孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  処理水放出で日本批判は続けるものの、政府対応は抑制的に 世論はすでに沈静化

2023-09-13 22:51:01 | 中国

(【9月12日 WEDGE】】不鮮明ですが、中国検索大手・百度が提供しているキーワードごとの検索回数を表示するサービス「百度指数」 
青がキーワード「日本」 緑はキーワード「福島」 ピークは8月24日)

【日本批判に抑制的対応も】
福島第一原発の処理水放出に対する中国政府の反発は、日本産水産物全面禁輸という日本から「想定外」(野村農水相)「異常な対応」との声が上がる強いもので、更に、大量のいやがらせ電話といった非常識な国民レベルの反応も。

日本側の観測データ公表、IAEA(国際原子力機関)の分析などにもかかわらず、表向き、中国政府の頑なな姿勢自体は今も変わっていません。

****IAEAの分析結果 中国「海洋放出の承認でない」****
IAEA=国際原子力機関が、福島第一原発の処理水放出後の海水の放射性物質の水準が日本の制限値以下だったと発表したことをめぐり、中国政府は「いかなる観測も海洋放出に対する承認ではない」と認めない姿勢を示しました。

IAEAは、原発近くの海水の分析を独自に行った結果、放射性物質「トリチウム」の濃度が日本が設けた制限値を下回っていたと明らかにしています。

これに対し、中国政府は。
中国外務省 毛寧報道官 「いかなる観測も、日本が海洋に『核汚染水』を放出することへの承認ではなく、日本側が欲しがっている正当性や合法性を付与することはできない」

中国外務省の報道官は12日の記者会見で、IAEAによる分析について「事務局が日本に対して技術的な意見や、支援活動を提供しているに過ぎず、国際性と独立性がない」と批判しました。

そのうえで「いかなる観測も海洋放出への承認ではない」とし、「日本は世界に核汚染の危険を転嫁することを直ちに停止すべきだ」と主張しました。【9月12日 TBS NEWS DIG】
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ただ、日本批判は国際的には広がっておらず、中国側の対応も“これ以上、日本批判を強めていく考えもなさそうな・・・”という雰囲気がにじみ出てきています。

国民不満の“ガス抜き”は一定にしたし(ガス抜きに使われる日本は大迷惑ですが)、日本批判がコントロールできなくなって政府批判に繋がるようなことも困るし・・・といった思惑でしょうか。

****「日本人の入店お断り」撤去要求 中国当局、反日過熱抑制か*****
中国遼寧省大連で「日本人の入店お断り」との張り紙をした焼き肉店に当局が撤去を求めたことが中国の交流サイト(SNS)で物議を醸している。

東京電力福島第1原発の処理水海洋放出開始から7日で2週間。当局は日本への嫌がらせを容認してガス抜きを図る一方、反日感情の過熱は抑え込もうとしているとの見方もある。中国に住む邦人らは事態が沈静化に向かうかどうか注視している。

大連の焼き肉店の動画は今月4日ごろに投稿された。張り紙は日本語と中国語で記され、店主が当局の撤去要求を拒否したとした。短文投稿サイト、微博(ウェイボ)には「愛国心の表れだ」「民族の英雄」と店主を支持し、当局の対応を疑問視する書き込みが相次いだ。

これに対し中国世論に影響力があり、共産党機関紙、人民日報系の環球時報で編集長を務めた胡錫進氏は「店主に賛成しない。国家間の対立を差別的行動に転じさせてはならない」と戒めた。関係者によると店主は最終的に地元政府や警察に従い、張り紙を撤去した。【9月7日 共同】
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これまでことあるごとに日本批判を先導してきた環球時報の元編集長・胡錫進氏の主張に対し、中国ネットユーザーからは「全部あんたがそそのかしたせいだろう」といった批判・揶揄もあるようです。

****「われわれは自らの嫌日感情を管理すべき」、中国著名ジャーナリストが主張****
(中略)
「中国と日本が外交的に対立し、特に日本の原発汚染水排出問題で対立こそしているものの、それを相手国民に対する差別行為に変えてはならない」と指摘。「日本社会でそのようなことがあってはならない。そして中国社会でも同様にボトムラインを守るべきだ」と論じている。

胡氏は中国が礼儀の国であり、門戸開放政策を進めているとした上で「われわれは日本の対中政策に反対し、日本という国に対して強い意見を持っているが、中国に住む、あるいは一時的に滞在するすべての日本人を厚遇し、その安全を確保し、差別されないようにしなければならない。これは対外開放政策における『標準装備』なのだ」と訴えた。

そして「日本政府の歴史認識から現実行為までの多くの稚拙な表現が中国社会の憤慨を引き起こすのは必然である。しかし、私たちは嫌日感情の放出の仕方が私たちの利益を損なうことがないよう、必要な管理を行う必要がある」

「中国社会は日本の汚染水(処理水)放出問題で原則的な立場を堅持しながらも、かなりの感情管理をしてきた。日本では街中の中国人に『日本から出て行け』と要求し、非常に醜悪な態度を示している。人口規模が日本の10倍以上もある中国社会では今のところこのような攻撃的な態度を示したという報道は見られない」と主張。

「各個人の態度は多種多様であってもいいが、合理的な愛国心という集団的認識は揺るぎないものであるべきだ」と結んでいる。

微博では胡氏の書き込みがトレンドワードランキングに登場するなど注目を集めた。中国のネットユーザーからは「胡さんの言うとおりだ」「日本政府に反対するのと、相手の国民とやり合うのは別の話」「高尚で理性的な愛国を守ろう」などの支持が寄せられる一方で、「国粋主義をあおり立てたあんたが冷静になれって言ってもなあ」「あなたには(言動の)ポリシーというものがないようだな」「全部あんたがそそのかしたせいだろう」「中国に胡錫進が1人だけでよかった。100人もいたら滅んでるわ」など、胡氏の言論に批判的な意見も少なからず見られた。【9月6日 レコードチャイナ】
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胡錫進氏は、中国国内での和服への偏見に対しても、その言い様は日本からすれば失礼極まるものではありますが、話の趣旨としては抑制的対応を求めています。

****「和服を過度に気にするのは日本への買いかぶり」=中国紙元編集長が主張****
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報元編集長である胡錫進(フー・シージン)は7日、「和服を過度に気にするのは日本への買いかぶりだ」と主張した。

先日、湖北省武漢市の盤龍城国家考古学遺跡公園で漢民族の伝統的な衣装である漢服を着た女性らが写真撮影をしていたところ、公園の職員らが「日本の服装でここへ来てはいけない」などと追い出そうとし、女性らが「中国人が自分の国の服を知らないの?」「これは日本人の服じゃないわ」と反論するなど、押し問答になった。

この騒動が注目を集めたことを受け、胡氏は自身の動画チャンネルで「われわれの社会は今、日本の要素をどう扱うかという問題で少し緊張しすぎている」と指摘。「小日本(日本に対する蔑称)はわれわれがそれほどまでに注意を払うに値する存在ではなく、そのようにするのはいささか買いかぶり過ぎだ」と主張した。

そして、「現在の最大の戦略的駆け引きの相手は米国であり、日本は米国の追随者に過ぎない。中国のGDPはすでに日本の3倍以上で、宇宙航空技術、電気自動車技術、インターネット応用技術など多くの分野で日本を追い抜いている」と主張。さらにロケットの打ち上げや高速鉄道、高速道路網、核兵器戦力や通常兵器などを挙げ、「これらはいずれも日本の実力とは比べ物にならない」と自賛した。

その上で、「中国社会は現在、自信に満ちているはずで、当時の日本の侵略がもたらした民族の悲しみが、引き続きわれわれが日本と付き合う上での主導的な感情であってはならない」と言明。「われわれはもう日本を恐れる必要はなく、日本との摩擦が発生した際には、日本に対する恨みを蔑視へと変えることができる。日本に対する認識と感情を調整することは、中国が完全に立ち上がるための必要なステップだ」と自論を展開した。

胡氏はまた、「『日本は中国に対して戦略的に文化を浸透させている』という過激な言説を目にしたが、これはもう何十年も衰退し続けている日本を買いかぶり過ぎている。この海を隔てた隣人『小日本』に今できるのは、わずかに残った部分的なリードと誇りを守ることだけだ」とし、「『恐日』を続ける人々には現代中国人としての自信を持ってほしい。われわれの戦略的な考えの大部分は米国に向け、軽重をはっきりと把握し、日本との衝突を全局的なものととらえてはならない。日本を安定的に抑えてそちらからの妨害を減らすことで、より多くの精力を対米ゲームに向かわせることは、中華民族の大きな知恵の一部だ」と主張した。【9月8日 レコードチャイナ】
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「小日本」「日本に対する恨みを蔑視へと変える」等々・・・(中国世論をなだめるレトリックもあって)日本からすれば非礼・尊大なもの言いではありますが、日本が文化的侵略を考えている訳でもなく、日本文化を許容したところで「侵略」と騒ぐようなものでもなく、過敏な「恐日」は無用のこと・・・というのは大筋ではそのとおりでしょうし、中国側がそうした対応をとるようになれば、日本としても中国との付き合い方が非常に楽になります。

環球時報元編集長という立場の者が上記のような日本批判に抑制的な主張を展開するというのは、中国当局の意向を反映したもの・・・・かも。よくわかりませんが、中国ではそういうことはしばしば見られることではあります。

もう少し明確なところでは、ASEAN関連首脳会議に出席した李強首相は“立ち話”で、処理水放出を批判しつつも、日中関係の「改善と発展を推進したい」との意向を伝えたとのことです。

****中国・李強首相 処理水めぐり反発の一方で「関係改善」にも言及 岸田総理との“立ち話”****
中国政府は李強首相が6日、インドネシアで岸田総理と立ち話をした際に、関係改善にも言及したことを明らかにしました。

中国外務省 毛寧 報道官 「李強首相は日本の福島の『核汚染水』の海洋放出問題について、中国側の立場を表明した」

中国外務省によりますと、李強首相は6日、岸田総理とインドネシアで短時間の立ち話をした際、東京電力の福島第一原発の処理水について「核汚染水」と呼び、「世界の海洋環境や大衆の健康と子孫の利益に関わる問題だ」と主張しました。

そのうえで、「隣国などと十分に協議し、責任のある方法で処置すべきだ」と求めたということです。

一方、今年が日中平和友好条約の締結から45年であることについて触れ、「歴史をかがみに、未来に向けて両国関係の改善と発展を推進するよう希望する」と言及したということです。

中国は処理水の海洋放出に日本産水産物の全面禁輸措置を取るなど猛反発していますが、対話は継続したい考えとみられます。【9月7日 TBS NEWS DIG】
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【中国世論において沈静化した日本批判】
更にはっきりしているのは、処理水問題に関して中国世論における日本批判の“熱”が冷めていることです。

****「処理水問題」で中国世論が急速に鎮静化したのはなぜ?****
「処理水問題の影響はほとんど見当たりませんでした。探すのが大変なぐらいでしたよ」

上海市在住の日本人駐在員Aさんのぼやきだ。(中略) 「抗議活動をしている人はいるか?」「日系スーパーの客入り」「日本食材を使っていませんとの貼り紙はあるか」「(日本人街に限らず)買い占めで売り場から塩が消えていないか」あたりに着目して見てきてほしいとお願いしていた。

Aさんが向かったのは上海市西部の虹橋地区。日本人駐在員が多く、日系のレストランやショップが数多く集まる地域だ。すごい光景が展開されているのでは……と意気込んで向かったAさんだが、行ってみると冒頭の感想になったという次第だ。

「日系スーパーにはちょくちょく来ていますけど、前と客入りは変わらないように見えます。中国人も減っていません」(Aさん)(中略)処理水のニュースもなんのその、にぎわいは変わっていないという。

Aさんの訪問の1週間前、海洋放出直後の週末となった8月25日、26日の時点でも、北京市や広東省の日本食レストラン経営者によると、客入りは2〜3割減程度でとどまっていたという。
「日本食材は使っていませんと張り出しているレストランはありました。でも、数十店舗並んでいる中でたった2軒だけ、探すのは大変でしたよ」(Aさん)(中略)

「唯一、影響を感じたのは塩売り場ぐらいですかね。日本産の塩が山積みになっていて、全然減っていない様子でした。入荷したのは今年2月で、検査にも合格していますという貼り紙も貼られていましたし。ただ、中国人の買い物客は全然気にしてないようで、私が写真を撮っていると、なにか面白いことがあるのかとよってきて、初めてその貼り紙に気づいたという様子でした」  

処理水に猛抗議、日本への迷惑電話が殺到、中国人観光客が日本旅行をキャンセル、汚染への恐怖から中国産の海産物まで買い控えられるように……。日本での報道とはかなりイメージが違う。  

「ネットニュースやSNSの書き込みでは処理水の話は見かけましたけど、職場とか身の回りでも処理水が話題になったり、なにか影響を感じたりすることはありませんでしたね。処理水で大パニックの記事を書け!と日本から指示が来た上海駐在日本人記者が『なにもないです。無理です』とお手上げだったという、笑い話のような噂も聞いています。まあ、これほど無風なのは上海だからかもしれません。中国は広いので、大都市と田舎は別の国ぐらい違うと言いますよね」(Aさん)

中国全土でも「処理水問題」は沈静化
実は上海市だけではなく、中国全体で処理水に関する話題は急速に沈静化している。

中国検索大手・百度が提供しているキーワードごとの検索回数を表示するサービス「百度指数」を見ると、海洋放出が始まった8月24日は爆発的な話題になったものの、急激に興味が薄れていることがわかる。

原稿執筆時点(9月9日)と放出前の数値を比べると、キーワード「日本」で1.5倍程度、キーワード「福島」で2倍弱とまだ高い水準ではあるものの、ネットの炎上は終わったと言えそうだ。  

筆者も処理水問題で多くのメディアから寄稿依頼があったほか、有名テレビ番組出演の打診もあるなど忙しい日々が続いていたが、そろそろ打ち止めの予感がしている。  

ともあれ、日本メディアでは「なぜ中国はこれほど強烈な反発を」という視点から報じられていたが、どちらかというと「なぜ反発は持続しなかったのか」を考えたほうがいいのではないか。  

その理由は、政府レベルと民間レベルの双方に背景がありそうだ。  

まず、政府レベルだが、中国政府は人民の焚きつけには抑制的だったという点だ。日本の水産物全面禁輸という強硬措置をとり、日本への強硬姿勢と人民の健康を守るというポーズを示した一方で、それ以上には踏み込まなかった。  

中国政府には「人民の感情を傷つけた」というお得意のフレーズがあり、公的な制裁や規制ではないが、人民が自発的にやっていることなのだという形で、商品の不買運動が展開されることがしばしばある。今回はネット世論を取り締まるなどのブレーキは踏まなかったものの、焚きつけるアクセルも踏んではいない。  

続いて民間レベルだが、処理水に関してさらに注目が高まるような続報がなかったことはポイントだろう。東京の飲食店で「中国人へ 当店の食材は全て福島産です」と書かれた看板が掲げられたこと、橋本徹・元大阪府知事がネット番組でホタテ10個を食べることを中国人の入国条件にしようと発言したことなどは中国のSNSでも取りあげられていたが、炎上を加速させる材料とはならなかった。

中国ではホットなニュースが次から次へと代わり、大炎上した事件もまたたく間に忘れられていく。日本だって似たようなものだが、市民生活を一変させたコロナによる都市封鎖ですら、「そういえば大昔にそんなこともありましたな」的な反応で帰ってくることが多いのだ。  

筆者はこれを〝偉大なる忘却力〟と名付けている。人々の注目をひくニュースが次から次へと飛び交うアテンションエコノミー(関心経済)の時代だけに、何事もさくっと忘れられていくわけだが、世界一のスマホ大国である中国ではそのスピードが半端ない。  

また、中国共産党の鶴の一声でそれまでのルールががらりと変わってしまうお国柄、これも忘却力を高める要因になっているように思う。(中略)

中国社会は変化しつつある
そして、もう一つ、中国社会の成熟もあるのではないか。筆者は処理水の海洋放出を受けて、中国社会ではもっと強烈な反日ムードが広がると予測していた。

食の安全という中国人の琴線に触れやすいテーマ、海洋放出の方針が発表された2年前から中国からは強い反発のメッセージが発せられていたこと、米中対立において日本が米国陣営に強くコミットしていることから判断したものだ。  

想起していたのは2012年の尖閣諸島国有化に抗議する反日デモ、そして1999年の在ユーゴスラビア中国大使館の誤爆事件に抗議する反米デモだ。純粋に怒り愛国心をむき出しにしている人もいたが、怒る側に身を投じなければ売国奴として吊し上げられかねないとの警戒心から参加する人の方が多かった。  

それと比較すると、炎上の最中でも気にせず日系スーパーや日本料理店にでかける人が相当数いるというのは大きな変化のように思う。ネットの騒ぎで盛り上がって迷惑電話をかけて面白がる人もいれば、浮ついた社会の空気に我関せずといつもどおりの暮らしをしている人もいる。  

そうした層は上海市などの大都市、リテラシーの高い中産層以上に限られているのかもしれないが、中国経済の成長に伴い成熟した層が増えているのではないか。中国をひとくくりで語れない、その傾向が強まっていることは認識すべきだろう。  

また、付言しておきたいのは中国人が〝偉大なる忘却力〟を発揮して処理水のことを忘れたとしても、水産物全面禁輸という措置はそう簡単には撤回されないという点だ。狂牛病問題を受けての日本産牛肉の禁輸措置は2021年の解除まで18年間にわたって継続された。  

福島原発事故を受けての10都県(福島、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野)の食品、水産物の禁輸は12年が経った今も解除されていない。日本政府は中国以外の販路拡大や加工場整備などの支援策を表明しているが、短期での解除はないという前提での、しっかりとした取り組みが必要になる。【9月12日 WEDGE】
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世論もさほど盛り上がっていないし、中国政府としては振り上げた拳をどのように下すか思案しているところかもしれません。

日本側も、中国側のそのような状況を前提に取り組む必要があります。
ただし、上記記事最後にあるように、禁輸撤回といった自身の面子を潰すようなことはなかなかしないでしょうから、禁輸は相当期間続くかも。日本としてはその対応が必要です。

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