(2015年、牛を殺して牛肉を食べたとして、デリー近郊の村に住むイスラム教徒男性が、怒った群集に撲殺された「牛肉殺人」に抗議するイスラム教徒たち(2015年10月6日、ニューデリーで)【2015年10月22日 HUFFPOST】
この事件のときも、モディ首相は1週間以上沈黙していました。半月ほどたった地元紙とのインタビューでは「残念なことだ」と。)
【列車の乗客4人が暑さのため死亡 「本当に不運だ」】
インドから、読むだけで暑くて息苦しくなる“死の灼熱列車”に関するニュースが。
****列車内が「耐えられない暑さ」に、乗客4人死亡 インド****
2週間にわたって熱波に見舞われているインド北部で、列車で移動していた乗客4人が「耐え難い」暑さで死亡した。当局と乗客らが11日、明らかにした。
4人は10日、観光名所のタージマハルがあるアグラから同国南部コインバトールへ移動する際に死亡した。
インド鉄道の広報担当者はAFPに対し、「暑さが原因だとみられる」「本当に不運だ」とコメント。
列車が北部ウッタルプラデシュ州ジャンシに近づいた頃、「乗車していた職員から、乗客の一人が意識不明になっているとの連絡があった」とし、「医療スタッフが駅に駆け付けたが、乗客3人がすでに死亡していた」と説明した。
その後、もう1人の乗客が搬送先の病院で死亡したという。
ジャンシではここ最近、気温が連日45度前後に達している。
先の広報担当者によると、列車に技術上の問題はなかったものの、乗客が亡くなった車両にはエアコンが付いていなかったという。
アグラで乗車した乗客の一人は、車内は息苦しいほどに暑かったと証言。テレビ局の取材に対し、「アグラを出発して間もなく、暑さは耐えられないものとなり、呼吸困難や不快さを訴え始める人も出てきた」「助けが来る前に、彼らは倒れてしまった」と語った。
このテレビ局によると、亡くなった乗客の一人は81歳だったという。 【6月12日 AFP】
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日本では、そんな死人の出るほどの暑さになることはありませんが、「本当に不運だ」なんてコメントしたら「責任放棄だ!」と袋叩きにあうでしょうね。まあ、インドですから・・・。
それにしても、同一列車で4人も死亡するなんて・・・・どんな暑さだったのでしょうか。
【煮えたぎる宗教対立 その責任は?】
気象条件の暑さはやむを得ないところがありますが、ホットな社会対立となると明確に政治の責任です。
インドではモディ首相のもとでヒンズー至上主義的風潮が強まり、少数派イスラム教徒との間の緊張が高まっています。
****【巨象の未来 インド・モディ政権2期目へ】下 過激化するヒンズー教徒 宗教分断どう食い止める****
道を歩いていただけで、30人以上の男たちに取り囲まれ、リンチされた記憶は消えない。「私は鼻にけがを負ったが逃げ延びられた。なぜ襲撃されたのかまったくわからなかった」。農業の男性、ラフィク・カーンさん(25)は2年前の出来事を振り返った。
インド西部ラジャスタン州で牛6頭を連れて歩いていたところ、突然「自警団」に襲われた。搾乳をするための雌牛を購入して、帰宅する途中だったという。一緒にいた商売仲間のペフル・カーンさん=当時(55)=が暴行を受けて死亡した。
自警団を構成するのは、インド人の約8割を占めるヒンズー教徒の中で思想を過激化させた者たちだ。自分たちが神聖視する牛を守るため、牛の取引業者や飼育農家に攻撃を加えている。
被害者の多くは人口の14%のイスラム教徒だ。「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」。ラフィクさんは自警団メンバーが叫んだ言葉が忘れられない。
2014年の前回総選挙で勝利し、与党となったインド人民党(BJP)はヒンズー至上主義を掲げ、モディ政権は食肉処理を目的とした家畜市場での牛の売買を禁止する法令を出した。
BJPはヒンズー至上団体、民族義勇団(RSS)を支持母体とし、モディ首相も以前は、RSSの運動家だ。ヒンズー色の強い政策を取るのは予想されたことだが、過激な信者を拡大させるといういびつな結果も招いている。
牛の飼育者らが標的となった事件では14年以降、少なくとも44人が殺害された。こうした事件は以前から起きているものの、近年、明らかに増加している。
国連人権理事会も今年3月、「不平等が深刻で、少数派、特にイスラム教徒への迫害が増えている」と報告し、インド国内でわき上がる排他的な動きに懸念を表明した。
モディ氏はBJP幹部とともに事件に懸念を表明するが、野党、国民会議派からは「保守層は重大な支持基盤であり、政権与党はヒンズー至上主義を黙認している」(同党関係者)との批判の声が上がる。
宗教による分断はこうした事件に限らない。北部ウッタルプラデシュ州では公式観光ガイドブックからインドの象徴ともいえる世界遺産「タージマハル」が消えた。イスラム王朝時代に建設されており、「反ヒンズー的」という判断が働いたものとみられる。
BJPの総選挙での大勝に、イスラム教徒団体副会長を務めるラシッド・エンジニアさんは「インドは調和と多様性の国。偏見が強まらないことを願う」と懸念を示した。
抑圧されたイスラム教徒たちが絶望を深めれば、イスラム過激派に付け入る隙を与えることになる。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は10日、系列のニュースサイトを通じ、インドの一部に支配地域を設定したと主張した。
総選挙で圧倒的信任を受けたモディ政権。支持層に配慮しつつ、いかに国内融和を図るか難しいかじ取りを迫られそうだ。【5月26日 産経】
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“いかに国内融和を図るか難しいかじ取り”・・・・そもそも、そんな考えがモディ首相にあるのか疑問です。
総選挙での圧倒的信任は、前哨戦での敗北を受けて、支持層のヒンズー教徒向けにヒンズー至上主義的勢力をフル稼働させた結果得られたものです。
上記記事にもある、「自警団」によるイスラム教徒への暴力のほかにも、インド社会には不穏な対立の種があちこちに見受けられます。
下記の「8歳少女の集団レイプ殺人」も、単なる少女レイプ殺人ではなく(それだけでも十二分におぞましい犯罪ですが)、村長・警察幹部といった村の有力者を含む容疑者たちによって、イスラム教徒遊牧民追い出しのために行われたものです。
****8歳少女の集団レイプ殺人、男6人に有罪判決 インド****
インドで昨年起きたイスラム教徒の遊牧民の少女の集団レイプ殺人事件で、裁判所は10日、ヒンズー教徒の男6人を有罪と認めた。事件は広く知れ渡って恐怖を呼び起こし、宗教間の緊張を高めていた。
インドでは性暴力が横行し、子どもたちも犠牲になっている。昨年の事件を受けて市民の怒りが噴出し、政府は子どもをレイプした者への死刑適用を決めた。
起訴状によると、少女は昨年1月10日、馬に草を食べさせていた際に拉致され、北部ジャム・カシミール州カトゥア地区の村に連行された。
薬を飲まされてヒンズー教寺院に拘束された少女は5日間にわたって繰り返しレイプを受けた後に、首を絞められたり殴られたりして殺されたという。
少女が標的にされたのは、遊牧民を恐怖に陥れ、同域から追い出すことが目的だったとみられており、強姦(ごうかん)および殺人罪で有罪となった3人の中には、村長と警察幹部も含まれている。
パンジャブ州パタンコートの裁判所前で取材に応じた検察官は、6人に対する量刑は後に言い渡されるとしている。死刑または終身刑に処される可能性がある。 【6月10日 AFP】AFPBB News
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こうした事件の延長線上にあるのは、「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」と、民族浄化を意図した大量殺りく・ジェノサイドです。
モディ首相自身、2002年のイスラム教徒1000人以上(2000人以上との報告も)がヒンズー教徒に虐殺されたグジャラート州暴動事件当時、州首相だったモディ氏は暴動を阻止しなかった(むしろ密かに暴動を煽っていたとも)と非難されている経歴があります。
当然ながら、モディ首相は事件への関与を否定していますが・・・。
****インド、首相の非を唱えた警察幹部を追放 *****
インド内務省は、モディ首相がグジャラート州首相を務めていた2002年に同州で発生したヒンドゥー暴動でイスラム教徒が虐殺された事件に関して、モディ氏の非を唱えていた警察幹部のサンジブ・バット氏を免職した。
■弾圧、今に続く
当時、バット氏はグジャラート州警察副本部長(情報担当)だった。1000人以上の死者を出したグジャラート暴動をめぐり、政府の調査報告に異議を訴える公職者や活動家に対する弾圧は今に至るまで続いている。
バット氏はグジャラート暴動の捜査に際し、当初はイスラム教徒による放火とされた列車火災でヒンドゥー教徒の巡礼者たちが死亡した事態を受けて、当時州首相だったモディ氏がイスラム教徒に「思い知らせてやる」必要があり、ヒンドゥー教徒には「怒りを発散させることを許さなければならない」と言ったと供述した。
インド人民党(BJP)党首として昨年の総選挙で圧勝を収めたモディ氏は、グジャラートでの虐殺への関与を否定し、もし当時の州政府に責任があったのなら自分は「公開絞首刑にされてしかるべきだ」と語っている。
内務省は20日公表した全4ページの13日付命令書の中で、バット氏は許可なく職務を離れたという規律違反の疑いに潔白を証明することができず、「公務にとどめるにふさわしい人物ではない」としている。(後略)【2015年8月21日 日経】
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なお、モディ首相の性格については「恨みを忘れぬ性格」だとも。
“モディ政権の当局者や現地の企業関係者はモディ首相の人物像について、記憶力が優れ、細かなことまで関心を示し、比類ないほどのエネルギーや説得力を持っていると表現する。しかし、その一方で、復讐心が強く、いつまでも恨みを忘れず、反対派を容赦しない人物だと説明している。”【2012年10月30日 ロイター】
まあ、権力への階段を昇り詰める人間は、そういうものでしょう。
話を現在に戻し、今度はヒンズー教徒女児が惨殺された事件をめぐる不穏な動きについて。
****1万円超の借金めぐる女児惨殺事件、インドで宗教間の緊張高まる***
インド当局は11日、家族がつくった借金1万ルピー(約1万6000円)をめぐって2歳の女児が惨殺されたことを受け、同国北部ウッタルプラデシュ州の町に数百人規模の警察官を配置し、インターネットを遮断する措置を取った。事件を受けて現地では、宗教間の緊張が高まっている。
事件は同州アリーガル県で発生。ごみ捨て場に遺棄されていたヒンズー教徒の女児の遺体は2日、切断された状態で発見された。警察によると、女児は殴打されて絞め殺されていたという。
容疑者の男たちは、女児が暮らしていた町で多数を占めるイスラム教徒であったことから、イスラム教徒とヒンズー教徒の間で緊張が高まっている。
この町では複数のヒンズー教徒の右派団体が抗議活動を行っており、当局が犯人らに「直ちに裁きを下して」罰するべきだと訴えている。
9日にも別の右派団体が犯人らの死刑を求めて集会を開き、10日には極右団体「世界ヒンズー協会」の著名な指導者が、女児の家族の元を訪れようとしたところ、警察に阻止された。
これらの団体は「大規模集会」を企画していたものの、これも警察に阻止された。
警察は女児が性的暴行を受けていなかったとみられると報告しているものの、国内で横行する子どもへの性暴力に対する根深い怒りと相まって、ソーシャルメディア上では性的暴行を受けたとする裏付けのない情報が繰り返し投稿されている。 【6月11日 AFP】
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こうした社会対立を鎮める役回りとしては、モディ首相は残念ながら一番ふさわしくない人物のように思えます。
(もっとも、ヒンズー至上主義勢力とのコネクション・影響力を利用して、そうした勢力へのにらみを利かせる・・・というなら話は別ですが)
指導者がこうした社会対立を政治利用することを考えているとしたら「残念なこと」ですが、大きな破滅的悲劇につながるとしたら「残念」ではすまされません。
国民的融和ではなく、自身の支持層にしか関心がないというのが昨今の指導者の政治スタイルのようです。
【ライチで子供31人が死亡 その背後にあるものは】
インドの話で、まったく関係ない話題をひとつ。
果物のライチ(漢字では茘枝(レイシ)
楊貴妃の大好物で、嶺南から都長安まで早馬で運ばせたことでも有名ですが、私もライチと親戚筋の、タイやインドネシアでよく見るランブータンが大好きで、果物の中ではおいしさ、手軽さでは一番だと思っています。
ただ、このライチは飢餓状態にある者が食べると糖新生(飢餓時に筋肉や脂肪を糖に変換する作用)を阻害して、低血糖から死に至るようです。(“十分な食生活で糖分が足りている者がライチを摂取しても、血糖値は下がらない。”【ウィキペディア】とも)
****ライチ果実の毒素で脳炎発症か、子ども31人死亡 インド****
インド東部で、ライチの果実に含まれる毒素との関連が疑われる脳炎が原因で、ここ10日間に少なくとも31人の子どもが死亡したと、保健当局が12日、発表した。
当局によると死亡例は、ライチの名産地ビハール州ムザファルプール県にある2か所の病院から報告されている。
当局高官はAFPに対し、亡くなった子どもたちには全員、急性脳炎症候群の症状が見られ、大半が血糖値の急降下に見舞われたと語った。さらに40人の子どもが同様の症状によって集中治療室に収容されているという。
ムザファルプール県とその周辺では1995年以降、ライチが旬を迎える夏になると毎年同じ病気が多発しており、2014年は最多の150人が死亡した。
米国の研究者らは2015年、この脳疾患がライチに含まれる毒素と関連している可能性を指摘。てんかんなどの発作や意識障害を引き起こし、患者の3分の1以上が死に至るこの病気の原因を究明するため、さらなる研究の必要性を強調した。
同じくライチの生産地であるバングラデシュやベトナムでも、神経疾患が報告されている。 【6月12日 AFP】
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これも「本当に不運だ」では済まされない事態です。
まったく危険性が知られていなかったならともかく、ライチの危険性は指摘されており、毎年多くの犠牲者を出しながら、当局が何の対策も講じてこなかった結果の犠牲者です。
より根本的には“日頃から栄養不足のうえライチを食べて飢えを凌ぐという児童が多く、相乗効果で致死性の低血糖症を招いたもの”【ウィキペディア】ということで、そうした栄養不足・飢えに関しても政治の責任があります。
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