は、ヒトラーのチェコスロバキア併合を認めた1938年の「ミュンヘンの融和」を引用し、それと同じようなことを世界は認めるのかとツイートして反発している。
カーン首相は、住民の自治を踏みにじり、事実上のインドへの併合、直接統治を目指す暴挙だと言っているのである。インド政府は、州外の住民の土地取得禁止の規定も撤廃したため、ヒンズー教徒による「入植」が始まると危惧している。
「ミュンヘンの融和」については、私の近刊『ヒトラーの正体』(小学館新書)でも詳しく説明したが、オーストリアを併合したヒトラーがチェコスロバキアを次なる標的としたとき、戦争を避けるために英仏が妥協し、ヒトラーの領土的野心を許したのである。この融和姿勢がヒトラーを増長させ、第二次大戦へとつながった。
パキスタンは、国連安保理の開催を求め、常任理事国の中国がパキスタンを支持し、安保理開催を要求したため、16日の安保理での協議が決まった。安保理は「カシミールは中立地域で住民投票によって帰属を決定すべきである」という決議を採択している。
(中略)カシミールはイスラム教徒が多数で、住民投票をすれば同じ宗教のパキスタン帰属となる危険性がある。そこで、インドは断固として住民投票を拒否しているのである。
「カシミール州自治権の剥奪」が選挙公約
(中略)背景はイスラム教とヒンズー教の対立であるが、カシミールとインドの関係は香港と中国の関係に似ている。一国二制度、「港人治港」というように香港は高度の自治を享受してきたが、ジャム・カシミール州もまた高度の自治が憲法上保証されてきた。
ところが、ヒンズー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)のモディ政権は、この4〜5月に行われた総選挙で、公約に「カシミール州自治権の剥奪」を掲げたのである。選挙は、BJPが圧勝し、単独過半数を維持した。その結果、早速、公約の実現に乗り出したというわけである。(中略)
インドと言えば、第二次大戦後、ネルー首相、その娘のインディラ・ガンジーの率いる「インド国民会議」が政権を担い、日本の自民党のように多様な階層にアピールする包括政党で、一党優位制(one party dominance)を維持した。
しかし、2014年の総選挙では543議席中44議席しか得ることができず、282議席を獲得したモディのBJPに惨敗している。
宗教に関しては、国民会議派がキリスト教やイスラム教に寛容なのに対して、BJPはヒンズー教以外を排除する。このヒンズー至上主義は、白人至上主義やトランプのアメリカ第一主義と同様に、自己中心主義、排外主義的色彩を帯びる。
インドの領土でありながら、ヒンズー教徒が多数を占めない地域が残っており、しかも、そこではヒンズー教徒の自由な活動が阻害されるのは問題だと主張する。また、パキスタンが裏で糸を引くイスラム教徒のテロが、インドによる統治を困難にしているとBJPは強調する。これが功を奏して、総選挙の大勝につながったのである。
しかしながら、2014年以来5年間政権の座にあるモディ政権に何の問題もないわけではない。格差の拡大が大きな社会問題になっている。
トランプを大統領の座に押し上げたのは、繁栄から取り残された白人労働者たちである。「ラストベルト(錆び付いた工業地帯)」と呼ばれる地域では、工場は閉鎖され、失業や麻薬中毒に喘ぐ人々の群れがいる。その不満を上手く利用したのがトランプであった。
(中略)モディ政権下で、年率6〜8%の経済成長を遂げているが、年間2000万人の雇用を生み出すという公約は果たされず、700万人程度にとどまっている。その恩恵に浴さない農民や低所得層の不満は高まっている。
1%の富裕層がインドの富の半分を所有する格差社会である。農家の所得を倍増させるというモディ首相の公約は実現されておらず、貧困に喘ぐ農民の自殺者は年間1万人を超えている。2018年6月時点での失業率(男性・女性)は、都市部で7.1%・10.8%、郊外で5.8%・3/8%と、6年前の調査より上昇している。
「ヒンズー至上主義」の下にイスラム教徒に暴行
そのため、選挙前にはBJPは苦戦が予想されていた。しかし、モディ首相は、カシミール問題でパキスタンを空爆するなどして、支持率アップを画策したのである。
つまり、経済格差に伴う国民の不満を宗教感情やナショナリズムに向けさせることで、選挙を乗り切ったのである。トランプの手法と似通っている。
インドの宗教構成を見てみると、(中略)人口の8割がヒンズー教徒であるが、モディ政権の誕生とともに、「ヒンズー至上主義」の旗印の下に過激なヒンズー教徒がイスラム教徒に暴行を加えるなどの事件が多発している。
人種的、宗教的少数派に対する差別や迫害は、移民や難民を排斥する極右の台頭という世界的現象と軌を一にするものである。
差別や排外的ナショナリズムは、失業などの経済的苦境に対する不満のはけ口となっており、ポピュリスト政治家たちが、それを利用して政権の座に就く。その結果、社会全体に非寛容の風潮が生まれる。
これは選挙で勝つための大衆迎合主義であり、トランプもモディもボリス・ジョンソンも同じである。しかも、SNSがその傾向を助長する。
民主主義の根幹であるはずの普通選挙が、民主主義そのものを破壊するという皮肉な現象が起こっている。民主主義は生き残れるのか。86年前にヒトラー政権を生んだワイマール共和国は、遠い過去の話ではなくなっている。【8月17日 舛添 要一氏 JB Press】
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【インド部隊 フェイク・エンカウンター「偽りの遭遇戦」による住民殺害】
テロ問題などカシミールの現状に問題がない訳ではありませんが、それにも増して問題とされるべきは、インド側による圧政でしょう。
****通信遮断に報道規制、いまカシミールで起きている事****
過激派との戦闘を装いインド部隊がやりたい放題
(中略)
外部との通信が遮断されたカシミール
(中略)自治権剥奪以降、10日以上が経った今も、同州のイスラム教徒が多数を占める州都スリナガルでは、外出禁止令が敷かれ、携帯やインターネットが接続できない状態が続いている。完全に「外界」から遮断され、孤立しているが、その現実が世界でも大きく報じられない状況が続いている。
一体、何が起きているのか。
(中略)今回のニュースを受け、知人に連絡をしてみたが、ほとんど通じない状況が続いている。その中でも何人かは、カシミール地方から脱出してインド国内にいるので、連絡がついた。
彼らの話によれば、現地は外部からの通信が遮断され、インターネットも使えないような状況にある。特に、8月15日はインド独立記念日であるが、カシミール地方の住民らは「ブラック・デー」と呼ばれ、かねてより「カシミールに対するインドの強硬な支配が始まった日」と認識されている。(中略)
過激派との遭遇をでっち上げて誘拐や殺人
(中略)そのスリナガル(ジャム・カシミール州の夏の州都)が争いの舞台になる理由は、住民のほとんどがイスラム教徒であり、その地域をインド政府が自治権を与えながら強硬支配していることにある。
もちろんパキスタンもここに絡んでくる。「イスラム教国として、カシミールを救う」という大義で、パキスタン軍がテロ組織などを支援して、カシミール地方を混乱に陥れようとしている。それによって、インドがカシミールを手放すよう仕向けようとしているわけだ。
それに対してインドは、インド中央予備警官隊(CRPF)や準憲兵部隊をスリナガルやパキスタンとの国境(実効支配線=仮の国境線)地域などに派遣し、常に街中には武装したインド人隊員を配置し、住民を監視させている。
さらに1990年には、「軍事特別法」と呼ばれる法律を施行し、カシミールに駐留する部隊の権限を大幅に拡大した。逮捕だけでなく、殺害すら、法的な手続きなしでも行なえるようになっており、これがインド部隊によるカシミール住民への犯罪行為の温床になっている。
その所業はあまりにもひどい。
例えばこうだ。「軍事特別法」により、「フェイク・エンカウンター」と呼ばれる事件が頻発するようになった。フェイク・エンカウンターとは、「偽りの遭遇戦」だ。
つまり、インド部隊が過激派などとの戦闘を「でっち上げる」行為を指す。過激武装勢力と遭遇したことにして、それを隠れ蓑に、カシミール人を狙った誘拐や殺人などが発生しているのだ。
元インド軍少将のV・K・シンは、この「フェイク・エンカウンター」について、「過激派を何人殺害したかで兵士や部隊員の評価や勲章に繋がるために、軍や警察が偽りの遭遇事件をでっち上げる危険性がある」と指摘している。それくらいインド部隊にとって、「フェイク・エンカウンター」は誘惑的行為なのだ。
また、女性に対する性的暴行事件も多数起きている。(中略)
彼らを「治安部隊」と呼ぶのはやめてくれ
(中略)スリナガルで住民に話を聞くと、インド部隊のなんとも無慈悲な行為がどんどん出てくる。
もちろんどこまで根拠のあるものかは分からないが、「外出禁止令の際にちょっと外出したら容赦なく射殺された人がいた」「夜に道を歩いていたら、犬と間違われて射殺された少年がいた」「ある村は過激派をかくまったとして焼き払われた」「紛争が始まってから、武装勢力とは関係のない1000以上の学校や関連施設が破壊された」といった表に出ないような話が次から次へと語られるのだ。(中略)
では、そもそもカシミールの住民は何を求めているのか。彼らは、インドにもパキスタンにも支配されたくはないと考えている。住民らのほとんどは、「自己決定権」による分離独立を目指している。
国連安全保障理事会も、これまで何度かカシミール紛争について「自己決定権」を与えるべきとの見解を示してきたが、インドがすべて無視してきた。
ただ今回の自治権剥奪により、カシミールは独立から後退したと言える。だからこそパキスタンはこの決定に、インドとの貿易を停止し、両国間を走る鉄道を止め、インドの駐パキスタン大使を追放した。イムラン・カーン首相は、「今回こそは思い知らせてやる」と反応している。(中略)
世界は、インドとパキスタンという核保有国が冷静な対処をするよう働きかける必要がある。【8月17日 山田敏弘氏 JB Press】
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【国連介入を嫌うインド 中国以外は「印パ2か国間で解決されるべき」との立場】
国連安保理での対応に関して触れるスペースがありませんが、インドとの間でやはりカシミール領有権問題を抱え、パキスタンとの関係を近年強化する中国はパキスタンの立場を支持しています。
しかし、国連安保理は1948年、カシミールの帰属は「自由で公平な住民投票で決められるべきだ」と決議しましたが、住民投票での敗北が確実なインド側はこれを無視しており、国連安保理がカシミール問題に介入することを嫌っています。
また、中国以外の多くの国も、この厄介な問題への関与を避け、インドとパキスタンの2か国間で解決されるべきとの考えが根強いと指摘されています。
こうした状況では、国連が大きな役割を果たすことは期待できません。