(【12月4日 毎日】昨年11月29日、トランプ氏の私邸で夕食をとりながら行われたトランプ・トルドー会談
両氏の笑顔はもちろん営業用です。 トランプ氏はカナダが関税を回避したいならアメリカの「51番目の州」になるべきだと述べたと報じられています。カナダ側からは「緊張した笑い」が起きたとも。)
【トルドー首相 “トランプ関税”が最後の一撃となって辞任表明】
カナダのジャスティン・トルドー首相(53)が1月6日、与党・自由党の党首と首相の職を辞任すると表明しました。
アメリカ・トランプ氏に象徴されるような右派ポピュリズムの台頭のなかにあって、トルドー首相は積極的な移民受入れなどリベラリズムを代表する存在でもありましたが、国内的には物価高騰などで支持率は低迷し、党内にも辞任を求める声が強まっていました。
そのトルドー首相にとって最後の一撃ともなったのが、アメリカへの移民流入を止める国境管理や貿易問題に対しカナダからの輸入品に25%の関税を課すとのトランプ氏の主張、そしてカナダはアメリカの「51番目の州」になるべきだとの圧力でした。
トランプ氏の圧力をめぐって盟友フリーランド副首相兼財務相との対立が表面化し同氏が辞任したことがトルドー首相辞任表明の引き金を引くことにも。
****低迷支持率にトランプ氏が追い打ち…カナダ・トルドー首相が辞任表明****
カナダのトルドー首相が辞任する意向を表明しました。
カナダ・トルドー首相
「私は、党首そして首相を辞任します。カナダは、次の選挙で真の選択をすべきであり、党内で争いになるようなら、私は最善の選択肢になり得ない」
「私は、党首そして首相を辞任します。カナダは、次の選挙で真の選択をすべきであり、党内で争いになるようなら、私は最善の選択肢になり得ない」
与野党から退陣論が噴出するなか、辞任に追い込まれる形となりました。
トルドー氏は、2015年、43歳の若さで首相に就任。リベラルな政策に加え、熱心に育児に取り組む姿でも、広く人気を集めてきました。しかし、最近、長引く物価高への反発など、さまざまな国内の要因が重なり、就任以来、最低の支持率となりました。
加えて、辞任の空気を加速させたのが、アメリカのトランプ次期大統領との関係です。(中略)
二期目が決まったトランプ氏は、カナダとメキシコに25%の関税を課すと明言。トルドー首相が、マー・ア・ラゴに会いに行ったものの、トランプ氏は「カナダはアメリカの51番目の州となるべきだ」と発言したといいます。
もはや避けられない“トランプ関税”への対応をめぐって、閣内で盟友のフリーランド副首相と意見が対立。先月16日に辞任したことが、トルドー首相の立場を追い込む、最後の一押しになったともいわれています。
辞任表明直後、トランプ氏は、早々にトルドー首相に追い打ちをかけました。
トランプ氏のSNS(6日)
「多くのカナダ人が51州目になることを大歓迎している。カナダがアメリカと合併すれば、関税もゼロになり、税金もグッと安くなる。一緒になれば、なんと偉大な国になれるだろうか」【1月8日 テレ朝news】
「多くのカナダ人が51州目になることを大歓迎している。カナダがアメリカと合併すれば、関税もゼロになり、税金もグッと安くなる。一緒になれば、なんと偉大な国になれるだろうか」【1月8日 テレ朝news】
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盟友でもあるフリーランド副首相兼財務相の辞任は、同氏がトランプ関税に対して厳しい財政政策で準備すべきと主張したことでトルドー首相と対立したためとされています。
****カナダ財務相辞任、トランプ関税対応巡り首相と対立 後任に公安相****
カナダのフリーランド副首相兼財務相が16日、辞任した。トランプ次期米大統領が掲げる関税への対処法などを巡りトルドー首相と意見が対立した。既に支持率低迷に苦しむ政権にとって想定外の打撃となった。
フリーランド氏はトルドー氏に充てた書簡をXで公表し、「ここ数週間、われわれはカナダにとって最善の道筋を巡り意見が対立していた」と述べた。
また、トランプ氏が警告しているカナダからの輸入品に対する新たな関税は重大な脅威だと指摘。「関税戦争に必要となり得る財政資金を温存し、余裕のない費用のかかる政治的策略を避ける」ことが重要だとして、トルドー氏が目指す支出拡大計画を批判した。
フリーランド氏は13日、別のポストに就くようトルドー氏から打診されたという。
国内メディアによると、両氏は一時的な減税案やその他の支出措置を巡り対立していた。後任にはトルドー氏に近いルブラン公安相が任命された。(後略)【12月17日 ロイター】
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トルドー首相は、新党首が決まるまで首相としてとどまり、3月24日までは連邦議会を休会にする方針とのこと。次の総選挙は10月20日までに実施されることになっています。
なお、トルドー首相はトランプ関税に対しては関税で対抗することを表明しています。
****カナダのトルドー首相、トランプ氏の25%関税表明に「関税で対抗」…米MSNBCインタビューで****
カナダのジャスティン・トルドー首相は12日、米MSNBCのインタビューで、米国のトランプ次期大統領がカナダからの輸入品に25%の関税を課すと表明していることについて、「関税で対抗する準備はできている」と強調した。
トルドー氏は「カナダは米国の約35州にとって最大の貿易相手国であり、両国の障壁を厚くすることは、米国の市民や雇用に悪影響を及ぼす」と述べ、トランプ氏をけん制した。AP通信によると、カナダはトランプ氏が高関税を実行した場合、米国のオレンジジュースやトイレ製品、一部の鉄鋼製品に関税をかけることを検討しているという。
トランプ氏の第1次政権が2018年にカナダからの鉄鋼やアルミニウムに高関税をかけた際も、カナダは米国のハーレーダビッドソンの二輪車やバーボンウイスキーなどに関税をかけて対抗した。互いの関税措置は、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新たな貿易協定で合意した後の19年まで続いた。【1月13日 読売】
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それにしても、この重大な局面で「死に体」政権で対応しなければならないというのはつらい。
【次期選挙で圧勝が予想される保守党党首はトランプ氏にも似た立ち位置】
“映画スターさながらのルックスと元首相の息子という血統を兼ね備え”、リベラリズムの理想を語るトルドー首相に対し、次の選挙で圧勝が予想されている右派保守党のポワリエーブル氏は“エリート層と戦う庶民の代表と自身を位置付け”ており、アメリカのトランプ氏の立ち位置とも近いものがあるようです。
****「庶民派」のカナダ野党党首、反トルドー政権の波に乗って総選挙へ****
辞任を表明したカナダのトルドー首相(自由党党首)の後継者は、野党保守党党首で、国民の間に広がっている反トルドー政権の波に乗った舌鋒鋭いポピュリストのピエール・ポワリエーブル氏(45)との激しい総選挙に間もなく直面する。
世論調査によると、保守党は次期総選挙の世論調査で圧勝している。
2022年に党首となったポワリエーブル氏はエリート層と戦う庶民の代表と自身を位置付けており、トランプ次期米大統領と対比されてきた。
トルドー氏が次期自由党党首の決定後に辞任する意向を表明する前の今月3日に発表されたアンガス・リードの世論調査によると、ポワリエーブル氏はどの自由党党首候補よりも優勢だった。
専門家らはポワリエーブル氏が人気を集めたのは辛辣なコミュニケーション手法と、長らく続いたトルドー政権に対する有権者のうんざり感、インフレに対する不満に負うところが大きいと指摘する。ポワリエーブル氏は昨年4月に議会下院でトルドー氏のことを「いかれた奴」と呼んで退場させられた。
広報会社コナプタスの代表で、元保守党スタッフのジェイミー・エラートン氏は「ポワリエーブル氏はカナダ人が抱いている物価高騰への不満をうまく捉えている」とし、「変化への願望があるのは明らかだ」と指摘した。
ポワリエーブル氏は詳細な政策をほとんど提示していない一方で、評判が悪いトルドー政権の炭素税に言及して「アックス・ザ・タックス(税金をぶった切れ)」と強調し、気候変動を遅らせるために別の計画を提示するとしている。(中略)
トランプ氏はトルドー氏の辞任表明前の6日、ポワリエーブル氏が次の総選挙で勝利した場合には一緒に仕事をすることを楽しみにしていると語った。 トランプ氏はラジオ番組で「とても良いことになる。私たちの意見は間違いなくより一致するだろう」と語った。(中略)
ウェスタン大のアダム・ハームス准教授(政治学)は「貿易に関しては(ポワリエーブル氏は)トルドー氏とそれほど違わないだろうが、それは単に問題が同じであり、目標が同じだからだ」と話す。(中略)
世論調査によると、保守党は次期総選挙の世論調査で圧勝している。
2022年に党首となったポワリエーブル氏はエリート層と戦う庶民の代表と自身を位置付けており、トランプ次期米大統領と対比されてきた。
トルドー氏が次期自由党党首の決定後に辞任する意向を表明する前の今月3日に発表されたアンガス・リードの世論調査によると、ポワリエーブル氏はどの自由党党首候補よりも優勢だった。
専門家らはポワリエーブル氏が人気を集めたのは辛辣なコミュニケーション手法と、長らく続いたトルドー政権に対する有権者のうんざり感、インフレに対する不満に負うところが大きいと指摘する。ポワリエーブル氏は昨年4月に議会下院でトルドー氏のことを「いかれた奴」と呼んで退場させられた。
広報会社コナプタスの代表で、元保守党スタッフのジェイミー・エラートン氏は「ポワリエーブル氏はカナダ人が抱いている物価高騰への不満をうまく捉えている」とし、「変化への願望があるのは明らかだ」と指摘した。
ポワリエーブル氏は詳細な政策をほとんど提示していない一方で、評判が悪いトルドー政権の炭素税に言及して「アックス・ザ・タックス(税金をぶった切れ)」と強調し、気候変動を遅らせるために別の計画を提示するとしている。(中略)
トランプ氏はトルドー氏の辞任表明前の6日、ポワリエーブル氏が次の総選挙で勝利した場合には一緒に仕事をすることを楽しみにしていると語った。 トランプ氏はラジオ番組で「とても良いことになる。私たちの意見は間違いなくより一致するだろう」と語った。(中略)
ウェスタン大のアダム・ハームス准教授(政治学)は「貿易に関しては(ポワリエーブル氏は)トルドー氏とそれほど違わないだろうが、それは単に問題が同じであり、目標が同じだからだ」と話す。(中略)
トロント大学のネルソン・ワイズマン教授は保守党には勢いがあるとして「ポワリエーブル氏が今眠りに就いたとしても、大勝することができる」との見方を示した。(後略)【1月9日 ロイター】
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【右派ポピュリズムのトランプ氏が復権し、進歩的リベラリズムのトルドー首相が辞任 世界政治の流れを象徴】
右派ポピュリズムを象徴するトランプ氏の登場でリベラリズムを代表するトルドー首相が辞任に追い込まれたことは、世界政治の現在の流れを象徴するもののように思えます。
****移民問題がカナダを二分...トルドー辞任と進歩派指導者が直面する「二重の圧力」****
<右派ポピュリズムが世界を席巻するなか、「多様性はカナダの強みです」と語り、リベラルの象徴だったカナダ首相の退場が意味するもの>
1月6日、カナダのジャスティン・トルドー(Justin Trudeau)首相が、10年近く暮らしてきた首都オタワの首相公邸の玄関前で記者会見に臨んだ。
ジョージアン・リバイバル様式のこの邸宅前は、新型コロナのパンデミック初期にトルドーが定期的に会見を開いていた場所。この日の姿は、コロナの状況や政府の取り組みについて語る首相をカナダ国民が支持していた当時を思い起こさせるものだった。
時は流れ、かつて現代の進歩主義運動の象徴だった53歳のトルドーは、同じ場所で辞意を表明した。国民や自らが率いる与党・自由党の幹部の支持を失い、10月までに行われる総選挙での惨敗が確実視されるなかでの発表だった。
「この国には次の選挙で本物の選択肢が必要だ」と、沈痛な面持ちでトルドーは語った。「私はその選択肢として最善の存在ではない」
トルドーには国際政治の変革者として喝采を浴びた時代があった。
環境保護主義者、フェミニスト、難民や先住民の権利擁護者を自任し、映画スターさながらのルックスと元首相の息子という血統を兼ね備えた彼は、2015年の総選挙を制して首相に就任し、西側のリベラル派の象徴となった。
だが国民との蜜月は2年ほどしか続かなかった。スキャンダルが相次ぐなか、17年にはイメージに傷が付き始め、小さな火種はコロナ禍の間に大きな炎へと燃え上がった。
19年と21年の総選挙で自由党が過半数割れすると、トルドーは中道左派の新民主党(NDP)などの協力を仰いで法案を可決する少数与党政権を運営せざるを得なかった。
だが昨秋に同党との協力協定が崩壊し、NDPのジャグミート・シン党首は12月に内閣不信任案を提出する意向を表明。他の野党も同調した。
トランプ時代の対抗軸に
トルドーが世界の舞台に躍り出た15年10月、彼の進歩主義的な資質は、終盤に差しかかっていた米オバマ政権を引き継ぐ存在に見えた。
当時は、米大統領選に名乗りを上げたドナルド・トランプが、まだメディアからネタ扱いされていた時代。
社会自由主義が堂々と語られ、「ツイッター」と呼ばれていたSNSで男性政治家が「自分はフェミニストだ」と公言しても嘲笑されない時代だった。
その一方で、トランプのような右派政治家の躍進や西側での文化的ダイナミクスの変化が、リベラル的理想の優位を揺るがし始めた時期でもあった。
トルドーはトランプ時代の対抗軸となるべく、ワシントンでの論争にたびたび意見を発信した。
その象徴的な出来事が17年にあった。トランプがイスラム教徒の多い国からの入国を制限する大統領令に署名した直後、カナダは難民歓迎を打ち出した。
「迫害、テロ、戦争から逃れている人々へ、カナダは信仰に関係なく皆さんを歓迎します」と、トルドーはツイートした。「多様性はカナダの強みです」
当時、こうした政治的な動きは「包摂性の象徴」というカナダのイメージを誇る国民の意識を反映し、トルドー支持層の共感を得た。
しかし、移民問題はその後、カナダを二分している。トルドー政権を含むリベラルな政府は、進歩的な理想と、移民の経済的・社会的影響に対する国民の疑念の高まりとの折り合いをつけるのに苦労している。
「こうした政治ドラマに続く彼の長い沈黙は、現在の彼の立場がいかに脆弱であるかを雄弁に物語っている」と、マギル大学(モントリオール)のダニエル・ベラン教授(政治学)は指摘する。
24年4月にはカナダの人口は4100万人を超え、前年の増加分の98%を移民が占めた。人口の急増は、既存の課題を増幅させた。
カナダは隣国のアメリカ同様、住宅危機、生活費の高騰、国債の増加に直面しており、反トルドー派は、これらの問題は移民に寛容な政策が原因の一部だと非難している。
政府は移民計画の見直しを余儀なくされ、25年の永住者の受け入れ数を計画値の50万人から39万5000人に削減すると昨年10月に発表した。
進歩派への二重の圧力
22年前半には、国民感情の変化が頂点に達した。コロナ対策の厳しい規制に対する不満が高まり、抗議デモや道路封鎖が起きた。この運動は瞬く間にカナダ全土に拡大し、トルドーは1988年の制定以来初めて緊急事態法を発動した。
2年後、連邦裁判所は緊急事態法の発動について、トルドーが権限を逸脱したとの判決を下した。この時点で彼の支持率は低迷しており、回復することはなかった。
カナダでトルドーが勢いを失った背景には、世界の進歩派の指導者たちが直面している危機がある。世界各地で右派ポピュリズムが台頭し、進歩派は文化的・経済的変化への対応を迫られている。
この後退が顕著に表れたのが、昨年の大統領選でトランプが勝利したアメリカだ。トランプは文化的な懸念や経済的な不満を利用し、それらはリベラルな政府の失敗だと断じた。
この戦略は、世界中の右派指導者が同調している。
フランスでは、エマニュエル・マクロン大統領が反移民の姿勢を見せるようになり、イタリアのジョルジャ・メローニ首相は民族主義的な政策を推進している。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は今や野党の中心勢力になろうとしている。
こうした動きは、進歩派の指導者が直面する二重の圧力を浮き彫りにしている。
移民や経済格差に対する有権者の不満に対処すると同時に、台頭するナショナリズムとポピュリズムに対抗しなければならないのだ。
この難題を乗り越えた指導者は今のところ存在しない。
複雑でグローバルな課題を国家のアイデンティティーをめぐる闘いとして位置付けるポピュリストの主張が明快な一方で、進歩派は将来に向けた説得力のあるビジョンを提示できずにいる。【1月14日 Newsweek】
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