(スエズ運河で座礁したコンテナ船「エバーギブン」を捉えた衛星写真【3月26日 AFP】 見事に塞いでいますね・・・)
【世界貿易量の12%がストップ】
エジプトは2015年に並行新水路建設と既存水路拡張を含む「新スエズ運河」の運用を開始しています。
****新スエズ運河****
地中海と紅海を結ぶ既存のスエズ運河を拡張する水路である。運河をくぐる6本の新しいトンネルの建設と、両岸の76,000平方キロメートルの土地を国際物流・商業・工業拠点とする計画と同時に打ち出された、当局が100万人の雇用を生み出すと見込んだ計画である。
プロジェクトには、既存の全長164キロメートルの運河に並行する新しい35キロメートルの運河と、既存の運河のうち37キロメートルに渡る区間の掘削と拡張が含まれる。
運河の拡張により、運河の大半の区間で船が同時に双方向に航行することができるようになる。【ウィキペディア】
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正栄汽船(愛媛県今治市)所有の大型コンテナ船がスエズ運河で座礁した事故は、水路が1本しかない箇所で起こったようです。
“座礁した船は正栄汽船が台湾の海運大手、長栄海運に貸し出し中の「エバーギブン」で、正栄汽船によると、満載に近い約1万8千個(20フィート換算)のコンテナを積んでいた。積み荷の総重量は約16万7600トンに達するという。”【3月26日 朝日】 オランダのロッテルダムへ向かう途中でした。
原因については、強風と砂嵐により視界不良となったこと、あおられてまっすぐな針路を保てなくなったことが主因とのこと。
****スエズ運河、コンテナ船座礁の経緯と離礁作業****
エジプト北東部のスエズ運河で巨大コンテナ船が座礁し、往来を遮断している。スエズ運河は世界で最も交通の激しい運河のひとつで、欧州とアジアを最短距離で結ぶ航路だ。
◎座礁の経緯
全長400メートルのコンテナ船「エバーギブン」は23日午前に座礁した。紅海から地中海へと北上する途上で方向がねじれ、運河の両岸の間を斜めにふさぐ形で動けなくなった。
スエズ運河庁によると、強風と砂嵐により視界不良となったこと、あおられてまっすぐな針路を保てなくなったことが主因とみられる。座礁当時、エジプトは強風に見舞われており、地中海と紅海で複数の港が閉鎖に追い込まれていた。
船舶はスエズ運河に入ると、通常は船団を組んで進む。航行は1、2隻のタグボートに補助される形になる。時に座礁が起こるが、通常はすぐに離礁し、他の船舶の運航にはほとんど影響を及ぼさない。
◎往来が遮断された理由
エバーギブンは、水路が1本しかない運河最南端部分をふさいだ。このため、他の船舶は一切通行できない。
エジプトは2015年、35キロメートル区間で第2水路を開通し、双方向の同時通行ができるようにした。ただこの対象区域は、グレートビター湖以北の、湖にかけて河幅が広がる区間。
運河庁は24日、エバーギブンがすぐに離礁すると見込んで運河北端のポート・サイドから船団が運河に入るのを許した。しかし、こうした船舶はグレートビター湖の待機水域で足止めとなり、いかりを下ろしている。
◎離礁のための作業
少なくともタグボート8隻が船を岸から引き離すためのけん引などを試みてきた。エバーギブンのウインチ(巻き揚げ機)も動かしている。このほか掘削機が、運河東岸にめりこんでいる船首付近の土の除去を行っている。運河庁は海底の土砂を浚渫(しゅんせつ)する船を2隻差し向けた。
船を浮かせようと、複数の地元海事当局筋によれば、船体を安定させる目的で積まれている「バラスト水」を抜く作業も行われた。
◎その他の選択肢
エバーギブンの船主会社は日本サルヴェージ社とオランダのシュミット・サルベージ社から2つの専門チームを呼んでいる。船体を浮かせるための「より有効な計画の立案」を仰ぐためだ。
シュミット・サルベージの親会社Boskalisの広報担当者は、タグボートに加えて複数の船舶を使う可能性があるが、コンテナ船にダメージを与えずにどれほどの力をかけられるかについては計算が必要だと述べた。
この他の選択肢としては、船底の下の海底から砂をすくい出すことや、貨物を降ろして重量を軽くすることが考えられる。ただ複数の海運筋は、コンテナ船の規模と位置を考えると、貨物を降ろすのは長期的かつ複雑な作業になる可能性があると話している。【3月26日 ロイター】
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“スエズ運河は世界の貿易量の12%が通過するとされ、1日に扱う貨物の総額は約100億ドル(約1兆1000億円)に上るという。”【3月26日 CNN】ということで、たった1隻のコンテナ船が世界貿易の12%を止めてしまったという、とんでもなく甚大な影響をもたらしています。
****スエズ運河の座礁、五輪プール最大8杯分の砂の除去必要****
世界の海上交通の要衝、エジプトのスエズ運河で大型のコンテナ船が座礁して運河をふさぎ、船舶が通行できなくなっている問題で、運河当局はコンテナ船を離礁させるのに最大で2万立方メートルの砂を除去する必要があると明らかにした。(中略)
運河当局が25日に発表したところによると、これらの浚渫船は1万5000〜2万立方メートルの泥や砂を除去し、12〜16メートルの深さを確保する必要がある。そうすれば船を離礁させることができる。オリンピックで使用する競泳プールの約8杯分の砂を除去する計算だ。
エバーギブンの船舶管理会社は声明で、すでに作業中の浚渫船に加え、特殊なポンプ浚渫船1隻も現場に到着し、間もなく作業を開始すると説明した。この浚渫船は1時間に2000立方メートルの砂や泥を除去できるという。
運河当局の関係者は24日、CNNの取材に対し、大型コンテナ船を再浮上させることは「技術的に非常に困難」で、数日かかる可能性があると述べた。
エバーギブンを運航する長栄海運によると、日本やオランダのサルベージ会社に所属する経験豊かな専門チームも支援に加わることになっている。
ただ航路再開まで日数がかかれば、貿易を止められる企業や国がその分損失を被ることになる。スエズ運河は世界の貿易量の12%が通過するとされ、1日に扱う貨物の総額は約100億ドル(約1兆1000億円)に上るという。
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一体この巨額の損失を誰が負担するのでしょうか?保険でしょうか?
****「賠償責任は船主に」 コンテナ船運航の台湾企業―スエズ運河座礁****
エジプトのスエズ運河で大型コンテナ船が座礁している問題で、この船を運航する台湾の長栄海運は25日、座礁により発生が予想される賠償責任は、船のオーナーが負うなどとする見解を表明した。
コンテナ船は愛媛県今治市の正栄汽船が所有しており、長栄海運は声明で「船の復旧作業や第三者に対する(賠償)責任に関する費用、船体の損傷などの責任は船主が負う」と強調した。【3月25日 時事】
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所有者の正栄汽船は記者会見で“世界の交通の要衝である運河の遮断で、船主が巨額の賠償責任を負う可能性については「国際法とエジプトの国内法の問題となる。法律にのっとって対応する」と答えた。”【3月26日 朝日】
下落傾向にあった原油先物価格にも影響が出ていますが、コロナ禍の需要減少で需給が軟弱なために、すぐに価格が暴騰するという状況でもないようです。
****原油先物は反発、スエズ運河遮断の長期化懸念で****
アジア時間の原油先物は反発している。世界の海上輸送の要衝であるエジプトのスエズ運河で座礁し、船舶の航行を妨げている大型コンテナ船の移動作業が数週間続き、供給を圧迫する可能性があるとの見方が出ていることが背景。(中略)
日産証券のアナリストは「スエズ運河の航行遮断が数週間続く可能性があるとの見方から、原油市場で供給逼迫懸念が高まっている」と指摘。その上で、「欧州などでのロックダウン(都市封鎖)により、燃料需要の回復が鈍化するとの懸念が残っており、上値は抑制される見込みだ」と語った。
欧州諸国では新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するための規制を延長する動きが出ており、燃料需要の低下につながるとみられる。【3月26日 ロイター】
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【27日の大潮が離礁のチャンス 長期化の可能性も】
いずれにしても、回復が1日遅れるごとに損失・影響は増え続けます。
明日27日が大潮で離礁のチャンスとか。
****巨船の離礁「緻密な計算の作業」 27日が大潮、荷のバランスも鍵****
エジプト・スエズ運河の航路をふさいだコンテナ船座礁は、400メートルある船の全長が運河の横幅を上回り、離礁を難しくさせている。当局は発生から3日となる26日も作業を継続。スエズ運河庁の元高官は地元メディアに「潮位や積み荷のバランスの緻密な計算が必要だ」と指摘した。(中略)
船舶ブローカーのアナリストは「現場は27日が大潮で、離礁の最大チャンス。航路を正常化できなければ長期化する」と予測した。【3月26日 共同】
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【ロシア 迂回ルートとして北極海航路をPR】
もっとも、離礁してすぐに正常復帰ということでもないようです。
****コンテナ船「27日離礁目指す」=運航正常化には時間か―スエズ運河****
エジプトのスエズ運河で起きた大型コンテナ船の座礁事故で、船を所有する正栄汽船(愛媛県今治市)は26日、「日本時間27日夜の離礁」を目指して作業を続けていることを明らかにした。
ただ、離礁後も船のえい航や航行に手間取る恐れがあり、全面的な運航正常化にはさらに時間を要する恐れがある。
当局は運河の通航を一時中断して再開を急いでいる。だが、一部の船舶は事態長期化を見越し、スエズ通航を断念してアフリカ南端の喜望峰を経由する迂回(うかい)ルートを取り始めたもようで、輸送網の混乱が広がっている。(後略)【3月26日 時事】
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面白いと言ったら怒られますが、喜望峰を経由する迂回ルートの他にも別ルートが。
****スエズ運河の「代替ルート」 ロシア、北極海航路をPR****
ロシアは25日、エジプトのスエズ運河で大型コンテナ船が座礁し、航路がふさがれている機会を捉えて、「代替ルート」として北極海航路をアピールした。
日本企業が所有するパナマ船籍のコンテナ船「エバーギブン」は23日、スエズ運河で砂嵐に巻き込まれて座礁。地中海と紅海を結び、世界の海上貿易の10%以上を占める航路が遮断された。
ロシア国営エネルギー企業ロスアトムは25日、スエズ運河航路の代替ルートとして北極海航路を検討すべきだと主張した。
ロシアは、北極海航路の開発に多額の投資を行ってきた。同航路を利用すれば、アジアまでの航海日数を従来のスエズ運河航路よりも短縮できる。
気候変動による氷の減少を受けて、ロシア政府は北極海航路を使って石油やガスの輸出を計画している。
ロシアの気象当局は25日、北極海航路の2020年の海氷量は「過去最低水準」だったと発表した。夏の終わりには海氷がほぼなくなる年もあるという。 【3月26日 AFP】AFPBB News
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そういう手もありましたね。
ただ、気を付けないと、北極海航路は氷に閉じ込められる危険もあるのでは。温暖化で利用が可能になったとは言え、北極海航路は原子力砕氷船に先導されて航行する必要があり、砕氷船なしでの航行は試験的でニュースになるほどでした。その分コストもかかります。
“コペンハーゲン・ビジネス・スクールが2016年に発表した報告によると、現状と同じ速度で北極海の氷が解けていけば、北極海航路は2040年ごろに経済的に利用可能となる。”【2018年8月23日 BBC】
現状はどんな具合なんでしょうか?
そう言えば、スエズ運河と並ぶ大動脈のパナマ運河に対抗して、ニカラグアが中国資本によって新運河を建設するという話もありましたが・・・
2018年には資金不足で中止になったとか、2019年にはアメリカの外国資産管理局(OFAC)が運河計画に関わったニカラグア企業3社を、ニカラグア・オルテガ政権のマネーロンダリングと認定し経済制裁を行った・・・といった話も。
“ほとんど建設されぬまま計画は事実上放棄されている”【ウィキペディア】とも。
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