◎黒い十人の女(1961年 日本 103分)
監督/市川崑 音楽/芥川也寸志
出演/岸恵子 山本富士子 岸田今日子 中村玉緒 宮城まり子 船越英二 伊丹十三
◎青き鬼火の淵
妻のほかに10人の愛人をつくるなんてことは、ふつう、できない。
よほど女にもてるか、よっぽど大金持ちか、ものすごくあくどいか、どれかだろう。
ぼくはどれでもないから、
「ほう」
としか感想のいいようがない。
けど、2002年に市川崑みずからリメイクしているところをみると、崑さん自身、かなり気に入っていた作品だったんだろう。
まあ、10人の愛人なんてのはカリカチュアしすぎな感じもするけど、それくらいなことをしないと、とっぱずれた面白さが失せる。たとえば、6人や7人の愛人とかいわれても嘘っぽいし、4人だの5人だのといった数だと中途半端だし、2人とか3人とかいうとなんだか生臭くなるし、結局のところ、きりのいい10人の方がとっぱずれてるし、女にちょーだらしない主人公の人間性がかえってよくわかるし、 同時にここまでやると憎めなくなる。
船越英二という役者さんは、こうしたところ、実によく似合う。気が弱くて、女に優しくて、頼りなく、母性本能を刺激する。ぼくはこの映画は喜劇と捉えてるけど、ほんと、ちょっとばかり棘のある喜劇にはもってこいの男優さんだ。この人が、10人の愛人どもから殺されるのではないかと妄想し、怖がった果てに、どうしたらいいのかを女房に相談し、狂言殺人を考えてもらうっていうんだから、適役だろう。
だけど、岸恵子と山本富士子という男顔負けの凄女が、そんな狂言に乗っているだけじゃ面白くないわけで、もちろん、船越英二も知らないどんでん返しは用意されてる。こうした展開の妙は、さすがに和田夏十の脚本は凄い。
ところで、ぼくの好きな映画に『八つ墓村』がある。そこの音楽に『青き鬼火の淵』とつけられたものがあるんだけど、なんとびっくり、TV局の屋上の場面で、そのモチーフが流れるんだ。
「なるほど、芥川也寸志はここで使用した楽曲を忘れず、常に研磨し、ついに『八つ墓村』で完成させたのね」
てなことを、おもった。
けど、当時、こういう映画音楽の使い方、また研磨の仕方はよくあることで、実をいえば、あまりめずらしい話じゃない。
めずらしいかどうかはわからないけど、岸恵子という女優さんの喋り方は、すごく特徴的だ。上品なのだろうけど、口元の開き方と発声と抑揚が、余人とは違う。ところが、この映画のときは、まだ特徴的じゃない。
「へ~、いつから変わったんだろう」
とおもったものの、どこにも答えはなかったから、岸恵子の出演作品を片っ端から網羅するしかないってことに気づき、やめた。