(【8月6日 FNNプライムオンライン】水害被災地を視察する金正恩総書記 片時もタバコを手放すことはなかったとか それはかまわないけど・・・)
【「わが身を顧みず、人民のために奔走する最高指導者」を演出】
北朝鮮では7月27日の豪雨により中朝国境を流れる鴨緑江が一部氾濫、韓国報道によれば死者・行方不明者が1100〜1500人と推計される甚大な被害が出ているとされています。
金正恩政権も異例の党政治局非常拡大会議を開催し、金正恩総書記自らが被災地に乗り込むなどの対応をとっています。
****北朝鮮の豪雨、1000人超死亡か 韓国赤十字が支援協議呼びかけ****
7月下旬に北朝鮮で発生した豪雨被害を巡り、韓国の大韓赤十字社の朴鍾述(パクジョンスル)事務総長は1日、被災者に対し、緊急援助物資を提供する用意があると発表した。具体的な品目や方法などについて協議するため「早急な呼応を期待している」と北朝鮮側に呼びかけた。
韓国統一省は同日、北朝鮮住民に多くの被害が出たとして慰労の意を表明。大手紙「朝鮮日報」は韓国政府当局者の話として、豪雨による死者・行方不明者が1100〜1500人と推計されると報じている。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信によると、7月27日に北部で記録的な豪雨があり、北西部・平安北道(ピョンアンプクド)の新義州(シンウィジュ)などで水害が発生した。
金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は同29〜30日に開催した党政治局非常拡大会議で、十分な災害防止対策が取られていなかったと指摘。「許しがたい人命被害」を出した責任者の処分を求めた。会議では、被害地域に約4400世帯分の住居を建設することなどが採択された。
韓国統一省関係者によると、政治局非常拡大会議は、金正恩体制になって以降、2回目。前回は2020年7月に新型コロナウイルスが流行した際に行われた。【8月1日 毎日】
*********************
北朝鮮側は安北道新義州市などで住民約5000人が孤立したものの、約4200人をヘリコプターで救助したと対応が出来ていることをアピールしていますが、人命被害の具体的な規模は伝えていません。
金正恩総書記は、甚大な人的被害を報じる韓国メディアを敵国の「謀略宣伝だ」と批判しています。
****金正恩氏、韓国メディアを批判 「洪水死者1500人」は謀略****
北朝鮮メディアは3日、金正恩朝鮮労働党総書記が2日、豪雨による洪水被害に関し、最大1500人の死者が出ているとする一部の韓国メディアの報道を敵国の「謀略宣伝だ」と批判したと報じた。
金氏は洪水が起きた北西部新義州で約4200人を救助したとされる、朝鮮人民軍のヘリコプター部隊への訪問に合わせて演説した。
家屋や農耕地の浸水など洪水被害が広がっていることを受け、北朝鮮内の動揺を抑える狙いとみられる。
金氏は「被害が最も大きかった新義州で人命被害が一件も出なかったのは奇跡だ」と主張。救出活動中にヘリが不時着したが、無事だったとも述べた。【8月3日 共同】
********************
金正恩総書記が被害の実態を隠していることも想像されますが、金氏が被害の実態を知らされていない可能性も指摘されています。
災害で多数の人が亡くなったことで、過去には公開処刑になった幹部もおり、北朝鮮当局は人命被害には極めて敏感だとか。そうした状況で被害をできる限り小さく報告していることも想像されるとの指摘も。
今回も、責任を転嫁するように警察トップの社会安全相が更迭されています。
被害実態が正しく報告されないとしたら、金正恩政権の恐怖支配のもたらす歪みです。
一方、金正恩総書記自ら被災地で陣頭指揮に当たる様子(タバコ片手にですが)が国内向けにアピールされています。「わが身を顧みず、人民のために奔走する最高指導者」の演出です。
****金正恩総書記の頭がゴムボート移動中に木に接触…1000人以上死亡か?北朝鮮洪水で被災地をタバコ片手に直接視察****
未曾有の災害に襲われている北朝鮮で目撃されたのは、鋭い視線で被災現場を視察する最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)総書記の姿。(中略)朝鮮中央テレビは7月31日、金総書記がその災害現場を視察する様子を公開。
ぬかるむ地面で滑らないよう、両手を支えられながらエスコートされ、ゴムボートに乗り込みます。ヘルメットやライフジャケットなど装備することなく出発。
ボートの中央には灰皿が用意され、たばこを片手に現場に鋭い視線を向けます。
しかし、濁流をどんどん奥へ進んだその時、ボートがバランスを崩し、一瞬ひやりとする場面も。
そして、ボートが木々の中に入ると頭に垂れ下がった枝が。すぐに髪形を直すも、険しい表情を見せて何やら指さし、視察を続けます。
アクシデントに見舞われた金総書記でしたが、片時もタバコを手放すことはありませんでした。(中略)
金総書記は、視察した現場のすぐ近くに止めた特別列車の中で緊急会議を開催。被災者の住宅や堤防の建設などをすぐに行うよう指示したということです。【8月5日 FNNプライムオンライン】
*****************
タバコ云々はともかく、被災地に中央の偉い方が乗り込むと、現場はその対応でかえって混乱する・・・というのはよくあることですが、まして、ご機嫌をそこねたら収容所送り・処刑も・・・という神のような存在の金正恩氏が乗り込んでくるのですから、現場は被害者救助そっちのけでその対応に追われたであろうことは容易に想像できます。
【「増水で孤立した住民1000人を見殺しにした」との報道も】
ウクライナ侵攻で武器不足に悩むロシアへの武器工場的役割を担うことで、北朝鮮とロシアの接近が最近目立ちますが、そのロシア・プーチン大統領は支援を申し出ていますが、金氏は謝意を示しながらも、すでに対策が講じられていると返答したとか。
****プーチン氏、洪水被害の北朝鮮にお見舞いメッセージ****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、大規模な洪水被害に見舞われている北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記にお見舞いのメッセージを送った。大統領府(クレムリン)が3日、明らかにした。
プーチン氏は、「暴風雨により愛する人をなくした人々にお見舞いの言葉と支持を伝えていただきたい」「あなたは常にわれわれの援助と支援を頼ることができる」と、電報で金氏に伝えた。(中略)
プーチン氏は「緊急人道支援」も申し出たが、金氏は謝意を示しながらも、すでに対策が講じられていると返答。ただし「いずれ援助が必要になった際にはモスクワの真の友人たちに要請するだろう」と述べた。(後略)【8月4日 AFP】
*********************
外交儀礼的な支援申し出を丁重にお断りするというのは、日本の地震被害などでもよくあることですが、孤立住民の中国側への避難移動を申し出た中国提案を金正恩氏が拒否した、その理由は脱北が懸念されるから、あるいは現場に向かう金正恩氏のため・・・という報道が本当であれば、まさに「住民を見殺しにした」と言える話です。
****金正恩が「増水で孤立した住民1000人を見殺し」にした理由****
(中略)先月、豆満江同様に中朝国境を流れる鴨緑江の流域で大雨が降り、大水害が発生した。中国側は、増水により中州で孤立していた住民を救助する用意があると北朝鮮側に伝えたが、これを北朝鮮が断っていたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道(ピョンアンブクト)の幹部によると、先月27日午後から28日明け方にかけて、新義州(シニジュ)市内が浸水したのは、28日午前2時に太平湾ダムの水門を開いたことによるもので、当局は事前に市民に対して避難命令を出した。
しかし、既に鴨緑江は増水しており、黄金坪(ファングムピョン)、柳草島(リュチョド)、威化島(ウィファド)、於赤島(オジョクト)、そして義州(ウィジュ)郡に属する九里島(クリド)の5つの中洲の住民は、避難するタイミングを逃して孤立してしまった。
この中で、新義州市内中心部につながる橋があるのは柳草島と威化島だけで、於赤島と九里島にはそもそも橋がかけられていない。そして、黄金坪には橋がかけられているが、つながっているのは中国だ。
柳草島の住民は橋を渡って避難できたが、威化島にかかる橋は水が床版を越え、避難の最中に水の流れに足を取られ流されてしまう人が続出した。この幹部によると、中洲の住民1000人以上が死亡、行方不明となったが、そのほとんどが威化島の住民だったという。
別の幹部によると、丹東市公安局は、平安北道安全局(双方とも警察)に、孤立した住民を救助する用意があると伝えた。しかし、金正恩総書記はこれを拒否し、多くの住民が犠牲になった。以下はこの幹部の語った詳しい証言内容だ。
「大雨が降り続いていた27日夕方に、鴨緑江は危険水位を越えていた。雨が止む気配なかったことから、同日午後、中国の丹東市公安局とわが国(北朝鮮)の平安北道安全局は、鴨緑江にある一部の発電所の水門を開くことについて議論した。水門は中国側の同意があってこそ開くことができるが、増水しきった状態で水門を開けば下流にある中洲が浸水することは明らかだった」
「そこで丹東市公安局は、中洲の住民を安全に中国に移動させる用意があると平安北道安全局に伝えたが、報告を受けた金正恩総書記はこれを拒否した」
この付近にある鴨緑江の中洲の多くは、北朝鮮領であっても中国側に近い場合が多い。於赤島の場合、万里の長城の最東端と言われている虎山長城からは「一歩跨」と言って、ほんの数歩ながら北朝鮮領に入れる。それほど近いのだ。
では、なぜ金正恩氏は、中国側の提案を断ったのか。
「金正恩氏は、中洲の住民を中国に避難させた場合、韓国に逃げるかも知れないとの理由で許さなかった。そうこうしているうちに日が暮れて、ヘリコプターでの救助ができなくなってしまった」
それでも丹東市公安局は、万が一の事態に備えて黄金坪と威化島、九里島の対岸にバスと救急車を夜通し待機させた。北朝鮮が救助を開始したのは、夜明け後の28日午前6時半からで、その1時間半後に金正恩氏が現場に到着したが、すでに雨は止み、水が引き始めていたころだった。
「中国に避難させたら韓国まで逃げてしまう」は大げさであっても、水害の混乱に乗じて脱北するという懸念は、あながち間違っていない。
平時の行方不明は、脱北の可能性があるとして政治的事件の扱いとなるが、災害時ならそこまで厳しく問われない。それを利用し、死んだことにして脱北してしまうのだ。
また、金正恩氏が自ら被災地に乗り込むのに、被災者の多くが中国側に救助されたとあっては、顔が立たない。住民を犠牲にしてまで、救助を指揮し、温かく見守る「絵」を撮るために、中国側の提案を断った可能性も考えられる。
いずれにせよ、体制と最高指導者の権威を保つためなら、何百、何千の人命の犠牲など厭わないのが、独裁国家・北朝鮮なのだ。【8月7日 デイリーNKジャパン】
********************
タバコ片手の「人民のために奔走する最高指導者」演出は喜劇ですみますが、上記報道が真実なら恐怖の悲劇です。
【収容所収監数増減に見る恐怖政治の実態】
北朝鮮の恐怖支配の実態については、下記のような報道も。
****北朝鮮収容所で9千人死亡「国家への不満増大、懲罰強化で」****
人権蹂躙の温床と指摘される北朝鮮の管理所(政治犯収容所)の収監者数が、昨年と比べ約9000人減った約19万人であると、デイリーNKの内部情報筋が伝えている。
北朝鮮当局の社会統制強化により新規の入所者が増加したが、死亡者数の方がさらに多く、トータルで収監者数が減ったというのが情報筋の伝言だ。
収容施設事情に詳しいデイリーNKの北朝鮮内部情報筋によると、今年6月末現在で国家保衛省と社会安全省が集計した政治犯収容所の収監者数は約19万人だ。これは昨年の収監者数と比べ約4.6%減少した数値だ。(中略)
情報筋は「人員変動の主な原因は新型コロナウイルス感染症以後、政治的不満要素の増加にともなう入所者増加と、国家の強力な懲罰生産課題および統制による死亡者発生のため」と説明した。
昨年に比べて人員が減少したのは14・15・17・25号管理所で、ここで死亡者が多数発生したものと見られる。
反面、16・18号管理所は昨年に比べて収監者が増加したことが把握された。
情報筋は「18号管理所で収監人員が増加した原因は、国家に対する内部不満要素の増加と政治的意見表出者および政策反対者が急増したこと」とし、「今年初め、社会統制を強化し国家転覆につながる小さな要素も初期の段階で速やかに取り除くため、収容能力を拡大しろという指示があった」と説明した。
また、16号政治犯収容所には今年、家族連れや子ども、高齢者が多く入ったとも説明した。
これと関連して彼は「以前は家族単位で送られる例が多かったが、今は親戚まで含め一族がぜんぶ送られてくる」とも伝えた。
北朝鮮の「連座制」の対象が直系家族にとどまらず、親戚までをも含む広い範囲に適用されているということだ。 社会統制の水位を高め、政治犯に関する連座制度を強化している可能性がある。【8月8日 デイリーNKジャパン】
**********************
北朝鮮の住民の中には「早く南が攻め込んで来てくれないか」という声がある・・・といった話も「さもありなん」といったところ。