◎黒い画集 あるサラリーマンの証言(1960年 日本 95分)
監督/堀川弘道 音楽/池野成
出演/小林桂樹 中北千枝子 原知佐子 織田政雄 西村晃 平田昭彦 中丸忠雄
◎さすが橋本忍
回想が始まった時、おもわず、お得意の展開だな~とおもったけど、ほんと、物語作りの上手さは流石だ。
若き日の西村晃がいかにも刑事臭くて、ぎらぎらしてて好い感じだし。とはいえ、なんとも内臓をえぐられるような話の中身。ほんとに松本清張という人は、人間の裏側をとらえることに卓越してる。
高度成長期、中堅企業に勤め、ようやく課長になったサラリーマンにとって、ようやく買い求めた一戸建てと糟糠の妻、そして可愛い愛人は、なにものにも替え難いものだ、というのが映画の前提になる。1960年代の日本は、まさしくそうだろう。
愛人のアパートがある新大久保に通い詰め、たまさか、近所に住んでいる保険外交員とすれちがい、会釈してしまったことで、外交員がとある殺人事件の容疑者になったとき、アリバイの証人に立たされるんだけど、新大久保で出くわしてしまったため、証言すれば身の破滅だとおもいこみ、会っていないと嘘をついたことから、雪崩が起きるような転落が始まる。
誰もが自己防衛に走り、おのれの利益だけをわがままに追い求める。それが重なり合うように衝突して、なにもかも失くしてゆくという構成は、胃が痛くなるほど現実味を帯びてる。松本清張は短編が映像化されたこの作品を絶賛したそうだけど、それはなんといっても橋本忍の手腕だよね、きっと。