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ある愛へと続く旅

2014年04月16日 12時49分12秒 | 洋画2012年

 ☆ある愛へと続く旅(Venuto al mondo/TWICE BORN 2012年 イタリア・スペイン)

 ペネロペ・クルスが、好すぎる。

 女子大生から中年の母親まで演じたんだけど、

 その入れ込みようといったら、ない。

 ただ、

 カメラマンの夫が「海で死んだ」と聞かされたとき、

「サラエボに海はないわ」

 という呟きとも断言ともとれる台詞が、

 以後の謎を象徴してはいるんだけど、

 どうしても、夫の最後の行動は理解できない。

 海に向かってフィルムを引き出したカメラを投げ捨て、

 みずからも腕に致死量の毒物を注射して海に飛び込む必要が、

 いったいどこにあったんだろう。

 みずからの行動にあやまちがあったとはおもえない。

 代理母をもとめて、麻薬にも溺れた音楽家の女性と出会い、

 彼女が「セックスできないの、膣がぎゅうっと締まりすぎちゃって」と証言するように、

 セックスに対してそれなりに苦しい立場にあることも理解し、

 そういう性の奥手にも近い女性だからこそ代理母を頼んだことが悲劇につながった。

 これがあやまちといえば、あやまちだろう。

 けれど、

 彼女がサラエボ陥落の際に兵士たちに凌辱され、

 それを助けることができずに隠れ、

 しかし慙愧のおもいを抱えて、奴隷のような扱いを受けていた彼女を買い取り、

 妊娠していた体をいたわる一方で、

 自分は彼女とはセックスしていないと妻に証言したことが真実であるにも拘わらず、

 妻ペネロペが臨月となった彼女を観ることで妄想嫉妬の極致に至り、

 愛し合いながらも別れざるを得ない羽目に追い込まれてゆくのは、

 あやまちではなく、覚悟の上の行動だったはずで、

 しかも、

 生まれた赤ん坊をペネロペに託したのだから、

 もしも責任感というものが夫にあるのであれば、

 サラエボからローマに帰って、すべての事情を説明して、

 ペネロペとふたりで赤ん坊を育てて行かねばならないはずだし、

 赤ん坊を産み落とした彼女のその後についても、

 面倒を見ねばならないはずなのに、

 そういうケツを拭くという行動のすべてを放棄して、

 戦場の狂気によってぼろぼろになった精神だけに引き摺られて、

 みずから死を選んでしまうというのは、如何なものか。

 ただ、

 この物語に納得のいかない部分があるとすればそれだけで、

 謎を秘めた構成はなかなか見事で、

 孤島にホテル・レストランを営む元運転手が、

 すべての尻ぬぐいをひきうけて、

 赤ん坊の妹となる自分の娘を紹介していく件はたいしたもので、

 戦場もふくめて、そうしたさまざまな場面と女性の顔の経過を、

 あまりにも自然な特殊メークで演じ切ったペネロペもたいしたものだ。

 彼女の妊娠して流産したことによる乳首の変化と、

 下腹の妊娠線に見える皺は、

 いやまったく感心するほどによく出来てた。

 冒頭とラストは、

 船と波とを俯瞰するショットなんだけど、

 冒頭にだけ、波間に血が流れる。

 この象徴からして、

 海でなにかの悲劇があるなと匂わせるんだけど、

 それが夫に関するものになっていくとは、

 まるでおもえないように構成されている。

 好いのか悪いのかわからないけど、

 たいした演出だったわ。

 

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