△人でなしの恋(1995年 日本 86分)
監督・脚色/松浦雅子 音楽/中村幸代
出演/羽田美智子 阿部寛 岡田栄次 加藤治子 竹中直人 藤田敏八 入江若葉
△時代は移り変わるもので
小説というものをほとんど読まない僕は、たぶん、生まれてから今までに読んだ小説の数だったら、ほぼ数えられるだろう。
推して知るべしの量だけど、そんな僕ながら、江戸川乱歩の作品は別格で、なんでかわからないけど、網羅した。小学4年の5月、生まれて初めて『青銅の魔人』を読んで以来、中学3年まで、ほとんど毎日のように読み狂ってた。小学校時代は少年探偵シリーズだった。
大人向けの作品に手を染めたのはたぶん中学に入ってからで、いちばん最初に読んだのは『パノラマ島奇談』だったんじゃないかな。もしかしたら『孤島の鬼』だったかもしれないけど、ともかく、講談社の黒地に金文字の箱に入れられていた乱歩全集は当時の僕の宝物で、書いてあることを理解していたとはとてもおもえないんだけど、とにかく現実から逃避するようにして読み耽ったものだ。
だから『人でなしの恋』を読んだのは、たぶん、中学2年のときだったろう。読み飛ばしていた時代だったから、人形を愛するという行為がどんな精神性なのか深く考えることもせず、ただ、ふ~ん、人形を好きになるんだ~とだけ、ぼんやりと感じてた。でも、今の時代、フィギュアを愛している人達は少なくないだろうし、球体間接人形とかに至っては「こりゃ、恋の対象となるかもしれん」とまでおもったりする。
ということでいえば、乱歩は100年も前にそんなことを考えていたわけで、当時としては人でなしの行為だったものが、現代ではかなりフツーだ。さすが乱歩だわ~とか感心しちゃうんだけど、そういう感覚になってる今、よほど上手に撮らないと、ヒロイン京子の驚愕と嫌悪はわからないし、それでも夫の門野を愛してしまう自分が辛く、しかし満足できるという、なんとも哀しい世界は伝えられないかもしれないね。
ちなみに、スタッフを見てみると、女性が少なくない。ということは、若手の女性たちが佐々木原さんたちベテランに肩を借りて、また、当時若手だった役者さんたちを起用して取り上げた小品だったのかな?習作って感じなのかしら?