テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

歴史の、行間。

2016-04-22 21:58:28 | ブックス
「こんにちわッ、テディちゃでス!
 あうゥ~、またもォ、せつないィにゅーすがァ……」
「がるる!ぐるるるがるるるーる!」(←訳:虎です!プリンスおにいさーん!)

 こんにちは、ネーさです。
 ああ、『パープル・レイン』の紫の王子が旅立ってしまった……
 芸術性と商業性を併せ持つ稀有なミュジーシャン、プリンスさん。
 ただただ御冥福を祈りつつ、
 本日の読書タイムでは“音楽”をテーマにした
 ノンフィクション作品を、どうぞ~!
 
  



         ―― 希望のヴァイオリン ――



 著者はジェイムズ・A・グライムズさん、
 原著は2014年に、画像の日本語版は2016年3月に発行されました。
 英語原題は『VIOLINS of HOPE』、
 『ホロコーストを生きぬいた演奏家たち』と日本語副題が付されています。

「ほろこーすとォ、というとォ~…」
「……ぐる?」(←訳:……戦争?)

 《どこであれ、ヴァイオリンのあるところ希望あり》

 著者・グライムズさんは、
 御本冒頭の『プロローグ アムノンのヴァイオリン』で
 “最も暗い時代の演奏”を
 ↑こう表現しています。

 けれど、その実情は……

 希望よりも、絶望という言葉の方が
 より真実に近かった、と言えましょうか。

「やぱりィ、せんそうゥ……!」
「がるるぐるる……」(←訳:つらいお話だ……)

 生まれて間もない国家の、
 何もかも足りないような環境で
 必死の思いで奏でたヴァイオリン。

 ナチスの強制収容所で
 弾かざるを得なかったヴァイオリン。

 復讐の手段として、
 少年が握りしめたヴァイオリン。

 しかし、ときにその楽の音は、
 生きる手助けになりもしたのだとも、
 グライムズさんは著述します。

 ヴァイオリンを弾いて、
 その代償にパンを得る。
 そうして、
 家族を飢えから救うことが出来るなら?

「それはァ、きぼうゥ?」
「ぐるがぅるる?」(←訳:絶望じゃない?)

 この御本の根幹を成しているのは、
 楽器修理人アムノンさんが収集する《ものがたり》です。

 アムノンさんは、或る特別な意図をもって
 ヴァイオリンを、
 そしてヴァイオリンに係わる物語を
 収集しています。

 第二次世界大戦のホロコーストを、
 戦禍をくぐり抜けた演奏家と楽器の物語を知っていたら、
 どうか話してほしい。
 教えてほしい。

「かたりつぐゥ、のでスねッ!」
「がるる!」(←訳:次代へ!)

 語り継ぐ。

 と、書いてしまえば簡単なように思われますが、
 収容所の恐怖と悪夢を、
 戦中戦後の苦悩を、
 思い返し、公けにするのは
 簡単ではないのです。

   言葉にできないつらさ、悲しみ。
   すべて記憶から消去できたら、
   その方がどんなに楽であることか。

 ……けれど、また、

   すべての苦楽をともにしたヴァイオリンは
   “親友”でもある。

 そう考える人もいます。

「ゆうめいなァ、えんそうかさんもォ~」
「ぐるるがるるるるる!」(←訳:無名の演奏家さんも!)
「きぼうをォ、すてないィ!」

 ヴァイオリンは何世紀にもわたってユダヤ文化の
 重要な側面を担ってきたこと、
 世界屈指のヴァイオリニストの多くが
 ユダヤ人であること、
 ユダヤ伝統音楽に欠かせない楽器が
 ヴァイオリンであること。

 アムノンさんが集め、
 著者・グライムズさんが追跡した
 ヴァイオリンたちのカルテ。

 希望と絶望の正史――歴史の教科書には書かれていないような事柄が
 この一冊の中に記されています。
 ずしりと重い内容は
 時折り、読むのを止めたくなりさえしますが、
 訳者・宇丹貴代実さんの『訳者あとがき』も含め、
 どうか、最後まで!

 知らねばならない《ものがたり》です。
 
 

コメント
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