孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  オバマ大統領訪問で民主化プロセスを後押し

2012-11-20 20:57:32 | ミャンマー

(スー・チー氏の自宅を訪れ、演説の前に頬にキスするオバマ大統領 TVで観ると、ちょっと恥ずかしそうなスー・チー氏に大統領が強引に迫ったような感じもありましたが、今回の訪問自体にスー・チー氏は懸念を持っており、オバマ大統領がそれを押し切っての訪問実現となっています。 写真は“11月20日 東亜日報”より http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2012112074858

アメリカ:制裁解除 ミャンマー:ロヒンギャへの市民権、政治犯釈放
オバマ大統領は、アメリカの大統領としては初めてミャンマーを訪問し、テイン・セイン大統領のもとでの民主化を評価し、更にこれを後押しする姿勢を明確に打ち出しています。

アメリカは大統領のミャンマー訪問に先立ち、これまでミャンマーに課してきた経済制裁措置を事実上解除することを発表しています。

****米国:ミャンマー制裁、大半を解除****
米国務・財務両省は16日、03年から発動してきたミャンマー産品輸入禁止の制裁措置について大半を解除したと発表した。オバマ大統領が19日に米大統領として初めてミャンマーを訪問する前に、ミャンマー政府による民主化へ向けた改革努力を評価するとともに、一層の民主化進展を促す狙いがある。これにより、米国がミャンマーに科していた主要な経済制裁は事実上すべて解除された。

両省の声明によると、今回の制裁解除は、ミャンマー政府が政治囚釈放や少数民族との和解など一連の改革に取り組んできたことを評価した措置。ミャンマー国内で採掘されたルビーと翡翠(ひすい)に関しては、同国軍関係者の資金源になっているとみて、引き続き米国への輸入を禁止する。声明はミャンマー政府に対し、北朝鮮との関係断絶や少数民族との更なる和解、腐敗との闘いなど一層の改革を求めている。

03年に発動されたミャンマー産品の輸入禁止は、同国の主力製造業の縫製産業に打撃を与えることを狙った制裁措置。発動の結果、制裁発動前年の02年に総額4億3900万ドル(約350億円)あったミャンマーの衣料品輸出は、米国への出荷停止で半減した。

ミャンマー政府の改革を評価するオバマ政権は今年に入って段階的に制裁を解除し、7月には15年ぶりに米企業の対ミャンマー新規投資を解禁。ミャンマー産品の輸入禁止については、クリントン国務長官が今年9月、国連総会出席のため訪米したミャンマーのテインセイン大統領に対し、輸入解禁へ向けた手続きを開始すると伝えていた。【11月17日 毎日】
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一方、ミャンマー側も、人権問題として国際社会から注目を集めている、西部ラカイン州で仏教徒と衝突しているイスラム教徒で不法移民と見なされているロヒンギャ族について、市民権を付与することを表明しています。

****ミャンマー大統領、少数民族に市民権表明****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は国連の潘基文事務総長に書簡を送り、ミャンマー国内で「移民」として扱われ差別を受けているイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族に対し、市民権を付与するなど社会的地位の向上に努める考えを表明した。【11月18日 産経】
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また、いまだ多くの政治犯が拘束されているとの問題についても、15日に続いて19日にも受刑者への恩赦を発表しています。このなかには多くの政治犯が含まれていると見られています。

****さらに66人に恩赦=ミャンマー****
19日付のミャンマー国営紙は、テイン・セイン大統領が受刑者66人に恩赦を与えたと報じた。同日のオバマ米大統領のヤンゴン訪問に合わせ、民主化進展を印象付ける狙いがあるとみられる。テイン・セイン大統領は15日に、452人に恩赦を出したばかり。【11月19日 時事】
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【「今日から両国の新しい一章が始まる」】
このように、アメリカ・ミャンマー双方が舞台を整えたうえでのオバマ大統領訪問でしたが、予定通り両国の接近をアピールする場となりました。

****改革支援「約束果たす」 オバマ大統領ミャンマー訪問****
19日、米国の大統領としてミャンマーを初訪問したオバマ大統領は、テインセイン大統領らと会談し、動き出したばかりの民主化を後押しする姿勢をアピールした。ミャンマー側も異例の厚遇ぶりで、歴史的訪問に応えた。

■民主化プロセスを評価
「オバマ! オバマ!」。アウンサンスーチー氏の自宅前の道路脇を埋め尽くした群衆は、オバマ氏の車列が来ると大歓声を送った。オバマ氏は会談後、「今日から両国の新しい一章が始まる」と宣言。スーチー氏に肩を寄せた。

オバマ氏はヤンゴン大学での講演でも「私は就任当時、恐怖で支配をする外国の政府に『握った拳を緩めるならば、手をさしのべる』と言った。今日、その約束を果たすためにここに来た」と聴衆に語りかけた。
その言葉通り、オバマ氏はテインセイン大統領との会談で、今後2年間で1億7千万ドル(約138億円)の援助を表明するなど、改革支援の姿勢を鮮明にした。

テインセイン大統領との会談後には「大統領が始めたミャンマーの民主化と経済改革のプロセスは、驚くべき発展の機会をもたらすことができる」と評価。
大統領として初めて、米政府が原則として使ってきた「ビルマ」ではなく、「ミャンマー」と呼んだ。経済面でも最後の制裁措置だったミャンマー製品の禁輸を原則解除し、「ゴールドラッシュ」といわれる米企業の対ミャンマー進出熱を後押しした。

ただ、米国内では「少数民族問題に十分取り組んでいない」(アムネスティ・インターナショナル幹部)といった懸念から、大統領の訪問は時期尚早との批判も根強かった。スーチー氏も「変革のもっとも困難な時期は成功が見えてきたときだ。成功の蜃気楼(しんきろう)に惑わされないよう、十分気をつけなければいけない」と拙速を避けるよう釘を刺した。

今回の訪問は、経済制裁をしている間に中国が影響力を深めたことに対する、巻き返しの側面もある。米国は、毎年タイで実施する多国間軍事演習「コブラゴールド」にミャンマーのオブザーバー参加を認めるなど、「軍事面でもお互いに関与していく」(ホワイトハウス高官)姿勢だ。【11月20日 朝日】
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【“成功の蜃気楼”を危惧するスー・チー氏 オバマ外交の「成功例」「アメリカと中国の違い」をアピールしたいオバマ大統領
上記記事にもあるように、動き出したミャンマー民主化がこのまま順調に進むかどうかについては、将来を懸念する向きもあり、アメリカの制裁解除などにももっと慎重を期すべきとの指摘もあります。
民主化運動指導者スー・チー氏も、ミャンマー政府に一層の改革を迫る「カード」が失われる・・・との懸念から、オバマ大統領のこの時期でのミャンマー訪問には反対の立場でした。
しかし、国際協調主義のオバマ外交の「成功例」をアピールし、更に、民主化支援で「アメリカと中国の違い」を国際社会にアピールしたいオバマ大統領側がスー・チー氏を説得して訪問を実現したとのことです。

****オバマ大統領:協調主義の成果示す…ミャンマー訪問*****
再選を果たしたオバマ大統領にとって、ミャンマーとの関係改善は、政権1期目の発足時に掲げた「敵」とも対話する国際協調主義の格好の「成功例」だ。
大統領は今回の訪問で外交方針の正当性を印象付ける一方、経済・軍事分野で覇権を拡大する中国をにらみ、米国が「民主化支援」を通じて国際秩序形成の主導権を握り続ける決意を明示した。

「米国は市民の権利と国際法を順守するならば、どの国とも友人になる」。オバマ大統領は19日、ヤンゴン大学での演説で、米国がミャンマーの民主化支援に関与し続ける決意を強調した。
大統領の訪問を巡っては、改革が不十分な現時点では「時期尚早」との懸念があった。外交関係者によると、訪問に当初反対したのは、最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウンサンスーチー氏。オバマ政権は経済制裁をほぼ全て解除しており、大統領訪問で友好関係が強化されれば、ミャンマー政府に一層の改革を迫る「カード」が失われる可能性があるからだ。

スーチー氏は先月、米側に「反対」の考えを伝達。在米ミャンマー人の民主化運動組織「ビルマのための米国キャンペーン」のアウンディン代表は今月7日、大統領に訪問を見合わせるよう書簡を送ったが、オバマ政権はスーチー氏を説得して訪問に突き進んだ。

その代わり、大統領のミャンマー滞在時間はわずか約6時間。民主化勢力が「軍政の象徴」として嫌う首都ネピドーは訪問せず、ミャンマー首脳とは食事せずに米大使館で米政府関係者と昼食をとるなどして、友好関係の演出を控えた。
訪問先のタイで18日会見したオバマ大統領は民主化について「お墨付きを与えたわけではない」とミャンマー政府に一層の改革を求めた。

オバマ政権が訪問にこだわった背景にはインド洋と中国に挟まれ地政学的要衝に位置するミャンマーへの影響力を確保し、民主化支援で「米国と中国の違い」を国際社会にアピールする狙いがある。
オバマ政権のアジア重視戦略について、ドニロン米大統領補佐官は「単なる米軍の配置の問題ではなく、人々の自由と尊厳を支持することを含む政治経済的な関与だ」と解説する。
一党独裁の中国は経済・軍事面で大国になったが、民主化支援はできない。ミャンマー訪問を通じて中国の最大の弱点を突き、民主主義を共有する米主導の秩序の優位を世界に示そうと狙った。【11月19日 毎日】
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ミャンマーは中国にとって、マラッカ海峡を通らず陸路でインド洋に抜けることができるという重要な地政学的意味を持つ国であり、これまでの経済制裁による欧米の影響力の空白を埋める形で、その影響力を拡大してきました。
今回のオバマ大統領訪問は、ミャンマーを中国の影響から取り戻すことをも意味しています。

****オバマ米大統領 「親中」一角切り崩す ミャンマー訪問 急速な改善、異論も****
オバマ米大統領による初のミャンマー訪問は、民主化支援をテコに東南アジア域内の中国寄り国家の一角を切り崩す一歩となった。米政府はミャンマーとの軍事協力も進める考えだが、政治犯の完全釈放に至っていないことなどを理由に、米国内では急な関係改善への批判もつきまとっている。

 ◆地政学上の要衝
「人間の(精神の)自由は否定できない」
オバマ大統領は、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏との会談後、記者会見でこう述べ、ミャンマー政府による一層の民主化努力に期待感を示した。

オバマ大統領が、基本的人権や言論の自由といった普遍的な価値観の共有を迫り、民主化支援にテコ入れするのは、域内で軍事的・経済的に影響力を増す中国から、地政学上の要衝にあるミャンマーの切り離しを図る側面がある。
その意味では、大統領の初訪問を実現し、民主化支援を確約できたことは「米ミャンマー関係を進展させる一歩」(オバマ氏)だけでなく、米国のより強い影響下に置く道筋をつける成果を挙げたといえる。

中国にとって国境を接するミャンマーは、マラッカ海峡を通らず陸路でインド洋に抜けることができる位置にある。
米エネルギー情報局によると、中国は原油の純輸入国に転じた1990年代から、中東からの原油輸入をマラッカ海峡を通らず、インド洋からミャンマーの内陸部を経由するルートの開拓を進めてきた。
中国が、政治犯の釈放や民主化を求めて経済制裁を続ける欧米各国と一線を画し、港湾などインフラ整備を通じてミャンマーの軍事政権との関係を強化してきたのもそのためだ。

これに対し、米政府高官は、経済だけでなく軍事面でもミャンマーとの関係の強化を明言。米国はタイと合同で毎年、アジア最大規模の多国間合同軍事演習「コブラゴールド」を実施しているが、来年からミャンマーをオブザーバー参加させる方向だ。

ただ、オバマ大統領自身が「民主化は緒についたばかりで道のりは長い」という通り、ミャンマーがどこまで本気で民主化を進めるかは見極めが必要。北朝鮮との軍事協力断絶を表明しているが、これも「注視していく」(米政府高官)立場は不変だ。在米の亡命ミャンマー人や米議会には関係改善の拙速を危ぶむ声もくすぶっており、民主化支援のあり方も課題となっている。【11月20日 産経】
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ミャンマー:国際社会に復帰をアピール
ミャンマーにとっては、「孤立していたミャンマーが国際社会に復帰したことを決定づける」意味合いを持っており、アメリカの意向にも最大限に配慮しています。

****米の意向、最大限尊重 ****
ミャンマー政府は前例のない対応でオバマ氏を迎えた。テインセイン氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議のために訪れていたカンボジア・プノンペンから18日夜、いったん帰国。オバマ氏との会談後、すぐにプノンペンにとんぼ返りした。

しかも、首脳会談は首都ネピドーではなく最大都市ヤンゴンで行われた。オバマ氏が講演をしたヤンゴン大学は独立運動や1988年の民主化運動で中心となった学生運動の拠点で、ミャンマーの「民主主義の象徴」。米側の意向を最大限尊重したとみられる。

さらにテインセイン氏は16日に大半が政治犯とみられる66人に恩赦を与えた。米側が懸念する少数民族ロヒンギャ族の無国籍問題についても国連に解決姿勢を示した。

ミャンマー側がそこまでしてオバマ氏を迎えたのは、米大統領の訪問が「孤立していたミャンマーが国際社会に復帰したことを決定づける」(企業家フラマウンスエ氏)からだ。ミャンマー大統領府高官は取材に「米大統領選後、最初の訪問先の一つになったのは光栄で、二国間関係はさらに発展していく」と自信をのぞかせた。【11月20日 朝日】
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アメリカ側の思惑、ミャンマー側の思惑はそれぞれ存在しますが、今回訪問の意図が一にも二にもミャンマー国内での民主化プロセスの後押しにあることは間違いありません。
今後民主化が後退すれば、それぞれの思惑も消えてしまいます。
ミャンマー国内には改革に抵抗する既得権益層も多く残存し、今後の展開次第では民主化が“蜃気楼”と化す可能性も少なくありません。
今回のオバマ大統領訪問、アメリカとの関係改善を梃子に、テイン・セイン政権の民主化路線が着実に侵攻することを期待します。

米中“囲い込み”競争
なお、オバマ大統領はミャンマーからASEANの一連の会議が開催されているカンボジアに移動し、20日の東アジアサミットに出席しました。
このなかでASEANを舞台にした米中の“囲い込み”が展開されています。

****米中、ASEAN囲い込み図る****
オバマ米大統領、温家宝中国首相は19日、カンボジアの首都プノンペンで、東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議を個別に開き、ASEANの囲い込みを図った。

中国は投資協力基金や借款などにより、対ASEAN経済協力を拡大しており、温首相は今後の協力強化を表明した。
南シナ海問題でASEAN側は、平和的解決へ向けた「行動規範」の早期策定交渉開始と、不測の事態に対処するための「ホットライン」開設を提起した。
温首相はしかし、「外部から邪魔されないような状況下で、領土や海洋権益の争いを含めた問題を処理すべきだ」と述べ、米国の関与を改めて牽制(けんせい)するなど従来の主張の域を出ず、ASEAN側の提案にとりあわなかった。
このため首脳会議は、中国とASEANの署名から10年を迎えた「南シナ海行動宣言」を、完全に履行することなどを確認するにとどまった。
こうした状況にフィリピンのアキノ大統領は、親中派の議長国カンボジアの采配に対する不満も込め、「わが国には国益を守る固有の権利がある」と、強い不快感を表明した。

一方、ミャンマーから19日にカンボジア入りしたオバマ大統領は、安全保障、経済などあらゆる分野で協力を強化していく意向を表明。ASEANと中国との経済協力に楔(くさび)を打ち込むべく、投資や貿易を拡大する方針を伝えた。【11月20日 産経】
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パレスチナ・ガザ地区  調停難航、依然消えない地上侵攻の可能性 双方とも強気の姿勢を変えず

2012-11-19 21:42:13 | パレスチナ

(ガザ境界から10kmほどのイスラエル南部アシュケロン ガザ地区からのロケット弾攻撃を避けてシェルターに避難するイスラエル人家族  “flickr”より By Israel Defense Forces http://www.flickr.com/photos/idfonline/8199423322/

増える犠牲者、高まる憎悪
連日の報道のように、パレスチナ・ガザ地区をめぐり、イスラエルによる空爆とハマスなどイスラム武装勢力によるロケット弾攻撃の応酬が続いています。
停戦の合意が得られないまま、犠牲者の数だけが増えています。

18日には、イスラエル軍の空爆により幼い子供4人を含む12人が死亡しています。14日以降のガザ側の死者は全部で95人、そのうち3分の1が民間人と報じられています。【11月19日 読売より】
14日以降のイスラエル側の空爆は合計で1350か所にのぼるということで、イスラム武装勢力側も武器を一般民家に隠しているため一般民家も攻撃対象になっていることを考え合わせると、むしろこれだけの犠牲者数にとどまっていることが不思議なくらいです。

****ガザ地区:イスラエルの空爆、子供も犠牲…誤爆の可能性も****
住宅密集地の真ん中にがれきの山が築かれていた。イスラム原理主義組織ハマス支配下のパレスチナ自治区ガザ地区。イスラエル軍の空爆は18日、幼い子供4人を含む12人が死亡する最悪の事態を招いた。

ハマス幹部の殺害を狙ったとするイスラエル軍の主張は、現場取材で住民から得られた証言と食い違っており、誤爆の可能性も出てきた。AP通信によると、14日以降のガザ側の死者は77人。ガザの人々は空爆の理由を考える余裕もないままイスラエルへの憎悪を膨らませている。

「突然稲妻が走り、建物が目の前に迫ってきた」。18日午後2時半ごろ、ガザのジャマル・ダルさん(50)宅を訪ねようとしたアブアナスさん(19)は目の前で起きたダルさん宅爆撃の瞬間を振り返った。鉄筋コンクリート4階建ての住宅がつぶれ、がれきの山から次々と子供や女性の遺体が引き出された。ダルさんは礼拝所に出かけていて無事だったという。

イスラエル軍は空爆直後、「ハマス・ロケット部隊隊長、ヤヒア・ラビアを殺害した」との声明を発表。その後、この人物はロケット部隊幹部で、殺害を免れた可能性があると訂正した。
だが、近所の住民は、ダルさんはハマスとは無関係の貿易商と口をそろえる。ダルさん宅の隣の自宅で頭を負傷した親類のファハミさん(27)は、入院先の病院で「一族はみなまっとうなビジネスマンばかりで、攻撃される理由はない」と話した。

イスラエル軍報道官は毎日新聞の取材に「目下調査中だ」と回答。調査は標的とは別の建物を空爆した可能性も視野に入れている模様だ。
ガザではハマスとの関係が明らかな施設だけでなく、多数の一般民家も空爆の対象になっている。中には、秘密の武器集積所やロケット弾発射台の隠れみのとして使われている場所もあるからだ。
地元ジャーナリストによると、ガザの人々は報復を恐れてハマスに不利な証言をしない傾向にある一方、イスラエル軍も個別の空爆の理由を明確にしないため、ガザ住民の不信感をますます高める悪循環に陥っている。【11月19日 毎日】
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停戦条件のハードルを上げるハマス 地上侵攻準備完了のイスラエル
もし地上侵攻となれば更に双方の犠牲者も増大しますが、いまのところ停戦の調停はエジプト・モルシ大統領を中心として行われています。

また、潘基文(バン・キムン)国連事務総長は18日、イスラエルとハマスに対して「即時停戦に向けたエジプト主導の仲介努力に協力するように強く要請する」との声明を出しており、停戦を訴えるために自身も近く現地入りすることを明らかにしています。

“モルシ大統領は17日、「まだ保証はない」としつつも「停戦に至る兆候がある」と指摘。イスラエルのペレス大統領も18日、「エジプトの努力に敬意を表する」と、停戦に前向きともとれる態度をみせた”【11月19日 産経】とのことで、停戦への兆候も報じられていますが、「作戦を大幅に拡大する用意がある」とするイスラエル・ネタニヤフ首相、「我々の条件を受け入れない限り停戦には応じない」とするハマス側、双方とも強気の姿勢を崩しておらず、調停の結果はまだ出ていません。

****ガザ地区:イスラエルとハマス、停戦条件に隔たり****
イスラエル軍の大規模攻撃で緊迫するパレスチナ自治区ガザ地区の情勢は18日、エジプトがイスラエルと、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの双方と個別に停戦を巡る協議を始め、調停を本格化させた。しかし、停戦条件を巡る溝は深く、合意に至るのは容易ではないのが現状だ。交渉決裂などでイスラエル軍が準備を進める地上侵攻へ突入すれば、中東情勢のさらなる混迷は必至だ。

エジプトのモルシ大統領は18日、ハマス亡命指導者のメシャール氏やガザの別のイスラム原理主義組織イスラム聖戦幹部とカイロで停戦条件を協議。イスラエルも政府密使をカイロに送り、エジプト治安当局と協議した。

AP通信などによると、ハマスはエジプトなどアラブ同胞の「連帯」を期待して停戦条件のハードルを上げている。イスラエルに▽ガザ封鎖の解除▽ハマス幹部の暗殺やガザ攻撃を停止する国際的な保証−−を要求。ハマス側の交渉関係者は「我々の条件を受け入れない限り停戦には応じない」と強調した。

これに対し、イスラエルはガザからのロケット弾攻撃の即時停止などを要求。ネタニヤフ首相は仲介を探って訪れたファビウス仏外相との会談で「停戦を検討するのはハマスの攻撃がやんでからだ」と強気の姿勢を示した。ガザ情勢を巡っては、国連の潘基文(バンキムン)事務総長が19日にもエジプトを訪れてモルシ大統領らと会談する予定。

 ◇「侵攻準備完了」
一方、地元紙エルサレム・ポスト(電子版)によると、イスラエル軍はガザ地区との境界付近への軍部隊の集結を終了し、地上侵攻への準備を整えた。侵攻訓練も実施したという。交渉決裂なら地上侵攻の可能性が高まる。
イスラエル軍は16日夜、ガザ周辺の幹線道路を封鎖し、軍事地域に指定。以後、戦車や砲兵隊、歩兵隊の移動に使ってきた。

オバマ米大統領は訪問先のバンコクで記者会見し、「イスラエルは領内にミサイルが撃ち込まれるのを阻止する権利がある。しかしガザでの軍事行動を、これ以上は強化しないことが望ましい」と語った。ガザ住民とイスラエル軍兵士の死傷者が増える懸念から、地上侵攻については慎重な姿勢を求めた。【11月19日 毎日】
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【「アラブの春」による情勢変化
“ガザ封鎖の解除”などは、この状況でイスラエルが了承できるものではありませんが、ハマス側の強気の背景には、イスラエルとの協調姿勢を維持していたエジプト・ムバラク政権の崩壊など「アラブの春」により中東情勢が変化し、エジプト・チュニジア・カタールなど周辺国のハマス支援の姿勢が強まっていることがあります。

****ガザ地区:イスラエル軍攻撃 アラブ連盟が緊急外相会合****
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ攻撃を巡り、アラブ連盟(22カ国・機構)は17日、カイロで緊急外相会合を開き、アラビ事務局長が率いる代表団を近日中にガザへ派遣することを決めた。
連盟は従来、イスラエル批判の表明などにとどまってきたが、昨年来の中東の民主化要求運動「アラブの春」に伴う情勢変化を受け、具体的な対応を示すべきだとの内部批判が噴出する事態になった。

ロイター通信によると、カタールのハマド首相兼外相らが会合で「(アラブ連盟として)具体的な何かを示さなければならない」と提起し、代表団派遣で合意した。カタールは10月、ハマド首長がガザを訪問して総額4億ドル(約325億円)相当の支援を表明し、国際社会から孤立してきたガザの「表舞台」への復帰に道筋を付けた経緯がある。また、アラブ連盟は今回のイスラエル軍の攻撃を「侵略」と非難した。

一方、エジプトのモルシ大統領も17日夜の記者会見で、ガザ情勢の調停に乗り出したことを明らかにした。エジプト治安当局がイスラエルと、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの双方に接触しており、大統領は「停戦が近い兆候はあるが、まだ確証はない」と述べた。

モルシ大統領はハマスの源流であるエジプトの原理主義組織ムスリム同胞団の出身で「ガザを一人にしない」と繰り返し連帯を表明。ただイスラエルとも一定の関係を維持しており、米国も「極めて重要な指導的役割」(国務省高官)とエジプトに期待している。

しかしイスラエル、ハマス双方とも攻撃停止を要求し、調停は曲折しそうだ。ハマス報道官は毎日新聞の取材に、イスラエルによる将来的な不可侵の保証も停戦条件に挙げた。【11月18日 毎日】
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イスラエルに囲まれて封鎖が続くガザ地区ですが、唯一のイスラエル以外への出口であるエジプト・ラファ検問所については、エジプト側はこれを開き、人道援助物資などの搬入を認めているようです。この一点においても、ムバラク政権時代とは異なります。

打つ手がないアメリカ
イスラエル側の支持勢力はアメリカですが、和平交渉に消極的なイスラエル・ネタニヤフ首相とアメリカ・オバマ大統領の間には溝があることは以前も触れたところです。
ただ、アメリカとしてもイスラエル支持の姿勢は表明しています。

****ガザ地区:米大統領 イスラエル軍の攻撃を支持****
オバマ米大統領は18日、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃について「ミサイルの雨を降らされて黙っている国は地球上にない」と述べ、イスラエルの自衛権に基づく攻撃として全面的に支持する考えを強調した。訪問先のタイで行われた同国のインラック首相との共同記者会見で語った。

大統領は、事態の悪化がイスラエル・パレスチナ間の和平交渉を「一層困難にする」と指摘。イスラエル軍が地上侵攻の構えを見せていることについて「イスラエルの軍事活動が激化せずに済むことが望ましい」と述べ、慎重な対応を求めた。【11月18日 毎日】
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オバマ大統領は東南アジア外遊中で、今日はミャンマーのテイン・セイン大統領やスー・チー氏と会談を行っています。
従前から予定されていたスケジュールであり、外遊中もエジプトなど関係国と連絡はとってはいますが、イスラエルとやや距離を置いた感もあります。有効な打つ手がない・・・といった方が正しいのでしょうか。

****対話できない仲介役の米国 ****
イスラエルとパレスチナの2国家共存を目指す中東和平交渉は完全に行き詰まっている。
仲介役の米国のオバマ大統領は18日、訪問先のバンコクで「イスラエルの自衛権を全面的に支持する」と改めて述べ、今回のイスラエルの対応を支持している。
ただ、オバマ氏とネタニヤフ氏は、イラン問題への対応をめぐる違いなどから首脳間の信頼関係はなく、米国が自制を促してもイスラエルが応じる可能性は低い。
米政府は、武装闘争を続けるハマスを「テロ組織」(国務省)と認定しているため、ハマスとは対話のパイプがない。【11月19日 朝日】
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最悪のシナリオ
万一、今後イスラエルが地上侵攻に踏み切ると、レバノンのヒズボラ、シリアのアサド政権、更にはイランをも巻き込んだ中東危機に発展する可能性もあります。

****地上戦なら中東危機 ****
イスラム組織ハマスの壊滅を狙うイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザへの攻撃が本格化している。「アラブの春」後、周辺の安全保障環境は激変しており、イスラエルが地上軍を投入すれば、地域全体が不安定化する恐れがある。

「アラブ諸国はアラブの春後、多くの国内問題を抱えているが、パレスチナ問題は最も重要な問題だ」
17日のアラブ緊急外相会合で、アラブ連盟のアラビ事務局長はそう語った。

イスラエルと境界を接するのは、エジプト、ヨルダン、シリア、レバノンの4カ国。エジプトでは昨年の革命後、ムスリム同胞団出身のムルシ政権が発足。ムバラク前政権時代に築いた治安や中東和平仲介をめぐるイスラエルとの対話チャンネルは事実上途絶え、同胞団から派生したハマスとの結びつきを強めている。

ヨルダンはパレスチナ系住民が多く、平和条約を結んだ後もイスラエルには批判的だ。「アラブの春」を受けて、民主化を求めるデモが頻発し、政情は不安定化している。

シリア領ゴラン高原は第3次中東戦争(1967年)でイスラエルが占領した。国連の兵力引き離し監視軍が展開し、「冷たい平和」を維持していたが、今月に入り、占領後初めてシリアから迫撃砲が着弾。緊張が高まっている。周辺国でイスラエルと安定した関係を持つ国はない状態だ。

イランと開戦、最悪のシナリオ
イスラエルと敵対するイランと同盟関係にあるシリア・アサド政権にはトルコ、レバノン、イスラエルなどに紛争を拡大させ、政権の延命をはかる選択肢がある。カギとなるのは、イラン、シリアが支援するレバノンのシーア派武装組織ヒズボラだ。イスラエルがガザに地上侵攻した場合、レバノンからイスラエル北部を攻撃すれば、イスラエルはガザとの二正面作戦を強いられる形となる。

だが、イスラエルの強硬派ネタニヤフ首相にすれば、ハマス、ヒズボラにとどまらず、両者を支援し、核開発を続けるイランを攻撃する格好の口実になる。イランとイスラエルが全面戦争に突入すれば地域全体を巻き込み大混乱に陥る「最悪のシナリオ」へとつながるのは必至だ。【11月19日 朝日】
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対外脅威を作り出すことで国内求心力を高めるのは権力一般に共通したことで、今回のイスラエル・ネタニヤフ首相についても、ハマスへの強硬姿勢をとることで総選挙を控えて国内支持を高めたい思惑があることは指摘されてところです。

もっとも、09年3月のネタニヤフ首相就任以来、イスラエル国内ではテロの発生率は下がり、経済も比較的安定しており、首相の右派勢力はガザ地区の問題がなくても高い支持を保っています。
むしろ、テルアビブやエルサレムがロケット弾攻撃の標的にされるという、これまでにない状況変化、また、今後地上侵攻に突入した場合の混乱・犠牲者増大、将来の反イスラエル運動の高まり・・・など、混乱拡大に伴う国内の動揺の危険の方が大きいのではないでしょうか。
これ以上の混乱拡大はネタニヤフ首相にとっても得策ではないように思えるのですが・・・。
弱腰批判を抑えながら、いかに事態を収めるか・・・というところでしょう。

ハマスにしても、すでに相当のダメージを受けていると思われますし、ロケット弾攻撃もイスラエル側の対空防衛網アイアンドームによって多くが阻まれています。

常識的にはこれ以上続けても・・・といった判断になるところですが、それを阻むものは憎悪、面子、政治的思惑・・・・何でしょうか?

モルシ・野田電話協議
なお、総選挙を控えて国内政局に忙しい日本ですが、エジプト側の要請で野田首相とモルシ大統領の電話協議が行われたそうです。何を話したのでしょうか?

****ガザ地区:エジプト大統領、野田首相と電話協議****
野田佳彦首相は18日夜(日本時間同)、カンボジア・プノンペンで、エジプトのモルシ大統領と電話で協議した。モルシ大統領はイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ攻撃について「平和をもたらすため、日本を含む大国に国連の場を含めて協力してほしい」と要請した。
野田首相は「事態を深く憂慮している。イスラエル・パレスチナ双方に最大限の自制を求めている。(事態収拾への)各国の努力を最大限後押しする」と応じた。協議はエジプト側の呼びかけで急きょ行われた。【11月19日 毎日】
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ASEAN会議  南シナ海問題での進展見られず 日中韓の首脳会談も見送り、FTA交渉は開始か

2012-11-18 20:50:58 | 東南アジア

(17日、ASEAN外相会議の恒例セレモニー “flickr”より By The ASEAN Secretariat http://www.flickr.com/photos/65679481@N07/8194779595/in/photostream

日中対立で国際的孤立を避けたい中国、中国とこれ以上波風を立てたくないベトナム
中国とフィリピン・ベトナムを中心とする周辺国がその領有権を争う南シナ海ですが、このところはあまり大きな動きもなく、比較的“平穏”に過ぎています。
その背景には、尖閣諸島をめぐる日中の緊張激化で、国際的孤立を避けたい中国側が南シナ海での対立拡大を抑制しているという事情があるようです。

****巨龍が狙う資源の海、南シナ海 日中対立でしばしの平穏****
広大な海原に点在する数百の島々の領有権をめぐり、ベトナムやフィリピンなどが長年、中国と争ってきた南シナ海。東南アジアの「海の火薬庫」と呼ばれるこの海域の情勢に、尖閣諸島をめぐる最近の日中対立が微妙な変化をもたらしている。

今月6日、ラオスの首都ビエンチャンで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会合。尖閣問題で野田佳彦首相と中国の楊潔●(●は竹かんむりに褫のつくり、ヤンチエチー)外相が非難の応酬をした同じセッションで、ベトナムのズン首相が発言した。「国際法と協定に基づき、紛争を解決しなければならない」。フィリピンのアキノ大統領も「紛争は国際法に基づき、公平に解決されるべきだ」と続いた。

南シナ海の紛争に対処するため、東南アジア諸国連合(ASEAN)は平和的解決を法的に義務づける「行動規範」の策定を求め、中国と非公式協議を続けていた。2人の首脳の発言は、名指しは避けたが、消極的な姿勢を崩さない中国に向けられていた。

楊外相の反応は、日本に対する激しさとは違って、淡々としたものだった。「中国の立場は歴史的、法律的な根拠に基づき、一貫している。南シナ海で航行の自由や安全が問題になったことはないし、今後もない」
今年4月、中国とフィリピンの船舶がスカボロー礁周辺でにらみ合いを続けた際、一気に冷え込んだ両国関係には、最近変化の兆しが見えてきた。

10月19日には中国の傅瑩(フーイン)外務次官がマニラを訪れ、アキノ大統領に「両国の友好関係を重視する」とする胡錦濤(フーチンタオ)国家主席のメッセージを伝達。中国では「氷を溶かす旅」と報じられた。
アキノ大統領は「状況は数段良くなっている」と認める。実際、中国は南シナ海に派遣する海洋監視船の数を減らすなど、攻勢を一時的に弱めている。フィリピン政府高官は「日本と対立を深めたことで、国際的な孤立を避けるためにも南シナ海では友好的にという狙いでは」とみる。

ベトナム側の見方も一致する。政府関係者は「中国の矛先が日本に向いたことでベトナムへの攻勢がおさまり、ほっとしている」と打ち明ける。中国の海洋進出を念頭に、10月には国内最大級の海上巡視船「DN2000」(全長90メートル)の進水式を行うなど、領海警備を強化する一方で、「中国とこれ以上波風を立てたくない」というのが本音のようだ。

南シナ海情勢の変化を横目に、日本側には懸念が募る。とりわけ、18日から始まるASEAN首脳会合や東アジアサミットを控え、議長国のカンボジアの動きには敏感だ。
カンボジアは7月のASEAN外相会議で、中国寄りの運営に終始した前例がある。フィリピンやベトナムが反発し、共同声明をまとめられない異例の事態となった。直後のASEAN地域フォーラム(ARF)では、中国が嫌う「南シナ海の航行の自由」を求めた日本や米国、豪州などの発言を議長声明に盛り込むことを拒否した。

最悪のシナリオは、中国の求めに応じて、尖閣問題が領土問題として議長声明などで言及されることだ。最大の援助国としての日本の自信は揺らいでいる。
今月5日には野田首相がフン・セン首相と会談。玄葉光一郎外相も親書を送り、大使経験者や官房副長官を相次いでプノンペンに派遣するなど、根回しに躍起だ。(後略)【11月14日 朝日】
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ASEANの再分裂回避を優先
カンボジアの首都プノンペンでは、この南シナ海問題が取り上げられる東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が17日に開かれ、18日の首脳会議、20日の東アジアサミットという一連の関連会議が始まっています。
南シナ海問題をめぐっては、今年7月の外相会議で、「行動規範」に関する議論を進めたくない中国に配慮する議長国カンボジアと、直接の利害関係があるベトナムやフィリピンが対立。議論が紛糾し、共同声明を出せない異例の事態となりました。

17日の外相会議は、比較的“平穏”な現状を維持したい関係国の思惑、中国の意向に配慮した議長国カンボジアの議事進行もあって、特段の進展はなく終わったと報じられています。

****南シナ海」進展なし…ASEAN再分裂回避で****
東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が17日、プノンペンで開かれ、焦点の南シナ海での領有権問題に関する「行動規範」の策定をめぐり、進展がないまま終わった。

ASEANは7月の外相会議で、親中国の議長国カンボジアと、中国と緊張関係にあるフィリピンなどが対立し、共同声明を採択できない異常事態を招いた。17日の会議は南シナ海問題を主要議題とせず、ASEANの再分裂回避を優先させた形だ。

外相会議後に記者会見したカンボジアのカオ・キムホン外務副大臣は、南シナ海問題に関する議論に関して、「ASEANと中国が行動宣言を実行することを確認した」と述べるにとどめた。さらに、法的拘束力を持つ行動規範の策定のメドについては「時間的な枠組みはない」と明言し、中国とASEANの作業が進んでいないことを認めた。【11月17日 読売】
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インドネシアの「ゼロ草案」】
もっとも、まったく動きがなかった訳でもなく、インドネシアは法的拘束力を持つ「行動規範」づくりのたたき台としての「ゼロ草案」を外相会議に向けて提示しています。

****対中の領有権争い、規範づくりへ草案 ASEAN****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は17日、カンボジアの首都プノンペンで外相会議を開き、一部加盟国が中国と領有権を争う南シナ海問題などについて議論した。紛争の平和的な解決を図るため、法的拘束力がある行動規範作りの早期着手を視野に入れた草案も提示されており、具体策を話し合った。
ASEAN内で調整役を務めてきたインドネシアは、中国との規範作り開始へ向けた動きを加速させるため、「ゼロ草案」と呼ぶたたき台を作成し、今会議前にASEAN外相らに配っている。

朝日新聞が入手したゼロ草案「南シナ海の地域行動規範」によると、国連憲章や国連海洋法条約、現在ある行動宣言などを原則とし、履行事項など全9章で構成。「領海や法的論争の包括的、永続的な解決が地域の平和と安定に貢献する」「規則に基づく枠組みで、統率する規則と手続きである」と、法的拘束力を明言している。
域内では、軍事演習・偵察や新たな構造物の建築、現在無人の島などでの居住、航行の自由を脅かす活動などを禁止。船舶の故障など緊急時の警報の出し方や、新たに設立する救助調整機関からの要請で救助活動を行う手順などまで規定している。
違反した場合は、平和的手法で解決することを原則としつつ、「ASEANの枠組み内でできなければ、国連海洋法条約を含めた国際法に基づくメカニズムに持ち込める」と、第三者の介入も認めている。

「あくまでもたたき台で、すんなり通るとは思っていない」(インドネシア外務省筋)と言うように、ゼロ草案は、中国と交渉を始める前に規範の具体的なイメージを共有し、議論を進めるのが狙いだ。当事国のフィリピンやベトナムと、中国を配慮するカンボジアなどには意見の隔たりがあり、7月の外相会議では初めて共同声明が採択できない事態となった。

インドネシアのマルティ外相は、16日夜のASEAN外相非公式夕食会後、「南シナ海で、外相間にホットラインを持とうと提案した」と話した。ゼロ草案では履行事項で「各外相は緊急時用ホットラインを確保」としており、草案作りへ向けた議論の具体策のひとつとみられる。

ASEANと中国は、19日に首脳会合を行う。規範策定へ向けて高級事務レベルで会合を開いてきたが、外相や首脳レベルでの公式な交渉開始では合意できていない。今年は法的拘束力のない行動宣言の採択から10周年となる節目で、共同声明を出す予定だが、中国側は「行動規範の作成開始」という文言をめぐり、議論を続けている。(後略)【11月18日 朝日】
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しかし、今回の会議の流れから見て、「ゼロ草案」に関する議論が深まることはあまりなさそうです。
“「行動規範」策定に向けた中国とASEANの公式協議の年内開始見送り”の方向で事前のコンセンサスも出来ているようです。

****ASEAN:「行動規範」中国との協議 年内の開始見送り****
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が領有権を争う南シナ海問題で、法的拘束力のある紛争防止の規則「行動規範」策定に向けた中国とASEANの公式協議の年内開始が見送られる見通しとなった。
ASEAN内での調整が難航しているため。南シナ海での不測の事態を回避する枠組み作りが年明けに持ち越されることで当面は緊張状態が続く。複数のASEAN外交筋が明らかにした。

中国は7月のASEANとの外相会議で「行動規範」策定に向けたASEAN側の骨子案に難色を示し、協議開始に応じていない。さらにASEAN内部でも対中強硬派のフィリピンやベトナムと親中派の議長国カンボジアが対立し、意見がまとまらない状況だ。

インドネシアのマルティ外相は9月、係争地での紛争回避のための具体的方策を規定した独自の「行動規範」草案をASEAN各国に非公式に提示し、協議の進展を促した。
しかし、ASEAN内部の親中派は「草案は(中国が反対した)骨子案を基にしており受け入れ難い」(カンボジア外交筋)と消極的で、先月29日のタイ・パタヤでの中国との高級事務レベル非公式会合でも「行動規範」に関する実質的な議論は行われなかった。

インドネシア外務省高官は1日、草案について「(今月中旬にカンボジアで開かれる)ASEAN首脳会議では議論されない。今は草案について議論できる状況ではない」として、年内の意見集約は難しいとの見通しを明らかにした。中国はカンボジアやラオスに多額の経済援助を行い切り崩しを図っている。【11月4日 毎日】
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政権過渡期の首脳が顔をそろえる会議
首脳会議には緊張関係が続く日本・中国・韓国の首脳も参加しますが、三国とも重大決定がしにくい「政権過渡期」(あるいは“レームダック”状態)にあり、首脳会議での新たな展開もなさそうです。

****ASEAN 「政権過渡期」の首脳らが出席…進展見込めず****
日本 野田佳彦首相/中国 温家宝首相/韓国 李明博大統領
東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が17日、カンボジアの首都プノンペンで開かれ、東アジアサミット(EAS、20日)で締めくくられる一連の関連会議が始まった。中国の温家宝首相、野田佳彦首相ら政権過渡期の首脳が顔をそろえる会議は、レームダック(死に体)の色彩がにじみ、南シナ海の領有権問題も進展がないまま、今年1年の幕を閉じる。

レームダック状態にある首脳は、習近平氏を総書記とする中国共産党の新指導部発足に伴い、退任が決まった温首相、解散・総選挙に踏み切った野田首相、来年2月に任期を終える韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領だ。

南シナ海問題の平和的解決へ向けASEANはこの1年、法的拘束力がある「行動規範」の草案をまとめ中国に提示し、規範の策定を強く働きかけてきた。だが、規範に手足を縛られるのを嫌う温首相は「ボールをASEANに返さず、テーブルに着こうとしない」(フィリピン外交筋)という姿勢を貫いてきた。

そのうえ退任が決まり、ASEANなどには「少なくとも来春に習氏が国家主席に就任するまで、事態は動かない。誰も中国を交渉に引き込むことも、南シナ海での実効支配をやめさせることもできない」(外交筋)との無力感が漂う。習氏の国家主席就任以降、「中国はこれまで以上に強い姿勢に出てくるだろう」との懸念もある。

温首相とは対照的に意気揚々と乗り込むのが、再選されたオバマ米大統領だ。会議への出席に先立ちクリントン国務長官、パネッタ国防長官と役割分担し東南アジアを歴訪、テコ入れした。一連の会議でも米国のアジア・太平洋地域、ASEANへのいっそうの関与強化と、対中再均衡戦略が際立つことになりそうだ。

こうした米中の変化をにらみ、ASEAN内には「米中のせめぎ合いは来年、一段と高いレベルになるだろう」(会議交渉筋)との見方が強い。このためインドネシアは、中国の交渉拒絶による事態の膠着(こうちゃく)化もあり、17日の外相会議などで当面の措置として、南シナ海における不測の武力衝突に備え、関係国間に「ホットライン」を開設することを提案した。

一方、親中派のカンボジアは今回の会議をもって、ASEAN議長国の役目を実質的に終える。中国の意に沿った仕切り役も「無事に」果たしたことになる。【11月18日 産経】
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実際、18日の首脳会議での進展はありませんでした。
****ASEAN:首脳会議 南シナ海問題踏み込んだ議論なし****
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が18日、カンボジアの首都プノンペンで開かれた。中国と一部加盟国が領有権を争う南シナ海問題を巡り、策定作業が難航する紛争防止の規則「行動規範」については協議の継続で合意しただけで、踏み込んだ議論はなかった。

ASEAN外交筋によると、発表予定の議長声明では、当初案には明記されていた「南シナ海で航行の自由を尊重する」など、中国側には不都合な文言が削除される。

本会議終了後、ASEANのスリン事務局長は「(各国首脳は)行動規範策定に向けた協議を続けていく重要性を確認した」と強調。しかし、議長声明には「早期策定」という文言を盛り込まない方向で議論が進んでおり、中国側との本格交渉開始のめども立たない。(後略)【11月18日 毎日】
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日中韓の関係も、恒例会議が見送られ、膠着状態が続きそうです。
****日中韓首脳会談が見送り ASEAN会合****
18日にカンボジアで始まる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議の場で、恒例の日中韓3カ国による首脳会談が見送られることになった。
北東アジアの安全保障や経済協力を話し合うため1999年からほぼ毎年開かれてきたが、尖閣諸島国有化に対する中国の反発が影響したとみられる。日中首脳会談も開かれないことになった。

外務省によると、日中韓関連の会議の今年の議長国は中国だが、首脳会談を調整する連絡がないという。日中韓では自由貿易協定(FTA)の年内交渉開始という懸案があり、3カ国は経済貿易相会合を開くことも検討している。【11月16日 朝日】
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中国政府が経済協力へ動き始めた可能性?】
ただ、上記記事にもある自由貿易協定(FTA)については中国側が前向き姿勢を見せており、“中国政府が経済協力へ動き始めた可能性”への言及も見られます。

****日中韓FTA交渉開始へ…中国が前向き姿勢****
20日にカンボジアで行われる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の閣僚級会合で、日中韓3か国の自由貿易協定(FTA)の交渉開始が宣言される見通しとなった。

中国商務省の梁文トウアジア局副局長が17日、北京で記者会見し、「必要な準備は基本的に終わった。3か国とも積極的に準備している」と前向きな姿勢を見せたためだ。
野田首相が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に意欲をみせていることや、日中関係悪化が中国経済にも悪影響を与えていることから、中国共産党の党大会が終了したのを機に、中国政府が経済協力へ動き始めた可能性がある。

閣僚級会合には枝野経済産業相らが出席するが、日中韓の3か国首脳会談は開かれない。中国外務省の傅瑩次官は、「日程がきつく、期間が短い」と説明した。【11月18日 読売】
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ベトナム  経済失政で、議員が首相に退任を促す 20歳女子大生の政府批判ビラまき事件

2012-11-17 22:03:25 | 東南アジア

(ベトナム当局に逮捕されたグエン・フォン・ウエンさん 食品産業大学での様子だそうですhttp://www.rfa.org/vietnamese/in_depth/reaction-from-family-against-student-nguyen-phuong-uyen-s-arrest-10162012154755.html より)

【「謝るだけでなく本当の責任をとるときだ」】
日本企業の海外進出先としても注目されているベトナムですが、不動産バブル崩壊による経済危機、共産党独裁政権下における政府と企業の癒着など、ベトナム経済の問題点が表面化し経済成長も鈍っていること、また、政治的には、共産党の一党独裁下で言論統制を続いており、ネット空間で体制批判が広がる現状に対して、当局側が政府批判ブログの摘発を強化していることは、9月26日ブログ「ベトナム  経済減速と相次ぐ大手企業の不祥事 ネット社会へ厳しい言論統制」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120926)で取り上げたところです。

今日も、その話の追加・補充といったところですが、経済問題に関しては、共産党一党支配の政治体制内部からも政権批判が出ているという興味深い記事がありました。

****ズン首相に公然と退任迫る ベトナムで異例の国会質疑****
共産党が一党支配するベトナムの国会で14日、グエン・タン・ズン首相が議員に退任を促される異例の場面があった。テレビで中継された一般質疑の場で、経済低迷の責任を問われた。首相は先月、国会で経済政策の誤りを認めるなど、厳しい状況が続いている。

発言したのは、ズン・チュン・クック議員。経済が低迷している問題などを念頭に、ズン首相に「あなたは党に重い責任を負っているが、国民への責任は軽いのか。謝るだけでなく本当の責任をとるときだ」と詰め寄った。ベトナムに「辞職の文化を」とも述べ、穏やかな口調ながら退任を促した。別の議員からは「経済立て直しの失敗が、党の指導力への信頼を損なっている」との批判も出た。
ズン首相は「私はこれまでと同様、真摯(しんし)に遂行していく」と述べた。

ベトナムは共産党一党制。グエン・フー・チョン党書記長を筆頭に、チュオン・タン・サン国家主席、ズン首相のトップ3人を中心とする集団指導体制をとる。国会は500人の議員で構成。首相に対して議員が公然と辞任を迫るのは極めて異例だ。

ベトナム経済は今年上半期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比約4・4%で過去10年の最低水準となるなど低迷。最近は、国営の造船会社や海運会社で経営破綻(はたん)や汚職事件が相次ぎ、党内外で経済政策のかじ取りを問題視する声が高まっていた。

批判に対し首相は、10月22日の国会での政府報告で「政治的責任を深刻に受け止め、政府の弱点と欠点を誠実に認める」と述べ、自ら責任を認める異例の発言をしていた。ズン首相は5年任期の2期目。【11月16日 朝日】
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どのような政治事情が背景にあるかは全く知りませんが、政権批判が議会で公にされること自体は、共産党大会での閉鎖的な権力闘争が連日のように報じられている同じ共産党一党支配の中国の政治状況に比べれば、好感が持てる感はあります。

【「システムの内側にいなければ、機会はない」】
ベトナムの経済不振(といっても成長率は5%超で、日本にすればうらやましい数字ではありますが)の根幹には共産党独裁政権下における政府と企業の癒着、それに伴う非効率性があります。
この点においては中国も同様であり、改革開放にしろ、ドイモイにしろ、赤い資本主義の構造的宿命のような問題です。

****ベトナム経済、落とし穴 銀行改革も成長鈍化、海外投資は周辺国へ流出 ****
ベトナムのコーヒー農家のレ・ティ・ドーさんは6LDKタイプの自宅の屋根を見上げてから、傍らの小さな家を指差した。「以前はこちらに住んでいた」

ドーさんの人生は、1954年にフランスが撤退してからのベトナムの運命そのものだ。
国が南北に分断されると、彼女の一家は南ベトナムへ逃れた。その後は戦争を生き抜き、共産体制下で苦難の10年を過ごし、農業に従事する。86年に経済開放路線が導入されると、コーヒー農家に転向。経済成長率が5年で3倍に上昇するなか、事業は成功を収めた。

 ◆中小融資は消極的
ベトナムでは、ドーさんをはじめ数百万人に恩恵をもたらした経済成長が鈍化しはじめている。通貨の下落に伴い、燃料費、原材料費、賃金が高騰。銀行は国営の大企業に資金供給を行う一方で、中小企業への融資には消極的になっている。
2008年の成長率は7年ぶりに7%を下回り、政府試算によると、今年は99年以降で最も低い5.2%にまで下落する可能性がある。

ドーさんは「今年はみんなにとって大変厳しい年だ。耕作の資金が必要だが、限られた銀行融資しか受けられない。良いコネがあれば融資が受けられるのだが、そうでなければごく少額の融資が受けられるかどうかだ」と話した。ドーさんは収穫労働者の賃金を20%増の日給12万ドン(約460円)に引き上げる必要に迫られた。

20年にわたって発展を続けたベトナムは、所得とコストの上昇が生産性の上昇ペースを上回る、中所得経済のわなに陥る危険性がある。政府は銀行改革、腐敗抑制、民間部門の再編を誓っているが、実現には数年かかるかもしれない。このことから投資がフィリピンやインドネシアなど、東南アジアの成長著しいライバル国に流れる動きが加速している。

政府発表によると、ベトナムへの海外直接投資(FDI)は12年1~9月に前年同期比28%減少した。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、マレーシアとインドネシアへのFDIは11年に31%超増加。ミャンマーに至っては89%増加したと見積もられている。ベトナムは7%の減少だった。

AIMキャピタル・マネジメントのマーク・ギリン氏は「とりわけ大きなミャンマーをはじめ、インドネシアやフィリピンといった国々への世界の投資意欲は、ベトナムのパフォーマンスが期待よりも低かったことに対する幻滅に基づいている部分がある。労働倫理と国民の活力を考えれば、ベトナムは今よりずっと良くなっていなければならない」と話した。

 ◆法整備や規制導入
ハーバード大学ケネディ行政大学院のベトナムプログラムのエコノミスト、ジョナサン・ピンカス氏は「政府は経済改革に向けてさらなる施策を行い、持続可能な高成長を再び達成する必要がある。機関・法制度の整備、金融機関監督規制の導入といった難しい部分に取り組まなければならない」と述べた。

政府は成長持続と所得格差縮小に向けて、銀行と多額の融資を受ける国営企業との関係を通して肥大した非効率性に対処すると誓っている。
出版社、レ・メディア・ジョイント=ストックの最高責任者、レ・クオック・ビン氏は「システムの内側にいなければ、機会はない。銀行と親しくなければ、借り入れはほぼ不可能だ。国営企業と親しくなければ、契約を勝ち取ることは難しい」と話した。

ハーバード大学ケネディ行政大学院が1月に発表した政策リポートによると、国営銀行が国営企業に貸し付けを行うよう政治的圧力にさらされることがよくあるという。国家銀行(中央銀行)のグエン・バン・ビン総裁は4月、一部銀行の不良債権比率が報告よりもかなり高い可能性があると指摘した。中銀は3月末時点の不良債権比率を8.6%と見積もった。

ビン総裁は、既得権益を持ち、銀行改革に反対する団体による違法行為に断固たる措置をとると宣言している。7日に政府のウェブサイトに掲載されたインタビューで同総裁は「1つの銀行の業務を操作することが、システム全体に影響を及ぼす可能性がある。ベトナムの銀行システム再編プロセス全般において、グループの利益が最大の障害である」と語った。(【10月23日 SankeiBiz】
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労働コストの上昇、「システムの内側にいなければ、機会はない」といったコネ社会、国営銀行から国営企業への非効率な融資・・・やはり中国にも共通する問題です。

【「政府に必要なのは情報統制ではなく、きちんとした説明」】
政府による言論統制に関しては、政府批判ビラをまいた容疑で20歳の女子大生が逮捕される事件が報じられています。

****ベトナムの女子大生、政府批判で逮捕 釈放求める声続々****
共産党一党支配下のベトナムで、政府を批判するビラをまいた容疑で20歳の女子大生が逮捕された。釈放を求める意見や署名が海外からも次々とインターネットに寄せられ、政府に不満を抱く人々の象徴的存在になっている。政府側は国営メディアを通じ「逮捕は正当」とする記事を発信し、反論に躍起だ。

「反国家宣伝」の容疑で逮捕されたのは、ホーチミン市食品産業大学3年のグエン・フォン・ウエンさん。国営メディアが伝えた逮捕容疑は、ウエンさんが10月、政府に批判的な団体の指示のもと、南シナ海の領有権問題を巡る中国への対応や土地収用などについて政府を批判するビラをつくり、ホーチミン市の高架道路からまいた、というもの。

10月、地元の警察当局が逮捕状をとって身柄を拘束すると「かわいそう」「慈善活動にも熱心だった」「早く帰ってきて」などの声がネットなどで噴出した。若い女性が反国家宣伝の容疑で逮捕されるのは極めて異例だ。父親が「なぜ逮捕されたのかわからない」と心配している様子などが報じられると、釈放を求める109人の同大学生の署名や国家主席あての文書などが、次々とインターネットのサイトに集まった。

ベトナムでは最近、政府をネットで批判したブロガー3人に禁錮4~12年、政府批判の楽曲をつくった音楽家2人に禁錮4~6年が言い渡され、米国政府や海外の人権団体がベトナム政府に対し、表現の自由の尊重を求める意見を表明したばかり。交流サイト・フェイスブックに釈放を求めるページができたほか、海外で暮らす有識者ら144人分の署名がネットに掲載されるなど、波紋は国際的に広がり始めた。

これに対し、今月9日、国営のベトナム通信が「事件の真実」と題するネットの記事を配信。逮捕が海外で批判的に報じられていることを「事実をゆがめている」と強調。ウエンさんが「私の行為は法律に違反し、党や国会に背いた」と自供し、「パソコンや携帯電話、学費をもらうためにやった」と動機を説明していると主張した。ネットの署名リストについても「多くの学生は署名していないと言っている」とし、逮捕は適切だったとした。

国営放送のVOVはネットの日本語や英語、フランス語などのページで同様の内容を報じたが、「供述」はウエンさんが司法当局に拘束された状況で得られたもので、真相はわかっていない。
ネットで署名をしたというベトナム人の男性は「市民はいま、正確な情報を求めている。政府に必要なのは情報統制ではなく、きちんとした説明。我々はネットなどで今後も、言うべきことは表明していく」と話した。 【11月13日 朝日】
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もちろん、政府批判ビラをまいて逮捕されるというのは、日本・欧米の基準からすれば不当な言論統制であることは言うまでもないことです。

ただ、あの国で政府批判ビラをまけば当然に警察沙汰になるだろう・・・ということは、外国人でもあっても容易に想像されることで、20歳の女子大生ウエンさんがどういうつもりで行ったのか、不思議な感じもします。
「かわいそう」「慈善活動にも熱心だった」「早く帰ってきて」・・・というネット上の反応も、そういう問題かな・・・という感もあります。

なお、【NAVERまとめ】(http://matome.naver.jp/odai/2135278202378281901)によれば、“「健康のため中国製を買わないで」と彼女は言ったらしい”とのことで、それなら食品産業大学の学生ということで分かります。
“大学の寮の彼女の部屋に捜査令状もなしに10人の警官が乱入した後に連れ去られた ”とも。
彼女が電柱などに貼ったとされるビラの写真がアップされています。ベトナム語が分かる方はそちらを見てください。

詳細はわかりませんが、別の見方をすれば、20歳の女子大生が安易に(かどうかは分かりませんが)政府批判ビラをばらまいてしまう、その逮捕に「かわいそう」といいた同情が寄せられるというのは、ベトナム社会が変質していることの一端であるとも言えます。
そして事件と反応は、社会の変質・人々の意識の変化と共産党一党支配という硬直的な政治システムが齟齬をきたしつつあることの表れとも見ることもできます。
ベトナムであれ、中国であれ、硬直的な政治システムが国民の意識についていけないという大きな問題なのかもしれません。

【“若い国”ベトナムへの投資熱は高まる一方
なお、日本企業、特に小売り・サービス業の“若い国”ベトナムへの熱い視線は今も変わりがないとのことです。

****若きアジア 流通を魅了 カンボジア・ベトナム 進出熱衰えず****
ファミマ出店加速
一方、隣国ベトナムでは、外資小売業の多店舗展開を阻む規制が立ちはだかる。それでも、日系流通業の進出の勢いは衰えを知らない。

最大都市ホーチミン市で27店舗を展開するファミリーマートは、15年に300店、20年に1000店舗を計画し、鼻息が荒い。来年には北部の首都ハノイ進出も狙う。最大の武器は地元の商慣習を知り尽くす2位のフータイとの提携関係にある。フータイによる直営店に加え、昨年7月に設立した「ビナ・ファミリーマート」を通じ、今後は一気に多店舗展開を加速する。

国民の8割が25歳以下 高校生も有望な顧客
25歳以下が80%という若者社会では、高校生も有望な将来の顧客だ。おにぎりに人気アニメのドラえもんをプリントしたり、今後は鍋文化を当て込んだおでんなど、あの手この手で若者の心をつかむ狙いだ。
ベトナムの小売市場は、売上高が約9兆円、年率約20%増の成長が試算される。だが、山下純一ビナ・ファミリーマート社長は「実態はそれをはるかに上回る」と確信している。

ホーチミンの中心街では1人当たりのGDP(国内総生産)は4000ドル、5000ドルの地域もあるのが実情で、「1万ドルのバンコクに追いつくのは時間の問題」との期待は大きい。
福岡市の健康食品通信販売事業のやずやが経営する日系ファッションビル「ZEN PLAZA」の福川資朗社長も「足元の景気は悪いが、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及率やファッションなど若者は流行には敏感でチャンスが大きい」と話す。高島屋も15年に中心街に出店する計画で、投資熱は高まる一方だ。【11月14日 SankeiBiz】
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パレスチナ・ガザ地区とイスラエル ロケット弾攻撃と空爆の応酬

2012-11-16 23:46:41 | パレスチナ

(ハマスのロケット弾 “flickr”より By marsmet543 http://www.flickr.com/photos/71744937@N07/8133370673/in/photostream/

テルアビブ近郊にもロケット弾着弾
パレスチナ・ガザ地区を巡っては、今月10日から3日間、ハマスなど武装組織がイスラエルに向けロケット弾など100発以上を撃ち込み、イスラエル軍兵士4人が負傷。これに対しイスラエル軍はガザを空爆し、住民ら7人を殺害、その後、両者の間で非公式な停戦合意が成立したとみられていました。【11月15日 毎日より】

しかし、イスラエルが14日の空爆で、ガザ地区を実効支配しているイスラム原理主義組織ハマス軍事部門の幹部、アハマド・ジャバリ司令官を殺害したことを受けて戦況は一気にエスカレートし、ガザ地区とイスラエルの間で双方の報復攻撃が続いています。

****ガザ地区:イスラエル空爆続行 ハマス応戦 死者21人に****
イスラエル軍は16日、前日に続きイスラム原理主義組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザを空爆した。ハマスもロケット弾で応戦しており、14日以降の死者は双方で子供を含む計21人に上った。AP通信によると、イスラエルはガザとの境界近くに戦車などの部隊を移動させ、予備役兵士3万人のうち1万6000人の招集を開始。地上戦への備えを強めている。

イスラエル軍は14日以降、ロケット弾の発射施設150カ所を含む少なくとも450カ所を空爆した。パレスチナ自治政府の内務省の庁舎にも着弾。一連の空爆によるパレスチナ人の死者は18人となった。

一方、ハマスも14日以降、イスラエル領内に向けて約280発のロケット弾を放って反撃しており、15日にはイスラエル人3人が死亡した。ガザ北方約70キロにあるイスラエル最大の商業都市テルアビブにも2発が飛来し、1発は人家のない郊外に着弾、残る1発は海に落ちた。

テルアビブが攻撃を受けるのは、91年の湾岸戦争で当時のイラクのフセイン政権が発射したスカッドミサイルが着弾して以来。08〜09年にイスラエル軍がガザを攻撃した際には、ガザからの反撃はテルアビブには及ばなかっただけに、ハマスの軍事力の強化が実証された格好だ。

戦闘が激化する中、エジプトのカンディール首相は16日、ガザ地区を訪問し、ハマスのハニヤ最高幹部と会談した。ガザ市内の病院で、空爆によるパレスチナ人犠牲者を弔問した後に記者会見したカンディール氏は、「戦闘の激化を止め、停戦を実現するための努力を強めたい」と語った。

アラブ諸国は停戦に向けた働きかけを強めており、サウジアラビアのアブドラ国王は16日までにエジプトのモルシ大統領と電話で対応を協議し、戦闘の激化を避けるよう訴えた。またチュニジア政府は16日、アブデッサラーム外相が17日にガザを訪問すると発表した。【11月16日 毎日】
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イスラエル軍の空爆については、450か所を空爆してパレスチナ人の死者は18人ということであれば、亡くなられた犠牲者には非常に失礼な言い方になるかもしれませんが、攻撃目標を明確にとらえた精度の高い攻撃が行われているとも言えます。
このあたりの情報収集・攻撃力は、さすがに百戦錬磨のイスラエルです。
この空爆で、ガザ地区武装勢力のロケット弾攻撃力を相当なダメージを受けているのではないでしょうか。

一方、パレスチナ・ガザ地区からの攻撃については、“イスラエル軍は、ガザ地区の武装勢力から380発以上のロケット弾を打ち込まれ、うち274発はイスラエル南部に着弾したが、112発は同国の防空システム「アイアン・ドーム(Iron Dome)」で迎撃したと発表した。” 【11月16日 AFP】とのことです。

「アイアン・ドーム」(Iron Dome)はイスラエルのRafael社が開発中の迎撃ミサイル・システムです。
“捕捉・追跡レーダーが敵のRAM(ロケット弾、砲弾、迫撃砲弾)を検知して、BMC(Battle Management & Control)と呼ばれる射撃統制装置に知らせる。BMCはそれが自陣営に有害と判断すれば、垂直ミサイル発射機に迎撃ミサイルの発射を指令する。迎撃ミサイルは捕捉・追跡レーダーとBMCによって中間誘導され、最終段階では自らのレーダー・シーカーで目標を捕らえて接近し弾頭を起爆して目標を破壊する”【ウィキペディア】

対象は、ロケット弾、砲弾、迫撃砲弾・・・ということで、ミサイルだけでなく飛んでくるものなら何でも撃ち落としてしまおうというシステムです。
迎撃するのは、人口密集地域に向かうと判断されたものだけになります。
「アイアン・ドーム」に迎撃されずに“274発はイスラエル南部に着弾”ということですが、予測される着弾地から迎撃の必要がないと判断されたものも多く含むのではないでしょうか。
イスラエル南部での最初の実戦においては、迎撃成功率は85%に達したとされています。

なお、イスラエルは「アイアン・ドーム」に加えて、弾道弾迎撃ミサイルである「アロー2」、更に日本でもお馴染みの「パトリオット」も配備して防空体制を固めています。
「アロー2」はパトリオットミサイル発射システムとの相互運用性を持ち、アローで撃ちもらしたターゲットの弾道データをパトリオットの発射システムに渡して迎撃を引き継がせることが可能となっているそうです。

しかし、「アイアン・ドーム」のような高性能防備にもかかわらず、上記記事にあるようにガザ地区からのロケット弾がガザ北方約70キロにあるイスラエル最大の商業都市テルアビブ近郊に着弾し、イスラエル国内に衝撃が広がっています。
ガザ地区武装勢力の軍事力もイランなどの支援を受けて強化されているようです。

****イスラエル、ガザ地区への攻撃を継続 テルアビブにもロケット弾****
・・・・ハマスはイスラエル南部にロケット弾を打ち込み、これまでにイスラエル人3人が死亡、19人が負傷した。テルアビブのすぐ南の海にもロケット弾1発が落下し、これはガザ地区からのロケット弾としては、これまでで最も遠くまで飛んだ砲弾となった。

ガザ地区のイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」は、このロケット弾は自分たちが打ち込んだイラン製のファジル5だと発表した。テルアビブではサイレンが鳴り響き、テレビは避難しようと走り回る人たちの姿を放送した。
イスラエルの報道によると、テルアビブに砲弾が発射されたのは、イラクがスカッドミサイルを打ち込んだ1991年の湾岸戦争以来だという。(後略)【11月16日 AFP】
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イラン製「ファジル5」は、75kmの長射程ロケット弾で、レバノンのヒズボラも保有していると言われています。

【“強い姿勢”をアピールするイスラエル
“イスラエルのバラク国防相は15日、予備役3万人の招集を認め、ネタニヤフ首相は「市民を守るために必要な全ての行動を取る用意がある」と改めて強調した。今後、地上作戦を含めイスラエル軍の攻撃がさらに強化される可能性がある”【11月16日 時事】、“ハマスのメシャール政治局長は15日、訪問先のスーダンの首都ハルツームで演説し、「イスラエルはアラブ圏の変化におびえている。イスラエルが何でもできる時代は終わった」と牽制した。”【11月16日 朝日】と、イスラエル側・ハマス双方とも1歩も後にひかない構えです。

イスラエルの今回作戦の背景としては、国内総選挙に向けて“強い姿勢”をアピールする狙いがあると言われています。
イスラエル・ネタニヤフ首相はイラン攻撃主張などで十分に強硬姿勢のように見えますが、イスラエル国内では対ハマス姿勢が「弱腰だ」と政界でたたかれていたとのことです。

“イスラエルは空爆の理由を「ガザからのロケット攻撃の激化」とするが、背景には来年1月に控えた総選挙がある。ネタニヤフ首相にとってハマスに厳しい態度で臨むことで支持を得やすくなる。
もう一つは、ハマスを支援するイランの存在だ。核開発を進めるイランに対して単独攻撃も辞さない構えを見せるネタニヤフ氏は、ハマスを最も近くにいる「イランの代理人」として敵視。先月23日には、イランの監督下で武器を製造し、ハマスに密輸していたとされるスーダンの工場をイスラエルが空爆したとも報じられた。
ガザ攻撃は、イランからの武器流入が継続しているとみて、機先を制する狙いもありそうだ”【11月16日 朝日】

今後、イスラエル地上軍がガザへ侵攻し、戦火が更に激化することになれば、内戦状態が収まらないシリアのアサド政権、欧米の経済制裁で経済状況が悪化し、イスラエルからの核施設攻撃を警戒しているイランが(パレスチナ支援の大義を掲げながら)自国の状況打開のため敢えてミサイル攻撃で参戦し、アラブ・イスラム国家対イスラエルという構図を作り出す・・・ということも可能性がない訳ではないのでは。

混乱拡大を回避したいアメリカ、エジプト
イスラエルを抑制できる立場にあるのはアメリカですが、イスラエル・ネタニヤフ首相と再選をはたしたアメリカ・オバマ大統領は“反りが合わない”と言われています。ネタニヤフ首相はアメリカ大統領選挙ではロムニー候補に肩入れする姿勢を見せていました。

****ロムニーに肩入れしたネタニヤフの苦境****
イスラエルのネタニヤフ首相はオバマ米大統領の再選について、両国の戦略的提携は「ますます強固になる」と外交儀礼上、最低限の祝辞を述べた。だが以前からオバマと反りが合わないネタニヤフは選挙戦の間、対立候補である共和党のロムニーに肩入れしており、それはアメリカ側にも明らかだった。

仕返しにオバマは、パレスチナとの和平交渉などでネタニヤフに厳しい立場を取るのではないか、との声がイスラエルにはある。来年1月のイスラエル総選挙でネタニヤフが勝利するのを、オバマが阻もうとする可能性まで懸念されている。

「ネタニヤフはアメリカ大統領選で1人の候補者に賭けるという大きなリスクを冒し、その賭けに負けた」と、イスラエルの政治評論家ラビブ・ドルッケルは語る。
ネタニヤフ自身は一方の候補を応援していたことを否定。連立政権の一部メンバーは、オバマの勝利を歓迎すると語った。

総選挙では、ネタニヤフ率いる与党リクードが第1党となり、連立政権がさらに4年間続きそうだ。ただし中道派のオルメルト前首相が立候補すれば、状況は変わるかもしれない。オバマの勝利で、立候補の可能性は高まったと評論家はみている。【11月21日号 Newsweek日本版】
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今回のイスラエルの作戦の背景には、アメリカがイスラエル支持を明らかにせざるを得ない状況をつくることで、アメリカ・オバマ政権とのぎくしゃくした関係を一気に解消しようという狙いもあったのでしょうか。
あるいは、対外危機をつくることで、中道派の態勢づくりを阻止しようとする狙いもあったのでしょうか。

アメリカとしてはイスラエルの軍事行動を容認しつつも、これ以上の拡大を防ぎたい・・・といったところで、エジプト・モルシ大統領とも連絡をとっています。

****ガザ空爆:第一の責任はハマス 市民の犠牲は遺憾…米政府****
緊迫するガザ情勢について、米国は第一の責任はハマスにあり、との立場だ。ホワイトハウスのカーニー大統領報道官は15日、「ガザからイスラエルに向けたロケット弾の集中砲撃を強く非難するとともに、罪のないイスラエルとパレスチナ市民の死傷を遺憾に思う」と語った。

オバマ大統領はイスラエル軍によるハマス軍事部門トップの殺害を受けた14日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、「イスラエルの自衛権への支持」を表明した。また同日、エジプトのモルシ大統領とも電話で話し、事態の沈静化と地域の安定のためエジプトが中心的役割を果たすよう求めた。
米国はイスラエルの軍事攻撃を容認しつつも、必要以上の空爆や地上戦の展開は、パレスチナ市民の犠牲を増やすことになると懸念している。【11月16日 毎日】
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微妙なのはエジプト・モルシ政権の立場です。
基本的には、ハマスを生んだムスリム同胞団が出身母体ですし、エジプト国内には反イスラエル感情が強く存在します。
しかし、パレスチナの混乱が自国に波及するのは困りますし、財政的支援を受けるアメリカからの要請も無視できません。

****ガザ地区:エジプト首相が訪問 停戦仲介の糸口探る****
イスラエル軍の大規模攻撃が続くパレスチナ自治区ガザ地区に16日、カンディール首相を派遣したエジプトのモルシ政権。

表向きの目的は、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへの「連帯」を示すことだが、停戦仲介の糸口を探る狙いもあったと見られる。戦闘の激化が続けば、エジプトも含め、昨年の民主化要求運動「アラブの春」で不安定化した中東諸国に争乱が飛び火する懸念があるからだ。
ただ、カンディール氏の訪問中、イスラエル側がエジプトの要請で受け入れた一時停戦は、ガザからの攻撃が続いたこともあって実現せず、仲介の困難さを浮き彫りにした。

エジプトのモルシ大統領は、ハマスの源流の穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が出身母体で、パレスチナ寄り。今回の軍事衝突でもイスラエルの空爆を「残虐な行為」と非難、14日に駐イスラエル大使を召還した。
こうした対応は、ムバラク独裁政権が昨年2月に崩壊した後に台頭した親パレスチナのイスラム勢力などの国内世論に配慮する必要性も反映している。

一方で、モルシ政権は79年にイスラエルと結んだ平和条約は維持する方向で、バランスを取りながら現実的な対外政策を模索している。これは、イスラエルの後ろ盾である米国からの13億ドルの軍事援助などが「革命」で弱体化した経済の回復に必須だとの判断からだ。オバマ米大統領は14日のモルシ氏との電話協議で、ガザ情勢沈静化のための働きかけを求めた。

カンディール首相の派遣は、「連帯」を演出して親パレスチナ世論を納得させ、影響力を行使してハマスを抑え、イスラエルの攻撃強化をけん制する狙いがあると見られる。

ただ、来年1月に総選挙を控えるイスラエルのネタニヤフ首相も、ハマスの攻撃が続く以上「国民を守る指導者」の看板は下ろせない。イスラエル紙ハーレツは、ネタニヤフ氏は対ハマス姿勢が「弱腰だ」と政界でたたかれていたと指摘。今回の作戦は野党勢力も評価しており、後には引けない状態になっている。【11月16日 毎日】
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強硬姿勢・報復を求める国内世論のために政治指導者も“後には引けない”というのは、戦火拡大の典型的パターンです。
そうした愚行を繰り返すことのないように望みます。
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アメリカで拡大するシェールガス革命 日本への影響 国際関係・温暖化対策・原発政策にも影響

2012-11-15 23:08:45 | アメリカ

(カナダのシェールガス採掘現場 “flickr”より By Nexen Inc. http://www.flickr.com/photos/nexeninc/5740674035/

日本のLNGは15ドルほど アメリカのガスは3~4ドル
日本では東日本大震災後による原発停止で、火力発電所の燃料として液化天然ガス(LNG)の輸入が急増していること、しかし、その輸入LNGの価格がかなり高く、日本全体としてかなりの負担を強いられている(需給がひっ迫するなかで、日本は高値のLNGをつかまされている・・・)ことはよく耳にする話です。

経済産業省は、その液化天然ガス(LNG)の先物取引市場を2014年度にも創設することを発表しています。

****LNGの先物市場創設へ 14年度、世界初****
経済産業省は13日、液化天然ガス(LNG)の先物取引市場を2014年度にも創設すると発表した。資源会社や商社、金融業者ら関係者を集めた協議会の初会合を14日にも開き、東京工業品取引所での市場開設をめざす。LNGに特化した先物市場は世界初。

どのような価格指標を使うかや、LNGの受け渡しをどうするかなどを検討し、来年3月をめどに報告書をまとめる。LNGの先物市場は、枝野幸男経済産業相が9月、LNGの安定供給を話し合う国際会議で創設を表明していた。

日本はLNGの最大の輸入国。東日本大震災後に原発が停止したため、火力発電所の燃料として輸入が急増した。経済成長が続く東アジアでも、需要が大幅に増える見込みだ。

だが、アジアでのLNGの取引価格は高止まりが続き、北米との価格差が広がっている。原油に連動して価格が決まっているためだ。経産省はLNG市場を新設することで取引慣行を改め、価格を引き下げることを目標に掲げている。日本に次いでLNGの輸入量が多い韓国などにも将来、参加を呼びかける方針だ。 【11月14日 朝日】
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こうした方面の知識が全くない門外漢にとっては、今まで市場がなかったというのが不思議な感もありますが、そもそも世界の天然ガスの9割は陸続きのパイプラインで売買されており、液化してLNGになるのは1割にすぎないということで、LNGは商品的にはやや特殊な存在のようです。

しかも、2010年時点で全世界のLNG輸入の約3分の1(32%)を日本が占めています。最近の日本の輸入増加を考えると、今は日本の比率はもっと高くなっていると思われます。(2位は韓国で15%)
こうした事情もあっての日本・経済産業省は音頭をとっての先物市場づくりということのようです。

一方で、アメリカではシェールガスの大増産により、ガス価格が大幅に下がっているとも聞きます。
そうしたアメリカにおける価格下落と日本が輸入するLNGの高値の関係については、下記記事が説明しています。

****天然ガス価格、なぜ日米で違う? 日本は過去最高水準に****
日本が4~9月に輸入した液化天然ガス(LNG)の価格は前年より15%上がり、過去最高だった。ところが、米国では下がっている。同じ天然ガスなのに、日米で価格が違うのはなぜ?

財務省の貿易統計によると、4~9月に日本が輸入したLNGの額は3兆円。前年同期より24%増えた。原発が動かないので、輸入量が約4230万トンと9%増えたうえ、価格が上がったことが響いた。
ガスは種類によって熱量が違う。このため、価格を比べるときは「100万BTU(英国熱量単位)」という単位で比べる。1単位当たりでみると、日本のLNGは15ドルほど。ところが、米国のガスは3~4ドルだ。ガスを液化して船で運ぶ費用6ドルを加えても10ドルほどで、日本より安い。

価格がこんなに違うのは、天然ガスは気体での取引が多く、LNGと市場が分かれているためだ。世界の天然ガスの9割は陸続きのパイプラインで売買されている。一方で、液化してLNGになるのは1割だ。

米国では、シェールガスといわれる新しい天然ガスの生産が増え、価格が下がっている。「アジアで高いガス価格が米国では落ちている。シェールガスの革命は止まらない」。英石油大手BP社のクリストフ・ルール氏は10月に東京都内であった講演会でこう話した。

LNGの価格の決め方も影響している。LNGは、原油のような国際相場がないため、原油を指標にした長期契約で買うのが一般的。原油とともに上がり、ガス生産の増えた米国との価格差が開いた。
「価格は数年おきに産ガス国と交渉して決める。資源価格が高いと、産ガス国も強気に出る」と大手商社幹部は話す。LNGは原油価格に一定比率をかけて計算する。交渉した時期や国によって比率が違い、同じLNGでも価格は輸入先によって違う。

価格が下がらないのは、燃料費の調整制度で、ガスを最も多く買う電力会社が消費者に簡単に価格転嫁できるという事情もある。国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男・前事務局長は「電力会社は地域独占で、安く調達するインセンティブ(動機付け)がなかった」と改革の必要性を指摘する。

価格を引き下げるため、政府が期待するのが米国からの輸入。ただ、実現は早くて2016年ごろで、「米国の安値はいつまでも続かず、輸入量は限られる」(大手商社)との見方もある。

米国では、ガス価格の下落で火力発電の費用が下がり、原発が割高になっている。米エクセロン社は8月、計画中の原発新設をやめた。米ドミニオン社は10月、2033年まで運転が認められている稼働中のキウォーニー原発を「経済性を失った」として廃炉を決めた。 【11月14日 朝日】
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アメリカ産ガスの輸入は?】
当然の話として、日本は安価なアメリカ産天然ガスの輸入を望んでいますが、アメリカは安価な天然ガスの輸出については、自国利益を考慮して慎重な姿勢をとっています。

****アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか*****
(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。

これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。
私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。
(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。

だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。(後略)【フォーリン・アフェアーズ リポート 2012年9月】
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アメリカ国内でも、日本へのガス輸出を求める動きが出ています。

****天然ガス輸出承認を=政府に要請、日本に追い風―米議員団****
米下院の超党派議員団は6月29日、米エネルギー省のチュー長官に書簡を送り、液化天然ガス(LNG)の輸出承認手続きを加速するよう要請した。

シェールガスと呼ばれる頁岩(けつがん)層に埋蔵された天然ガスの産地を選挙区に持つ議員が中心で、原発停止を受け代替エネルギーとして米政府に天然ガスの輸出承認を働き掛けている日本にとって追い風となる。

天然ガスの輸出をめぐっては、これまで米議会では輸出拡大による国内価格の上昇などを懸念し、慎重な対応を求める声が目立っていたが、今回の書簡送付は輸出賛成派による初めての表立った行動と言えそうだ。【6月30日 時事】
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“輸出承認手続きを加速”ということで、アメリカ産天然ガス輸入が現在全く認められていない訳ではないようです。

****米国産シェールガス輸入へ 大阪ガスと中部電****
大阪ガスと中部電力は、米国産シェールガス(岩盤層にある天然ガス)を輸入する契約を米国企業と結んだ、と31日発表した。2017年からそれぞれ最大年220万トンを輸入する。

大阪ガスが出資している米国の液化天然ガス(LNG)会社「フリーポート」の子会社と契約した。今回の契約で確保したガスの価格は原油価格に連動せず、東南アジアや中東から輸入しているLNGと比べ3~4割安いという。
大阪ガスは「多様な調達先を持つことで購入時の価格交渉もしやすくなり、ガス料金の値下げや供給の安定化につながる」としている。【7月31日 朝日】
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今後の動向は、【フォーリン・アフェアーズ リポート】にあるようなアメリカのエネルギー政策、【6月30日 時事】にあるようなアメリカ国内のガス産出地の議員団などの働きかけのほかに、現在の最大の輸出国カタールなどのガス産出を担っているエネルギー関連巨大企業・石油メジャーが、安価なアメリカ産ガス輸出による価格下落を座視するか・・・という側面もあります。

これまで天然ガス取引で利益を挙げてきたシェル、BPなどの石油メジャーは、アメリカ以外でのシェールガス産出に一定の投資はしていますが、その生産を加速させる動きはなく、むしろ生産を抑制することで現在の高値水準を維持しようという思惑が見られるとも言われています。【選択 11月号より】
当然にアメリカ政界への働きかけも行っているでしょう。

ただ、アメリカのシェールガス増産・価格下落でアメリカ国内の発電用石炭が天然ガスに変わり、余った石炭が安値で欧州に輸出され、欧州ではロシアからの高い天然ガス輸入を減らし、ロシアは欧州に変わる天然ガスの販路として日本にアプローチする・・・というように経済は互いに連動しながらダイナミックに変動していきます。
政治力もある巨大企業石油メジャーと言えども、一時的ならともかく、長期にわたってそうした流れを止める力があるか・・・個人的には疑問です。止めようとすれば、必ずその網をくぐりぬけて利益を得ようとするものが出てくるものです。

アメリカ:中東依存を脱却し、「エネルギーの自給」へ
アメリカのエネルギー資源事情は、シェールガスの登場で様変わりしているようです。
シェールガスに加え、油分を含む頁岩「オイルシェール」から得られるシェールオイル産出の技術により、大幅な増産が進み、2020年ごろまでにはサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になるだろうと推測されています。

****シェールオイル、米国変える 20年後には「脱中東***** 
世界最大の石油消費国である米国が、その輸入で「脱中東」を果たす見通しになった。国際エネルギー機関(IEA、本部パリ)が明らかにした。岩盤層からしみ出す米国産「シェールオイル」の増産が続き、2030年代前半には南北アメリカ内で全量調達できるという。

■米州内で自給 実現へ
(中略)
米国の石油(天然ガスが由来の液体燃料などを含む)消費は11年、日量1880万バレルだった。840万バレルは輸入でまかない、うち2割以上を占める184万バレルをサウジアラビアなど中東諸国に依存していた。

(IEAの首席エコノミスト)ビロル氏によると、減少傾向をたどり始めた米国の輸入は20年に600万バレル程度になり、35年までには400万バレル未満となるという。

支えは、国産のシェールオイル。現在の日量90万バレルが20年には200万バレルを超え、中東からの輸入分を上回る規模になるとみる。シェールオイルは、国際市場で決まる原油価格が1バレル=50~60ドル以上なら採算があうとされる。IEAは油価が80~100ドルの高止まりが続くと推定しており、開発ペースは衰えそうにない。乗用車やトラックの燃費規制の強化による需要の抑制も輸入減につながる。

残る輸入はカナダやメキシコ、ブラジルなど米州からが大半を占める。カナダでは、シェールオイルのほか、粘度の高い砂岩から石油を取り出す「オイルサンド」の開発も進む。ブラジルでは数千メートルの海底から掘り出す「超深海油田」も見つかった。ビロル氏は「30年代前半には中東依存がほとんどない状態になる」と分析した。

米国は1973年の石油危機以来、経済活動や暮らしに欠かせない石油の中東依存を脱却する「エネルギーの自給」が大きな課題だった。近隣の友好国で政情も安定した米州での「自給」が現実味を帯び、石油不足の心配が小さくなることで、「ガソリンがぶ飲み」の消費国から他国の支え手に回る余力が生まれ、新たな資源外交を探りはじめた。ビロル氏は「エネルギーをめぐる安全保障の国際地図が書き換わるかもしれない」と指摘した。【8月12日 朝日】
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アメリカがエネルギーの実質的自給を確立し、「脱中東」を実現すれば、当然にアメリカの中東戦略も変わってくるでしょう。

温暖化防止、環境汚染、原発政策への影響
そうした「エネルギーをめぐる安全保障の国際地図が書き換わる」という話の一方で、温暖化防止対策として進み始めた「脱化石燃料」の動きが「ガソリンがぶ飲み」状態に戻ってしまう懸念も感じます。
4年前に「化石燃料依存を終わらせる」と訴えていたオバマ大統領も、前回選挙では「あらゆるエネルギー源の開発を進める」という立場に転じています。

短期的には、「シェールガス革命」は温暖化防止にも効果があるとされています。
アメリカは今でも発電の4割を石炭に頼っています。シェールガス増産によって、石炭に比べ発電量あたりの温室効果ガスの排出が約半分で済む天然ガスに切り替えるだけでも大幅な温室効果ガス削減が可能となります。
ただ、長期的には再生可能エネルギー開発の勢いを削ぐ可能性も考えられます。

なお、2011年5月、コーネル大学のHowarth教授は、シェールガスは燃焼時の二酸化炭素だけでなく、採掘時のメタン漏洩も含めると、トータルで石炭に匹敵または超える温室効果があるとする論文を発表し、注目を集めました。これには反論もあります。

また、“シェールガスの採掘に使われる水圧破砕(ハイドロフラクチャリング)という技術は、化学物質を添加された大量の水を地下に圧入することで、ガスが存在する地層にヒビを入れてガスを取れやすくします。その際に使用した水の一部は、地上に戻り一時的に作られたため池に入れられ、処理をして再利用されるか、地下や川などに捨てられます。これらのプロセスにおいて、水質汚染・水不足・地震のリスクが発生します”【4月23日 日経ビジネス】
実際、中国では水不足の問題、欧州では環境汚染の問題からシェールガス開発は進んでいません

また、「シェールガス革命」は原子力発電の動向にも影響します。
福島第1原発事故後、原発の安全性に関する関心が世界的に高まっているのは事実ですが、実際にアメリカで原発計画取り止めに追い込んだ要因は、そうした安全性の問題ではなく、天然ガス価格下落によって原発が発電コスト競争力を失ったという単純明快な話のようです。
アメリカのエネルギー情報局(EIA)が昨年4月発表した数字では、天然ガス火力発電5.2円に対し、原発9.1円となっています。

日本では、エネルギー環境会議が11年12月に発電コスト試算を発表しています。それによれば、天然ガス火力発電10.7円に対し、原発8.9円となっています。
しかし、この数字は現在の高価な天然ガス輸入を前提にしており、今後安価なアメリカ産ガスが輸入可能になれば話は変わってきます。また、原発について十分な安全対策コスト・廃炉コスト・損害賠償コストが反映されているのかという問題もあります。【選択 11月号より】
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イラン制裁で追い詰められるアフガニスタン難民 イランとアフガニスタンの関係

2012-11-14 22:48:50 | イラン

(イランで暮らすアフガニスタン難民の女性 “flickr”より By UNHCR http://www.flickr.com/photos/unhcr/7308014978/)

【「(イランは)アフガン難民に寛容で、国際的義務を十分果たしてきた」】
最近、報道を目にする頻度が減っているようなアフガニスタンですが、アメリカ撤退を睨んで膠着状態といったところなのでしょうか。

そのアフガニスタンからは戦火を避けて多数の国外難民が発生しています。
避難先で一番多いのが隣国パキスタン、次いでやはり隣国のイランとなっています。
イラン政府はアフガニスタン難民にこれまで比較的寛大な対応をとってきたようです。

****イランのアフガニスタン難民****
国連によると、イランはパキスタンに次ぐ世界2位の難民受け入れ国。イラン内務省の統計では正式登録されたアフガン難民は102万人。
イラン政府は現在、新たな難民受け入れを中止しているが、流入は続き、不法難民は推計150万〜200万人。大半は都市部に居住。登録難民は基本的な医療、教育の提供を受けている。不法難民の大半も滞在は黙認されている。【1月27日 毎日】
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しかし、欧米の経済制裁でイラン自身の経済・財政が疲弊するなかで難民保護も難しくなり、イラン国内のアフガニスタン難民の生活も苦しくなっています。

****揺らぐイラン:制裁下の市民は/3 アフガン難民「苦渋の選択」 保護に陰り****
テヘラン北部の山間に小さな住宅が密集するファラザード地区。「建設現場から声がかからなくなった。今月の家賃が払えるだろうか」。アフガニスタンからの難民、バシールさん(31)は子供を抱え、途方に暮れていた。

アフガン西部ヘラートの出身。反政府勢力タリバンが町に入り込み治安が悪化した96年、イランに逃れ、2年後に父や弟らを呼び寄せた。テヘランでアフガン人女性と結婚。2人の子供も生まれ、家族11人で暮らす。「必死に働き、平和でそこそこ幸せだった。しかし、昨年から仕事が急激に減って苦しくなった」。
9月にはイラン通貨が急落し、アフガン通貨に換算すると収入は2年前の3分の1になった。

バシールさんが住むアフガン人居住地区では、この1年で少なくとも約40家族が母国に帰還した。2歳の長女と生後まもない長男を抱えるバシールさんも帰国を考えないではないが「もはやアフガンに頼れる親族はいないし、治安も心配」。子供の将来のため、豪州や北欧など「第三国」への難民申請も検討しているが、認められるケースはまれだ。

79年のソ連侵攻、90年代後半からのタリバンによる実効支配、01年の米軍侵攻。アフガンが混乱するたび、イランとパキスタンは多くの難民を受け入れてきた。イラン内務省によると、昨年7月時点でアフガン難民約102万人を受け入れ、学校教育や医療を提供した。奨学金に支えられ、イランの大学を卒業したアフガン人はこれまでに1万3000人を数える。

しかし、イラン政府が米欧の経済制裁下に置かれるにつれ難民の生活は変わった。政府の財政悪化に伴い、ガソリンや食料の価格高騰を抑止するための事業者への補助金は大幅に削減された。物価高が進み、イラン政府は生活支援のため国民に給付金を支給したが、難民は対象外となった。手厚い難民保護で知られてきたイランはいま、その「余裕」を失いつつある。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イランでは11年、前年比120%増の難民約1万8667人が母国に帰還。今年もすでに8月時点で1万人を突破した。イランからトルコに密入国するアフガン難民も目立ち、数千人規模に達しているという。

ベルナルド・ドイルUNHCR駐イラン代表は特に、アフガン難民の直面する「苦渋の選択」を強調した。
「一般的には難民は母国に帰還するのが望ましい。だがアフガンは現在も情勢が不安定で、仕事や教育の機会も十分ではない。彼らは帰国しても生活の改善は望めない」。
ドイル氏はイラン政府について「長い間、アフガン難民に寛容で、国際的義務を十分果たしてきた」と評価。むしろ米欧の制裁という「外的要因」が弱い立場の難民を追い詰めていく現状に「複雑な思い」を抱かずにはいられないという。【11月14日 毎日】
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イランが「長い間、アフガン難民に寛容で、国際的義務を十分果たしてきた」というのは、欧米社会で根付いたイランの人権抑圧イメージからすると意外な感もあります。

イラン制裁の効果
イランのNGO「子供の権利保護協会」の推計では、街頭でティッシュやガムを売り歩くなど、働く子供は180万人。これまで大半はアフガニスタン難民でしたが、経済制裁によるイラン市民の生活悪化により、この1年間でイラン人の子供が急増したそうです。
「米欧の経済制裁はイランの中間・貧困層を傷つけ、働く子供まで増やす。一方で、政府要人や富裕層には何らダメージを与えない。政府の支持者ではないが、意味のない制裁には反対だ」(上記「保護協会」理事)

一般的には対米で強硬な発言が目立つイランのアフマディネジャド大統領ですが、欧米指導者同様に選挙で選ばれた政治家であり、選挙民の意向を無視できないのも欧米指導者同様です。大統領自身は国内経済状況を踏まえた現実的判断も有しているようにも聞きますが、現在のイラン政治では最高指導者ハメネイ師に近い保守派内の反大統領派の勢力が強く、アフマディネジャド大統領も欧米との妥協・交渉の余地が少ないのが実態のようです。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は10月20日、アメリカ政府高官の話として、イランの核開発問題を巡り、米イラン両国が直接協議に臨むことで合意したと報じました。
また、アフマディネジャド大統領は9月末、米メディアとのインタビューで「米大統領選後、重要な決定が出る可能性がある」と発言しています。【10月21日 毎日より】

しかし、核政策は最高指導者ハメネイ師の専権事項で、大統領の「越権」には批判も多いとされています。
“核政策を取り仕切るハメネイ師は7月以降、原油・天然ガスの輸出に頼った国内経済の構造を改める必要性を強調。「制裁への抵抗力を強めることが発展の唯一の道だ」と説いている” 【10月27日 朝日】

軍事的な手法に比べれば穏やかな経済制裁という手法ですが、外交的妥協が難しく制裁だけが続くとなると、難民や貧困層など一番生活が厳しい人々の暮らしを更に追い詰める性格があります。
制裁の妥当性はその目的との兼ね合いでしょうが、自分たちの核保有は許されるがイランの核開発は認められないという理屈は、核廃絶を国是とする日本の立場からするとしっくりこないもののあります。

イランからタリバン支援
話をイランのアフガニスタン難民に戻すと、イラン政府がこれまで難民に寛容だったのは、人道的配慮だけではなく、イランの国益を踏まえた思惑もあってのことと当然に思われます。

パキスタンが、米軍撤退後のアフガニスタンでカルザイ政権に近いインドの影響力が強まることを懸念して、タリバンへの支援を続けている・・・という話はよく聞きますが、イランのアフガニスタンへの対応については、個人的にはよく理解できていません。

もともとシーア派のイランとスンニ派原理主義のタリバンは、宗教的に対立関係にありました。
1998年には、タリバンがイラン人外交官らを殺害した事件が発生し、両者の関係は険悪になっています。
“1998年8月8日、ターリバーンはドスタム派の幹部を買収して勢力下に入れ、再度マザーリシャリーフを攻撃し、占領した。この際、5000人以上のハザラ人市民が殺害され、イラン総領事館の外交官10人とジャーナリストが殺害された。この攻撃はイランや国際社会から激しい非難を受け、一時は国境地帯にイラン軍が集結する事態となった”【ウィキペディア】

ただイラン制裁が展開されるなかで、アメリカという共通の敵を有する両者は接近、2010年にはイランからタリバンへの武器供与が取り沙汰されるようになります。

****イランのタリバン訓練(米司令官の非難****
イランのアフガニスタンとの関係については、イラン政府の否定にもかかわらず、タリバンを内々支援しているのではないか、という疑惑がつきませんでしたが、31日付のal jazeerah net はアフガニスタンの米軍司令官がイランはタリバンを訓練していると発言したと報じています。

同紙は同時にイランはアフガニスタンの反政府勢力を支援していることはないと否定していること、また両国化の経済関係、特にイランに近いアフガニスタン西部との通商は極めて盛んであることを報じています。

要点のみ
「カブールでの30日の記者会見で米司令官マクレスタル将軍(注:アラビア語からの音訳)は、イランがタリバンのメンバーを訓練していると発言した。
もっとも、将軍は一般的にはイランはアフガン政府を支持していると指摘したが、タリバンに武器を供与したり、兵士を訓練したり、その主張する政策と合わないこともやっていると述べ、このイランのタリバン支援については,NATOは十分な証拠を有していて、武器の密輸防止のために努力していると述べた。
またその訓練はイラン領内で行われ、米軍等が捕獲した兵器にはイラン性が含まれていると指摘した。(後略)【野口雅昭氏「中東の窓」 2010年5月31日】
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カルザイ政権への資金供与も
上記にもあるように、“イランはアフガン政府を支持している”という関係もあります。
“イランは・・・・アフガニスタンについては、その安定・復興を望んでいる。イランには250万におよぶアフガン難民の存在と、アフガニスタンからの麻薬の流入がその背景にある”【ウィキペディア】
イラン南東部はスンニ派住民が多く、パキスタンやアフガニスタンと国境を接し、イラン国内でも貧しい地域である同地では反政府勢力の活動もおこなわれています、そうした反政府活動を刺激しないためにも、イランはアフガニスタンの安定を望んでいるとされます。

アフガニスタンのカルザイ政権への支援も実際に行っており、イランのタリバン支援が話題になった同じ2010年には、イランからカルザイ大統領側近に多額の現金が渡っていることも話題になりました。

****イランがアフガニスタンに現金支援、両国政府認める****
イラン政府は(2010年10月)26日、アフガニスタンの再建支援として同国に現金を渡していたことを認めた。23日の米紙ニューヨーク・タイムズの報道を受け、25日にはアフガニスタンのアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領も側近がイラン側から多額の現金を受け取っていたことを認めていた。

イラン外務省のRamin Mehmanparast報道官は「イランは隣国としてアフガニスタンの安定を深く憂慮しており、アフガニスタンの再建のために多くの支援を行った」と発表。「イランはアフガンスタンの再建と経済開発のために自らの役割を果たしてきたのであり、今後もそうするつもりだ」と語ったが、イランがアフガニスタンに行ってきた「支援」の具体的な内容は明らかにしなかった。

■ニューヨーク・タイムズ紙報道が発端
23日にニューヨーク・タイムズ紙が、カルザイ大統領の首席補佐官、Umar Daudzai氏が、イランから現金を受け取っていると報道。アフガニスタン政府内での影響力拡大がイランの狙いだと伝えた。

これに対し、アフガニスタンのカルザイ大統領は25日、カブールで記者会見し、「多くの友好国が大統領府に行っていることだ」と語り、秘密の資金援助だとしたニューヨーク・タイムズ紙の報道を強く否定した。
カルザイ氏は、イランから年に1~2回、最高で1回あたり現金70万ユーロ(約8000万円)を大統領府への正式な支援として受け取っていたと説明。透明性も確保されていると述べた。

現金を首席補佐官が受け取っていたことについては「わたしが指示したものだ」と述べ、「秘密は何も無い。イランの支援に感謝している。米国も同じことをしている。米国もアフガニスタン政府の高官に現金を渡している」と述べた。

カルザイ氏の会見の直前には、在カブール・イラン大使館がニューヨーク・タイムズ紙の記事について「デタラメでばかげた、侮辱的な」報道だと批判し、「そのような根拠の無い憶測は、一部の西側メディアが、世論を混乱させ、アフガニスタンとイランの強い関係を損なうためにしていることだ」と非難していた。

しかし、ビル・バートン米大統領副報道官は25日、「米国国民と国際社会は、イランがアフガニスタンに悪い影響を及ぼそうとしていることに懸念するに足る理由を十分持っている」と懸念を表明した。
バートン副報道官は、イランには「アフガニスタンの政府を作っていく上で良い影響を及ぼす」責任があると述べ、アフガニスタンを「テロリストが安全な隠れ家を得られたり、攻撃の計画を練ったりできるような国ではないように」しなければならない責任があると語った。【2010年10月26日 AFP】
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カルザイ大統領が認めているように、アフガニスタンへの資金供与は欧米も行っている話ですが、当初イランがこの話を否定したのは、イランからの資金供与がアフガニスタンにおけるイランの影響力を確保し、アメリカやNATO諸国とアフガニスタンとの関係を阻害することにあると報じられたためです。
認める・認めないは別にして、イランからすれば当然の話でしょう。

【「すべての問題は外部によって作られている」】
今年2月には、アフガニスタン、パキスタン、イランの首脳会談が行われています。
それぞれ三者三様の思惑があるように思われますが、共通するのはアメリカへの牽制ということでしょうか。

****イラン、アフガン、パキスタン首脳会合****
アフガニスタン、イラン、パキスタン3カ国の大統領は17日、パキスタンの首都イスラマバードで首脳会合を開き、テロ対策や経済関係の拡大での協力について合意した。欧米が核開発疑惑のかかるイランに圧力をかけるタイミングで、米国と微妙な関係にあるパキスタンとアフガンが顔をあわせたことは米国への牽制(けんせい)になりそうだ。

「この地域の国家間に根本的な問題はない。すべての問題は外部によって作られている」
17日の共同記者会見で、イランのアフマディネジャド大統領はこう語った。特定の国名には言及しなかったものの、批判の矛先が米国に向いているのは明らかだ。アフマディネジャド氏は、アフガンのカルザイ、パキスタンのザルダリ両大統領と並んで、「われわれは3カ国間の協力を強固にするために集まった」と述べ、対米勢力として結集していく意気込みも示した。

ただ、米国との関係は三者三様だ。ザルダリ氏は16日、イラン産天然ガスをパキスタンに輸出するパイプライン建設計画について、早期実現に尽くすことをアフマディネジャド氏に約束した。
パキスタンに対し、計画から手を引くよう求めている米国からの反発が予想されるが、エネルギー不足が深刻化しているパキスタンにとっては、実利面でイランと手を組まざるを得ない。
だが、パキスタンは、テロとの戦いへの協力をめぐりぎくしゃくした米国との関係改善への動きも見せているとされる。

一方、イランはアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンを後押ししているとも言われており、カルザイ氏には、イランとの関係安定によって、同国によるタリバン支援を阻止したいとの思いがある。また、アフガンには、対イラン牽制として、米国との関係維持が欠かせない側面もある。【2月17日 msn産経】
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イランとしては、タリバン支援もちらつかせて影響力を誇示することでカルザイ政権をアメリカからできるだけ引き離し、自国に近付けたい・・・といったところなのでしょうか。
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温暖化対策  今月末からCOP18 日本は国際公約「25%減」の扱いで立ち往生の懸念

2012-11-13 23:36:22 | 環境

(巨大化したハリケーン・サンディ “flickr”より By Trevon Haywood Photography http://www.flickr.com/photos/trevonhaywood/8138578872/

【「気候は変動している」】
10月末にアメリカ北東部を直撃した巨大ハリケーン・サンディは、アメリカだけで死者110名という大きな被害をもたらしましたが、浸水、更に大停電によって社会機能にも大きなダメージを与えました。

風速のうえではさほど強くないサンディでしたが、“巨大化”が大きな被害につながりました。
巨大化した理由については、下記のようにも説明されています。

****サンディ、5段階で一番下…巨大化した理由は****
サンディのピーク時の最大風速は秒速40メートル程度で、ハリケーンとしてはそれほど強くなく、米国立ハリケーン・センターの5段階の分類では一番下のカテゴリー1だった。

しかし、カリブ海諸国に被害を及ぼした後、北米大陸の東側を北上。西側から接近した冬の低気圧に引き込まれて合流した。さらに、北のカナダから南下してきた冷たい空気とも一体化し、巨大化した。(中略)

2005年8月に米ルイジアナ州ニューオーリンズなどを襲った大型ハリケーン「カトリーナ」の最大風速は秒速78メートルで、同センターの分類で最大のカテゴリー5だった。【10月30日 読売】
*********************

被害が大きくなった理由には、人口が集中する米東海岸沿いを進んだこともあげられます。
また、電力会社の敷地内で爆発が起こり、大規模停電が起きたことで混乱に拍車がかりました。

巨大ハリケーン・サンディと地球温暖化の直接的関連性はよくわかりませんが(下記記事によれば、メキシコ湾流に乗ったハリケーンは暖かい海水によって勢力を増し、海面上昇が洪水を増幅させた可能性があるといった指摘もあるようです)、ここのところ人々の関心が薄れていた気候変動・温暖化への関心を改めて呼び覚ましたように見えます。

ニューヨーク市のブルームバーグ市長は、昨年8月のハリケーン「アイリーン」に続く今回のサンディの襲来という異常事態について「気候は変動している」と強調し、気候変動問題に対するオバマ大統領の取り組みを評価するという理由でオバマ支持を表明、大統領選挙にも影響を与えました。

2100年には4.4℃上昇?】
地球温暖化については、どの程度の変動が起きるのか・・・という基本的なところが不明確なため、その後の議論も進みにくいところがあります。
下記National Geographic記事は、21世紀末の大気中で二酸化炭素(CO2)濃度が予測通り現在の2倍になった場合の気温上昇は、これまで予測されている数値のなかでは最悪の4.4℃の可能性が高いことを論じています。

****地球温暖化、最悪のシナリオが現実に*****
巨大ハリケーン「サンディ」をきっかけに、多くの人々が気候変動を意識し始めている。いくつかの報告によれば、メキシコ湾流に乗ったハリケーンは暖かい海水によって勢力を増し、海面上昇が洪水を増幅させた可能性もあるという。

最新の研究によれば、温暖化は既に進んでいるという。しかも今後の進展は、数ある予測の中でも高い値に沿う可能性が大きいと研究チームは結論づけている。

アメリカ、コロラド州ボルダ―にある国立大気研究センター(NCAR)の大気科学者ジョン・ファスーロ(John Fasullo)氏とケビン・トレンバース(Kevin Trenberth)氏は、ある問題の答えを探すため、地球湿度のパターンを研究した。21世紀末の大気中で、二酸化炭素(CO2)濃度が予測通り現在の2倍になった場合、どれくらい暖かくなるかという問題だ。

平衡気候感度とも言うCO2増加による気温の変化量は、2100年前後までに摂氏2.8度ほど上昇すると見積もられている。ただし、予測値はばらばらで、1.7度から4.4度まで倍以上の開きがある。
この違いは無視できる差ではない。気温上昇の度合いが高いほど問題も拡大するためだ。海面上昇や異常気象といった災厄が増え、海洋循環も激変する。その結果、地上でも大きな変化が起きる。

◆雲が鍵を握る
気候感度が1979年に初めて報告されてから、予測値の幅は全く狭まっていない。この謎を解明するため、ファスーロ氏とトレンバース氏は空に目を向けた。

ファスーロ氏によれば、気温上昇の度合いを正確に予測する上で鍵を握るのは雲だという。雲は地球のエネルギー収支に大きな影響を及ぼす。まず、白い雲は日光を反射して地球を冷やす。大気中の高さによっては、毛布のような役割を果たし、熱を閉じ込める。

しかし、雲は形や大きさ、明るさが目まぐるしく変わり、モデル化が難しい。人工衛星による観測は不完全で、誤差が生じる。ファスーロ氏とトレンバース氏はこれらの難題を回避するため、雲が生まれる仕組みに着目した。その環境は相対湿度が高く、水蒸気が豊富にある。

◆ドライゾーンの役割
ファスーロ氏とトレンバース氏は、大気循環によって生まれるドライゾーンという範囲を研究の対象とした。
雲が形成される対流圏のうち、高度1000メートル前後にあるドライゾーンは、未来の気候を決定づける上で主要な役割を果たす。北半球のドライゾーンは北緯10~30度の亜熱帯にある。ベネズエラからアメリカ、フロリダ州の間だ。

研究チームはドライゾーンの相対湿度の観測値を、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の研究で使われた16種類の気候変動モデルと比較した。
その結果、相対湿度の観測値と最も一致していた3モデルはどれも、最も暖かい未来を予測している。21世紀末までの気温上昇は4.4度という値だ。最も不正確とされるモデルは、相対湿度の値を高く、気温上昇を低く予測していた。

ファスーロ氏は次のように説明した。「目に例えると、ドライゾーンは気候システムの虹彩だ。暖かくなるにつれて、虹彩は広がる。つまり、空を覆う雲が減り、より多くの熱を取り込むことになる」。ドライゾーンの拡大が考慮されていないモデルは、観測データと一致していなかったとファスーロ氏は述べる。
つまり、温暖化はどんどん進むという結論になる。

今回の研究結果は、11月9日発行の「Science」誌に掲載されている。 【11月13日 National Geographic】
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上記記事内容もよく理解できませんし、ましてや、指摘の妥当性については全くわかりませんが、4.4℃も気温が上昇したら恐らく大変な影響が出るだろう・・・ということぐらいは想像できます。
個人的には、老い先長くない身ですから、正直なところさほど切実な危機感は持ってはいませんが。(このような発想が、温暖化対策を考えるうえで最大の敵でしょう。)

【「25%減」事実上撤回、しかし代替目標もなく公約取り下げはせず
温暖化対策を協議する第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)は、今月26日にカタールで開幕されます。
京都議定書の「第1約束期間」が今年末で終わるため、来年から始まる「第2約束期間」に参加する国の削減目標などが議論されます。

日本は2008~12年度の「第1約束期間」の平均値で1990年度比6%の削減義務を負っていますが、環境省の推計ではこの数字は達成できる見通しとのことです。

「第2約束期間」については、日本は不参加を表明したため削減義務は負いませんが、09年に当時の鳩山由紀夫首相が国連で表明した「20年までに90年比で25%削減を目指す」が国際公約となっています。
しかし、福島第1原発事故を受けて「原発ゼロ」方針をとっているため、野田主要は、この国際公約実現を事実上撤回する考えを明らかにしています。

****25%減」撤回を事実上表明=温室効果ガス排出―野田首相****
野田佳彦首相は15日昼、都内で開かれた会合で講演し、温室効果ガス排出量の削減に向け、省エネの徹底と再生可能エネルギーの普及に全力を挙げる方針を強調した。一方、2020年の排出量を1990年に比べて25%削減する政府目標について「そうした(省エネなどの)努力を尽くしても、原発によって賄うことを想定していた二酸化炭素排出の抑制を代替するのは難しいものがある」として、事実上撤回する考えを示した。

25%削減は、09年9月、鳩山由紀夫首相(当時)が国連でのスピーチで表明、国際公約となっていた。しかし、政府は先月策定した「革新的エネルギー・環境戦略」で、温室効果ガスについて30年時点でおおむね2割削減を目指し、20年時点は「5~9%削減となる」とした。【10月15日 時事】
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とは言え、“国際公約”ですので代替目標も出さずに撤回するのも難しいところがあります。
さりとて代替目標を検討する時間もない・・・ということで、とりあえず今回のCOP18での公約取り下げは行わない方針です。

****日本、温暖化ガス25%減公約取り下げず COP18 ****
26日にカタールで開幕する第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)に向け、日本政府は9日、基本方針を決めた。温暖化ガスを2020年に1990年比25%減らす国際公約は「国際交渉に与える影響にも留意しつつ、慎重に検討する」とし、当面は取り下げない姿勢を示す。

政府のエネルギー・環境会議は年末までに新たな温暖化対策をつくる。25%目標はこの議論と併せて扱いを検討する。途上国支援では、09年に発表した「鳩山イニシアチブ」が終了する13年以降も「切れ目なく支援する」との立場を表明する。

温暖化対策の新たな国際枠組みでは、「全ての国が参加する公平で実効性のある国際枠組みが必要」と改めて強調する。京都議定書の第2約束期間への不参加方針も改めて示す。【11月10日 日経】
**********************

年内に解散・総選挙が行われることが報じられていますが、そうなれば恐らく民主党政権から自民党を中心とした新たな政権に変わることが予想されています。
自民党は原発容認の姿勢ですので、「原発ゼロ」も撤回ということになるのでしょう。
エネルギー政策の根幹が大きく変わることが予想される状況では、温暖化ガス削減目標も立てようがありません。

【「今のままでは国際的に通用しない」】
こうした日本の状況に対する海外に視線は厳しいものがあります。

****温室ガス25%減目標に日本難渋 脱原発で行き詰まり****
地球温暖化対策の国際交渉で、日本政府が「温室効果ガスの排出を2020年までに90年比で25%減らす」今の目標の扱いに苦慮している。9月に脱原発の新戦略を決めたことで、原発頼みだった目標も行き詰まったが、今後の扱いは宙に浮いたまま。交渉では温暖化対策の強化が議論されており、日本への視線は厳しさを増している。

「(11月下旬からの)COP18には間に合わないかも知れないが、年末までに何らかの方針を示したい」
韓国・ソウルで23日に閉幕した国連気候変動枠組み条約第18回締約国会議(COP18)の閣僚級準備会合。日本政府代表の生方幸夫・環境副大臣は2日間の会期中、温室効果ガスの削減目標の説明に追われた。

22日に会談した中国の解振華・国家発展改革委員会副主任は「効果ある数値を出すことを期待する」と述べ、日本の目標引き下げをいち早く牽制(けんせい)。英国との会談でも、相手の閣僚が「高い目標を持つべきだと思っており、関心を持っている」と発言した。

日本側が説明に苦しんだのは、野田佳彦首相ら政権幹部が今の目標達成が難しくなったことを認める一方、撤回して新目標を作るかなど、今後の対応をあいまいにしているためだ。生方副大臣も現地での記者会見で、「原発を増やしていく前提は変わったが、それを理由に(25%削減目標を)すぐに取り下げるつもりはない」と強調した。

ただ、政府内では「今のままでは国際的に通用しない」(環境省幹部)との見方が強い。仮に目標を下げる場合でも、後ろ向きとみられないよう、途上国向け資金援助の増額などとセットで提示する「工夫」が必要との意見も出ている。一方、政権交代が起きると「原発ゼロ」路線が白紙に戻る可能性が取りざたされ、「しばらく対外的な動きは取りにくい」(外務省幹部)との声も聞かれる。

姿勢が定まらない日本を尻目に、温暖化対策の国際的な枠組みは今年末、大きな転機を迎える。京都議定書の第1約束期間が終わり、20年以降にすべての国が参加する新しい枠組みづくりの議論が、COP18から本格化する見通しだ。
日本も第1約束期間の終了に伴い、排出削減義務を負う枠組みから離脱。代わりに、自主目標に基づく取り組みの結果を国連に報告する。「公約」を守れるかで、温暖化対策への姿勢が問われることになる。

今回の準備会合ではCOP18の主要議題として、各国の削減目標をどう引き上げていくかが挙げられた。こうした中、日本は目標について明確な方針を示せないまま、「本番」に臨もうとしている。温暖化交渉に詳しい名古屋大の高村ゆかり教授(国際法)はこの状況を危ぶむ。「日本は信頼を失いかねない。今後の交渉を主導できない恐れがある」【10月24日 朝日】
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“「今後の交渉を主導できない恐れがある」”・・・・“恐れ”ではなく、間違いなく主導などできませんし、批判の矢面に立たされること、“お荷物”扱いされることも予想されます。
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アメリカ大統領選挙雑感 オーナーシップ(当事者意識)、投票率、中国では・・・

2012-11-12 23:15:22 | アメリカ

(オバマ勝利を喜ぶ支持者 “flickr”より By klfeatherly http://www.flickr.com/photos/klfeatherly/8165688110/

アメリカの現実とかなりずれている白人有権者層
6日に行われたアメリカ大統領選挙の投票結果には明快な傾向があり、殆んどの論評が、共和党・ロムニー陣営が白人保守層に偏っていることを指摘し、今後人口構成が非白人に傾いていくなかで、共和党再生のためには非白人に目を向けた方針転換が求められていることを挙げています。

****ロムニーに投票した88%は白人だった****
ロムニー敗北の最大の原因は、アメリカの現実である黒人やラテン系、アジア系を軽視した政治姿勢にある

結局、共和党のロムニーに「人種バブル」は起きなかった。
6日に投開票された米大統領選の出口調査結果によれば、ロムニーは白人票の59%を獲得した。目標とした60%に若干届かなかったものの、上々の出来だ。ただ白人票を60%獲得したとしても、一般投票数で勝利はできなかっただろう。

その理由はこれまで通り、共和党支持者に人種的な広がりがなかったからだ。極論すれば、ロムニーに投票したのは白人だけだった。
もちろん、すべてが白人だったというわけではない。ただロムニーの得票率は48・1%で、そのうち白人は42・5%。つまり、彼に投票した人の88%は白人だった。ちなみに黒人は2%、ラテン系は6%、アジア系は2%、そしてほかの人種はすべて合わせても2%だ。

一方、オバマに投票した有権者の内訳は白人が56%、黒人が24%、ラテン系が14%、アジア系は4%。その他の人種は2%だった。

白人が支配的な政治メディアは最後まで、ロムニーが限られた人種にしか支持されていないことから目をそむけていた。今やアメリカの現実とかなりずれている白人有権者層が、一般的な政治状況を反映していると勘違いしていた。だからこそ、選挙戦の最終週にニューヨーク・タイムズ紙はペンシルベニア州から次のようにリポートした。

「確かな手ごたえがある――郊外の富裕層地域の邸宅に掲げられたロムニー支持の看板や、空いた時間にロムニーへの投票を呼びかける電話をかける共和党支持者の母親たちの興奮した声が示すのは、選挙戦の流れが今やロムニーに傾いているということだ。」
だが、実際にはペンシルバニア州はオバマが5ポイント差で制した。

白人の「分離主義」は、オバマ支持者を分裂させるのにも不十分だった。オバマへの支持はかなり広範囲で、もし白人のオバマとロムニーの支持が50%と50%だったら、オバマは総得票の58%を獲得していた可能性がある。
米FOXニュースのキャスターであるビル・オライリーは我慢できなかったのだろう。出口調査と開票速報でロムニーの敗北が分かると、人種差別的な偏見をあらわにした。

「アメリカはもはや伝統的なアメリカではない。50%のアメリカの有権者は、とにかく物をほしがっている。物がほしいのだ。彼らに物を与えるのは誰か? オバマだ。オバマはそれ分かっていて、乗じたのだ。
20年前なら、オバマはロムニーのような立派な候補者によって完全に打ち負かされていただろう。白人の権力者層は今や少数派になってしまった。そして有権者の多くが今の経済システムは自分たちにとって不公平で、とにかく物をほしいと感じている。」

白人の権力者層は、さまざまな肌の色をした物欲まみれの人々によってバラバラにさせられたと言いたいらしい。白人層が広がらなかったため勝てなかったと認めたにも関わらず、オライリーはオバマの支持者を同じアメリカ人だとは見ずに、画一的な反対勢力だと捉えているわけだ。
オバマはラテン系有権者の71%を(ロムニーは27%)、アジア系有権者の73%を(ロムニーは26%)をそれぞれ獲得した。こうした有権者は、ロムニー側にとってすべて同じに見えた。それこそが彼らの敗因だ。【11月8日 Newsweek】
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このあたりの話は各紙が取り上げていますので、今回はこれ以上は触れません。

not for us, but by us
今回選挙は、前回のオバマブームのような熱狂はなく、有権者のさめた姿勢も目につきましたが、それでも政治への無関心が当たり前になっている日本、あるいは、政治への期待を語ることが失笑を買うような雰囲気の日本からすれば、メディアで報じられるアメリカ国民の大統領選挙への思いや支援活動には「どうしてそんなに・・・」という感があります。

****米イリノイ州の女性、投票所経由で分娩室へ****
6日に投票が行われた米大統領選で、何があっても必ず投票しようという強い決意を変えなかったイリノイ州の21歳の女性が、注目を集めている。

オバマ大統領が第二の故郷と呼ぶイリノイ州シカゴ市に近いドルトンに暮らすガリシア・マローンさんは、第一子の出産間近だった。投票日の未明から陣痛が始まり、間隔が5分に縮まったので病院に向かうことにしたが、その途中、陣痛に耐えながら票を投じたのだ。

マローンさんはシカゴのニュース専門ラジオ放送局WBBMに対し、「(投票用紙を)読んでは息を吐き、読んではまた息を吐き、という感じでした。そうするように、自分で言い聞かせていたんです」と話した。
「初めて投票しました。今後の人生を変える出来事になりましたよ。娘の人生にとっても、良い足がかりになればと思ったんです」という。

マローンさんが住む地区の投票所となっていたのは、偶然にもニューライフ・セレブレーション・チャーチ(新たな命を祝う教会)。投票所を管理する同州クック郡のデビッド・オール郡書記官は、「何があっても投票しようとしたガリシアさんには、脱帽です。次世代への良い手本ですよ」と話した。【11月7日 AFP】
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まあ、これはあくまでも極端なエピソードです。ただ、社会全体の選挙への熱い思いがあってこそ生まれるエピソードではあるでしょう。

****肌で感じた米大統領選挙****
見せつけられたオーナーシップ
(中略)
街角にはプラカードを持って、市民たちが民主党に投票するよう呼びかけるように促している人たちがいた。そのなかの1人で、今日は会社を休んだという40歳前後の男性に、その理由を聞いてみる。
「民主党か共和党かで、自らの支持する政党が決まっている人たちが多数を占める。ただ、どちらでもなく、ケースバイケースで投票先を変えるIndependentという存在も無視できない。私はそういう人たちに向けて投票所に行って投票するようにエールを送っているんだ。最後まであきらめないよ」

私が「You think you could change the destiny of America, right?」(あなたがアメリカの命運を変えられると思っているのですね?)と投げかけると、こう答えてきた。
「Yeah!! Why not? Come on, man!!」(何を言うんだ、当たり前じゃないか!!)
そして、私の右肩を思いっきりたたいてきた。彼の両目と仕草からは「私の一票で、私のアクションで、この国の未来を変えてみせる」という、迫力が感じられた。

合計3ヵ所の投票所を見学しながら、そこにいる人々の話を聞いて回った。ほぼ全員から、アメリカ民主主義の根幹にあるオーナーシップ(当事者意識)をまざまざと見せつけられた。

インド人男性のアメリカ観
(中略)
別れを告げる前に、一つ質問をした。
「アメリカとインドの民主主義に根本的な違いはありますか?」
彼は考える間もなく、反射的に答え始めた。(中略)
「もちろんだ。インド人の80%は、物事がどう動いて、自分の行動が社会にどういう影響を与えるかという判断力を持たない。ただ、アメリカ人の80%はそれを持っている。きちんと啓蒙・教育されている。自分の頭で考え、判断する習慣を持つ国民が多数を占めるなかでの民主主義がアメリカの強さであり、逆に言えば、それこそがインド最大の弱点だ」

人種のるつぼ、移民社会、世界中の市民たちに開かれたオープンな国――。アメリカはそう表現される。このインド人男性は、アメリカへ移住した理由を「インドは魅力的な市場だが、腐敗や法制度の欠如などあらゆる問題が山積みで、安心して仕事ができない。だから、誰に対しても公平なこの国に来た」と語る。 

アメリカも雇用確保、医療保険、税制問題などの問題は山積みで、それは今回の大統領選でも争点になった。だが、この空間に来れば、自由、人権、法の支配、民主選挙などを有機的に享受しつつ、最大限に自己実現のためのプラットフォームを与えられる。多様性に満ちたNation States(国民国家)という名の枠組みの下、政府と市民が一丸となってチャンスに突き進み、リスクに向き合う。

オバマ大統領も勝利後の演説で、「私たちのために何が達成されるか」ではなく、「私たちによって何を達成するか」(not for us, but by us)という点を強調していた。
大統領自身が国民に自己責任の重要性をきちんと語りかける。アメリカンドリームの根幹にあるオーナーシップを、リーダーシップによって突き動かす。
少なくとも、このインド人男性に、オバマ大統領の思いは伝わっていたと、私には感じられた。(後略)
【11月12日 DIAMOND online】
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いささか思い入れの強すぎる感情的リポートではありますが、多くの国民が政治へのオーナーシップ(当事者意識)を共有し、様々な人種・階層・政治的立場の違いはありながらも“アメリカ”を自分たちの手で作っていこうとする姿勢がこの国のダイナミズムを支える原動力でしょう。

それでも投票率は・・・
ただし、今回のオバマ大統領の得票数が6170万票あまりで、得票率が50.5%と言われていますので、投票総数は1億2200万票ぐらいではないでしょうか。
アメリカの有権者総数は【ウィキペディア】によれば2008年が2億3122万人ということですから、2012年は2億4000万人前後ではないでしょうか。(1千数百万人いる選挙権のない永住権者なども含んだ数字です)
そうすると、今回の投票率は50%前後という数字になります。

アメリカの場合、自動的に投票権が発生するのではなく有権者登録が必要になりますので、そのあたりも影響した数字でしょうか。
大体、「11月の第1月曜の後の火曜日」という法律に定められた投票日が奇妙です。日曜日でなく、なぜ火曜日に?
“月曜日投票にすると、伝統・宗教的に休む日である日曜日に馬車で遠くにある町の投票所に旅をしなければいけなかったため、月曜日は却下。農業を営む人が多かったその頃、水曜日は市場を開くマーケット・デーだったので水曜日は却下。それで火曜日となりました。”といった、かなり古い昔の事情があるようです。

確かに選挙運動に参加する人々のオーナーシップ(当事者意識)は相当なものがありますが、一方で選挙に参加しない1億人を超える人々もいるということで、彼らが“アメリカ”についてどういう意識を持っているのか・・・というのは興味のあるところです。
民主主義にとって本当に重要なのは“青”と“赤”の分断ではなく、選挙活動に参加してオーナーシップを発揮する人々と投票にも参加しない人々の間の分断なのかも。

【「次のボスを選ぶことを、米国では『選挙』と呼び、われわれは『大会を開く』という」】
アメリカや日本の場合は制度的には認められている主権を、様々な理由から放棄している有権者も多いようにも見えますが、国民が制度的に政治から疎外されている(ように思われる)国もあります。

****米大統領選、中国のネットユーザーにとっては「ポルノ映画」と同じ****
米大統領選が行われた6日、中国では多くのインターネットユーザーが国内のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を訪れ、選挙について状況を確認したり、コメントしていた。その多くは、今週開始される、はるかに予測可能で、はるかに民主主義的でない自国の指導者交代との違いを比較していた。

米国のテレビがオバマ大統領の再選を宣言すると、中国の簡易ブログサイト「新浪微博」の「注目の話題」リストで「米大統領選でオバマ氏が勝利」という話題が急上昇し、2400万件を超える投稿が寄せられた。
書き込みの多くはサイトを利用してオバマ氏への支持を表明するものだった。科学的根拠のないオンライン世論調査によると、中国では以前から大統領候補として好ましいのはオバマ大統領とされている。

だが、中国では今週後半から10年に1度の指導部交代が開始されるため、米大統領選という機会を利用して、自国の最高指導者を選択する上で自分たちにはいかに情報が不足しているかについてコメントするユーザーも少なくなく、中にはかなり辛辣(しんらつ)な書き込みもみられた。

「次のボスを選ぶことを、米国では『選挙』と呼び、われわれは『大会を開く』という」。中国内陸部湖南省のあるユーザーはこう書いている。「大会」が第18回中国共産党大会を指しているのは明らかだ。そこで、ほぼ形式的に党内投票が行われ、次期指導者が明らかにされる。

さらに別のユーザーによる次のような書き込みもあった。「奇妙な状況:1)われわれは自分たちのものよりも米国の選挙を気にかけている。2)われわれは米国の大統領選の仕組みを明確に知っているが、中国のそれについては全く知らない」。この投稿はのちに削除された。

中国国営英字紙グローバルタイムズは米大統領選について、フロリダ州の投票所では早い時間に訪れた一部有権者が最大7時間も待たされる事態が発生していたと報じ、今回の大統領選を「恥」と表した米アトランティック紙電子版に掲載された論評を引用した。

この報道も新浪微博で嘲笑の的となり、もっと長い時間でも中国人は喜んで待つだろうとの書き込みが多く寄せられた。「われわれは63年待っているが、いまだに投票がどのようなものかさえ分からない。恥ずかしいのはどっちだ?」と、あるユーザーは匿名で記している。

こうした米大統領選に対する中国人の関心に関する最も端的で、印象深いコメントの1つは、「Yimaobuba」のハンドルネームで投稿している人気のネットコメンテーターの次の書き込みだろう。
「ポルノ映画が人気なのと同じ理由だ。それをしたくても自分ではできない。だから、他人がしているのを見て満足するんだ」【11月9日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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昔、「無党派層は寝ていてくれればいい」と本音を語り、ひんしゅくを買った首相もいました。
最近、日本の選挙を見ていて、「どの勢力が勝った、負けたより、投票率がどの程度だったかが重要なのでは」と思うことがあります。
投票率が一定限度を切るような選挙の結果は無効にする・・・としてもいいのではとも思いますが、実際そういう制度にすれば、無効狙いのボイコット戦術が出たりするのかも・・・。

今日の報道では、“野田佳彦首相は11月30日に会期末を迎える今国会中に衆院解散に踏み切り、年内に次期衆院選を行う方向で調整に入った”【毎日】とのことですが、かなり慌ただしい選挙になりそうです。
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ラオス  メコン川本流でのダム建設を強行 強まる中国の影響力 対中依存軽減の取り組みも

2012-11-11 21:28:25 | 東南アジア

(10月25日 「サイニャブリ・ダム」建設予定地  建設地の木々は伐採され、建設用道路が作られています。 “flickr”より By International Rivers http://www.flickr.com/photos/internationalrivers/8159560991/in/photostream/

経済成長を図るうえで背に腹は代えられない
ラオスがメコン川に建設を計画している「サイニャブリ・ダム」について、下流域のベトナム・カンボジアなどからの強い反対で建設計画が中断していることは、12年5月16日ブログ「ラオス メコン川ダム建設を延期 東南アジア国際関係の縮図」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120516)で取り上げました。

観光資源にも見るべきものは少なく、地下資源も未開発なアジア最貧国ラオスにとって、現在利用できる唯一の資源はメコンの水資源であり、ダム建設で可能になる電力をタイに輸出しようとの計画です。

“メコン本流へのダム建設は環境や生態系に大きな影響を与えると域内外の環境団体は強く反対している。漁業や農業に深刻な被害がおよび、下流域の住民6千万人の生活が脅かされると専門家は警告する。
反対の輪にはベトナムも加わった。ダム建設は、ベトナム最大の穀倉地帯であるメコン・デルタへの影響がとくに大きいとベトナムは懸念する。今年に入って国内メディアには「上流からの土砂の流入が妨げられ、海水の浸入でデルタが大打撃を受ける」などという専門家の指摘が相次いで紹介された”【11年6月23日 産経】

抗仏・抗米戦争をともにした「戦闘的団結」によりラオスと「特別な関係」で結ばれていたベトナムが公然とラオスを批判するのは“異例中の異例”だとか。

その中断していた「サイニャブリ・ダム」建設の着工をラオスが強行しました。
このままでは建設が難しくなることを考えての判断だそうです。

****ラオス 我田引水、ダム建設強行 「農業・漁業に影響」 下流域国は反対****
電力輸出・経済成長に活路
ラオス政府は10日までに、延期していたメコン川でのダム建設に着工した。水資源の確保と環境への影響をめぐりラオスと対立し、建設中止を求めてきたベトナムなど流域国の反対を押し切り強行した格好だ。ベトナムなどは直ちに反発し、水資源の係争は新たな局面を迎えている。

ダムは、北部サイニャブリ県に建設される水力発電用の「サイニャブリ・ダム」で、7日に着工式が行われた。出力126万キロワット、総工費35億ドル(約2780億円)。2019年に稼働する予定だ。サイニャブリのほかにも、メコン川沿いに9基を建設する。

人民革命党の一党独裁による社会主義体制を堅持し、1人当たり国民所得が880ドル(約7万円、09年)と貧しいラオスは、20年までに後発発展途上国から脱却することを目指している。ダム建設の狙いは、国内の電力需要をまかなうこと以上に、電力を近隣諸国に輸出することで経済成長の活路を見いだす点にある。

その顧客が、同じメコン川流域国であり、電力需要が増大しているタイだ。サイニャブリの電力の大部分を買い取り、タイの建設大手チョーカンチャンが、ダム建設も手がけている。

これに対し、ベトナムとカンボジアは(1)ダムが建設されればメコン川下流の水量が減少し、農業や漁業に深刻な被害がおよぶ(2)とりわけ、年間2300万トンのコメの収穫量を誇り、最大の穀倉地帯であるメコン・デルタが水不足になる(3)下流域の住民6千万人が影響を受ける-とし、建設に強く反対してきた。

このため、メコン川流域国で構成するメコン川委員会(MRC)は、ダムの建設による環境と水資源への影響に関する調査結果が判明するまで、工事には着手しないことで合意していた。ベトナムは調査に少なくとも10年を費やすよう主張し、ラオスも5月、工事の延期を発表していた。

にもかかわらずラオスが着工に踏み切ったのは、ラオスに不利な調査結果が導き出される可能性が高く、経済成長を図るうえで背に腹は代えられない、と判断したためだとみられる。

一方、ベトナム外務省は8日、「自然資源、メコン川については、公正な開発が死活的に重要で、流域国に共通の利益をもたらすものでなければならない。ラオスは調査に協力すべきだ」と、強く反発した。【11月11日 産経】
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雲南省昆明とビエンチャンを結ぶ鉄道建設プロジェクト
今回のダム建設はタイ資本で、電力売却先もタイですが、近年ラオスへの影響力を強めているのが中国です。
その中国と南シナ海で対立するのがベトナムです。

****ラオスに鉄道建設支援=中国、影響力拡大を誇示****
アジア欧州会議(ASEM)首脳会議出席のためラオス・ビエンチャンを訪れている中国の温家宝首相は5日、ラオスのトンシン首相との間で、雲南省昆明とビエンチャンを結ぶ鉄道建設プロジェクトに調印した。
中国側は70億ドル(約5600億円)の資金を提供する予定で、経済援助による周辺国への影響力拡大を誇示した形だ。

これに先立ち、両首相は、中国の支援でASEM首脳会議の会場として建設された大規模な国際会議場をラオス側に引き渡す式典に出席。中国は総工費7200万ドル(約58億円)などを支援した。両首相はこの日、会談も行い、経済や貿易の拡大に向けて協力していくことを確認した。【11月5日 時事】
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日本 ナムグムダム拡張工事へ円借款
こうした中国のラオスやミャンマーなどへの影響力拡大、いわゆる“南進”を警戒しているのが、これまで東南アジアへ支援で影響力を保ってきた日本です。

****55億円の円借款表明=ラオス首相と会談-野田首相****
野田佳彦首相は4日夜(日本時間同)、ラオス・ビエンチャンのワッタイ国際空港で同国のトンシン首相と会談し、水力発電所の拡張事業向けに約55億円の円借款を供与すると表明した。また、ラオスのインフラ整備を引き続き支援する考えも伝えた。

これに対し、トンシン首相は「日本の政府開発援助(ODA)は長年にわたりラオスの発展に大きく貢献している」と述べ、謝意を示した。

一方、野田首相は沖縄県・尖閣諸島をめぐり悪化している日中関係について「日本にとって最も重要な2国間関係だ。(中国には)冷静に対処している。引き続き地域の繁栄と安定のために貢献していく考えだ」と説明し、日本の対応に理解を求めた。日本政府関係者によると、トンシン首相からは一定の理解が得られたという。 
両首脳は会談に先立ち、日本の無償資金協力による同空港拡張事業の引き渡し式典に出席した。【11月5日 時事】
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金額だけでみると、中国の鉄道建設資金提供70億ドル(約5600億円)に対し、日本の“水力発電所の拡張事業向けに約55億円”というのは、やや小ぶりではありますが、現在の勢いの差でしょうか。
もちろん、支援は金額の多寡で決まるものではありません。

日本が拡張工事への円借款を表明したのは、メコン支流のナムグム川に建設されたナムグムダムです。
ナムグムダムは、1971年に日本などの援助により完成し、このダムで作られる電力はタイに輸出されており、ラオスの貴重な外貨獲得源となっています。
その意味では、現在問題となっている「サイニャブリ・ダム」と同じです

下流域への影響は、メコン本流に建設するサイニャブリ・ダムとは異なる・・・・のでしょう。よくわかりませんが。
なお、ダム建設で沈んだ村や消えた補償金につて【http://kuin.jp/fur/tai-3.html】にレポートがあります。
日本でも“脱ダム”の議論が一時なされましたが、最近はあまり見なくなりました。

中国依存度の軽減を目指すラオス
なお、中国の影響力が強まるラオスですが、ラオス自身がそのことを懸念しており、対中依存を軽減する方向で模索しているようです。
中国が資金提供する鉄道建設にしても、中国以外からも投資を集めたい意向のようです。

****WTO、ラオス加盟を承認 対中依存の軽減目指す ****
世界貿易機関(WTO)は26日、一般理事会の特別会合を開き、ラオスの加盟を承認した。国内の批准手続きを経て2013年前半までに正式加盟する見通し。ラオスは加盟を機に投資・貿易相手国の多角化を図り、経済の中国依存度の軽減を目指す構えだ。

ラオスは1997年にWTO加盟を申請。国内の制度改正などの準備を経て、9月のラオス加盟作業部会で加盟承認の合意がまとまった。26日の特別会合で加盟157カ国が承認した。
小国ラオスにとって、WTO加盟は「世界経済での認知度が高まり、海外投資を呼び込みやすくなる」(ラオス計画投資省・上級顧問の鈴木基義氏)との利点がある。

ラオスは11年の実質国内総生産(GDP)は83億ドルで、前年比伸び率は8%を記録。経済は好調だが、銅など鉱物資源や電力輸出に頼っており、雇用を生む製造業など裾野の広い産業は育っていない。そこで同国は縫製業や自動車部品産業など輸出加工産業の誘致を進める。経済開発特別区(SEZ)と呼ばれる工業団地を20年までに国内25カ所に整備。09年に投資奨励法を整備するなど投資環境も整えた。

ラオスが外資誘致を急ぐ背景には、同国で圧倒的な存在感を持つ中国への依存度を軽減する狙いがある。11年の外国直接投資(FDI)は中国が6億9320万ドルでトップ。00~11年の累計でも投資件数で1位、投資額で2位を占める。

ビエンチャン市は「中国色」が強まる一方だ。11月初旬に同市で開催予定のアジア欧州会議(ASEM)のため、中国が4.5億元(約56億円)を援助して国際会議場を建設。首脳らの宿泊施設やホテルは中国の建設会社が受注した。
昨年11月に中国工商銀行がビエンチャン支店を開設。中国企業や中国人向けに人民元建て預金や決済サービスの提供を始めた。市中心部では中国資本による大型商業施設の建設も進む。

ラオス政府にとって中国マネーは魅力だが、同国の鉱物事業のうち4割弱の権益を中国系企業に握られるなど、国内では警戒感が高まっている。中国系労働者の流入や開発に伴う環境破壊への懸念も根強い。
そこで同国は米国や日本などの投資受け入れを拡大する考え。日米も南進を続ける中国をけん制するために、ラオスへの関与を高めている。

米国は7月、国務長官として約60年ぶりにクリントン氏がラオスを訪問。9月にはラオス初の米国商工会議所を開設。WTO加盟後、ラオスに一般特恵関税の供与も表明している。日本も今年、7年ぶりに円借款再開を決め、共同歩調をとる。

ただ、ラオスにとって対中依存を軽減するのは容易ではない。中国国境とラオスをつなぐ全長約420キロメートルの高速鉄道建設計画はいったん延期されたが、このほど特別国会で承認。中国から約70億ドルの借款を受けて建設に踏み切る見通しだ。WTO加盟後、中国以外の投資をどれだけ集められるかが試されそうだ。【10月26日 日経】
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