孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本の1人あたり名目GDP「一人負け」状態 その割には比較的穏やかな社会?

2024-12-26 22:56:46 | 日本

(【12月23日 日経】)

【1人あたり名目GDPは「日本の一人負け」状態】
「失われた20年、更に30年」・・・今更の話ではありますが、冒頭グラフ、実に劇的な変化を示しています。
わずか十数年前まで、日本の1人あたり名目国内総生産(GDP)はアメリカ・ドイツと同水準でした。それが今ではアメリカの約4割、ドイツの6割程度に。一方で2倍ほどの差があった韓国にも抜かれ・・・24年に台湾にも抜かれる見通しだとか。まさに「日本の一人負け」状態。

「ジャパン アズ ナンバーワン」なんて言葉が飛び交った時代を知る者としては感慨深いものがあります。
もちろん、このようなランキング、1人あたりGDPといった経済指標にどれほどの意味があるのか・・・という考えもあるでしょう。

ただ、時代の変化についていけていない日本の労働生産性の低さ、更に進む社会の高齢化を考えると、日本の将来は厳しいものがあるようにも思えます。

****1人あたり名目GDPで日本22位、韓国に逆転許す 22年****
内閣府が23日に発表した国民経済計算の年次推計によると、豊かさの目安となる日本の2023年の1人あたり名目国内総生産(GDP)は3万3849ドルだった。

韓国に抜かれ、経済協力開発機構(OECD)加盟国中22位に後退した。円安に加え、高齢化による成長力低下や労働生産性の低さが足かせとなっている。

22年の3万4112ドルから減った。韓国がGDPを遡及改定した影響で数値が上振れし、22年、23年と日本を上回った。韓国の23年の数値は3万5563ドルだった。韓国と日本の1人あたり名目GDPが逆転するのは比較可能な1980年以降で初めて。

OECD加盟国38カ国中で比較しても22、23年は22位と、1980年以降最も低い順位だった。主要7カ国(G7)ではイタリアの3万9003ドルを下回り、2年連続で最下位だった。

名目GDPの総額は23年に4兆2137億ドル。世界のGDPに占める比率は4%で、25.9%の米国、16.8%の中国、4.3%のドイツに続いた。ドイツの23年の名目GDP総額は4兆5257億ドルで、初めて日本と逆転した。

名目GDPはモノやサービスの価格変動を含めた指標で、国・地域の経済活動の大きさを示す。日本経済の実力は円ベースのGDPで示す一方、ドル建ての国際比較は各国の「国力」の指標となる。

主な要因は為替だ。内閣府は今回の試算で、為替レートの前提を1ドル=140.5円に置いた。24年も1〜11月平均では1ドル=151.3円となっており、為替によるGDP押し下げはさらに拡大する可能性が高い。日本経済研究センターの試算では、日本は1人あたり名目GDPで24年に台湾にも抜かれる見通しだ。

円安に加えて、労働生産性の低さを指摘する向きもある。日本生産性本部によると、23年の日本の時間あたり労働生産性は56.8ドルで、OECD加盟国中29位と下位だ。「本質的な問題は日本の労働生産性が韓台に大きく後れを取っていることだ」(日経センター)といい、デジタルトランスフォーメーション(DX)やリスキリング推進が必要だとの声がある。

日本はすでに世帯の半数以上が65歳以上がいる世帯で、賃上げなど企業側の努力だけでは成長に限界があるとの声もある。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「今後5年間でバブル世代が一斉に60歳以上になる。シニアの労働供給を絞る現在の制度設計を変えなくては、家計所得向上に向けた根本的な解決にはならない」と指摘する。【12月23日 日経】
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****日本経済の栄光は過去? 1人当たり名目GDPで台湾にも抜かれる可能性、その背景とは―華字メディア****
華字メディアの日本華僑報は23日、「日本人の1人当たり名目国内総生産(GDP)が台湾に抜かれるかもしれない背景」と題する記事を掲載した。

記事は、「最近、日本経済研究センターが発表した予測が、静かな湖面に投じられた1粒の石のように波紋を広げた」とし、同センターが2024年に日本の1人当たり名目GDPが台湾に抜かれる可能性があると試算したことに言及。
「これは経済地図の描き換えというだけでなく、世界経済のトレンドに対する深い反省を促している」と論じた。

その上で、「日本はかつてアジアのリーダーとして、その卓越した技術、強力な製造力、深い文化的背景で、世界の舞台で輝いていた。しかし、時が流れ、2022年には韓国がひっそりと1人当たり名目GDPで日本を超え新たな高みに達した。

人々はこれを一時的なものだろうと自己を慰める感情を抱いたかもしれないが、24年には台湾が日本を超えると予想される中で、日本経済の栄光は本当に過去のものになったのかという疑問が浮かび上がる」とした。

そして、「円安は諸刃の剣のように、貿易においては一時的に輸出競争力を高める一方、国内経済の購買力を弱めている。そして、ドル高はまるで抗いがたい潮流のように、世界の通貨構造の再編を促している。この為替の争いの中で日本は最適なバランスを見つけることができなかったようだ。円は24年初から11月まで約10%下落し、1人当たりGDPを引き下げる重要な要素となった」と論じた。

また、さらに深い原因として「日本経済の長期的な低成長」を挙げ、「自動車の認証不正問題と物価上昇という二重の圧力は、まるで二つの大きな山のように、すでに疲弊した日本経済にさらなる追い打ちをかけた」と指摘。

「24年の日本の実質成長率はマイナスが予想され、それはアジア太平洋地域の18カ国・地域の中で特に際立っており、まるで時代に取り残され、隅っこにいるかのようだ」と評した。

記事は、「経済の盛衰は決して単独で存在する現象ではなく、その背後には産業構造、イノベーション能力、労働生産性など複数の要素が隠されている」と言及。

「日本経済研究センターの試算は、20年に日本の労働生産性が韓国や台湾に大きく遅れていたという残酷な事実を明らかにしている。これは単なる数字の比較であるだけでなく、発展モデル、政策の方向性と社会活力の直接的な反映でもある。デジタルトランスフォーメーションとスキルリストラの流れの中で、日本がチャンスをつかみ、自己救済を実現できるかどうかは、差し迫った課題となっている」と指摘した。

そして、「日本の1人当たり名目GDPが台湾に抜かれる可能性は、単なる二つの経済圏間の競争にとどまらず、世界経済の構造変化に対する警鐘でもある。この変動の多い時代において、誰もが永遠に頂点に立ち続けることはできない。絶え間ない革新と改革を恐れずに行うことだけが、この激しい競争の中で不敗の地位を築くことができる唯一の方法だ」とし、「日本にとってこれは自らを再評価し、新たな成長点を見つけるきっかけになるかもしれない。そして、いかにしてグローバル化の大波の中でチャンスをとらえ、挑戦し、自らの経済の物語を描くか。これはすべての国に共通の課題である」と結んだ。【12月24日 レコードチャイナ】
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【日本は何を間違えたのか?】
当然の疑問として、「日本は何を間違えたのか?」「この状況から抜け出すのはどうすればいいのか?」という話になりますが(第1の疑問)、それについてはここ10年、20年、山ほどの議論がなされているところで、かつ、何も変化していないところでもあります。

ひとつの考え方としては、昨日ブログでも取り上げた、かつて日本同様の経済衰退を経験しているアルゼンチンのミレイ大統領のように、衰退の原因は政府の規制にあるとして、自由主義的改革を断行するという考えもあるでしょう。その妥当性は別にして。

全く別の視点もあるでしょう。山ほどある議論のなかで、(その妥当性を判断できる見識は私にはありませんので)ここ数日目にしたものということだけで選べば、以下のような指摘も。

****日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落*****
<海外生産への転換や現地法人の買収を進めて国内の産業が空洞化すれば、日本のGDPが損なわれることは分かっていた>

(中略)このようにGDPが低迷しているのには、様々な原因がありますが、一番の要因は財界、つまり日本の主要な企業が余りにも国内を軽視していることが挙げられます。例えば、最近大きな話題となっている経済ニュースに関して考えてみても、国内経済とは直接関係のない話がほとんどです。

自動車の主要な市場も生産拠点も海外
例えば、日産を台湾企業の鴻海が買うのか、それともホンダと経営統合するのかというニュースもそうです。このニュースの背景にあるのは世界的な動きである自動車のEV化と、AV(自動運転)化です。(中略)

EVになると、複雑な内燃機関から自由になり、ギアなども簡素化されるため、主要な部品は大きな単位に組み上がったモジュールという半完成品になっていきます。このモジュールにおいて標準化を進めてシェアを獲得すると、市場の過半を制覇できる可能性があります。

このモジュール生産については、仮にホンダ=日産連合ができても、鴻海が日産を買っても日本は生産拠点にはならないと思います。ロボットを稼働させる電力の問題に加えて、英語のオペレーションに対応するロボットのオペレーターに適当な人材の層が厚くないからです。

更に、現在の日産もホンダも主要な市場は海外、そして主要な生産拠点も海外となっています。そしてデザインやマーケティング、AI関連の研究開発の拠点も海外に流出しつつあります。つまり、もうこの2社は日本のGDPに寄与する部分は僅かであり、今回の再編がどうなっても同じことなのです。

日鉄のUSスチール買収については、アメリカ政府による政治的判断で却下されそうだなどと報じられています。まるで、日鉄が買えないと日本が困るような報道です。ですが、考えてみれば日鉄グループとしては、海外の生産拠点や販路を取り込むだけですから、これも日本のGDPにはほとんど関係はありません。

例えば飲料や食品メーカーは、日本国内の人口減少を前提に海外市場を開拓してきました。その中で、日本の企業がスコットランドの伝統的なウィスキー醸造所を買ったり、醤油の製造企業が大規模な海外生産を始めたりして既に長い年月が経っています。

また鉄道車両の製造企業が、海外の車両を受注するというのも増えてきました。経済新聞などでそうしたニュースを見ると、日本の読者は何となく誇らしい思いを抱くかもしれませんが、こうした話も日本のGDPとは関係ありません。

鉄道車両の場合は特に公益性が強いので、最先端の高速鉄道の一部を除いては基本的に受注の条件に現地生産が義務付けられるからです。そして鉄道車両にしても、醤油にしても、仮に海外の現地法人の収益から日本の本社がロイヤリティーを徴収するとしても、帳簿上の数字だけで、キャッシュは海外に再投資されることがほとんどです。また、仮に大きな利益が出て配当するにしても、株主の多くは海外ですから配当金の国内還流も部分的に過ぎません。

衰退トレンドが定着してしまった日本経済
もちろん、財界も経産省も「これでいい」とは思っていないと思います。また、財界としても、各企業が生き残るためにしてきたことではあるものの、「こんなはずではなかった」と思っているはずです。

1980年代後半からの40年近く、多くの日本企業はこうした現地生産や海外法人の買収を続けてきました。円高対策であり、現地の雇用を保証しないと市場に入れてもらえないからでしたが、こうした過度の空洞化を進めれば国内のGDPが失われることは分かっていたはずです。

ですが、結果的に国内のGDPは大きく損なわれ、韓国にも抜かれ、それでも怒ったり悔しがったりする声は限られています。そこには2つの要因があると思います。

1つは、製造業を海外に出した場合に、本来であれば国内はより付加価値の高い知的産業にシフトするべきです。ですが、日本の場合は分厚い言語の壁があり、文明の成り立ちや教育の方法が、グローバルな先進産業とはミスマッチを起こす中で、改革を先送りし続けました。その結果、国内経済においては衰退トレンドが定着したのだと思います。

もう1つは、高学歴な人口の多くは多国籍企業に就職していることが多く、空洞化しても海外からの収益で潤うからです。つまり、海外で売上が立つ企業の場合は、円安も加わる中で「史上最高の収益」や「大幅な賃上げ」が可能になり、GDP低迷の「痛み」を感じないのです。

その一方で、GDPの低下はダイレクトに国内経済に影響を与えています。何よりも貧困の問題はその結果であると思います。可視化できる部分、できない部分のいずれにおいても、経済衰退の痛みは全国に様々な影響を与えています。

では、日本はアメリカのトランプ政権のように自由貿易を否定して、改めて経済鎖国を行えば国内経済を復活させることができるのかというと、それは違います。

国内市場は人口減で縮小を加速させています。またエネルギーと食糧については、輸入に頼る部分が大きいので、弱くなる円を支えるためにも輸出で稼ぐことからは逃れられません。輸出で稼ぐというのは、海外で作って売るのではなく、国内で作って海外に売るという意味です。そうでなくてはフルでGDPには貢献しないのです。

そうではあるのですが、今となっては、製造業では中国やアジア諸国に生産性という点で対抗できていません。また知的付加価値を求める新産業においては、欧米やアジアの一部の国には現時点では全く勝ち目がないのも事実です。つまり、日本という文明の弱みを克服し、中進国型の教育を改革しないと、このままでは衰退が加速するだけです。

とにかく、1人あたりGDPで負け続けていること、この事実を直視して、そこに悔しさと危機感を抱くこと、これが何よりも第一歩だと思います。その上で、相当な覚悟で改革に踏み出すこと、新しい年にはそうした議論は避けられないと思います。【12月25日 冷泉彰彦氏 Newsweek】
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一方で、「日本経済の凋落」といった議論を「マゾ的思考」と戒める見方も

****来年に向けて日本人の一番の薬は「マゾ的思考」をやめること****
<日本で騒ぐほどドイツ経済もインド経済も順風満帆ではない>
今年もビッグニュースの連続だった。やれドイツが、そしてインドが日本をGDPで抜いていく──とか。しかしいま点検してみると、トランプ再選を除けば、「それほど大したことではなかった」ものがほとんどだ。

問題は、メディアがその点検をせずにおくものだから、われわれの頭には最初の大げさな見出しが実際に起きたこととして頭に刷り込まれてしまうことだ。例えば、「ドイツが日本をGDPで抜いた」「インドが2025年、日本をGDPで抜く」という先走った報道が、「日本は沈む一方」という日本人のマゾ的な諦めをますます強固なものにしてしまう。

IMFは23年10月の世界経済見通しで、「23年はドイツのGDPが日本を抜いて世界3位になるだろう」と予測した。これは、ドイツより日本で騒がれた。ドイツ人にしてみれば、ドイツが低成長とインフレに苦しんでいるときにIMFは何を言う、という気持ちだっただろう。(中略)

円はこの1年ほど、「円キャリートレード」(低金利の円を借りて高金利のドルなどを仕入れ、これで高利を得て儲けるやり方)で、過度な円安を仕掛けられた。これからドル、ユーロ双方に対して円が値上がりすれば、ドル換算のGDPで日本はドイツを再び抜くだろう。

インドへの海外投資は急落傾向
だからといって、昨今の西欧メディアのように、ドイツ経済を古い製造業立国モデルにしがみつき、ITやAI化に立ち遅れた「欧州の病人」と揶揄するのは行きすぎだ。実態はそれほど悪くない。

世界でトップシェアの製品を作る中小企業の数は世界最多。IT部門ではシーメンス、SAP、ボッシュ、半導体でもパワー半導体で世界首位のインフィニオンを擁しているし、台湾のTSMCはドイツに生産拠点を建設している。

もう1つ。「3年内には日本やドイツを抜いて世界3位」になるといわれたインド経済も、21年以降は成長率を落としている。インドがその歴史の中で積み重ねてきた、癒着・腐敗した利権構造や中国以上の所得格差、クモの巣のような規制などを改めることができていないからだ。

既得権構造を破ることのできるのは巨大な外国資本で、1990年代後半からの中国は外資に優遇措置を与えることでこれを実現したのだが、インドでは政治にそれだけの力がない。

だから、「中国に代わる輸出産業立地先」と言われながら、外国企業による直接投資は20年をピークに急落傾向にある。われわれが「インド経済は希望の星」という言葉に裏切られるのは、最近20年間でももう3回目だ。

日本は逆で、「駄目と言われていたが、案外すごい」の口。人口が減るからもう駄目だと自ら思い込んでいるが、人口が減れば通勤も楽になるし、これまでより優れた利益率の高いものを売っていけば、GDPも落ちない。

それに、これまで蓄積した富は利子を生む。それも合わせて日本経済はそれなりの成長を続けていけるのだ。来年に向けての一番の薬は、マゾ的思考をやめることだろう。【12月14日 河東哲夫氏 Newsweek】
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個人的には河東氏のように楽観的にはなかなかなれないところも・・・これまでより優れた利益率の高いものを売っていけば、GDPも落ちない・・・どうやって?

個人的には、あまりにも周囲を忖度し、安心・安全を過度に気にかけ、リスク・失敗を恐れて何もしない・・・そんな社会の在り様が現在の経済状態に関係しているようにも思えます。

【「一人負け」状態にもかかわらず、比較的安定して穏やかな日本社会 なぜ?】
ただ、冒頭グラフが示すような劇的な国際変化が起きている割には日本国内は非常に静か・・・と言うか、淡々としている・・・と言うか。 普通、グラフが示すような「一人負け」状態で国民生活が苦しくなれば、社会は騒然とし、政治は混乱すると思われますが、日本の現状はそんな感じでもない。なぜ?・・・これが第2の疑問。

もちろん、個々に見れば生活に困窮している人は大勢います。でも社会全体で見ると「騒然」とか「混乱」といった状況でもなそう。

1人当たりGDPみたいな経済指標ではあらわすことができない「何か」があって、それが日本社会を安定させているのか?

経済的な要因としては公的債務の増加が、経済の実態と個人の生活のギャップの埋め合わせをしていると考えられるかも。国(中央政府)の借金である国債の発行残高は約1000兆円、地方政府の借金である地方債の発行残高は約200兆円、国と地方を合わせるとその総額は約1200兆円に達します。

この膨大な公的債務が「大問題」なのか「気にする必要はない」のかどうかは、これも議論が分かれるところです。

あるいは、経済以外の移民が少ないとか、治安が良いといったことが社会の安定に寄与しているという考えもあるのかも。

あるいは、日本社会は「カネを求める」煩悩から解放された穏やかな境地に達したのか? それなら素晴らしいことですが、あまりそのような感じもしませんが・・・
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