(フランス人の攻撃を受けるスペインのトラック【2月9日 松尾彩香氏 Newsweek】 積み荷は缶かビンに入った液体ように見えます・・・)
【フランス 農家のデモ隊、警官隊と衝突】
フランスで、規制が緩く安価な外国産農産物の流入や、ウクライナ支援の一環としての関税免除のウクライナ産農産物の流入などで経営が苦しい農家が政府に抗議してトラクターで道路封鎖するなどの“反乱”を起こしていることは、1月31日ブログ“フランス 「黄色いベスト運動」に続く農家の反乱 グローバリズム・EUへの反感 政局は若手対決”でも取り上げました。
その後“仏農家デモの撤収呼びかけ、政府の支援発表受け組合指導者”【2月2日 ロイター】といった収束に向けての動きも報じられていましたが、当該記事にも“一部の小規模農家組合の指導者は道路封鎖解除の呼びかけに応じると表明しているが、農家の多くは組合に加入しておらず、各地のデモ参加者全てが撤収するかは不明”とあったように、収束には至っていなかったようです。
****マクロン大統領、農家のデモ隊と2時間議論で「うそつき」と罵声浴びる…欧州各地で抗議行動広がる****
欧州各地で物価高騰や農産物の価格低迷などを背景にした農家の抗議行動が広がっている。欧州連合(EU)による規制や、ロシアによる侵略を受けるウクライナからの安価な穀物流入など、国・地域ごとに事情は異なる。
フランスのマクロン大統領はデモ隊への対応のため、24日にオンラインで行われた先進7か国(G7)首脳会議を欠席した。
マクロン氏が24日、視察に訪れたパリ郊外の大規模農業見本市の会場には農家のデモ隊が押し寄せていた。デモ隊は警官隊と衝突し、約2時間にわたって議論したマクロン氏に「うそつき」などと罵声も浴びせた。
フランスでは1月中旬から抗議行動が各地で始まっている。「農産物の価格が低く抑えられている」「エネルギー価格が上昇する中、政府の補助が不足している」などと訴え、トラクターによる幹線道路の封鎖が相次いだ。
EU本部のあるベルギーの首都ブリュッセルでは、2月上旬のEU首脳会議に合わせてデモ隊のトラクターが幹線道路をふさいだ。スペインやイタリアなどでも、同様のデモが繰り広げられている。
ポーランドではウクライナ支援の一環としてEUがウクライナ産穀物の関税を免除したことに反発し、農家が国境封鎖を断続的に続けている。ロイター通信によると、22日はチェコやスロバキアでもデモがあった。
欧州各国の首脳やEUは、不満解消に向けて農家への補助金拡充や規制緩和などを提案しているものの、事態打開は見通せていない。【2月25日 読売】
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【スペイン農家を敵視するフランス そのスペイン農家も仏同様の不満】
上記記事にあるように、“農家の反乱”はフランスに限らず、欧州各国で起きています。一方で、“国・地域ごとに事情は異なる”という側面も。更に、混乱は連鎖することも。
国外からの流入が標的になると、今度はその相手国で問題が置きます。
上記フランス農家が敵視しているのはスペイン産農産物。標的とされたスペイン農家もフランス農家同様の不満を抱えていますので、自分たちも抗議行動を・・・という話にもなります。
****スペイン農家の怒りは頂点に 各地に広まる抗議活動のワケ****
「いい加減にしろ!」「もう我慢できない!」
2月6日朝、怒りに満ちたスペインの農家たちが一斉にトラクターを引き連れ各地の道路に繰り出しました。農家たちはクラクションを鳴らしながら街中を走り回ったり、国道をトラクターで封鎖するなどして抗議活動を行なっています。
フランスをはじめとするヨーロッパ各地で広がっている農家による抗議活動は、スペインの農家たちに大きな影響を与えたようです。
フランス農家からの攻撃を受けたスペイン産農作物
去年の10月のこと。フランスの農家らが国境を越えて入ってくるスペインの運搬トラックを遮断し、積み荷のワインを地面に投げつけ台無しにするという出来事が起こりました。また他のトラックに積まれていた野菜や果物もボロボロに破損し、スペインからの輸入を妨げたのです。
フランスでは物価の上昇に加え厳しい独自の農薬使用規制などが存在し、農家は苦しい生活を強いられています。そんな中、フランスと比較し農薬規制も緩く物価や生産コストが低いスペインで作られた安い農産物がフランスに持ち込まれることによって、フランス人らは安く売られているスペイン産の製品ばかり買うようになってしまいました。
さらにウクライナ戦争以来高騰を続ける燃料の価格や、エコ思考の強いヨーロッパ連合の厳しすぎる地球環境を考慮した規制などが農家にさらに大きな負担と損失を招いているのです。
ついに我慢の限界に達したフランス人農家たちは、国境を越えて入ってくるスペインの製品を全てぶちまけることによって、ヨーロッパやフランスに対して抗議の意思を表しました。
さらにこの出来事から3ヶ月たった1月下旬。前回同様にフランス人農家たちが道を封鎖し、スペインからくる運搬トラックの積み荷の農作物を再び攻撃し始めました。国境付近で身動きが取れなくなったトラックにフランス人農家らは積み荷は何か質問をし、もし農作物だと分かったら一斉に襲い始めるのだそうです。
トラックの運転手は「これは我々にとって大きな経済的な損失になる」と肩を落とし、スペインの国民らは「フランス人はやはり野蛮だ」「あいつらがやる事はまるで動物のようだ」とフランス人に対し怒りの感情をあらわにしましたが、スペイン人農家らはどうやらこのフランス人農家と似た不満をこれまで抱えていたようです。
農家らの要求
国民の食卓を陰で支えている農家たち。どこの国でもそうですが、政治家たちは彼らなしでは我々は生きていけないことを忘れてしまいがちなようです。
スペインのサンチェス首相は現在カタルーニャ独立派と約束した恩赦法を成立させることで頭がいっぱいのようで、国民が抱えてる苦悩や問題に気を配っている余裕がありません。
そんな国のリーダーに対し農家らは「あいつはカタルーニャ人にゴマすってばっかりでこっちに見向きもしない!」「俺たちがいないと国民はみんな餓死にするんだぞ!」と怒りをむき出しにしています。
スペインの農家たちがこの抗議活動を通して国やヨーロッパ連合に訴えたいことは数多くありますが、その中でも分かりやすい要求をここでいくつか紹介したいと思います。
1公平な価格
「収穫してもお金にならない」。収穫の時期を迎えたスペインのレモン農家の中には、せっかく育てたレモンを収穫することをやめてしまった農家もいます。レモンを生産するのにかかるコストは1キロ1.5ユーロ。しかし売りに出しても1キロ18〜30セントにしかならないのだと言います。
生産コストの半分にも届かないお金しかもらえないのであれば、収穫するだけ無駄だとレモン農家は収穫を放棄してしまったのです。先月には、大量のレモンをマラガの中心街に持ち出し、通行人に無料で配り出すレモン農家も現れました。
このような危機的状況に置かれている農家はレモン農家に限りません。スイカやブルーベリー、その他の農産物を生産している農家も同じ理由に苦しみ、このような抗議活動やニュースのインタビューに答えることによって彼らが置かれている状況を訴えて続けてきましたが、政府は他の政治テーマに夢中でこれまで全く耳を貸そうとしませんでした。
2ヨーロッパ連合の厳しすぎる規定
オーガニック製品の人気が高く、環境保護にも積極的なヨーロッパ。先走って次々と新しい規制や目標を掲げていますが、それを実現するために払わなければいけない代償に関してはどうやらあまり関心がないようです。
ヨーロッパの要求にスペインは答えなければならないので、現状を無視した約束事やルールがどんどん増えていきます。それによって使用できない農薬の種類は増え、化学肥料の使用制限も厳しくなることで生産量はどんどん減っていき、農家の生活は日に日に苦しくなっていくばかり。農家らはこう言った無理な要求を改め、農産業における官僚主義に終止符を打つことを望んでいます。
3他国からの輸入品
ヨーロッパや国が定める規定によって生産量が減り、コストがかかるとなると農作物の価格は必然的に高くなります。そこで販売する側はもっと安く仕入れようとモロッコなどの物価が安い国から農作物を輸入するようになりました。
EU非加盟国では、加盟国がクリアしなければならない厳しい農薬や化学肥料の規則がないため、安価に大量に作物を生産することができます。それによってスペインで生産された農作物は売れなくなり、スペイン農家を苦しめているのです。彼らは海外から輸入される農作物にもヨーロッパ連合の規則をクリアすることを義務付けるほか、輸入農産物に対しての関税引き上げなど何かしらの対策を取るように求めています。
道を封鎖され至る所で交通麻痺が起きているスペイン。一方で国民らは関連するSNSの投稿に対し「がんばれ農家たち!」「応援してる!」と農家を支持するコメントを次々と残しています。(後略)【2月9日 松尾彩香氏 Newsweek】
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【ウクライナ産農産物の扱いで揺らぐウクライナ支援】
関税が免除されたウクライナ産農産物をめぐってはフランス農家も問題視していますが、以前から混乱がおきていたのはポーランドなど中東欧諸国。
EU域内へ輸出されるウクライナ産農産物が通過する中東欧で、それら安価な価格で市場に出回り、中東欧諸国農家を圧迫する問題が以前からあって揉めていました。EUは何とか調整しようとしてきましたが、うまくいっていないようです。
持続的なウクライナ支援が課題となっている今、支援の障害ともなっています。
****ポーランドでウクライナ産穀物の関税免除に「抗議」、地元農民が列車襲う…揺らぐ対ロシアの連帯感***
[ウクライナ侵略2年]見えない出口<4>
気勢を上げる男たち、完全武装の警官隊――。今月20日、ポーランド東部の農村地帯に物騒な光景が広がった。隣接するウクライナから来た貨物列車が地元の農民に襲われ、積み荷の穀類が線路上にばらまかれた。
ロシアのウクライナ侵略後、欧州連合(EU)はウクライナ産穀物の関税を免除している。農民はそれが不公平だと主張する。「我々はウクライナを支持しない」と小麦まみれの線路上で声を張り上げた。2年前、欧州の人々はロシアに怒りの声を上げたが、当時の連帯感は雲散霧消しつつある。(後略)【2月24日 読売】
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“国・地域ごとに事情は異なる”農業問題ですが、基本にあるのは先進国において生産性の低い農業を維持することの難しさでしょう。他の産業のように生産性を向上させることが難しく、更に昨今の環境規制・人手不足でコストはあがるばかり。
グローバル化した経済のなかでは安価な外国産に対抗するのが難しい。農業保護や自給率対策で国の補助金が支給されることにもなりますが、そのことは農業の補助金依存・政策依存を強め、産業体質を弱めることにも。
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