孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州にとっての中国  パートナーであると同時にライバル デリスキング重視

2023-09-14 22:49:04 | 欧州情勢

(EUのフォンデアライエン欧州委員長(左)と握手する中国の李強首相=9日【9月10日 共同】)

【パートナーであると同時にライバル デカップリングではなくデリスキング】
欧州が中国との関係をどのように見ているのか・・・
一番の関心事は経済的関係でしょう。 人権問題や民主主義に関していろいろ問題はあっても、やはり巨大市場としての中国、欧州への投資国としての中国は大きな存在です。 一方、公正な競争が行われているのかという点にも関心があるところでしょう。

安全保障面は、中国は距離的に遠いこともあってウクライナ侵攻で示されたロシアの脅威のような緊迫したものはないものの、そのロシアに対し中国が軍事支援することへの警戒は強くあります。

また、台湾問題に関しても、産業が台湾製半導体に依存していることから、中国が台湾に侵攻すればロシアのウクライナ侵攻以上に深刻な世界経済の動揺を招くのではないかという不安もあります。

****ロシアは敵国・中国は協力国?ヨーロッパは中国をどう見る(油井’s VIEW)****
ドイツは、国家安全保障戦略で「ロシアを最大の脅威」とする一方で、中国については強い警戒感を示しながらもロシアとは異なる見方を示しました。 この違いは、世論をある程度、反映しているのかもしれません。

“中国はヨーロッパにとって必要なパートナー”
ヨーロッパのシンクタンク「欧州外交評議会」が先日発表した、 ドイツを含むヨーロッパ11か国を対象に行った世論調査では、ロシアを「敵国」と答えた人がドイツでは62%、11か国の平均では55%でした。

「欧州外交評議会」は、「軍事侵攻以降、ヨーロッパの人達のロシアに対する見方は大きく変わった。ロシアを敵国・競合国とみなす人が、全体の3分の1からほほ3分の2に急増した」と説明しています。

一方、中国については、敵国と答えた人はドイツで18%。11か国の平均でも11%と低い。「協力国」とみなす割合がドイツ(33%)でも11か国平均(43%)でも最も高くなっています。

「欧州外交評議会」は「ヨーロッパの人達の中国に対する見方は驚くほど変わっていない。中国はヨーロッパにとって必要なパートナーという見方が主流だ」と分析しているのです。

この世論調査の結果を、中国政府は歓迎しているようです。
「世論調査の通り、中国と欧州は協力のパートナーだ。競争相手ではない。首脳間の共通認識を実現するために欧州と協力する用意がある」(中国外務省報道官)

ヨーロッパの対中政策は2つの勢力にわかれる
アメリカからもこんな見方が出ています。アメリカの新聞ワシントンポストで、外交コラムニストのザカリア氏は「世界の他の国々は私たちと同じ目で中国を見ていない」と題したコラムで、ヨーロッパや東南アジアではアメリカの対中国政策が強硬すぎるとして懸念や警戒が強まっていると報じたのです。

ただ、一方で、ヨーロッパの中国に対する見方は揺れているとされています。

欧州外交評議会は、「ヨーロッパの対中国政策は、アメリカに近いEUのフォンデアライエン委員長と中国により融和的で関係改善を主張するフランスのマクロン大統領の2つの勢力にわかれる」としています。

その上で、世論は、現時点でマクロン氏を支持している一方で、中国がロシアに対する兵器の供与などに踏み切れば大きく変わる可能性があると分析しています。

ヨーロッパの中国に対する世論がロシアのように変わるかどうか。中国の今後の行動次第と言えそうです。【6月16日 NHK 油井秀樹キャスター】
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EUは中国との関係について、パートナーであると同時に競争相手かつ体制的ライバルであり、デカップリング(切り離し)ではなくデリスキング(リスク軽減)に向けて取り組むとしています。

****EU首脳、対中関係におけるデリスキングの方針を確認****
EUは6月29~30日、ブリュッセルで欧州理事会(EU首脳会議)を開催し、ロシアによるウクライナ侵攻に関連した今後の支援策、安全保障と防衛、域外政策のほか、対中政策や経済政安全保障に関する総括を採択した。

対中関係に関しては、EUのパートナーであると同時に、競争相手かつ体制的ライバルであるとする中国の位置づけを再確認。

気候変動などの世界的な課題においては協調し、経済面では公平な競争環境の確保と互恵的な関係を目指すとしつつ、重要分野での中国依存の軽減など、デカップリングではなくデリスキング(リスク軽減)に向けて取り組むとした。(中略)

このほか対中関係では総括で、緊張が高まっている台湾海峡に関して懸念を表明し、武力による一方的な現状の変更には反対するとした。EUの一貫した立場として、「一つの中国」政策もあらためて確認した。新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題にも言及した。【7月4日 JETRO】
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中国はEUに対し、より明確な関係強化を求めています。

****中国、戦略的パートナーシップで立場明確にするようEUに要請****
中国の外交担当トップ、王毅・共産党政治局員は欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表に対して、中国との戦略的パートナーシップについてEUは立場を「明確化」する必要があると伝えた。

EUと中国は2003年に立ち上げた包括的戦略的パートナーシップで貿易や投資を超えた関係強化を表明した。

ただ、EUは19年以降中国を「経済的競争相手」、「システミック・ライバル」と見なし、ウクライナに侵攻したロシアと中国が緊密な関係を維持していることを警戒している。

中国外務省の(7月)15日の発表によると、王氏とボレル氏は14日、インドネシアのジャカルタで地域会合に参加した際に会談した。王氏はボレル氏に対して、中国とEUはコミュニケーションを強化し、相互信頼を高め、協力関係をさらに強めるべきだと指摘、EUは「揺れ動く」べきではなく、言動により関係後退を促すようなことがあってはならないと伝えた。【7月15日 ロイター】
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中国としては、米中対立を踏まえ、EUとの関係強化を図りたいところ。

****中国、EU首脳会談に意欲 李首相、関係安定を強調****
中国の李強首相は9日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長とインドの首都ニューデリーで会談し「共に努力し、年内に中国EU首脳会談を成功裏に実施したい」と表明した。中国外務省が10日発表した。中国は米中対立を踏まえ、EUとの関係強化に動いている。

李氏は「中EUの安定した関係をもって、世界情勢の不確実性に備えるべきだ」と強調。バイデン米政権が対中経済関係で提唱する「デリスク(リスク回避)」を念頭に「中国の発展と開放は世界と欧州のチャンスであり、リスクではない」と訴えた。クリーンエネルギーや気候変動対策で協力を進めたいとした。【9月10日 共同】
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【個別案件では摩擦・トラブルも】
EUは「揺れ動く」べきではなく・・・・とは言いつつも、個別の案件で見ると、欧州と中国の間の摩擦・トラブルも目立ちます。

****欧州委、中国製EV調査を公表 市場競争阻害を懸念****
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は13日、フランス・ストラスブールの欧州議会で今後1年の施政方針について演説し、中国製の電気自動車(EV)への補助金が市場の公平な競争を阻害していないかを調査すると公表した。中国の補助金支援により安価な中国製EVが市場に広く流通しており、欧州の自動車メーカーが警戒感を強めていた。

公平な競争をゆがめるような不当な補助金が調査で正式に確認されれば、欧州委が中国製EVに追加関税を課す可能性がある。

フォンデアライエン氏は13日の演説で「EVは極めて重要な産業で欧州で大きな可能性を秘めている」とした上で「世界市場は今や安い中国のEVであふれているが、その価格は巨額の政府補助で人為的に低く抑えられている」と非難。「欧州市場をゆがめており容認できない」とした。

フォンデアライエン氏は先駆的な欧州の太陽光発電企業が過去に多額の補助金を受ける中国企業との競争にさらされ、倒産を強いられたと指摘。「中国の不公正な貿易慣行が(欧州の)太陽光発電産業に与えた影響を忘れてはいない」と訴えた。

一方、対中戦略について「『デカップリング((経済切り離し)』ではなく『デリスク(リスク回避)』だ」と強調。サプライチェーン(供給網)などの依存リスクを低減しつつ、経済関係を維持していく考えを示した。

EV普及を図る中国は近年、EVの輸出を拡大。欧州メディアによると、欧州の電気自動車市場における中国のシェアは過去約2年で倍以上に拡大した。

中国メーカーのEVは欧州勢に比べて価格が安く、ドイツ自動車大手のBMWのオリバー・ツィプセ最高経営責任者(CEO)は中国の自動車メーカーは欧州産業に「差し迫ったリスクをもたらす」と危機感を示した。(後略)【9月13日 産経】
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EVに関しては、日本も中国、東南アジアで中国企業に市場を奪われつつありますが、その件はまた別機会に。

今回のEU対応について、中国は「EUが予定している調査は『公正な競争』という名のもと、自らの産業を守ろうとする目的で、あからさまな保護主義的行動だ」(中国商務省 何亜東 報道官)と反発しています。

国別で見ていくと、ドイツでは戦略的分野の企業への中国の影響力拡大に警戒する動きがあります。

****ドイツ、中国企業による衛星新興企業の完全買収を阻止=政府筋****
ドイツ政府が13日、中国企業による衛星スタートアップ企業クレオ・コネクトの完全買収を禁じたことが分かった。政府筋2人がロイターに明らかにした。

同筋によると、経済省は、すでに53%株を保有している上海垣信衛星科技に独企業エイティレオが保有する45%株を取得させないと決定。内閣も同意したという。

クレオ・コネクトはスペースXの衛星通信サービス「スターリンク」のように、2028年までに300基以上の小型低軌道衛星と地上インフラからなるネットワークを構築し、グローバルな通信サービスを提供したいと考えている。

最近、ロシアの侵攻に対するウクライナ軍の防衛にスターリンクが使用される可能性が取り沙汰されたこともあり、この分野は戦略的に重要視されている。

ドイツは対中姿勢を厳しくしており、昨年11月には国内半導体メーカー2社への中国からの投資を阻止。ショルツ首相は中国への依存を減らす必要性を訴えている。【9月14日 ロイター】
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ドイツ経済は最近「欧州の病人」ともまた言われ始めたように、他の欧州諸国より悪い状況にありますが、高齢化による労働力不足、緊縮財政による公共インフラの老朽化、新たな成長産業への投資不足に加え、中国経済依存の体質も構造的弱さのひとつとされています。

中国経済依存体質のため、最近の中国経済不振の影響でドイツ経済が悪化している側面もあります。

イタリアが「一帯一路」からの離脱の方針であることは、以前のブログでも取り上げました。

****伊首相、一帯一路の離脱を中国首相に伝達 米報道****
米ブルームバーグ通信は10日、イタリアのメローニ首相がインドの首都ニューデリーで中国の李強(り・きょう)首相と9日に会談した際、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱する意向を伝えたと報じた。

イタリアは2019年に主要7カ国(G7)加盟国で唯一、一帯一路に協力するとの覚書を結んだが、イタリア政府内では「(同国への)経済的な恩恵が乏しい」として一帯一路に否定的な声があがっていた。

ブルームバーグによると、メローニ氏は10日のニューデリーでの記者会見で離脱の是非について明言しなかったが「(李氏との会談で)一帯一路について話した」と認めた。メローニ氏は離脱について年内に結論を出すとみられる。(後略)【9月11日 産経】
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【スパイ行為を問題視するイギリス】
“英メディアによると、イタリアは離脱に伴う中国側の反発を警戒しているという。”【同上】とも。

経済ではなく安全保障面で中国と揉めているのがイギリス。

****英議会調査担当者、中国のスパイ容疑で逮捕 英報道****
英紙タイムズ(電子版)は10日までに、ロンドン警視庁が3月に中国のためにスパイ活動をした疑いで英議会の調査担当者ら2人の男を逮捕していたと報じた。

英メディアによると、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席したスナク英首相は中国の李強首相と10日に会談し、「英国の議会制民主主義に対する中国の干渉に重大な懸念を抱いている」と伝えた。

タイムズ紙などによると、2人の男のうち1人は20代の英国人で、公務秘密法違反の疑いで逮捕された。逮捕当時、議会の調査担当者を務めていた。

この男は数年にわたり中国問題を調査し、対中政策に関わる与党・保守党議員に情報を提供したり政府の行動について提言したりする役割を担っていた。対中強硬派のトゥゲンハート安全保障担当閣外相やカーンズ下院外交委員長ら保守党の機密情報を扱う政治家とつながりがあったとされる。男は過去に中国に滞在していたときに工作員として勧誘された可能性があるとみられている。

逮捕されたもう一人の男については、30代との情報以外はほぼ不明。2人は保釈されたが、ロンドン警視庁は捜査を続けており、英メディアは「英議会を標的にした最悪なスパイ行為の一つだ」と指摘した。

近年、英議会では中国によるスパイ行為や中国と密接な関係にある人物が関与する事態が懸念されている。英紙ガーディアンによると、英議会のスパイ監視機関である情報・安全保障委員会は7月、中国が英国を積極的に標的にしているとの見解を示した。

昨年1月には、英情報局保安部(MI5)が、中国共産党の外国でのプロパガンダ工作を担う中央統一戦線工作部(統戦部)と連携して活動する女性が英議員らに対し、献金を通じて英国の政治に干渉しているとの警告を発した。

中国による人権侵害などを監視する英人権団体「香港ウオッチ」の最高責任者、ベネディクト・ロジャーズ氏は10日のツイッターで「われわれは(中国の)スパイ網に対抗する努力を強化し、常に警戒を怠らないようにしなければならない」と訴えた。【9月11日 産経】
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中国は、イギリス側が「スパイ行為」としていることに対し、「完全に根も葉もないことだ。断固反対する」と強く反発、「イギリス側が政治的に騒ぎ立てることを止め、相互に尊重し、平等に付き合う精神に照らして、建設的な姿勢で両国関係の発展を推進するよう希望する」(中国外務省 毛寧 報道官)とも。

こうした案件を並べると対立の面が目立ちますが、一方で、特にトラブルもなく(ニュースになることもなく)拡大する経済関係という側面も。
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