孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ氏  就任前から繰り出す“ありのままを口に出すという新しい外交言語”

2024-12-27 23:21:57 | アメリカ

(パナマ運河を航行するコンテナ船。8月撮影【12月25日 ロイター】)

【過激・露骨な発言の支持者受けがいいことを承知の上で、敢えて発言 そこに危うさも】
トランプ氏の暴言・過激発言は今更取り上げる必要もないのかもしれませんが、そうした発言が「トランプだから・・・」で問題にもされず、むしろ“飾らない、率直なもの言い”として大衆受けする風潮というのは、やはり発言する方にも、それを歓迎する方にも、危険なものを感じます

****「死刑囚よ地獄に行け!」 トランプ氏Xマスに投稿****
トランプ次期米大統領は25日、バイデン大統領が仮釈放のない終身刑に減刑した死刑囚37人について「メリークリスマスと言うのを拒否する。代わりにこう言ってやる。地獄に行け!」と自身の交流サイト(SNS)に投稿した。
 
民主党のバイデン氏は23日の声明で犯罪被害者や遺族を思い、心を痛めているとした一方で「連邦レベルでの死刑執行を停止しなければならないと確信している」として減刑を発表していた。
 
共和党のトランプ氏は投稿で「殺人や強姦を犯し、略奪した最も暴力的な犯罪者37人を寝ぼけたバイデン氏が恩赦した」と批判した。
 
一方、トランプ氏は民主党関係者が民主主義の根幹を揺るがせたと非難している2021年1月の議会襲撃事件で訴追された支持者らを、来年1月の就任初日に恩赦する考えを示している。【12月26日 共同】
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日本では法的にも、また世論の大勢も死刑賛成であるように、死刑に対する考え方は議論が分かれる問題です。
ですから、トランプ氏が死刑囚への減刑に反対であること自体は何の問題もありません。
私自身も死刑制度に反対とか、違和感を感じるとかいうものでもありません。(さほど真剣に考えたことがない・・・というのが本当のところ)

ただ、「死刑囚よ地獄に行け!」という表現が人間としてどうなのか? という話です。まるで西部劇の「あいつらを吊るせ!」と叫ぶようなシーンを彷彿とさせ、そうした発言を歓迎する風潮も怖い・・・。

おそらくトランプ氏は、この種の発言の受けがいいことを承知の上で、敢えて発言しているのでしょうが、そういう政治スタイルは危険でもあります。

【露骨なカナダいびり 外交に「信頼」は不要 弱者は強者の言うことをきけばいい・・・ということか】
最近目立つのは外交面での度を越した問題発言。カナダ・トルドー首相へのを関税が嫌なら「アメリカの51番目の州」になればいい云々の“悪い冗談”は以前にも取り上げましたが、相変わらず連発しています。

****「51番目の州になることを望んでいる」米トランプ氏、カナダを改めて挑発****
アメリカのトランプ氏が「カナダ人の多くがアメリカの51番目の州になることを望んでいる」と改めて挑発しました。トランプ氏は大統領就任初日にカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課す考えを示しています。

トランプ氏は18日、自身のSNSに「多くのカナダ人がアメリカの51番目の州になることを望んでいる。そうすれば税金を大幅に節約でき、軍事的な保護も受けられる。素晴らしい考えだ」と投稿しました。

カナダでは、フリーランド副首相兼財務相が16日、トランプ氏による関税の脅威をめぐってトルドー首相と対立し辞任するなど、政治的な混乱が生じています。【12月19日 ABEMA Times】
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自身の圧力でカナダ政治が混乱し、トルドー首相の退陣も濃厚になっている状況を楽しんでいるのでしょうが・・・
更には下記のような話も。ここまでくるともはや“介入”レベルです。

****元NHL英雄にカナダ首相を打診 トランプ氏「すぐ知事に」****
トランプ次期米大統領は25日、北米プロアイスホッケーNHLで活躍したカナダの英雄ウェイン・グレツキーさんと会い、カナダの首相になるため出馬するよう打診したと明らかにした。同盟国カナダの選挙に口出しし、見下す姿勢が先鋭化している。

トランプ氏は、カナダが米国の51番目の州になるべきだと主張している。「すぐカナダ知事として知られるようになる。楽勝だ。選挙運動の必要もない」と呼びかけたと自身の交流サイトに投稿した。

トランプ氏によると、グレツキーさんは出馬に全く関心を示さなかった。 グレツキーさんはNHLで歴代最多894ゴールを上げ「ザ・グレート・ワン」と呼ばれた。【12月27日 共同】
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日本も長年日米関係を維持していく上で、アメリカ側の“無理難題”には苦慮してきましたが、トランプ氏の弱い立場の国をいたぶって楽しむようにも見える対応・発言には苛立つものがあります。

そこがトランプ氏の狙いなのでしょうが、そんなことをしていたら一時的なディールでは有利に立てても、長期の信頼関係は崩れるばかりです。「そんな信頼など要らない、弱い者は強い者の言うことをきけばいいのだ」・・・というのがトランプ流なのでしょうが。

【「アメリカにとってグリーンランドが必要、だから売れ!」という論理を喜ぶロシア 米ロ中による世界分割統治期待も】
カナダいびりに加えて、最近御執心なのはグリーンランドとパナマ運河。

トランプ氏がグリーンランド(デンマーク領)を購入したいと言うのは第1次政権のときからのものですが、再び就任前から。

****トランプ氏、グリーンランド購入に改めて意欲 「安全保障に必要」****
米国のトランプ次期大統領は22日、自身のソーシャルメディアへの投稿で、デンマーク領グリーンランドの購入に改めて意欲を示した。第1次政権時にも提案したが、デンマークに即座に拒否された。実現性は低いとみられるが、俎上(そじょう)に載せることで今後の交渉材料の一つにしたい考えとみられる。

今回の投稿は、次期駐デンマーク大使の指名を発表するもので、その中で「(米国の)国家安全保障や世界の自由のために、米国はグリーンランドを所有し、管理することが絶対に必要だ」などと訴えた。

ロイター通信によると、グリーンランド自治政府のエーエデ首相は23日「グリーンランドは売り物ではなく、今後も決して売り物にならない」と言明したという。

グリーンランドは北極海と北大西洋の間に位置する世界最大の島だ。米国は現地に宇宙軍基地(旧空軍基地)を置くなど、その安全保障上の高い重要性を認識する。ロシアによるウクライナ侵略もあり、その重要性は一段と高まっている。また、天然資源の豊富さでも知られる。

トランプ氏は1期目当時の2019年にも、「戦略上魅力的だ」としてグリーンランドの購入に意欲を示した。しかし、デンマーク首相が「ばかげている」と拒否。トランプ氏は「極めて非礼な言葉を使った」と怒り、予定していたデンマーク訪問を取りやめるなど両国関係が冷え込んだ。【12月24日 毎日】
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トランプ氏がグリーンランドを欲しがるのは、理由のない話ではありません。

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グリーンランドが近年注目される背景には、その地政学的な重要性がある。米ニュースサイト「ポリティコ」によると、仮にロシアが米側に向けて核を搭載した長距離弾道ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通る可能性が高いという。グリーンランド北部には米軍の宇宙軍基地(旧空軍基地)もあるが、視界の悪い北極圏上空では十分に対抗できない懸念もあるとされる。

近年は北極圏でロシアが軍備を増強させているほか、中国も資源開発を進めている。トランプ氏はこうした状況を念頭に「米国はグリーンランドを所有し、管理することが絶対に必要だ」と訴えた。【12月26日 毎日】
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しかし、「アメリカにとって必要だから売れ!」と迫るのは、ウクライナに侵攻したロシアと同じ発想でもあります。

****トランプのグリーンランド購入案にロシアが喝采を送る理由****
<戦略的な理由からグリーンランドを買いたいとするトランプの考えにロシア国営放送が初めて沈黙を破り、恐ろしい反応を示した>

グリーンランド購入に意欲を見せて論争を蒸し返したドナルド・トランプ次期米大統領に、ロシア国営放送の人気司会者ウラジーミル・ソロヴィヨフや出演者が反応した。大喜びでトランプの考えを支持したのだ。

ロシアのプーチン支持者たちが、トランプのグリーンランド購入を支持するのは意味深な話だ。トランプが他国に領土的野心を見せるなら、ウクライナを侵攻中のロシアの領土的野心に文句が言えなくなると考えたのだ。

ロシア政府はこれまでグリーンランド問題に沈黙を守ってきたが、ロシア国営放送の出演者たちは、トランプの考えは間近に迫った「勢力圏ごとの世界分割統治」実現へのシグナルと見ている。

(中略)出演者の一人で評論家セルゲイ・ミヘーエフは、トランプの提案は、前任者たちが隠そうとしていた「いかにも米国的な覇権主義」の表れに他ならないと語った。

「『我々はすべてであり、君たちは無である』。トランプはただストレートにそう言っているだけだ」とミヘーエフは述べた。

グリーンランド問題の素晴らしい点は、とミヘーエフは言う。「米国と欧州との間にくさびを打ち込み、世界の構造を弱体化させることによって、ロシアの外交政策にある種のチャンスをもたらす点だ」
「トランプが本当に第三次世界大戦を止めたいのであれば、その方法は簡単だ。勢力圏ごとに世界を分けることだ」と付け加えた。

サンクトペテルブルク国立大学の研究者スタニスラフ・トカチェンコもまた、グリーンランドを購入するというトランプの議論を支持し、「我々は、ありのままを口に出すという新しい外交言語を教えてくれたドナルド・トランプに感謝すべきだ」と述べた。

「我々には世界をリンゴのように切り分けることはできないが、地域ごとの輪郭を描くことはできる。つまり、利害が一致する範囲の輪郭のことだ」(中略)

トランプがグリーンランドを購入できるかどうかは別として、彼のレトリックは、他の主要なグローバル大国の地政学的な意思決定や領土的野心に影響する可能性がある。旧ソ連諸国や旧東欧諸国に対するロシアの拡張主義的野心をさらに刺激することは間違いない。【12月25日 Newsweek】
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「勢力圏ごとの世界分割統治」・・・2015年5月、中国の習近平国家主席はアメリカのケリー国務長官に「広い太平洋は中国と米国の両国を受け入れる十分な空間がある」と語ったとか・・・西半分はアメリカが、日本を含む東半分は中国が統治するという発想でしょう。おそらく、中国に対し関税で強硬姿勢を見せているトランプ氏は、中国の人権問題・民主化などには関心はありませんので、このあたりの発想の延長線で中国とウィンウィンの合意に至るのではないでしょうか。

【トランプ氏の“ありのままを口に出すという新しい外交言語”に対し、中国は“いかにも中国的な以前からの外交言語”で「正義の味方」演出】
****パナマ運河の「返還」要求示唆=トランプ氏、通航料にもけち****
トランプ次期米大統領は21日のSNSへの投稿で、中米にあるパナマ運河について、「もし道徳的、法的な原則が守られないのなら、パナマ運河をわれわれに全面返還することを求めるだろう」とパナマ政府に警告した。同時に、米企業に対する運河通航料が高過ぎるとけちをつけた。

パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ世界の物流の要衝。米国の支援で1914年に開通し、米国による管理が長く続いたが、99年にパナマに全面返還された。通航する船舶の70%以上が米国の港の利用便で、中国、日本が続いている。

パナマは近年中国との経済協力を強化しており、一部の港の管理を中国系企業が担っている。トランプ氏はこれに不満を募らせている可能性がある。【12月22日 時事】
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****「中国の闘士が違法に運営」=トランプ氏、パナマ運河に執心****
トランプ次期米大統領は25日、SNSに「パナマ運河を違法に運営する素晴らしい中国の闘士たちよ、メリークリスマス」と投稿した。

ここ数日、通航料引き下げや「全面返還」の要求を持ち出すなど、同運河に執心を示すトランプ氏。パナマなど中米で拡大する「中国の影響力を断つ」(ワシントン・ポスト紙)ことが狙いと指摘されている。

パナマ運河を巡っては、近接する一部港の管理を中国系企業が担う。トランプ氏は投稿で、建設に当たり多くの米関係者が亡くなった上、今も米国が修復費用を払わされていると不満を表明した。

トランプ氏は同日、駐パナマ大使に、2020年以来トランプ氏の選挙を支援してきた南部フロリダ州のケビン・マリノ・カブレラ氏を充てる人事も発表。同氏はトランプ氏の意をくみ、パナマ側に強硬な姿勢で臨むとみられる。【12月26日 時事】
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パナマ運河の管理権はアメリカとパナマの合意で1999年に完全にパナマへ移譲されています。

****そもそも、パナマ運河とは? 誰が管理? 年1万隻が通る海上の要衝****
パナマ運河は、南北アメリカ大陸をつなぐパナマ地峡に位置する。太平洋と、大西洋につながるカリブ海を結ぶ全長約80キロの水門式の運河だ。

大回りして南米のマゼラン海峡やドレーク海峡を航行することなく二つの大洋を行き来できることから、航行する船舶は大幅に時間を短縮でき、安全性も向上する。エジプトのスエズ運河と並び、海上交通の世界的な要衝だ。

パナマ運河は、フランス企業が1881年に着工したが、その後、米国が建設を引き継ぐ形となった。

パナマは1903年に米国の支援を受けてコロンビアから独立。運河は、そのパナマと条約を結んで運河一帯の永久租借権などを獲得した米国が14年に開通させ、管理した。

やがてパナマ国内で不満が高まり、50年代以降は運河の国有化を求める動きが高まった。77年に就任したカーター米大統領は、パナマのトリホス将軍との間で返還に向けた二つの新条約に署名。これに基づき、運河の管理権は99年に完全にパナマへ移譲された。

現在はパナマ運河庁が管理しており、年間1万隻超の船舶が運河を通過している。【12月27日 毎日】
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中南米においては、これまで「力」にもの言わせて「裏庭」化してきたアメリカへの強い反感があります。
トランプ氏のこの種の発言は、そうした反米意識を煽ることにもなります。

“「パナマ運河はパナマ人のもの」、トランプ氏の発言受けメキシコ大統領”【12月24日 ロイター】

ジャイアンのように力を誇示するトランプ氏に対し、「道理をわきまえた正義の味方」中国が登場。

****パナマの運河主権を尊重 トランプ氏発言で中国外交部****
中国外交部の毛寧(もう・ねい)報道官は23日の記者会見で、パナマ運河の返還を求めるとしたトランプ米次期大統領の発言に関し、中国は運河に対するパナマの主権をこれまで通り尊重していくと強調した。

毛氏は次のように述べた。われわれはパナマのムリノ大統領が、パナマ運河と隣接地域は一寸の土地であれ、全てパナマのもので、主権と独立に交渉の余地はないとした上で、運河の通航料は勝手に決められるものでないと指摘し、運河はいかなる大国の直接的、間接的支配も受けないと強調したことに留意している。

パナマ運河はパナマの人々の偉大な創造物であり、世界各国の相互接続を促す「黄金の水路」でもある。中国はパナマの人々による運河の主権を守る正義の闘いを一貫して支持し、1960年代には運河の主権回復を目指すパナマの人々を支援する大規模なデモが中国各地で行われた。

中国は運河に対するパナマの主権をこれまで通り尊重し、運河が恒久的に中立な国際航路であることに同意する。パナマ運河がパナマの効果的な管理の下で各国の人々の交流を促し、人類の福祉の増進のために絶えず新たな貢献をすると信じている。【12月23日 新華社】
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トランプ氏の“ありのままを口に出すという新しい外交言語”【前出 Newsweek】に対し、中国は“いかにも中国的な以前からの外交言語”

グリーンランドにしても、パナマ運河にしても、トランプ氏とて相手が応じるとは思っていないでしょうが、圧力をかけることで起きる何らかの反応を計算している・・・というのが半分。

残り半分は、思いついたことを抑制できなくなっているということかも。
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