孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  貨幣改革の噂で混乱する経済 当局はロシア派兵兵士の生還を望んでいない?

2024-12-30 23:03:33 | 東アジア

(ウクライナ軍が公開したドローン映像に捉えられた北朝鮮兵士。【12月27日 中央日報】)

【経済を混乱させている貨幣改革の噂】
北朝鮮については極端な秘密主義のために詳細がわかりませんが、ミサイル・核兵器開発に必死の一方で、経済はガタガタで「餓死」も珍しくない、社会的にも滅茶苦茶で、韓国ドラマを見ただけで処刑というように体制維持に躍起になっている・・・そんな様子も報じられています。(ただ、伝えられるものが“極端なケース”に過ぎないのかどうか、国民一般の生活状況がどんなものかはよくわかりません。)

*****金正恩政権はなぜ崩壊しないのか?*****
(中略)
ちなみに、社会主義経済は、破綻状態になっても経済的問題で体制が崩壊することはなかなかない。北朝鮮でかつて大量餓死者が出ても政権は維持された。

国民が少々飢えた状態にあっても、生きるための最低の条件を満たせば、むしろ政治的統制がしやすい面もある。

北朝鮮の場合は、住民が他の国との比較ができないために、自分たちの生活を普通だと思っていることがある。

また住民たちは朝から晩まで食べ物の事だけしか頭にない状況もあり、国を転覆するなどと言った考えにまで及ばない。むしろそれを政権が狙っている可能性もある。それが北朝鮮の現状だ。(後略)
【6月12日 “北朝鮮の新たな動きをどう読み解くか ―朝鮮半島情勢の行方と日本の対応―” 李 相哲氏(龍谷大学教授) 平和政策研究所】
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そんな北朝鮮の経済問題で甚大な影響をもたらすのが貨幣改革(デノミネーション)。2009年11月にも大混乱を招きましたが、今再びその悪夢の噂が国民にひろがり、経済全般を揺るがしているようです。

****「いまのうちにカネを使い果たせ」混乱深まる北朝鮮経済****
通貨安が恐ろしい勢いで進んでいる。

北朝鮮の平安北道(ピョンアンブクト)の成川(ソンチョン)と殷山(ウンサン)では今月10日、1ドル(約157円)が3万3000北朝鮮ウォンから4万北朝鮮ウォンに達したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋が伝えた。今年5月末に8000北朝鮮ウォン台だったので、わずか半年で通貨の価値が4分の1になった計算になる。別の情報筋は、今月1日に2万8000北朝鮮ウォンだったのが、8日には4万1000北朝鮮ウォンになったと伝えた。

レートには地域差があるため、全国的な現象かどうかはわからない。デイリーNKが7日に行った調査では、今月7日の時点で平壌では1ドルが2万1000北朝鮮ウォン、新義州(シニジュ)では2万1300北朝鮮ウォン、恵山(ヘサン)では2万1400北朝鮮ウォンだった。いずれも、先月24日と比べて、3000北朝鮮ウォンくらいウォンが安くなっていることから、通貨安の傾向にあることは間違いない。

そんな中で「再び貨幣改革(デノミネーション)が行われるかもしれない」という噂が駆け巡っている。

多くの人が財産を失い、国中が大混乱に陥った2009年11月の貨幣改革は、北朝鮮の人びとにとってはトラウマだ。資産を持っている人たちは、手持ちの北朝鮮ウォンを使い果たすため、品物を買い占め、品物を持っている人たちは売り惜しみしている。

RFAの咸鏡南道(ハムギョンナムド)端川(タンチョン)の情報筋によると、現地では貨幣改革が行われるとの噂が飛び交い、人々は通貨安と物価高騰の話で持ちきりだという。

資産を持ったトンジュ(金主、ニューリッチ)は、一夜にして全財産が紙くずになった貨幣改革のときのことを思い起こし、手当たり次第に物を買い漁っている。

ナマコを売って一財産築いた情報筋の友人は、あちこちを回って液晶テレビとパソコンを大量に購入している。手元に残す現金はコメ代くらいで、後はすべて物を買うのに注ぎ込んでいる。

自動車に詳しい友人は変速機やタイヤなど、使えそうな自動車部品を買い漁っている。別の商人は、物価高騰が収まるまで、市場には出ないつもりだといって引きこもっているという。

当局もじっとしているわけではない。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、地元当局は「貨幣改革の噂はデタラメ」だと発表して、恐慌状態を収拾しようとしていると伝えた。しかし、お上の言うことを信じる人はいない。

「市場を資本主義の苗場、個人主義(エゴイズム)の温床と考える当局が、市場で収入を得ている人のことを考えてくれるわけがない」(情報筋)

故金正日総書記は、力を持ちすぎた市場を潰す目的で貨幣改革を実施した。民間人が財力を持つと、余計なことをしだすと考えていたようだ。しかし大失敗に終わり、担当幹部を処刑するなどして収拾を図ったが、北朝鮮の人々は今もこのことで金正日氏を深く恨んでいる。

一部の商人は、万が一の事態に備えて、在庫を売り惜しんでいる。
「2009年の貨幣改革の初期、新紙幣は価値があったが、1カ月も経たずに価値が急落し、当局の統制のせいで、対ドルレートは当初の半分以下になった」(情報筋)

当時の記憶がまだ生々しく残っているため、恐怖に襲われた商人たちは、在庫の食用油、砂糖などの食品、木材、ペンキ、自動車やオートバイの部品など、様々な商品を自宅にしまい込んでしまった。

たとえ貨幣改革の噂が、単なる噂に過ぎないと後日わかったとしても、今はともかく何も売らないのがいい方が得と考えているとのことだ。【12月30日 デイリーNKジャパン】
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経済は当局にその気がなくても、多くの国民が不安から一方向に走り出すと、悪循環のスパイラルに陥り、実体経済が麻痺状態になってしまうものです。

2009年11月の貨幣改革がどんなものだったのか・・・「改革」というより国家が国民の資金を収奪し、経済は崩壊・・・といったものでした。

****デノミ失敗で大混乱の北朝鮮経済 「国家による強盗」に高まる不満****
2009年11月、北朝鮮政府は突如としてデノミネーション(貨幣交換)を断行した。その結果、北朝鮮庶民の生活は今、大混乱をきたしている。金正日政権の思惑はどこにあるのか。そして、不安定化する北朝鮮社会はどこへ向かうのだろうか。

ため込んできた財産が一瞬で消失
北朝鮮経済が大混乱に陥っている。結論から述べると、現状はこの10年で最悪、餓死者まで発生している有り様である。原因は、2009年11月30日に電撃的に断行されたデノミ=「貨幣交換」(新ウォンへの通貨切り下げ)措置のためである。あまりに唐突、無茶なデノミ実施によって、北朝鮮国内では物流の麻痺(まひ)、超インフレが起こっているのだ。

金正日政権が断行したデノミの概要は次のとおりだ。(1)旧ウォンを新ウォンに100対1で交換する、(2)交換額の上限を1世帯あたり旧ウォンの現金10万ウォンとする、(3)交換期限は同年12月6日まで、(4)外貨の国内での使用を一切禁ずる、(5)配慮金として新ウォンを1人当たり500ウォン支給する。

この突然のデノミは、一般国民に事前にまったく知らされなかった。また、交換上限の10万ウォンというのは、実勢レートで約2500円程度で、地方都市の中間層のざっと1カ月の生活費に過ぎない(首都平壌はこの2倍程度)。

交換上限以上の金は紙くずになってしまうわけで、庶民から小金をため込んだ比較的余裕のある層まで、大なり小なり打撃を被った。

筆者は長く北朝鮮内部に住む人たちと一緒に取材を続けてきた。彼らが伝えるところによると、何年間もため込んできた財産が一瞬にしてパーになったり、商売の元手にしようと貨幣交換直前に多額の借金をした人が、新ウォンでの返済を求められて借金のかたに家を明け渡す羽目になってホームレスになったり、商品代金や借金の清算を旧ウォンでやるのか新ウォンでやるのかでいさかいが起こったりして、殺人事件や自殺まで発生したという。

一方、最貧層の人たちの中には、この十数年の間に貧富の格差が急に進んで不公平感が募っていたため、金を持っている者たちが途方に暮れている様子を見て、「これであいつら金持ちも私たちも同じ立場だ」と歓迎する人もいたようだ。

しかし、後に触れるが、デノミ実施から間もなくして超インフレが発生し、貧困層は、さらに窮してしまうことになった。

デノミの本当の狙いは何か
では金正日政権は、なぜこの時期にデノミ断行に踏み切ったのだろうか? 北朝鮮当局は、デノミは人民生活向上のためであり、(1)インフレ退治、(2)社会主義原則と秩序に基づく経済管理強化が目的だと説明している(09年12月7日付朝鮮新報など)。

北朝鮮は、国家による計画経済体制と消費物資の国定価格による配給制度を、建前上は放棄していない。だが農業不振が続き、工業生産も、軍需品などの一部工場を除いて、稼働率はざっと20~30%程度。

統制経済がぼろぼろになっていく一方で、一般民衆は生きていくために、違法と知りつつ商売行為を活発化させていった。

こうして1990年代後半からどんどん急拡大していった市場経済は、中国とリンクしつつ、国の実体経済を牛耳るほどに膨張していった。

その半面、インフレもひどく、この10年で消費者物価は20~25倍も上昇していた。北朝鮮当局は、コントロールの利かなくなった市場経済を抑え込んで統制することと、物価の安定を図ることが、デノミ断行の目的だというのである。

それではその結果はどうか? 2010年3月中旬になっても混乱は収まっていないようである。まずは、大変な超インフレの発生である。デノミ実施直後、白米は40ウォン、トウモロコシは20ウォン程度だったのが、3月後半の時点で白米は1000ウォン、トウモロコシは400~500ウォン(いずれも1キロ)に急騰した。

3カ月あまりで約25倍に値上がりしたことになる。中国の人民元の闇交換レートも、1元が15ウォンだったのが約200ウォンに下落した。金正日政権によるデノミは、インフレ退治どころか超インフレを招いてしまったのだ。

新ウォンへの信頼低下がその原因である。
「毎日あれよあれよという間に物価が上がる。売り惜しみが横行して市場にも十分に物が出てこない」
北朝鮮内部の取材パートナーたちの弁だ。

小さな商売や非合法の日雇い労働(北朝鮮では個人が人を雇うことは禁止)で日銭を稼いで暮らしてきた人は、経済が委縮したため、現金収入を大幅に減らしてしまった。

食糧配給もない中、このような貧困層の人たちは金がなくて食べ物にアクセスできなくなり、一部で餓死者が出るような惨状が現れている。

今回のデノミ断行の本当の狙いは何か。筆者の見立ては次のようなものだ。(1)政治的には、増殖する一方の市場経済を縮小再編させ、社会全般の国家統制を立て直すこと、(2)経済的には、国民から資金を強奪すること。

北朝鮮社会は不安定化する
市場経済の増殖は、国民が経済活動の自由領域をどんどん広げていることを意味する。それは、金正日政権の独裁維持の要である人民統制が弱体化するということに他ならない。

実際、この10年ほどの間に、「食べていけるのは政府のおかけでも金正日将軍のおかげでもなく、市場で商売しているから」という意識が当たり前になった。

商売のために人は移動し情報も交換しなければならない。市場経済のこれ以上の増殖は、体制維持にとって脅威だとの判断があって、デノミによって市場に一定の打撃を加える政治的意図があったものと思われる。

だが付言するならば、金正日政権の狙いは単純な「市場つぶし」そのものではないだろう。

経済不振の北朝鮮にあって、今や特権層にとっても、富を手に入れられるのは市場しかない。市場そのものをまったくつぶしてしまっては元も子もないわけだ。市場は「たたいて縮小させ、あらためて権力の都合のいいように再編して復活させる」ということではないか。政府の後続措置を見ないと判断は難しいが、現時点で筆者はそう推測している。(後略)【2010年4月2日 石丸次郎氏 Imidas】
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政権がコントロール出来ない市場経済領域を圧迫し、人民統制の復活強化を目指すというのは現在の金正恩政権が目指しているものでもあります。

【当局はロシア派兵兵士の生還を望んでいない?】
最近北朝鮮関連で多く報じられているのはウクライナとの戦争のためにロシアに派兵された兵士の話題。多大な犠牲者が出ていると報じられています。

****ウクライナ「最前線の北朝鮮軍打撃、水不足が深刻」…3000人死傷説も****
ロシアを支援するために派兵された北朝鮮軍がクルスク戦線で莫大な損失を出し、補給にも困難が生じていると、ウクライナ側が26日(現地時間)主張した。 

AP通信によると、ウクライナ国防省傘下の情報総局(GUR)はこの日、自国軍がロシア西部クルスク州ノボイバノフカ付近で北朝鮮軍の部隊を攻撃し、大きな被害を与えたと明らかにした。

情報総局はその結果、最前線にいる北朝鮮軍は補給問題に直面し、飲み水不足事態が生じていると伝えた。 

ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、クルスク地域の戦闘で死亡または負傷した北朝鮮軍の数がすでに3000人を超えたと明らかにした。

北朝鮮はロシアを支援するためクルスク地域に1万-1万2000人を派兵したと推算される。ゼレンスキー大統領の主張通りなら、派兵された北朝鮮兵力の4分の1以上が死傷したということだ。(後略)【12月27日 中央日報】
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****ゼレンスキー氏、ロシアと北朝鮮を批判「北朝鮮兵の生死に全く関心がない」****
米国のジョン・カービー大統領補佐官は27日、ロシア西部クルスク州でウクライナ軍との戦闘に参加している北朝鮮軍の死傷者数が、過去1週間だけで1000人以上に上るとの分析を明らかにした。歩兵による人海戦術に多数が投入され、死傷者が増えているという。

カービー氏は記者団に、「北朝鮮軍は、クルスク州のウクライナ軍陣地に対して大規模な攻撃を仕掛けているが、人海戦術は効果を上げておらず、多大な犠牲が出ている」との見方を示した。

複数の北朝鮮兵が捕虜になることを拒み、自殺したという報告があることも明らかにし、「捕らわれた場合、北朝鮮にいる家族に対する報復を恐れたためだろう」と述べた。

ロシア軍は、ウクライナ軍の越境攻撃で占領された地域の奪還に向けて、北朝鮮兵を投入した攻撃を強めているとみられる。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日のビデオ演説で、「露軍と北朝鮮の指揮官は北朝鮮兵の生死に全く関心がない」と指摘した。その上で、「戦争を拡大させるべきではないという言葉に誠実であるならば、中国は北朝鮮に適切な圧力をかけなければならない」と訴え、中国に対して北朝鮮に影響力を行使するよう求めた。【12月28日 読売】
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自殺した北朝鮮兵・・・「捕らわれた場合、北朝鮮にいる家族に対する報復を恐れたためだろう」ということなのか、あるいは旧日本軍兵士のように「生きて虜囚の辱めを受けず」と洗脳されている結果なのか・・・

ロシアが北朝鮮兵士を弾除け代わりに“消費”しているという話は以前からあります。

更に言えば、金正恩政権自体が派兵した兵士の帰国を望んでいないとも。

****「1人の生還も望まない」ロシア派兵軍人に金正恩の残忍な仕打ち****
(中略)北朝鮮のロシア派兵が明らかになって間もなく、韓国在住の脱北男性であるチョン氏(仮名)は、韓国デイリーNKに対し次のように語っていた。なお、チョン氏は兵士の身分のままロシアの建設現場に派遣され、労働者として働いた経験がある。

「北朝鮮は、ロシアに派兵した軍人が戦場から1人でも生きて帰ってくることを望まないだろう。彼らが戻ってきて、国民に自分が経験した事実を伝えた場合、体制に対する否定的な世論が生じかねず、体制維持に役立たないからだ」と主張した。

我々はいま、チョン氏が予想したことを現実として目撃しているわけだ。
たしかに、韓流コンテンツを流布した人々に対する極刑執行が繰り返されている中、外国の情報に染まった多数の兵士を迎えるのは、北朝鮮当局にとって負担だろう。

しかし、ロシアで実戦経験を積み生還した兵士を「英雄」として称えれば、国民の中に対ロシア協力に賛成する世論を醸成する余地もあるはずだ。
北朝鮮当局が今後、そのような行動を取る可能性は残されている。

しかし、自軍兵士の処刑などという残忍な行いを経験したり目撃したりした兵士たちは、国家に対する反感を募らせる可能性が高い。北朝鮮当局がそれを警戒するなら、チョン氏の語った通り、生還者を完全に拒絶する行動を強めるかもしれない。

北朝鮮の恐怖政治が、いかに徹底したものであるかを改めて知り、今さらながら戦慄を覚えている。【12月30日 デイリーNKジャパン】
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実際のところ、金正恩政権がどのように考えているのかは知る由もありません。ただ、当局は「生還を望んでいない」といったことが囁かれるのは政権が国民からまったく信頼されていない証でもあります。
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