(ロシア・モスクワの投票所で統一地方選の投票を終えた野党勢力指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏(2019年9月8日撮影)【9月13日 AFP】 「報復」的な一斉捜索にユーチューブで「プーチンは腹を立て、じだんだを踏んでいる」とも)
【停滞する経済に歳出拡大で成長押上げを図るも、制裁・軍拡競争の重い負担】
中東で影が薄くなったアメリカに代わって、シリアなどで存在感を示しているのがロシアですが、そのシリア問題も最近はやや膠着状態というか、メディアに取り上げられる機会も少なくなって、ロシアに関する話題も少なくなった感があります。
そうしたなかで、ロシアがメディアに取り上げられる際には、このところプーチン大統領の支持率がパッとしないという話がつきまといます。
きっかけは国民に不人気な年金改革ですが、根底には停滞気味のロシア経済の現状があります。
プーチン大統領としても、いろんな手段で求心力、国民支持を保つにしても、まずは経済の活性化が必要になります。(それが難しいので、他の手段に走るという側面もありますが)
****ロシアが今後3年で大規模投資事業向け歳出拡大、成長押し上げ狙う****
ロシア財務省は19日、向こう3年間で大規模な公共投資やインフラ整備に振り向ける歳出を拡大し、経済成長の押し上げを目指すと表明した。
今年の経済成長は1%強と、昨年の2.3%から減速する見通し。ロシアは2024年までに世界の五大経済の一角を占めることを目標としており、現在は新たな成長エンジンを必死に模索しているところだ。
こうした中で財務省は、道路建設から医療制度近代化まで多岐にわたる案件を対象に来年2兆ルーブル、21年に2兆3000億ルーブル、22年に2兆7000億ルーブルを投じる。
同省は、来年国内総生産(GDP)の0.8%になると予想される財政黒字が、22年には同0.2%まで縮小するとの見通しも示した。【9月20日 ロイター】
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ロシア経済活性化のためには、上記のような成長エンジン育成・大規模歳出拡大もさることながら、クリミア併合で欧米から制裁を受けている現状を改善するのが先決だと思いますが、クリミアはともかく、ウクライナ東部に関してもなかなか難しい状態にあることは、9月19日ブログ“ウクライナ “政治素人”ゼレンスキー大統領 ウクライナ東部をめぐるロシアとの交渉に着手”でも取り上げたところです。
****ロシアのクリミア併合から5年、膨らみ続けるコスト****
クリミア併合関連の制裁、2014年以降にロシア経済を6%下押し
賃金は停滞、外国投資は枯渇-世論にも変化表れる
プーチン大統領がウクライナのクリミアを併合して5年たつが、ロシアが支払うコストは膨らみ続けている。
ロシアのクリミア併合は依然として大半の国が認めず、ロシアを処罰するため米欧が主導して制裁など幅広い措置を打ち出している。
一方、ロシアは新たな発電所や本土とクリミアを結ぶ大橋への巨額の投資など、クリミアを自国経済に統合しようと躍起だ。
だが、主要輸出品である原油の価格低下ですでに打撃を被っていたロシアと同国市民は、外国投資の落ち込みと上がらない賃金という痛みも強いられている。最近の調査によると、クリミア併合への市民の強い支持は失われつつある。(中略)
ブルームバーグ・エコノミクスのアナリストらは、制裁が過去5年間にロシア経済を最大6%下押ししたと推定している。
アナリストのスコット・ジョンソン氏が昨年末に発表した調査によると、現在のロシア経済は2013年末に予想されていた水準を、10%余りに相当する1500億ドル(約16兆7100億円)下回る。このうち4%は原油安が原因だが、残りは制裁やその他の要因だという。
制裁が近く解除される見込みは薄い。そればかりかロシアは2016年の米大統領選に介入した疑いを持たれているため、制裁が強化される可能性すらある。
米国が制裁対象に加えたロシアの企業や個人の数は2014年以降に4倍増え、700余りに達した。米政府内では追加制裁案を準備しており、年内に制裁対象がいっそう拡大する展開もあり得る。
景気低迷は、ロシアの一般市民に賃金として行き渡る資金の量が減ることを意味する。クリミア併合以降、ロシアの平均賃金は月3万ルーブル(約5万円)をかろうじて上回る水準で停滞する。(中略)
外国直接投資はトランプ米大統領誕生で制裁が緩和されるとの期待が浮上した2017年にやや上向いたが、最近は落ち込みが激しい。昨年にはマイナスにすら転じた。
経済的な圧迫がロシアの一般市民を苦しめる中で、クリミア併合を巡る世論にも変化が表れている。モスクワを拠点とする世論調査機関「世論基金(FOM)」が14日発表した調査によると、併合がロシアに害よりも利益をもたらしていると考える人の割合は39%と、2014年末の67%から大きく減少した。【3月19日 Bloomberg】
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こうした状態では、アメリカとの軍拡競争にはいる余力はロシアにはないように思われますし、そうした方面に固執すると、冒頭の規模投資事業向け歳出拡大といったことも難しくなり、更に基礎体力を弱めることにもなります。
****核軍拡競争で疲弊するロシア****
(中略)プーチンは、このミサイル(事故が報じられている核動力源を使う巡航ミサイル)や極音速ミサイルなどの開発を行っている。
ロシアは核大国としての軍事能力を高めるのが、国際社会での存在感を発揮する近道と考えているようであるが、こういう動きは核軍拡競争につながる。
しかし、核軍拡競争を始めれば、ロシアは経済的・財政的理由から、米中両国には結局負けるだろう。
ロシアこそ、核軍備管理に熱心になるべきであると思われるが、INF(中距離核戦力)条約を失効させ、さらに新START(戦略兵器削減)条約の延長にも否定的な姿勢を見せている。今度の事故以上に不可解な対応である。
8月12日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙の社説は、核軍備管理の時代は終わったと述べているが、現状認識として正しいと思われる。
主として米国が、中国を核軍備管理のプロセスに取り込もうとしているが、現状では中国がそれに応じるインセンティブを持つ状況はないと思われる。
「核軍備管理の時代は終わった」というのに、呼応するかのように、8月18日、米国は、ロサンゼルス沖で、地上発射型中距離巡航ミサイルの実験に成功した。
続いて8月24日、ロシアが北極圏に近い海域で、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の実験を行ない、成功したと発表した。
米国のエスパー国防長官は、中国に対抗してと述べているが、ロシアは米国に対抗したと言っている。スターウォーズの軍拡競争で冷戦中にソ連は負けて崩壊したように、新たな軍拡競争で、疲弊してしまうのはロシアかもしれない。【9月5日 WEDGE】
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【報復的な反体制派締め付け】
国内経済が行き詰まり、国民のプーチン離れが指摘されるようになると、腕づくでも批判を封じ込まないと・・・という発想になるのが、プーチン体制の基本体質のようです。
先の統一地方選挙では、反プーチンの抗議行動が表面化して国際的にも注目されたモスクワ市議選は、プーチン与党は大きく議席を減らす結果となりましたが、政権側の「報復」も強まっているとの指摘も。
****露反体制派に本格捜査 モスクワ市議選の与党苦戦で報復****
ロシアの治安当局が反体制派指導者、ナワリヌイ氏の団体に対する本格的な捜査に乗り出した。
今月8日に行われたモスクワ市議選(定数45)では、同氏らの抗議行動を受けて政権与党が苦戦を余儀なくされた。政権側は報復として、大規模な家宅捜索や資産凍結でナワリヌイ一派の締めつけを図っている。
連邦捜査委員会と警察、国家親衛隊はこのほど、ナワリヌイ氏が主宰する「汚職との戦い基金」の事務所や関係者宅など、全国約40都市の200カ所以上を一斉捜索。パソコンなどの機器類を押収し、銀行口座を凍結した。資金洗浄容疑の捜査だと説明されている。
露メディアや政治専門家の間では「モスクワ市議選のような事態が繰り返されるのを防ぐため、政権側がナワリヌイ氏の活動基盤の弱体化を狙っている」との見方が支配的だ。
モスクワ市議選をめぐっては、選管が反体制派の候補者登録を拒否したことが問題化。ナワリヌイ氏が呼びかけた一連の抗議デモには計10万人超が参加したとみられ、2千人以上が治安当局に拘束された。
ナワリヌイ氏はさらに、政権批判票の分散を防ぐため、各選挙区で最も当選可能性の高い非与党候補に票を投じる「賢い投票」を訴えた。
開票の結果、プーチン政権の与党「統一ロシア」系の議席は改選前の38から25に減少。残る20議席は体制内野党の共産党や「公正ロシア」、リベラル政党「ヤブロコ」が獲得した。政権支持率の低下に加え、「賢い投票」戦略が野党躍進につながった。
ナワリヌイ氏は「基金」を通じた高官の汚職告発で知られ、近年は地方にも支部組織を広げてきた。当局の大規模な捜査が逆に、政権への反発を招く可能性も指摘されている。【9月20日 産経】
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モスクワ市議選以外の首長選挙で「与党が圧勝」したということも、その内実は“プーチン流「疑似民主主義」”との指摘も。
****プーチン流「疑似民主主義」****
(中略)8日に首長選が行われた16構成体のうち実に13カ所では、前任の首長が任期途中で解任され、プーチン氏によって新たな「首長代行」が任命されていた。その地方と全く縁のない者が据えられることも多い。
ロシアの選挙では現職が圧倒的に有利だ。報道での露出度が非常に高く、政権や地方当局は、公務員や国営企業の従業員を投票に大量動員できるためである。
プーチン氏は「選挙は危うい」と思われる首長を事前に退任させ、「首長代行」を有利な現職の立場で選挙に臨ませるのである。
反体制派の立候補登録には、地方議員の署名を多数集めねばならないといった高いハードルがある。対抗馬は親大統領の「体制内野党」からの候補者だけであり、仮にプーチン氏が決めた与党候補が敗北しても打撃は限定的だ。
今回の統一地方選については「与党圧勝の勢い」と報じられている。それはしかし、事前の首長すげ替えを含むさまざまな策を弄し、政権が必死のてこ入れを行った結果だ。
もはや20年近くとなったプーチン体制の綻びは、今回の選挙結果をもっても変わらない。(後略)【9月10日 産経】
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反体制派締め付けについては、行き過ぎの結果綻びを呈することも。
****ロシア抗議デモで俳優に「不当判決」 最高検察庁が釈放を要請****
ロシア最高検察庁は19日、野党勢力を支持するデモで警官に暴力を振るったとして逮捕され、禁錮3年6月の有罪判決を言い渡された俳優について、釈放と判決の変更を裁判所に要請した。不当な判決だとして、有名俳優が大勢参加する連帯運動やデモが起きていた。
渦中のパベル・ウスチノフ氏は、ほぼ無名の新人俳優。先月行われたデモで警官を暴行したとして、今週モスクワ地裁で禁錮刑を言い渡された。本人は、デモの現場に居合わせただけだと主張していた。
ウスチノフ氏の逮捕をめぐっては、地下鉄駅の近くで携帯電話を片手に立っていた同氏に向かって複数の機動隊員が突進し、警棒で殴りつける様子を捉えた動画がある。
警察が正当な理由なくウスチノフ氏を攻撃した証拠といえるが、検察側は同氏が逮捕時に抵抗して警官の肩を脱臼させたと主張。動画の内容は裁判では考慮されず、人々の大きな怒りを招いた。
判決を受け、映画スターから聖職者までが参加する大規模な連帯運動が起き、普段は政治の話をしない俳優ファンたちもソーシャルメディアでウスチノフ氏の一件を話題にした。クレムリン(ロシア大統領府)前では18〜19日、数百人がデモを行った。
最高検察庁は19日夜、ユーリ・ポノマリョフ次席検事がウスチノフ氏を釈放するよう地裁に求めたと発表した。ウスチノフ氏の有罪判決や同氏の行動の解釈には異議はないと強調しつつ、量刑は「厳しすぎ」て不当であり、判決を変更する必要があるとしている。事実上の判決撤回とみられる。
地裁は20日、ウスチノフ氏の釈放について検討する。
モスクワではこの夏、9月8日投開票の市議会選で当局が野党候補を排除したことに抗議する大規模デモが相次ぎ、厳しい取り締まりで一時は数千人が身柄を拘束された。これまでに6人が禁錮2〜4年の有罪判決を受けている。 【9月20日 AFP】
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詳細は不明ながらも、ちょっと変わった話も。
****プーチン氏の追放目指したシャーマン、精神科病棟に収容される ロシア****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領をその職から追い払うため、首都モスクワへ向かって歩いて旅していたところを拘束されたシベリア出身のシャーマン(霊媒師)が、精神科病棟に収容されたことが分かった。当局が20日に明らかにした。
自称シャーマンのアレクサンドル・ガビシェフ氏は、同国東部に位置する地元サハ共和国からモスクワまでの行程の約3分の1を踏破したものの、19日夜にバイカル湖近くで拘束された。
サハ共和国保健省は、「ガビシェフ氏はきょう、共和国内の精神科医療施設に移送された」とし、同氏はそこで「専門的な治療」を受けると発表。「この患者に症状が確認されたら、適切な治療を提供する用意が整っている」と述べた。
だが政権に批判的な人々は、反体制派らを統合失調症や偏執症と診断して閉じ込めるという、旧ソ連時代に幅広く用いられた「懲罰的な精神医学」と呼ばれる手法を用いているとして、当局を非難している。
ガビシェフ氏は今年3月、テントなどの持ち物を積んだ簡素な荷車を引きながら、約8000キロ先の首都モスクワを目指して歩き始めた。同氏は諸都市を通過しながら支持者らと出会い、その一部は旅に加わったり、旅の様子を動画撮影したりした。
また、ガビシェフ氏のプーチン大統領に対する単刀直入な発言はメディアの注目を集め、ソーシャルネットワーク上では共感の声が上がった。(中略)
ガビシェフ氏の拘束後も残された信者らは、同氏が描かれ、「シャーマンの道:ロシアに自由を取り戻すため」というスローガンが記された旗を掲げながら歩き続け、その様子を撮影した映像をインターネット上に投稿した。
信者の一人であるビクトル・エゴロフ氏は、「治安当局はわれわれの指導者を逮捕した。われわれの目標は、彼の自由を確保するために歩き続けることだ」と語った。 【9月22日 AFP】
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この自称祈祷師は“モスクワに向かう道中でメディアの取材に応じていた容疑者はプーチン氏を悪魔と断じて「自然は彼を好んでいない。彼のいる所には破局とテロがある」と主張。プーチン氏を追い払えば「長年にわたって平穏と繁栄が訪れる」と訴えていた。”【9月20日 時事】とか。
政権側が怒るのもわかりますが、「懲罰的な精神医学」という話になると、“変わった”というより“怖い”話と言うべきでしょうか。
【ロシアの“隠蔽体質”と“国家的不正体質”】
長くなったので、詳細は省きますが、相変わらずロシアの“隠蔽体質”を示すことになったのが、天然痘ウイルス保管施設での事故。
“天然痘やエボラウイルス保管施設で爆発…「軍事機密」露は全容明らかにせず”【9月22日 読売】
地球上から根絶した天然痘の、世界に2カ所しかないウイルス保管施設での爆発火災なんて、ドラマの中だけの話かと思っていましたが、現実に起きるとは・・・。しかも、8月のミサイル実験場で起きた爆発で放射線量の一時的な上昇も確認されたにもかかわらず、「軍事機密」を理由に全容は明らかにされていないという案件があったばかりです。
日本では40年以上前に定期種痘は廃止されています。
天然痘ウイルスが流出するような事態になれば、全人類にとって深刻な問題ともなります。「軍事機密」で済まされる話ではありません。
注目されるもう1件は、ロシアの“国家的不正体質”をうかがわせる話題。
“ロシアのドーピング検査データに疑義 操作の可能性も”【9月23日 朝日】
平昌冬期オリンピックから締め出されたのに“懲りない”というか、ドーピングと縁を切れない問題が何かあるのでしょうか?