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真夜中の招待状

2007年01月03日 12時59分35秒 | 邦画1981~1990年

 ◇真夜中の招待状(1981年 日本 125分)

 監督/野村芳太郎 音楽/菅野光亮

 出演/小林麻美、小林薫、芦田伸介、高橋悦史、藤田まこと、渡瀬恒彦、丹波哲郎

 

 ◇夢は殺しの調べ

 記憶が錯綜してて、たしかなことはわからない。

 銀座の並木座だったとおもうんだけど、この映画の予告編を観た。邦画屈指の予告編だと、いまもぼくは信じてる。ふしぎなのは、この映画が並木座で掛かったとはおもえないことと、本編を並木座で観た記憶がまるでなく、松竹系の劇場で観たような気がすることだ。で、何年ぶりかにまた観たんだけど、人間のあいまいな記憶につけこむサブリミナルの話が絡んでた。

 実際、当時この映画にはコーラ会社のサブリミナルが隠されてたらしい。通常、ぼくは24分の1コマであっても見逃すことはまずないんだけど、それはまったく気づかず、かわりに無性に煙草が喫いたくなった。サブリミナルの話をしているとき、うまそうに喫煙する場面があったからだ。なるほど、これがサブリミナルかとおもった。

 ま、そんなことは蛇足で、映画のことだ。

 予告編同様、前半はのめりこまされるような面白さで引っ張られる。なにが面白いって、予知夢の話だからだ。

 遠藤周作という人は、ときどき、興味深い推理小説を発表する。この原作は読んでいないからなんともいえないけど、導入部分はあまり変更されていないだろう。浮世離れした美しさの小林麻美の婚約者が、とある恐怖に包まれてる。婚約者小林薫はとある旧家の養子で、何不自由ない四男坊なんだけど、兄弟が三人とも、6月から8月にかけて、つぎつぎに行方不明になる。それも、毎月15日になると姿を消すらしい。

 当然、小林薫に、自分も姿を消すのではないかという恐怖が生まれる。果たして、小林薫は9月15日に姿を消した。そこで、小林麻美の婚約者を探す旅が始まる。小林薫は夢を観ていた。頼りになるのは、その夢に観る風景だった。また、次兄の写真に薄気味悪い老人が写っていた。さらに、長兄の描いた絵にも同じ老人が描かれていた。疾走の謎を解く鍵は、夢の風景と奇妙な老人だ。

 やがて、その風景は熊本に現実に存在することがわかり、小林麻美は一路、熊本へと向かうという興味をそそられる前半が展開する。とはいえ、こうした展開は、ときおり他の映画でも使われる手法で、たいがい、夢や幻や幻聴や記憶の断片は凄まじく面白いんだけど、謎が解明されてゆくにつれ、なんだそんなことかっていう失望感が生まれるんだ。

 原作と比べるのは好きじゃないけど、遠藤周作の原作はどうやら戦争が絡んでいるらしく、都会派ファッショナブル推理劇には似つかわしくないため、この映画のような熊本の城めいた旧家と、トンネルをくぐってゆく幻想的な鉄道が選ばれたんだろう。

 ところで、小林麻美がひとり看板の主演作品というのは、この映画がただ一本だけだ。松田優作と共演した『野獣死すべし』はあくまでもヒロインで、そういうことからすれば、記念すべき作品ってことになるよね。

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