孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国、インド、バングラデシュなどアジア新興国に共通する若者失業 中核には「雇用のミスマッチ」

2024-08-31 22:56:35 | 経済・通貨

(バングラデシュの主要な成長エンジンである衣料品業界も人力より機械に頼っている【8月30日 WSJ】)

【アジア新興国で共通課題となっている若者失業・雇用問題】
中国の若年失業率は昨年6月に過去最高を記録。その後、当局は公表を一度停止して統計手法を変更していましたが、変更後の数値でも、いま再び上昇しています。


****中国大卒者に空前の就職氷河期、妥協やニート生活も****
中国では失業者の増大に伴って、数百万人の大学新卒者が空前の就職氷河期に直面している。ある人は低賃金の仕事を受け入れざるを得なくなり、両親の年金を当てにした「ニート生活」をする若者も出てきた。

2021年以降、中国経済を悩ませているのは不動産セクターに積み上がった膨大な未完成の建設物件、いわゆる「爛尾楼」だ。今年になってソーシャルメディアでは、この言葉にならって思い通りの仕事に就けない若者を指す「爛尾娃」という呼称が流行語になっている。

今年、仕事を探している過去最多の大卒者が参入した労働市場は、新型コロナウイルスのパンデミックに起因する混乱や、金融とハイテク、教育分野に対する政府当局の締め付けによってすっかり活気を失ってしまった。

約1億人に上る16─24歳の若者の失業率が初めて20%を超えたのは昨年4月のことで、同6月には過去最悪の21.3%に上昇。すると当局は突然、統計算出方法を見直すためとして公表を停止した。

それから1年を経て、再集計されたこの失業率は7月に17.1%と今年最悪に跳ね上がり、夏場には新たに1179万人が大学を卒業した。

習近平国家主席は、若者の仕事を見つけ出すことが最優先課題だと繰り返し強調。政府も就職フェア開催や採用拡大する企業への支援など若者の就職につながる措置を打ち出している。

それでもミシガン大学のユン・チョウ助教は「かつての大卒者に約束されていたより良い仕事、社会的地位上昇、生活水準の向上見通しはいずれも、今の多くの大卒者にとって、ますます手が届かなくなっている」と指摘した。

仕事にあぶれた若者の中には、故郷に帰って働かずに両親の年金や貯蓄で暮らす完全な扶養家族に戻る人々もいる。

修士号を持っていても逆風を免れるわけではない。

非常に激しい競争を勝ち抜いて中国の高等教育課程を登り詰めた先に、爛尾娃たちが見ているのは、低迷する経済状況にあって自分たちの資格は仕事の確保につながらないという現実だ。

彼らの選択肢は限られ、高給の仕事探しで希望条件を引き下げるか、食べていくために何でも良いから就職するかを迫られる。時には犯罪にまで手を染めてしまう。(後略)【8月25日 ロイター】
*************************

そうした若者の失業・就職難は中国だけでなくインド・バングラデシュなどこれまで経済成長を実現してきたアジア世界の新興国に共通したものとなっています。

バングラデシュで公務員の特別採用枠をめぐる若者の不満がハシナ首相退陣という政変につながったことは記憶に新しいところです。

インドでも総選挙でモディ首相率いる与党が単独過半数を獲得することができなかったのも、やはり若者らの効用環境への不満があるとされています。

****アジア新興国の「時限爆弾」 高い若年失業率****
高成長でも失業率2ケタ、数千万人の若者の足かせに

アジアの中でも高い経済成長率を誇る国々には、隠された不都合な現実がある。若い労働者が根強い高失業率と闘っていることだ。

バングラデシュは長らく、極度の貧困からの脱却を遂げた発展モデルとされてきた。経済成長率はここ10年間、年平均6.5%を記録している。ただ、国際労働機関(ILO)のデータによると、若年層の失業率はこの数年で16%に上昇し、少なくともここ30年で最悪の水準にある。

若年失業率は中国とインドもバングラデシュ並みの高さで、インドネシアは14%、マレーシアは12.5%だ。
これらの国を合計すると、15~24歳の3000万人が就業を希望しながら職に就けていないことになる。ILOのデータによると、これは同年代の世界全体の失業者(6500万人)の半分弱を占める。

この数字は若者の方が雇用されやすい米国や日本、ドイツといった経済大国には劣るものの、低成長の南欧諸国ほど悪くはない。イタリアとスペインでは若者の約4分の1が職を得られずにいる。

中国のような幅広い製造業の基盤がなく、若年失業率が2ケタに達しているアジアの国では、発展への道筋とそれがとん挫した場合にのしかかるコストが目先の問題として立ちはだかる。

バングラデシュで今月起きた騒乱の主因は、将来の見通し悪化に対する怒りだった。学生の大規模デモを受けて、15年余り首相の座にい続けたシェイク・ハシナ氏が辞任に追い込まれ、国外に逃亡した。

インドでは、2024年3月期の経済成長率が8%だったものの、ナレンドラ・モディ首相率いる与党が今年の総選挙で単独過半数を割り込んだ。

インドの若年失業率はここ数年で低下したとはいえ、依然として世界平均を上回る。雇用の少なさがモディ氏に対する支持低下の主因だとアナリストは指摘する。

中国政府は昨年、若年失業率が過去最悪の2割超に達した後、同統計の公表を一時的に停止した。インドネシアの経済成長率は5%と堅調だが、鉱業の拡大によるところが大きい。同分野は重機を多く使うが、人員はそれほど必要としない。

多くの国で、20代でも安定した仕事を見つけにくくなっている。南アジアでは昨年、25~29歳の就業者の71%が自営業や臨時雇いなどの不安定な職に就いていた。

若年層の失業率が労働力人口全体より高いのは世界的傾向だ。だがこのことが、中国のような発展を目指すアジアの多くの途上国に重要な問いを突き付けている。「繁栄へのはしごは折れてしまったのか?」という問いだ。

バングラデシュは、世界の衣料品工場として西側の大手ブランドのジーンズやシャツ、セーターを生産することで貧困を脱した。数百万人が農業をやめて工場で働くようになった。

だがそこで行き詰まった。電子機器や重機、半導体のように高技能・高賃金の仕事を生む、より複雑で高付加価値の製造業に移行できずにいる。日本や韓国、中国は、こうした移行を通じて経済的に大きな成功を収めた。いまやそこへ向かう道は、はるかにきつい上り坂だ。

これから成功を目指す国は、やり手の中国と競争しなければならない。米国などの先進国は製造業の国内回帰を進めている。自動化で状況は変わりつつある。バングラデシュの主要な成長エンジンである衣料品生産でさえ、人力より機械に頼っている。

衣料品の輸出はここ10年で倍増したが、同部門の雇用の伸びはこれを大きく下回る。

労働力需給のミスマッチも顕著だ。アジアの途上国では、高等教育を受けて大学の学位を取得する人が年々増えている。卒業生は設計やマーケティング、テクノロジー、金融といった分野のホワイトカラー職を希望する。だがこうした仕事は国内に多くない。

インドはIT産業を発展させたことで知られるが、雇用できる人数は限られており、人工知能(AI)がそうした仕事の一部を奪っている。ベンガルールのアジム・プレムジ大学が公式データを基にまとめた23年の報告書によると、国内の25歳未満大卒者の失業率は40%を超える。一方、読み書きはできるが小学校を卒業していない同年齢層では11%だ。

フィンランドにある国連大学世界開発経済研究所のクナル・セン所長は、「父親も母親も受けていない教育を自分は受けていたら、親と同じ仕事には就きたくないだろう」と話す。「この問題を政治指導者は理解していないようだ」

バングラデシュ政府の22年の調査によると、大卒者の失業率は労働力人口全体の3倍に上る。名門ダッカ大学の図書館は、公務員試験の準備に励む無職の卒業生であふれている。中には試験を受けるのが3回目という人もいる。20代後半で親に養ってもらっている人も多い。

アクタルザマン・フィロズさん(28)は21年に社会学の修士号を取得し、50件の求人に応募したものの就職できていない。今年は公務員職に応募し、500人が二つの職を競い合った。フィロズさんは最終選考まで残ったが不合格となった。

地方の故郷で初級公務員をしている父親から金を借りてなんとか生活している。父親は最近、心臓の手術を受けた。フィロズさんは人生のパートナー探しを先延ばしにしている。「自分の家族に対して責任を持てなければ、結婚なんてできるわけがない」【8月30日 WSJ】
***********************

【安定的な公務員に集まる就職希望】
安定した公務員に若者の希望が集中するのは中国、インド、バングラデシュでも同じです。

韓国ドラマなど観ていると、例によって財閥御曹司・令嬢と庶民のラブストーリーといういつもパターンの一方で、何回も公務員試験に挑戦し不合格を続ける就職浪人という現実を反映した設定もしばしば見かけます。

財閥御曹司・令嬢云々は、厳しい現実が生む、夢物語でもあるのでしょう。

****成長率7%でも安定求めるインドの若者、公務員予備校は大人気****
インド政府の仕事に就くこと――スニル・クマールさん(30)は過去9年間を、そのために費やしてきた。

採光も換気も悪いトタン屋根の仮設教室へ大勢の生徒とともに押し込まれ、何年にもわたってさまざまな試験のために勉強を続けた。連邦政府の職を得るために必要な権威ある公務員試験もあった。州公務員の採用試験にも挑戦したし、他の下級公務員の試験も2つ受けた。

だが、13回にわたる挑戦はまだ成功していない。

公務員試験の受験資格の年齢上限は35歳だ。国内で最も人口の多いウッタルプラデシュ州に住むクマールさんは、32歳になるまで挑戦し続けるつもりだという。

「政府関係の仕事の方が安定している」とクマールさんは言う。「あと2、3年で就職できれば、10年間苦労した意味はある」

政府の統計によれば2014―22年にかけて、連邦政府の採用試験を2億2000万人が受験し、72万2000人が合格した。合格するには何度も挑戦を繰り返すことになるだろうし、経済は好調で民間セクターは拡大しているが、それでも毎年数千万人もの若いインド国民が公務員のポストを目指す。

こうした傾向の背景には、多くのインド国民が抱える文化的・経済的な不安がある。世界の経済大国の中で最も成長率が高いインドだが、国民の多くは先の読めない労働市場に悩まされている。雇用の安定性はもちろん、雇用機会さえもほぼ期待できない。世界最大の人口を抱えるインドでは、民間セクターよりも公務員の方が安心できると考える人が多い。

「家族の誰かが政府関連の仕事に就けば、ほかの家族は、これで生涯にわたって安泰だと考える」。そう語るのは、政府系採用試験の受験者のための予備校を運営するザファル・バクシュ氏だ。

隣国バングラデシュでは先週、公務員採用の優遇枠に反対する学生の抗議行動で、100人以上の死者が出ている。

インドの国内総生産(GDP)は、2014年の2兆ドルから2023/24年度(2023年4月―2024年3月)には3兆5000億ドルまで成長し、今年度も7.2%の成長が予想されている。

志願者は、民間の仕事では期待できない生涯にわたる保障や医療給付、年金、住宅手当が政府職員には与えられると話す。公言する人はほとんどいないが、政府系ポストの多くでは、いわゆる「袖の下」も期待できる。

前出のバクシュ氏によれば、予備校の需要が高まったことで大手企業も参入し、オンライン講座も登場しているという。

バクシュ氏は、収益性も将来性も高いビジネスだと考えている。「需要がなくなることはない」

<良質の雇用が不足>
4―5月の総選挙でモディ首相率いるインド人民党(BJP)は単独過半数を確保できず、政権維持のために連立与党の力を借りることになった。複数のアナリストはその大きな理由として、雇用機会を巡る不満を指摘している。

今月発表された政府統計によれば、2017/18年度以降、インドでは毎年2000万人分の新規雇用機会が生まれている。だが民間のエコノミストは、その多くは通常の賃金を得られる正規労働者ではなく自営業や農業での臨時雇用だと話している。

ノムラは今月のリポートで、インド政府は来週提示する総選挙後初の予算案において、新規の製造施設に対する税制上の優遇措置や国防セクターなどでの国内調達の励行により雇用創出を推進する可能性が高いと述べている。だが、こうした政策が実際に雇用を生み出すには時間がかかる。

ベンガルール市のアジムプレムジ大学持続可能雇用センターのローザ・アブラハム准教授は「単に雇用が足りていないだけでなく、給与が高く福利厚生が充実した仕事が不十分だということだ」と語る。

政府系の仕事に就くことを希望しているプラディープ・グプタさん(22)にとって民間セクターで働くことは、あくまで「最後の選択肢」だ。(後略)【7月28日 ロイター】
******************

【問題の中核にある「雇用のミスマッチ」 ロボット・AI社会では若者に限らない問題】
中国でもインドでも問題になるのは、雇用の絶対数というより、大学卒という条件に見合うような雇用がないという、雇用のミスマッチです。

****インドの若者、高学歴ほど失業率高い-労働市場でのミスマッチ示唆****
インドで高学歴の若者は学歴のない若者より職に就いていない可能性が高いことが分かった。国際労働機関(ILO)が指摘した。

インド労働市場に関するILOの最新報告書によると、大学を卒業した人の失業率は29.1%で、読み書きができない人(3.4%)の約9倍に達した。中等教育以上の学歴がある若者の失業率は6倍の18.4%。

ILOは、「インドの失業は主に若者の問題で、とりわけ中等教育以上の教育を受けた若者に関する問題だった。こうした傾向は徐々に強まった」と分析した。

この数字は、労働者のスキルと市場で創出される雇用との間に大きなミスマッチが存在することを示唆している。また、インド準備銀行(中央銀行)総裁を以前務めたラグラム・ラジャン氏ら著名エコノミストが警告しているように、インドの不十分な学校教育が長期的に経済見通しの妨げになるとの見方も裏付けている。

ILOは「インドの若年層失業率は今や世界水準より高い」とし、「インド経済は非農業部門で、教育を受けた若い新規の働き手に十分見合う雇用を創出できておらず、それが失業率の高さと上昇に反映されている」と分析した。【3月29日 Bloomberg】
***********************

「雇用のミスマッチ」という現象は、単にアジア新興国における若者の雇用問題にとどまらず、生産現場ではロボットが導入され、事務的な仕事、これまでは専門知識が必要とされたいた仕事でも、AIの活用で人間はあまり必要とされない「これからの社会・経済」がもたらす一般的な現象なのでしょう。

これから人間は何をして暮らすのか? 政府から一律にお金が支給されればそれでいいのか?・・・そういうより大きな問題の一つなのでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする