孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  政治家による汚職摘発機関弱体化の動きのなかで、相次ぐ現職閣僚の逮捕 

2020-12-08 22:47:21 | 東南アジア

(インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)の会見で示された、(ジュリアリ・バトゥバラ社会相の汚職事件の)押収品の現金=6日、ジャカルタ、アンタラ通信【12月7日 朝日】)

 

【汚職ランキング 日本は20位】

汚職・政治腐敗・・・日本でも、いつになってもなくならない問題ですが、世界には汚職が日常化している国も。

 

世界各国の「汚職」を監視している国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が今年1月に発表した腐敗認識指数(CPI)のランキングでは、日本は180の国・地域の中で20位でした。

 

上位には、デンマークを筆頭に、北欧諸国がずらずらと、次いでドイツ・オランダなどが並んでいます。このあたりは常識的でしょうか。

 

アジア諸国では、シンガポールが5位、香港が16位、そして日本が20位。

 

****相次ぐ国会議員逮捕 世界汚職ランキング、日本は何位?****

選挙の買収事件やカジノ誘致に絡む収賄事件があり、日本で現職国会議員が逮捕、起訴される事態が続いています。

 

世界各国の「汚職」を監視している国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が今年1月に発表した腐敗認識指数(CPI)のランキングでは180の国・地域の中で20位でしたが、明るみに出にくい「汚職」や「腐敗」をどう数値化しているのでしょうか。同NGO日本支部代表の若林亜紀氏に聞きました。(中略)

 

――「汚職ランキング」として知られるCPIは、どのようなものですか。

 

「CPIは『Corruption Perceptions Index』の略称で、各国の公的部門がどのくらい腐敗していると認識されているのか、意識調査の結果を数値化したものです。(中略)」

 

――国によって「汚職」と認識されるものは違うと思いますが、比較はできますか。

「はい。例えば、日本では公務員が発注先に退職後に採用してもらう『天下り』が慣例としてあります。当然、日本に進出してくる外国企業も天下りを受け入れなければという意識が働きますので、もし世界の中で天下りが腐敗として認識されるようになれば、日本の評価は下がることになります」

 

――日本の「汚職」の特徴は何ですか。

「日本の場合、発展途上国のように住民票を取りに行った窓口で賄賂を要求されるとか、賄賂を払えばスピード違反を放免されるとかいった、日常生活の賄賂はほぼゼロです。一方で、役所から事業を受注する民間企業が発注元の公務員の子弟を雇うことは普通にありますが、シンガポールのような国ではこれが賄賂にあたるとして、法律で明確に禁じています。先ほどの『天下り』にも共通しますが、組織的に洗練された方法で行われているのが日本の特徴と言えます」(中略)

 

――近年の日本の推移はどうですか。

「日本は2014年に15位でしたが、徐々に順位を下げています。ただ、大きく点数が落ちているわけではなく、他の国の贈賄防止レベルが上がる中で相対的に下がっているのです。12年に6ポイント差あったアラブ首長国連邦(UAE)にも2ポイント差まで迫られています」

 

――日本は対策が遅れているのですか。

「近年、シンガポール、タイ、インドネシアといった腐敗が多いとされる国では、腐敗防止を担う専門機関が設立されるなどしています。日本は2017年に国連腐敗防止条約を締結しましたが、設置を求められている独立機関がまだありません」(後略)【7月9日 朝日】

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【女性への性強要も横行する東南アジアの汚職状況】

東南アジアASEAN諸国を見ると、前述のシンガポール以外は芳しくありません。

インドネシアは85位、ベトナムが96位、タイが101位、フィリピンが113位、ラオス、ミャンマーが130位。

このあたりも、常識的・・・でしょうか。

 

****深刻な東南アジア汚職 女性への性強要も****

インドネシアやマレーシア、タイなどの東南アジア各国で汚職が蔓延し、深刻な社会問題だとそれぞれの国民が認識していること、さらに金銭の要求に加えて女性に対して性的な行為を強要する事例も決して少なくなく、公権力による国民への構造的な腐敗が現在も色濃く残っていることがこのほどNGOが発表した調査結果によって明らかになった。

 

ドイツ・ベルリンに本部事務局を置く国際的な汚職・腐敗監視の非政府組織(NGO)である「トランスペアレンシー・インターナショナル(国際透明性機構・TI)」はこのほど2020年の「世界腐敗バロメーター・アジア」を発表し、この中で特に東南アジアのタイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアの腐敗・汚職、さらにそれに関連して主に女性が受ける性的強要の事例を明らかにした。

 

もっとも指摘を受けた各国、特にインドネシアでは「女性への性的強要は問題外で厳しく糾弾されるべきだが、その他の賄賂は一種の社会の潤滑油でそう目くじらを立てなくてもいいのでは」と受け止められているのが実情だ。

 

TIによる今回の調査は2019年3月から2020年9月にかけてアジアの17カ国約2万人を対象にしたもので、折からのコロナ禍のため電話によって回答を求めたとしている。

 

■政府が抱える最大の課題が汚職・腐敗

TIの調査対象となったアジア各国から特に東南アジアの国を取り上げてみてみると、国民がそれぞれの政府が抱える最大の問題点が「腐敗と汚職にあると回答したのはインドネシアが91%、タイが88%、フィリピンが86%、マレーシアが72%といずれも高い数字を示している。

 

その一方で「今後国民の力などでこうした腐敗体質を変えることが可能」と答えたのは、フィリピンの78%を筆頭にマレーシア68%、タイ65%、インドネシア59%となっている。

 

TIでは「こうした国民の改善に向けた肯定的な姿勢が将来の汚職撲滅、腐敗体制払拭につながる可能性、政府やビジネス界、市民生活の各分野での変化の原動力となる」と前向きな数字ととらえている。

 

■深刻な性的強要という腐敗構造

今回の報告書で注目すべきは東南アジアの主要4カ国(インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン)では公共機関による公的サービスを市民が受ける際、また司法制度の中で女性が「性的サービスや性交を強要されるケース」の存在が指摘されていることだ。

 

「過去に自分あるいは知り合いが性的サービスの強要を受けていた経験はあるか」という問いかけに対して、インドネシアで18%、タイで15%、マレーシアで12%、フィリピンで9%の回答者が「あった」と回答したのだ。

 

これは政府機関や地方公共団体などから公的なサービス、手続き、支援、許認可などの段階で女性が「対価として」あるいは「迅速な実行」として「性行為や性的サービス」を求められるケースの存在を示していることを示していることになる。

 

また男性や性的要求を拒否した女性の場合には「現金」といういわゆる「袖の下」を要求されることが多いという。

 

インドネシア・ジャワ島東ジャワ州マランで2016年に公務員が一般女性に性的関係を強要したケースがあるほか、2009年と2010年には裁判官が女性被告に対して性的関係強要と金銭要求したケースが報告されている。

 

また2020年には首都ジャカルタのスカルノハッタ国際空港で航空機搭乗に必要とされる新型コロナウイルスの検査を受けた女性に対して医師が「テスト結果を陰性にすること」と引き換えに性的要求をしたことが報道されたケースもある。

 

こうした女性の性的被害に対して「被害者に沈黙を強いる社会やもし訴えても裁判の過程で被害状況を細かく詮索されることへの羞恥心、さらに強要されたかどうかの法的証明が難しいこと」などが現実問題として残っているとの指摘もある。

 

■選挙投票依頼での賄賂

さらにTIの今回の報告書では、選挙の際に投票を依頼するための金銭授受という汚職・腐敗が東南アジアではいまだに「慣習」として残っていると指摘する。

 

「選挙の投票に際し、金銭を提示して投票依頼を受けたことがあるか」との問いに対してフィリピンとタイの28%が「ある」と回答。インドネシアは26%、マレーシアは7%となっている。

 

日本でも選挙の際に金銭や物品を渡して投票を依頼することは公職選挙法違反であるが、いまだに違反事例は後を絶たず、候補者の秘書や後援会関係者が逮捕され、連座制が適用されて候補者自身が法の裁きを受けるケースすら続いているのが実態だ。

 

日本の公選法ほど厳しい法的規制がない東南アジアの国だが、今回の調査結果では金銭による投票依頼が存在していることを裏付ける形となった。

 

今回の調査で多くの回答者が「汚職や腐敗はもはや日常生活の一部となっている」との認識が示され、社会全体にそうした汚職・腐敗態勢が色濃く残っている現状が浮き彫りとなった。

 

■現職閣僚を汚職で逮捕したインドネシア

「2019年中に公共サービスを受けるにあたって賄賂を支払ったか」という質問には実に24%のタイ人が「払った」と回答、以下フィリピン人の19%、インドネシア人とマレーシア人がそれぞれ13%となっている。

 

TIでは公的機関の中で「警察と裁判所の汚職体質が深刻」と指摘、特にタイ国民の「警察、裁判所」への信頼度が低いとしている。

 

しかし東南アジアでは「袖の下」が一種の「社会の潤滑油」として機能しているという側面が否定できないのが現状である。

 

国民が生活する上での役人への袖の下や、交通違反の手続きの煩雑さを回避するための小銭、さらに選挙での投票依頼はそうそう目くじらを立てなくてもいいのではないか、という見方も依然として残っている。

 

しかし権力者が権力を利用した大規模な汚職には各国とも厳しく、インドネシアは11月25日に米ハワイから帰国したエディ・プラボウォ海洋水産大臣という現職閣僚を国際空港出口で身柄拘束して逮捕した。

 

5月から解禁されたロブスターの幼生の海外輸出に関連して輸出業者から約98億ルピア(約7200万円)の賄賂を受け取っていたという容疑で「国家汚職撲滅委員会(KPK)」によって逮捕されたのだった。

 

こうした大物の大型汚職、腐敗の摘発にはインドネシア国民がこぞって拍手喝采を送ったが、日常生活での贈収賄は決してなくならないし、摘発の対象にもなりそうもないというのが現状といわざるをえない。

 

もちろん東南アジアの中にもシンガポールのように交通違反で停車を求めた警察官に現金を渡そうとした瞬間に「贈賄容疑」で検挙される国もある一方で、インドネシアのように同様のケースで差し出した現金をさっとポケットにしまうか「少ないぞ」とにらむか、の違いといえないだろうか。【12月4日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

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【インドネシアで相次ぐ汚職での現職閣僚逮捕】

インドネシアについてみると、上記のロブスター汚職で海洋水産大臣が逮捕されたのに続いて、コロナ救済策をめぐって社会相も逮捕と、現職閣僚の汚職関与が続いています。

 

****コロナ食糧支援で汚職 インドネシア社会相を収賄容疑で逮捕****

インドネシアの社会相が6日、新型コロナウイルスの救済策として実施した食糧支援をめぐって120万ドル(約1億2500万円)の賄賂を受け取っていたとして逮捕された。

 

汚職撲滅委員会は5日、おとり捜査で120万ドル相当の現金が入ったスーツケースやバックパック、封筒を押収。容疑者に認定されたジュリアリ・バトゥバラ社会相は6日、同委員会本部に出頭した。

 

ここ数週間以内にジョコ・ウィドド政権下で汚職容疑により逮捕された閣僚は、バトゥバラ容疑者が2人目。

 

東南アジア最大の経済国であるインドネシアは、新型コロナウイルス流行の経済的打撃を強く受けており、政府は生活困窮者への食糧支援などの援助プログラムを展開している。

 

バトゥバラ容疑者は、こうした援助プログラム関連での贈収賄に関与した疑いが持たれている。

 

当局によると同容疑者は、食糧配布を行う指定業者2社から100万ドル(約1億円)超を受け取り、生活困窮者に配布した支援物資セット一つにつき1万ルピア(約74円)を得ていたとみられている。

 

同容疑者には有罪なら最高で禁錮20年の刑と10億ルピア(約740万円)の罰金刑が下される。 【12月7日 AFP】

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【国会は汚職摘発機関の弱体化を画策】

前出【朝日】にもあるように、インドネシアには、日本と異なり、こうした汚職摘発にあたる独立した国家機関「国家汚職撲滅委員会(KPK)」があります。

 

ただ、国民から期待される「国家汚職撲滅委員会(KPK)」が、脛に傷を持つ議員が多数を占める国会にによって、その権限が弱められる方向にあるのは、10月20日ブログ“インドネシア  中国は最も影響の強い国 日中を両天秤にかけた外交政策も ODAが腐敗の温床にも”でも取り上げたところです。

 

****インドネシアで汚職捜査機関が弱体化、落胆する国民****

インドネシアで公務員の汚職事案を専門的に摘発する国家機関「国家汚職撲滅委員会(KPK)」が存続意義を失いそうな事態に陥っている。

 

KPKとは、1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権の“負の遺産”である「汚職・腐敗・親族重用(KKN)」の残滓を軍や警察が払拭できていない中で、悪弊根絶のため、国民の期待を一身に受けて設立された捜査機関だ。

 

その期待に応えるように、2003年の設立以来KPKは、現職閣僚、国会の議長や議員、地方政府首長、地方議会議員、国営企業幹部、在外公館大使、政府機関・官庁幹部などの公務員による贈収賄事件を次々と摘発して、国民から拍手喝采を浴びてきた。

 

軍や警察が過去のKKNを依然として引きずり、権力者の汚職や犯罪着手に躊躇する中、逮捕権、公訴権を持つKPKは、麻薬捜査に当たる「国家麻薬取締局(BNN)」と並んで「インドネシア最強の捜査機関」と称されるばかりか、警察や軍の腐敗構造にさえも果敢にメスを入れてきた。

 

ところが最近、そのKPKから、国民に人気のあった報道官を含めて30人以上の大量退職者が出ていることが分かった。

 

さらにマスコミ報道で広く知られるようになった元警察幹部だったKPKトップの倫理規定違反には「訓告」という大甘な処分が下されたこともあり、少し前から囁かれていた「KPKの弱体化」がいよいよ現実のものになってきたとの印象を国民は感じ取り始めている。(後略)【10月6日 大塚 智彦氏 JBpress】

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脛に傷持つ政治家が多い中で“ゴルカル党やジョコ・ウィドド大統領の後ろ盾でもある最大与党「闘争民主党(PDIP)」の国会議員を中心に、強大化したKPKの権力に「一定の歯止めをかけること」が画策され、「汚職撲滅法(KPK法)改正案」が国会で審議されることになった。”

 

“こうした動きにジョコ・ウィドド大統領は、拒否権発動を含む強い態度を示さず、「国会が決めることに大統領はあまり口を挟むべきではない」ともっともらしい態度を示して、一部の変更を求めるに止まった。実質的には「KPK弱体化の黙認」でしかなく、昨年9月、KPK改革法案は、国会議員のペースであれよあれよという間に採択・成立してしまった”【同上】とのこと。

 

こうした流れに抵抗するかのような、KPKによる相次ぐ現職閣僚汚職の摘発です。

 

イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアで唯一シャリアが施行されているアチェ州では、違反行為で有罪となった人の多くがトウのむちを使った公開むち打ち刑に処され、“インドネシアで公開むち打ち刑 シャリア施行のアチェ州”【12月8日 AFP】といった記事をよく目にしますが、こういう汚職政治化こそむち打ち刑にふさわしいようにも思えます。

 

もっとも、社会全体の改革おためには、大物政治家逮捕といった派手なイベントだけでなく、「袖の下」を一種の「社会の潤滑油」とみなし、選挙違反などにも目くじら立てないという社会風潮の変革が必要なことは言うまでもありません。

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