孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  大地震災害でも「祈り」などダライ・ラマ14世の関与を徹底排除する中国政府

2025-01-13 21:55:23 | 中国

(中国・チベット自治区、震源(シガツェ)【1月9日 西日本】)

【チベットで同化政策を推し進める中国政府 言語・文化喪失の危険も】
中国・チベットに関しては新疆ウイグル自治区や内モンゴル同様に、民族的アイデンティーの破壊や人権弾圧等の批判があります。

昨年中はチベットでの大きな衝突などのニュースは目にしませんでしたが、中国政府による同化政策が着々と進んでいるようです。

****急速に進むチベット族の同化政策、教育から言語・文化を排除…暴動16年で強まる統制****
中国チベット自治区で2008年3月に起きたチベット暴動から14日で16年が過ぎた。習近平シージンピン政権は、少数民族チベット族の居住区域での締め付けを強めており、国際社会の人権批判をはねつけながら同化政策を徹底する構えだ。

四川省成都市内に、チベット仏教の仏具やチベット語書籍を扱う商店が並ぶ地域がある。2月中旬に訪れると、重装備の警官らが交差点の四方を固めるように警戒し、チベット族の僧侶や住民らに目を光らせていた。監視カメラも多い。

仏具店内では、チベット語より中国語表記が目立つ。買い物に訪れた僧侶の男性は、「我々が信仰と文化を守らなければならない」と小声で語った。

中国には約700万人のチベット族がいるが、同化政策は急速に進む。国連人権理事会の昨年の報告によれば、子供向けの寄宿学校では、中国語のみの授業が大半で、チベット語や文化の教育が排除されている。

米政府系のラジオ自由アジアは今年1月、子供らがチベット文化や宗教を学ぶための課外活動への参加が禁じられていると伝えた。

先に閉幕した全国人民代表大会(国会)で採択された政府活動報告でも、習政権は「宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に導く」と明記した。信仰より共産党への忠誠を優先させる「宗教の中国化」を進める方針も示した。

国際社会は非難を強めている。ロイター通信によると、ボルカー・ターク国連人権高等弁務官は今月4日、自治区などでの人権侵害の是正勧告をしたが、中国外務省報道官は「一部の西側の国がデマを流している」と反発した。

習政権が人権状況の改善に応じることはなさそうだ。昨秋公表したチベットに関する白書の英語版の地名表記では、従来の「チベット」ではなく、中国語「西蔵」の発音にあたる「シーザン」を使った。中国の一部であると強調し、米欧の「干渉」を排除する構えだ。

◆チベット暴動=2008年3月14日、区都ラサで、中国の統治や信仰の自由への抑圧に不満を持つ僧侶や市民が政府機関などに放火、破壊した。四川、甘粛省などのチベット族居住地域に拡大し、当局の鎮圧には軍も動員された。インドのチベット亡命政府によると、死者は200人以上。【2024年3月14日】
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同化政策の中核は教育現場におけるチベット語の排除でしょう。言語が失われれば文化も消えていきます。

****中国政府による漢族との同化政策 「チベット寄宿学校」で何が? 「チベット語の授業がなくなっていく」****
中国政府はここ数年、チベット族の子どもを寄宿学校に入れ、同化政策を行っていると国際社会から非難を浴びています。寄宿学校で何が起きているのか、取材しました。

ここは中国南西部にあるチベット族が多く住む地域。今、子どもの教育をめぐり、ある問題が浮上しています。
中国政府がチベット族の子どもたちを強制的に寄宿学校に送り、中国語を学ばせるなど、漢族との同化政策を強いているのではないかというのです。

アメリカのブリンケン国務長官は去年8月、寄宿学校に送られた子どもは100万人を超えると非難しました。

私たちは学校を訪ねてみることにしました。ここは「寄宿学校」とされる学校の一つです。近所の人に聞いてみると…

近所の人
「生徒は全員、町の外からきたチベットの子どもです。中の様子はよくわかりません。ここは閉ざされた学校なんです。(Q.学生は多いんですか?)わかりません。何人生徒がいるのかもわからないし、普段は外に出てこられないように封鎖されているんです」

中の様子がわからず、近所の人が不気味だという学校。チベット族の一人はこう話しました。

チベット族
「(寄宿学校で)チベット語の授業は少しありますが、生徒たちはうまくしゃべれません。ここ数年の変化です。このままいくと、チベット語の授業はなくなり、すべて中国語になるでしょう」
いつか、自分たちの言葉と文化を失ってしまうのではと恐怖を感じているといいます。

チベット族
「私たちチベット族はなんといっていいか、ちょっと怖いです。無力感を感じます。どうしようもないことです。こういう話をあなたたちにすること自体も危険だと思います」

「チベットの言葉や文化を消し去ろうとしているのではないか」。国際社会の指摘に対し、中国政府は…

中国外務省 汪文斌 報道官
「寄宿学校に対する攻撃と中傷キャンペーンはチベットの子どもたちの教育を受ける権利に対する冒とくと侵害であり、チベットの人権に対する干渉と破壊だ」

しかし、子どもたちには変化が起きていました。

チベット族
「小学校1年生から中国語を勉強しています。(Q.チベット語と中国語どっちが話しやすい?)中国語です。(Q.家族と話すときはチベット語ですか?)(うなずく)(Q.でも、中国語の方が話しやすいんだ?)中国語の方が話しやすい」

インドにあるチベット亡命政府のツェリン首相は、次のような懸念を示しました。

チベット亡命政府 ペンパ・ツェリン首相
「中国が行っている教育システムが人々の心や考え方、生き方のすべてを変えることを目的にしているのであれば、それは文化的ジェノサイドに等しいと思います」

寄宿学校をめぐり、アメリカは中国当局者のビザ発給を制限するなど圧力を強めており、今後、米中の新たな火種となる可能性もあります。【2024年3月19日 TBS NEWS DIG】
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中国政府は「チベット」という呼称もなくしてしまいたいようで、英文でも中国語「西蔵」の発音に当たる「シーザン(XIZANG)」という呼称を使用しています。

****地震被災地をチベットと記さず 中国政府の英文発信に批判****
中国の政府やメディアは9日までに、チベット自治区で7日起きた地震について英文で発信する際、被災地の地名を「チベット(TIBET)」ではなく、チベットの中国語「西蔵」の発音に当たる「シーザン(XIZANG)」と表記した。

チベットの「中国化」を進める政策の一環とみられ、チベットを支援する団体からは「地図からチベットを消そうとしている」と批判する声が上がっている。

自治区で2008年に中国統治に反発して大規模暴動が発生したことを受け、中国はチベット族に対する中国語や共産党思想の教育を徹底。近年は地名の英語表記にチベットを使わなくなっている。

9日付の国営英字紙チャイナ・デーリーや共産党機関紙、人民日報系の環球時報英語版は1面にチベット地震の記事を掲載。自治区をシーザンと表記し「被災者らが救援隊に感謝している」と支援の成果をアピールした。国営通信新華社の英文記事や国営中央テレビの英語放送、中国政府や在米中国大使館のX(旧ツイッター)への投稿もシーザンと表記した。【1月9日 共同】
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また、チベット族の人々の生活基盤そのものを変えてしまうことにもつながる施策も。

****チベット族を14万人強制移住か 「中国政府」と国際人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは21日、中国政府が国内のチベット族を事実上、強制的に移住させているとする報告書を公表した。16年以降、14万人以上が住んでいた計500の村が移転対象になり、住民で移住を避けられた人は確認できなかったとしている。

報告書は、中国政府が「生活向上」や「環境保護」を名目に、チベット族に移住を促す「全村移転」や「個別世帯移転」などの計画を推し進めていると指摘する。

移住に消極的な住民も、役人による説得で全面的に同意したと中国政府は説明しているが、行政罰や刑事罰をほのめかしたり、住民に同調圧力をかけたりして脅していると分析した。【2024年5月22日 共同】
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チベットは山奥にあっては車での移動が困難といった想像を絶するような自然環境にありますので、そうした自然のなかで少人数ずつ分断されて暮らすよりは一定の場所に集中して暮らす方が、水道や電気などを考えても生活の質を向上させる施策が有効に機能するという考えはあるでしょう。

日本でも、限界集落のあり方は問題になっていますし、今後更に深刻化するでしょう。

そうした「移住」の考え自体は一概に否定しませんが、問題はそのやり方、強制かどうかというあたりでしょう。

【1月7日に大地震 救助活動や犠牲者数で疑義も】
前出記事にもあるように、そうした厳しい自然環境のチベットで1月7日、大規模地震が発生し、多くの犠牲者が出ています。

****死者は126人、負傷者は188人 中国チベット自治区・シガツェ市でM6.8の地震 倒壊家屋は3600棟以上****
中国のチベット自治区で7日午前、マグニチュード6.8の地震があり、死者は126人に上っています。

中国国営の新華社通信によりますと、7日午前9時5分、チベット自治区のシガツェ市でマグニチュード6.8の地震がありました。震源の深さは10キロです。

シガツェ市はネパールやブータンの国境に近く、人口はおよそ80万人で、震源地の20キロ圏内にはおよそ6900人が暮らしています。

日本時間の午後11時現在、死者は126人、負傷者は188人、倒壊家屋は3600棟以上に上っています。また、一部地域では電気と水道が止まっているということです。

習近平国家主席は、全力で捜索と救助を行うよう指示を出しており、1500人態勢で救援活動が行われています。【1月7日 TBS NEWS DIG】
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地図で見ると、震源地はエベレスト山も近いあたりと言った方が分かりやすいかも。

習近平国家主席の指示で救出活動は懸命に行われたのでしょうが、被害の大きさに比べ、救出活動の終了が早かったという印象も。

****チベット地震「大規模な救出活動終了」…72時間を前に中国当局発表、チベット族に動揺広がる****
中国内陸部のチベット自治区で7日に起きたマグニチュード(M)6・8の地震で、中国当局は9日、大規模な救出活動の終了を発表した。

安全に救助できる可能性が高いとされる発生から72時間以内を前にしたもので、米政府系メディアのラジオ自由アジア(RFA)は、少数民族チベット族らに動揺が広がっていると伝えた。

自治区政府の幹部は9日夕の記者会見で「大規模な救助活動はほぼ終了した」と述べた。避難所の生活レベル向上に力を尽くすとした。中国中央テレビは10日、仮設住宅の設置や温かい汁物が配布される避難所の様子を繰り返し報道し、生活再建への動きを強調した。

RFAは9日、チベット族らが当局の発表に困惑し、独自の救助活動を続けていると報じた。当局は126人が死亡したとしているが、RFAは200人以上が亡くなった可能性が高いと指摘した。【1月10日 読売】
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政治的に敏感な地域ですから、ある意味「政府当局」の恩恵をアピールする絶好の機会でもあり、手を抜くようなことはないと思うのですが・・・現地事情が分かりませんのでなんとも。

犠牲者数についても、インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府から疑義がしめされています。

****チベットの地震死者数に疑義 亡命政府、中国は反発****
中国チベット自治区で7日起きた地震についてインド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府は12日「中国政府の情報統制が死傷者数の正確性を検証する上で課題となっている」とする声明を発表し、中国政府が公表した死傷者数に疑義を唱えた。

中国外務省の郭嘉昆副報道局長は13日の記者会見で「亡命政府は分裂主義の政治集団だ」と主張。チベット地震で中国は「一分一秒を争って救助し、死傷者を最少に抑えた」と述べ、反発した。

中国当局は地震で126人が死亡し、337人が負傷したと公表。新華社は地震発生当日に126人が死亡したと報じ、その後増えていない。【1月13日 共同】
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地震発生当日の犠牲者数が増えていないというのは、こういう災害にあっては不思議な話です。

【ダライ・ラマ14世の関与を徹底排除する中国政府】
中国政府は今回地震へのチベット亡命政府、もっと具体的にはダライ・ラマ14世の関与を極度に嫌っています。

****チベット地震「深い悲しみ」 ダライ・ラマ****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は7日、中国チベット自治区で起きた地震による被害に「深い悲しみを覚える。亡くなられた方々の冥福と負傷者の速やかな回復を心よりお祈りする」との声明を出した。

ダライ・ラマは中国の弾圧から逃れるため1959年にチベットのラサを脱出して以来、インド北部ダラムサラを拠点に亡命生活を続けている。【1月7日 時事】
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****ダライ・ラマの祈り「警戒」=中国外務省****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が、中国チベット自治区の地震による死者の冥福を祈る声明を出したことについて、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は8日の記者会見で「非常に警戒している」と述べた。

郭氏は「共産党中央の指導の下、被災地の人民は災害に打ち勝つ。われわれはダライ・ラマの分離(主義)的本質と政治的意図を理解している」とも強調した。【1月8日 時事】
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ダライ・ラマ14世は、9日、インド南部カルナタカ州の寺院で、地震の犠牲者を悼み、負傷者の回復を願う法要を行いました。法要にはインドに亡命したチベット人など、およそ1万2000人が参列し、祈りをささげました。

中国政府としては、とにかくダライ・ラマの関与は政治的分裂を画策するものだ・・・という認識になるようです。
そのダライ・ラマ14世も高齢(89歳)となり、昨年6月にはひざの治療のためにアメリカを訪れています。
問題はその後継者。

“ダライ・ラマ14世については、その後継者選びが世界的な注目を集めていますが、ことし7月にみずからが90歳になったとき、後継者選びをめぐる重要な判断を行うとしています。 これに対し、中国は後継者を選ぶ権限は中国側にあると主張し、チベット亡命政権側が反発しています。”【1月10日 NHK】

本来は宗教に否定的な中国政府が宗教的「転生」を根拠に独自の後継者を選ぼうとするのに対し、ダライ・ラマ側は必ずしも「転生」に拘らないとして中国政府の関与を拒絶しようとする・・・という逆転の構図になっています。
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