孤帆の遠影碧空に尽き

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食料品価格高騰  その元凶と非難されるロシア 食料船の人道回廊提供の用意表明 インドの輸出制限

2022-05-25 22:24:37 | 食糧・飢餓
(ウクライナ黒海沿岸の港湾都市オデーサの埠頭近くに立つ倉庫やサイロ=3月17日撮影【5月7日 CNN】)

【食料供給を「武器」として利用していると非難されるロシア 人道回廊提供の用意を表明】
****ロシア、食料船のウクライナ出港で人道回廊提供の用意****
ロシア政府は、食料を積んだ船がウクライナを出発するための人道回廊を提供する用意があると明らかにした。インタファクス通信が25日、ルデンコ外務次官の話として伝えた。(後略)【5月25日 ロイター】
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食料品価格の高騰で、世界の貧困層は飢えの危機にさらされ、一部の国では政情も不安定化している・・・その食料品価格高騰を加速させているのが穀物輸出大国ウクライナでの戦争、ロシアへの制裁である・・・といった話は連日報じられています。

もともと食料品価格は昨年末段階から、天候関連の要因やコロナ禍からの回復需要急増などで、その高騰が懸念される状態にありましたが(価格上昇自体はその前から)、今年2月末のウクライナ戦争によって危機感は更に大きなものとなっています。

****世界で食料品の価格が高騰 主な原因と今後の展望まとめ****
世界で食糧価格が高騰を続けている。主な原因と今後の見通しを整理した。

なぜ食料価格は上昇しているのか
グローバルな食料価格が上昇を始めたのは2020年半ば、各国企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのために活動を停止し、サプライチェーンが圧迫されたことによるものだ。

農産物をスーパーマーケットまで運ぶトラック輸送が利用できなくなったため、農家は牛乳を廃棄し、果実や野菜は腐るままとなり、消費者が食料の備蓄に走ったことで価格は高騰した。ロックダウンによる移動制限で移民労働者が不足したことも、世界的な収穫低下につながった。

その後も、世界各地で主要農産物に問題が発生した。大豆輸出量で世界首位のブラジルは、2021年に深刻な干ばつに襲われた。中国における今年の小麦収穫量は、これまででも最悪の部類に入る。

パンデミックの中で食料安全保障への関心が高まったことで、将来的な欠乏に備えて主要穀物の備蓄を積み上げた国もあり、グローバル市場への供給が絞られた。

2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、食料価格の展望を急激に悪化させた。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、食料価格は2月に過去最高を記録し、3月にはさらに記録を更新した。ロシアとウクライナを合わせた小麦と大麦の生産量は世界の3分の1近くに達し、調理用のひまわり油の輸出量では世界の3分の2を占めている。ウクライナはトウモロコシ輸出量で世界第4位だ。

今回の紛争によりウクライナの港湾や農業インフラが打撃を受け、今後数年にわたり、同国の農業生産が制約される可能性は高い。
一部のバイヤーは、西側諸国による制裁を理由に、ロシア産の穀物の購入を控えている。

インドネシアは4月末、調理用油の国内供給を確保するため、パーム油の輸出をほぼ全面的に禁止した。ケーキからマーガリンに至る食品全般で使われている食用油に関して世界最大の生産国からの供給が途絶えたことになる。
(筆者注:インドネシアのジョコ大統領は5月19日、輸出を禁止して3週間になるパーム油を23日から輸出できるようにすると発表しています。)

食料価格のうち最も上昇しているのは何か
パンデミックの期間を通じて、植物油の価格高騰が全般的な食料コストの上昇につながった。また、ウクライナでの戦争によりトウモロコシと小麦の出荷が制約された結果として、3月には穀物価格もやはり過去最高を記録した。

FAOによれば、4月には乳製品と食肉の価格も過去最高に達した。タンパク源へのグローバルな需要増大が続いており、またトウモロコシと大豆を中心とする家畜飼料の価格が高止まりしていることを反映している。さらに、欧州と北米における鳥インフルエンザの発生により、鶏卵や鶏肉の価格にも影響が出ている。

米国における3月のインフレ率を見ると、食肉、鶏肉、魚介類、鶏卵の指数は1年前に比べ14%、牛肉は16%上昇している。

食料価格はいつ下がるか
何とも言えない。農業生産は天候など予測困難な要因に左右されるからだ。国連のグテレス事務総長は5月初め、ウクライナの農業生産と、ロシア産食料と肥料の世界市場への供給が回復しないかぎり、グローバルな食料安全保障の問題は解決できないと述べている。

世界銀行は、2022年の小麦価格は40%以上上昇する可能性があると予測している。世銀では2023年には前年に比べ農産物価格が下落すると見ているが、アルゼンチンやブラジル、米国からの穀物供給が増大することが前提であり、これについては何の保証もない。

肥料の主要生産国であるロシアとその同盟国であるベラルーシからの買い控えの影響で肥料の価格が急騰しているため、農家が適切な量の施肥をためらう可能性がある。これは収量の減少や生産の低下につながり、危機の長期化を招くかもしれない。地球温暖化によって異常気象が以前よりも一般化しつつあり、これもまた、穀物生産にとってリスクとなっている。

最も影響を受けているのは
フィッチ・レーティングスによれば、米国では3月、インフレに占める食料価格のシェアが最大となった。これは1981年以来初めてのことだ。4月、英国における店頭価格も、過去10年以上見られなかったペースで上昇した。

だが食料価格の上昇により最大の影響を受けているのは、所得に占める食費の比率が先進国より高い開発途上国の住民だ。
国連と欧州連合が共同で設立した食料危機対策グローバルネットワークは年次報告の中で、ロシアによるウクライナ侵攻はグローバルな食料安全保障に深刻なリスクとなっていると指摘。食糧危機に直面している国として、特にアフガニスタン、エチオピア、ハイチ、ソマリア、南スーダン、シリア、イエメンといった国を挙げている。【5月17日 Newsweek】
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こうした状況で、国連や欧米から危機の原因として“標的”とされているのが、ロシアによるウクライナからの穀物輸出を封じる措置です。

****国連事務総長、ロシアにウクライナからの安全な穀物輸出認めるよう訴え****
国連のグテレス事務総長は18日、ブリンケン米国務長官が国連本部で開いた食料安全保障に関する閣僚級会議に出席し、ロシアに対してウクライナからの穀物輸出の安全を確保し、ロシア産食料・肥料への「完全かつ無制限のアクセス」を認めるよう改めて訴えた。

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、穀物や食用油、燃料、肥料の国際価格が高騰。グテレス氏は、これが貧困国における食料、エネルギー、経済の危機を悪化させると警告し、何千万人もが食料不足とその後の栄養不良、飢饉に陥る状態が何年も続きかねないと懸念を示した。

こうした中でグテレス氏は、ウクライナ産穀物の輸出再開に向けてロシア、ウクライナ、トルコ、米国、欧州連合(EU)と緊密に連絡しているとした上で「希望を持っているが、道のりはなお遠い。安全保障と経済、金融の諸要素が複雑に絡んでいるので、全ての関係者の善意こそが求められる」と語った。

ウクライナはロシアの侵攻を受ける前まで、黒海に面した港湾から輸出品を積み出していたが、現在は鉄道ないしドナウ川の小さな港しか利用できなくなっている。

国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長はロシアのプーチン大統領に向けて「少しでも良心があるなら、(ウクライナの)港湾をどうか開放してほしい。これはウクライナの問題ではなく、われわれが話をしている間にも、世界でも最も貧しい人々が飢餓の瀬戸際にあるということだ」とメッセージを送った。

ロシアとウクライナからの小麦供給量は合計で世界全体の3分の1近くに上る。ウクライナはトウモロコシ、大麦、ひまわり油などの主要輸出国で、ロシアと同盟国ベラルーシは肥料となるカリの輸出が世界の4割を超えている。

ブリンケン氏も、ロシアはウクライナが陸上ないし海上から食料その他重要物資を安全に輸送できるような「回廊」を設置すべきだと指摘。「目下ウクライナのサイロには推定で2200万トンの穀物があり、国外に持ち出されさえすれば、それを必要とする人々に直ちに行き渡ることになる」と述べた。【5月19日 ロイター】
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国連安保理でアメリカとロシアが激しく応酬する場面も。

****米国務長官「ロシアが食料を武器に…」強く批判****
ロシアによるウクライナ侵攻で食料危機の深刻化が懸念される中、アメリカのブリンケン国務長官は19日、「ロシアが食料を武器として使っている」と強く批判しました。

ブリンケン国務長官「ロシアは食料を武器として使用することで、ウクライナの人々の精神を破壊することができると考えている」

国連の安全保障理事会の会合でアメリカのブリンケン国務長官は、侵攻の影響でウクライナからの穀物の輸出が滞っていることについて、「ロシア軍が数百万人のウクライナ人と、世界の何百万人の人々への食料供給を人質に取っている」と強く批判しました。

アメリカは緊急食料支援として2億1500万ドル、日本円でおよそ275億円を追加拠出すると表明しています。

一方、ロシアのネベンジャ国連大使は「全くの誤りだ」と反発し、西側諸国によるロシアへの制裁が危機を深刻化させていると主張しました。【5月20日 日テレNEWS24】
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EUもアメリカと歩調をそろえてロシアを非難しています。

****ロシアは食料を「武器」に、飢餓回避に協議必要=欧州委員長****
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は24日、ロシアはエネルギー供給と同様に食料供給を「武器」として利用しているとの考えを示し、ロシア軍による海上封鎖でウクライナから輸出できなくなっている小麦の輸送を可能にするよう、ロシアとの協議を呼びかけた。

フォンデアライエン委員長は世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で「ロシア軍はクライナで穀物や機械を没収しているほか、黒海ではロシア軍の艦船が小麦やヒマワリの種を積載したウクライナの船舶の航行を阻んでいる」と指摘。世界的な協力こそが「ロシアの脅迫に対する解毒剤」になると述べた。(後略)【5月25日 ロイター】
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ウクライナへの武器支援で黒海封鎖を打破しようとの動きもありますが、いろいろ難しい事情も。

****米が露の黒海封鎖打破へ、ウクライナに対艦ミサイル供与=関係者****
バイデン米政権は、ウクライナに新型の対艦ミサイルを供与し、ロシアの黒海封鎖を打ち破る手助けをすることを検討している。複数の関係者が明らかにした。(中略)

米国の政府高官や元高官、議会関係者に話を聞くと、ウクライナに対してより長射程で性能が強力な兵器を送る上では幾つかのハードルがある。戦争のエスカレートを巡る懸念はもちろんとして、兵器を扱うため長期の訓練が必要なことや、保守管理の難しさ、最新兵器がロシアの手にわたってしまう恐れなどが挙げられる。

そうした中で3人の米政府高官と2人の議会関係者は、米ボーイングの「ハープーン」やノルウェー企業と米レイセオンの「NSM」の2種類の対艦ミサイルをウクライナに直接供与、もしくはこのミサイルを保有する欧州の同盟国から供与する案が活発に検討されていると述べた。(中略)

米政府高官の話では、自分たちからハープーンをウクライナに提供しても良いという国は何カ国か存在するが、こと自分たちが保有するハープーンがロシア艦艇を撃沈した場合の報復を恐れ、真っ先に名乗り出たがらないという事情もある。それでも、保有数の多いある国がまずハープーンをウクライナに送ることを検討中で、この国が供与を確約すれば他国も追随するかもしれないという。(後略)【5月20日 ロイター】
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欧米諸国による黒海の封鎖を突破する実力行使を求める声も上がっていますが、アメリカなどが、ロシアとの戦争になりかねないこういうリスクをとるとは思えません。

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ジャック・キーン退役陸軍大将は、外交がうまくいかない場合、米国が主導する国際的な食料・商船護衛作戦が必要になるかもしれないと述べている。これは、人道的作戦として計画され、そう周知されるのが最善だ。

その任務は、国際的な軍艦の連合体を結成し、商船がオデッサ港と黒海から安全に出られるよう護衛することだ。それは、プーチン氏がNATOからの新たな挑発だと主張するのを可能にするようなNATOのプロジェクトではなく、有志連合として機能するものがいいだろう。【5月25日 【社説】ウクライナ穀物、封鎖突破の方法は WSJ】
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冒頭記事は、このような中でのもので、ロシアも食料危機回避を求める国際世論、その危機の原因として集中砲火を浴びるリスクに一定に配慮したものでしょうか。

ただ、停戦交渉にしろ何にしろ、“話”として出ることと、実際に実行されることは別物。
実際にロシアが黒海港湾からの輸出を認めるような措置に出るのかどうかはまだわかりません。

【インド 自国ファーストの姿勢は食糧問題でも 小麦・砂糖の輸出制限】
ウクライナ問題で、ロシアほどではないにしても、欧米からの評判が芳しくないのがインド。
対ロシア制裁に参加せず、逆に安くなった石油を大量に買い付けており、ロシアの制裁逃れを助けているとも。

インドの「自国ファースト」の姿勢は食糧問題でも。

****小麦輸出一時停止のインド、輸送が混乱****
インドが先週、インフレや食糧安保をめぐる懸念から小麦の輸出を突然一時停止したことを受けて、17日には同国の主要港で多数のトラックや船が小麦を積んだまま行き場を失うなど、輸送が混乱した。
 
世界第2位の小麦生産国であるインドは13日、輸出業者が政府の許可なく新たに輸出契約を結ぶことを禁止する命令を出した。
 
この突然の発表を受け、グジャラート州のカンドラ港は大混乱に陥った。港の運営会社によると、トラック約4000台が構外で列をつくっている。小麦の積載が一部終わった船4隻も港に停泊したままだ。積載量は計8万トン前後とされる。(中略)
 
今回の輸出停止は、ウクライナ侵攻でインフレが進む中、保護貿易主義を危惧する先進7か国から批判を受けている。
 
3月に記録的な熱波に見舞われたインドでは、小麦生産にも影響が出ており、政府は減産を予想している。また、小麦価格は世界的に高騰している。 【5月17日 AFP】
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****インド、砂糖も輸出制限 小麦に続き****
インド政府は24日、今年度の砂糖輸出量を1000万トンに制限すると発表した。国内供給の確保とインフレの抑制が狙い。同国は今月半ばに小麦の輸出停止を発表したばかり。
 
インドは世界最大の砂糖生産国で、輸出はブラジルに次ぎ世界2位。
 
食料省は、9月に終わる今販売年度の輸出量を1000万トンに制限すると発表。約900万トン分の契約が既に結ばれており、うち780万トンは出荷済み。今年度の輸出量は過去最高になるとみられる。
 
インドは小麦についても、インフレと食糧安全保障を理由に、政府の許可なしに新規に輸出することを禁止している。今年は3月の気温が観測史上最高を記録し、減産が見込まれるためとしている。 【5月25日 AFP】
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インドが対ロシア制裁に参加しないのは、兵器のロシア依存など、これまでのロシアとの緊密な関係もあってのことですが、そうした事以外に、石油にしても食料にしても、インドと欧米では事情が異なることもあっての対応でしょう。

未だ飢餓ライン上の絶対的貧困を多数抱えるインドの場合、燃料・食料の僅かな価格変化も市民生活に大きく影響します。その程度は欧米とは比べ物にならない・・・そういう状況では「きれいごと」ではなく、国民生活を安定させる施策が何より重視される・・・・というのがモディ首相の立場でしょう。

ただ、輸出制限については、各国が同様対応をとれば、結果的にインドを含めた世界中の人々が苦しむことにもなります。

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