(レバノン首都ベイルートで、同国イスラム教スンニ派最高権威との面会に訪れたフランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(右)にスカーフを差し出す関係者【2月22日 AFP】
この後ルペン氏は着用を拒否して颯爽と立ち去りますが、こうした展開を予想していた“決してイスラム差別ではないが、フランスとしての筋は曲げない”という“うまいパフォーマンス”のように思えます。)
【本命フィヨン氏はスキャンダルで失速 保革二大政党が決選投票に進めない?】
今年4月、5月に行われるフランス大統領選挙はEUの存続がかかる重要な政治イベントと見られています。
選挙情勢については、1月12日ブログ“フランス やはりルペン氏は勝てない? ダークホースはマクロン前経済相 仏版「働き方改革」”で取り上げた時点では、本命は保守派のフィヨン元首相で、極右「国民戦線」のマリヌ・ルペン党首は第1回投票でトップにたっても、決選投票での勝利は難しい、ダークホースとしてはマクロン前経済相が決選投票に進む展開も・・・というような話でした。
しかし、その後フィヨン元首相は妻や家族絡みのスキャンダルが表面化したことで失速、代ってダークホースのマクロン前経済相が浮上しています。マクロン前経済相は第1回投票さえクリアできれば、決選投票では反ルペン票を集めて一気に大統領へ・・・との予想もあります。
そうなると、二大政党である保守系共和党も左派社会党も、いずれも決選投票に進めないという異例の展開となります。
****大混戦のフランス大統領選 米国発のトランプ旋風で保革二大政党が吹っ飛ぶ?****
4月23日に第1回投票が迫ったフランス大統領選が大混戦になっている。「本命」とされた保守系野党「共和党」公認のフランソワ・フィヨン元首相(62)は公費で家族を架空雇用した疑惑で支持が急落。
極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首(48)はライバル失速で勢いづき、米国発のトランプ旋風がフランスを直撃している。
選挙戦ではオランド大統領の与党・社会党候補も大苦戦。戦後フランス政治を支えた保革の中道二大政党が、決選投票に進めないという予想が強まってきた。
ルペン氏は5日の決起集会で、トランプ米大統領を強く意識した公約を発表した。(1)移民受け入れの削減(2)米国などと進める自由貿易協定交渉を破棄(3)国境検問の復活−という柱に加え、「公共事業の調達で国内企業を優先する」など、「フランス第一」を打ち出した。昨年まで「決選投票では、中道が団結してルペン氏は敗退」という予想が大半だったが、今や「誰がルペン氏の勢いを止められるか」が焦点だ。
選挙戦では、二大政党の公認候補が、共に支持率で3位以下に沈む前代未聞の事態になっている。
フィヨン氏の架空雇用疑惑は先月末以降、相次いで報じられた。妻や息子、娘を議員助手として雇用した形にし、国庫から「給与」として約90万ユーロ(約1億円)以上が支払われていた疑いで、警察の事情聴取を受けた。6日に「縁故雇用は誤りだった」と謝罪会見を開いた直後、妻が巨額の退職金を受け取ったという新疑惑が飛び出した。
社会党の公認候補ブノワ・アモン前国民教育相(49)は、オランド大統領が支持率低迷で再選を断念した後、政府の規制緩和に反対する党内左派の支持を集め、予備選を勝ち抜いた。
だが、公約の柱は「働いていなくても、全国民に月750ユーロ(約9万円)の最低所得を保証する」というもの。党内からも「現実無視だ」と批判が強く、公然と不支持を表明する党議員も出てきた。
二大政党に代わって浮上したのが、エマニュエル・マクロン前経済相(39)。投資銀行の行員から政権入りし、選挙経験はゼロ。公約はオランド政権の焼き直しだが、昨年結成した政治運動「前進」を率いて、二大政党に失望した中道層に人気を広げる。7日発表の支持率調査では23%を集め、25%で首位のルペン氏に次いで2位。
二大政党では、フィヨン氏が20%で3位、アモン氏が14%で4位だった。【2月8日 産経】
******************
【ルペン・フィヨン支持のロシアが選挙干渉?】
大統領に近づいた中道・無党派のマクロン前経済相にも同性愛者との不倫疑惑が報じられました。
政治家の“恋愛事情”については比較的寛容なフランスですが、同性愛者絡みとなると影響も出ます。
一時は、これでマクロン前経済相が潰れればいよいよルペン大統領誕生か・・・ということで、仏独国債の利回り格差は約4年ぶりの水準に拡大するなど市場も警戒感を強めました。
ただ、本人は疑惑を完全否定していますし、この件による支持率の変動も報道されていないことから、一応この問題はクリアできたようです。
マクロン陣営は、アメリカ大統領選挙にも干渉したとされるロシアによる「偽ニュース」「組織的中傷」を強く批判しています。
****仏大統領選、マクロン候補側近 ロシアの「組織的中傷」を非難****
仏大統領選に出馬し、世論調査で高い支持を集めているエマニュエル・マクロン前経済相(39)の広報担当者は14日、選挙運動を妨害する目的で虚偽のうわさを流しているとしてロシアを非難した。ロシアは昨年の米大統領選への介入も取り沙汰されている。
マクロン氏の広報担当者バンジャマン・グリボー氏はロシア政府が国営メディアを通じて「組織的中傷」を行っていると述べた。
グリボー氏は仏ニュース専門局i-TELEに対し「ロシア政府は後押しする候補者を決めた。(野党・共和党の)フランソワ・フィヨンと(国民戦線(FN)の)マリーヌ・ルペンだ」と語り、ロシアの選択は「非常に単純な理由によるものだ。彼らは強い欧州を望まず、弱い欧州を望んでいる」と述べた。マクロン氏は欧州連合(EU)を強く支持している。
グリボー氏は、いずれもフランス語ウェブサイトを持っているロシア国営国際通信社「今日のロシア」とスプートニクがマクロン氏の評判を傷つけようとしていると述べた。マクロン氏は先週、同性愛者だとのうわさを一笑に付している。
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「われわれは過去においても現在も他国の内政問題、特に選挙に干渉しようとしたことは決してない」と述べ、グリボー氏の主張を強く否定した。【2月15日 AFP】
********************
EUを牽制・分断するために欧州極右勢力をロシアが支援していることはかねてから指摘されているところで、ルペン氏もロシア系の資金に頼っているとも言われています。
(アメリカも世界各地の“反政府勢力”“民主派”と言われる組織・政治家にいろんなチャンネルを通じて情報も資金も流していると思われますので、ロシアから資金援助を受けること自体は特異なことではないでしょう)
フィヨン元首相は保守派ですが、トランプ大統領同様にロシア・プーチン大統領について肯定的に評価しており、親ロシアの姿勢が強いとされています。
マクロン陣営では、ロシア国内から数千に及ぶサイバー攻撃を受けていると明らかにしています。【2月14日 ロイターより】
ロシアの選挙干渉の真偽はわかりませんが、ロシアがルペン氏かフィヨン氏を望んでいることは間違いないでしょう。特に、ルペン氏勝利なら対ロシア制裁を続けるEUを崩壊に追い込め、欧州・世界の政治情勢は一変します。
エロー外相も15日、ロシアに対して昨年の米大統領選と同様の干渉を行わないよう強く警告しています。
なお、“スキャンダル・疑惑”花盛りで、ルペン氏にも“自身のボディーガードに勤務実態のない欧州議会議員秘書としての仕事を与えた”等の疑惑が持ち上がっていますが、トランプ氏がスキャンダルに“打たれ強かった”ように、コアなルペン支持層にはあまり響かないのではないでしょうか。
【決選投票では勝てないと言われていたルペン氏だが・・・・】
スキャンダル疑惑を振り切ってマクロン前経済相が大統領に近づいたのか、あるいは“本命”フィヨン元首相が疑惑から回復して大統領に近づくのか・・・と言えば、両者にとって思わしくない情勢もあるようです。
かねてより極右・排外主義のイメージがあるルペン氏には限界があり、相手がフィヨン元首相でもマクロン前経済相でも決選投票では勝てないと見られてきましたが、本当にそうなのか・・・?
****仏大統領選、ルペン氏が決選投票で対抗馬との差縮める=調査****
20日公表の仏大統領選に関する世論調査で、極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首が決選投票で対抗馬との差を縮め、勝算を高めていることが分かった。
オピニオンウェイの調査によると、ルペン氏は4月23日の第一回投票で27%を得票し、各20%で並んだ中道・無党派のマクロン前経済相、右派統一候補のフィヨン元首相を大きく引き離す見通し。
その後の決選投票では、マクロン氏の得票率58%に対し42%で、フィヨン氏には56%対44%でそれぞれ敗北すると見込まれている。
ただルペン氏は両ライバルとの差を縮小。1週間前の調査ではマクロン氏の得票率が63─64%、ルペン氏が36─37%だった。
ユーロ圏離脱や欧州連合(EU)離脱の国民投票実施を掲げるルペン氏が決選投票でも他候補を追い上げているとのニュースが重しとなり、仏国債利回りは急上昇した。【2月21日 ロイター】
*******************
アメリカで起きたことはフランスでも起きる・・・という感も。現在の支持率の差は、今後の展開次第ではいかようにもなりそうな数字です。
【急進的な左派統一候補に向けて協議 実現すれば極右大統領誕生に道を開く可能性も】
更に、ここにきて新たな波乱要因が出てきました。
決選投票には進めないと見られていた左派系候補2人が協力の可能性をめぐり協議しているとのことです。
もしこの協議がまとまり、それをもとに急進左派的な候補がルペン氏の相手として決選投票に進むことになれば(現在の両者の支持率を単純合計すればフィヨン氏やマクロン氏を上回ります)、ルペン氏は急進的な左派を嫌う保守・中道票を集めて大統領に・・・・という展開も。
****フランス大統領選に新たな波乱要因、左派候補が共闘模索****
仏大統領選の左派系候補2人は17日、協力の可能性をめぐり協議していることを明らかにした。左派系2人が手を組めば決選投票に進む可能性もあり、新たな波乱要因を嫌気し、市場では仏国債への売りが膨らんだ。
焦点の2候補は、与党・社会党など左派陣営のブノワ・アモン氏と共産主義の支持を集める急進左派のジャン・ルク・メランション氏。
両氏が掲げる政策は異なるため、協力する公算は小さいとされるが、実現すれば、ルペン氏当選の可能性が高まるか、財政支出に積極的な極左系大統領が誕生すると懸念されている。
16日公表のフランス政治研究センター(CEVIPOF)の世論調査によると、4月23日の第1回投票でアモン氏の得票率は14─14.5%、メランション氏は11.5─12%となる見通し。得票率はルペン氏や中道・無党派のマクロン前経済相、右派統一候補のフィヨン元首相を下回るものの、合計するとアモン、もしくはメランション氏のいずれかが5月7日の決選投票に進む可能性が出てくる。
KBCのストラテジスト、ピエ・ラメンス氏は、アモン氏とメランション氏のいずれかが決選投票に進めば「投資家にとっては最悪の展開」と話す。またアモン氏はユニバーサル・ベーシックインカム(全国民向け最低生活保障)や年金受給年齢の引き下げ、労働時間短縮に言及しており、オランド大統領よりも左派色が強いとし、「アモン氏が勝ってもルペン氏が勝ってもフランスは逆戻りだ」と指摘した。(後略)【2月18日 ロイター】
*******************
“左派統一候補で与党社会党のブノワ・アモン氏は21日、週内に環境政党「ヨーロッパエコロジー・緑の党」(EELV)候補者のヤニック・ジャド氏と共闘で合意することに自信を示した。”【2月21日 ロイター】とのことですが、自身の共闘が結果的に極右大統領誕生に道を開くことになることをアモン氏はどのように考えているのでしょうか?極右でも保守あるいは中道では大差ない・・・という判断でしょうか?
決選投票でルペン氏に勝てると踏んでいるのでしょうか?今の“空気”からすると極左候補ではルペン氏に勝てないと思います。
“反ルペン”勢力から左派支持層が抜ければ、アメリカの大統領選挙でクリントン候補の“壁”となった左派サンダース候補のような存在にもなります。
【国際影響力も問われる候補者 ルペン氏は“うまいパフォーマンス”】
こうした情勢の中で虎視眈々と大統領を狙うマリーヌ・ルペン氏については、下記のような記事も。
****仏極右党首、スカーフ着用拒み物議 レバノンのイスラム権威訪問で****
フランス大統領選に立候補している極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が21日、訪問中のレバノンで、同国イスラム教スンニ派最高権威との面会のために求められたスカーフの着用を拒否し、物議を醸している。
首都ベイルートにある同国スンニ派最高権威機関ダル・ファトワのトップ、アブドルラティフ・ドリアン師の事務所に到着したルペン氏は、髪を覆うためのスカーフを差し出されると、即座にこれを断った。
同氏は報道陣を前に、2015年にエジプトのスンニ派最高権威機関アズハルを訪問した経験に言及し、「スンニ派の世界最高機関でもこのような要求は受けなかった、よって私にはそれに応じる理由がない」と述べ、「大ムフティーによろしくお伝え願いたいが、私は自分をスカーフで覆うことはしない」と言い切り、その場を立ち去った。
ルペン氏は、ドリアン師の事務所には前日の20日にスカーフを着用する意向がないことを伝えたものの「面会はキャンセルされなかったため、私がスカーフを着用しないことが受け入れられたものと思っていた」と述べている。
一方、ダル・ファトワ側はその後出した声明で、「広報部がルペン氏側近の一人を通じて、ダル・ファトワの儀礼にのっとり、ドリアン師との面会時には頭部を覆う必要について事前に知らせていた」と説明。「ダル・ファトワ職員らは、この広く知られた規則の遵守をルペン氏が拒否したことに驚いた」と述べている。
フランスでは、公共の場所で顔全体を覆うスカーフを着用することが禁じられており、イスラム教の服装が物議を醸すことが多い。
この日がレバノン訪問最終日となったルペン氏。今回の訪問では、国際舞台での影響力をアピールするため、ミシェル・アウン大統領にも会い、同氏にとって初となる外国首脳との会談を果たした。【2月22日 AFP】フ
*****************
さすがフランス大統領選挙ともなると、“国際舞台での影響力”のアピールも必要になるようです。
それにしても“反イスラム”のイメージが強いルペン氏がイスラム国レバノンを訪問するとはちょっと驚きです。
決選投票に向けて、決してイスラム差別主義ではない・・・とのアピールでしょうか。
スカーフに関しての本来の議論はいろいろありますが、今回のルペン氏の行動に限って言えば、当初から着用を求められることが分かっていて、敢えて会見に臨み着用を拒否して立ち去る・・・という、国内に根強いイスラム批判層受けを狙ったパフォーマンスのように思えます。なかなかうまいパフォーマンスです。
【マクロン氏は親EUをアピール】
一方のマクロン前経済相は、メイ英首相と会談し、イギリスのEU離脱(ブレグジット)交渉では優遇措置を期待すべきではないとの考えを伝え、親EU姿勢をアピールしています。
****仏大統領候補マクロン氏、英首相と会談 親EUの姿勢示す****
フランス大統領選の中道・無党派候補、エマニュエル・マクロン前経済相は21日、メイ英首相と会談し、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)交渉では優遇措置を期待すべきではないとの考えを伝えた。
マクロン氏は会談後、記者団に「ブレグジットが英国と欧州諸国との関係の最適化につながることは認められない。離脱は離脱だ」と強調。「不当な優遇措置は認めないと固く決意している」と述べた。
最新の世論調査では、極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首が4月23日の仏大統領選第一回投票で27%を得票し、マクロン氏と右派統一候補のフィヨン元首相が20%で並ぶ見通しが示された。その後の決戦投票でもルペン氏の勝算が高まっている。
マクロン氏は、ロンドン在住のフランス有権者の集会で「われわれの国は欧州なしには発展できない」と語り、親欧州の姿勢をアピール、聴衆から喝采を受けた。
同氏はフランスはEU、英国それぞれと「特別な関係」を結ぶべきだと主張。「(ブレグジット後は)全てが変わるが、長期的に相互利益は守れるはずだ」と述べ、防衛や安全保障での英仏の緊密な協力を例に挙げた。【2月22日 ロイター】
*******************
フランスではEUに肯定的な見方が強いので、EUに批判的なルペン氏を念頭に、ここが“攻めどころ”とのマクロン氏の判断でしょうか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます