孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領への逆風の兆しも

2023-09-21 23:27:54 | 欧州情勢

(国連総会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領=米ニューヨークの国連本部で2023年9月19日【9月20日 毎日】 「侵略者を打ち負かすための団結した行動」が必要だと訴え、ウクライナへの支持と連帯を促しました)

【ウクライナの反転攻勢 「失敗はしていないが、今後には高いハードル」(米軍トップ)】
反転攻勢をかけるウクライナの戦局は、いつも言うようにウクライナ・ロシア双方が自国に都合のいい情報を流していますので、本当のところどうなのかはよくわかりません。

ウクライナ軍がロシア軍防衛線を一部突破し、南部などでジワジワと進軍はしているようですが、期待されていたような大きな成果が出ていないのも事実です。

ざっくり言って、南部方面でロシアのクリミアへの補給路を遮断する目立った成果を年内にあげられるのかどうかがひとつのポイントでしょう。

****ウクライナ 冬までにクリミア“陸上補給路”遮断か****
ウクライナ軍の情報機関のトップは、今年冬までにロシアとロシアが実効支配するクリミア半島を結ぶ陸上の補給路を遮断できる可能性があると明かしました。

ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長はイギリスの「エコノミスト」誌のインタビューで、ロシアとクリミア半島をつなぐ陸上の補給路を遮断する作戦が冬の前に実現するかもしれないと語りました。(後略)【9月19日 テレ朝news】
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ウクライナ軍の情報機関のトップが“可能性がある”といった言い方をしているということは、裏を返せば、一般的には厳しい見方がなされているということでもあります。米軍サイドからも厳しい見方が。

****ウクライナ軍の領土奪還「高いハードル」 米軍制服組トップ****
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は17日、ウクライナ軍はロシア軍に対する反転攻勢で「失敗」はしていないものの、領土奪還という大きな目標については「非常に高いハードル」に直面しているとの見方を示した。

ミリー氏は、ウクライナ軍の反攻について「計画よりは遅いが着実に進展している」と指摘。「失敗しているとの批判は承知しているが、失敗はしていない」とするとともに、ウクライナ軍には「かなりの戦闘力が残っている。消耗していない」と述べた。

南部海岸までの進軍やマリウポリ奪還などより野心的な目標達成の公算については予測を避け、「被占領地から20万人以上のロシア兵を軍事的に排除するには相当な時間がかかる。非常に高いハードルだ」との認識を示した。

一方、武器供与のペースが遅いとウクライナ側からも批判が出ていることに関しては、兵たんにも左右される問題だとし、「魔法の粉をまけば物資が直ちに現れるというわけにはいかない」と強調した。 【9月18日 AFP】
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反転攻勢の戦略についても、ウクライナ側とアメリカなど支援国の間での意見の不一致もあったようです。

****NATOとウクライナ軍 戦局打開の「特別作戦」で衝突…秘密協議5時間の内幕とは【報道1930】****
先月15日、ウクライナとポーランドの国境のとある場所で、NATOとウクライナ軍の秘密協議が行われました。そこで決まったのは、反転攻勢の戦局を打開する特別な作戦。将軍達の議論は5時間に及びましたが、元NATOの高官は、互いに不満をぶつけあう激しい攻防があったと証言しています。NATOとウクライナ軍は、なぜ衝突したのでしょうか。秘密協議の内幕です。(中略)

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「ウクライナ側は、『武器の供給が遅すぎる、控えめすぎる。もっと早く、もっと必要だ。武器には、より攻撃的な無人偵察機や、特に長距離砲、地上・空中の巡航ミサイルも含まれるが、これらを手に入れない限り、我々ができることは限られる』とNATO側に訴えたのです。

しかし、これを聞いたイギリスやアメリカの将軍たちやNATOの欧州連合軍最高司令官・カボリ将軍らは、『ウクライナは戦術に関して我々の忠告を聞いているのだろうか』という気持ちがあったでしょう。

何故なら、反転攻勢に際し、NATOからウクライナ側へのアドバイスは、『敵の最大の弱点である地点を選び、そこに攻撃を集中させる。そして防御に穴を開け、その穴を突く』というものでした。しかし、ウクライナはそれをやっていなかったからです」 

反転攻勢の開始後、ウクライナ軍はザポリージャやバフムトなど全長およそ1200キロにも及ぶ前線に広く展開。ロシア軍の弱点を見つけようと規模の小さなピンポイント攻撃を繰り返していたと言います。

これに対しNATO側は、ピンポイント攻撃は多くの労力と弾薬を無駄にしていて、時間もかかりすぎていると、批判的に見ていたと言うのです。

元NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「西側が常に言ってきたのは、『南部に兵力を集めて進軍する』という作戦でした。しかしウクライナはまだ明らかに東部のバフムトを取り戻そうとしていました。アメリカの助言は、『バフムトは重要ではない』というものでした。ウクライナ軍はそこであまりにも大きな損害を被っていました。

ウクライナにとってバフムトは象徴的な存在になっていますが、アメリカは『頼むから、そこから一線を引いてくれ』と言っていたのです。しかしウクライナ人は誇り高い。自分のやり方でやりたいのです」
誇り高いウクライナ人とNATOの議論は、5時間に及びました。そして…

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「NATO側は、『このようなピンポイント攻撃をさらに続ければ、ロシア軍に反攻を開始する準備の機会を与えてしまう。そうなると、あらゆる場所でその反攻を防ぐために多くの戦力を費やすことになる。だから、どうか集中して、一点を選び、そこを突破するために大きな戦力で挑んでほしい』とウクライナを説得したのです」(中略)

元NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「ウクライナは、兵器が欲しければ、戦術に従わなければなりません。それは明らかで、ウクライナはそれを理解したようです」

ウクライナ側は、最終的にNATOのアドバイスを受け入れました。兵力を南部戦線に集中し、一点突破を狙った攻撃に戦略を転換したのです。(後略)【9月19日 TBS NEWS DIG】
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ウクライナ軍の情報機関のトップの“可能性がある”発言は、上記のような戦略転換の成果によるものでしょうか・・・・それにしても厳しい情勢は大きくは変わっていません。

【ゼレンスキー大統領の苦しい立場:支援国の「支援疲れ」 早期停戦を求めるグローバルサウス 一方で領土解放を求める国内世論】
戦局が膠着すると、ウクライナ国内にも厭戦的雰囲気が広がりますし、これまでウクライナを支援してきた国にも「支援疲れ」が表面化します。特に、最大支援国アメリカが問題です。 更に、グローバルサウスのような国際世論も食糧・エネルギーに影響する戦争に対し「いい加減してくれ」といった方向に向かいます。、

そうした事情があるからこそ、ゼレンスキー大統領も「成果」を求めているのでしょうが・・・。

一方で、ウクライナ国内には領土解放を求める声が強く、中途半端な妥協にによる停戦も難しいところで、ゼレンスキー大統領も苦しい立場です。

****G20首脳宣言でウクライナにとって最大の誤算は? ゼレンスキー大統領の引くに引けない苦しい事情****
G20首脳宣言について「誇るべきものは何もない」
(中略)インドのニューデリーで開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は9月9日に首脳宣言を採択したが、ウクライナ戦争に関する記述は昨年よりも後退した内容だった。

ロシアの侵略を強く非難し、ロシア政府に軍の撤退を求めた昨年の首脳宣言とは異なり、ロシアへの非難には言及されず、領土獲得を目的とした武力による威嚇や行使を控えることを求める内容に留まった。

「ロシアの侵略から世界を守っている」と主張するウクライナ政府はG20宣言について「誇るべきものは何もない」と切り捨てた。日本を始め西側メデイアも同じ論調だが、筆者は「この宣言こそが国際社会の総意なのではないか」との思いを禁じ得ないでいる。

西側色が強いG7とは異なり、G20は「グローバルサウス」と呼ばれる発展途上国の国々が多く参加している。彼らが求めているのはロシア打倒ではなく、自国に多大な打撃を及ぼしているウクライナ戦争の一刻も早い停戦だからだ。

ゼレンスキー氏が停戦に踏み切れない事情
ウクライナにとってのさらなる誤算は、同国に対する最大の支援者である米国がこの宣言を容認したことだ。

ウクライナ問題でG20の議論を膠着させるよりも、中国を封じ込めるためにインド太平洋地域との結びつきを強化したい米国は、このサミットを外交的な成功としたいインドのナレンドラ・モディ首相に花をもたせたとの指摘がある(9月12日付クーリエ・ジャポン)。

「中国への対抗」という点で米国とインドの利害が一致したわけで、米国は戦略の軸足をロシアから中国に移行させようとしているのかもしれない。

ウクライナが望んでいる「戦場での勝利」が得られず、国際社会での支持が得られなくなれば、「そろそろ停戦の潮時だ」という声が高まるのは当然の流れだ。ゼレンスキー氏にとって望ましくない展開であるのは言うまでもない。

ゼレンスキー氏には停戦に踏み切れない事情がある。
独日曜紙「ビルド・アム・ゾンターク」(日刊紙「ビルド」の姉妹紙)は9月10日、ウクライナ世論調査機関「民主計画財団」に依頼した調査の結果を報じた。それによると、ウクライナ市民の90%が「ロシアが占領している地域をすべて奪還できる」と確信している。ロシアとの交渉についても63%が拒否し、賛成したのは30%に過ぎなかった。

ウクライナ政府は国民の期待に反するロシアとの停戦交渉を口にできないことから、この戦争は来年以降も続く可能性が高まっている。(中略)

ウクライナ支援国の間でも悲観的な見方が
ウクライナ政府は反転攻勢の成果を強調しているが、はたしてそうだろうか。 欧州で最もウクライナ支援を明確にしている英国でも、「反転攻勢は失敗しつつある」との見方が増えている。

英国立防衛安全保障研究所は9月4日に発表した報告書で、「ウクライナ軍は装備に大きな損失を被っている。欧米諸国が提供する訓練も彼らの戦闘に適していない。反転攻勢を急いだせいで持続不可能なレベルに達している」と悲観的な見方を示した。

英BBCも8月30日、ウクライナ東部前線の状況について「米当局は『ウクライナの戦死者が大幅に増加している』と推定している」と報じた。

兵役を逃れて多くのロシア人が国外に脱出する現象を西側メディアがたびたび報じているが、ウクライナでも同様の事態が発生している。

(中略)徴兵逃れに関する組織的な汚職も蔓延しており、ウクライナ検察は8月下旬、200以上の徴兵事務所を一斉捜索した。 軍で相次ぐ汚職事件の監督責任を問われ、戦時中にレズニコフ国防相が解任されるという異常事態も発生しており、ウクライナ軍の士気が下がっているのは間違いないだろう。

一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権基盤は揺らいでいないようだ。

戦時経済体制を確立しつつあるロシア
(中略)ロシアが西側諸国の制裁を回避する形で兵器の生産を拡大していることも明らかになっている。9月13日付の米紙「ニューヨークタイムズ」は、「ロシアの砲弾の年間生産能力は欧米の7倍に匹敵する200万発に上り、戦車の生産能力も侵攻前の2倍に達しており、冬に向けてウクライナへの攻撃が激化することが懸念される」と報じた。

西側の軍事支援頼みが続くウクライナに対し、戦時経済体制を確立しつつあるロシア。 戦争が長期化すればするほどウクライナは国力を毀損し、国の統一すら危うくなるのではないかとの不安が頭をよぎる。G20宣言が求める早期停戦は、ウクライナの将来にとっても必要なことなのだ。

西側諸国もこれまでの方針を転換し、ウクライナ政府にロシアとの停戦交渉の再開を強く求めるべきではないだろうか。【9月20日 藤和彦 デイリー新潮】
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ロシアが今後、なりふりかまわず「戦争」を本格化させれば、その体力差はいかんともし難いものがあります。

国際世論の微妙な変化は、19日に行われた国連総会でのゼレンスキー大統領演説への反応にも見られました。

****“熱気欠いた?”ウクライナの国連演説 バイデン大統領の“表と裏"…「支援疲れ」指摘されるなか****
(中略)
■バイデン大統領の本音は"ロシアとの和平交渉"?
有働由美子キャスター 「NNNがゼレンスキー大統領に国連出席初日の感想を聞いたところ、『Very good!』と言っていたんですが、今年の国連総会には、去年のような熱気はなかったということなんです」

「去年、ゼレンスキー大統領はリモートで参加し、演説が終わると各国の代表からはスタンディングオベーションが起こりました。それが今年は直接対面で訴えたにもかかわらず、演説終了後の拍手の時に立ち上がっていた人は見当たりませんでした。“支援疲れ”という問題も指摘されていますが…」

小栗泉・日本テレビ解説委員長 「鍵を握るのが、アメリカのバイデン大統領です。今回、どうやら"表向き"と、“裏テーマ”があるようなんです。まず表向きは『ウクライナとともにロシアの侵略に立ち向かおう!』と強い言葉で各国に支援を呼びかけていました」

「本音では、ゼレンスキー大統領に『早くロシアと和平交渉をしてほしい』と思っているというんです。そのため、今回の裏テーマは、ゼレンスキー大統領にアメリカ国内政治の現状をよく見て、戦争が長引いてしまうことについて考えてもらうことだと、アメリカ政治に詳しい明海大学・小谷哲男教授は話します」

■「追加支援」共和党下院の強硬派が反対
(中略)
小栗解説委員長
「ポイントは2つあります。まずは、アメリカ議会の動きを見ていきます。まさに今、バイデン大統領はウクライナへの240億ドル(約3.5兆円)もの追加支援を議会に要求しているんですが、共和党下院の強硬派は反対しています。議会で予算がまとまらず、政府機関の閉鎖にまで追い込まれる可能性がちらついているんです」(中略)

■来年秋に大統領選 トランプ氏が…?!
小栗解説委員長 「そしてもう1つが、来年秋のアメリカ大統領選挙です。共和党はトランプ前大統領が候補になる可能性が高く、(日本の)ある外務省幹部は『トランプ氏は選挙キャンペーンで、“ウクライナ支援にいくら使うんだ。大事なのはアメリカ国民の生活だ”などと必ずバイデン大統領を批判してくるだろう』と指摘しています」

「小谷教授は『もしトランプ氏が返り咲けばウクライナ支援の継続は基本的に考えないだろうし、ロシアに有利な交渉をするのは間違いない』とみています」

「それだけにバイデン政権としては、来年夏までに一定の戦果をウクライナがあげて、ロシアとの和平交渉が始まるのが望ましいというのが本音だというんです」(後略)(9月20日放送『news zero』より)【9月21日 日テレNEWS】
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アメリカ世論がウクライナ支援に厳しい見方をしていることは、これまでも取り上げてきました。

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CNNニュースの8月の世論調査では、「議会はウクライナ支援のための追加資金を承認すべきではない」と55%の人が回答した。 さらに、51%が「ウクライナに十分な支援をした」と答え、「もっと支援すべきだ」の48%を上回った。

野党・共和党の支持者では、「追加の資金援助を控えるべきだ」との回答が71%にのぼる。
世論を背景に、共和党の大統領候補の1人で過激な発言で支持を集めているラマスワミ氏は、ウクライナ支援の取りやめを公言している。

さらに、ゼレンスキー氏が自国の選挙を実施するためにアメリカに追加資金を要求したことを「選挙ゆすり野郎」とこき下ろし、「アメリカに対する新たなレベルの恐喝だ」と痛烈に批判した。【9月21日 FNNプライムオンライン】
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支援国内部でも不協和音が。ポーランドはこれまで対ロシア強硬論急先鋒の立場でウクライナへの支援を行ってきましたが、ウクライナ産穀物の陸上輸送をめぐり、ウクライナと揉めていることは一昨日ブログでも取り上げたとおり。

今回の国連総会でのゼレンスキー演説での「連帯を示しているように見えるが、実際にはロシアを間接的に手助けしている」といったポーランド批判に、ポーランド首相が「ウクライナへの武器供与は行わない」と反発する事態にもなっています。

戦局の停滞、国際世論の風向き・・・ウクライナ・ゼレンスキー大統領への“逆風”の兆しが強まっているように見えます。

【「戦場での勝利」以上に難しいロシアの“やり得”を許さない停戦協議】
ただ、ものごとは全て“退くとき”“事態を収拾するとき”が一番難しい。
仮に、停戦交渉にゼレンスキー大統領がしぶしぶ向かうような事態になった場合、ロシアの軍事進攻が“やり得”のような形にならないように収める必要があります。 ロシアの「成功体験」になってしまうと、次は中国が・・・という話にも。

停戦交渉でロシアにそういうポジションを取らせるのは、「戦場での勝利」以上に難しいかも。そのためにはやはり戦場での成果が必要。そのためには支援する国々も今が正念場ということにも。
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