(【6月4日 FNN】 ユダヤ人とパレスチナ人が一緒に働く「ソーダストリーム」 こういう企業もあるようですが・・・)
【パレスチナ自治政府の財政難を招いている「テロリスト」関係者支援金問題】
パレスチナ問題の当事者たるパレスチナ自治政府に「腐敗」が蔓延しているという話は常に指摘されるているところですが、その一端を示すものが。
****パレスチナ、ひそかに閣僚給与1.6倍に 批判受け撤回****
パレスチナ自治政府が2年前から、ひそかに閣僚の給与を法定の1・6倍に上げていたことが内部文書の流出で判明した。財政難が続くなかでの発覚に、市民からは怒りの声が出ており、政府は即座に賃上げの取り消しを表明した。
自治政府の閣僚の給与は法律で月給3千ドル(約32万円)と決められている。しかし、SNS上に流出した内部文書などによると、2017年から月給5千ドル(約54万円)に引き上げることを閣僚が提案し、アッバス議長が認めたという。
法改正はせず、賃上げの事実は公表されなかった。政府関係者は取材に対し「内部文書は本物で、賃上げは事実だ」と証言した。
発覚を受け、国連のムラデノフ特別調整官(中東和平担当)は6日、「市民が厳しい経済状況に置かれているなか、賃上げの判断は理にかなわず、人々の怒りを呼ぶ」とコメント。自治政府は、賃上げを取りやめる意向を表明した。今後の対応によっては、低迷するアッバス議長への支持がさらに低下する恐れがある。
イスラエルによる占領下に置かれたパレスチナだが、特に今年は厳しい財政状況に置かれている。イスラエルへの「テロ行為」の犯人やその遺族に対して自治政府が支払金を交付していることをめぐり、政治対立が深まり、イスラエルからの送金が2月から停止。自治政府が毎月の歳入の半分を失う事態になっている。
公務員の給与を半減させて対応するが、シュタイエ首相は「7~8月には破綻(はたん)する」と話している。
緊縮財政のなかで発覚した閣僚の賃上げについて、SNS上では「腐敗は許されない」と厳しい声が並ぶ。パレスチナでは10年以上にわたり国政選挙がなく、議会も開かれていないため「政府への監視機能が失われている」とも指摘されている。【6月11日 朝日】
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毎月の歳入の半分が停止している財政難、公務員給与半減というなかでのお手盛り給与改定というのは、ため息が出るような自覚のなさです。
その財政難の目下の原因となっているのが、上記記事にもある「テロ行為」の犯人やその遺族に対する支援金をめぐるイスラエルとの対立です。
イスラエルに対する攻撃である「テロ行為」というのは、イスラエル側の捉え方であり、パレスチナ側からすれば「英雄的行為」ともなります。
****「テロリスト」に毎月給付、波紋 パレスチナ政府「占領と闘った英雄」****
■「父殺した犯人に、なぜ金を」
5月15日、イスラエル人の男性がツイッターに動画を投稿した。
「私の父は76歳でパレスチナ人のテロリストに殺されました」 そう語るマイカ・アブニさん(49)は札束の山を前に続ける。「パレスチナは父を殺したテロリストにこんなに金を払っている。どう平和につながるのか。誰か説明してくれませんか」
アブニさんの父リチャードさんは2015年、エルサレムでバスに乗車中、2人組のパレスチナ人に襲われて命を落とした。平和を求め、イスラエル、パレスチナ双方の子供に英語を教える学校の校長だった。
アブニさんは、父を襲った犯人や家族にパレスチナ自治政府から毎月お金が支払われていることを知った。「テロの連鎖を引き起こすだけじゃないか」と考え、社会に訴え始めた。
自治政府は「占領に対する闘い」で捕まったり死傷したりした市民や家族に支払金を出すことを定めている。囚人の場合、月額1400シェケル(約4万2千円)から始まり、収容が30年を超えると1万2千シェケル(約36万円)になる。
動画はイスラエルや米国などで多くの賛同を得た。アブニさんは言う。「パレスチナは争いではなく、命を尊ぶことを大切にして欲しい。政治的な問題の解決は、それからだと思う」
■「人々を守るため、捕まった」
アブニさんの父を殺したとされる2人のうち1人はその場で死亡、1人は服役中という。死亡した男性(当時21)の父を東エルサレムに訪ねた。
「私たちも被害者なんです」とムハンマド・アルヤンさん(64)は語り始めた。「息子は私たちの命を守るために死んだのです」
事件当時はイスラエルとパレスチナの間で緊張が高まり、双方に犠牲者が出ていた。「息子は平和的な社会運動を率いていた。不穏な雰囲気が彼を突き動かしたのか……」
アルヤンさんは言葉を選びながら言う。「私も責任は感じます。でもパレスチナ人だけを悪者にするのは公平じゃない。怒りは、違法な占領を何十年も解決しないイスラエル政府にこそぶつけるべきです」
事件後、イスラエル軍による報復で自宅が破壊され、テロリストの家族として罰金も科された。自治政府からは毎月1千シェケル(約3万円)を受け取る。「補償は当然。テロを誘発するほどの金額ではない」
ヨルダン川西岸のアブウェインに住むアマル・リマウィさん(42)は、夫がイスラエルの刑務所から出るのを18年待っている。「あと2年で刑期が終わる。彼はテロリストじゃない。自由の戦士です」
夫は01年、テルアビブで自動車爆弾により2人を負傷させた。「その5日前、イスラエル兵がこの町で5人のパレスチナ人を殺した。戦うしかなかった」
3人の子育てで働くことができず、自治政府から受け取る支払金が頼りだ。「夫を返してくれるなら、お金は要らない。夫は人々を守るために捕まった英雄。お金を受け取るのは当然です」
■イスラエル、送金減額で対抗
イスラエルは昨年、パレスチナに対抗する法律を制定した。パレスチナの税金の一部を代理徴収する立場を使い、支払金相当分を毎月の税収から差し引いて渡す措置に出たのだ。
パレスチナ側は猛反発。減額をやめない限り税収を一切受け取らないことにしたが、これが財政難を招いている。受け取るはずの税収は毎月7億シェケル(約210億円)以上で、自治政府は予算の半分超を失った。公務員給与を半減するなどしているが、シュタイエ首相は「7~8月には破綻(はたん)する」と話している。
パレスチナが支払金にこだわる理由は、対象者の多さにもある。自治政府によると、これまでの囚人は累計で80万人以上。今も6千人が収容され、「親戚に囚人がいない人はいない」と言われる。
対象者にはイスラエル兵に殺された者の遺族も含まれる。政府幹部は「国のため犠牲を払った人を支える責任がある」と話す。
自治政府の政策を監視するイスラエルのNGOによると18年の支払金の総額は12億シェケル(約360億円)で予算全体の約7%を占める。
国際社会の対応は割れている。米国は、パレスチナが支払金をやめない限り支援の多くを止めるとする措置をとっている。
一方、欧州連合(EU)はイスラエルが国際法に反する占領を続けていることも踏まえ、自治政府への経済支援を続けている。【6月13日 朝日】
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もちろん双方の立場はありますが、現在のパレスチナをめぐる構図はイスラエルが勝者、パレスチナが敗者という勝者対敗者の構図になっていますので、敗者たるパレスチナが勝者たるイスラエル攻撃関係者への支援金財源送付をイスラエルに求めるというのは「無理」がある・・・というのが、率直な感想です。
問題提起したイスラエル人男性の「パレスチナは争いではなく、命を尊ぶことを大切にして欲しい。政治的な問題の解決は、それからだと思う」というのは立派な考えですが、現実はそうした関係にありません。
敗者たるパレスチナとしては、屈辱を胸に勝者の主張に従うか、あるいは、恨みを「テロ」という形をとってでも勝者にぶつけるかしかありません。
したがって、現在の勝者対敗者という構図は、勝者たるイスラエルに「安全」を保障するものではなく、逆に絶え間ない攻撃を惹起するものでもあります。
【政治面は先送りしてカネの話から入る「世紀の取引」】
そこを断ち切るためには、現在の勝者対敗者の関係を、隣人関係に転換させる必要があるように思えますが、そうしたイスラエル対パレスチナの枠組み変更にはあまり関心はなく、現状のイスラエルの既得権を前提にして、パレスチナの処遇を中東周辺国に委ね、あとはカネ(おそらくアメリカが負担するのではなく、中東の関係国に負担させようというものでしょうが)で解決しようというのが、トランプ大統領が以前から「もうすぐ出す」と言い続けている「世紀の取引」でしょう。
トランプ大統領の盟友たるイスラエル・ネタニヤフ首相がイスラエル国内事情で総選挙に追い込まれるという状況変化で、その総選挙の足を引っ張りかねない「世紀の取引」の政治的な部分は提示が当分難しくなっており、とりあえず経済的な面だけ(つまりカネの話だけ)先に今月中にでも・・・ということになっています。
****「世紀の取引」道筋険しく 中東和平案、米が6月下旬提示か****
トランプ米政権が「世紀の取引」と呼ぶ新たな中東和平案の一端が、6月下旬に示される見通しだ。
イスラエルとパレスチナの根深い政治問題を先送りし、まずは経済支援で和平に道筋をつける狙いがある。だが、パレスチナは強く反対し、イスラエルの政局も安定しておらず、和平の道のりは厳しいと予想されている。
■経済支援で譲歩迫る
イスラエルは建国以来、パレスチナと70年以上、領土をめぐり争ってきた。パレスチナ側は自治を認められ、暫定的な境界を挟んでイスラエルと共存を続けるが、争いは絶えない。
歴代米政権や国際社会は、パレスチナを国家にする「2国家共存」を唯一の解決策としてきたが、和平協議は進展の気配もない。
この難問を「世紀の取引」で解決する意欲を示してきたのが、2017年に就任したトランプ米大統領だ。準備中の和平案は「政治面」と「経済面」に分けて公表される方向だ。
まず25~26日にバーレーンで、パレスチナ経済支援会合を開き、経済面のみを示すと報じられている。
一方、国境線の画定やエルサレムの地位などの難問を含む政治面は、いずれ受け入れをパレスチナに迫る「アメとムチ」戦術とみられる。
トランプ氏は昨年9月、和平案を遅くとも19年2月には出す意向を示していた。大幅な遅れの理由は、盟友であるイスラエルのネタニヤフ首相の事情だ。
和平案はイスラエルに一定の譲歩を求める内容とみられ、同政権への悪影響が懸念されるためだ。同国では4月に続いて9月に再び総選挙がある。そのため、政治面の提示は11月以降との観測が強まっている。
トランプ氏自身も、来年11月の米大統領選に出馬する意欲をみせている。支持層にはイスラエル寄りの有権者が多く、和平案もイスラエル寄りになるとの見方も。そうなれば、国際社会の批判は必至だ。
■パレスチナ強い反発
「世紀の取引は地獄に落ちる」。パレスチナ自治政府のアッバス議長は5月下旬、こう述べて、トランプ氏が準備している和平案をこき下ろした。
米大使館のエルサレム移転などもあり、パレスチナの米国への不信感は過去になく強い。そのため、和平案にも反発しているのだ。経済支援は必要だが、「占領を終わらせずカネだけもらっても解決しない」と政権幹部は言う。
一方、パレスチナと団結して中東和平を「アラブの大義」としてきたアラブ諸国は、揺れている。
バーレーンでの経済支援会合について、米国と同盟関係にあるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は参加を早々に表明。人口の約7割がパレスチナ系のヨルダンやエジプトは米国の働きかけを受け、11日までに参加を決めた。レバノンは欠席する。
アラブ諸国は、親イスラエルの姿勢を鮮明にする米国への批判を繰り返してきたが、米国との関係も重要であり、具体的な行動に移す国はない。近年は「イラン包囲網」でアラブ諸国とイスラエルが関係改善を進めており、パレスチナの孤立が浮き彫りになっている。【6月13日 朝日】
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【政治面の骨子はヨルダンとの連邦制?】
明らかにされていない「政治面」については、隣国ヨルダンにパレスチナを押し付けて連邦制をとらせるというものではないか・・・とも指摘されています。
****ヨルダンに強いるパレスチナ連邦国家****
クシュナー氏は会議の根回しのため最近、グリーンブラット米中東特使とともにイスラエル、ヨルダン、モロッコなどを訪問したが、ヨルダンでは米国のこの新しい和平構想に大きな懸念が浮上している。
懸念の中心はヨルダンが「パレスチナとの連邦国家」を強いられるのではないかというものだ。
ベイルート筋などによると、クシュナー氏の和平構想はパレスチナに独立国家を与えるというものではないようだ。同盟国であるイスラエルの感情や安全保障を考慮し、パレスチナ自治区のあるヨルダン川西岸とヨルダン本国による「ヨルダン・パレスチナ連邦」の創設が構想の中核である可能性が高いという。
事実上、ヨルダンにパレスチナの管理を委ねるという形式だ。ヨルダンは元々、ヨルダン川西岸と東エルサレムを領土の一部としていた。しかし、1967年の第3次中東戦争で、イスラエルが同地を占領。ヨルダンは1988年、同地の領有を放棄し、当時のパレスチナ解放機構(PLO)にイスラエル占領地を譲った。
現在、ヨルダン川西岸はイスラエル占領下の中、パレスチナ自治政府が統治し、将来的には当地にパレスチナ国家が創設されるというのがオスロ合意から始まった国際的な認識だ。
だが、イスラエルは治安や安全保障上の不安からパレスチナ国家創設には否定的。このため米国案は、ヨルダン川西岸の自治政府と東岸のヨルダン本国による連邦国家を樹立し、事実上ヨルダンにその管理を委ね、イスラエル側の懸念を払しょくするという構想だと見られている。
ヨルダンは元々、人口の7割がパレスチナ人で、ヨルダン自身のアイデンティティの問題を抱えている。連邦国家構想は「ヨルダンの犠牲の下で、パレスチナ問題の解決を図ろうとする目論見だ。ヨルダンの主権を損ない、難民など新たな問題を押し付けようとするもの」(ベイルート筋)と批判する向きが多い。
ヨルダンは石油などの資源もない人口1000万人弱の小国。米国やサウジなど湾岸産油国の援助に大きく依存しているのが現状だ。
45年以上前に当時のフセイン国王がパレスチナとの連邦を提唱したことはあるが、現在のアブドラ政権はこれ以上厄介な問題を背負うのは御免だ、というのが本音だろう。数百万人のパレスチナ人を受け入れることは国家の不安定要因につながるからだ。(後略)【6月4日 WEDGE】
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「世紀の取引」をめぐる条件も厳しくなっています。
“(イスラエル国内の総選挙という問題に加えて)10月にはネタニヤフ首相が3件の汚職容疑で起訴される公算が強い。起訴が濃厚だという状況が強まれば、連立政権への参加に難色を示す政党も出かねない。そうこうしているうちに今度は米国で大統領選挙戦が本格化、再選を目指すトランプ大統領は和平構想に関わっていられなくなるという見方が強い。和平構想は日の目を見ずに萎む可能性がある。”【同上 WEDGE】
また、財政難に苦しむ自治政府ですが、国家樹立という目標を放棄してカネに手を出すというのは、難しい選択でしょう。
【「この国にある衝突や紛争は、この工場では全く無関係」という企業も存在】
上記のような解決が難しいように見える状況にもかかわらず、現地にはパレスチナ人とユダヤ人が一緒に働く企業も存在するとか。
****ユダヤ人もパレスチナ人もみんな一緒! ガザ地区付近に工場を置くイスラエル企業の挑戦****
ユダヤ教徒とイスラム教徒がともに働く「ソーダストリーム」
(中略)解決の糸口さえ見えないパレスチナ問題を抱えるイスラエルだが、実はユダヤ教徒やイスラム教徒がともに働いている企業がある。 自宅でも炭酸水を作れる機械のメーカーとして近年、世界一に急成長し、日本のテレビCMでもおなじみの「ソーダストリーム」だ。
テルアビブから車で向かうと、その工場はガザ地区まで20キロほどしかない砂漠に突如現れた。周辺にはベドウィン(アラブの遊牧民族)の村があるだけの貧しい地域だ。失業率の高い地元ベドウィンの雇用に貢献しているだけでなく、工場には遠方からも多くの社員が通う。
「この国にある衝突や紛争は、この工場では全く無関係なんだ」
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区内にあった旧工場時代から働いている、パレスチナ人のマフムードさん(50)に話を聞いた。
「前の工場は近かったけど、今は、毎朝4時に家を出て夜9時に帰る生活を続けている。ここは一つの大きな家族なんだ。みんな仲良く、宗教や人種などによる問題など一切無い。家族のためにお金を稼がないといけないし、イスラエル企業で働くことに関して批判を言う人はいなかったよ。」
工場内では異文化が共存すると聞き、ソーダストリームへの就職を希望したと語るイスラエル人(ユダヤ教徒)のガイ・ブリックマンさん(26)はこう言う。
「異なる宗教を信仰する人たちが隣同士に座り、一緒に働いている。今晩はここでラマダンのお祝いがあるし、いつも色々な宗教行事をみんなで祝っているんだ。ここで働き始める前は、パレスチナ人やベドウィンの友達はいなかったけど、一緒に働いてみて、彼らとの結びつきを感じるようになった。この国にある衝突や紛争は、この工場では全く無関係なんだ。」(後略)【6月4日 FNN】
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こうした関係・異文化共存が一企業内にとどまらず、パレスチナ・イスラエル全域に拡大すればいいのですが、現実にはなかなか・・・・。
ただ、なぜ「ソーダストリーム」でできているのか?なぜほかではできないのか?を考えることは無意味ではないでしょう。
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