
(スー・チー氏の自宅を訪れ、演説の前に頬にキスするオバマ大統領 TVで観ると、ちょっと恥ずかしそうなスー・チー氏に大統領が強引に迫ったような感じもありましたが、今回の訪問自体にスー・チー氏は懸念を持っており、オバマ大統領がそれを押し切っての訪問実現となっています。 写真は“11月20日 東亜日報”より http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2012112074858)
【アメリカ:制裁解除 ミャンマー:ロヒンギャへの市民権、政治犯釈放】
オバマ大統領は、アメリカの大統領としては初めてミャンマーを訪問し、テイン・セイン大統領のもとでの民主化を評価し、更にこれを後押しする姿勢を明確に打ち出しています。
アメリカは大統領のミャンマー訪問に先立ち、これまでミャンマーに課してきた経済制裁措置を事実上解除することを発表しています。
****米国:ミャンマー制裁、大半を解除****
米国務・財務両省は16日、03年から発動してきたミャンマー産品輸入禁止の制裁措置について大半を解除したと発表した。オバマ大統領が19日に米大統領として初めてミャンマーを訪問する前に、ミャンマー政府による民主化へ向けた改革努力を評価するとともに、一層の民主化進展を促す狙いがある。これにより、米国がミャンマーに科していた主要な経済制裁は事実上すべて解除された。
両省の声明によると、今回の制裁解除は、ミャンマー政府が政治囚釈放や少数民族との和解など一連の改革に取り組んできたことを評価した措置。ミャンマー国内で採掘されたルビーと翡翠(ひすい)に関しては、同国軍関係者の資金源になっているとみて、引き続き米国への輸入を禁止する。声明はミャンマー政府に対し、北朝鮮との関係断絶や少数民族との更なる和解、腐敗との闘いなど一層の改革を求めている。
03年に発動されたミャンマー産品の輸入禁止は、同国の主力製造業の縫製産業に打撃を与えることを狙った制裁措置。発動の結果、制裁発動前年の02年に総額4億3900万ドル(約350億円)あったミャンマーの衣料品輸出は、米国への出荷停止で半減した。
ミャンマー政府の改革を評価するオバマ政権は今年に入って段階的に制裁を解除し、7月には15年ぶりに米企業の対ミャンマー新規投資を解禁。ミャンマー産品の輸入禁止については、クリントン国務長官が今年9月、国連総会出席のため訪米したミャンマーのテインセイン大統領に対し、輸入解禁へ向けた手続きを開始すると伝えていた。【11月17日 毎日】
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一方、ミャンマー側も、人権問題として国際社会から注目を集めている、西部ラカイン州で仏教徒と衝突しているイスラム教徒で不法移民と見なされているロヒンギャ族について、市民権を付与することを表明しています。
****ミャンマー大統領、少数民族に市民権表明****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は国連の潘基文事務総長に書簡を送り、ミャンマー国内で「移民」として扱われ差別を受けているイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族に対し、市民権を付与するなど社会的地位の向上に努める考えを表明した。【11月18日 産経】
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また、いまだ多くの政治犯が拘束されているとの問題についても、15日に続いて19日にも受刑者への恩赦を発表しています。このなかには多くの政治犯が含まれていると見られています。
****さらに66人に恩赦=ミャンマー****
19日付のミャンマー国営紙は、テイン・セイン大統領が受刑者66人に恩赦を与えたと報じた。同日のオバマ米大統領のヤンゴン訪問に合わせ、民主化進展を印象付ける狙いがあるとみられる。テイン・セイン大統領は15日に、452人に恩赦を出したばかり。【11月19日 時事】
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【「今日から両国の新しい一章が始まる」】
このように、アメリカ・ミャンマー双方が舞台を整えたうえでのオバマ大統領訪問でしたが、予定通り両国の接近をアピールする場となりました。
****改革支援「約束果たす」 オバマ大統領ミャンマー訪問****
19日、米国の大統領としてミャンマーを初訪問したオバマ大統領は、テインセイン大統領らと会談し、動き出したばかりの民主化を後押しする姿勢をアピールした。ミャンマー側も異例の厚遇ぶりで、歴史的訪問に応えた。
■民主化プロセスを評価
「オバマ! オバマ!」。アウンサンスーチー氏の自宅前の道路脇を埋め尽くした群衆は、オバマ氏の車列が来ると大歓声を送った。オバマ氏は会談後、「今日から両国の新しい一章が始まる」と宣言。スーチー氏に肩を寄せた。
オバマ氏はヤンゴン大学での講演でも「私は就任当時、恐怖で支配をする外国の政府に『握った拳を緩めるならば、手をさしのべる』と言った。今日、その約束を果たすためにここに来た」と聴衆に語りかけた。
その言葉通り、オバマ氏はテインセイン大統領との会談で、今後2年間で1億7千万ドル(約138億円)の援助を表明するなど、改革支援の姿勢を鮮明にした。
テインセイン大統領との会談後には「大統領が始めたミャンマーの民主化と経済改革のプロセスは、驚くべき発展の機会をもたらすことができる」と評価。
大統領として初めて、米政府が原則として使ってきた「ビルマ」ではなく、「ミャンマー」と呼んだ。経済面でも最後の制裁措置だったミャンマー製品の禁輸を原則解除し、「ゴールドラッシュ」といわれる米企業の対ミャンマー進出熱を後押しした。
ただ、米国内では「少数民族問題に十分取り組んでいない」(アムネスティ・インターナショナル幹部)といった懸念から、大統領の訪問は時期尚早との批判も根強かった。スーチー氏も「変革のもっとも困難な時期は成功が見えてきたときだ。成功の蜃気楼(しんきろう)に惑わされないよう、十分気をつけなければいけない」と拙速を避けるよう釘を刺した。
今回の訪問は、経済制裁をしている間に中国が影響力を深めたことに対する、巻き返しの側面もある。米国は、毎年タイで実施する多国間軍事演習「コブラゴールド」にミャンマーのオブザーバー参加を認めるなど、「軍事面でもお互いに関与していく」(ホワイトハウス高官)姿勢だ。【11月20日 朝日】
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【“成功の蜃気楼”を危惧するスー・チー氏 オバマ外交の「成功例」「アメリカと中国の違い」をアピールしたいオバマ大統領】
上記記事にもあるように、動き出したミャンマー民主化がこのまま順調に進むかどうかについては、将来を懸念する向きもあり、アメリカの制裁解除などにももっと慎重を期すべきとの指摘もあります。
民主化運動指導者スー・チー氏も、ミャンマー政府に一層の改革を迫る「カード」が失われる・・・との懸念から、オバマ大統領のこの時期でのミャンマー訪問には反対の立場でした。
しかし、国際協調主義のオバマ外交の「成功例」をアピールし、更に、民主化支援で「アメリカと中国の違い」を国際社会にアピールしたいオバマ大統領側がスー・チー氏を説得して訪問を実現したとのことです。
****オバマ大統領:協調主義の成果示す…ミャンマー訪問*****
再選を果たしたオバマ大統領にとって、ミャンマーとの関係改善は、政権1期目の発足時に掲げた「敵」とも対話する国際協調主義の格好の「成功例」だ。
大統領は今回の訪問で外交方針の正当性を印象付ける一方、経済・軍事分野で覇権を拡大する中国をにらみ、米国が「民主化支援」を通じて国際秩序形成の主導権を握り続ける決意を明示した。
「米国は市民の権利と国際法を順守するならば、どの国とも友人になる」。オバマ大統領は19日、ヤンゴン大学での演説で、米国がミャンマーの民主化支援に関与し続ける決意を強調した。
大統領の訪問を巡っては、改革が不十分な現時点では「時期尚早」との懸念があった。外交関係者によると、訪問に当初反対したのは、最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウンサンスーチー氏。オバマ政権は経済制裁をほぼ全て解除しており、大統領訪問で友好関係が強化されれば、ミャンマー政府に一層の改革を迫る「カード」が失われる可能性があるからだ。
スーチー氏は先月、米側に「反対」の考えを伝達。在米ミャンマー人の民主化運動組織「ビルマのための米国キャンペーン」のアウンディン代表は今月7日、大統領に訪問を見合わせるよう書簡を送ったが、オバマ政権はスーチー氏を説得して訪問に突き進んだ。
その代わり、大統領のミャンマー滞在時間はわずか約6時間。民主化勢力が「軍政の象徴」として嫌う首都ネピドーは訪問せず、ミャンマー首脳とは食事せずに米大使館で米政府関係者と昼食をとるなどして、友好関係の演出を控えた。
訪問先のタイで18日会見したオバマ大統領は民主化について「お墨付きを与えたわけではない」とミャンマー政府に一層の改革を求めた。
オバマ政権が訪問にこだわった背景にはインド洋と中国に挟まれ地政学的要衝に位置するミャンマーへの影響力を確保し、民主化支援で「米国と中国の違い」を国際社会にアピールする狙いがある。
オバマ政権のアジア重視戦略について、ドニロン米大統領補佐官は「単なる米軍の配置の問題ではなく、人々の自由と尊厳を支持することを含む政治経済的な関与だ」と解説する。
一党独裁の中国は経済・軍事面で大国になったが、民主化支援はできない。ミャンマー訪問を通じて中国の最大の弱点を突き、民主主義を共有する米主導の秩序の優位を世界に示そうと狙った。【11月19日 毎日】
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ミャンマーは中国にとって、マラッカ海峡を通らず陸路でインド洋に抜けることができるという重要な地政学的意味を持つ国であり、これまでの経済制裁による欧米の影響力の空白を埋める形で、その影響力を拡大してきました。
今回のオバマ大統領訪問は、ミャンマーを中国の影響から取り戻すことをも意味しています。
****オバマ米大統領 「親中」一角切り崩す ミャンマー訪問 急速な改善、異論も****
オバマ米大統領による初のミャンマー訪問は、民主化支援をテコに東南アジア域内の中国寄り国家の一角を切り崩す一歩となった。米政府はミャンマーとの軍事協力も進める考えだが、政治犯の完全釈放に至っていないことなどを理由に、米国内では急な関係改善への批判もつきまとっている。
◆地政学上の要衝
「人間の(精神の)自由は否定できない」
オバマ大統領は、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏との会談後、記者会見でこう述べ、ミャンマー政府による一層の民主化努力に期待感を示した。
オバマ大統領が、基本的人権や言論の自由といった普遍的な価値観の共有を迫り、民主化支援にテコ入れするのは、域内で軍事的・経済的に影響力を増す中国から、地政学上の要衝にあるミャンマーの切り離しを図る側面がある。
その意味では、大統領の初訪問を実現し、民主化支援を確約できたことは「米ミャンマー関係を進展させる一歩」(オバマ氏)だけでなく、米国のより強い影響下に置く道筋をつける成果を挙げたといえる。
中国にとって国境を接するミャンマーは、マラッカ海峡を通らず陸路でインド洋に抜けることができる位置にある。
米エネルギー情報局によると、中国は原油の純輸入国に転じた1990年代から、中東からの原油輸入をマラッカ海峡を通らず、インド洋からミャンマーの内陸部を経由するルートの開拓を進めてきた。
中国が、政治犯の釈放や民主化を求めて経済制裁を続ける欧米各国と一線を画し、港湾などインフラ整備を通じてミャンマーの軍事政権との関係を強化してきたのもそのためだ。
これに対し、米政府高官は、経済だけでなく軍事面でもミャンマーとの関係の強化を明言。米国はタイと合同で毎年、アジア最大規模の多国間合同軍事演習「コブラゴールド」を実施しているが、来年からミャンマーをオブザーバー参加させる方向だ。
ただ、オバマ大統領自身が「民主化は緒についたばかりで道のりは長い」という通り、ミャンマーがどこまで本気で民主化を進めるかは見極めが必要。北朝鮮との軍事協力断絶を表明しているが、これも「注視していく」(米政府高官)立場は不変だ。在米の亡命ミャンマー人や米議会には関係改善の拙速を危ぶむ声もくすぶっており、民主化支援のあり方も課題となっている。【11月20日 産経】
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【ミャンマー:国際社会に復帰をアピール】
ミャンマーにとっては、「孤立していたミャンマーが国際社会に復帰したことを決定づける」意味合いを持っており、アメリカの意向にも最大限に配慮しています。
****米の意向、最大限尊重 ****
ミャンマー政府は前例のない対応でオバマ氏を迎えた。テインセイン氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議のために訪れていたカンボジア・プノンペンから18日夜、いったん帰国。オバマ氏との会談後、すぐにプノンペンにとんぼ返りした。
しかも、首脳会談は首都ネピドーではなく最大都市ヤンゴンで行われた。オバマ氏が講演をしたヤンゴン大学は独立運動や1988年の民主化運動で中心となった学生運動の拠点で、ミャンマーの「民主主義の象徴」。米側の意向を最大限尊重したとみられる。
さらにテインセイン氏は16日に大半が政治犯とみられる66人に恩赦を与えた。米側が懸念する少数民族ロヒンギャ族の無国籍問題についても国連に解決姿勢を示した。
ミャンマー側がそこまでしてオバマ氏を迎えたのは、米大統領の訪問が「孤立していたミャンマーが国際社会に復帰したことを決定づける」(企業家フラマウンスエ氏)からだ。ミャンマー大統領府高官は取材に「米大統領選後、最初の訪問先の一つになったのは光栄で、二国間関係はさらに発展していく」と自信をのぞかせた。【11月20日 朝日】
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アメリカ側の思惑、ミャンマー側の思惑はそれぞれ存在しますが、今回訪問の意図が一にも二にもミャンマー国内での民主化プロセスの後押しにあることは間違いありません。
今後民主化が後退すれば、それぞれの思惑も消えてしまいます。
ミャンマー国内には改革に抵抗する既得権益層も多く残存し、今後の展開次第では民主化が“蜃気楼”と化す可能性も少なくありません。
今回のオバマ大統領訪問、アメリカとの関係改善を梃子に、テイン・セイン政権の民主化路線が着実に侵攻することを期待します。
【米中“囲い込み”競争】
なお、オバマ大統領はミャンマーからASEANの一連の会議が開催されているカンボジアに移動し、20日の東アジアサミットに出席しました。
このなかでASEANを舞台にした米中の“囲い込み”が展開されています。
****米中、ASEAN囲い込み図る****
オバマ米大統領、温家宝中国首相は19日、カンボジアの首都プノンペンで、東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議を個別に開き、ASEANの囲い込みを図った。
中国は投資協力基金や借款などにより、対ASEAN経済協力を拡大しており、温首相は今後の協力強化を表明した。
南シナ海問題でASEAN側は、平和的解決へ向けた「行動規範」の早期策定交渉開始と、不測の事態に対処するための「ホットライン」開設を提起した。
温首相はしかし、「外部から邪魔されないような状況下で、領土や海洋権益の争いを含めた問題を処理すべきだ」と述べ、米国の関与を改めて牽制(けんせい)するなど従来の主張の域を出ず、ASEAN側の提案にとりあわなかった。
このため首脳会議は、中国とASEANの署名から10年を迎えた「南シナ海行動宣言」を、完全に履行することなどを確認するにとどまった。
こうした状況にフィリピンのアキノ大統領は、親中派の議長国カンボジアの采配に対する不満も込め、「わが国には国益を守る固有の権利がある」と、強い不快感を表明した。
一方、ミャンマーから19日にカンボジア入りしたオバマ大統領は、安全保障、経済などあらゆる分野で協力を強化していく意向を表明。ASEANと中国との経済協力に楔(くさび)を打ち込むべく、投資や貿易を拡大する方針を伝えた。【11月20日 産経】
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