孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカとイラン  十分な説明がないまま煽られる危機感

2019-05-15 22:58:52 | イラン

(攻撃を受けた船。アラブ首長国連邦のフジャイラの港で13日撮影【5月15日 Newsweek】)

 

【「戦争ではない合理的な対応」が必要(アメリカの駐サウジ大使)】

イランとアメリカの緊張関係については、512日ブログ“トランプ政権のイラン圧力強化で高まる緊張 パレスチナ・シリアにも連動か”で取り上げ、一昨日ブログでもサウジの石油タンカーがアラブ首長国連邦(UAE)沖で攻撃を受けた事件について取り上げました。

 

そのサウジ石油タンカー攻撃事件の続報。

 

****石油タンカーへの「テロ攻撃」、海上安全への脅威 サウジが声明****

サウジアラビア政府は14日、アラブ首長国連邦(UAE)の領海付近で同国の石油タンカー2隻が受けた「テロ攻撃」は、海上安全への脅威だと指摘した。サウジプレス通信が14日に伝えた。

同通信によると、サウジ内閣は声明で、エネルギー市場へ影響が及び世界経済を危険にさらす可能性があることを踏まえると、海上と石油タンカーの安全を確保することは国際社会が共有する責務だと説明した。【515日 ロイター】

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海上安全への脅威」であることはわかりますが、依然として誰が攻撃したのは判然としません。イランは関与を否定しています。

 

わけがわからないまま、危機感だけが煽られているようにも。

 

アメリカの駐サウジ大使も“合理的な対応”を求めています。

 

****サウジ石油タンカーへの攻撃、戦争ではない合理的な対応必要=米大使****

米国のジョン・アビゼイド駐サウジアラビア大使は、サウジの石油タンカーがアラブ首長国連邦(UAE)沖で攻撃を受けた事件について、米国には「戦争ではない合理的な対応」が必要だとの認識を示した。

情報活動に詳しい米当局者は13日、この事件について、イランが実行した疑いが強いが、決定的な証拠がないと明らかにした。イランは関与を否定している。

同大使はリヤドで記者団に「何が起きたのか、なぜ起きたのか、徹底的な調査が必要だ。その上で、戦争ではない合理的な対応策を検討する必要がある」と発言。「紛争は(イランの)ためにも、我々のためにも、サウジのためにもならない」と述べた。

大使の発言は14日に公表された。【514日 ロイター】

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“情報活動に詳しい米当局者は、サウジの石油タンカーが攻撃を受けた事件について、米当局はイラン軍が直接関与したというより、イランに同調するあるいは支援を受けている勢力が実施した可能性があるとみていると明らかにした。

同当局者はイエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」やイランを後ろ盾とするイラクのシーア派武装勢力による犯行の可能性があるが、明確な証拠はないとした。”【515日 Newsweek

 

イエメン「フーシ派」はサウジの石油パイプラインもドローン攻撃しています。

「フーシ派」とすると、イラン国内のどの勢力が後ろにいるのか?という話にもなります。もし革命防衛隊が・・・ということなら、実に危険な挑発行為です。

 

ベトナム戦争へのアメリカの本格介入の引き金として利用された“トンキン湾事件”の再現にならないことを願います。

 

【説明がないまま高まる危機感】

上記のサウジ石油タンカー攻撃事件もよくわからいまま危機感が煽られていますが、今回イラン問題については、アメリカ・トランプ政権の対応全般にそうした説明不足が感じられます。

 

****米軍、イラク駐留部隊への「差し迫った脅威」の可能性警告****

米軍は14日、イランの支援を受ける勢力によるイラク駐留部隊への差し迫った脅威の可能性にあらためて懸念を示し、イラク駐留米軍は警戒態勢を強めていると明らかにした。

 

これより先、イラクとシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に当たる米主導の有志国連合の英指揮官は、イラン傘下の武装勢力による脅威は高まっていないと発言していた。

米中央軍の報道官はこの発言について、イラン傘下の勢力に関する米国や同盟国からの情報で特定された信頼の置ける脅威に矛盾していると説明。有志国連合は警戒態勢を強めており、イラク駐留米軍に対する信頼の置ける、緊急の可能性のある脅威を引き続き注意深く監視すると述べた。【515日 ロイター】

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****米、イラク大使館員出国へ 「イランの脅威」に対応****

米国務省は15日、在イラク米大使館職員のうち、緊急性の低い業務に携わっている職員を出国させるよう指示した。大使館が発表した。米メディアは、イラクの隣国イランからの脅威が理由だと報じた。

 

首都バグダッドの大使館と、北部アルビルの領事館の職員らが対象。大使館は(1)民間交通機関でできるだけ早くイラクを離れる(2)イラクの米関連施設を避ける―などの行動を取るよう米国民に呼び掛けた。

 

イラン産原油の全面禁輸に踏み切ったトランプ米政権は、イランによる米国への脅威が高まったとして、空母打撃群や爆撃機をイラン近海に派遣している。【515日 共同】

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最大限に危機感を煽っているのが、例によってトランプ大統領です。

 

****米標的なら「イランは痛い目に」=トランプ氏が報復警告****

トランプ米大統領は13日、イラン情勢について、記者団に「もしイランが何かするなら、重大な誤りだ。彼らの方が痛い目に遭う」と語った。イランとの間で緊張が高まる中、米国の国益が攻撃の標的になった場合は強力に報復すると警告したものだ。(後略)【514日 時事】

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イラク駐留部隊への差し迫った脅威」「イランの脅威」とは何なのか?

上記【ロイター】にもあるように、有志国連合の英指揮官も疑問を呈しています。

 

****「イランの脅威は深刻化していない」 有志連合の英軍報道官、米と矛盾する見解****

イラクとシリアでイスラム過激派組織「イスラム国」の掃討を目的とした米軍主導の有志連合に加わる英軍の報道官が14日、中東におけるイランの脅威は深刻化していないと発言し、米国の主張とは矛盾する見解を示した。

 

米政府は、自国と同盟国に対するイランの脅威が差し迫っていると警告し、ペルシャ湾一帯の兵力を増強している。

 

しかし、有志連合による「生来の決意作戦」の英報道官を担当するクリス・ギカ少将は、テレビ会議システムを通じて米国防総省で会見し、「イラクとシリアでは、イランが支援する勢力の脅威は拡大していない」と断言した。

 

この発言の後、直ちに米中央軍は、イランの脅威は高まっていると反論。同軍報道官のビル・アーバン大尉は、「米国および同盟国の情報機関は同地域で、イランが支援する勢力の差し迫った脅威について確認しており、(ギカ氏のコメントは)これらの情報と矛盾する」と述べた。

 

米軍はイランの脅威に対抗するためとして過去9日間にわたり、湾岸地域の空母打撃群にB52戦略爆撃機やパトリオットミサイルなどを追加し、配備を増強していた。

 

この見解の相違は、米軍が裏付けとする情報を説明することなく、湾岸周辺の兵力を増強していることに対する疑問を強調する結果になった。

 

専門家の間では、ギカ氏のコメントに加え、米政府はイランが何を計画していると考えているのか、詳しい説明がないことから、トランプ政権が正当な理由なく中東の緊張を高めているとの疑いが生じている。

 

またイラン側も、何も計画などしていないと真っ向から否定。米国の同盟国らは、湾岸地域へのパトリオットミサイルや強襲揚陸艦の配備は偶発的な出来事が大きな紛争を誘発する可能性を高めるとして、事態が深刻化する危険性について警告している。 【翻訳編集】AFPBB News

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同盟国イギリスだけでなく、アメリカ与党内からも説明を求める声が出ています。

 

****米政権、議会とイラン問題の情報共有せず 「闇の中」と不満も****

トランプ米政権とイランの緊張が高まる中、米議員らはホワイトハウスから十分な情報が提供されていないことに不満の声を挙げている。

議員らはイラン情勢について政権から秘密裏に状況説明があってしかるべきだと訴えており、トランプ氏と同じ共和党の一部議員からもそうした不満が聞こえる。過去の政権は国家安全保障上の重要事項について、定期的に議会への説明を行ってきた。

共和党のリンゼー・グラハム上院議員は記者団に対し「われわれは皆、闇の中にいるようだ」と述べた。

ナンシー・ペロシ民主党下院議長は、ホワイトハウスに下院議員への説明を求めたが、まだ同意できないとの返答があったという。

上院関係者らによると、民主党が要請したが、上院での説明会は予定されていない。

上院外交委員会のボブ・メネンデス議員(民主党)は、イランによる米駐留部隊への脅威と米国の対応について「議会が具体的な情報を受け取るのを阻害し続ける政権の対応は正当化し難い」と述べた。

ホワイトハウスからはコメント要請への回答が得られていない。【515日 ロイター】

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サウジ石油タンカー攻撃事件がベトナム戦争介入の契機ともなった謀略“トンキン湾事件”を連想させるなら、こちらの「イランの脅威」はイラク戦争開戦の証拠とされたウソ“大量破壊兵器”をも連想させます。

 

【核合意の履行義務の一部停止】

イランは、ロウハニ大統領が表明していたように、核合意の履行義務の一部を公式に停止したと公表しています。

 

****核合意の履行停止を実行 イラン****

イランの原子力エネルギー当局者は、2015年締結の核合意の履行義務の一部を公式に停止したと述べた。ロイター通信が15日に伝えた。履行停止の方針は8日、ロウハニ大統領が表明していた。

 

当局者によると、低濃縮ウランは300キロ、重水は130トンに定められた貯蔵の上限を撤廃し、今後は無制限に貯蔵する。

 

いずれも核兵器開発に関連する物質だが、イランは余剰分を国外に搬出したり販売したりしており、核合意の上限に達するまでにはまだ余裕があるとみられる。

 

また、核兵器には濃縮度90%以上のウランが必要とされるが、核合意では濃縮度は3・67%までに制限されている。

 

ロウハニ師は核合意を離脱した米国を除く英仏独中露の当事国5カ国に60日間の猶予を設け、原油や金融などの取引が保証されなければ、規定の濃縮度を超えるウランの製造に着手するとしている。【515日 産経】

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この「核合意の履行義務の一部停止」の意味合いは、512日ブログでも触れたように、“核合意で定められた「数値」は違反するが、核兵器開発に直結する活動を困難にするという核合意の「精神」は尊重するというメッセージ”ともとれますが、いずれにしてもアメリカ・トランプ政権がこれを契機に更に圧力を強めること想定されます。

 

トランプ大統領は一応否定してみせましたが、政権内では最大12万人の部隊を派遣する案も検討されているといった話も取りざたされています。

 

****米大統領、対イラン軍事計画巡る報道否定 「派兵検討せず」****
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は13日、当局筋の話として、イランが米軍を攻撃したり、核兵器開発を加速させたりした場合に最大12万人の部隊を派遣する案などを含む最新の軍事計画を、シャナハン米国防長官代行がトランプ政権に提出したと報じた。

トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対し、NYTの報道を「フェイク(偽)ニュース」とし、部隊派遣などを計画していないと指摘。「このような計画が必要にならないことを願う。もしこのような計画が実行されれば、計画以上の部隊を地獄に送ることになるだろう」と述べた。【515日 ロイター】

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【ハメネイ師 「イランは抵抗の道を選んだ」】

イラン側の対応は、アメリカとの「交渉」は否定しつつ、「戦争」も否定するというもので、ハメネイ師は「イランはレジスタンス(抵抗)の道を選んだ」とも。

 

要するにトランプ大統領が任期切れで退任するとかいった事態の変化を待って「耐える」というところです。

 

****米との交渉は「毒」 戦争は否定 イラン最高指導者****

イランのイスラム教シーア派最高指導者ハメネイ師は14日、政府高官らとの会合で、2015年締結の核合意から離脱したトランプ米政権について、敵対的な態度を取っているなどと批判し、交渉に応じることは「毒」だとして拒否する考えを強調した。イランのメディアが伝えた。

 

米政権は原子力空母やB52爆撃機などをペルシャ湾周辺に派遣し、イランに対する軍事的圧力を強めているが、そうした中でも交渉姿勢に転じることはないと宣言した形だ。交渉の否定には、国内の改革派から対米融和論が高まるのを封じる狙いもうかがえる。

 

ハメネイ師は一方で、「私たちは戦争を望まないし、彼ら(米国)も同様だ。彼らはそれが利益にならないことを知っている」と戦争への懸念を打ち消し、「イランは抵抗の道を選んだ」と述べた。

 

イランの最高指導者はロウハニ大統領がトップを務める行政府のほか司法府、軍などを掌握し、国政全般に決定権を持つ。ハメネイ師は反米の保守派として知られ、発言は米国との対決で指導部を一致団結させる思惑もありそうだ。【515日 産経】

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【ロウハニ大統領 「前例のない」圧力に国民結束を呼びかけ】

耐えきれるかどうかは国内情勢にもよります。

 

****「ガソリン値上げ」報道、誤報だった イラン各地で混乱****

イランで5月初旬、反米保守強硬派の有力通信2社が特ダネとしてガソリン価格の値上げを報道したことで、市民がガソリンスタンドに殺到し、各地で混乱が起きた。

 

政府はすぐさま報道を否定。司法当局が両通信社の幹部を事情聴取するなどして事態の収拾を図ったが、騒動の背景には国内の政治対立があるのではないかとみられている。

 

イランではガソリン代に政府の補助金が充てられており、ガソリンが1リットル1万リアル(実勢レートで約7円)と、ベネズエラやスーダンと並び、世界有数の安さを誇る。ガソリン価格が上昇すると、輸送費もかさみ、物価上昇に直結するため、市民はガソリンの値上げには神経をとがらせている。2007年には値上げに端を発して首都テヘランで暴動が起きたこともある。

 

核合意から離脱したトランプ米政権がイランへの制裁を再開して以来、物価高や現地通貨の価値急落などで経済は低迷。米国がイラン産原油の完全禁輸措置に踏み切る矢先の報道とあって、国家歳入の約6割を占めるとされる原油収入の激減が予測される中、政府が予算不足からガソリンへの補助金を削減するのではないかとの観測が強まっていた時期でもあった。【514日 朝日】

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イラン国内でも危機感を煽り、この機に乗じて穏健派政権を揺さぶろうとする保守強硬派の勢力があります。

一般に、対立する両陣営の強硬派と称される勢力は、互いにもっとも敵対する言動を示しながらも、危機が高まることで自らの存在感をアピールできるという点では共通する利害関係にあります。

 

これまで革命後のイランにとって最大の試練はイラン・イラク戦争でしたが、ロウハニ大統領はそのイラン・イラク戦争当時以上の圧力を受けているとも表明し、結束を呼びかけています。

****イラン大統領、米国から「前例のない」圧力 国内の結束呼び掛け****

イランのロウハニ大統領は11日、米制裁強化に直面する中、現在の状況は1980年代のイラクとの戦争時よりも厳しいかもしれないと指摘し、この状況を乗り切るため派閥間の結束を呼び掛けた。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。

トランプ米大統領は9日、イランに対し 核放棄に向けた交渉の席に付くよう促した上で、両国の軍事衝突の可能性を排除しないと語った。

米国は今月、イラン産原油禁輸措置を強化したほか、湾岸地域での米軍の配備を拡大させている。

ロウハニ大統領は「現在の状況が(1980─88年の)戦時よりも良いのか悪いのかはいえないが、戦時には金融機関や石油販売、輸出入に問題はなかった。あったのは武器購入への制裁だけだった」と指摘。

 

「敵からの圧力はイスラム革命史上前例のない戦争だ。しかし、私は将来に大きな期待を抱いている。われわれが結束すれば、この厳しい状況を乗り切れると確信している」と述べた。

ロウハニ大統領は、2015年の核合意から米国が昨年離脱し、制裁を再開したことを受け、国内強硬派からの批判に直面しているほか、身内の穏健派からも一部離反が出ている。【513日 ロイター】

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トランプ政権がどのような対応を示すのか、ロウハニ政権が耐えきれるのか・・・不透明です。

 

日本外務省によると、イランのザリフ外相が来日し、16日に安倍晋三首相、河野太郎外相とそれぞれ会談するそうです。

 


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