(17日、タイ東北部のムクダハン県で地方選挙の遊説をするタナトーン氏【12月20日 朝日】)
【タナトーン氏「王室改革を掲げていることを不快に思う人がいるのは否定できない」】
タイで若者らを中心に続く、首相更迭、憲法改正、王室改革を要求する反政府デモに関してはこれまでも。取り上げてきましたが、こうした若者らの「変革」を求める主張が国民全体レベルでどれだけ支持されているかを占うひとつとして注目されていた地方選挙が行われました。
この選挙には、プラユット政権影響下にある憲法裁判所によって2月に解党させれた新未来党の党首だったタナトーン氏らの勢力が候補者を擁立し、その結果が注目されました。
****タイ、「地方からの変革」訴え 地方選、新人候補を支援 野党系元党首****
反政府デモが続くタイで20日、県レベルの地方選挙が実施される。政権批判の先頭に立った後に解党させられた野党の元党首らが、「地方からの変革」を訴えて各地で新人候補らを後押ししており、どこまで浸透するかが注目されている。
選挙戦は19日まで続き、新未来党の党首だったタナトーン氏らは全国で自分たちが推す候補者への投票を呼びかけた。モットーは「あなたの地元からタイを変え始めよう」。既存勢力による政治支配の打破や買収などの腐敗の根絶、地方分権などを訴えかけた。
新未来党は、軍事政権からの民政移管に向けた昨年3月の総選挙に軍批判などを掲げて挑み、若者らに支持されて第3党に躍進。軍事政権の流れをくむプラユット政権批判の急先鋒(きゅうせんぽう)となった。
だが今年2月、軍や保守派の影響下にあるとされる憲法裁判所が、政治資金をめぐる法令違反があったとして解党を命令。これが若者を中心に続く反政府デモの起点となった。
今回の選挙はバンコク都を除く全国76県の自治体首長と議員が対象。タナトーン氏らの勢力は42県の首長選で候補を支援。議員選を合わせると、計53県で選挙戦を繰り広げた。
これらの候補に多くの支持が集まれば、反政府デモの勢いが増す可能性もある。デモに参加してきたバンコク近隣の県の大学生は「投票でも後押ししたい」と話す。一方、「地方選挙はしがらみが多く、現状を変えるのは容易ではない」(外交筋)との見方も根強い。【12月20日 朝日】
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タナトーン氏も政治活動を10年間禁じられていますが、後継団体を立ち上げて自身は立候補せずに地方選に臨んでいました。
結果は・・・やはり「壁」は厚かったようです。
若者から人気が高い民主派野党系団体が支持した42県の首長候補は全敗。
52県に擁立した1000人超の議員候補も、当選は18県の55人にとどまりました。
****タイ、旧野党系の首長選出ならず 地方選、支援者に謝罪****
タイで20日実施された地方選で、野党「新未来党」=解党処分=系の政治団体が擁立した首長候補は全員落選した。
タナトーン元党首が21日記者会見し、敗北を認めた。同党は若者から支持されながら解党命令を受け、一連の反体制デモが始まるきっかけとなった。
タナトーン氏は政治団体「進歩運動」を結成し、42県で首長候補を立てた。議員選では千人以上を送り出したが、60人程度の当選にとどまった。会見で「支援者におわびする。王室改革を掲げていることを不快に思う人がいるのは否定できない」と謝罪した。【12月21日 共同】
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タナトーン氏が認めているように、王室への信頼が篤いタイにあっては、「王室改革」の主張が広範な支持を得るのは難しい状況のようです。
野党勢力にとっては、今後の戦略における重要な示唆ともなると思われます。
【これまで封じ込めていたコロナ、ミャンマーからの出稼ぎ労働者を中心に大規模集団感染】
一方、新型コロナに関しては、タイはこれまで厳しい水際対策により感染拡大を抑え込んでいて、19日午前までの累計の感染者数は4331人にとどまっていましたが、そのタイの水産市場で大規模なクラスターが発生しています。
****タイ最大の水産市場で689人感染 1万人超検査へ****
タイ当局は20日、同国最大の水産市場で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、同市場からの感染とみられる新規感染者が同日までに689人確認されたと発表した。同国は1万人余りを対象に検査を実施する。
集団感染があったのは首都バンコクに隣接するサムットサコン県マハーチャイの市場と港。この市場でエビを販売していた女性が17日、新型ウイルス検査で陽性と診断されていた。
新規感染者の大半はタイの数十億ドル規模の水産業に従事する隣国ミャンマーからの移民労働者であり、当局は同市場周辺のミャンマー人労働者に自宅待機を命令した。
同国保健省の常任秘書はミャンマー人労働者に食料と水を提供するとした上で、「われわれは彼らを封じ込め、移動を禁止している」と述べた。
同国の新型ウイルス感染症タスクフォースの報道官は、感染症対策当局が「複数のコミュニティーの約1万300人を対象に積極的な追跡を行う」と明らかにした。外国人労働者に対する検査は無料とし、23日まで続けるという。
タイはこれまで確認された新型ウイルス感染者数が4000人余り、死者が60人と、中国国外で新型ウイルス感染が確認された最初の国でありながら、今回の集団感染まで、犠牲者は少数にとどまっていた。
同国は4か国と隣接し、国境間は行き来しやすい。隣接国の一つ、ミャンマーの1日の感染者数は1000人を超える。
首都バンコク当局は20日、サムットサコン県に隣接する地域の学校を休校とすると発表。バンコク都知事はフェイスブック投稿で、公共の場所での集まりを制限するほか、特に生鮮市場や工事現場などバンコク全域で働く外国人労働者に検査を実施すると明らかにした。 【12月21日 AFP】
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大規模な検査を実施し、多数の感染が判明しましたが、ほとんどの感染者は無症状とのこと。
【プラユット首相、外国人労働者を非難 しかし、タイ経済は外国人労働者の低賃金労働に依存】
今回の大規模集団感染の特徴は、ミャンマーからの出稼ぎ労働者が中心と見られている点ですが、プラユット首相はこれら出稼ぎ労働者を「こっそり(タイから)抜け出しては、戻ってくる」と非難しています。
ただ、普段はこうした低賃金外国人労働者を利用して、居住環境なども劣悪な状況にあることを放置しておきながら、何か事あると「不法労働者」として「悪者」に仕立て上げるというのは、いささかご都合主義の感も。
****タイ首相、コロナ集団感染で外国人労働者を非難*****
タイのプラユット・チャンオーチャー首相は21日、同国最大の水産市場で起きた新型コロナウイルスの集団感染について、国内エビ産業で働く低賃金の外国人労働者を非難した。
タイでは17日、首都バンコク近郊サムットサコン県マハーチャイの市場でエビを販売していた67歳の女性の感染が確認された。
接触者の追跡と集団検査が実施され、マハーチャイの市場に関連する感染者は800人を超えた。タイの新型コロナ感染者はこれまで、4000人余りにとどまっていた。
感染者の大半はミャンマーからの出稼ぎ労働者で、エビ漁船や加工工場で働いている。
プラユット氏は21日、今回の集団感染は不法外国人労働者を雇っている工場の責任だと指摘。これらの労働者はミャンマーから不法入国しており、「こっそり(タイから)抜け出しては、戻ってくる」と非難した。
タイと約2400キロにわたり国境を接しているミャンマーでは8月以降、新型コロナ感染者が急増しており、現在1日約1000人の新規感染者が確認されている。
タイ保健当局は、マハーチャイ市場の感染率は「約42%」だと述べた。
市場とその周辺地区は19日以降封鎖されており、数千人の居住者は地区外に出ることを禁じられている。21日には市場の周りに有刺鉄線が設置され、地区内に残された労働者らに当局が食料を配布した。
エビの輸送に携わるミャンマー人のミン・ミン・トゥンさんは、タイ人が証拠もなくミャンマー人を責めるのは「不公平で、一方的だ」と話した。
トゥンさんによると、誰が検査で陽性になったか知らされておらず、労働者らは不安に陥っているという。
タイ経済は、隣国ミャンマーとカンボジアから来る数百万人の低賃金労働者に大きく依存しており、タイの水産業や製造業、建築業、サービス業はこれら労働者により支えられている。
だが、外国人出稼ぎ労働者は差別に直面している。今回の集団感染で、タイ人の間では反ミャンマー感情が広がっている。マハーチャイのタイ人も例外ではない。
市場前に屋台を出しているマニーラット・ジェークパンさんは、自分が「反ミャンマー人」だと認める。「いかなる状況でも彼らに近寄らない」
そのような反感にもかかわらず、マニーラットさんは食べるものがないことを心配し、域内に閉じ込められた労働者らに食料を持ってきた。 【12月22日】
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誰が検査で陽性になったか知らされないまま、地域封鎖・・・・最低限の食料は配布してはいるようですが、人道的配慮に欠ける扱いが懸念されます。
それにしても、ロヒンギャを不法入国者とミャンマーが差別し、そのミャンマー人をタイがまた不法労働者と蔑む・・・人間と言うのは蔑む相手を求める生き物だと思えてしまう差別の連鎖です。