◇ジキル&ハイド(1996年 アメリカ 108分)
原題/Mary Reilly
監督/スティーブン・フリアーズ 音楽/ジョージ・フェントン
出演/ジュリア・ロバーツ ジョン・マルコヴィッチ グレン・クローズ ジョージ・コール
◇1886年1月、ジキルとハイド、出版
正確にいうと、ロバート・ルイス・スティーヴンソンが『ジキル博士とハイド氏』を書き上げたのは1885年で、その翌年、出版されたんだと。ただ、スティーヴンソンが最初に書いた原稿は、妻の「おもしろくない」というひと言で焼き捨てられ、たった3日で書き直され、それから10週間後に出版されたってんだから、なんとも劇的な展開もあったものだ。むろん、それが世界的に名を知られ、いまでは、解離性同一性障害の代名詞になってるくらいだから、どれだけ当たったかは空恐ろしいものがある。
けど、この小説が普通の二重人格とちがうのは、性格はおろか姿かたちまで変化してしまうってことで、だから、モンスター物として扱われるようになったんだろうけど、この映画は、どちらかといえば、モンスター的な要素は成りをひそめ、メイドのメアリーの恋心を中心に描かれてる分、ちょっと違う。
とくに後半、グロテスクなスペクタクルを予想していたのと、ジキルの狂気が凄まじく発露されるかと想っていたら、あにはからんや、ヴィクトリア朝のきわめてありきたりな恋愛物に仕上げられてた。それが原作の持っているそもそもの要素で、これまでの「ジキルとハイド物」と異なるところなんだろうけど、ジョン・マルコヴィッチの熱演ぶりは理解できるものの、ちょっと空回り気味で、大鰻と鼠は、こりゃ、まじにいただけない。映画の中でいちばんグロテスクだったわ。