(南アフリカ主要都市ヨハネスブルクの郊外で、外国人所有とされる商店から自動販売機を運び出す略奪者ら(2019年9月2日撮影)【9月4日 AFP】)
【収束しないアフリカ系外国人への暴力】
南アフリカで外国人移民労働者や外国人経営商店に対する襲撃・暴力が表面化しています。
最初に目にした記事は下記のもの。
****南アで移民襲撃、百人逮捕 ナイジェリア人ら標的****
南アフリカ警察は2日、最大都市ヨハネスブルクをはじめ各地で1日以降に暴動が起き、110人以上を逮捕したと発表した。地元メディアによると、ナイジェリア人などの商店やトラックが襲撃され、移民排斥を狙ったとみられている。
南アでは失業率が20%台後半で高止まりし、黒人貧困層の間で移民労働者への不満が高まっている。
警察によると、ヨハネスブルクとその周辺や東部クワズールー・ナタール州で、群衆が商店を略奪したり、道路を封鎖してトラック運転手に暴行を加えたりした。
南アでは2015年にも、大規模な移民襲撃が起きている。【9月3日 共同】
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ナイジェリアだけでなく、エチオピア、ザンビア、ケニアなどアフリカ系外国人が広く対象となっています。
その後も
“南アで外国人嫌悪に基づく暴力激化、5人死亡 放火・略奪も”【9月4日 AFP】
“南アの移民排斥で10人死亡 4百人超逮捕、報復も”【9月6日 共同】
“南アフリカの主要都市ヨハネスブルクでは、外国人を標的とする暴動が3日目に入り、アレクサンドラ地区で商店への放火、略奪に及んだ暴徒らが警察にゴム弾で撃退される事態が発生。その数時間後には、おのやなたを持った者らを含む群衆が市中心部の商業地区に集まった。” 【9月4日 AFP】とのことで、非常に剣呑な状況です。
当然にナイジェリアなど関係国との関係は緊張しており、ラマポーザ大統領は収拾を約束してはいますが・・・
****南ア大統領が排外主義的暴動を強く非難、事態収拾を約束****
南アフリカのラマポーザ大統領は5日のテレビ演説で、国内各地で起きた暴動で死者が出たり、外国人が襲撃されていることについて「わが国は暴力や犯罪によって深く傷付いている。外国人の住宅や企業を襲う行為に弁解の余地はあり得ない」と強く非難し、事態収拾に取り組むと約束した。
暴動は8日前にプレトリアで発生し、近くのヨハネスブルクに拡大。両都市があるハウテン州は、移民が数多く生活している。ラマポーザ氏によると、過去1週間の死者は少なくとも10人に上り、うち2人が外国人だという。
南アのケープタウンではアフリカ経済に関する国際会議が4日から開催されており、ラマポーザ氏は南ア経済の立て直しに向けた努力をアピールし、アフリカ諸国間の貿易拡大を目指す機会になると期待していた。しかし足元の暴動で状況一変し、ナイジェリアなどとの緊張関係をもたらしている。
5日にはナイジェリアの大手銀行会長でこの会議の共同委員長を務めていたジム・オビア氏が、南ア在住のナイジェリア人の生活が非常に不安定化していることを理由に、出席を取りやめた。同国の副大統領は前日の会議のイベントを欠席した。
会議に参加した金融調査会社インテリデックスの資本市場調査責任者ピーター・アタード・モンタルト氏は、会議の政府セクターの様子は荒涼としており、南ア国内の排外主義的な動きに各国が冷たい反応をしているのがよく分かると述べた。【9月6日 ロイター】
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主な標的となっているナイジェリア政府は、自国民の一斉退避を始めています。
****外国人の襲撃相次ぐ南ア、ナイジェリア人が一斉退避へ****
南アフリカで外国人への襲撃が続発していることを受け、ナイジェリア政府は9日、同国にいるナイジェリア人数百人を一斉に退避させる方針を示した。
在外ナイジェリア人団体の責任者によると、南アからの帰国便が11日以降、最大都市ヨハネスブルクを出発する。帰国を希望している640人を2機に分乗させる予定。希望者はさらに増える可能性もあるという。
ナイジェリアの大統領報道官によると、ブハリ大統領は南アで繰り返される暴力に深い懸念を示し、同国政府に対応を求めている。事態を放置すれば、アフリカ主要国としての南アのイメージや地位に悪影響が及ぶとも警告している。(中略)
先週1週間にヨハネスブルクや首都プレトリアで起きた襲撃事件では、外国人2人を含む計10人が死亡した。ナイジェリアやエチオピア、ザンビア、ケニアからの移民が経営する商店などが標的になった。
ナイジェリアは在南ア大使を召還した。ナイジェリア人が南ア系資本を襲う報復攻撃も起きている。マダガスカルとザンビアのサッカーチームは、南ア代表との試合を中止した。
ヨハネスブルクの中心街では8日、新たな襲撃事件で2人が死亡、16人が拘束された。
南アのラマポーザ大統領は9日、捜査当局に断固とした対応と警戒を呼び掛けた。【9月10日 CNN】
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情報が少ないため、現在の状況は定かではありませんが、上記記事によれば8日時点では2人が死亡するなど,いまだ収束していないようです。
【頻発する対外国人暴動】
今回の直接的な契機は交通業界のトラブルがあったとの報道もあります。
****南アの反移民暴動****
9月1日(日)以来、ヨハネスブルク、プレトリアでアフリカ系移民が経営する商店への襲撃、略奪が発生した。
9月3日付ルモンド紙によれば、問題の発生源は交通セクターのようで、1年以上前から南ア交通業界では外国人ドライバーへの不満が高まっていたという。
記事に詳しい説明はないが、南アでは以前から、タクシー(バンに乗客を乗せて走る路線バス)とウーバーなどの運転手の間で衝突があった。それに移民労働者をめぐる反感が重なって問題が大きくなった可能性がある。
3日付ファイナンシャルタイムズは、南アトラックドライバーが外国人労働者に抗議し、ストを決行したと報じている。
日曜以降は、交通業界にとどまらず、アフリカ系移民が経営する商店の略奪や焼き討ちに発展した。(後略)【9月8日 現代アフリカ地域研究センター】
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ただ、各紙が指摘するように、就業機会で外国人移民と競合する貧困層、高い失業率が根底にあって、そのこと、およびその結果としての対外国人暴動は今に始まった問題ではありません。
2008年5月にも、混乱するジンバブエからの難民・移民への暴力が拡大しました。
2008年5月20日ブログ“南アフリカ、イタリア 外国人排斥の高まり 憎しみ・差別の構図”
また2015年にも。
****南アで移民への暴力事件が多発、ダーバンでは4000人抗議デモ****
南アフリカでは今月(2015年4月)、東部ダーバンで始まった移民や外国人労働者らを標的とする暴力事件が国内に波及しており、16日までに少なくとも6人が死亡し、約50人が逮捕された。
ヨハネスブルクでは17日、同市のイェッペスタウン地区で16日深夜から17日未明にかけて、外国人が経営する商店への襲撃が複数発生し、警察当局によると、事件に関与したとして12人が逮捕された。
同様の事件が多発しているダーバンや周辺地域では過去2週間で、ソマリアやエチオピア、マラウイなどからの移住者たちが所有する住宅や商店が標的とされ、家族らが武装警備隊に守られた避難施設に逃げ込む事態となっている。
事件を受けてダーバンでは16日、外国人労働者らを標的とした暴力に抗議するデモが行われ、地元住民や学生のほか、宗教の指導者や政治家など、約4000人が参加。「排外主義反対」「アフリカは一つ」などのスローガンを叫びながら、通りを行進した。【2015年4月17日 AFP】
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(南アフリカの首都プレトリアのマラバスタッド地区で、略奪者とみられる者らに放火された小屋の跡を見つめる外国人ら(2019年9月2日撮影)【9月4日 AFP】)
【貧困層の雇用機会をめぐる外国人移民との競合 外国人嫌悪を煽るポピュリズム政治家】
こうした南アフリカの排外主義・外国人嫌悪については「南ア国民が、高い失業率を移民のせいにしている」ということ、そうした感情を煽るポピュリズム政治家の存在が指摘されています。
そのことは、今後更に外国人労働者が増加する日本も反面教師とすべきものでしょう。
****「異常なアンチ外国人感情」で暴動頻発─南アフリカでなにが起きているのか****
今、南アフリカが揺れている。
(中略)
英紙「ガーディアン」によれば、正確な数字はないが、南アにはレソトやモザンビーク、ジンバブエ、マリアやナイジェリアなどの周辺国から、大量の移民が仕事を求めて流入している。
一方で、南アは高い失業率に直面しており、多くの国民は「経済」移民が仕事を奪っていると批判する。「2008年には外国人を狙った殺人が続き、当時60人以上の移民が殺された」と指摘している。
ケニア紙「スタンダード」は、シリル・ラマポーザ大統領によるこんなコメントを掲載している。
「わが国民は調和のなかで暮らしたいと考えている。どんな懸念や不満があっても、それは民主的に扱う必要がある。南ア国民が外国人を攻撃することにはどんな正当性もない。南アにおける、外国人のお店や企業に対する散発的な暴力行為の歴史は古い。多くの南ア国民が、高い失業率を移民のせいにしているからだ」
そこには、南ア政治家の思惑も絡んでいるとの指摘も。
アフリカ専門ニュースサイト「オールアフリカ」は、「南ア出身以外のアフリカ人に対する最近の攻撃は、政治家たちによる『国家の主権を守るべき』という主張に直接つながっている。外国人排斥という危険なポピュリズムの傾向が強まることで、外国人への攻撃が起きているのだ」と主張した。(中略)
南アの週刊紙「メール・ガーディアン」は、「少し前まで、南アは他のアフリカ諸国から愛されていた。だが今は嫌われている。その原因は私たち南ア自身にある」と分析する。(後略)【9月7日 山田敏弘氏 クーリエ・ジャポン】
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****外国人労働者が不満のはけ口に 襲撃事件が相次いだ南アフリカから日本が学ぶ教訓****
外国人労働者の受け入れを拡大するための改正入管法が12月8日に成立し、2019年4月1日に施行されることになった。
1990年ごろにおよそ100万人だった日本在住の外国人は、今日約260万人にまで増えた。少子高齢化による日本の労働力不足や経済のグローバル化を考えれば、さらなる外国人労働者の受け入れは不可避だろう。
■南アで多発する外国人襲撃
だが、外国人との共生の仕方で苦労していない国は、この世にない。私がかつて家族と暮らしていた南アフリカ共和国(以下、南ア)もまた、外国人労働者を巡る深刻な問題に直面している。南アの問題。それは「ゼノフォビア(Xenophobia)」だ。
「ゼノフォビア」は、ギリシャ語で「見知らぬ人」を意味するXeno(ゼノ)と、同じくギリシャ語で「恐怖」を意味するphobos(フォボス)を組み合わせた言葉で、「外国人に対する嫌悪感」といった意味がある。
南アは近年、ゼノフォビアに基づく外国人襲撃の多発という、深刻な事態に直面している。
2008年5月には、最大都市ヨハネスブルク郊外で発生したジンバブエ人、モザンビーク人などに対する襲撃を皮切りに、外国人襲撃が国内各地に波及した。わずか2週間で少なくとも62人が殺害され、約700人が負傷した。
国連によると襲撃を恐れた外国人約10万人が避難民と化し、南ア政府が設置した避難キャンプや教会での生活を強いられ、急きょ祖国へ帰る人も相次いだ。
2015年3月から4月にかけて、今度はヨハネスブルクと東南部の大都市ダーバンを中心に襲撃が多発した。
この時は、南アの最大民族ズールー人の指導的立場にある人物が、南アの高い犯罪率は移民が原因であるとして、外国人の追い出しを呼びかけたことが襲撃多発の引き金になった。(中略)
この2度の大規模な襲撃以外にも、小規模な襲撃は各地で散発的に発生している。2018年2月には、ヨハネスブルク大学のタンザニア人大学院生の男性が大学キャンパス内で殺害され、衝撃を与えた。捜査当局はゼノフォビアに基づくヘイト・クライムの可能性があるとみている。
南アでは、19世紀末から周辺国の人々が鉱山や農場で働いてきた歴史があるが、近年の外国人急増のきっかけは、少数の白人が多数の有色人種を支配していたアパルトヘイト(人種隔離)体制時代末期の1986年の法改正である。
南ア政府はこの年、日本の入管法に相当する外国人管理法を改正し、それまで厳しく制限していた「非白人」の南アへの入国を認めた。南アへはアフリカ各国から労働者が来るようになり、その数は1994年の民主化後に急増した。
世界銀行の2018年の統計によると、南アの移民数は現在約404万人と推定され、総人口約5800万人の7%近くに達する。
国別ではモザンビーク約68万人、ジンバブエ約36万人、レソト約31万人など近隣国出身者が多数を占めており、その多くが南ア国内の鉱山、プランテーション農場、飲食店、建設現場などで働いている。富裕層家庭の庭師やメイドとして働いている人も少なくない。
外国人襲撃の加害者は、多くの場合、南アの黒人男性の集団であり、刃物や棒など身の回りの品を凶器に集団で暴力を行使する。
一方、標的はモザンビーク、マラウイ、ジンバブエなど近隣国出身の人々である場合が多く、近年は西アフリカからやってきたナイジェリア人も襲撃対象にされている。
■不満のはけ口に
なぜ、南アフリカでは、他のアフリカ諸国出身者に対するゼノフォビアに基づく暴力行為が多発するのだろうか。その理由を巡っては様々な見解が示されているが、一つの有力な見解は、南アの低所得者と外国人低所得者が住宅や雇用機会などを巡って競合した結果、外国人低所得者が南ア人低所得者の不満のはけ口になっている、というものだ。
南アには欧米出身の白人、インド系住民、日本や中国など東アジア出身者も多数居住しているが、襲撃の対象になることはほとんどない。これらの国々の出身者の多くは富裕層、中間層に属しており、単純労働者であることは稀である。
一方、他のアフリカ諸国出身者は、南ア黒人の低所得者と同じ地域に住み、先述したような単純労働に従事している。
南アで暮らしてみると分かることだが、強大な白人政権を相手に反アパルトヘイト闘争を戦い抜いた南ア黒人は、民主化後の今も権利意識が非常に強い。このため南アには、自国の低所得者層を単純労働者として雇用せず、その代わりに低賃金でも文句を言わず、労働者としての諸権利を主張しない外国人労働者を好んで雇用する経営者や商店主が少なからず存在する。
その結果、南アの低所得者の間には、「常に失業率が25%前後で推移しているにもかかわらず、なぜ自分たちではなく外国人労働者が職を得ているのか」という疑問と不満が蓄積しており、社会的影響力の強い人物による外国人への憎悪を扇動する発言などを契機に外国人襲撃が起きやすい、と考えられるのだ。
また、ある社会でゼノフォビアの感情が高まる時に、庶民の間に広まるお決まりの説は「外国人が増えて治安が悪化した」である。
しかし、少なくとも現在に至るまで、外国人が犯罪を起こす確率が南ア人のそれよりも高いとのデータは存在しない。にもかかわらず、南ア社会では「外国人増加による治安悪化説」が強く信奉されており、こうした人々の誤解もゼノフォビアに基づく暴力の背景になっているものと考えられる。
日本が外国人労働者の受け入れ拡大に舵を切った今、私は南アのゼノフォビアに基づく暴力の多発という状況を思い起こし、他山の石にしたいと考える。
たしかに今の日本で、日本人の集団が多数の在日外国人を殺害するような事態は想像しにくい。また、多くの若年層が失業状態にある南アと、中小企業を中心に人手不足が深刻な日本の状況は異なる。
しかし、日本の人手不足は、少子高齢化による労働人口減少の結果であると同時に、現在の好景気の産物でもある。永遠に続く好景気は存在しない。やがて景気後退期に入れば、人手が余る業種や産業も出てくるだろう。その時に「日本人の自分に仕事がないのに、なぜ外国人が先に仕事を得ているのか」との不満が低所得者層を中心に拡大し、ゼノフォビアの感情が強まらない保証はないと私は思う。
多数の外国人労働者を受け入れる以上は、政府が先頭に立って精緻な制度設計と運用に注力しなければ、外国人は日本に反感を持って祖国に帰り、日本社会には増幅されたゼノフォビアが残る最悪の結果を招いてしまうことになる。
現に南アの場合は、ゼノフォビアに基づく暴力の被害者の出身国政府との間で緊張が高まり、外交関係の悪化にまで発展しているケースもある。【2018年12月20日 GLOBE+】
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