孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

性的少数者LGBTをめぐる話題 アメリカの“トイレ論争” エジプト、カナダそして中国では

2016-05-21 21:29:41 | アメリカ

(同性愛者の結婚式をしたとして告訴され、エジプトの首都カイロの裁判所で開廷を待つ被告たち【4月26日 AFP】)

ノースカロライナ州の“トイレ法”をめぐり 連邦政府と州が訴訟合戦
****LGBT*****
LGBT(エル・ジー・ビー・ティー)または GLBT(ジー・エル・ビー・ティー)とは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、そして性同一性障害含む性別越境者など(トランスジェンダー、Transgender)の人々を意味する頭字語である【ウィキペディア】
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アメリカにおける同性婚など、LGBTに関する話題については、2015年9月13日ブログ“アメリカにおける「性的少数者」「LGBT」に関する動き”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150913 でも取り上げたことがあります。

最近よく目にするのは、LGBTに関する“トイレ論争”の話です。アメリカでは連邦政府と州との訴訟合戦ともなっています。

ことの発端は、南部ノースカロライナ州がLGBTに出生証明書と同じ性別のトイレ・更衣室を使うよう求める州法(いわゆる“トイレ法”)を制定したことで、これに対し連邦政府は、“トイレ法”はLGBTに対する差別であり、公民権の侵害にあたるとしています。

****米で「政府VS州」のトイレ・バトル泥沼化 LGBTを性差別? 法廷闘争に発展****
同性愛者や性転換者ら性的少数者(LGBT)に出生証明書と同じ性別のトイレを使うよう求める米南部ノースカロライナ州の州法「HB2」(通称・トイレ法)をめぐる論争が、連邦政府と州が互いを相手取り提訴する事態に発展している。州の判断が性別による差別を禁じた公民権法に反するかが争点となる。
 
ノースカロライナ州のマックロリー知事(共和党)はトイレ法について「基本的なプライバシーとエチケットを守るために必要」と主張してきた。一方、民主党のオバマ米大統領はLGBTに対する差別であるとして批判している。
 
米司法省はマックロリー氏に書簡を送り、トイレ法が公民権の侵害に当たるとして、9日を期限にトイレ法の施行を拒否する意思があるかを照会。同知事は連邦政府による介入は州に対する越権行為であるとして、ノースカロライナ州の連邦地裁に提訴した。
 
マックロリー氏は9日の記者会見で、連邦政府が公民権法について「過激な新解釈」をしていると指摘。米議会に同法の規定を明確化するよう求めた上で「オバマ政権は(実質的に)法律を書き換えることを試み、米議会を迂回(うかい)しようとしている」と非難した。
 
これに対し、司法省は9日、トイレ法が公民権法に違反しているとして同州を相手取って提訴。リンチ司法長官は9日、記者会見し、「ノースカロライナ州は性転換者に対し、州によって支援される差別を作り出した」と批判した。
 
トイレ法は今年3月に成立。ロック歌手のブルース・スプリングスティーンさんらが同法に抗議するため州内でのコンサートを中止したり、大手企業がノースカロライナ州内での事業計画を見直したりするなどの影響が出ている。【5月12日 産経】
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ノースカロライナ州が“トイレ法”を制定した経緯については、“同州のシャーロット市が「心の性にあったトイレなどを使えるようにすべきだ」という条例を作ったのをきっかけにできた。マクローリー州知事は「悪用する人がいれば危険が生じる」と市条例を批判。州議会も、公立学校や公共施設のトイレ、更衣室について「体の性にあわせるべきだ」という法律案をすぐに可決した。連邦政府は5月、「公民権法に違反する」と同州に通告したが、州が法律を変えなかったため、提訴に至った。”【5月10日 朝日】とのことです。

“トイレ法”支持者は、性犯罪者から女性を守ることを意図したものだと主張し、州側は「常識的な、プライバシー保護の方針だ」と、州法の有効確認を求めています。

また、トランスジェンダーは公民権法で保護された区分ではないとして、公民権法違反だというなら、連邦議会が同法を改正すべきだとも主張しています。

一方、連邦政府は「州法はトランスジェンダーの人を差別して社会的な孤立や疎外を進め、平等でないという考え方を広める」として、無効確認を求めています。【5月10日 朝日より】

アメリカには、LGBTの権利保護などに敏感なリベラルな流れと、中絶に徹底して反対するような宗教保守の流れの両方がありますが、“トイレ論争”は両者の激突する場ともなっています。

ノースカロライナ州は大統領選で接戦が予想される州の一つということで、この問題が争点となることでの大統領選挙への影響もあるようです。

連邦政府・オバマ政権側はこの問題に絡んで、公立学校に「心の性」に応じて施設の使用を認めるとの指針を通達しています。

****トイレや更衣室「心の性で選んで」 米政府が指針****
体と心の性が一致しないトランスジェンダーの人がどちらの性のトイレや更衣室を使うべきかをめぐり、米オバマ政権が13日、公立学校に「心の性」に応じて施設の使用を認めるとの指針を通達した。

この問題ではノースカロライナ州と米連邦政府が互いを提訴。共和党の指名が確実となったトランプ氏も巻き込み、論争となっている。
 
司法省と教育省は13日、「トランスジェンダーの人も含め、全ての学生は性別に基づく差別のない環境で学校に通えるようにする必要がある」と「心の性」を尊重するよう指針を公立学校に通達した。
 
トランスジェンダーの人がどちらの性のトイレや更衣室を使うかをめぐっては、ノースカロライナ州が3月、「生まれた時の体の性にあわせるべきだ」との法律を制定。連邦政府は「法律は差別にあたる」とし、5月に互いに提訴した。【5月14日 朝日】
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身近にLGBTの方がいないので、正直なところピンとこない感もありますが、当事者としてはどっちのトイレを使えるのかというのは深刻な問題でしょう。

「心の性」と異なるトイレ使用を強要されるというのは、当事者にとってはその存在自体を否定されるような屈辱・負担ともなります。

性犯罪者から女性を守る云々はわからないではないですが、敢えてLGBTを狙い撃ちにしたかのような法律規制というのは、性的少数者の存在に否定的な“嫌悪感”みたいなものがその背後に見え隠れしているようで、馴染めないものも感じます。

性犯罪者ということで言えば、別にLGBTの話はなくとも、普段に女子トイレに忍び込むような輩は存在しますし・・・。

おりしも、米下院は連邦政府の契約企業で働くLGBTの従業員の権利を守る法案を僅差で否決しました。
当初は成立が予想されていましたが、反対する共和党指導部の巻き返しがあったようです。

****米下院、LGBTの権利を守る法案を僅差で否決****
米下院は19日、連邦政府の契約企業で働くLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の従業員の権利を守る法案を僅差で否決した。

共和党の議員の多くが反対に回ったためで、議場では「恥だ、恥だ、恥だ」との叫び声が沸き起こった。

この法案は、米民主党のショーン・マロニー議員(NY州選出)が提案したもので、軍事建設・退役軍人歳出法の修正案となっている。下院本会議場での表示によれば、当初は十分な賛成票を得て、成立するとみられていた。

しかし、下院共和党の幹部たちが採決に許された時間を引き伸ばし、党所属議員に立場を変えるように促したことで、法案は結局、213対212で否決された。

民主党所属の183人が修正案に賛成し、共和党の29人も賛成に回った。213の反対票すべてが共和党議員によるものだった。共和党3人と民主党5人の合わせて8議員が棄権した。

議員たちは、投票時と、結果が公表されるまでの数分間に賛否の立場を変えることが認められている。

LGBTへの平等な権利保障は2016年の選挙戦で熱いテーマとなっている。同性婚カップルのウエディングケーキを焼くことは菓子店の「宗教上の自由」を侵害するのか、あるいは、トランスジェンダーがどの公共トイレを使うかを政府が決めるべきか、といった議論が国政レベルで巻き起こっている。【5月20日 ロイター】
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LGBTであるというだけで、死刑になる国も その背景には宗教的理由と“非生産的”との考えが
ただ、なんだかんだ言っても、LGBTにとってアメリカはまだいい方で、国によっては犯罪行為として死刑の対象になるところもあります。

LGBTを認めない考えの背景には、宗教的理由や子供を作れず非生産的(と言うか、自然の摂理、あるいは生物的な道理に反したもの・・・・といったイメージでしょうか)といった理由があると指摘されています。

****理解が進む一方で・・・・LGBTであるというだけで、死刑になる国も****
現在、「LGBTの権利」については世界的な問題となっており、今後どのようになっていくのか、まだまだ議論がなされています。

現時点においてLGBTに対して否定的な国を挙げよと言われた場合、おそらくイエメン、イラン、サウジアラビア、スーダン、ソマリアの5カ国が挙げられるのではないでしょうか。

どうしてこれらを真っ先に挙げたのかというと、これらの国はLGBTであるというだけで、死刑になることもあり得るからです。

例えばイランでは同性婚が認められていないのはもちろん、同性間の性交渉が発覚した時点で死刑になり、サウジアラビアも同様に同性間の性交渉が発覚した場合は死刑、または懲役、罰金、鞭打ちのいずれかが処罰としてくだされます。

そのほかの3つも似たような状況なので、これらの国は、世界的に見ると、LGBTに否定的な5カ国として挙げられるのではと思います。

これら以外にも、例えばアフリカでは数多くの地域でLGBTが違法とされていたり、アジア地域だと北朝鮮やマレーシアなどが違法と定めています。

欧米などを中心に、世界的にはLGBTの肯定をするべきという流れがありますが、一方でまだまだLGBTに否定的な地域が存在しているのも事実です。

なぜLGBTに対して否定的なのか
LGBTに対して否定的な考えを持つ理由は様々ですが、その中でも特に強いものとして存在しているのが「宗教上の理由」です。

世界には様々な宗教がありますが、その中でもイスラム教とキリスト教には、同性愛という概念そのものを否定する要素が含まれています。

イスラム教においては聖典であるコーランの中に同性愛を禁止する記述があり、キリスト教ではヨハネパウロ2世がLGBTを認める発言をしたものの、旧約聖書内に同性愛を否定する箇所があるため、本質主義者からは批判の的となりました。

宗教というのは、それが伝統的なものであるほど人の生活を左右するものです。よってそれらの宗教が根強い地域の人々にとって、同性愛者は認めてはならない存在になってしまっているのです。

さらに、否定されるシンプルな理由となっているのが「非生産的だから」ということです。人間は男性と女性が性行為を行うことで子を成して繁殖していきます。しかし同性では、繁殖のための性行為を行うことがそもそもできないので、非生産的であると批判をされることも少なくないとか。

近頃は、最新医学などで同性間でも子供を作ることができるような研究も進んでいるので、「非生産的だ」という批判は正しいものではなくなりつつありますが、それでもこうした意見は根強く残っています。

LGBTに否定的な国や地域には、まだまだ根強い問題が存在しているのです。【2015年8月16日 HUFFPOST Anna Shimizu氏】
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エジプトでは同性愛で実刑12年 カナダはトランスジェンダー差別禁止法を導入へ
中東のイスラム国、エジプトの裁判所は4月24日、同性愛で罪を問われた男性11人に禁錮3~12年の実刑判決を下しています。

****同性愛で11人に最長12年の実刑 エジプト****
エジプトの裁判所は24日、同性愛で罪を問われた男性11人に禁錮3~12年の実刑判決を下した。司法筋が明かした。
 
11人は昨年9月にカイロ郊外のアゴウザにある共同住宅で逮捕された。23日に下された量刑は、3人が12年、3人が9年、1人が6年、4人が3年の実刑だった。
 
エジプトでは同性愛関係を正式に禁じる法律はないが、同性愛者を逮捕・起訴する際に使われることの多い「淫蕩(いんとう)行為、およびその扇動の罪」で被告たちは有罪とされた。同性愛者を起訴・投獄するためにエジプト当局が淫蕩罪を適用していることは、人権団体などから非難を浴びている。【4月26日 AFP】
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一方、アメリカの隣国カナダではトルドー首相が、トランスジェンダーをヘイトスピーチ(憎悪表現)や差別から守る法律の導入を目指す意向を表明しています。

****カナダ、トランスジェンダー差別禁止法を導入へ トルドー首相表明****
カナダのジャスティン・トルドー首相は16日、トランスジェンダー(性別越境者)をヘイトスピーチ(憎悪表現)や差別から守る法律の導入を目指す意向を表明した。
 
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)など性的少数者の権利擁護団体「ファンデーション・エマージェンス」がモントリオールで主催したイベントで演説したトルドー首相は、「私たちはあらゆる障害を克服し、さまざまな闘いに勝ち、その勝利を祝ってきたにもかかわらず、いまだに不当な扱いの目撃者となり、時には犠牲者にもなっている」と指摘。「私たちは、真の平等を要求し続けなければならない」と訴えた。
 
ジョディー・ウィルソンレイボールド法相に宛てたトルドー首相の委任状によれば、新法は、人種、宗教、年齢、性別、性的指向に基づいた差別を禁止するカナダ人権法に「性自認」の項目を追加し、刑法が定めるヘイトスピーチの保護対象にトランスジェンダーの人々を加える内容。(後略)【5月17日 AFP】
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中国の厳しい状況 徐々に変化も?】
人権に関する一般的認識が低い中国では、LGBTはまだまだ厳しい状況に置かれているようです。

****トランスジェンダーを理由に不当解雇、訴え認められず 中国****
中国の労働紛争仲裁委員会は、トランスジェンダー(性別越境者)であることを理由に不当に解雇されたとする男性からの申し立てを退けた。男性の弁護士が11日、述べた。こういった申し立ては中国では初めてという。
 
報道によると、仲裁申請者は女性として生まれたものの、自らを男性として認識し、普段から男性用の衣服を着用している。中国南西部・貴州省の保健センターに就職してから8日後に解雇されたという。
 
男性を解雇した理由はトランスジェンダーだと雇用主が話しているとみられる様子が録音されていたものの、弁護士によると、貴州省の労働紛争仲裁委員会はこの録音を取り上げなかったという。(中略)
 
複数の報道によると、トランスジェンダーが不当解雇の申し立てを行ったのは中国では今回が初めてだったという。【5月11日 AFP】
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****中国のセクシャル・マイノリティ、カミングアウトはわずか5%****
2016年5月17日、財新網によると、中国のセクシャル・マイノリティ(性的少数者。同性愛者や性同一性障害を持った人)の5%しかカミングアウトできない状況だという。

中国では2001年まで、「同性愛は精神異常」とされていて、現在でもオープンにしづらい状況が続いている。国連開発計画(UNDP)が17日に発表した中国のセクシャル・マイノリティに関する報告書では、学校や職場などで自分の性の認識をカミングアウトする人は5%前後とされ、家庭内でも15%ほどだった。

また、彼らに対する差別の状況も浮き彫りとなった。「家庭内」で差別を受けた人は56.1%で、「学校」は39.6%だった。「職場」は比較的低く約20%となっている。(中略)

しかし、報告書は「中国人の考え方に徐々に変化が起きている」とも指摘している。被調査者の70%が同性愛を病気であると考えることに否定的な回答をしており、およそ85%(セクシャル・マイノリティに限ると95%)が同性婚の合法化を支持している。

このほか、80%(同90%)以上の人がセクシャル・マイノリティの権利を保護する法整備に支持を示している。

一方で、大学でセクシャル・マイノリティについて学んだことがある人は10%程度であるなど、今後の国民全体の意識の改革や法整備への道のりは依然として険しいのが現状だ。【5月18日 Searchina】
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一昨日取り上げた“難民を自宅に受け入れても良いとの回答が最も多かったのは、中国が46%で1位”という国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが報告している調査同様、“およそ85%(セクシャル・マイノリティに限ると95%)が同性婚の合法化を支持している。”というのも「本当だろうか?」という感がありますが、まあ、そういう形で個人の権利を認める方向にあるのなら結構な話です。
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香港で強まる中国の圧力 台湾・蔡英文新総統は現実路線で中国との距離を維持

2016-05-20 22:42:56 | 東アジア

(馬英九氏に代って台湾総統に就任する蔡英文氏 https://tw.mobi.yahoo.com/home/%E9%A6%AC%E5%8D%B8%E4%B8%8B%E5%85%AB%E5%B9%B4%E7%B8%BD%E7%B5%B1-%E8%94%A1%E8%8B%B1%E6%96%87%E8%A6%AA%E9%80%81%E5%88%A5-011729740.html

香港では若者らの新たな政治的動きも 中国からの圧力、更に強まる
香港において「一国二制度」の形骸化、中国の管理・圧力の強化が進んでいることは、これまでも再三取り上げてきました。

1月10日ブログ“香港で強まる中国の管理統制 形骸化する「一国二制度」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160110
2月13日ブログ“香港 中国による出版関係者拘束でイギリスが中国批判  急進派の騒乱で民主化運動に更なる逆風”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160213

そうした厳しい現状のなかではありますが、台湾で自主性を主張する「ひまわり運動」を主導した若者らの新政党「時代力量」をも参考にして、香港でも若者らの政治参加の動きが加速されてはいます。

3月22日ブログ“香港 学生運動リーダーらの政治参加、過激な「本土派」への予想外の支持などあるものの、厳しい現実”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160322

こうした動きの背景には、中国が香港に「高度な自治」を認めた「一国二制度」が2047年に期限を迎えることから、「香港のあり方」を巡る議論が活発化していることもあります。

若者らの動きにも、“過激でも保守でもない選択肢”を求める穏健なグループも、“将来的には香港独立も選択肢の一つ”とする急進的なグループもあります。

****香港「雨傘運動」の若者ら新政党 立法会選挙を目指す****
2014年秋に香港行政長官選挙の民主化を訴えたデモ「雨傘運動」に参加した香港の若者らが10日、9月の立法会(議会)選挙に立候補するため、新政党「デモシスト(香港衆志)」を立ち上げた。
 
中心になったのは、雨傘運動を引っ張った学生団体「学民思潮」や「学連」の元メンバーら。代表の主席に就いた羅冠聡さん(22)らが会見し、「香港の未来のため、過激でも保守でもない選択肢を有権者に示していきたい」と語った。具体的な政策は、市民との対話を通じて決めていく方針。
 
政党名は、民主を意味する「デモクラシー」とラテン語で「立ち上がる」などの意味がある「シスト」を組み合わせたという。
 
また、香港こそが本土と考え、中国に批判的な本土派の若者グループ「青年新政」ら6団体も同日、立法会選挙で3〜4人の当選を目指し、協力していくと発表した。将来的には香港独立も選択肢の一つとし、21年に香港人による市民投票を実施するなどの政策を掲げている。【4月10日 朝日】
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しかし、現実問題としては、中国の香港に対する管理・圧力は更に強まってきている印象があります。

****香港の軍事評論家、日本に移住へ 「身の安全」理由に****
香港で軍事専門誌を発行してきた著名な軍事評論家、平可夫氏が「身の安全」を理由に、5月に日本へ移住することを決めた。雑誌の発行は続ける予定だが、中国当局の関与が指摘されている書店関係者の失踪事件を受け、香港での活動継続は危険性が高いと判断した。
 
平氏は中国雲南省出身だが、カナダ国籍で、香港の永住権も持っていた。日本への留学経験もあり、中国語のほか、日英ロシア語にも堪能で、幅広い人脈を生かして、雑誌「漢和防務評論」で、中国軍の動向や腐敗問題などを論じてきた。
 
失踪事件では、中国共産党に批判的な本を出版していた書店親会社の株主がタイや香港から中国本土に強制的に連行された疑いが指摘されている。

香港は「一国二制度」の下で、言論の自由が保障されていると考えられてきたが、平氏は「カナダ国籍があっても身の安全は守れないと感じた。香港はもう二制度ではない」と話している。【4月29日 朝日】
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****香港「天安門事件記念館」閉鎖の危機、中国当局の圧力か****
中国北京市で1989年6月4日に学生らによる民主化運動が武力弾圧されて多数の死傷者が出た「天安門事件」に関する資料や写真などを展示している香港の「六四記念館」が、年内にも閉鎖される見通しとなった。関係者の話で分かった。
 
香港の民主派団体が2014年、市民らからの寄付で九竜地区の雑居ビルに「世界初の天安門事件記念館」として開設した。だが、関係者によると、ビル所有者が「目的外使用だ」と主張して立ち退きを求めて提訴。記念館は運営資金が底をつき、退去せざるを得ない事態に追い込まれているという。
 
記念館には2年間で延べ2万人が入場。中国本土からの観光客も数多く訪れている。一方で、中国当局は香港の民主派勢力の影響力拡大に警戒を強めており、記念館側は、「ビル所有者による提訴の背後に中国共産党政権からの圧力があった」とみている。
 
香港では、共産党体制を批判する書籍を出版、販売した書店の関係者が連続失踪する事件が起きるなど、中国当局の関与が濃厚な政治的圧力や言論への統制が強まっている。【4月29日 産経】
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****新聞編集者解雇に数百人が抗議、報道の自由の侵害懸念 香港****
香港で2日、地元新聞社の著名編集者が最近、いわゆる「パナマ文書」問題に関連する記事を1面に掲載した後に解雇されたことに抗議し、数百人が同紙本社前でデモを行った。
 
解雇されたのは、調査報道紙として知られる明報の姜国元氏。

デモには、記者や活動家、一般市民など約300人が参加し、姜氏が解雇されたのは、中国政府が統制を強化しているのに伴い香港の報道の自由が侵害されていることを改めて示すものだと主張した。
 
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が先月公開したパナマの法律事務所モサック・フォンセカの内部文書、いわゆる「パナマ文書」からは、同事務所がいかにして中国の富豪や有力者らの財産をタックスヘイブン(租税回避地)に集める手助けをしていたかが暴露された。
 
姜氏は、パナマ文書の新たな暴露に関係する香港の実業家や政治家に関する記事を1面に掲載した直後に解雇された。
 
同紙職員組合の代表は、「市民は香港の報道の自由について強く懸念している。われわれは中国の人権状況といったデリケートな政治問題を含め、数多くのニュースを網羅し、良い仕事をしてきた」「姜氏解雇の本当の理由について、(経営陣からの)はっきりした説明を要求する」と述べた。

記者らは、姜氏解雇の決定を下したのは、親中派とみられているマレーシア出身の鐘天祥編集長だと指摘している。
 
鐘氏は2年前、調査報道を手掛けるベテランジャーナリストとして知られる劉進図氏の後任として編集長に就任し、同紙職員からの抗議を招いた。劉氏はそれから間もなく、白昼に刃物で襲われて重傷を負い、その際にも報道の自由を危惧する声が強まっていた。【5月3日 AFP】
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中国最高指導部メンバーの香港入りで懐柔と警告
今月17日には、中国全国人民代表大会(全人代=国会)の張徳江常務委員長が香港を訪問しました。
張委員長は共産党内で習近平国家主席、李克強首相に次ぐ序列3位。党中央香港・マカオ工作協調小組組長を務め、指導部内で香港問題を統括する立場にありますが、中国最高指導部メンバーの香港入りは2012年6〜7月の胡錦濤国家主席(当時)以来約4年ぶりになります。

張徳江氏の香港訪問は、先述のような一部の香港若者が中国政府に反発を強めるなかで、各界の声に耳を傾ける姿勢を強調し、香港の安定を図るねらいがあるとみられます。【5月17日 NHKより】
香港立法会(議会)の民主派議員らとも面会していますが、中国指導部が民主派議員と直接意見交換するのは異例とのこと。

しかし、香港独立にも言及する勢力に対しては強い警戒を示しています。

****香港独立勢力、容認せず=中国全人代委員長が警告****
香港を訪問している中国全国人民代表大会(全人代)の張徳江常務委員長は18日、香港で中国からの独立を主張する勢力が出現していることについて「分裂を目指す動きであり、一国二制度に背いている」と述べ、決して容認しないと警告した。
 
香港では2014年の行政長官の選挙制度民主化を求める大規模デモ以降、「本土派」と呼ばれる反中勢力が台頭。今年3月には公に独立を掲げる政党が旗揚げした。
 
地元テレビによると、張委員長は夕食会で「一国二制度は中国の国策であり、変更することはない」と述べ、改めて現状維持の方針を強調した。
 
張氏は18日午前、中国の提唱するシルクロード経済圏「一帯一路」構想に関するフォーラムで基調講演。「香港には独自の強みがあり、(実現に向けて)重要な役割を果たせる」と香港の積極的な参加を呼び掛けるとともに、中国も人民元国際化などの面で香港を側面支援していく考えを明らかにした。【5月18日 時事】 
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自ら「一国二制度」を形骸化するような動きを強めておきながら、「一国二制度は中国の国策であり、変更することはない」「(独立を主張する勢力は)分裂を目指す動きであり、一国二制度に背いている」と言われても・・・といったところですが、中国の立場からすればそういう話にもなるのでしょう。
“香港にもたらされる経済的な恩恵をちらつかせることで、政治介入や言論統制で強まった香港の反中感情や不満をやわらげる狙いとみられる。”【5月18日 産経】とのことですが、香港の若者らには全く響かないでしょう。

“中国国営新華社通信は張氏の香港訪問を、国家指導者の地方出張時に使われる「視察」と表現した。香港メディアによると、こうした表現は初めてで、中国と香港の関係を単なる中央政府と地方都市の「従属関係」にすぎないと強調したものだという。”【同上】というあたりに、中国側の強い姿勢が窺えます。

中国離れで共振する香港と台湾
香港が台湾の若者らの動きを意識するように、台湾側も、こうした香港の「一国二制度」の現状を強い関心を持って見ていると思われます。

そして、そのことは「私は(中国人ではなく)台湾人だ」と考える人は96年には44%、06年には55%と増え続け、2016年の調査では73%に達したという、台湾の人々の意識変化を後押しする形にもなっているでしょう。

その意識変化が、1月の総統選における民進党の蔡英文氏圧勝をもたらしています。

5月10日ブログ“台湾 「現状維持」の蔡英文新政権発足にあたり、「一つの中国」を認めるよう強まる中国の圧力”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160510でも取り上げたように、中台関係に関する「現状維持」を主張する蔡英文氏に対し、中国側は「中国はひとつ」という“92年コンセンサス”を認めるように強く迫っています。

しかし、「一つの中国」、更にその先にある「一国二制度」の実態を示すものが香港の現状であれば、台湾側としてはおいそれとその流れに乗る訳にもいきません。

注目された蔡英文新相当の就任演説は、玉虫色の現実路線
今日20日に新総統に就任した蔡英文氏が、その最初の演説で中台関係についてどのように述べるのか、中国が求める「一つの中国」承認をどのように扱うのか・・・非常に注目されていました。

****台湾 蔡総統 「1つの中国」言及避けるも一定の配慮****
蔡英文総統は、20日に台北の総統府で就任の宣誓をしたあと、総統府前で開かれた祝賀式典に臨み、就任の演説を行いました。

この中で蔡総統は、中国との関係について、「20年余り双方が交流や協議を積み重ねてきた事実と政治的な基礎を踏まえ、引き続き平和的な安定と発展を進めていかなければならない」と述べ、安定した関係の維持を目指す方針を強調しました。

そのうえで、中国が、1992年に当時の窓口機関どうしが「1つの中国」という考え方で合意したと主張し、蔡総統に認めるよう求めていることについて、「1992年に双方が若干の共通認識に達したという歴史的事実を尊重する」と述べました。

ただ、蔡総統は、その「共通認識」が「1つの中国」という考え方で合意したかどうかということについては言及を避けました。【5月20日 NHK】
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「1992年に双方が若干の共通認識に達したという歴史的事実を尊重する」とは言いつつも、「1つの中国」という考え方で合意したかどうかは明らかにしないということで、うまく玉虫色にした形です。
「現状維持」というのは、こうした政治的テクニックを必要とします。

****台湾新総統】「独立」も「一つの中国」も封印した玉虫色演説・・・巨大中国前に“挑発”や“約束”避け現実路線****
台湾の蔡英文総統は20日の就任演説で、中国側が求める「一つの中国」原則や「1992年コンセンサス(合意)」への言及を避ける一方、中台を不可分と定める「中華民国の憲法」に基づいて中台関係を処理するとも発言した。巨大な中国を前に、玉虫色の表現で、中国側の要求を完全に拒否も容認もしない現実路線を採用した形だ。
 
蔡総統は92年合意に言及しない一方で、92年の会談で「若干の共同の認知と了解に達した」と指摘。中台の「政治的基礎」に「中華民国の現行の憲法体制」が含まれるとも述べた。
 
民進党は綱領に「独立」に関する記述がある上、これまで92年合意の存在を認めておらず、蔡総統としては92年合意の受け入れはそもそも不可能だった。中国の王毅外相は2月、米ワシントンで、中国高官としては異例ながら台湾の「憲法」に触れ、蔡氏に「憲法の規定を受け入れるよう期待する」と述べていた。
 
淡江大学中国大陸研究所の張五岳所長は就任演説について「非常に巧みに、台湾内部と北京の双方が刺激的に感じる挑発的な言葉遣いを避けた」と指摘する。
 
民進党の陳水扁元総統は2000年の就任演説で、任期中に独立宣言をしないなどの「四不一没有(4つのノー、1つのない)」を提起。中国国民党の馬英九前総統は08年の就任時に「三不(統一せず、独立せず、武力行使せず)」を約束した。同じ民進党の陳政権の発足時に比べ、中台の経済力や軍事力の差は格段に開いている。
 
それでも、蔡総統は台湾の「民意」を背景に、将来の行動を縛る“約束”は避けた。加えて「両岸(中台)の政権党は過去の重荷を下ろすべきだ」とも述べ、中国側に92年合意に固執しないよう求めもした。
 
中国当局は蔡氏の「言葉を聞き、行動を見る」としてきたが、張所長は今回の演説で、「言葉を聞く」という「第1関門は越えた」と分析する。中国側は今後、中台関係の具体的なやり取りの中で、蔡政権の行動を観察するとみられる。【5月20日 産経】
*********************

“1992年に双方が若干の共通認識に達したという歴史的事実を尊重する”“中台を不可分と定める「中華民国の憲法」に基づいて中台関係を処理する”ということで、これまで92年合意存在しないとしてきた蔡総統、台湾独立を掲げる民進党にしては相当に中国側の意を汲んだ発言のようにも思えますが、当然ながら中国側は「92年合意を明確に認めておらず、完全な答案ではない」(中国国務院(中央政府)台湾事務弁公室)と不満を明らかにしています。

ただ、蔡総統が92年合意を明確に認めることは当面ありえず、本音としては「まずまず・・・」と感じているのではないでしょうか。ここでこれ以上台湾を追い込んでも、中国にとっていい話はないでしょう。

圧力をかけすぎれば相手は離れていく・・・というのが常識であり、台湾・蔡新政権をこれ以上“反中国”に追いやっては、中国国内でいろいろ権力闘争的な話も囁かれている習近平主席の足元をすくう動きを加速させかねません。

党が管理するインターネット新聞「無界新聞」が、3月4日付で習主席に党と国家の職務から辞任するよう要求する檄文を転載した前代未聞の事件でも、習近平主席の“罪状”として台湾政策の失敗も挙げられています。
「香港、マカオ、台湾問題の処理では、小平同志の英明な『一国二制度』構想を尊重しなかったため、民進党が台湾の政権を得るのを許し、香港で独立勢力の台頭を招いた」

そもそもの話をすれば、中国が今のようなカネと力を誇示する自国中心の粗野で強圧的な姿勢を控えて、他国の立場を尊重する“徳”を示せば、香港・台湾も自ずと「大国」中国に近づいていくし、日本など近隣諸国との関係も改善すると思われるのですが、まあ、それは言っても詮無い話でしょう。
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欧州難民問題  難民滞留がギリシャに大きな負担を ドイツでは「1ユーロジョブ」制度

2016-05-19 22:42:07 | 難民・移民

(「1ユーロジョブ」で働く難民男性【5月19日 AFP】)

【「収益性の高い」難民ビジネス
欧州を目指す難民・移民については。いわゆる「バルカンルート」が事実上閉鎖されたことにともなって、より危険なリビアからイタリアなどを目指す「地中海ルート」にシフトしつつあります。

「バルカンルート」にしても、「地中海ルート」にしても、そのルートそのものの困難さ以外に、こうした難民を「商品」としてしか見ない、しかも安全に「商品」を送り届けるつもりもない密航業者によってもたらされる危険もあります。粗末で危険な船に難民らを詰め込んで海に放り出すようなことが行われています。

そうした難民斡旋はいまや一大ビジネスとなっています。

****<難民>あっせん収入7400億円・・・欧州警察機構など推計****
欧州刑事警察機構(ユーロポール)と国際刑事警察機構(インターポール)は17日、欧州を目指す難民・移民の密入国をあっせんする犯罪組織についての報告書をまとめた。
 
欧州に入った難民・移民の9割近くがこうした組織を利用しており、その「売り上げ」は昨年だけで50億〜60億ユーロ(6180億〜7415億円)に上ったと推計している。
 
報告書によると、あっせん組織の拠点は欧州連合(EU)内外の空港や駅などがある地域を中心に250カ所近くあり、国境警備の買収なども手口となっている。

経費がさほどかからない「収益性の高いビジネス」と分析しており、シリアなどに渡った戦闘員が欧州に戻るためにあっせん組織を利用したりし、売り上げは、テロリストのネットワークの資金源になっている可能性もある。
 
報告書によると、EU内部からの移民も含めたあっせん組織への平均支払額は3000〜6000ユーロ。支払い方法は約半数が現金で手渡し、2割はイスラム社会で広く使用される送金システム「ハワラ」などを使用したという。

支払いが困難な場合は、返済のために強制労働や性的搾取の対象となりやすいと指摘している。【5月18日 毎日】
*******************

【「新たなギリシャ危機」に追い打ちをかける難民滞留「人間の倉庫」】
ギリシャにおいては、ギリシャを目指す難民らが激減した一方で、「バルカンルート」閉鎖によってギリシャ国内に留まることを余儀なくされた大勢の難民らが発生するという問題が生じています。いくら難民らが多くても、素通りするだけならそんなに大きな問題にもなりませんが・・・。(素通りすら拒否する国は多々ありますが)

ギリシャは、この夏、100億ユーロを超す債務の返済期限がやって来ます。ツィプラス首相が新たな融資を取り付けられない限り、デフォルト(債務不履行)に陥りかねない「新たなギリシャ危機」に直面しています。

そうした財政危機状態にあっての難民滞留は、ギリシャにとって大きな負担となりつつあります。

****ギリシャを襲う理不尽な現実****
「通過国」から「人間の倉庫」へ
・・・・ギリシヤは過去1年間ほど、ヨーロッパに押し寄せる難民問題の最前線にあったものの、その実感は薄かった。
ヨーロッパには昨年、シリアやアフガニスタン、イラクなどから100万人を超える難民・移民が流人。その大半が最初に到着するギリシヤ南部の島々は押し寄せる人の波に圧倒されていた。とはいえ難民・移民はドイツをはじめとする国々を目指して北へと移動したため、問題の大きさを肌で感じるギリシヤ国民は少なかった。
 
ギリシヤの調査会社パブリック・イシューが行った世論調査によれば、今年1月の時点で、膨大な数の難民・移民がギリシヤを通過している事実を認識していたのはわずか5人に1人。そのせいもあってか、回答者の3分の2は難民・移民に好意的で、国境を閉ざすべきではないと考えていた。

ギリシヤが単なる「通過国」でなくなったのは2月後半だ。2月22日、マケドニア当局はギリシヤ北部の村イド
メニ近くに位置する国境でアフガニスタン人の通過禁止措置、およびシリア人とイラク人の検問強化を開始した。
イドメニ周辺で足止めされた人の数は2~3週間のうちに数百人から1万4000人に増大。今では5万3000人以上がギリシャから出られず、ツィプラスが「人間の倉庫」と呼ぶ悲惨な状況に置かれている。(中略)

そんななか、EUはドイツを中心に難民の流入をせき止めようとしていた。3月18日、EUはトルコと新たな対策
で合意。3月20日以降、ギリシャに非正規に入国した移民はトルコヘ送り返すことが決まった。(中略)

EUとトルコの合意には、迫害などの恐れがある場所への追放・送還を禁じる国際法上の原則に違反しているとの批判がある。もっとも合意によれば、非正規入国者は難民申請の権利を持ち、審査期間中は施設に収容される。ト
コヘ送還されるのは申請が正式に却下されてから。おかげでギリシャで難民申請を行う人の数は、当局の処理能力を大幅に上回る規模に急増している。

よそ者を温かくもてなす心
財政危機と難民危機は一見、互いに無関係のように思える。前者は長年の放漫財政のツケだし、後者は地理的な要因がもたらしたものだからだ。だが難民をめぐる状況が急激に変化したせいで、2つの危機が互いの深刻化を招いている印象が強まっている。

経済大国ドイツでさえ難民流入に苦労しているならば、ギリシャが何万もの難民を人道的に処遇することはさらに困難だし、難民と当局の衝突が起きるリスクも高まっていく。また、当局が外国人のためになけなしの金を使っていることをギリシャの人々が知れば外国人への憎悪が高まりかねない。

ギリシャ人の間では2つの危機を結び付けて考える傾向が強まっており「EUは再びギリシャに背を向け、その理念を忘れ去ろうとしている」という見方も広がっている。「EUの仲間にまたも裏切られたという印象を与えたら、ギリシャがEUや難民、移民と手を携えていく可能性は低くなる。誰の得にもならない」と、移民政策研究所(ワシントン)のデミトリウスーパパデミトリュウ名誉所長はけつ。

だが今のところ、大半のギリシヤ人は難民に対し、驚くほどの同情を示し続けている。私か3月上旬に初めてコザニのスポーツ施設を訪ねたとき、そこには440人の難民が滞在していた。
 
毎日、30~40人のボランティアがコザニとその周辺の村々からやって来て、1日に5回の炊き出しや簡単な医療措置や歯科検診を行っていた。難民の半数を占める子供たちのために、ボランティアグループが毎日、お絵描きや劇といった楽しみを提供していた。
 
これはコザニだけの話ではない。パブリック・イシューの1月の世論調査では、回答者の58%が難民への同情心
を行動にして示していた。つまり3分のI強の人々が食料を、31%が衣類を提供し、募金した人も10%いた。600万人を超えるギリシヤ人が何らかの形で難民への援助を行った計算だ。

外国人を温かくもてなす伝統は古代から続いている。(中略)
 
難民が感じている未来に対する無力感にも、ギリシヤ人は敏感に反応する。背景にあるのはつらい歴史的体験だ。
 
4世紀にわたったオスマン帝国の支配に、20世紀に入ってからのバルカン戦争と第一次大戦。1923年にはトルコと「住民交換」が行われ、トルコのギリシヤ系住民130万人とギリシヤ国内のイスラム教徒40万人が故郷を追われた。ナチスードイツによる占領では人目の約10%が命を落とした。内戦や軍事独裁も経験した。シリア人に同情する理由として、祖先が難民だったことを挙げるギリシヤ人は多い。

ギリシヤ人はまた、文化的な色眼鏡で見られることにも慣れている。これは難民たち(イスラム教徒が多い)が、
欧州で直面する現実でもある。
 
ギリシヤ人はぐうたらで効率的な社会を維持できないというのが、多くの北ヨーロッパの人々の見方だ。だがO
ECD(経済協力開発機構)の統計によれば、ギリシヤ人の平均労働時間が年2000時間を超えているのに対し、ドイツ人は1371時間、イギリス人は1677時間だった(2014年)。

問題は難民に同情的な感情がいつまでもつかだ。ギリシヤは人目の95%をギリシヤ正教徒が占める民族・宗教的同一性が極めて高い国で、しかもこれまで移民を受け入れた経験がほとんどない。「今の状態が永続的なもので、何万何十万もの難民を受け入れなければならないとなったら、人々はどう反応するだろう」と、英シンクタンク・王立国際問題研究所の研究員アングロス・クリソゲロソは問い掛ける。

もっとも大半の難民はギリシヤにとどまる気はない。「私たちはただ待っているだけ。巨大な監獄に閉じ込めら
れている気分だ」と、クルド系シリア人のラミアーハイル(35)はこぼす。イドメニではしびれを切らした難民が
強引な国境越えを試みるようになり、今年4月にはマケドニアの警官隊と激しい衝突を繰り返した。
 
昨夏には想像もできなかった事態だが、今やドイツのアングラーメルケル首相がギリシヤの希望の星になっている。寛大な難民受け入れ策を取ってきたドイツとギリシャは行き掛かり上、共通の利害で結ばれることになった。
「わが国をはじめ昨年ギリシャをユーロ圏にとどめるために全力を尽くしたユーロ加盟国は、ギリシャが大混乱に
陥るのを放って置くわけがない」と、メルケルは2月末に国内メディアに語っている。(後略)【5月24日号 Newsweek
日本版】
******************

かつては激しく敵対した(債務問題では今でも同じですが)ドイツ・メルケル首相とギリシャの利害が一致するというのも奇妙な成り行きです。

中国は難民歓迎? 日本はシリア難民を5年で150人受け入れ
“難民らへの同情的な感情”については、東欧諸国で厳しいものがあり、難民受け入れの割り振りに反発していることは周知のところです。

そんななか、“難民らへの同情的な感情”に関する理解に迷う調査結果も報じられています。

****難民受け入れに寛容な国、1位は中国 アムネスティ発表****
難民受け入れに最も寛容な国は中国、ドイツ、英国であるとした調査結果を、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが19日、公表した。
 
調査はアムネスティが27か国を対象に「難民歓迎指標」を用いてそれぞれの国民の難民受け入れに対する許容度を測定したもので、難民を受け入れることに国民が最も不寛容だったのはロシア、インドネシア、タイだった。
 
指標では難民の受け入れ意志を、自宅、近所、市町村、国の各段階で数値化した。これによると、難民を自宅に引き受けてもよいとの回答は世界全体で10人に1人の割合だった。
 
国別では、難民を自宅に受け入れても良いとの回答が最も多かったのは、中国が46%で1位。続いて英国が29%で2位だった。3位のドイツは10%だったが、自国で受け入れても良いとの回答は96%だった。
 
一方、最も難民受け入れを歓迎していないのはロシアの国民で、61%が自国では難民を受け入れたくないと答えた。
 
この調査はアムネスティの委託を受けて民間調査会社グローブスキャン(GlobeScan)が27か国の2万7000人超を対象に実施した。【5月19日 AFP】
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“難民を自宅に受け入れても良いとの回答が最も多かったのは、中国が46%で1位”・・・・額面どおりに受け取っていい数字なのでしょうか?

それとも、国外の情報に疎く、難民に関するイメージがつかめていないとか、政府・党に目を付けられないように当たり障りのない回答をしている・・・といった裏の事情があっての数字でしょうか。

一方、調査対象27か国に日本が含まれているのかどうかは知りませんが、もし含まれていれば純血を貴ぶ国ですから、おそらくかなり低位にあるのでは・・・と推察されます。

****シリア難民、留学生で受け入れ 5年で150人、日本政府方針****
政府は中東の難民支援策の一環として、内戦が続くシリアの難民のうち、留学生として2017年から5年間で最大150人の若者を受け入れることを決めた。20日に安倍晋三首相が正式表明する。
 
日本政府関係者によると、受け入れ対象は内戦や過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭により、就学機会を奪われたシリアの若者たち。将来のシリア復興を担う人材を育成する狙いがある。(後略)【5月19日 朝日】
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“5年で150人”・・・・人口1億2千万人で世界第3位の経済大国として応分の責任を果たしているのか・・・安倍政権の問題というより、政治にそういう選択をさせる日本国民の意識の問題でしょう。

ドイツ 長期化する難民申請手続き 時給1ユーロで雇用の場を提供
首尾よく目指すドイツにたどりついた難民らにも困難は待ち受けています。

****<漂う民>アリさん一家 独に半年 難民審査「2度も****
 ◇アフガン人に厳しく
新緑がまぶしい独南部チュービンゲン。アリさん一家は今月8日、きれいに片付けられた仮住まいの部屋にいつもの笑顔で迎え入れてくれた。
 
政治的な迫害の有無を調べる独政府の面接調査が、3月30日にあったはずだ。気になって結果を聞いてみると、表情がさえない。「面接は1回でなく、2回あるそうなんです」
 
チュービンゲン市によると、シリア難民の面接は1回だが、アフガン難民には2回ある。1回目は国籍や出身地、これまでの道程など事実関係を聞き、2回目で難民申請した理由などを問う。「個別の事情を詳細に把握するため」だが、難民申請が殺到し、処理が追いつかなくなったので面接を分割し、効率化を図るという事情もある。
 
市は審査担当者を増やして迅速な対応を目指しているが、最大で2年間審査を待っている難民も出ているという。
 
昨年、約110万人の難民・移民が入国したドイツ。治安悪化などを受けて反難民感情が高まり、メルケル首相も「難民流入の大幅減少」を公言。審査の厳格化は避けられない情勢だ。

今年1〜3月もアフガン人だけで約2万人が難民申請し、審査が追いつかない。1〜3月のアフガン難民認定率は約48%だ。
 
アリさんの友人のアフガン難民モマンド・ナジールさん(28)は「面接もシリア人、イラク人、アフガン人の順。こっちは不安になるよ」と顔をしかめた。アリさんより1カ月早い昨年10月に兄とドイツに来たが、1回目の面接すら受けられずにいるのだ。【5月17日 毎日】
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難民申請手続きの長期化によって、それまでの間どうやって暮らすのかという問題が生じます。

****ドイツ、難民雇用の「1ユーロジョブ」制度・・・・時給は130円****
ドイツの首都ベルリン(Berlin)で、イラク難民のザイドさん(23)はスプーンとしゃもじを手に、グヤーシュ(ハンガリー風シチュー)とジャガイモがいっぱい入った大鍋のふたを持ち上げた。仕事のシフトの始まりだ。(中略)

自転車の修理や植木の剪定(せんてい)、歩道の清掃といった業務をわずか1ユーロ(約120円)余りの時給で請け負っているザイドさんのような難民は数千人に上る。

このいわゆる「1ユーロジョブ」制度は、ドイツの労働市場に新たに加わろうとする人々の足掛かりとなるとうたわれているが、識者らは以前からその有効性を疑問視している。
 
食卓を整え、パンを切り、料理を皿に盛り、そして片付ける。ザイドさんの時給は1.05ユーロ(約130円)だ。就労が許されているのは週20時間までと制限されており、月給は頑張っても84ユーロ(約1万300円)にしかならない。難民申請の審査結果が出るのを待つ間、当座の生活費として支給される143ユーロ(約1万7600円)のわずかな足しになる程度だ。
 
イラクの首都バグダッドから南へおよそ100キロに位置するヒッラから、父親と妹と共に半年前に逃れてきたというザイドさん。月収はドイツ人の平均賃金に比べればごく少額だが「ドイツ人の配膳ボランティアと触れ合えるので、ドイツ語を話す機会にもなる」と、喜んで取り組んでいる。

■ベルリン市は約3900人を雇用
難民申請の審査には、数か月とはいわずとも、数週間はかかるケースが多い。その間、普通の就業は認められていないため、難民申請者らの多くは待ち時間にうんざりしている。この問題を回避しようと、当局が活用を決めたのが、この1ユーロジョブ制度だ。
 
元は10年前、長期失業者の再就職を後押しする目的で発案されたもので、昨年110万人という記録的な数に上った難民の受け入れにつながればと活用されている。
 
ベルリン市は現在、75か所のセンターで生活する3925人の難民を雇用している。今後はホームレス支援団体やアルコール依存症のリハビリ施設など、公共サービスを提供する機関での雇用にも適用を広げたい考えだ。
 
一方、中部ハノーバー市では新たに同市に来た人々に対し、自転車の修理や寄付された服の仕分け、幼稚園児の送迎補助といった仕事と引き換えに、ドイツ語教室を受講できる制度を導入している。
 
アンドレア・ナーレス)労働社会相は、難民向けにこうした雇用10万件分を創出すると約束。こういった仕事が、労働市場に参入していくための「トランポリン」の役目を果たすと説明している。
 
同国RWI経済研究所の経済学者、ロナルド・バッハマン氏はAFPに対し「難民がこういう形でなければ働けないことを鑑みれば、短期的には理にかなっている」と述べた。記録的な数の難民が流入していることに伴い、反移民のポピュリズムが台頭する中、「彼らに仕事をさせれば、良い政治的シグナルにもなる」と述べている。
 
とはいえバッハマン氏は、この1ユーロジョブ制度が本来の狙いである長期失業者の再就職支援で功を奏してきたとは言えない点を指摘し「こういう仕事から学べることはほとんどなく、労働市場へ戻る一助になることはごくごくまれだった」と述べている。【5月19日 AFP】
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金額的には不十分でも雇用機会が得られ、社会との接触の機会が得られることは難民らにとっては良いことでしょう。ドイツ社会にとっても。

ただ、雇用機会を難民らに奪われている・・・・といった不満が自国民の中から出てこないのか・・・そのあたりが危惧されます。ドイツ人はやりたがらない仕事なので競合の心配はないということでしょうか。
別の見方をすれば、そうした自国民がやりたがらない仕事を破格の低賃金で難民らにやらせている・・・とも。

まあ、そうは言っても、難民らを収容施設などに閉じ込めておくよりは賢明な対応でしょう。
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スイス  ベーシック・インカム(最低所得保障)制度の導入を求める国民投票実施

2016-05-18 23:37:35 | 欧州情勢

【5月15日 AFP】

ベーシック・インカム 国民全員に最低28万円を保障
スイスで来月5日、すべての国民に月額2500フラン(28万円程度)を無条件に保障する「ベーシック・インカム」の導入に関する国民投票が行われるようです。

****毎月28万円の所得保障は是か非か、スイスで来月国民投票****
スイス・ジュネーブで14日、ベーシック・インカム(最低所得保障)制度の導入を求める団体の巨大ポスターが公開され、ギネスブックの世界記録に認定された。
 
ポスターの大きさは8115平方メートル。黒いシートに「所得が保証されたら、あなたはどうしますか?」という意味の英語が金色の文字で書かれている。
 
ジュネーブ中心部のプランパレ広場でこのポスターを公開した団体「ベーシック・インカム・スイス」は、財政が豊かな同国の全成人を対象に、毎月の最低所得を2500スイス・フラン(約28万円)にするよう求めている。
 
ギネス記録に挑戦したことについて質問されたベーシック・インカム・スイスの広報担当者は、最低所得保障の問題は「地球上で最大の問い」なのだから、物理的にも文字通り世界一大きな問いとして提示したかったと述べた。
 
ベーシック・インカム制度の賛成派は昨年10月、国民投票の実施要件である10万人を超える署名を政府に提出。これを受けて導入の可否をめぐる国民投票が来月5日に実施されることになった。
 
ベーシック・インカムは最低賃金とは別のもので、失業保険の受給資格がない人々や申請を希望しない人を含むスイスの全成人に、1か月につき少なくとも2500スイス・フランの所得を法律で保障するという内容。
 
賛成派は、ベーシック・インカムは所得と仕事とのつながりを切り離すセーフティーネットになると主張している。一方で専門家からは導入すれば増税が必要になるのはほぼ確実だとする意見のほか、勤労意欲が失われると不安視する声も上がっている。
 
ベーシック・インカム・スイスは、不本意な仕事を拒否し、基本的な生活費が保障された状態で関心のある事柄を追求する自由があるべきだと主張している。(後略)【5月15日 AFP】
*********************

ベーシック・インカムは就労の有無にかかわらず、全国民に給付される制度です。

****最低生活保障」(ベーシック・インカム)の仕組み****
発起者の提案は次の通り。
非就業者にはベーシック・インカムを無条件で給付する。就業による収入がある人の場合、給与の中からベーシック・インカムに相当する金額が吸い上げられ、その代わりに、ベーシック・インカムが給付されるので、収入に変化はない。

具体的な例を示すと、月1500フラン(約17万円)の収入がある人は、ベーシック・インカムを仮に2500フランと設定すると、千フランの追加収入を得る。給与が2500フランの場合は、収入に変化はない。

6500フランの収入がある場合は、2500フランがベーシック・インカムの財源としてすい取られ、給与の金額は4000フランとなる。だが、ここにベーシック・インカムとして2500フランが支払われるため、最終的には合計6500フランの収入となる。

社会保障の給付金にもこれと同じ方法が適用される。上限の2500フランまではベーシック・インカムによって補償され、それ以上の分はこれまで通り社会保障制度から給付される。

この方法で、ベーシック・インカムに必要な財源の約88%をカバーできる。残りの12%については、新しい税金を導入するなどして別の財源を確保しなければならない。【4月28日 swissinfo.ch】
*******************

スイスでは10万人の署名を集めればどんな案件(国際法に反していなければ)でも国民投票が可能で、これまでもしばしばそうした国民投票が行われています。

*****************
・給与の上限、1:12まで(65%が反対) (最低賃金者が1なら最高が12まで)
・徴兵制の撤廃(73%が反対)
・最低賃金、時給22スイスフラン(約2600円)(76%が反対)
http://labaq.com/archives/51863874.html
***************

国際的に注目されたのは2014年2月に行われた移民規制に関する国民投票でした。欧州全体に反移民の風潮が高まるなかで、スイスもそうした傾向が近年強く、僅差で規制案が支持されました。

****スイス、移民規制を支持=国民投票で小差―EUと関係悪化も****
スイスで(2014年2月)9日、欧州連合(EU)加盟国などからの移民流入規制をめぐる国民投票が行われ、政府発表の即日開票結果によると、賛成が50.3%、反対が49.7%となった。

州を単位とする投票でも全26州のうち過半数の17州で支持された。賛否の票数の差はわずか約1万9000票だった。投票率は55.8%。
 
スイスはEU非加盟国だが、人の移動を双方で自由に認める協定をEUと結んでいる。投票結果を受け、EUは直ちに遺憾の意を表明。今後、スイスとEUの関係が悪化する恐れがある。【2014年2月10日 時事】 
*****************

【「目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」】
今回の国民投票も、そうしたなかのひとつです。

提案者の意図は、単にカネが欲しいというものではなく、「ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」「資本主義が支配し、労働において自動化が進む社会が生み出す問題への解決策だ」という、生き方や労働の本来の意味を問うもののようです。

****スイス、世界で初めてのベーシックインカム導入国民投票へ****
昨年12月、フィンランドがベーシックインカムを導入するという記事が拡散したが(実際は誤報で計画が立てられ始めた段階)、スイスが世界初のベーシックインカム導入国になるかもしれない。

今年の夏、スイスでは「ベーシックインカム制度」の実現に向け国民投票が行われる予定だ。これが可決されれば、成人に対して毎月2,500スイスフラン(約30万円)、子供は625フラン(約7.5万円)が無条件で国から支給されることとなる。

年間の財源は2080億フラン(約25兆円)が必要だと予測されている(スイスのGDPは6428億フラン)。
この財源の出処は、1530億フランが税金によって、550億フランは社会保障費を削減するとしている。

また、ベーシックインカムをもらうことで、仕事を辞めてしまう人が増えるという懸念があり、1076人を対象にした調査では、約3分の1の人が「他の人は仕事をやめる」と答えている。

この動きを主導したのは市民団体で、国民投票に必要な10万人以上の署名を集めて議会に提出、国民投票を行うこととなった。

ベーシックインカムとは?
そもそもベーシックインカムとは、最低限の所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するというものである。

メリットは?
メリットとしては、貧困対策、少子化対策、社会保障制度の簡素化(による人員削減、利権の縮小、小さな政府の実現)、が主に挙げられる。

デメリットは?
一方、デメリットとしては、労働意欲の低下、財源の確保、また在住外国人に対しても同様に支給した場合移民が殺到し財政破綻する可能性がある。

スイスで署名活動を推進した中心人物は、「ベーシックインカムは貧困の削減だけのためのものではなく、むしろ生き方、働き方に関わる問題だ」と語る。

「現在の経済のしくみでは、一部の特権的な人びとはともかく、多くの人は食べるために働かなくてはならない。仕事とは、本来、共同体のため、他の人のため、社会のためであるはずなのに、それが自分と家族が何とか生きのびるためになってしまっている。ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」。

今後、ロボットによる無人化などによって、必要な労働量が減り、”失業率”が世界的に高まる可能性が高い。その時にセーフティネットをどう確保するのかというのは遅かれ早かれ重要な課題となるのは間違いない。

日本ではまだ議論が始まっていないが、そろそろ本格的に議論すべきかもしれない。その時、ベーシックインカムも一つの有力な選択肢となるだろう。【2月1日 BLOGOS】
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「ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」と言われると、「なるほど・・・」とも思えます。

ベーシック・インカムがあれば、国民は皆それぞれやりたい仕事に没頭でき、教育、創造性、ボランティア活動が促進されるほか、高齢や病気の家族の世話や育児にもより多くの時間を費やせると提案者側は主張しています。

働かなくなってしまうのでは?】
しかし、働かなくても約28万円もらえるなら、多くの人が働かなくなってしまうのでは・・・という素朴な疑問があります。

提案者側は、「そんなことにはならない」と考えているようです。

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最低生活保障額として国が月々2500フランを無条件に給付することになったら仕事を辞めるという人はわずか2%。状況によっては辞めるかもしれないという人は8%。

これは、発起者の依頼により世論調査機関デモスコープが行ったアンケート調査の結果で、昨年11月末にドイツ語圏とフランス語圏の有権者1076人が回答した。【4月28日 swissinfo.ch】
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ただ、自分は辞めないけど、他の人は辞めるかも・・・とのことようです。
“約3分の1の人が「(導入されたら)他の人は仕事をやめる」と答えている”(おそらく上記調査と同じものでしょう)という状況では、制度の財政的破たん、何よりも「勤労」という社会価値の崩壊の危険が強く懸念されます。

嫌な仕事を生活のために無理に続ける必要はない・・・というのが、そもそもこのベーシック・インカム導入の思想ですから、仕事を辞める人が一定に出ることは当然とも言えます。それがどの程度かが問題になります。

今回提案は、政党ではなく一般市民によるものです。

****政党ではなく、一般市民によるイニシアチブ****
これは独立した一般市民からなるグループから生まれたアイデアだ。政党はまったく関心を示していない。

連邦議会でも右派や中道派の政治家は全員拒否の姿勢を示し、わずかな支持が左派や環境派で見られたのみ。

下院では反対157、賛成19、白票16で否決され、上院では唯一バーゼル選出のアニータ・フェッツ社会民主党議員が賛成票を投じた。【4月28日 swissinfo.ch】
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“2500スイス・フラン(約28万円)”という金額については、日本的感覚では、「そんなにもらえるの!」とも思えますが、スイスは物価が非常に高い国で、その金額でも都市部ではやっと暮らせる程度だとの指摘もあるようです。

【「無関心のグローバル化」】
この話を聞いた最初の印象は、ベーシック・インカムの是非とは全く違う話ですが、全国民に28万円を保障するカネがあるぐらいに豊かであるなら、その一部でいいから、世界の飢えや貧困で苦しむ人々、住む場所を奪われた難民に与えることで、スイス国民だけでなく、全世界の人々の「幸せ」が向上するのではないか・・・という思いでした。

もっと言えば、一方で飢えや貧困で苦しむ国が多数あるなかで、28万円を一律保障しようという国もある。世の中というのは不公平なものだ・・・という感じです。先述のように、スイスでは移民規制の国民投票が支持されたということもあっての感想です。

生まれた国の違いで、なぜこんなに差があるのか?国家の枠組みは、そうした格差を「仕方ない」と切り捨てるものなのか?

****<ローマ法王>ペットより隣人を愛せよ…警鐘鳴らす****
ペットよりも苦しむ隣人を愛して−−。フランシスコ・ローマ法王は14日、現代人が猫や犬などのペットを偏愛するあまり、人間同士の連帯が時にないがしろにされていると嘆いた。
 
イタリアのANSA通信によると、法王はバチカンのサンピエトロ広場で開かれた謁見で、カトリック信徒らを前に「猫や犬には大きな愛情を感じているのに、隣人の飢えは手助けをせずに放っておく人をしばしば目にする」と述べた。
 
法王は、難民・移民やホームレスなどの弱者を助ける「貧者の教会」路線を掲げており、他人の苦しみを実感できない現代の「無関心のグローバル化」に警鐘を鳴らしている。【5月15日 毎日】
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別に、私はクリスチャンでもバチカンの回し者でもありませんが、法王の宗教者としての指摘には賛同できるものが多々あります。

多くを分かち合うほど寛容ではありませんが、少しぐらいなら・・・それで多くの人が救われるなら・・・という思いはあります。

もちろん“その一部でいいから、世界の飢えや貧困で苦しむ人々、住む場所を奪われた難民に・・・・”云々は、非常に単純な発想ではありますが、そういう思いを現実政治に反映させる道筋をつくるのが政治の役割ではないかとも思っています。

「ベーシック・インカム」以上に非現実的理想論と嗤われるのでしょうが。
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リビア  混乱に乗じて拡大するIS 欧米は統一政府への武器氏供与で対抗 火に油を注ぐ懸念も

2016-05-17 21:55:05 | 北アフリカ

【4月8日 AFP】(IS戦闘員が乗っている車は世界の武装勢力御用達のトヨタ・ハイラックスでしょうか)

シリア・イラクで劣勢になるも、リビアで勢力を拡大するIS
シリア・イラクでは「イスラム国(IS)」の劣勢が報じられています。

****IS支配地域「45%減」=米国防総省****
米国防総省のクック報道官は16日の記者会見で、イラクで過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあった地域のうち「約45%を奪還した」と語った。オバマ米大統領は今年2月、ISはイラクで制圧地域の約40%を失ったと表明していた。【5月17日 時事】
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IS崩壊に伴って発生する大量の捕虜をどうするか、現地勢力に任せると報復虐殺の恐れもある、さりとて・・・といった、IS崩壊後の扱いにも関心が向けられる段階ともなりつつあります。

****IS捕虜を待つ“報復処刑”の末路 収容所開設に逃げ腰の米政府****
米国が過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで大きな厄介事に悩んでいる。今後のIS壊滅作戦で予想される捕虜の取り扱いの問題だ。生き残って捕まった戦闘員が増えるにつれ、報復のため手当たり次第に処刑される事態が憂慮されるからだ。かといって米政府には、捕虜収容所を開設するつもりは一切なく、新たな難題に頭を抱えている。

アフガンの悪夢再び
イラクとシリアでのISの劣勢は日増しに明らかになりつつある。IS側はこれまでに両国にまたがる占領地の30%以上を失い、幹部の半分以上が死亡し、戦闘員も米主導の有志連合の空爆などで2万5000人以上が殺害された。
 
幹部の死亡では、軍司令官のオマル・シシャニが3月の空爆で、またナンバー2のハジ・イマムが米特殊部隊によって殺害された。最近では5月6日、イラク西部のアンバル州で、ISの前身「イラクのアルカイダ」からの大物幹部であるシャキル・ワヒブが空爆で死亡した。
 
米国とイラク軍は近く、バグダッドから約80キロ西にあるファルージャの奪回作戦を開始し、来年にはIS最大の占領都市である北部のモスルを攻略する計画だ。このため、オバマ大統領は最近、前線近くに米軍顧問団を配置することを承認した他、新たにアパッチ型攻撃ヘリ部隊を増派しつつある。
 
イラク駐留軍は現在、4000人を超えているが、短期的な派遣部隊も含めると駐留軍の規模は5000人を軽く超えるまでに膨れ上がっている。特に北部のクルド人の主要都市アルビルには、IS幹部の暗殺や拘束を狙う特殊部隊グリーン・ベレー約400人が駐留している。
 
オバマ政権はシリアでも北部のトルコとの国境地帯のクルド人地域に特殊部隊約300人を投入し、ISの首都ラッカへの侵攻作戦を検討中だ。ラッカ侵攻作戦の主力はシリア人の反体制派武装勢力。これをクルド人の武装組織が側面支援する態勢だ。
 
こうした中で米国や欧米の同盟国の間で深刻になっているのが、今後数千人規模で予想されるISの捕虜の扱いだ。これまではISの捕虜は大きな問題にはなってこなかった。なぜなら彼らは戦闘で死ぬまで戦い、最後は自爆テロで自ら命を絶つことが多かったからだ。(後略)【5月17日 WEDGE】
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一方で、ISはその戦力を新たな拠点リビアに移動させているということは以前から指摘されています。

****リビアのISIS戦闘員が倍増、最多6千人に 米アフリカ軍****
米軍のアフリカ軍のデービッド・ロドリゲス司令官(陸軍大将)は9日までに、内戦状態にある北アフリカのリビアで活動する過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の戦闘員の規模は4000~6000人に達するとの推定数字を明らかにした。
米情報機関当局の数字を引用したもので、昨年比でほぼ倍増したとしている。

リビアは2011年のカダフィ長期独裁政権の崩壊後、イスラム勢力、世俗派、部族などが入り交じる権力争奪の戦いを続いている。ISISもこの混乱に乗じて勢力を伸張させている。

同司令官は記者団に、リビアには他の北アフリカ諸国などから様々な外国人戦闘員が多数流入していると指摘。これらの戦闘員はイラクやシリアへも転戦しているとした。リビアには既にISISへ忠誠を誓う戦闘員もいると述べた。

リビアでは首都トリポリと東部に拠点を置く勢力が自らの政権樹立を宣言。国連や欧米諸国は昨年12月、両勢力による統一政権樹立の合意を仲介し、ISIS掃討の共同戦線の構築を図っている。【4月9日 CNN】
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ロドリゲス司令官は、イラクやシリアと違ってISにはリビアに関する知識が豊富な同国出身の戦闘員がいないと指摘。よってISがリビアの広域を支配下に置く可能性について、現時点では懸念していないと述べていますが、すでにISはリビアにおいて、東西政府の抗争、統一政府樹立の遅れという混乱に乗じて、シルトを拠点としてその勢力を拡大しています。

リビアの統一政府はISが国土の3分の2を制圧しかねないと警告しています。ただ、これは「そうならないために欧米は統一政府をもっと支援してくれ」という話でもあるでしょうが。
いずれにしても、放置すれば“3分の2”まではいかなくても、シルトを拠点とした支配地域が確立される恐れがあります。

【「ボコ・ハラム」とも連携強化
更に、サハラ砂漠を挟んだナイジェリアなど西アフリカで活動しているイスラム過激派「ボコ・ハラム」との連携が強化されているとも。「ボコ・ハラム」もナイジェリアにおいては、その支配地域を失いつつあります。

シリア・イラクとナイジェリアという本拠地で劣勢に立った両勢力が混乱の地リビアに結集し、立て直しをはかるといった構図です。

****<リビア>ISとボコ・ハラムの連携強化、高まる懸念****
北アフリカのリビアで、過激派組織「イスラム国」(IS)と「ボコ・ハラム」の連携強化への懸念が高まっている。既にボコ・ハラムはISに忠誠を誓っており、戦闘員が本拠地のナイジェリアからサハラ砂漠を越え、リビアのIS拠点に続々と流入している可能性もある。
 
13〜14日にナイジェリアでこの地域の首脳やオランド仏大統領らが出席して安全保障関連の国際会議が開催され、米英高官がISとボコ・ハラムの関係について相次いで警告した。
 
英国のハモンド外相は「ダーイシュ(ISの別称)がリビアにより強固な基盤を築けば、ボコ・ハラムとの連携が強化されるだろう」との見方を提示。米国のブリンケン国務副長官も「ボコ・ハラムの戦闘員がリビア入りしているとの情報がある」と指摘した。
 
ISは2014年以降、内戦状態が続くリビアで拠点作りを進め、昨年6月に中部シルトを制圧した。本拠地のイラクやシリアで昨年来、実効支配地域の縮小が続いており、他国に拠点を確保して組織の存続を図る狙いがあるとみられる。
 
米CNNによると、米情報当局者はリビアのIS戦闘員数がシルトを中心に最大6500人に上ると推計する。
 
リビアでは11年に内戦でカダフィ政権が崩壊。その後、反カダフィ派の内紛が続いていたが、国連が和解を仲介し統一政府樹立を目指している。ISの勢力拡大や不法移民の流入を懸念するイタリアやフランスは、軍事支援を強化する意向を示している。
 
しかし、権力を失うことを恐れる東部の武装勢力などが反発し、統一政府樹立の見通しは立っていない。こうした状況の中で、ISは最近、西部ミスラタ付近で攻勢に出ており、石油関連施設もたびたび攻撃している。
 
一方、ボコ・ハラムは14年4月に女子生徒219人を拉致するなど、ナイジェリア北東部で支配地域を拡大させたが、最近は同国や周辺国の掃討作戦で弱体化。指導者シェカウ容疑者が今年3月、インターネット上で「私にとって終わりが来た」と、敗北宣言とも取れる声明を発表した。
 
両組織の具体的な協力関係は不明だが、ブリンケン氏は「ボコ・ハラムの広報戦略は以前より洗練されてきている。ISの特徴が出ている」と指摘する。
 
ISが拠点とするシルトと、ボコ・ハラムの活動基盤があるナイジェリア北東部は、サハラ砂漠を挟み約2000キロ離れている。しかし、リビア経由で欧州渡航を目指す不法移民の移動や麻薬、武器の密輸に使われるルートがあり、過激派戦闘員や武器の輸送にも利用されている可能性がある。
 
エジプトのシンクタンク・アハラム政治戦略研究所のアマニ・タウィール氏(アフリカ研究)は「欧州の情報当局関係者からボコ・ハラムの戦闘員がリビア入りしたと聞いた。リビアの政治的和解は難航し、ISが勢力を伸ばす好機が続いている」と指摘した。【5月16日 毎日】
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欧米 軍事介入は極力避けて、かわりに武器禁輸を解除し、リビア統一政府にIS対策を担わせる
これでは“もぐら叩き”で、世界全体のテロの脅威は残存します。
特に、欧州にとっては、ISの勢力拡大でリビアの混乱が長引く事態は、「バルカンルート」が封鎖されてもリビアからイタリアなどへの難民流失が止まらないということを意味します。また、難民に紛れた形でテロリストが流入する懸念も拡大します。

****欧州難民問題、新局面に=リビアからの流入阻止へ****
春を迎えた欧州で、難民問題が新しい局面を迎えつつある。昨年以降、シリア難民らが殺到したギリシャから西欧へのルートは、欧州連合(EU)と経由国トルコの対策合意などにより流入数が激減。一方、北アフリカのリビアから地中海を渡ってイタリアに入る例が目立ち始めた。欧州各国は危機の再燃回避へ躍起になっている。
 
イタリアへの流入は3月が前年同月の4倍以上の約9700人。4月には地中海で密航船が転覆し、500人が死亡したとも言われ、対策の必要性が叫ばれている。国連難民高等弁務官事務所の報道官は「冬が終わり、天候が良くなってきている」と述べ、危険を顧みない渡航の試みが再び増加に転じる事態を予測する。
 
リビアでは2011年のカダフィ政権崩壊後、国家が分裂状態に陥った。取り締まりが消えた港湾にアフリカ大陸を横断して難民らが集まり、密航あっせん業者も群がっている。ここに過激派組織「イスラム国」(IS)も混ざり込み、欧州諸国はテロリストの潜入を阻止する意味でも難民対策が急務とみる。
 
欧州主要国外相は4月、相次いでリビアを訪れ、統一政府樹立を後押ししていく立場を明確にした。ドイツのシュタインマイヤー外相は訪問時、「警察や軍の訓練が必要」と指摘。リビア国内体制を立て直し、難民・テロ対応で役割を担えるようにすることが不可欠と強調している。
 
即効性も求める伊政府は、北大西洋条約機構(NATO)がリビア沖に艦船を派遣し、密航船の監視を行うことを提案。7月のNATO首脳会議での合意を目指す。

一方、隣国オーストリアは対イタリア国境の管理を強化する構えで、旧ユーゴスラビア構成国経由で難民らが殺到した昨年と同じ混乱を防ごうと警戒を強めている。【4月30日 時事】
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上記記事にもあるように、イタリアのジェンティローニ外相は4月12日、フランスのエロー外相とドイツのシュタインマイヤー外相は4月16日、リビアの首都トリポリを訪れ、リビア統一政府のメンバーと会談し統一政府の後押しに力を入れています。

これまでリビアへの武器輸出は禁止されていましたが、とにかくリビアが統一政府のもとで安定してくれいと困る・・・ということで、欧米はリビア統一政府への武器供与を明らかにしています。

****関係国、リビア統一政府への武器供与に合意 対IS戦支援****
紛争で荒廃しているリビアについて、米国とイタリア、さらにリビアの同盟国と近隣諸国は16日、オーストリア・ウィーンで会合を行い、発足したばかりの統一政府がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の脅威に立ち向かっていけるよう、武器を供与していくことで合意した。
 
ジョン・ケリー米国務長官によると、25のメンバーが出席したこの会合で、リビア内戦を終結させるために国連が発動している武器禁輸の対象から、国民合意政府(GNA)を外すことで一致したという。
 
ただケリー国務長官はイタリアのパオロ・ジェンティローニ外相と共に、新政府を支援するために国際部隊を派遣する計画はないと語った。
 
一方でケリー氏は、ウィーンを訪れたリビアのファイズ・シラージュ暫定首相から、装備と訓練の提供要請を受け、参加した閣僚らは支援する用意を示したと明かした。
 
ISはリビアの混乱に付け込み、地中海沿岸の都市シルト一帯に一大拠点を設け、周辺地域への攻撃の起点としている。
 
国際社会、特に欧州諸国は、リビアの不安定な沿岸部から地中海を渡って難民や移民が流入していることについても危惧している。
 
ジェンティローニ外相はウィーンでの記者会見で、「リビアの安定は、われわれが抱えているリスクへの鍵となる答えであり、リビアを安定させるためには一つの政府が必要だ」と述べた。
 
リビアでは、2011年に北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けた反体制派がムアマル・カダフィ大佐の独裁政権を崩壊させ、カダフィ大佐を殺害。現在は対立する武装勢力同士が同国を支配しようと衝突し合っている。ISは昨年、カダフィ大佐の出身地だったシルトを掌握して戦闘員の訓練キャンプを設置した。
 
国連の仲介による何か月にも及ぶ交渉の末、3月末に統一政府GNAが発足。GNAは中央銀行や国営石油公社(NOC)といった主要な機関から支持を取り付けたものの、抵抗は依然根強い。
 
同国の東西で敵対する2つの政府に加え、武装勢力や凶暴な司令官の下で軍を結成しようとしている組織などが、GNAによる統治を拒否している。【5月17日 AFP】
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欧米はリビアへの軍事介入は極力避けて、かわりに武器禁輸を解除し、リビア統一政府にIS対策を担わせる考えのようです。

ただ、内戦が収まっていないリビアへの武器供給は「戦闘の火に油を注ぐ」との指摘もあり、欧米の描いた図式どおりに事が運ぶどうかは不透明です。

統一政府への統合が進むのか、「第2のシリア」と化すのか?】
肝心のリビアの情勢ですが、統一政府がどの程度機能しているのか、従来から対立してきた西のイスラム主義勢力のトリポリ政府、東の世俗主義勢力・カダフィ政権残存勢力などのトブルク政府との関係がどうなっているのか・・・・よくわかりません。

統一政府の権力掌握が進んでいないという話は、3月20日ブログ「リビア 混乱が続く中での統一政府づくりの現状は? 米欧の再度の軍事介入は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160320でも取り上げましたが、その後も情報はあまり多くありません。

西のトリポリ政府の方は、統一政府を受け入れたとされています。

****リビア統一政府に権限移譲、トリポリ支配勢力が表明***
リビアの首都トリポリを実効支配している武装勢力は5日、国連)が後押しする統一政府に権限を移譲する意向を表明した。内戦状態が続くリビアの政治的分裂の解消に向けた国際的取り組みにとって、大きな前進となった。
 
トリポリを支配する武装勢力は、AFPに送付した声明で、リビアの「国益を守り、流血と分裂を避ける」ために権限を移譲する決断を下したと述べている。声明は、同勢力の「法務省」ウェブサイトにも掲載されている。
 
リビアでは、2014年半ばに武装組織連合がトリポリを掌握して以来、2つの政権が併存し、国際社会から承認を受けた暫定政権は国内東部への退避を余儀なくされていた。
 
国際社会は、国内でのイスラム過激派組織の勢力拡大と密航の横行への対処に必要不可欠なものであるとして、統一政府の樹立に協力するよう、双方に呼び掛けていた。
 
先週には、国連の後押しを受けているファイズ・シラージュ暫定首相らがトリポリ入りしていた。【4月6日 AFP】
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しかし、国際的には従来「正統政府」と見なされていた東のトブルクの方は、議会が未だ統一政府への権限移譲を承認していません。

トブルク議会議長は、統一政府がシルトを支配するISとの戦いのために統合作戦本部を作ることを非難し、トブルク政府の承認を得ない軍事的決定は無効であり、統一政府はリビアを内戦に導こうとしていると非難したとのことですが、統一政府は国連・欧米の支援だけでなく、統一政府代表団が7日にはエジプト・カイロを訪問しシシ大統領と会談したとのことで、アラブ圏での認知も広げつつあるようです。【5月8日 野口雅昭氏 「中東の窓」より】

今後、統一政府のもとで、東西政府が統合する形で対ISの戦いが構築できるのか、あるいは現在のシリアのように、各勢力が各自の戦いをバラバラに進め、欧米諸国からの武器支援が火に油を注そぐ形で混乱が拡大するのか・・・まだよくわかりません。

統一政府への権限集中が進まず、業を煮やした欧米が直接介入し・・・となれば、完璧な「第2のシリア」の出来上がりです。
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ベネズエラ・マドゥロ大統領  米の画策を非難し、経済・政治危機へ緊急事態令 アメリカは関与否定

2016-05-16 22:47:01 | ラテンアメリカ

(ベネズエラの苦境に中国は…(右はマドゥロ大統領)【5月10日 日経】)

中国 ベネズエラの経済危機は同国内の問題と突き放す
昨日取り上げたブラジルに続き、同じ南米・左派政権が窮地に追い込まれているベネズエラの話。

ベネズエラの経済破綻、チャベス路線を継承するマドゥロ大統領の政治的危機については、5月2日ブログ「ベネズエラ 経済悪化でいよいよ追い詰められたマドゥロ大統領 罷免を求める動きも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160502でも取り上げました。

5月2日ブログで触れたように、世界一高いインフレ率、日常生活や医療にも深刻な影響を及ぼしている電力不足、食料・日用品の供給不足など、ベネズエラ経済は崩壊の瀬戸際に追い詰められています。

****停電で真っ暗、食料や薬も払底、インフレ率「世界一」ベネズエラ 経済危機が反米政権を直撃****
南米ベネズエラの経済危機が深刻化している。輸出の大半を原油に依存してきたが、原油価格の下落で外貨収入は大幅に減った。経済はリセッション(景気後退)に陥り、食料や医療品が不足するなど市民生活を直撃している。

マドゥロ大統領は経済担当の副大統領を交代させる方針を固め難局をしのぎたいところだが、先行きは見通せない。
 
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、首都カラカスでは停電が慢性化し、ショッピングセンターやスーパーは真っ暗だという。電気の使用時間が政府によって制限されているためだ。
 
停電は日常生活だけでなく、病院や医療施設の運営にも支障をきたす。医療品や人工呼吸器の不足が追い打ちをかけ、同国西部の病院では乳児6人が死亡したニュースが報じられた。
 
スーパーでは食料品が不足しており、市民が闇市で食料や飲料を調達する光景も目立つが、価格が高騰しているため、なかなか手が出せないでいる。
 
議会の過半数を占める野党は、政府による価格統制が背景にあると主張し、今月11日、食料危機を宣言。政権の責任を追及する構えをみせている。

これに対し、マドゥロ氏は経済担当副大統領を交代させることで、状況の悪化に歯止めをかけようとしている。ロイター通信によると、マドゥロ氏はサラス副大統領に代えて、財界との関係が深い穏健派を起用する方針。
 
ウォールストリート・ジャーナルが国際通貨基金(IMF)のデータを引用して報じたところによると、今年の同国のインフレ率は世界で一番高い700%に達する見通し。2015年の経済成長はマイナス10%だったが、今年はさらにマイナス8%となる可能性が指摘されており、このままでは市民生活はさらに悪化すると予想される。
 
マドゥロ氏やその周辺からは「米国を中心とする敵対勢力が経済戦争を仕掛けている」「民間企業が政権の不安定化を狙っている」といった声が聞かれるが、経済悪化の影響は、政権与党が大敗した昨年12月の総選挙にもはっきりと表れていた。

食料をはじめとする物資不足が、反米左派政権の勢力衰退に拍車をかける情勢になってきた。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国のベネズエラは協調減産を訴えているが、各国の温度差もあり実現へのハードルは高い状況だ。【2月17日 産経】
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マドゥロ政権は債務国・中国の支援を求めていますが、経済状況が芳しくない中国としても、おいそれとは救済の手を出せない状況です。

****夢追う国の限界(1)「L字」停滞の恐怖 ****
「借り入れ条件を見直してほしい」。南米ベネズエラのデルピノ石油鉱業相は3月1日、中国・北京を訪れた。中国の国策銀行、中国国家開発銀行に対して借金の負担軽減を申し入れるためだ。
 
米国の「裏庭」に位置するベネズエラは、2000年代に反米左派へ走った。接近したのは米国と並ぶ大国になることを「夢」とうたう中国だ。

中国国家開発銀がベネズエラの国営石油会社などに融資し、豊富な埋蔵量を誇る同国の原油で返済する仕組みをつくった。中国経済の高成長と、それに伴う原油需要の急増という「右肩上がり」が筋書きの前提だった。

■狂った目算
ところが目算が狂う。米国のシェールガス革命に加え、中国の経済成長が鈍化。原油価格は下落し、ベネズエラが05年から受けた累計650億ドル(約7兆円)の融資は「年末までに債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高い」(米大手格付け会社)。
 
ベネズエラを含む主要産油国が4月17日に見込んでいた増産凍結の合意も流れ、苦境は続く。それでも中国は同国のSOSに応えられずにいる。
 
08年に米国発の金融危機が世界に広がるなか、中国は4兆元(当時の為替レートで50兆円超)の巨額対策で経済を「V字」回復させた。それがいまでは当局者も「今後は『L字』だ」と口をそろえる。

景気は失速せず安定に向かうと言いたいようだが、製造業の過剰設備や急速な高齢化などの重みで、長期停滞の「L字」となる恐れが漂う。

その衝撃は、すでに世界を揺さぶっている。(後略)【5月10日 日経】
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中国はベネズエラを見捨てる方針のようです。

****ベネズエラの危機は「国内の問題」=中国外務省****
中国外務省の報道官は16日、ベネズエラを支援する計画があるかとの質問に、ベネズエラの経済危機は同国内の問題との認識を示した。

ベネズエラは2007年以降、中国から約500億ドルの金融支援を受けているが、原油価格の急落で経済が危機的状況にある。(中略)

報道官は「ベネズエラが現下の国内状況に適切に対処し、国の安定と発展を守ることを希望する」と述べた。ただし、ベネズエラの状況について具体的なコメントは控えた。【5月16日 ロイター】
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ベネスエラが石油や経済支援で支えてきたキューバは、経済危機に陥ったベネズエラに見切りをつけて、アメリカとの関係改善に動いています。国際的な孤立も深まっています。

アメリカ 「ベネズエラの政権転覆を狙ってはおらず、危機を和らげたいだけだ」】
こうした危機的状況にあって、マドゥロ政権はガソリン価格の14倍~60倍引上げ、節電のための公務員週休5日制、標準時変更などの対応をとっていますが、昨年末の総選挙で野党勢力が3分の2を獲得したようにマドゥロ批判が高まっており、大統領罷免のための国民投票を求める動きも活発になっています。

昨日取り上げたブラジルでも、左派ルセフ大統領を引きずりおろした右派・保守旧勢力のクーデターとも見える動きの裏に、石油利権を狙うアメリカの思惑があるのでは・・・という指摘がありました。(単なる“陰謀論”にすぎないかもしれませんが)

ましてや、故チャベス大統領のもとで反米の急先鋒にあったベネズエラですから(産油国でもありますし)、当然のごとくマドゥロ政権打倒の動きにアメリカが関与しているのでは・・・という話も出てきます。

今回のベネズエラで実際にどのようにアメリカが関与しているかは知りませんが、これまでアメリカが中南米で数多くの“陰謀を画策”し、幾多の政権崩壊に関与してきたことは事実ですから、そうした話が出るのも“不徳の致すところ”でしょう。

ベネズエラに関してはアメリカは関与を否定し、「崩壊を憂慮している」とも。(ことさらに陰謀を画策せずとも、放置すれば反米左派政権が自壊すると思われますので)

****米、ベネズエラ経済・政治の崩壊を憂慮=高官****
5月13日、米諜報当局の高官2人は13日、ベネズエラが経済的・政治的に崩壊する可能性について、米国が懸念を強めていることを明らかにした。

高官らは少数の記者団を相手に状況説明を行い、債務不履行(デフォルト)、国民の抗議行動の広がり、石油産業の状況悪化などが崩壊の引き金になるとの見方を示した。

野党から罷免を求められているマドゥロ大統領については、大統領自身が年内の再選挙を認めないが、2019年までの任期を全うすることはできないとの見通しを示した。

実現性の高いシナリオとして、大統領自身の政党、あるいは有力政治家から更迭される可能性を挙げ、軍事クーデターが起こる恐れも排除できないとした。もっとも現在のところ具体的な陰謀が計画されている証拠は見当たらず、大統領が国民の支持を失った様子も見られないという。

ベネズエラ政府はこれまで債務を期日通りに返済し続けているが、今後はデフォルトを起こすリスクがあるとも指摘した。

米政府の対応については、米国が口出しするとベネズエラから陰謀と非難されるため、取れる手段は乏しいと説明。オバマ大統領は同国が混乱に陥らないよう、周辺地域で尽力したい考えだとした。

高官の1人は「氷の割れる音が聞こえる。危機は近づいている。われわれが圧力をかけても問題は解決しない」と語った。米国はベネズエラの政権転覆を狙ってはおらず、危機を和らげたいだけだ、とも強調した。

マドゥロ大統領は13日、国内の一部勢力と米国が仕組んだ政権転覆計画があるとの理由から、60日間の非常事態を宣言している。【5月16日 ロイター】
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国内反政府勢力へのアメリカからの資金・情報提供などがあっても不思議ではありませんが、現在の経済・政治危機はそうした“陰謀”によるものではなく、故チャベス大統領以来の経済無策のつけが回ってきたことが基本にあって、マドゥロ大統領の対応のまずさへの国民の怒りが主導して生じているものでしょう。

マドゥロ大統領 「米国などが政権転覆計画」と緊急事態令 困難さを増す危機乗り切り
マドゥロ大統領はいつものようにアメリカの画策のせいだとして責任転嫁しようとしていますが、もはやそのような話は通用しないでしょう。

***ベネズエラ大統領が非常事態宣言、「米国などが政権転覆計画****
5月13日、ベネズエラのマドゥロ大統領は、国内の一部勢力と米国が仕組んだ政権転覆計画があるとの理由から、60日間の非常事態を宣言した。

マドゥロ氏は非常事態宣言の詳しい内容を示さなかったが、昨年コロンビアとの国境近くの州で実施したケースでは、これらの地域で人権保障関連部分を除く憲法の適用を停止した。

これに先立ち、米国の情報機関当局者は記者団に対して、ベネズエラが経済的・政治的に崩壊する可能性への懸念を高めていると語った。

ベネズエラでは食料および医薬品不足や停電の頻発、物価高騰など経済危機が深刻化し、野党がマドゥロ氏の罷免を目指している。しかしマドゥロ氏は任期を全うする構えで、米国が水面下でのクーデターを扇動していると批判している。

マドゥロ氏は13日の国営テレビで、ブラジル上院でルセフ大統領の弾劾法廷設置が承認された動きを引き合いにして「米政府はベネズエラの右派の要請に基づいて具体的な手段を発動しつつある」と力説した。【5月16日 ロイター】
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マドゥロ政権は緊急事態令のもとで、力ずくででも工場に商品生産・出荷をさせようともしているようですが、市場原則を無視した対応では事態の好転は無理でしょう。

****ベネズエラ大統領、新たな緊急事態令 停止工場を一斉取り締まりへ****
深刻な経済危機に見舞われているベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は14日、新たな緊急事態令のもとで一斉取り締まりを実施し、操業を停止した工場の差し押さえやその経営者を逮捕すると述べた。

また軍事介入といった国外からの脅威など「あらゆる状況に備える」ため軍事演習を21日に実施すると発表した。
 
食料不足や物価高騰、暴動、略奪、自警団による裁きなどを引き起こし、ベネズエラを崩壊寸前に追い込んでいる深刻な経済危機への対応に追われているマドゥロ大統領は13日、「ベネズエラの極右派」の要請を受けて、同国を不安定化させているとして米国を非難するとともに、緊急事態令を宣言した。
 
新たな緊急事態令は、同大統領が1月に宣言した「経済緊急事態」を全面的な非常事態に拡大するかたちとなる。
 
首都カラカスで14日に行われた集会で同大統領は、緊急事態令のもと、いくつかの対策が取られると支持者らに述べたが、その内容はまだ正式には発表されていない。
 
マドゥロ大統領は、「資本家階級によってまひさせられているわれわれの生産能力を回復するため、あらゆる対策を取らなければならない」、「(生産を)停止し、国に対する妨害活動を行いたい者は全員出ていくべきだ。そして、実際に停止した者は逮捕され、刑務所に送られなければならない」と、声援を送る支持者らに語った。
 
ベネズエラでは先月30日、同国最大の飲食品会社ポーラー・グループが、政府の不手際により大麦をもはや輸入することができないとしてビールの生産を停止している。【5月15日 AFP】
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前回ブログでも書いたように、“デフォルトが先か、リコールが先か・・・”という選択が現実味を増しています。
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ブラジル  “クーデター”にも見える弾劾劇 前政権以上に汚職関与が疑われる新政権 アメリカの影

2016-05-15 21:06:09 | ラテンアメリカ

(ルセフ大統領の停職を受け、大統領代行に就任し、初めての演説を行うテメル氏(中央)【5月13日 毎日】
周囲の人間を含めて、いかにも白人富裕層代表という感も。女性の姿もありません)

【「罪も犯していないのに弾劾に問われた。これはクーデターだ」】
周知のように、南米ブラジルではリオ五輪を前にして、ルセフ大統領の弾劾裁判が開始され、最長180日の職務停止に追い込まれています。今後の進展次第では罷免の可能性も強いとされています。

****ブラジルのルセフ大統領停職=上院、弾劾裁判開始決定―スポーツ相も辞任、五輪に影響も****
ブラジル上院(定数81)は12日、ルセフ大統領(68)に対する弾劾裁判の開始を賛成多数で決めた。ルセフ氏は最大180日間の停職となり、大統領府を去った。ブラジルの大統領が弾劾に問われ、停職となるのは1992年のコロル大統領(当時)以来。テメル副大統領が暫定政権を率いる。
 
ルセフ氏は今後、最高裁長官をトップとする弾劾法廷で裁かれ、証人喚問などを経て上院の3分の2が賛成すれば罷免される。
 
ルセフ氏は12日、弾劾裁判開始決定を受けた記者会見で「弾劾に問われる理由はない。任期満了の時まで闘い続ける」と述べ、改めて徹底抗戦の構えを示した。弾劾裁判は数カ月続く見通し。

政治混乱を背景に不安定な社会情勢が続いており、暫定政権が難局打開に行き詰まれば、約3カ月後に迫ったリオデジャネイロ五輪に影響を及ぼす可能性もある。
 
スポーツ相を含むルセフ政権の閣僚28人は辞任。テメル氏は12日、暫定内閣を発足させた。1930年代以降で最も深刻とされる不況からの脱却に最優先で取り組む。機能不全が続いた政治の安定と、ルセフ氏弾劾をめぐり対立を深めた国民の融和も大きな課題となる。
 
2011年にブラジル初の女性大統領に就任したルセフ氏は、財政を健全に見せるため、補助金などの政府支出を国営銀行に肩代わりさせたとして弾劾に問われた。上院採決では賛成が55人と反対の22人を大きく上回り、大統領罷免に向け勢いが増している。【5月12日 時事】
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この件に関しては、下院での採決が行われた段階の4月19日ブログ「ブラジル 下院で弾劾決議承認 ルセフ大統領は“クーデター”として徹底抗戦の姿勢」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160419 でも取り上げました。

その時の表題にもあるように、ルセフ大統領は自身の弾劾の動きを“クーデター”とみなし「罪も犯していないのに弾劾に問われた。これはクーデターだ」「民主主義を勝ち取る闘いに終わりはない」と、徹底抗戦の姿勢を続けています。

職務停止直前には、財政赤字拡大をもたらすバラマキ政策の拡充という「置き土産」も。「(ルセフ氏の後を襲った副大統領)テメルへの復讐と妨害だ」とも言われています。
ルセフ氏は、軍事政権下の左翼ゲリラ活動の闘士で、拷問にも耐えた女性ですから、簡単には引き下がらないようです。

****<ブラジル>弾劾裁判開廷は確実 ルセフ大統領が復讐****
・・・・絶体絶命のルセフ氏は、自分を裏切り、暫定大統領となる可能性が高いテメル副大統領への復讐(ふくしゅう)に乗り出した。
 
ルセフ氏は1日、サンパウロでメーデーの集会に登壇。生活保護費と公務員給与の増額、低所得者層の所得税減税など、労働党が得意とするバラマキ政策の拡充を宣言。政権の「置き土産」に大衆は喝采を送った。
 
大統領の狙いは、財政赤字を更に悪化させるのを承知で、後継者に重荷を負わせることだ。現地紙は一連の緊急のバラマキ政策を「テメルへの復讐と妨害だ」という連邦下院議員の言葉を紹介した。
 
テメル氏は、中道のブラジル民主運動党に所属。上下両院で最大議席を有する同党は今回の弾劾騒動を機に連立与党を離脱、ルセフ政権を窮地に陥れた。
 
弾劾裁判開廷でルセフ氏の職務が停止すると、テメル氏が暫定大統領に就任。裁判の審理も進められ、定数の3分の2の賛成で弾劾が成立すれば、テメル氏がルセフ氏の任期満了(2018年末)まで大統領を務める。
 
ルセフ氏は20代のころ、軍事政権下に左翼ゲリラ活動で逮捕され、拷問を耐えたことが語り草だ。68歳の今、弾劾の圧力にあらがう言葉にはすごみがある。「かつて軍政下で不正義の犠牲となった。だから私は闘う。民主主義の時代に再び犠牲にならぬように」(後略)【5月10日 毎日】
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経済苦境・治安悪化
政治混乱の背景にある大きな要因のひとつは、マイナス成長・高失業率・インフレという経済危機です。

****政治危機のブラジル 失業率増加、経済も苦境に****
ブラジル政府は(4月)24日までに、失業率は昨年12月から今年2月までの期間に10.2%に上昇したとの公式データを発表した。

同国では政府会計の粉飾疑惑に絡むルセフ大統領の弾劾(だんがい)請求などの政治危機に襲われているが、景気も悪化の一途をたどる苦境に直面している。

昨年同期の失業率は7.4%だった。現段階の失業者総数は1000万人で、1年前に比べ300万人増加。賃金は約4%目減りし、インフレ率は高水準にとどまっている。

ブラジルの国内総生産(GDP)は昨年3.8%縮小し、同国の中央銀行は今年の成長率はマイナス3.5%と予測している。(後略)【4月24日 CNN】
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また、治安も悪化、財政難から警官への給料未払いも続いており、リオ五輪への影響も懸念されています。

****政治力不在のまま迎えるリオ五輪 ルセフ氏停職、誰が開会宣言? 犯罪多発も警官の給料未払いなど課題山積****
・・・・一方、政治家が政争に明け暮れる中、リオ市内の治安情勢は近年でも最悪の状態で、観客や選手らの被害も懸念されている。市内の強盗発生率は日本の約660倍。15年の強盗発生件数は12年に比べ約50%も上昇した。ギャングらは銃を持っており、警官も今年に入り35人が殉職している。
 
財政難で警官らの給料未払いも続いており、危険な現場を拒否したり、五輪直前にストライキを起こしたりする可能性も指摘されている。【5月13日 産経】
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ルセフ氏以上に腐敗にまみれた追及側・新政権
予定どおりルセフ氏を引きずり下ろし、暫定大統領の地位についたテメル氏は「危機を話題にするのはやめて、代わりに働こう」と、経済再建に向けた国民の団結を呼びかけていますが・・・・。

****<ブラジル>暫定政権、市場は期待 汚職、選挙違反で不安も****
ブラジル上院がルセフ大統領の弾劾裁判開始を決めたことで、4期続いた左派労働党政権の終幕が現実味を帯びてきた。テメル副大統領が率いる暫定政権に、気の早い金融市場は不況脱出の期待を寄せる。だがテメル氏は汚職や選挙違反への関与が取りざたされ、不安要素も抱える。
 
テメル氏とルセフ氏は不仲で知られるが、2期目の選挙戦でも共闘した。単独で政権を取れない労働党は、テメル氏のブラジル民主運動党(PMDB)の議席が連立政権の維持に必要だからだ。
 
PMDBは上下両院で最大の議席を有する。中道だが、昨年10月に発表した党の政策綱領の中で、社会保障費の削減や国有企業の民営化といった、労働党とは対極的な目標を明示した。今年3月には支持率が10%まで落ち込んだルセフ政権に見切りを付け連立を離脱した。
 
ルセフ大統領の弾劾審議が進むにつれ、PMDB主導の暫定政権下で経済が好転するとの期待が高まり、通貨や株式、債券などに幅広く買いが広がっている。通貨レアルの対ドルレートは年初に比べ13%上昇、サンパウロ証券取引所の株価指数も25%上昇した。
 
裁判のリオ五輪への影響は「限定的」と見る声が目立つが、世界的な注目を浴びる場を利用して、ルセフ氏支持者が騒乱を引き起こす可能性への懸念も聞かれる。背景にあるのは、国民に根強い深い政治不信だ。
 
国営石油公社ペトロブラスを巡る違法献金事件に端を発し、芋づる式に汚職が発覚。PMDBも党内で7人が捜査対象に挙がっている。テメル氏に司直の手が伸びる可能性も指摘されている。
 
また2014年の大統領選でルセフ氏とテメル氏の陣営が違法献金を選挙資金に流用した疑いが浮上し、選挙高等裁判所が審理を進めている。年内に当選無効の判決が出れば、再選挙、または次点のネベス上院議員が繰り上げ当選する。ただしネベス氏も汚職で捜査を受けている。【5月12日 毎日】
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前回4月17日ブログでも指摘したように、ルセフ氏が「これまでの大統領もやってきたことだ」という政府会計の粉飾についても、長年にわたり政界への不正資金ルートとなってきた国営石油会社ペトロブラスを舞台とした巨大汚職を看過してきたことについても、ルセフ氏はその責任を免れることはできません。

ルセフ氏も「罪も犯していない」とは言えませんが、テメル暫定大統領など、ルセフ氏を弾劾しようとする側は白人富裕層を中核とする旧支配層でもあり、ルセフ氏以上に腐敗・汚職にまみれているようにも見えます。

ルセフ氏が言うように、今回弾劾は「政府会計の粉飾」を名目にした右派保守勢力・旧支配層による労働党左派政権潰しの“クーデター”の側面が強くあります。

*****ルセフ大統領は政敵によるクーデターだと批判****
・・・・大統領が弾劾・罷免されると、テメル副大統領が暫定大統領となるが、テメル氏自身もルセフ氏と同じ国家会計粉飾の疑いで弾劾手続きの渦中にある。またルセフ氏は、テメル氏が「クーデター」の首謀者の一人だと避難している。

大統領はさらに、継承順位第2位のクニャ下院議長も、クーデターを企てる1人だと非難。クニャ氏も、数百万ドル分の収賄容疑で捜査対象となっている。

継承順位3位のカリェイロス上院議長も、国営石油大手ペトロブラスによるとされる巨額贈収賄事件で捜査されている。

テメル副大統領、クニャ下院議長、カリェイロス上院議長はいずれも、最大議席を持つブラジル民主運動党(PMDB)所属。PMDBは連立政権に参加していたが、弾劾手続きを支持するため3月に連立政権を離脱した。3人はいずれも収賄の疑いを否定している。【4月18日 BBC】
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****灰色3閣僚入閣、早くも火種・・・ブラジル暫定政権****
ブラジルのルセフ大統領の停職を受けて12日に発足したテメル暫定政権の閣僚人事を巡り、地元メディアなどから早くも批判の声が出ている。
 
国営石油会社ペトロブラスを舞台にした大規模汚職事件への関与が取り沙汰される政治家3人を入閣させたためだ。
 
「(汚職事件の)捜査は続けなければならないし、捜査を鈍らせる、いかなる試みからも守られなければならない」
テメル大統領代行は12日、就任後初の記者会見で、こう強調した。
 
だが、地元メディアによると、新閣僚のうちジュカ予算企画相、ビエイラ・リマ大統領府大統領室長、エドゥアルド・アルベス観光相の3人は事件に関与した疑いで捜査対象となっている。いずれも、テメル氏と同じブラジル民主運動党(PMDB)所属だ。【5月15日 読売】
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国営石油会社ペトロブラスを舞台にした大規模汚職事件への関与で捜査対象になっている人物を入閣させるというのは、彼らの無実を信じているのか、捜査が及ばないことを確信しているのか、国民を馬鹿にしているのか、弱みを握られているのか・・・よくわかりません。
いずれ、テメル政権にも国民の強い政治不信の矛先が向けられ、政治混乱は更に拡大するのでは・・・とも思われます。

石油利権狙うアメリカが関与?】
今回“クーデター”の背後には、石油利権を狙うアメリカの存在があるとの指摘もあります。

****ブラジル「弾劾劇」闇の首謀者たち****
石油利権狙う米国の「露骨な策謀」
リオデジャネイロ・オリンピック開催を八月に控えたブラジルが、ジルマ・ルセフ大統領の弾劾騒動と、麻薬カルテルと治安機関との抗争激化という、多重危機に大揺れだ。だが、一連の危機の背景には、ルラ前大統領から十三年続く左派政権を嫌うブラジルの旧支配層がいる。

白人富裕層を中核とする旧支配層は、ブラジルの資源から締め出された米国系多国籍企業群の支援を受けて、ブラジルを再び親米の軌道に乗せようと権力闘争を仕掛けている。(中略)

司法とメディアの「左派政権潰し」
この対立の構図は、現在進行中のルセフ弾劾劇にも登場する。弾劾を主導するのは白人富裕層で、彼らは左派政権下での所得再配分政策を見直し、米国が望む「新リベラル経済」を公約する。

「はっきりさせておきますが、ルセフ大統領にも、三月に検察から強制的な事情聴取を受けたルラ前大統領にも、いかなる収賄や不正の具体的証拠はあがっていない。これは大統領自身が言うように、『贈収賄の受益者たちによる、無実の大統領の政治的裁判』であり、政治的クーデターなのです」と、イゴル・フゼールABC連邦大学(サンパウロ)教授は断じる。

左派政権が憎まれるのは、天然資源管理政策のせいだ。左派政権は、ブラジル沖の海底原油資源を、国営石油会社「ペトロブラス」にすべて管理させ、石油収入を国内貧困層(大半が非白人)の支援に使うことを法制化した。

「米国系の石油メジャーは、巨大な石油資源から締め出された。左派政権が続く限り、メジャーに出番がないことがはっきりした」と、サンパウロ在住の消息筋は言う。

米政府とブラジルの支配層との関係は長く、かつ醜い。米国は第二次世界大戦後のブラジルで、少なくとも三人の大統領失脚に関与した。一九六四年には、軍事独裁政権が誕生し、アルゼンチンやチリで行われた「汚い戦争」の先駆となった。それを支えたのは、米中央情報局(CIA)であり、歴代の米大統領だった。

八〇年代に軍政から「民主化」された後も、当初は白人保守層の支配が続いた。同じ白人ではあったが、ルラ前大統領は十二歳の時から靴磨きで家計を助けていた。一方、ブルガリア移民の娘だったルセフ現大統領は二十代前半の時に、軍政に反対して逮捕され、苛烈で屈辱的な拷問を経験した。それでも、両者の政党「労働者党」(PT)は、白人の低所得層と、非白人の「弱者連合」を築いていった。〇三年の大統領選でルラ大統領が誕生して以後、PTは大統領選で四連勝していた。

左派が変えられなかったのは、司法権力とメディアだ。高学歴が必要な裁判所や検察には、左派は浸透できない。ルラ政権下でも、司法権力中枢には、保守政権時代に任命された人物が居座り続けた。

その一人が、ペトロブラスの汚職を捜査する、セルジオ・モロ判事だ。ルラ前大統領の強制捜査を含め、絶大な捜査権限を持つ。ルラの事情聴取の翌日、ルセフがルラに「私の首席補佐官になってほしい」と電話で頼んだ様子が、大手テレビ局で伝えられた。同局は「容疑者に不逮捕特権を与えようとした、不正な試み」と伝え、ルラの政府入りは消えた。一方で判事が大統領の盗聴をやすやすと行っていることは、左派を驚かせた。

司法権力はもちろん、麻薬戦争でもカギを握る。政治と社会における白人保守派の戦いで、モロ判事は彼らの要塞になっているのだ。

これをブラジルのメディアが支える。
国際非営利組織「国境なき記者団」が昨年発表した報告では、ブラジルは「シルビオ・ベルルスコーニ(元イタリア首相)が三十人いる国」と評された。大小のメディア王(全員が保守派の白人)が自分たちのメディアを意のままに操る。報告では、ブラジルの報道を「軍政時代とほとんど変わっていない」と酷評した。

「世界中の記者が地元報道を元に、ブラジル情勢を伝えるので、汚職と関係のないルセフやルラまでが、疑惑に包まれた存在として描かれる」と前出フゼール教授。

米国の国益のための「陰謀」
こんな国にアメリカは、ハイテクを駆使して旧支配層を支援した。

エドワード・スノーデン元CIA職員の暴露によると、ルセフ大統領とペトロブラスへの盗聴活動は、対露工作をはるかにしのぐ規模だった。米国はイスラム過激派の動向を探るのと同じように、ルセフ大統領とペトロブラス幹部の動きを克明に追っていた。

「ペトロブラスの利権を探り、大統領を揺さぶる材料を探すためです。オバマ大統領はルセフに後に謝罪したが、米国の国益ははっきり、左派政権の退陣と石油資源の獲得にある」と前出消息筋は言う。(中略)

ルセフは、ミシェウ・テメル副大統領までが「弾劾賛成」に回った時に、「これは陰謀だ」と言った。これは、追い詰められた権力者の絶望的な叫びではなく、事態の本質を正確に言い当てたものだ。

両陣営は民衆動員を進める。「反ルセフ」派は参加者の大半が白人なのに対し、大統領派は多人種構成と、ここでも対立構図はくっきり。八月の五輪開催はもはやそっちのけで、両陣営は場外戦での決着へと、突き進んでいる。【「選択」 5月号】
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確かに、ルセフ氏とルラ前大統領の会話が盗聴され、それを判事が公表するということには驚きました。

アメリカが一連の政治混乱にどこまで関与しているのかは定かではありませんが、左派政権崩壊を歓迎していることは間違いないでしょう。
「露骨な策謀」というのも、いささか“陰謀論”に過ぎるような感もありますが・・・。
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アメリカ  相も変らぬ「銃」と「人種」の話題

2016-05-14 22:26:36 | アメリカ

(「4歳の息子でさえ22口径の銃を撃てるの」と自慢していた銃擁護活動家ジェイミー・ギルト容疑者 https://www.youtube.com/watch?v=zZcQEuAK-Hs

【「4歳の息子でさえ22口径の銃を撃てるの」】
「銃社会」アメリカでは、銃によって身を守る可能性よりは、銃による事故に巻き込まれる危険の方が大きいように思われます。

****4歳児が誤射、銃愛好の母重傷=ネットで射撃自慢―米フロリダ州****
米南部フロリダ州で銃愛好家の女性が、4歳の息子に誤って撃たれ、重傷を負った。容体は安定している。米メディアが9日一斉に報じた。女性は日頃、息子が銃を扱えることをインターネット上で自慢げに語っていた。
 
女性はジェイミー・ギルトさん(31)。8日、車の運転中、息子が車内にあった45口径の銃の引き金を引いた。弾丸がギルトさんに当たり、背中から腹部を貫通した。息子にけがはなかった。
 
フェイスブックでギルトさんは銃所持を擁護する持論を展開。カウボーイハット姿でライフルを携える写真や、「4歳の息子でさえ22口径の銃を撃てるの」といったコメントも投稿していた。【3月11日 時事】 
*******************

確かに「4歳の息子でさえ22口径の銃を撃てる」のは間違いないですが、きちんと扱えるかどうかは別問題です。
問題の銃は、車内の床に落ちていたようです。

母親は幸い命には別状ありませんでしたが、もし死亡していたら自分の問題だけでなく(自分が亡くなるのは自業自得です)、子供に「自分の母親を射殺した」という一生消せない傷を負わせるところでした。

この銃擁護派の活動家でもある4歳の息子に撃たれた母親は、「銃火器の危険な保管」の罪での訴追を受ける状況にありましたが、司法取引で銃の安全な取り扱いに関するスピーチをすることになったようです。

****4歳息子に撃たれた銃擁護派の母親、安全スピーチ10回に同意****
米国で4歳の息子に誤って銃で撃たれた銃擁護派の活動家の女性が、「銃火器の危険な保管」の罪での訴追を避けるため、司法取引の一環として、 銃の安全な取り扱いに関するスピーチをすることに同意した。
 
州司法当局によると、ジェイミー・ギルト容疑者(31)は、銃の安全に関する講習を受けること、自分の車に銃ケースを設置すること、自宅で銃火器を安全に保管していることの証明の提出などに加え、息子に撃たれた事件と銃を安全に保管する必要性について10回のスピーチをすることで検察に合意した。どこでスピーチを行うかは具体的に示されていない。(後略)【5月7日 AFP】
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同様の事件は後を絶ちません。下記の事故では、やはり車内で2歳の息子に撃たれた母親は死亡しています。

****2歳半の男児、車内で誤って発砲 母親死亡 米国****
米ウィスコンシン州ミルウォーキーで26日、車の後部座席に乗った幼児が運転席の下から滑り出た40口径の銃を誤って発砲し、母親を死亡させた。警察当局が27日、明らかにした。
 
地元の保安官事務所によると、母親のパトリス・プライスさん(26)は現場で死亡が確認された。
 
銃を撃った幼児は2歳半で、地元メディアによると男児だという。地元放送局WISNは、父親アンドレ・プライスさんの話として、パトリスさんは3人の子どもの母親だと伝えた。アンドレさんは「胸が締め付けられる思い」だと語っているという。
 
地元紙ミルウォーキー・ジャーナル・センティネルによると、パトリスさんは自分の車が盗まれたため、警備員をしている友人男性の車を運転していた。男児が撃った銃はこの男性のものとみられる。
 
車には、プライスさんの1歳になる子どもと、プライスさんの母親も同乗していた。子どもたちはいずれもチャイルドシートに座っていなかったという。【4月28日 AFP】
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こうした状況にあって、オバマ大統領が銃乱射事件で犠牲になった子どもたちに演説で触れ、涙を流しながら「みんなで立ち上がり、国民を守らなければならない」などと訴えたこと、しかし、現実には乱射事件が起きるたびに銃の販売は増え、カリフォルニア州では全米初の銃器専門通販の放送局「ガン(銃)TV」の立ち上げが計画されていることなどは、1月7日ブログ「アメリカ オバマ大統領、涙ながらに銃規制強化を発表 内容は限定的 “西部劇”さながらの事件も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160107で取り上げたところです。

4月には、友人をかばって射殺されたいとこを追悼するバスケットボールの試合を観戦して帰宅する途中だった少年が、銃撃戦に巻き込まれ頭部に銃撃を受け死亡するという事件も。

****米12歳少年、頭撃たれ死亡 射殺されたいとこの追悼行事直後****
米テネシー州ノックスビルで16日、射殺されたいとこを追悼するバスケットボールの試合を観戦して帰宅する途中だった少年が、頭部に銃撃を受け死亡した。地元警察当局が17日、明らかにした。
 
ジャジュアン・ヒューバート・レイサム君(12)はこの日、昨年12月に起きた銃撃事件で友人をかばって死亡したいとこのザビオン・ドブソン君(当時15)を追悼し、若者による銃犯罪の撲滅を訴えるため開催されたバスケットボールの試合を観戦。
 
その後、父親の運転する車の後部座席に座っていたところを、公園で起きた多数の人々と2台の車が絡んだ銃撃戦に巻き込まれ、頭部に銃弾を受けた。父親の手ですぐさま病院に運ばれたが、助からなかったという。
 
高校のアメリカンフットボール部に所属していたドブソン君が死亡した際、バラク・オバマ米大統領はマイクロブログのツイッターに「ザビオン・ドブソン君は友人3人を銃弾からかばって命を落とした。15歳にして英雄だった。行動しないことに対するわれわれの言い訳は何だ?」と投稿していた。【4月18日 AFP】
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あのファーガソンでは黒人警察署長が就任するも・・・・
銃と並んで、アメリカ社会の問題とされるのが「人種」の問題です。
一連の警察による黒人への扱いが問題となった事件の契機ともなったファーガソンでは、警察署員の大半を白人が占めていましたが、人種的多様性を確保すべくアフリカ系米国人が警察署長に就任したそうです。

****アフリカ系米国人が警察署長に就任 黒人青年射殺の米ファーガソン****
約2年前、武器を持っていなかった黒人青年が白人警官に射殺される事件が起きた米中西部ミズーリ州ファーガソンで9日、アフリカ系米国人が警察署長に就任した。
 
地域における警察活動の専門家とされるマイアミ警察のベテラン、デルリッシュ・モス氏(51)は、当局に対する地域の信頼を取り戻すべく同地に赴いた。
 
2014年にファーガソン市で起きたマイケル・ブラウンさんの射殺事件では、数週間にわたって抗議行動が続き、ときに暴徒化。人種問題と米警察当局の対応をめぐり、全米で議論を巻き起こした。
 
米連邦当局の調査により、同州セントルイスの郊外に位置するファーガソン市では定型化した人種差別がまん延し、憲法上の市民の権利が侵害されている事例が複数認められた。このため同市は、市警組織と裁判所の改革を迫られていた。
 
モス氏は、住民の3分の2をアフリカ系米国人が占めながら、署員の大半を白人が占める同市警に多様性をもたらすことを約束した。【5月10日 AFP】
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これはこれで“a step in the right direction”ですが、警察内部における意識にはまだまだ改革を必要とするものがありそうです。

****米カリフォルニアの警官ら、内輪で人種差別メールやりとり****
米カリフォルニア州のロサンゼルスとサンフランシスコの警官らが、人種差別的で同性愛を嫌悪する内容の電子メールやテキストメッセージを交わしていたことが明らかになり、非難を浴びている。警官らはメールの中でマイノリティー(少数派)の人々を「野蛮人」「野獣」などと呼んでいた。
 
サンフランシスコ市当局によると、同市警では問題発覚後に警官3人が辞職し、4人目が懲戒処分の対象になっているという。
 
26日に記者会見したサンフランシスコ市の公選弁護人、ジェフ・アダチ氏は、辞職した3人の間で交わされたテキストメッセージの詳細を公表。3件の殺人を含む少なくとも207件の事件に影響する可能性があると述べた。
 
メッセージの中で、元警官らは黒人に対し「Nワード」(ニガーなどの差別語)を使用していたほか、アラブ系の人々を「ぼろ切れ頭」などと表していた。

一連の差別的なメッセージは、3人のうちの1人に対する強姦容疑の捜査過程で見つかったという。この元警官は、あるメッセージの中で黒人について「野蛮人」「解き放たれた野獣の群れ」も同然だなどと記していた。

「市民のために尽くすと誓った警官が、これほど無頓着に市民の人間性を攻撃するなど、恐ろしいことだ」とアダチ氏は述べた。

■「冗談」と釈明
一方のロサンゼルスでは、同郡保安局のトム・エンジェル首席補佐官が、近郊バーバンク警察の副署長を務めていた2012~13年に黒人やヒスパニック系、女性を侮辱する内容のメールを転送したとして批判の的となっている。
 
米紙ロサンゼルス・タイムズの取材に応じたエンジェル氏は、仕事上のメールが公になったことは不運だったと述べ、「職場の誰もが時々、不幸にも、恐らく転送すべきではないメールを転送してしまう」「誰かを傷つけたなら謝る。だが、こうした冗談が一般の人々の目に触れることは想定していなかった」と釈明した。【4月28日 AFP】
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異様な高値のお祭り状態となっている「トレイボン・マーティン射殺事件」の銃
人種間の亀裂を印象づける事件は今も昔も頻発していますが、2012年2月26日の夜にフロリダ州のサンフォードにおいて、武器を所持していなかった当時17歳だった黒人高校生トレイボン・マーティンさんを、ヒスパニック系の混血である自警団員だった当時28歳のジョージ・ジマーマン氏が射殺した事件も論議を呼びました。

警察は、5時間の尋問を行っただけでジマーマン氏を逮捕せず、ジマーマン氏の逮捕と十分な取り調べを求めるための抗議行動が全米に広がりました。

ジマーマン氏は正当防衛だったと述べているが、マーティンさんの遺族や友人たちは人種差別による殺人だったと主張、その後、裁判が行われましたが無罪とされています。

その事件で使われた銃をジマーマン氏がネットオークションに出品、70億円を超える高値となっているとか。

****米黒人少年射殺の拳銃、入札額さらに高騰 70億円超え****
米フロリダ(Florida)州で2012年に黒人少年が自警団員に射殺された事件で、この自警団員が競売サイトに出品した拳銃の入札額が13日までに6500万ドル(約70億6000万円)を超えた。入札者の多くはいたずら心から物議を醸している競売に参加し入札額を天文学的な数字につり上げているとみられる。(中略)
 
この事件でマーティンさんを撃ったケルテック(Kel-Tec)社の9ミリ拳銃をジマーマン氏が12日、銃愛好家団体「ユナイテッド・ガン・グループ」の競売サイトに出品。最低落札価格は5000ドル(約54万円)に設定された。中古品の銃としては破格の値段だが、出品から24時間もしないうちに1019人が入札。入札締め切りまで4日を残した13日朝までに入札額は6503万9000ドル(約70億6300万円)にまで高騰した。
 
この競売についてマーティンさんの遺族の弁護士は、「この銃は子どもの命を奪った銃で、彼(ジマーマン氏)はそれで金を儲けようとしている」とし、「侮辱的だ」と非難している。【5月14日 AFP】
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ジマーマン氏は出品した拳銃について「私の命を守り、トレイボン・マーティンの残忍な攻撃を終わらせるのに使われた拳銃」と説明し、「米国史の一片を所有する機会」と宣伝しているそうです。

もちろん入札者は本気で落札するつもりはないと思われますが、それにしても、どういう者が入札しているのでしょうか?

問題の銃をネットオークションに出品するというのも、常識を疑う行為です。
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フィリピン  超法規的「処刑」疑惑はそんなに軽いことか?

2016-05-13 23:11:38 | 東南アジア

(最後の遊説に臨んだドゥテルテ氏 【5月11日 日経ビジネス】)

【「処刑人」ドゥテルテ氏が大統領へ
注目されたフィリピン大統領選挙は、型破りなダバオ市長ドゥテルテ氏が得票率で約39%ほどを獲得し、2位のロハス前内務・自治相(23%程度)や3位のグレース・ポー上院議員(22%程度)に600万票近い大差(開票率90%段階)をつけ圧勝しました。

選挙直前の調査と勢いをそのまま形にした・・・というところです。

アキノ大統領が後継者とするロハス氏、アキノ路線を踏襲するポー氏の一本化で、ドゥテルテ氏の勢いをなんとか止めようという話も選挙前にはありましたが、結局動きはありませんでした。

アキノ大統領サイドとしては何の芸もなく、予想どおり負けてしまった・・・という感もありますが、ロハス氏とポー氏が拮抗していただけに、一本化が難しかったのでしょう。(もっとも、一本化してもドゥテルテ氏に追い付いたかどうかはわかりませんが。両候補支持者が全員一本化候補に投票する訳でもないでしょうから)

ダバオ市長ドゥテルテ氏の“型破り”については、これまでのブログで何回も取り上げてきました。
(5月7日ブログ“フィリピン 世界に広がる“選挙民の気まぐれ”の先陣を切って「処刑人」ドゥテルテ氏が大統領へ?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160507など)

一連の選挙報道を見ていて気になったのは、「処刑人」「ダバオのダーティハリー」と呼ばれることになった彼の“実績”(あるいは“噂”)に関する扱いです。

5月7日ブログでも書いたように、ドゥテルテ氏はその「暴言」から「フィリピンのトランプ」とも言われますが、「犯罪者は殺せ」と言う彼の主張はトランプ氏と比べても遥かに過激です。

更に重要なのは、トランプ氏の場合、過激な発言(その主張はころころ変わりますが)だけですし、大統領になれば選挙中の発言とは異なるそれなりの施策を行うとも思われますが、ドゥテルテ氏が「犯罪者は殺せ」と言う場合、単なる「暴言」ではなく、実際に非公式の殺人部隊によって“処刑”が行われてきた(少なくとも本人も否定せず、住民も信じている)という点です。それも数人レベルではありません。

“「犯罪組織撲滅のために超法規的な殺人に関与した」との疑いが人権団体などから指摘されている。”【5月11日 朝日】

“地元では、ドゥテルテ氏が市長に就任して以降、犯罪組織のメンバーが殺害される事件が相次いでいて、人権団体などは、目撃者の話から市の当局が犯罪を抑制するために「ダバオ処刑団」と呼ばれる自警団を使って超法規的な殺人を繰り返していると指摘しています。”【5月10日 NHK】

“「『ダバオ・デス・スクワッド(DDS)』という自警団があり、彼らは犯罪者を見つけると、白昼堂々射殺。背後にはドゥテルテ氏がいるとされ、処刑にはドゥテルテ市長自ら銃を持って参加する」(マニラの大手新聞ジャーナリスト)とも言われるほどだ。”【5月10日 JB Press】

“ただ、こうした「市政浄化作戦」の陰で「処刑団」を率い、薬物犯ら1000人以上を「超法規的に」殺害した疑惑も付きまとう。”【5月10日 時事】

“国内最悪だったダバオの治安が劇的に改善された背景には、薬物犯罪者らに超法規的制裁を加えてきた「暗殺団」の存在があり、ドゥテルテ氏も関与を認める。その死者数は、1998〜2005年で1424人、うち132人が17歳以下だったとの報告もある。”【5月9日 産経】

そうした「処刑」の結果、犯罪が横行するフィリピンにあって、ダバオは極めて治安の良い都市にもなりました。
犯罪・汚職が横行する現在のフィリピンにあっては、彼のような「強い指導者」が必要とされているとも言われており、今回選挙での圧勝はそうした既成政治にはない実行力が期待された結果でしょう。「民主主義とか人権とかは聞き飽きた。とにかく犯罪を減らしてくれ」という期待でしょう。

折に触れ、こうした「処刑」に関する情報を目にすることで、なんとなく「まあ、そんなものか・・・」とも思えてきます。

メディア報道も一応はその「処刑」に触れつつも、プロフィールのひとつとして紹介する程度で、あまり深刻に批判しているようには見えません。

「強い指導者」待望、実行力への期待はわかります。しかし、自警団を使って超法規的に1000人以上(仮に実際は10分の一程度だったとしても100人以上)を「処刑」してきたということは、今後への期待と引きかえに看過していいほどに軽いものでしょうか?

そうした「犯罪者は殺せ」ということが許容されるのであれば、イスラム過激派ISなどがシーア派や異教徒(彼らにとっては宗教を冒涜する犯罪者でしょう)を次々に大量処刑するのとどのような差があるのでしょう?

今後、「犯罪者」が麻薬売人などの限定される保証もありません。政権運営が行き詰まったりしたようなとき、政権に不都合な人間も社会に害をなす者として抹殺対象にされる可能性もあります。天安門で「暴徒」を戦車でひき殺す中国や粛清に明け暮れる北朝鮮と同じことを行う危険もあります。

数人の殺害なら殺人行為として批判されますが、1000人の処刑なら社会立て直しとして評価され、数万人を殺せば戦争の英雄として賛美される・・・・ということでしょうか。

報道の中には、ドゥテルテ氏の人物紹介記事にもかかわらず、これまでの「処刑」実績に全く触れない記事もあります。

****フィリピン次期大統領“ダーティハリー”の素顔・・・・「頭のいいやつが部下になるぜ」「犯罪者は殺す」 型破りな人情家****
「おれは司法士試験にはぎりぎり受かったけど、国中の頭のいいやつらがこれから部下になるぜ」。大統領に当選確実となったロドリゴ・ドゥテルテ氏は10日未明、地元メディアにこうおどけた。

「犯罪者は殺す」と繰り返すが、ユーモアを交え笑いを誘い、米刑事映画の主人公「ダーティハリー」にも例えられる。根っからの親分肌だ。
 
開発から取り残された中部レイテ島生まれ。州知事も務めた法律家の父と教師の母を持ち、幼いころダバオに移った。貧しい弱者に犯罪が牙をむく光景の中で正義感を育んだ。検事を経て政界に進出。10日朝、両親の墓前に念願成就を報告し涙を落とした。
 
1988年にダバオ市長に就任し、通算7期22年の中で、全国に先駆け禁煙条例や未成年者保護条例を次々と制定。防犯カメラ設置や夜間外出禁止令で、全国最悪だったダバオの治安を劇的に改善させた。
 
明け方に就寝して昼頃起きる生活習慣や、ジーンズ姿での執務など、型破りな反エリート主義で知られる。入院中の子供を見舞っては目を潤ませる人情家の一面も。
 
キリスト教徒だが、ローマ法王が昨年マニラを訪問した際に渋滞になり法王をののしるなど、舌禍事件は多い。同性愛者の権利擁護には理解を示すリベラル思想の持ち主だ。ミンダナオ地方で紛争が続くイスラム武装勢力との紛争解決にも意欲を見せる。
 
趣味がオートバイの71歳。元妻との間に3人の子供がいる。(ダバオ 吉村英輝)【5月10日 産経】
******************

“全国に先駆け禁煙条例や未成年者保護条例を次々と制定。防犯カメラ設置や夜間外出禁止令で、全国最悪だったダバオの治安を劇的に改善させた”とありますが、超法規的大量「処刑」については何も触れられていません。「犯罪者は殺す」という発言も冗談のひとつのようにも感じられる記事です。

しかし、「処刑」の話は、“趣味がオートバイ”であることほどの価値もない情報でしょうか?

ダバオ発の記事のようですから、その実態は一番よく知っているのではないでしょうか。
もし、「処刑」の実態がよくわからないので・・・ということであっても、“そういう噂もあるが・・・”程度には触れるべきことでしょう。

“親分肌”“人情家”という言葉から察するに、記者はドゥテルテ氏に好意的であり、敢えて“悪い噂”には触れなかった・・・ようにも思えます。
もし、そういう話であれば、もはやジャーナリズムではなく、単なるプロパガンダ、提灯記事です。

犯罪をなくすためなら超法規的「処刑」が許されるのか?そうした人物が大統領としての資質を持っているのか?と言うよりは、そうした人間が塀の外にいることが許されるのか?という問題は、もっと深刻に議論されてしかるべきものに思えます。堅苦しいことを言うようですが。

とにもかくにも新大統領となるドゥテルテ氏は、治安改善を強力に押し進めることでしょうが、単に麻薬の売人らだけでなく、社会全体・政治の世界に蔓延する腐敗・汚職に対しても厳しい(合法的)対応で、その一掃を実現することを期待します。(汚職を撲滅する公約を果たせなければ、半年で大統領職を辞するとも明言しています。)

もうひとつドゥテルテ氏に期待できるのは、ミンダナオ島出身ということで、なかなか進展しないミンダナオ島のイスラム武装組織との和平構築の問題です。

僻地ミンダナオ島のことなど関心がないマニラの政治家と違って、ドゥテルテ氏はイスラム系住民への理解もあるとも報じられていますから、前進も期待できるのでは。

中国への対応で、「南シナ海の人工島に水上バイクで乗り込んでフィリピンの国旗を立てる」といった勇ましい民族主義的発言の一方で、対話を重視する云々ということで、いろいろ取り沙汰されていますが、「人権に関する法律は忘れてもらう」と言うような政治家ですから、中国の体質にも違和感もなく、おそらくフィリピン側に有利な資金援助などの話が出れば、すぐに「対話」で関係を強化することにもなるのではないでしょうか。

****当選見通しのドゥテルテ氏 中国と直接対話も****
・・・・ドゥテルテ氏は、南シナ海を巡る問題で中国との関係改善に取り組む姿勢を強調していて、9日夜の記者会見では、領有権は譲れないとする一方「多国間で問題の解決に取り組むが、事態が前に進まなければ中国と直接話し合う」と述べ、中国がインフラ整備などで経済支援を行えば領有権争いを棚上げする考えを示しました。

現職のアキノ大統領は、同盟国アメリカや日本などとの関係を強化して中国に対抗してきましたが、専門家の間では、ドゥテルテ氏が現政権の路線を転換するような外交方針を取れば南シナ海問題の行方に影響を与えるという見方も出ています。【5月10日 NHK】
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そのほか、連邦制を提案したり、選挙戦で「売春婦の息子」呼ばわりしたローマ法王との関係種福を模索したり・・・と話題はつきない人物です。

ただ、「アウトサイダー」だけに議会に足場がないことで、今後苦労することも予想されています。

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ドゥテルテ氏は、当初は泡沫(ほうまつ)候補とみられながら、中央政界や財界にコネクションがない「アウトサイダー」を前面に出し、支持率を伸ばした。

ただ、所属政党PDPラバンは弱小勢力で、議会対策などの政権運動で苦戦するのは必至だ。権力基盤である国民からの人気を維持するためにも、連邦制移行という大きな改革目標が必要だという事情はあるが、強硬姿勢を示せば、既得権益が脅かされることを恐れる財閥や政治一族の不満が噴出し、政治の空転を招く恐れもある。【5月11日 産経】
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そうした事態となったとき、彼の「犯罪者は殺せ」という体質がどのように発揮されるのかという危惧は、先に触れたところです。

副大統領 マルコスJr.僅かに及ばす 「不正の疑い」を主張し混乱
フィリピンでは副大統領は大統領とはセットではなく、別々に選挙で選ばれます。
その副大統領に挑んだのが、かつて独裁者として国を追われたマルコス元大統領の長男、愛称“ボンボン”は僅かに及ばなかったようです。本人は負けを認めていませんが。

****比副大統領選、マルコスJr.が集計中止を要求 2位転落で焦り? 集計の不正を指摘****
大統領選と同時に9日実施されたフィリピン副大統領選の非公式途中集計をめぐり、同国で長期独裁政権を敷いた故マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス上院議員(58)が、「不正の疑いがある」と主張し集計作業の中止を要求、混乱が生じている。
 
民間選挙監視団体が12日午後発表した途中集計(開票率96%)は、マルコス氏が約1377万票で、アキノ政権が後押しするレニ・ロブレド下院議員(52)の約1398万票と、接戦を繰り広げている。
 
マルコス氏は、9日夜の開票直後は1位だったが、ロブレド氏に追い抜かれた。このためか、電子集計での不正を指摘し10日に作業中止を求めた。

だが、監視団体は11日、「証拠を示してほしい」と反論。法律で認められた開票作業が中止されれば、透明性について有権者が疑問を持つと訴えた。結果をめぐり対立が泥沼化する可能性もある。
 
フィリピンでは、マルコス政権の不正選挙に反発した国民が、1986年の「ピープルパワー(民衆の力)政変」を起こした教訓から、選挙管理委員会がデータを民間団体に与え先行して集計を行わせ、後から公式集計が発表される仕組みになっている。
 
一方、大統領選で当選を確実にした、南部ダバオのロドリゴ・ドゥテルテ市長(71)は、「公式結果が発表されるまで勝利宣言などは行わない」(側近)とし、公の場から姿をくらましつづけている。【5月12日 産経】
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マルコス上院議員サイドの“不正”の主張の背景には、TVの選挙特番で、ロブレド候補以外の与党候補の獲得票数が減って、ロブレド候補に追加される事があったという事実があるようです。それが単なるTV局のミスなのか何のかはわかりません。

下記は選挙前の報道ですが、父マルコス政権について「人々の福祉が最も向上した時代だった」ということであれば、落選はフィリピンのためによかったのかも。

****<比副大統領選>マルコス氏長男が支持拡大****
・・・・マルコス氏は6人の副大統領候補のうち、世論調査でトップを争う人気。背景にあるのは庶民の不満だ。汚職や治安の悪化が深刻で、貧富の格差解消やインフラ整備も後手に回る。

35歳未満の有権者が全体の45%を占め、独裁を知らない世代が増えている。そこに抜群の知名度を誇る「マルコス」が「昔は良かった」と訴える構図だ。

「父をどう評価するか」。記者会見で尋ねると「人々の福祉が最も向上した時代だった」と胸を張った。
 
一方「モンスターが戻ってくる」と猛反発するのが人権活動家のボニファシオ・イラガンさん(64)だ。独裁政権下で拷問を受けた経験があり、今回、元政治犯の仲間らと反マルコスキャンペーンを展開中だ。

「反省がなければ歴史は繰り返す。学校で独裁政権の実態をきちんと教えてこなかったことも問題だ」と表情を曇らせた。【5月7日 毎日】
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【「政治家一族」支配というフィリピンの政治体質
なお、母イメルダ夫人は、大統領ではなく副大統領に立候補した息子の「志の低さ」にご立腹だったとか。

****フィリピン、親中の“死刑執行人”がついに大統領へ*****
・・・・フィリピン政冶の歴史の紐を解けばその中枢は、常に有数な「政治家一族」が握ってきた。かく言う現アキノ大統領も、“べ二グノアキノ3世”。父親は大統領を有望視された歴史に刻まれる政治家で母親はコラソン・アキノ大統領。

そんな一族支配の政界に打って出て勝つためには、有名俳優やスポーツ選手のセレブリティでないとなかなか難しい。元俳優のエストラダ元大統領(現・マニラ市長)や4月に引退した世界的ボクシング選手のパッキャオ下院議員(今回上院選に出馬)などが代表例である。

そして一度有名政治家となるや、彼らの一族もご他聞に漏れずすぐさま政界に踊り出る。エストラダ氏の息子に正妻までが政治家に、ひいては孫に至ってまで。パッキャオ氏の奥さんもミンダナオの州副知事だ。アロヨ元大統領一族も例外ではない。

そんな旧態依然の政界に新風を巻き起こしているのが、ダバオの処刑人・ダーティーハリーのドゥテルテ氏というわけだ。【5月10日 JB Press】
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上記の世界的ボクシング選手のパッキャオ下院議員は今回、上院議員に当選しました。

もうひとり変わり種候補について。

****フィリピンで初、トランスジェンダーの国会議員が誕生****
フィリピンで9日に行われた下院選で、心と体の性が異なるトランスジェンダーの議員が同国で初めて誕生した。
フィリピン北部ルソン島のバターン州から立候補したジェラルディン・ロマンさん(49)は、開票率99%の時点で62%の票を獲得し、ライバルを退けて当選した。

ロマンさんは男性として生まれたが、20年前から女性として生活し、男性のパートナーもいる。
カトリック教徒が多数を占め、性的少数者を公然と侮辱する政治家もいる同国にとって、大きな一歩となった。

今年初めには上院選に出馬したプロボクサー、マニー・パッキャオ氏が同性愛者を「動物以下」と批判し、強い反発を招いた末に謝罪した。当時パッキャオ氏を非難した団体のメンバーらは、ロマンさんの当選に歓喜している。

ロマンさんは両親も政治家で、母親の議席を引き継ぐ形となる。本人は選挙戦を通し、自身の性別ではなく政策が有権者に支持されたと主張した。【5月10日 CNN】
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単なるトランスジェンダーという訳でなく、彼女も2世候補のようです。

いろいろ話題はつきないフィリピンの選挙です。
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アメリカ  オバマ大統領の広島訪問は「静かな訪問」に 「核の非人道性」を実感する機会となれば

2016-05-12 21:44:26 | アメリカ

(2009年4月5日、プラハで「核なき世界」の実現を訴える演説を行なったオバマ大統領 【5月11日 THE PAGE】)

【「謝罪」ととられない静かな訪問にしたいとの政権の意向
4月11日、広島市で開かれていた先進7か国(G7)外相会合に参加した、原爆投下国であるアメリカのケリー国務長官のほか、核保有国である英仏外相などG7外相らは岸田外相ともに、平和記念公園内の広島平和記念資料館(原爆資料館)を参観、原爆死没者慰霊碑に献花したことについては、4月12日ブログ“G7外相会合  広島で資料館訪問・慰霊碑献花 「謝罪」にナーバスなアメリカ ケリー長官は感銘も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160412で取り上げたところです。

この流れを受けて、アメリカ国内事情でどうだろうか・・・とも思われていたオバマ大統領の広島訪問も、大統領の強い意向もあって実現する運びとなっています。

核廃絶、「核なき世界」に関して、世界の現状、唯一の被爆国でありながらも、現実的には安全保障をアメリカの核の傘に依存している日本の微妙な立ち位置については、前回4月12日ブログで触れましたので、今回はパスします。

オバマ大統領の決定に対し、アメリカ国内には、広島訪問が「謝罪」とみなされることへの警戒感、あるいは、中国や韓国には、日本が「被害者」としての立場を印象づけようとしている・・・といった声があることは、メディア各紙が報じているところです。

そうした事情、特にアメリカ国内における「謝罪」に関する抵抗を考慮して、オバマ大統領は今回訪問を「静かな訪問」にしたい意向です。

****オバマ氏、広島で「演説」せず 長崎も念頭に所見発表へ*****
アーネスト米大統領報道官は11日の定例会見で、オバマ大統領が27日に広島を訪れた際、多くの聴衆を集めての大々的な演説は予定していないことを明らかにした。代わりに初の広島訪問を踏まえた大統領の所見を発表するといい、核軍縮の重要性や強固な日米関係を作り上げた成果などを強調するとみられる。
 
オバマ氏は広島の平和記念公園を訪れて所見を出すにあたり、広島だけでなくもう一つの被爆地・長崎も念頭に置いた内容になる見込みだ。アーネスト氏は発信するメッセージについて「大統領は(広島の)訪問を振り返ることになるだろう」と語った。
 
広島市民や被爆者らを集めての大々的な演説をしないのは、原爆投下を正当化する意見が依然として根強い米国内の世論への配慮とみられる。

演説で原爆投下の是非や謝罪にも踏み込めないうえ、哀悼の意を示しただけでも米国内では「謝罪」と受け止められるリスクもある。今回は慰霊碑への献花などにとどめ、静かな訪問にしたいとの政権の意向がにじむ。
 
アーネスト氏は「先遣隊が数日内に日本に到着する」と説明。その調査を踏まえたうえで、オバマ氏の広島での日程を固める。【5月12日 朝日】
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核の恐ろしさを言葉だけでなく実感できる機会に
オバマ大統領が得意の弁舌をふるったところで核廃絶が現実世界で進むものでもありませんので、「静かな訪問」は、それはそれでかまわないのではないかと考えます。

「水に流す」国民性とも言われる日本国民にあって、過去の「謝罪」を重視する人々もそう多くはないように思います。

「被害者」の立場を印象付けようとしている云々も、多くの日本国民は関係のない話でしょう。

ただ、今回訪問に日本が求めるのは、“過去”の“日本”に関する話ではなく、“将来”の“世界のすべての人々”が再び同じような悲惨な経験をすることのないように、世界最大の核保有国の指導者に核兵器の悲惨さを直視してもらいたいということです。

トランプ氏の発言にみられるような、核を軽く考える風潮へ一石を投じるものとなってほしいと期待します。

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核のボタンを押すということがどういうことを意味しているかを訴える日本からアピールが、「イスラム国」(IS)の掃討作戦について「核兵器が最後の手段だ」と述べ、大統領に就任すれば戦術核兵器の使用も否定するつもりはないと語り、また、「どんな状況であろうと、必要と有れば、たとえ攻撃する場所が欧州であったとしても核を使用する積りだ」と発言、更に、日本・韓国の核保有も容認するような発言を行うアメリカ大統領候補トランプ氏(正直と言えば、正直ですが)に見られるような、核兵器をあまりに軽々に扱うような昨今の風潮へのひとつの歯止めになることは期待されます。【4月12日ブログより再録】 
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****<オバマ氏広島訪問>核軍縮を阻む「核兵器の非人道性」への無理解  美根慶樹氏****
オバマ米大統領の広島訪問が正式決定されました。5月末に伊勢志摩で開かれるG7サミット閉幕後に被爆地である広島を訪れます。

オバマ大統領は2009年4月にチェコのプラハで「核なき世界」の実現を訴えました。しかし、それ以降で核軍縮はけっして進んだとはいえません。

核軍縮の歩みが遅いのは、安全保障的な観点もありますが、それ以外にも大きな要素があると元外交官で国連軍縮大使を務めた美根慶樹氏は指摘します。それは何なのか。美根氏に寄稿してもらいました。

「毒ガス」や「地雷」は禁止条約ができたが
核兵器(以下単に「核」)の廃絶がなかなか実現しないのは、現在の国際情勢下では核の抑止力が必要で完全に手放すわけにはいかないと考えられていることもさることながら、「核の非人道性に対する理解が十分でない」からだと思います。

こう言うと、「いや、核が非人道的であることは明らかであり、理解されている」という反論が出てくるかもしれませんが、どういうことか以下に説明していきましょう。

兵器は本来非人道的ですが、一部の兵器はあまりにひどい結果をもたらすので19世紀の終わりころから使用を禁止しようとする動きが起こり、国連では、「非人道性」とは何かを研究するとともに、一定の兵器を禁止する条約が作られてきました。

その結果、「非人道性」とは、「過度に」あるいは「無差別に」人を殺傷することだということが明確になってきました。

核については、さらに「多数の市民を殺傷する」という問題があります。

そして、具体的には、毒ガスや対人地雷は条約ですでに禁止されていますが、核を禁止する条約はできていません。

核不拡散条約(NPT)や国連では、核の「廃絶」や「使用禁止」について議論をしていますが、核保有国と非保有国との間の考えの相違はまだ大きく、「核の使用禁止」が成立するのは「核の廃絶」と同じくらい困難なようです。

国際的な同意が得られていない「非人道性」
そこで、数年前からまず「核の非人道性」を確立しようとする運動が国際的に展開されてきました。この問題については1996年、国際司法裁判所は「核の使用は原則として国際人道法に反する」という判断をしましたが、これは「勧告」であり、各国に対して拘束力はありませんでした。

新たに展開されている運動は、核の廃絶が実現するまでの間、中間的な方策として「核の非人道性」について各国の合意を形成しようとするものです。

しかしこの運動においても、核は抑止力のために必要だという考えが影響を及ぼしており、「核の非人道性」は国際的なコンセンサスとして確立するに至っていません。

日本はこの運動に参加する一方、世界の指導者に対し被爆地を訪問し、被爆の実態をじかに感じ取ってもらうことを勧めています。

「核の非人道性」を確立する国際運動は、いわば、「言葉で」目的を達成しようとしているのに対し、被爆地訪問は「体験により」核の非人道性を会得するものであり、4月に広島で開催されたG7外相会合は非常に効果的でした。

被爆地を訪れた外国要人の「驚き
特筆すべきは、「核の非人道性」は言葉では分かっていたようでも、被爆地で体験することはそれと大きく違っていることが分かったことです。ケリー米国務長官は率直に驚いたと表明しました。

わたくしは軍縮大使であった関係上、広島や長崎で欧米諸国の人と一緒に被爆状況を展示している資料館を訪問したことがあり、彼らが想像を絶する強い衝撃を受けたのをこの目で見ました。ある人は、訪問が終わると、どんなにひどく叱責されるか、おびえるまなざしでわたくしを見ていました。

「核の非人道性」は理屈や頭では分かっているつもりでも、実はその理解は浅いのです。その恐ろしさが言葉だけでなく、体で本当に分かってくると、核に対しての取り組みがより真剣になるのではないでしょうか。

「核の非人道性」を知って取り組むのと、理解しないで取り組むのでは「核の廃絶」を推進する力も違ってきます。核爆発の実態を正しく知ることは核問題に取り組むのに絶対的に必要なことなのです。

被爆地を訪問すると謝罪を求められると危惧する意見を始め、さまざまな消極的意見を克服してオバマ大統領が被爆地、広島を訪問することを決意されたことは、核軍縮にとっても、日米関係にとっても、さらには世界の平和にとっても言葉では言い尽くせない意義があると思います。

今回実現しなかった長崎訪問も積極的に検討されることを希望しつつ、広島訪問がつつがなく完了することを願っています。【5月12日 THE PAGE】
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できることなら、任期も残りわずかとなったオバマ大統領だけでなく、これからのクリントン氏やトランプ氏にも、また、アメリカ同様に核のボタンを押せる立場にある中国やロシア、更には北朝鮮指導者にも訪問してもらいたいところです。
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