◎桜の森の満開の下(1975年 日本 95分)
監督/篠田正浩 音楽/武満徹
出演/岩下志麻 若山富三郎 西村晃 伊佐山ひろ子 滝田裕介 観世栄夫 丘淑美
◎昭和22年6月15日、原作発表
桜の森に、たったひとりで行きたいとおもうだろうか?
森はどんな森であっても、ひとりではなかなか行きたいとおもわないが、それが、ことに桜であれば、なおさら満開の下には行きたくない。なぜなら、恐ろしいからだ。
人は、美しいものには惹かれるけど、同時に恐ろしさも感じとる。だから、桜の下には魔性が棲むというのは、あながち嘘でもないような気がする。どうやら坂口安吾も戦後の焼け野原の中でそんなことをおもったらしく、その印象が、この原作を書かせたみたいだ。
原作を読むのはちょっとだけ苦労したけど、篠田正浩がかなり忠実に映像化していることはわかった。
ただ、原作どおりに、現代の花見と対比させる必要はないんじゃないかとも、ちょっぴり興醒めな感じで、おもわないではないけどね。武満徹の音楽がぴったり合ってるのは、篠田正浩と通じ合うものがあるからかどうかはわからないけど、いや、非常に雅で良かったです。鈴木達夫のカメラもなかなか良いし、桜に埋もれる能面のような岩下志麻は、いやまじ、綺麗でした。
まあ、映画についてはさておき、桜といえば、すこし前に飯田の一本桜を見に行ったことがある。
桜守の方と知り合い、案内もしていただいたんだけど、そりゃもう凄い迫力で、もしも、こんなにでかい桜が森になってたら、ぜったい、魔物が棲んでいて、美女になって誑し込んできて、命ぜられるままに人を殺し、首をとってきて差し出すにちがいない。桜の魔力の前には、人は抗いがたい。それほど桜の森は恐ろしいんだとおもうよ。ま、ひとりで行くことはないとおもうけど。
ああ、すっかり忘れてたんだけど、『鏡の中の私』も、桜の霊の話だったよね。