(ハンガリーのオルバン首相(左)とイタリアのコンテ首相(右)があいさつするのを見つめるフォンデアライエン欧州委員長=ブリュッセルで2020年12月10日、AP【12月11日 毎日】
【英・EUともに「決裂の可能性高い」 ジョンソン首相「悪いことではない」】
新型コロナで移動制限がかかる欧州ですが、サンタクロースに関しては制限外ということで、EU加盟国が合意したとか。
****サンタは「必要な労働者」 移動制限外とEU“合意”****
欧州連合(EU)の議長国ドイツの報道官は10日までに、サンタクロースは子どもたちにプレゼントを届ける「必要不可欠な労働者」であり、新型コロナウイルス対策の移動制限から除外することで「EU加盟国が合意した」とツイッターに書き込んだ。「良いニュースだ」としている。
欧州では秋以降、新型コロナの再拡大が深刻化。クリスマスを中心とした休暇シーズンに不要不急の国内外の移動や夜間外出を控えるよう要請している国が目立ち、サンタが来られないと心配している子どもが多い。【12月11日 共同】
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殺伐とした昨今、ほのぼのとしたニュースではありますが、「合意」が難しい状況になっているのが、イギリスとEUの交渉。つい先ほど段階の記事では・・・
****英とEUの貿易交渉、お互いに「決裂の可能性高い」****
英国のボリス・ジョンソン首相は10日、ツイッターに動画を投稿し、自由貿易協定(FTA)などを巡る欧州連合(EU)との交渉は決裂する「可能性が高い」と述べた。
一方、EUの執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長も11日、「合意できない可能性の方が高い」との見解を示した。ブリュッセルでのEU首脳会議で加盟国に説明した。
交渉の最終期限は13日に迫っているが、英海域でのEU船の漁業権などを巡り、対立が解消できていない。交渉が決裂すれば、英国とEU間で来年1月から関税などが生じ、欧州経済に悪影響を及ぼす恐れがある。【12月11日 読売】
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****EUと英国の通商交渉、主要な争点でなお隔たり=欧州委員長****
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11日、英国との通商交渉について、公平な競争環境の確保とEUの漁船による英海域での漁業が争点となっており、依然立場に開きがあるとの認識を示した。
フォンデアライエン氏はEU首脳会談後の記者会見で、13日に「合意のための条件が整っているかどうか」について決定を下すと述べた。
「いずれにせよ、あと3週間足らずで(EUと英国の関係は)新たな始まりを迎える」と語った。【12月11日 ロイター】
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自由貿易協定(FTA)の合意なき離脱となった場合、EUとの貿易では世界貿易機関の規則に従い関税や関税割当が発生し、イギリス・EU双方にとって大きな経済的痛手・混乱が生じます。
“隔たり”の中身については、以下のようにも。
****英EU交渉 漁業など3分野でなお隔たり 迫る期限、近く対面交渉****
(中略)両首脳は7日の共同声明で、「英海域でのEU漁船の漁業権」、「公正な競争環境の確保」、「紛争解決などのガバナンス(統治)」の3つの主要課題で大きな相違が残っていると指摘。最終的な合意をまとめる状況にはないと表明した。
1月末にEUを離脱した英国は現在、EUと離脱前の関係を維持する「移行期間」にある。今年末までの移行期間中にFTAを発効させなければ、英EU間には世界貿易機関(WTO)の規則に従って関税が発生し、欧州経済が混乱する。
FTAの発効には議会承認などの手続きが必要になる。このため、英紙フィナンシャル・タイムズは欧州議会の関係者の話として、EUのバルニエ首席交渉官が「9日が事実上の合意期限」と発言したと報じた。
主要課題をめぐっては、漁業権の交渉が前進しつつあるものの、合意にはなお遠い状況だ。
EUの共通漁業政策の下では、加盟国は割り当てられた漁獲上限を守れば、他国の排他的経済水域(EEZ)でも操業できる。好漁場を擁する英国は、英海域にフランスやデンマークなどの漁船が押し寄せることに不満を募らせてきた。
このため英国は移行期間終了後、EU加盟国による英海域での漁獲量を段階的に減らすため、EUと毎年交渉して漁獲割当量を決めることを主張。EUは当初、従来通りの操業を訴えていたが、最近になり、10年間現状を据え置いた後で交渉に応じるとの妥協案を示した。英国側は現状据え置き期間をより短くするよう求めている。
競争環境をめぐってEUは、英国が環境、労働、税制、政府補助金といった規制をEUと同等水準にするよう要求。英国は規制の水準を独自に定め、自由競争を促進したい考えだ。
ガバナンスについては、英国がEUの規制に従わなかった場合、報復関税の発動などができる仕組みをEUが主張。英国は厳しい措置を拒んでいる。【12月8日 産経】
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数日前には、EU側を怒らせていたイギリスの“合意無視の対応”について、イギリスが撤回するということで、明るい兆しもあったのですが・・・・
****英EU、9日の対面会談に望み 英が離脱協定無効化を撤回****
英国と欧州連合(EU)は離脱移行期間終了が約3週間後に迫る中、自由貿易協定(FTA)の合意に向け交渉を続けているが、8日も打開は見られず、英国のジョンソン首相は双方が「合意なき」離脱を受け入れざるを得ないとの見方を示した。
EUバルニエ首席交渉官もEU閣僚会合で、FTAで合意できないまま年末に移行期間が終了する公算が高まっていると警告。ジョンソン首相は9日にブリュッセルを訪問し、欧州委員会のフォンデアライエン委員長と直接会って、交渉を続ける。
ただこの日、英政府が、アイルランドと英領北アイルランドの国境管理についてEUと合意したと発表。これを受けEUとの離脱協定違反を可能にする法案の条項を撤回すると明らかにした。
ゴーブ内閣府担当相(国務相)は「特にアイルランドと北アイルランドに関する取り決めなど、全ての問題について原則的に合意した」と表明。アイルランド政府も合意に賛同を示した。
EUは、英国が離脱協定に違反すればより広範な通商協定は不可能と警告していたため、この合意で英EU間の論争の主要な部分が解決することになる。
欧州委員会のセフコビッチ副委員長は、今回の合意は通商交渉とは別のもので、離脱協定が来年1月1日の時点で完全に運用されることを保証するものだと述べた。【12月8日 ロイター】
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アイルランド紛争を再燃させかねないジョンソン政権の“離脱協定無効化”に関しては、12月3日ブログ“イギリス・ジョンソン首相 自由貿易協定合意なしでEU離脱? シナリオ修正を迫るバイデン米新政権”でも触れたように、アイルランド問題をほとんど国内問題とも認識するアメリカ・バイデン新政権からの撤回圧力もあったのでは・・・。
上述のように交渉は難航していますが、ジョンソン首相には、妥協してまで合意をまとめる気持ちもなさそう。
****英とEUの貿易交渉「決裂の可能性高い」…ジョンソン首相「悪いことではない」****
(中略)ジョンソン氏はツイッターに投稿した動画で、決裂は「悪いことではない。今こそ、(決裂への)準備をする時だ」などと述べた。決裂すれば、来年1月からEUとの間で関税などが発生し、物流が滞る恐れが指摘されている。(後略)【12月11日 読売】
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決裂濃厚ということで、欧州委員会は10日、飛行機の運航や漁業権について、1月以降も一定期間、現状維持するとの緊急措置を発表していますが、“英PA通信によると、英首相報道官は「我々は海域の主導権を取り戻す」として、否定的な見解を示した。”【同上】ということで、ジョンソン政権はハードランディングも厭わない姿勢を見せています。
ここで妥協すれば、なんのためのEU離脱だったのか?という話にもなりかねませんし、経済はどうせ新型コロナで混乱しているので、この際、離脱絡みで混乱が多少大きくなったところで目立たない(責任問題も大きくならない)という腹づもりもあるのでしょう。
【「法の支配」に関しては、ハンガリー・ポーランドとの妥協成立】
EUは西ではイギリスと揉めていますが、東では2021─27年予算と新型コロナウイルス復興基金をめぐって、非西欧的な価値観を掲げるポーランド・ハンガリーなどと揉めてきました。
****「法の支配」めぐり加盟国の対立深まるEU****
去る7月のEU首脳会議で新型コロナ対策の「復興基金」と今後7年の中期予算が合意された際、EUにおける法の支配を確保するために復興基金とEU予算に基づく加盟国への資金援助についてコンディショナリティ(条件)を導入することが併せ合意された。加盟国が援助を受けるには法の支配が確立されていることが前提条件になる。
この合意は簡単かつ漠たるもので正確に何が合意されたのかも明確でないが、この合意を具体化する交渉が行われて来た。11月10日にコンディショナリティを導入する新たな仕組みについてEUの議長国ドイツと欧州議会との間で合意が成立したが、ハンガリーとポーランドは、これに強く反対している。
コンディショナリティの新たな仕組みはEU規則の形式をとっている。EU規則はEUの立法形態の一つであるが、加盟国を直接拘束する。これが成立すると画期的なことである。しかし、交渉は難航している。
法の支配を無視するハンガリーとポーランドを念頭に導入が決定された訳であるから、当然ではあるが、両国がこれに反対している。特にハンガリーは、すべてに合意が成立するまでは何も合意されていないとし、加盟国の全会一致を要する中期予算に拒否権を行使することも辞さないとの強硬な立場を維持している。
交渉難航の理由はそれだけではない。オランダや北欧などは法の支配と資金援助の間に強いリンクを要求する立場である。
他方、イタリア、スペイン、ギリシャなど復興基金による資金援助に期待する諸国には過大な要求が復興基金の発足を遅延させるとの懸念があるようである。
加えて、欧州議会がその存在感を示したかの印象がある。欧州議会ではかねて法の支配の徹底を求める意見が支配的で、新たな仕組みに納得するのでなければ、復興基金とEU予算の議会承認はないというのが彼等の立場であった。(後略)【12月7日 WEDGE】
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ハンガリー・ポーランドの頑なな姿勢に、“ハンガリーとポーランド抜きも辞さず”という反発も。
****EU、ハンガリーとポーランド抜きも辞さず 予算手続きで****
欧州連合(EU)予算と新型コロナウイルス復興基金を巡って、ハンガリーとポーランドが承認を拒否している問題で、EUの高官は8日まで両国が承認拒否を取り下げない場合、両国抜きで手続きを進めざるを得ないという考えを示した。
ロイターに対し「ハンガリーとポーランドから遅くともあすまでに合意を得る必要がある。さもないと代替案に移行せざるを得ない」と語った。
代替案を採用した場合、復興基金については両国を除いた25カ国が資金を利用できるよう組み直す。EU予算については引き続き凍結され、全加盟国に影響が及ぶものの、両国への痛みが最も大きいとみられる。
ハンガリーとポーランドの外相はこの日、ブリュッセルで協議し、承認拒否を継続する方針を確認した。【12月8日 ロイター】
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話は「法の支配」という、民主主義の核心にあたるものだけに、安易な妥協を否定する意見も。
“ここはEUとして突き放す必要がある。ここまで来て引き返す術もない。
ハンガリーとポーランドのやっていることは目に余る。両国は主権の擁護などを装って反対しているが、その実態は権力の維持、金銭的利益、腐敗という自己利益のための反対であるとの指摘もある。
なお、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11月25日、両国は異議があるのであれば欧州司法裁に判断を仰ぐべきだと述べ、強硬な姿勢を示している。”【前出 WEDGE】
結局、議長国ドイツの仲介で、話はまとまったようです。
どちら側がどれだけ譲ったのかは判然としませんが。
****EU首脳、コロナ復興基金案承認 「法の支配」順守、妥協案受け入れ****
欧州連合(EU)は10日、ブリュッセルで首脳会議を開き、首脳らは新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた加盟国を支援する「復興基金」を組み込んだ総額約1兆8000億ユーロ(約227兆円)の次期中期予算(2021〜27年)案を承認した。
権力の乱用を防ぐ「法の支配」が各国で順守されているかどうかを復興基金の配分条件とする仕組みにハンガリーとポーランドが反発していたが、議長国ドイツが提示した妥協案を受け入れた。加盟各国の議会などで批准されれば、21年から運用が始まる。
EU首脳は7月に7500億ユーロ(約94兆円)規模の復興基金案に合意した際、法の支配と資金配分を関連付けることで合意した。しかしその具体的な仕組みは定まっておらず、明確なルール化を望まないハンガリーとポーランドが11月中旬の大使級会合で、復興基金を組み込んだ次期中期予算案の承認手続きへの同意を拒んでいた。
フランスなどは両国を除く25カ国による復興基金で運用する可能性を示唆。一方で、議長国ドイツは妥協案を提示し、譲歩を求めていた。
欧州メディアによると、妥協案は、加盟国が欧州司法裁判所に異議を申し立てている間は資金停止などの措置を保留するなどの内容で、両国はこれを受け入れた。
復興基金と予算案の承認を受け、ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)はツイッターに「これで私たちは経済を立て直し始めることができる。画期的な復興基金により、気候変動対策やデジタル化が前進するだろう」と投稿した。
ただ、最終的な成立には各国議会での承認も必要となる。ハンガリーのオルバン首相はポーランドのモラウィエツキ首相との共同記者会見で「議会の承認というもう一つ難しい障害が残っている」と語った。【12月11日 毎日】
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「加盟国が欧州司法裁判所に異議を申し立てている間は資金停止などの措置を保留する」という妥協案の実質的意味合いについては、今後詳しい解説記事などもあろうかと思いますので、また別機会に。