
(首都トリポリ周辺の戦闘で死亡したと報じられているカダフィ大佐の息子の一人、ハーミス氏が率いた「第32旅団」の拠点近くの倉庫で見つかった、53人ほどの焼け焦げた遺体 反カダフィ派らの人々を大量に虐殺した疑いが出ています。 “flickr”より By Foto Informe http://www.flickr.com/photos/fotoinforme/6089905047/ )
【政権崩壊を受けた最大規模の国際会議 1日パリで】
リビアではカダフィ大佐の行方がまだわかりませんが、三男サアディ氏は8月31日、中東の衛星放送アルアラビアで「流血を避けることが最も大事だ」と述べ、評議会側に交渉を呼びかけています。交渉はカダフィ大佐の了解を得ている、としていますが、国民評議会側は投降以外には応じない構えで、交渉は決裂した可能性が高いと報じられています。
なお、次男のセイフルイスラム氏も同日、シリア系衛星テレビに音声で声明を出し、「政権軍のだれも降伏などしない」と徹底抗戦を主張。自らはトリポリ近郊におり、カダフィ大佐も元気だとしています。【9月1日 朝日より】
2月以来の犠牲者については、反体制派側からは“5万人”との数字が発表されていますが、正確なところは誰にもわからないのが実情ではないでしょうか。
****リビア反体制派「5万人死亡」 2月のデモ開始以降****
リビア反体制派軍事部門の幹部は30日、今年2月に反体制デモが始まってからこれまでに約5万人が死亡した、と述べた。ロイター通信が伝えた。
この幹部によると、激戦が続いたミスラタとズリタンで1万5千~1万7千人が死亡。西部の山岳地帯でも多数の死者が出た。幹部は「我々は2万8千人の拘束者を解放したが、行方不明者はみんな死亡したと思う」としている。
新政権樹立を目指す国民評議会の軍事部門報道官は28日、「カダフィ政権に拘束された1万人を解放し、5万人が行方不明」と述べていた。【8月31日 朝日】
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いずれにしても、内戦は最終局面に入っていることは間違いなく、国際社会の関心は戦後の新体制づくりに移っています。
きょう1日には、カダフィ政権崩壊後のリビア復興を討議する関係国会議がパリで開かれます。
****リビア:復興関係国会議がパリで開幕 治安安定策など協議****
カダフィ政権崩壊後のリビア復興を討議する関係国会議が1日、パリで開かれる。会議には米仏英などリビア空爆の参加・支援国のほか、空爆に消極的だったドイツや中国、ロシアも参加。政権崩壊を受けた最大規模の国際会議となる。会議ではリビア資産の凍結解除を進めることを検討する一方、現地の治安安定策なども議論する。
仏政府幹部によると、会議は仏英の主催で、約60の国や機関が参加。反カダフィ派「国民評議会」代表のほか、潘基文(バンキムン)国連事務総長、サルコジ仏大統領、キャメロン英首相、メルケル独首相、クリントン米国務長官も出席する。中国、ロシアもオブザーバーなどとして参加する見込みだ。
国連安保理の制裁決議により各国が凍結したリビア資産については、安保理がすでに米で15億ドル(約1155億円)分、英で約9億5000万ポンド(約1187億円)分の解除を認めた。独、仏、スペインなどにも凍結資産があるが、国民評議会が求める当面の緊急援助額(50億ドル)に対応できるかが会議の焦点になる。評議会側は凍結解除された資金を、人道支援物資調達のほか、公務員の給与支払いなどに使いたい意向という。
一方、国民評議会は、新生リビアの構築で国連が果たす役割に期待しており、国連も警察部隊の創設や、現地に氾濫する小火器の撤去に向けた援助などを表明した。会議では当面の人道物資の確保、教育・衛生体制の確立などに向け話し合うほか、仏などは国民評議会に対し、復興に向けた活動計画(ロードマップ)の作成も求めていく方針だ。
なお、ロシアは1日、国民評議会をリビア政府として承認した。【9月1日 毎日】
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【「お前の息子はカダフィの手先だった。許せない」】
今後については、カダフィ支持勢力との「国民統合」の行方、反体制派内部における権力争いなどが懸念されています。
これだけの犠牲者を出した以上、双方の憎しみも大きく、「国民統合」への道は険しいものがあります。
また、カダフィ政権が力で抑え込んでいた部族間の対立などが噴き出す形で、“イラク化”の不安もあるところです。
****「国民統合」埋まらぬリビア内戦の溝****
カダフィ大佐の軍事的敗北が決定的となったリビアでは、反カダフィ派部隊が住民の歓迎を受け全土の制圧を進めている。だが、内戦中に生まれた国民間の溝は消えておらず、反カダフィ派代表組織「国民評議会」が目指す「国民統合」に向けた前途は多難だ。
◆検問所で態度一変
「ヨーロッパ人たちが街を壊していったんだ」。反カダフィ派の進撃を強く後押しした北大西洋条約機構(NATO)による軍事介入を批判していたトリポリのタクシー運転手、イマードさん(30)は、唐突に話をストップさせた。反カダフィ派の検問所だった。検問所では会話のトーンが変わっていた。「リビアは自由になった!」
カダフィ大佐は内戦中、国営テレビを通じ、反カダフィ勢力を一貫して「NATOの傀儡(かいらい)」「侵略者」と非難し続けた。8月中旬に反カダフィ派部隊が迫るまで比較的平穏な状況を保ったトリポリでは、こうした宣伝を信じる者も多かった。ホテル従業員の女性は「反カダフィ派に家が壊されるのではないかと心配だった」と語る。
ところがカダフィ氏の牙城バーブ・アジジヤが陥落しトリポリがほぼ制圧下に置かれると、家々の門には反カダフィ派の旗が描かれるようになった。多くの市民は検問所に差しかかると、同派のスローガン「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」を絶叫し、反カダフィであることをアピールする。
そこには、抑圧的なカダフィ体制からの“解放”への喜びと同時に、まだ具体像が見えない新しい支配者から身を守ろうとする追従の心理が見え隠れする。
◆政権の指示で略奪
カダフィ政権軍と反カダフィ派との激戦地となったトリポリ西郊の要衝ザーウィヤ。「近くまで車で乗せていってほしい」と頼む中年男性を、反カダフィ派の部隊指揮官アジェリ・カルームさん(57)が罵倒していた。「お前の息子はカダフィの手先だった。許せない」。カルームさんは拳銃をちらつかせ、男性を追い払った。
トリポリを中心とする北西部は、反カダフィ派が最初に蜂起した北東部ベンガジなどに比べ開発が進んでおり、カダフィ政権支持者も多かったとされる。中には、同政権に指示されて略奪行為を働いたり、カダフィ軍に協力したりする者もおり、恨みを買った。
住民同士のつながりが密接なリビア社会では、こうした噂はまたたく間に広がる。内戦が終結に向かいつつある今も、住民間のしこりと反目は消えていない。
◆第2のイラクに…
リビア全土の掌握を進める国民評議会は、住民に対立の火種が残ることを懸念、「リビアはひとつ」と強調し国民統合の必要性を訴えてはいる。その重要な一歩となるのが、強力な治安・行政機関の創設だ。
だが、自身の兵力を持たないアブドルジャリル議長をはじめとする幹部は、本拠地をトリポリに移すと発表した今も、「安全上の理由」からトリポリ入りできない状況が続いている。
新政権の樹立過程では反カダフィ派同士のポストや利権をめぐる争いも予想され、評議会が全国の都市や部族に誕生した反カダフィ派部隊を統制できなくなるとの見方は根強い。各部隊が一種の軍閥を形成していく可能性もある。
「このままではリビアは第2のイラクになる」。検問所を抜けたイマードさんは声を潜めてこんな懸念を口にした。【9月1日 産経】
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国民同士の関係だけでなく、国内の黒人移民へ報復も行われています。
“リビア人がアフリカからの黒人移民に暴行したり金品を奪うケースが目立っている。身の危険を感じた移民の中には避難民生活を送る人も出始めた。カダフィ派がアフリカから呼び寄せたとされる雇い兵に対する報復と見られるが、アフリカ連合は「罪の無い普通の移民まで巻き込まれている」と反発を強めている。”【8月31日 毎日】
【「仲間の多くは親欧米的な国民評議会に失望している」】
権力を握った者に従う“新しい支配者から身を守ろうとする追従の心理”というのは、民衆の偽らざる姿でもあるでしょう。単に怯えているだけではなく、映画「7人の侍」の百姓たちのように、貧しいと言いながらも米を隠しており、落ち武者狩りで敗残者の鎧兜を奪う・・・という狡猾さも、また民衆の姿でしょう。
人々は“民主化”といった理念で生きているわけではありませんので、混乱の中で何とか生き延びようとする人々をまとめあげていくのは至難の業でもあります。
理念で生きているわけではない・・・とは言いつつも、その困難な作業を進めるうえで、やはり軸となる“理念”が必要になります。
その軸としては、“民主化” のほかに“イスラム”があります。
****リビア首都制圧から1週間 国軍創設 イスラム勢力の影****
反カダフィ派の代表組織、国民評議会が新体制発足に向けて準備を進めている。焦点の一つが「新生リビア」の治安部門を担う国軍創設だ。その主力となるトリポリの反カダフィ派部隊では、戦闘にたけたイスラム勢力の台頭が顕在化しつつある。
トリポリ市街の警備にあたる若い兵士が、思い詰めた目で言った。「国民評議会は、世俗主義的すぎるんじゃないかな」
ハーリド・サイフッラー氏(20)。「祖国」リビアの土を初めて踏んだのはわずか3カ月前、西部ナフーサ山地でカダフィ大佐の軍と戦う「トリポリ旅団」に入隊するためだった。(中略)
「新しいリビアは、よりイスラム的であるべきだよ」。表情も変えずこう話すサイフッラー氏やその仲間が「シャイフ(長)」と尊称で呼び、新政権で主導的な役割を果たすと信じて疑わない人物が、同旅団の司令官アブドルハキーム・ベルハジ氏だ。
66年生まれのベルハジ氏はアフガンでの対ソ連戦を経て、90年代にリビアのイスラム国家化を目指す武装勢力「リビア・イスラム戦闘集団(LIFG)」を指導した。LIFGは、国際テロ組織アルカーイダとの関係も指摘される組織だ。
2004年に逮捕され、09年には獄中で武装闘争路線放棄を宣言、翌年、恩赦を受けメンバー数十人とともに釈放された。LIFGに「転向」を促し、政治改革の一環としてメンバーの大量釈放を主導したのが、カダフィ氏の次男で最有力後継候補といわれたサイフルイスラム氏だった。
しかし今年3月以降、反カダフィ派と政権軍との内戦が激化すると、ベルハジ氏は銃を取り、反カダフィ派部隊とともに西部地域を転戦。8月にはトリポリ旅団を率いて最初に首都へ攻め込み、カダフィ氏の居住区があったバーブ・アジジヤ攻略戦でも「一番槍(やり)」をつけた。
26日にはいち早くトリポリで会見を開き、各部隊の指揮系統の一元化を発表。7月の軍司令官オベイディ氏の暗殺以来、分裂も指摘されてきた反カダフィ派部隊の、最高指揮官に等しい存在にのし上がった。
汎アラブ紙アッシャルクルアウサトなどによると、反カダフィ派には、戦闘経験豊富な元ムジャヒディンやLIFGメンバーが少なくとも800人参加しているとされる。その中心にいるのがベルハジ氏だ。
判事出身のアブドルジャリル議長や経済専門家のジブリル暫定首相ら文民中心の国民評議会は、新政権について、「人民主権」「市民社会の確立」といった理念を表明している。
これに対しベルハジ氏は、目指す政権像を明確にしてはいない。ただ、サイフッラー氏は「ベルハジ氏を含め、仲間の多くは親欧米的な国民評議会に失望している」と説明、イスラム色の濃い政権となるのは「当然」だと強調する。
リビアに軍事介入した欧米諸国は、イスラム勢力の台頭を警戒し、穏健な国民評議会への支援を強化してきた。だが、バーブ・アジジヤ攻略で勢いに乗るトリポリ旅団には最近、入隊希望者が急増、その人数は2千人規模に達するという。
「軍事的なバックグラウンドがなく指導力の弱いアブドルジャリル氏では、軍を統制できない」。国民評議会の下部組織、ザーウィヤ地方評議会の評議員サッディーク・アッラーブ氏(50)は産経新聞の取材にこう述べ、今後、創設される軍と、国民評議会の関係がぎくしゃくする可能性に懸念を示した。【8月30日 産経】
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独裁政権が崩壊した後に、イスラム過激派が台頭するというのは、欧米諸国が懸念しているシナリオです。
組織だった野党勢力も存在しませんので、政治的空白をイスラム過激派が埋めるというのも十分にありうることですが、それはまた新たな強権支配を生むことになります。
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