孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  “死に体”との表現、出国勧告の話もでる崩壊目前のアサド政権 新たな力関係は?

2024-12-07 23:04:08 | 中東情勢

(【12月6日 日経】)

【中部要衝ホムスに迫る反体制派HTS 東部ではクルド人勢力、南部でも地元武装勢力の攻勢も 更にISも】
シリア情勢に関する11月30日ブログで反体制派(HTS)がアレッポを制圧したことについて、“「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)にシリア全土に戦線を拡大する力があるとは思えませんが、北部拠点都市アレッポを失うというのはアサド政権にとっては大きな痛手でしょう。”と書きましたが大間違いでした。

反体制派はあっというまに中部ハマを制圧し、更に中部ホムスへと迫っています。

ウクライナとの戦いで手一杯のロシア、イスラエルとの戦闘で大打撃を受けているヒズボラ、ヒズボラ支援やイスラエルとの対峙で身動きが取れないイラン・・・とこれまでアサド政権を支えてきた各勢力が動けない「力の空白」を狙った反体制派の読みは見事に当たったようです。

というか、政府軍の空洞化、士気の低下が露呈しており、アフガニスタンでタリバンの攻勢に有効な反撃を行えず崩壊した政府軍の再現を見る感もあります。

この間、反体制派に対するロシアの空爆などは行われてはいますが、政府軍は反体制派の勢いを止められていません。

反体制派はホムスから首都ダマスカスをうかがう「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)の他に、東部デリゾールは少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が制圧。東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もあります。

更に、南部ダルアーも地元武装勢力が支配下に・・・と、シリア全土で各組織が政府軍を追いやって勢力を拡大しており、アサド政権は首都ダマスカス防衛に追い込まれています。

****シリア内戦激化 37万人避難、死傷者は数百人 反体制派が攻勢****
内戦が再び激化しているシリアで6〜7日、各地の反体制派勢力が東部デリゾールや南部ダルアーを制圧した。ロイター通信などが報じた。シリアでは11月下旬以降、反体制諸派の攻勢が強まり、情勢は一気に不安定さを増している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は6日、戦闘激化で少なくとも37万人が避難したと発表した。民間人にも数百人規模の死傷者が出ている模様だという。

ロイターなどによると、デリゾールでは6日、米国が支援するクルド人主体の反体制派組織「シリア民主軍」(SDF)が市内へ進攻。政府軍やアサド政権を支援する親イラン武装組織はほとんど交戦せずに撤退し、SDFが支配下に置いた。

SDFは、デリゾールから南東約120キロにあるイラクとの国境検問所も制圧したという。
イラクには、アサド政権を支えるイランの影響下にある武装組織が存在し、一部はシリア政府軍を支援するため越境している。SDFによる検問所の制圧で、こうした組織の増援に影響が及ぶ可能性もある。

また、シリアの別の反体制派組織は7日、南部ダルアーを制圧したと表明した。政府軍は首都ダマスカスへの安全な撤退を条件に、ダルアーを明け渡したという。この反体制派は6日にはダルアー近郊の政府軍基地やヨルダンとの国境検問所の一部を占領していた。

一方、米国がテロ組織に指定する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)を主体とする反体制派は勢いづいている。シリア第2の都市・北部アレッポや中部ハマの制圧に続き、6日にはハマの南方約40キロに位置する第3の都市・中部ホムスへと迫った。ホムスでは5日夜から多くの住民が避難を始め、治安部隊の拠点は放棄されたとの報道もある。政府軍はこうした情報を否定している。

ホムスは主要各都市へ通じる交通路の要衝だ。反体制派が制圧すれば、首都を目指す攻勢が始まる可能性もある。その場合、近年はイランやロシアの軍事支援で確保されていたアサド政権の軍事的優位が大きく揺らぐことになる。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避させたという。

親イランの民兵組織をダマスカスに集結させているとの情報もあり、首都での攻防激化を見据えている可能性がある。【12月7日 毎日】
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クルド人勢力が制圧した東部デリゾールは油田地帯。

地元武装勢力が押さえた南部ダルアーは“「アラブの春」と呼ばれる民主化要求運動が中東で拡大した2011年、シリアで反体制デモが広がる震源地になったことで知られる。アサド政権側は当時、全土に拡大したデモを徹底的に弾圧して内戦に発展した。”【12月7日 産経】という因縁の地

「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シャーム解放機構」)が進撃する中部ホムスは“国内交通の十字路に当たり、反体制派が制圧すれば南部ダルアーとの間にある首都ダマスカスを挟み撃ちにし、孤立を図ることも可能になる。また、ロシア軍の駐留基地などがある西部と首都の往来が遮断される恐れがある。”【同上】

いずれも、政権にとっては重要な地域ですが、次々と落ちています。
“東部ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が一部地域を支配下に置いたとの観測もある。【同上】とIS復活の動きも。

【首都陥落も目前 関係国はダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動き】
“親イランの民兵組織をダマスカスに集結させている”とのことですが、“ほとんど交戦せずに撤退”“治安部隊の拠点は放棄”“イランは既に、シリアへ派遣していた精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らを国外へ退避”・・・こうした流れを食い止めて首都攻防というのは難しいようにも。結構短時間で結着がつくかも。

関係国もダマスカス陥落・アサド政権崩壊を前提にした動きを見せています。

****シリア首都陥落の可能性=イスラエルが米に懸念伝達―報道****
米ニュースサイト「アクシオス」は5日、反体制派が攻勢を強めているシリア情勢を巡り、イスラエル政府高官が、アサド政権軍が崩壊し首都ダマスカスが陥落することもあり得るとの見方を示したと報じた。

反体制派は既にほぼ掌握した北部アレッポに続き、5日には中部の要衝ハマ制圧を宣言した。アクシオスによれば、米当局者もアサド政権軍の防御線が急速に崩壊していると指摘。「政権にとって過去10年間で最大の試練」と見なしていると語った。

米当局者によると、イスラエル側は米国に対し、イスラム過激派勢力がシリアで権力を掌握することへの懸念を伝達。混乱に乗じてイランがシリアに兵士を追加派遣し、同国での影響力を強める事態も危惧しているという。12月6日 時事】 
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****トルコ大統領、国連総長と電話会談 「シリア紛争は新段階に」****
トルコのエルドアン大統領は5日、国連のグテレス事務総長と電話会談し、シリア紛争が「冷静に管理される」新たな段階に入ったとの見解を伝えた。トルコ大統領府が明らかにした。

シリア反政府勢力は5日、中部の要衝ハマを制圧し、同国のアサド政権およびその同盟国であるロシアとイランに新たな打撃を与えた。

エルドアン氏はグテレス氏に対し、シリア政府は政治的解決を達成するために、国民との対話を迅速に行う必要があると指摘。トルコは緊張緩和と民間人保護、政治的解決の下地を整えることに取り組んでいると語った。【12月6日 ロイター】
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もはや「死に体」との表現も出始めたアサド政権ですが、亡命の話も。

****シリア大統領に出国勧告か=中東諸国、支援に消極的―米紙****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は6日、エジプトやヨルダンの当局者が内戦下のシリアで反体制派の大規模攻勢にさらされているアサド大統領に対し、出国して亡命政府を樹立するよう勧告していたと報じた。シリア治安当局者らの話として伝えた。アサド氏の反応は伝えられていない。

同紙によると、アサド氏は、反体制派との関係が深いトルコに攻勢を止めるための働き掛けを要請。エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクには情報提供や武器供与を求めたが、いずれも拒否されたという。

アサド氏との関係が冷え込んでいるトルコのエルドアン大統領は6日、「アサド氏にはシリアの将来を話し合うため訪問を求めてきたが、前向きな回答が得られなかった」と指摘。反体制派の進攻については「問題なく続くことを願う」と述べ、容認する姿勢を示した。【12月7日 時事】 
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【かつてはアルカイダ系ヌスラ戦線とも呼ばれたHTS、クルド人勢力・・・・新たな力関係は?】
ここまで反体制派の攻勢が急激に進行している最大の理由は冒頭でも触れたロシア・イラン・ヒズボラがシリアに注力できない状況にあることですが、それ以外の要因を指摘する向きも。

****「米制裁がアサド政権崩壊の要因」 シリア人権監視団代表***
内戦が続くシリアで反体制派の武装勢力が攻勢を強める中、シリア人権監視団の代表がANNの取材に応じ、「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の要因となった」と明かしました。

「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」(シリア人権監視団ラミ・アブドルラフマン代表、以下同)

イギリスに拠点を置く反体制派NGOシリア人権監視団は、武装勢力の兵士たちが9月から訓練を受け、準備を進めてきたと明かしました。「アサド政権は事実上崩壊した」とし、要因として軍事支援を受けてきたヒズボラの弱体化のほかに次の点を指摘します。

「アメリカの制裁がアサド政権崩壊の主な要因だ」「経済面では国家は崩壊し、電気が通っていないなどインフラも整っていない。なのに、政権内にはヨーロッパの富裕層よりも金を持つ腐敗した人々がいて政権の弱体化につながっている」

反体制派の勢力はアサド政権が支配していた要衝を次々と制圧していて、シリア第3の都市ホムスにも迫っています。

アブドルラフマン代表は、政府軍がすでにホムスの街の外まで退避しているとしたうえで将校らに戦闘の意欲はなく、軍の中でクーデターが起きる可能性があるとしています。【12月7日ABEMA Times】
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アメリカの制裁というよりは、アサド政権内部の問題のようにも。

反撃作戦の実行時期については、「進攻作戦の時期は当初9月末だったが、1、2回延期され、(ヒズボラとイスラエルが)停戦合意した日に始まった」とありますが、その背景については以下のようにも。パレスチナやレバノンの情勢と密接に関係していたようです。

****シリア反体制派のアレッポ制圧作戦、レバノン停戦を待って開始=幹部****
シリアの反体制派統一組織「シリア国民連合」のハディ・バフラ議長は2日、反体制派によるシリア北部の要衝アレッポ制圧に向けた軍事作戦について、レバノンにおける親イラン民兵組織ヒズボラとイスラエルの停戦を待って開始したと明かした。 

反体制派軍司令官らも、もっと早く作戦を始めていれば、ヒズボラと戦闘中だったイスラエルの味方をしていると見なされるのを懸念していたと語った。

 バフラ氏は、反体制派は1年前から作戦準備に入っていたと説明。「しかしパレスチナ自治区ガザとレバノンでの戦闘(発生)で作戦が先送りされた。レバノンで戦いが続いている時期にシリアで戦うのは得策ではないと考えた。その後レバノンで停戦が実現し、作戦開始のチャンスと受け止めた」と述べた。

 実際、反体制派が作戦を始めたのは、まさにヒズボラとイスラエルが停戦に合意した11月27日だった。 

一方でバフラ氏は、いざ作戦に乗り出すと、アサド政権を支援するヒズボラやその他の親イラン勢力がイスラエルへの対応にかかりきりだったこともあり、すぐに反体制派側がアレッポやその他の地域を掌握できたと指摘した。【12月3日 ロイター】
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こうした流れでいくと、おそらく首都ダマスカスを落とすのは「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS シリア解放機構」)でしょう。

同組織はかつてヌスラ戦線とよばれていたアルカイダ系イスラム過激派の流れをくむ組織です。
アルカイダとは関係を断ったと主張はしていますが、ロシア・イランに支援されたアサド政権に変わってイスラム過激派がシリアで主要な勢力を持つという事態にも。

国際社会にとっては新たな問題です。

****シリア反体制派「アサド政権は“死に体” 難民帰還を」 CNN取材****
シリアで攻勢を強めている反体制派のリーダーがCNNテレビの独占インタビューに応じ、今の独裁的な政権を倒して難民らを帰還させると訴えました。

シャーム解放機構 ジャウラニ氏
「最も大事なことは制度を作ることだ。個人の気まぐれで統治されるのではなく、制度だった統治を我々は求めている」

インタビューに応じたシリア反体制派「シャーム解放機構」の指導者、ジャウラニ氏は、アサド政権について「すでに死に体だ」と述べる一方、依然、政権側との戦いは楽観していない姿勢を示しました。

また反体制派が過去に「イスラム国」や「アルカイダ」など過激派組織と関係していた点については、「いまはシリア再建だけが目的」とし、政権の支配から解放した地域には、国内外の難民を帰還させる考えを示しました。

「シャーム解放機構」は北部のシリア第2の都市アレッポや中部のハマなど主要都市を制圧し、アサド政権への攻勢を強めています。【12月7日 テレ朝news】
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「いまはシリア再建だけが目的」・・・・どういう統治を考えているのでしょうか。

他の勢力、特にアメリカの支援を受けるクルド人勢力との関係はどうなるのでしょうか?
クルド人勢力にすれば、この機に分離独立して「クルド人国家」建設・・・という思いはないのでしょうか?

これまで、北東部の空軍基地などには露軍が駐留し、北部国境沿いはトルコが支配。東部には小規模ながら米軍も駐留する。HTSが支配する北西部に加え、北東部一帯は民兵組織を持つ少数民族クルド人の勢力下にある。・・・・という複雑な力関係にあったシリアですが、アサド政権が崩壊した場合、新たな力関係を模索して新たな対立・戦闘の懸念も。

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