◎鑓の権三(1986年 日本 126分)
監督/篠田正浩 音楽/武満徹
出演/郷ひろみ 岩下志麻 火野正平 田中美佐子 水島かおり 三宅邦子 大滝秀治
◎虫籠窓の情事
宮川一夫が作品の全カットを撮影したのは、たぶん、これが最後なんじゃないだろうか。『浪人街』は撮影協力だったし『舞姫』はユルゲン・ユルゲスと組んでるんで。で、そんなことをおもって画を観ると、いやもう、美しい。権三の衣装はすこしばかり派手すぎるものの、いかにも爛れはじめた諸藩の雰囲気が出ていていいし。くわえて岩下志麻の綺麗なこと。だけど、それが余計に徒になってしまってる感もないではないかも。
それはともかく、近松の世話物浄瑠璃を映像化するとかいうことは、この先、あるんだろうか。文化ってのは継承されてこそ文化だとおもうんだけど、能や狂言、浄瑠璃や歌舞伎とかいった観客の限られてるものを、この先、どんなふうにして全国一斉封切させていけるんだろう?
話についていえば、茶の湯がきっかけの道行話だ。娘を嫁がせたいとおもっていた鑓の名人権三との間に、不義密通の汚名を着せられた母親が、権三と駆け落ちし、やがて追い詰められて初めて肌を交わす。けど、やがて権三ともども京の橋の上で最後の大立ち回りをすることになるっていう悲恋物だ。けど、この大立ち回りにいたるまで映像が流れるように美しいものだから、ついつい、演技や話よりも画面やロケ地に興味が傾いちゃうんだよね。
あ、それと。
篠田組といえば『心中天網島』なんだけど、この『鑓の~』は、かつて『心中~』が作られて日本のヌーベルバーグといわれた時代のように才気走った感じはなくて、なんともオーソドックスに作られてる。ま、それもあって、なんとなく肩透かしを食らった観は否めないかもしれないね。